とにかく情報が必要だよね。最高にめんどくさいけど。
西條美柑(さいじょうみかん)は初の浦の星女学院の制服を着用していた。軽く頬を叩いて気合を入れ、髪や服装を整えながら教室入り口で待機している。
Aqoursのメンバーの誰かが暗躍組織と繋がりがあると任務を受け、今日から任務開始となる。しかし、本当に彼女らに繋がりがあるのかまだ確証はない。というのは、そもそもどうして彼女らが危険団体と結びがあると決定づけたのか。その訳が美柑には伝えられていないのだ。もしかしたら最初から何も問題がないのかもしれない。我々のチームが思い込みだけに過ぎず、誰も危険な人物との関わりありませんでした、なんて素敵な話なのだろう。
いやそんなはずは、と美柑は頭を振る。あの姉がいうことなのだから間違いはない。研究・開発部門の副代表を務める彼女に抜かりはない。彼女もまた、優秀という言葉はふさわしい。
さらに、今回の任務は相方と2人でこの学園に潜伏する。その相方の級、我々の業界の最高レベルの成績を持つ者である。そんな者が現場に赴くわけだから、必ず何かある。
「西條さん、どうぞ」
教師から名前を呼ばれて美柑は返事をした。教室に入ると、明らかに自分たちの住む世界とは違う生徒達の純粋な瞳が目に入る。美柑が目に入ると、彼女達の瞳の輝きはより一層に増し、教室は盛り上がる。
美柑は背の低い、とても小柄な女の子であった。身長は150センチもなく、下ろした長い黒髪から覗かせる顔は疑いのない童顔だ。
身長などのコンプレックスから現場に出てくることはほとんどない。護衛対象に会い、直接護衛することはないのだ。姉 ーーーーーー血縁関係はないのだが、勝手に姉を名乗る人物ーーーー 柚に研究・開発部署といった裏方が存在するように、美柑も表舞台には立たない役職なのだ。場のボディーガードの支援・指示などに回っている。「オペレーター」と呼ばれた役職でパソコンスキルに長けた強みを活かし、ボディーガードの現在地や護衛対象の情報などをひたすら現場に送り続け、時には指示を出すのが彼女の役目だ。
現場派遣が適格と判断された理由が外見というのが美柑を不愉快にさせる。肩にかけた鞄は本当に合っているのか、小中高のあるうちの「小」の鞄を背負うべきではないのか。そんなこと言ったやつはぶっ飛ばしてやる、と美柑は心に誓った。
「初めまして、西條美柑です! 趣味は本を読むことと映画を見ることです。あの、ここらへんのことあまり知らないので案内してもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします!」
「可愛い〜」と歓声の中、「小さい〜」と聞こえた。早くも。
うるせえ、ぶっ飛ばすぞ!
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桃李の学年は2年生であった。1年生の教室からの騒ぎで転入生、つまりこの任務の相棒となる人物がやってきたんだということ気付いていた。誰だが知らないが、女性であるのは確かだ。
2年生の教室も騒がしかった。古典の小テストの存在を授業直前に告知されクラス中が大パニックになっているのだ。しかし、桃李は全然関係ない小説を広げていた。読書に集中したいのだが、一つ後ろの桜内の席があまりに喧しく頭になかなか入ってこない。
「りーこちゃゃゃん、ここ教えて〜!!!」
「もう自分でやってよ! 私だって自分のことで一杯一杯なんだから!!」
「梨子ちゃん、私も!」
「曜ちゃんまで〜」
「今日小テストがあるなんて聞いてないよー!そしたら私、気合入れてちゃんと勉強してきたのに!」
「「それはどうだろう......」」
「あー2人して千歌を馬鹿にした!! なら勝負しよう! 負けた人、ジュース一本奢りね!」
「おっ、望むところであります!」
護衛対象の高海、桜内、渡辺だった。周りに負けず、必死にこいて頭に叩き入れていくようだった。
配属されてまだ3日しか経っていないが、やることが多かった。特に用意された滞在場所は山の中にある空き家だった為に掃除が必要だ。おかげで昨夜は徹夜で片付けをする羽目になり、まだ家具類も届いてないことから床で寝ている。おかげで体が痛い。少し仮眠を取ろう、と本を顔の上に被せた。
ひとまずは環境を整えることか、と桃李は考えるメンバーに表立った変化は感じられないし、清々しいくらいにごく普通な女子高生生活を送っている。今日には相棒が来るし、そいつに任せればいいだろう。誰が来るかは知らないが、現場だからそれなりの力のある奴が派遣されてくるのは間違いないのだ。新しい家具が来る前に、古い家具は外に出して業者に引き取ってもらいたい。
「?」
途端、教室が静かになった。
「ちょ、ちょ。西條君.....!!」
「うわっ、やばっ.....!!」
後ろから高海と渡辺の声が聞こえたが彼女達はどうでもよい。本で視界が奪われていても、桃李は気配で分かっていた。黒板からここまでやったきた人物だ。そんなは決まっている、教師だ。
「西條君だよね? 小テストなのに随分余裕そうね。満点が取れる自信があるってことかしら?」
目の前に髪の短い女性教師が立っていた。何かスポーツを携わっていたのだろうか、スーツ越しでも肉の引き締まりが良いことが分かる、そんなスタイルだ。表情は繕っているが桃李の前では意味がない。不機嫌であるのはよく分かった。
「はい、多分ですけど満点取れますよ」
確実に取れるものを「多分」など口にするな、というのが信条であるが印象づくりとして仕方なかった。一人称は「僕」とし、あまり気の強くなさそうな感じを演技している。
「そ、そうなのか。じゃあ、もし満点じゃなかったらどうする?」
「いや、別にどうも。何かして欲しいことでもありますか?」
「そうね。もし満点取れなかったら、こっから泳いで家まで帰ってもらおうかな」
周囲の生徒から笑い声が上がった。もちろん、冗談だからに決まっているからだ。
「いいですよ」
「えっ」
「「「えっ」」」
教師から、またすぐ後ろにいる護衛対象達の3人から奇声が漏れた。場も凍りついた。
「本気で泳いで帰ってもいいですよ」
桃李の顔からしても冗談ではないと感じ取ったのだろう。その際、教師の表情が驚きから喜びに変わった。薄ら笑ったのだ。まるで生徒が女子ということもあり歯応えがなかった日々だったが、ようやく張り合い相手のありそうな生徒がやってきたと歓喜している。今まで星の数ほどの人間を相手にしてきたから桃李にはすぐ分かった。
「そう。そこまで自信あるなら始まるまで寝てていいわよ」
「ありがとうございます」
教師が登壇に戻っていくのを確認して桃李はまた寝ようとする。あと5分くらいは寝れる。
「ちょっと、西條君! それはマズいよ!!」
「うぉ、驚かさないでよ渡辺さん」
「ご、ごめん。じゃ、じゃなくて本当にやばいよ? あの先生の作る問題は難しいって学校でも評判なんだから! 私だって。千歌ちゃんもよく追試やったりするし」
「そうだよ! 千歌だって、今回も追試だと思うしハハハ....」
それはやばいのでは。
「まぁ、大丈夫。千歌と一緒に受ければいいんだよ! やった、これで曜ちゃんと梨子ちゃんがいなくても寂しくない!」
「駄目でしょ。千歌ちゃんは追試にならないように頑張ろうね」
「はーいなのだ。はー梨子ちゃん厳しい」
「えっと、西條君も今からでも勉強したらどう、かな?」
「勉強も何も教科書まだ貰ってないから、プリントも」
「「「え?」」」
そして彼女達は小テストに気を取られすぎて忘れていたことに気づく。昨日の授業から隣の席の高海が教科書を桃李に見せる為に机をつけていたことに。あまりの余裕さに呆れてモノが言えないのか。いや、教師に同情しているのか。ようやく桜内がなんとか絞り出したように聞いてきた。
「ま、満点取れる自信はあるのかしら?」
桃李は心の中で笑った。皆、満点など取れないと思っている。
絶対的確信のある者を裏返してやるのは、桃李のお気に入りの一つなのだ。
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「西條君頭いいんだね! 先生、なんか悔しがってたし」
桃李にとって満点など容易かった。周りのレベルが低すぎるのではと思ってしまうが、自称姉であるあの柚から基本的な教育は叩き込まれていたのだ。彼女のスパルタで奇想天外な教育は誰も模倣できない。
「で、千歌ちゃんは?」
「聞かないで〜」
「千歌ちゃん......」
机に突っ伏して倒れていた。
4人で近くで固まった席になったのはいいと思った。この方が普段から話ができるし、微かな変化でも感じ取れるはずだ。2年生組はこれで問題ない。今日1年生に相方が配属されたので、残るとしたらちょうど真上に位置する三年生組だろうが放課後のアイドルの練習で会えればよいだろう。さらに、黒澤ダイヤは生徒会長で小原鞠莉は理事長なら休み時間に生徒会室、理事長室に会いに行けばいい。松浦果南も2人と仲が良いだろうから接触はそう難しくないはずだ。
「そういえば、今日また転校生きたんでしょ? 善子ちゃんが「天からの新たな敵が我が領域に侵入、総員警戒すべし」とかなんとか言ってる」
と、渡辺が桃李達3人に携帯画面を見せてくる。桃李も確認済みで、昨日加入させてもらったチャットアプリでAqoursのメンバー全員と連絡取れるようになっているのだ。どうやら相方は無事転入することができたようだ。因みに桃李と同じ住居に滞在することになる為、放課後には必ず合流するようにと柚から連絡を受けている。
「えっ、昨日西條君が転入してきたばっかりなのに?」
「えっとー、だからじゃないかな?」
「うん? どういうこと曜ちゃん?」
「それは一番西條君が知ってるんじゃない?」
「?」
桃李は少し首を捻った。
知っているとはどういうことだろうか。こんな田舎にこのタイミングでの転入生は間違えいなく相方なはずだ。
「あっルビィちゃんから「とっても可愛い子」、だって!!」
「これは見にいくしかないよ、曜ちゃん!」
「全速前進ー、ヨーソロー!!」
高海と渡辺が脱兎の如く教室から出ていく。残された桃李が桜内を見ると苦笑いした。
「えっと、まだ、授業まで時間あるし。私達も見に行きますか?」
相方も気になるし、桃李は頷いた。2人で並んで教室を出ていく。
浦の星女学院の生徒は合計70人程度しかいない。細かく見ていくと1年生に10人程度、2年生に20人程度、3年生は40人程度と年々少なくなっている傾向がある。その人数の少なさから廃校の危機があると理事長の小原から軽く話を聞いた。
学年のまま階が違うので桃李達は一階を目指す。その途中で異性が校内を歩いているということで廊下にいる生徒から注目を浴びる。
「ごめん、一緒に歩くと注目を浴びるね」
桜内は慌てて首を振る。
「い、いえ。私こそ、むしろ、なんかよそよそしくしちゃってごめんなさい。せっかくAqoursにも入ってくれたのに。あまり男の人と話してなかったですし......というか同い年なのに敬語使うのもおかしいよね」
これは桃李も想像できていたことであるし、経験があった。本来なら、ボディーガードは護衛対象と仲が良すぎる悪すぎると中間の位置をとるのが鉄則だが、今回の場合はその限りではない。学園生活で常に集団活動しているわけだからいつも以上に仲の良い関係を気づく必要があると桃李は考えている。
「まだ会って二日目だし、こっちはこっちでかなり緊張している。女子生徒しかいないから、少しでも話せるだけでも助かるよ」
「そ、そう? そうだといいけど......」
仲良くなりたいと思っている時は素直に口にした方がいいというのは桃李の経験からだ。それは大人でさえ子供でさえ同じだ。もちろん状況と言い方にもよるがさらに異性であればあるほど、特に男性から女性であると効果が大きいのは知っている。それよりも桜内の気持ちもなんとなく分かる。桜内は桃李とあまり話せないのに対し、一緒にいる高海と渡辺は普通に桃李と話してくる。仲の良い2人が慣れていて、1人が苦手では劣等感も抱きやすいだろう。
1年生の教室の前には少しばかり人だかりができていた。その人混みの手前に先で走っていた2人の姿もあり、突っ立っている。
その時、場がいきなり騒ぐ。周りの感じからするに、例の転校生が教室から出てくるのだろう。
案の定、彼女、相棒は出てきた。
「なっ?!」
桃李は言葉を失った。鬱陶しいとばかり下を向いて出てきた彼女も、視線を合った瞬間同じ反応をした。
自分たちの時間は止まっていた。
高海に「奇跡だよ!!!」と抱きつかれても、桜内が「私の時と同じ.....」と複雑そうに言葉を漏らしても。
視界の中心にいる美柑はこちらを見続けていた。
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後書き的なことは、最後に書きたかったですが。補足があった方がいいと思い、出てきました。
ここまでが冒頭部分で状況を示す描写(つまりお話の説明文的な)ばかりで面白くなかったですよね。
次回から、視点は桃李達から離れませんが、お話はメンバーが主体になるような感じにします。
文章が硬くなるの普段の小説の読みすぎです。
なるべく解して書くようにしていきます。
2020/08/05