スクールアイドルaqoursの護衛任務を任された彼は学園に乗り込み、
密かに彼女達を護衛をしているが、万が一の場合は彼女達の殺害許可も出ている。
桃李は今日もひっそりと彼女達を見定めている......
西條桃李は高校2年生であるが、任務をスタートしてから初めて大きく接触することとなったのは他学年であった。
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その日は夏の前触れを示すような、雨でジメジメした陽気だった。小雨で、海沿いだからか風がある。吹くたびに雨粒が窓に打ち付けられていた。四季ある日本ならではの気候で懐かしく感じる。
そんな天気が続く間、桃李は学園の中でモンモンと1人で奮闘していた。桃李とて「その類」の経験がないわけではないが、それなりに難しい年頃であるのは間違えない。異質の世界で生きてきたとはいえ、人間として、あえて言い換えるなら共通する一般男子高校生と興味あるものは大して変わらないのである。
そのシャツの向こうは何色か。
鍛えられた桃李の目は一枚の布の向こう側など容易く見透かせることにまず問題がある。
そしてこれは訴えたいのだだが、ワイシャツが嫌な感じで肌に密着してくるのを鬱陶しく感じるのは分かる。涼しさを求めるあまり、服を捲って教科書で仰ぐ行為は流石に目に毒すぎる。肌が露出する、という感覚は彼女らにないのだろうか。
「む、蒸し暑い。もうサウナだよ! クーラーつけらないかダイヤさんに相談してみようかなー」
「.......」
この薄オレンジめ。
このシャツに浮き上がる下着どもはどうにかならないものか。この学園に男がいなかったせいか実に無防備だ、とここ数日頭を悩まされている。
「あれ、どこか行くの?」
「ちょっと職員室にね」
高海にそう答え、桃李は仕方なく教室から廊下へと出た。
「いってらっしゃーい」
「き、気をつけて?」
後ろの水色と桃色も何か言っている。桃色はどうして桃李が職員室にいくのか不思議がっている様子だった。
『変態じゃん』
耳元の超小型イヤホンから実に心外な言葉が届く。遠隔で監視しているのだろう、同じくスクールアイドルの護衛にあたる西條美柑(さいじょうみかん)だ。桃李と美柑は顔を合わせ任務を行うのは実に数年ぶりだった。電話越しで話すことあるとはいえ、そもそも美柑は現場担当でないから顔を合わせることはない。お互い驚くのも無理はなかったのだ。
彼女は今日学園を休み、潜伏場所の家の片付けをしている。というのは建前で本音は雨の中を登校するのが億劫だけというのは彼女の性格から知っている。アイス加えながらゲームをしているに違いない。
桃李は袖元に隠したマイクを口元に近づけた。送信用のマイクを袖元につけるのは桃李のスタイルだ。
『片付いてなかったら任務を放棄したと柚(ゆず)に伝えるからな』
柚というのは我々2人の自称姉である。怒らせると怖い。
バタン、ゴトゴトガタン。バン、ゴロゴロ。ヴィィィィイン。
『こ、この野郎!! 覚えてろよ!! くそ兄貴死ね!』
姉の力に感心した。これで土に、埃に、虫まみれの家もだいぶ綺麗なるだろう。帰ったら楽しみだ、今日は熟睡できるかもしれない。
『うわぁぁぁでっかいクモぉぉぉぉぉーーー!!! こっち来るな馬鹿!! い、いや。いやだ。兄貴、じゃなくて、お、お兄ちゃん!! いやーーー助けてーーー!!!』
桃李は通信を切った。これで美柑は遠隔でこちらの状況は何も分からなくなった。
「フッ」
片手にハタキを持ち、片手に掃除機を持った掃除スタイルの美柑を想像すると思わす笑みが零れた。
そんな時だった。
桃李が階段付近で少し困り果てた見知った顔を見つけたのは。これが大きな接触のきっかけとなる。
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「ふぅ〜これで全部かな?」
「な、なんとか運び切ることができましたわね」
松浦果南は余裕そうに、黒澤ダイヤはやや雑に段ボールをおいた。桃李もすぐ脇に段ボールを下ろした。
「これなんですか?」
「入学希望者を対象にした過去の学校案内のパンフレットだよ。今までのパンフレット、ぜーんぶ確認したいってダイヤがはりきっちゃってさ、職員室にあったもの一気に持ってきたんだ。中には机の下に眠っていたものもあったから、埃も凄くて」
そういう松浦の制服につく埃は確かに尋常でない塊だ。床に落ちた埃は、もはやネズミみたいな小型の生き物くらいの大きさだ。
「ごほぉ、ごほぉ。もー凄い埃! これはマスクか何かして作業した方がよろしいですね」
段ボールを開けてパンフレットを取るとまた新たに埃が舞う。黒澤が手に持ったパンフレットそのものも色あせて少し黄ばんでいる。あまり手に触れたくはないというか、かなり古く痛んでいる。
「こんなものわざわざ運んでどうするのか、と思っているかもしれません。ですが、西條さんは薄々気付いているかもしれませんが、この浦の星女学院。実は入学者不足でこのままでは廃校になってしまいます。なので、少しでも多く入学者が来てもらおうとこの学園の良さをより詳しくお伝えすることができたらな、と」
既に廃校の可能性の耳にしていたが、適当に返事した。生徒会長ということもあり、人一倍この学園に思入れがあるのは黒澤の目を見ても分かる。
「この学園が本当に好きなんですね」
桃李が尋ねると黒澤は少し間を開け、コクリと大きく頷いた。
「同じモノが何冊かあるとは言え、まさかこんなに多いとは思わなかったけどね。流石の私でもこの数いっぺんに運べなかったし助かったよ」
「いやいや、ちょうど暇してたのでよかったですよ」
教室内での目のやり場がないせいで。今もあまりない。黒と水色だがやめて欲しい。
「学校はどうですか?」
「うーん、そうですね。慣れない部分も多いですけど、ひとまずクラスでは高海さん達と楽しくやってますよ。ただ高海さんと渡辺さんは授業全然聞いてないで桜内と僕は大迷惑ですけどね」
「え、曜も?」
「とりあえず曜さんは置いといて、千歌さんは......」
桃李が授業を真面目に受けている間、彼女達は話したり手遊びしたり集中しているとは言えない。そして、飽きた頃に桃李や桜内にちょっかいを出してくる、と一通り話をした。松浦と黒澤は普段の高海達の話を聞いたり、反対に桃李に教えてくれたりした。
その中、桃李は自分がそこまで嫌われているわけではないということに安心した。桃李の今までの経験上、護衛対象に嫌われて苦労した場面は多々ある。仲良くなる必要はないが、少しは信頼されていないともしもの場面で痛い目をみる。
「あら、もうこんな時間」
五分前のチャイムが鳴り、黒澤は驚いた声をあげた。
「?」
ほぼ同時に生徒会室の入り口で人の気配を感じた。扉は数秒後に開かれた。
「あ、あの、生徒会長の黒澤さ、さんはいますか?」
申し訳なさそうにして1人の生徒が現れた。もう楽しもう。お、下着は赤っぽいのは珍しい。
「はい、私ですわ。ただ、もう昼休みが終わりますので用事は後ほどーーーー」
黒澤が対応したが、途中でやめた。桃李も分かったが、黒澤もただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。表情だけでも大きな問題を抱えているような深刻さが伺える。
「私たちは席を外した方がいいかな?」
松浦に、桃李は賛成した。
「2人とも、さっきのパンフレット、手伝っていただきありがとうございました。先に戻っていてください」
「りょーかい。心配するだろうからマリにも言っておくよ」
桃李達は残りの2人を残し生徒会室を出た。教室に戻る途中、松浦家がダイビングの稼業をしていることを知った。松浦は今度潜りにこない、と誘ってくれたが桃李はこれをやんわりとお断りした。
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話は冒頭に戻る。
そして、その日の放課後に黒澤ダイヤから呼び出しがあったのだ。まさか、黒澤ダイヤとこうして何処かに行くことになるとは意外だった。初めは同じ学年の高海辺りだと踏んでいたのだが、人生何があるか分からない。
雨天のため屋内で練習することになった高海達とは別れ、桃李は黒澤ともう1人の学生の子の3人でバスに乗った。一番後ろの席を陣取る。少し時間が遅くなった為か、乗っている生徒は少なかった。
その学生の子は、先ほど昼休み終了間際に黒澤の元を訪ねてきた本人だった。
「家のことで問題があったそうで、力になって貰えないかと」
バスに乗る前黒澤は小声で話してきた。桃李が呼ばれたのかというと正直男手があると安心すると黒澤は答えていた。となると問題は少なからず複雑なものであるだろう。
「わ、私。い、い、一年生の小柳須美(こやなぎすみ)と言い、ます」
凄く緊張しているようだった。元々の人格からしてもハキハキものを言う子ではなさそうだ、というのが桃李の第一印象だった。常に背筋を曲げて、肩までの髪で表情を隠しながら俯いている。
代わりに黒澤が説明してくれた。
「どうやらご自宅のトラブルのようでして。家の入り口の鍵穴にセメダインを入れられてしまったらしいのです」
それはまた小さなイタズラを。
「なるほど。その玄関を開けてもらいたいってことですかね?」
それなら話は早い。セメダインなら専用の液を購入して処理すればいい。
しかし、黒澤は首を振った。
「いいえ。もう玄関は管理会社の方がいらして既に開くようになっているそうです。私には、いや私達ですね。簡単に一言で話すと、現場の状況の確認をして欲しいみたいでして。欲を言えば、犯人も見つけて欲しいみたいでして......」
少し予想外の言葉に桃李は一瞬だけ固まる。
「それは、もう警察の仕事では?」
「私も初めはそう思ったのですが.....」
黒澤の視線が小柳にいく。ここからはあなたの口から話をした方が、と言わんばかりだ。小柳が手をモジモジさ
せながら話を始める。
「そ、そうだと思います、こんなこと、本当は、警察に頼むべきって。でも、警察に頼んだら、その、周りから変な噂が広がっちゃうかなって」
「変な噂?」
「.......まぁ、大事になれば周囲の見る目は当然変わりますわ。それでも、何も変なことはありません。念のためもう一度言いますが、小柳さんは巻き込まれてしまった側、被害者なわけで警察を頼ることは何も可笑しくありませんわ」
「そ、そうですよね」
様子からして黒澤は小柳に警察にいくように何度も勧めているようだった。
しかし、今回も一見同意したように見えるが、小柳はふに落ちてなさそうだった。
考えてみればそれはそうだろう。そもそもこうしてバスに乗って向かってるのだから警察に行くのは保留されたのだ。話を聞いて限り黒澤は冷静な判断ができる人間であり、その黒澤がわざわざアイドルの練習を抜けて小柳の力になろうとしている。しかし、桃李はまだ協力できる理由があるとは思えない。
結論。まだ警戒されて、黒澤には話して桃李に話してないことがあるのだ。
思わずため息を吐きそうなのを我慢し、このご自宅問題の状況把握を急ぐ。桃李とて暇ではない。あまりaqoursから離れたくないしとにかく情報を集めたい。任務にあまり関係なさそうなことは極力減らし、何が起きてもいいように9人の側にいたいのだ。もちろんそれは、殺すことになったとしての意味を含まれている。
「大丈夫だから正直に話して欲しい。もうこうして君の家に向かっているし、今更君が何を言おうと少なくとも黒澤さんは途中で帰ったりしないよ」
「.......」
「小柳さん。私からもお願いしますわ。私(わたくし)でもいいですが、やはり自分の口から説明された方が......」
しばらくして小柳さんは顔をあげた。初めてじっくり見た表情は、やはり気弱な印象だった。
「ごめんなさい。私、男の人とあまり......」
「そうだったのか、怖がらせてごめん」
「そ、そういうわけじゃ!」
「なら、話して欲しい。話してもらわないと解ける問題も解けない」
「西條さん.....」
結局、小柳が話したのにバス停一つ分くらいの時間が必要となった。
「あの、頼んどいてこんなことを言うのは変ですけど、しょ、正直な話、そこまで困っていたわけではないんです。それは、帰った時に部屋に入れなかったのは嫌でしたけど、修理のお金も安いとは言えなかったですし。でも、何か取られたわけではないですし、多分。だけど、だけどまた同じことが起こるかもしれないし.....!!」
桃李は、なんとなく話が見えた気がした。きっと、小柳須美は警察に掛け合うべきかどうか判断して欲しいのだ。小柳は大きな問題だとは思ってない。なら彼女の言う近所の事も考え、事を大きく発展させたくないのも理解できる。しかし再犯の可能性があればそうも呑気に構えていられないだろう。
彼女は葛藤している。なら話は簡単であった。
そんな彼女に俺と黒澤は決断の道標になればいいだけだ。
「わ、学校に私、相談になる人がいないので。警察に相談しようかどうしようか、正直分からないんです。なので、そこを任せたいんです! 通報すべきなのか、しないべきなのか。家を様子とか、ま、間取りとかを見てもらって!」
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海沿いを走るバスは沼津の方面に向かうらしく、桃李達はその終点少し手前で降りた。黒澤曰く、ここは渡辺や津島の家の近くらしい。確かに住宅地が並んでいた。
「ここです」
と案内されたのは三階建のマンションだった。道路沿いにはあるが、そこまで交通量は多くはない。また隣の物件と見比べると、新しく目立っていた。
「綺麗ですね」
「は、はい。最近新しく壁を塗り直して貰って。でも、中も元々凄く綺麗なんです。一目惚れしちゃって.......ここに」
小柳は鞄から鍵を取り出していた。マンションに入る大きな扉はどうやらロックがかかっているらしい。
「オートロックですか?」
「そうなんです。そ、そうなんですけど.....」
「? あぁ、なるほど」
小柳の言いたいことはすぐに分かった。オートロックで防犯は高まるが、いざ入れば廊下の片側が吹き抜けだ。
「オートロックがあるとは言え、これでは入り込もうと思えば簡単に入って来れそうですわね」
黒澤の一言に頷き、階段へと足をかけた。
小柳の家は三階の一番奥の角部屋であった。先ほどの鍵といい、新品に変えたばかりの鍵穴は逆に不自然なほどに光沢があった。その穴に先ほどと同じ鍵を使ってそのまま部屋へと案内される。異性の立場から遠慮しようと思っていた桃李だが、小柳も黒澤も何も言ってこなかったので侵入した。
1Kの部屋は入ってすぐキッチンが並び、奥に7畳くらいの大きな部屋が広がっていた。途中にトイレやバスユニットがあった。全体的の色が女の子らしい感じで、際立っているのが可愛らしいぬいぐるみだ。熊の人形をはじめ、トドのようなものまで桃李と黒澤を迎えるようにベッドの上に並べられていた。
予め黒澤か誰かに声をかけて部屋に呼ぶつもりでいたのかもしれない。
「それで、玄関に悪戯された日のことを詳しく聞きたいのですが」
「いや、その前に一つ聞きたい」
桃李は黒澤を遮り、小柳に尋ねた。余計なことは極力避けたいのだ。この時、桃李には何かのスイッチが押されていた。それは潜入捜査の任務を引き受けたような感覚であった。
「な、なんでしょうか?」
「セメダインの悪戯だけど、このマンション内で君の他に被害があった人はいるか知ってる?」
「た、多分.......いや、わ、私だけだと思います」
「そうなんだ。どうしてそう言い切れたりするのかな?」
「こ、ここの管理会社者の人が教えてくれて。この仕事長くやってたけど、こんなこと初めてだって言われました」
桃李は頷いた。早くもこれでかなり犯人を絞れるはずだ。
「なるほど。それではただのイタズラってわけではなさそうですね」
「え?」
「え?」
桃李ではなかった、先に口を開いたのは。黒澤だった。
一話で終わらせるつもりが長くなってしまいました。
ダイヤさんはどうしてただのイタズラではないという答えが出たのか考えていただければ幸いです。あくまで可能性の話で確信をもって言えるわけではないですが、どういった人が犯人か、犯人像がなんとなく浮かび上がるはずです。多分!
次回で完結するので、温かくお待ちいただけたら嬉しい限りです。
早くもお気に入り登録ありがとうございます!今月の至高の瞬間でした笑
やはり励みになります。まだ2話目ですが(これで3話目)、既に500以上のアクセスに正直驚いてます(これは普通かもしれないですが)
仕事の間の、とても楽しい時間を過ごさせて貰ってます。