それでも彼/彼女はボディガードする   作:レモンキング

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西條桃李と黒澤ダイヤは、一学年の小柳須美(こやなぎすみ)の家を訪れる。
玄関の鍵穴にセメダインを入れられ、事を警察に通報するかしないか判断の手助けを頼まれた2人は現場の確認を始める。

小柳に質問をする事で早速何か気付いた桃李だが、それは黒澤も同じだった。



ちょっぴりの探偵ごっこ-探偵団結成②

「少なくとも犯人は、小柳さんの知り合いということですわ!」

 

 

黒澤の姿は自信に満ち溢れていた。閉じていた目を今ではクワっと広げている。

対して小柳は手をバタバタさせながら慌てていた。

 

 

「ど、どういうこと、でしょうか? わ、私の知り合いが、なんて.....!」

 

 

黒澤が、コホンっと咳払いをした。

 

 

「あくまで可能性の話になってしまいますが。ですが概ね、わたくしの推理に間違いはないでしょう」

 

 

「黒澤先輩、どういうことだが教えて欲しいです」

 

 

意外であった。もちろんこの先の展開など桃李はわかっているのだが、他に誰か理解できた人がいるなら出る必要はない。

 

黒澤の正座をした姿はこの場で礼儀正しさ物語っている。その姿からなんとなく育ちの良さが分かる。

 

 

「そこまで難しい話ではありません。単純です、この部屋の場所は3階の角部屋ですわ。犯人はここまで上がってくるのは少し大変でしょう。加えて、鍵穴の悪戯が他の住人は誰もいなく小柳さんだけだとしたら、これはおかしいとは思いませんか?」

 

 

「え、えっと? どうしてだろう。 私の家が、変だった、から?」

 

 

「ぶっぶー!ですわ!!」

 

 

ん、なんだ馬鹿みたいな不正解の言い方。

 

 

「結論からお話ししますと、単なる悪戯とは考えにくい、ということです」

 

 

「.....ど、どうしてそうなるんですか?」

 

 

「小柳さん、もしあなたがこれから他人の玄関の鍵穴に悪戯しに行くこととします。その時、わざわざ人目のありそうな、例えば車が多い人目のつきやすい家に悪戯しますか?」

 

 

「い、いえ。み、見つかったら、捕まっちゃうから、誰もいなさそうなところに行きます」

 

 

「そうです。逮捕されたくない理由に、人目は避けるはずですわ」

 

 

再び一呼吸置かれる。まるで探偵役みたいだ。お芝居のクライマックスとでも言わんばかりに黒澤は桃李と小柳の視線を集めていた。

 

 

「その事を踏まえて考えてみてくださいまし。ここの小柳さんの家はどうですか?」

 

 

「.......あっ!」

 

 

「気づかれたようですね。このマンションは道路沿いで目立ちやすいですわ。廊下は吹き抜けではありますが、入り口にはオートロックが備え付けられています。しかし犯人は一軒家ではなく、このマンションを狙った。さらに決めつけは『わざわざ3階にあるこの部屋だけを狙う』のは、犯人にとってあまりにリスクが高いことです」

 

 

見事であった。黒澤は桃李の考えを全て代弁してくれた。

 

 

「つまり、犯人は小柳さんの家を狙うちゃんとした理由があったという可能性が高いと言う事ですわ!」

 

 

桃李はチラッと小柳を見た。ショックではない。ただなんとも言えない表情をしていたのは覚えている。

 

 

************

 

 

「なるほど、この短時間で流石ですね。先輩」

 

 

「当然ですわ」

 

 

「頬にそばかすついてますけどね」

 

 

「こ、これはそばかすではありません!」

 

 

「冗談ですよ」

 

 

クマのイラストが書かれた壁時計はもう16時半をすぎるところであった。田舎である為バスの時間を気にすれば早めに切り上げるべきだろう。美柑からの定期連絡を切ってしまった為に家の様子が一切分からない。果たして怠惰することなく掃除をしてくれたのか、寝床の関係上気にはなる。少なくとも携帯電話に連絡は来ていない。

 

その代わり何故か高海達からの連絡が大量に来ていた。

 

 

『ねぇ、でーと? でーとなんでーーーーー』

 

 

静かに電源を落とした。小柳さんがコーヒーとお茶を持ってきてくれた。コーヒーは桃李のリクエストだったがお湯を沸かしておいてくれたらしい。

 

 

「ブラックで、大丈夫ですか?」

 

 

「ブラックでいい。ありがとう」

 

 

「い、いえ......」

 

 

新品のような綺麗なコーヒーカップに口をつけた。インスタントで美味しいとは言い難いが、飲めるだけでありがたい。ふと視線を移せば、インスタントの箱が入り口近くの台所に置いてあった。今まさに開封した感じでまだぎっしり詰まっている。

 

 

「コホン。それで、どうですか小柳さん。何か心当たりありますか?」

 

 

「心当たりですか?」

 

 

「はい、少しでもいいのです。何か、話しにくいかと思いますが、他人と揉めてしまったとか」

 

 

桃李も賛同した。

 

 

あとは難しい話ではない。黒澤の言う通りに、犯人は小柳の可能性が高い。ならば、彼女が思い当たる人物を片っ端から当たって行けばいい。あたる方法はなんでもよかった。例え電話越しでも犯人を見破ることができる自信が桃李にあった。相手は何も経験の積んでいない素人なら、少し揺さぶればボロが出るのは知っていた。

 

 

時計の秒針が鳴る中、小柳からの返答を桃李達は待った。特に黒澤は、なんとしても犯人を捕まえたいような様子であった。

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

小柳が心当たりを口にすることはなかった。

 

 

************

 

 

帰りのバスに人はいなかった。窓枠に映る森にせよ海にせよ闇に包まれ、その中をバスは進んでいた。運転手と桃李と黒澤の3人の空間。バス停を通り過ぎるたびに、まるで独り言のように音声案内だけが流れる。可哀想に、もはや何の役にも立っていない。

 

 

2人は一番後ろの席を陣取った。それぞれが両端の窓側に座っていた。まるで今の黒澤との関係を表しているようだった。今日の件を含めても仲は悪くはないが、話すほど仲が良いわけでもないのは変わらないのかもしれなかった。

 

 

いや、そうではない。

 

 

「これでよかったのでしょうか?」

 

 

そろそろ見慣れた風景が近づいてきた。話しかけてきた黒澤の顔はこちらに向いていない。窓の外を見ている。

 

 

「わたくしは昼休みに、小柳さんから頼まれました。ご存知の通り、『自宅の玄関が悪戯されてしまったのだが警察に被害届けを出すべきかどうか迷っている。とりあえず、自宅に来て現場を見てもらないか』と。無論、わたくしは迷いました。わたくしが行ったところでできることは少ないと思いましたし、そもそもスクールアイドルの練習もありましたので、正直、余裕はありませんでした」

 

 

3週間後、彼女にはライブがあるのは昼に松浦からも聞いた。

 

 

「でも、黒澤先輩は引き受けました」

 

 

彼女は頷いた。

 

 

「何か、学校の為に役に立ちたいと思ったのです。生徒会長として、何か役に立ちたいと」

 

 

「役の立ったとーーーー」

 

 

「本当でしょうか!」

 

 

黒澤には珍しい、やや厳しい口調を言い放たれた。バスの運転手がミラー越しにチラッとこちらを確認した。

 

 

やがて、彼女はこちらを向いた。決して涙を流しているわけではない。だが、表情には悔しさが滲み出ている。

 

 

言うまでもなかった。きっと黒澤は黒澤なりに、今回の一件に何か自分なりの想いがあったのは違いなかった。廃校間際の学園の生徒を代表する立場で、少しでも入学者が増えないかとわざわざ過去のパンフレット引っ張り出してまでいた姿。アイドルの練習にも熱を入れ、下校時間ギリギリまで粘って活動していた姿を桃李は思い浮かべた。

 

 

「わたくしは、本当に、小柳さんの役に立てたでしょうか?」

 

 

「......」

 

 

不意に、優秀、という言葉が浮かんだ。その言葉は、この時も桃李を纏わりついて離してくれない。

既に黒澤を「救う回答」は用意してあるのだ。

 

 

「......はぁ」

 

 

「西條さん?」

 

 

ただ護衛するだけではいけない、桃李がそう考えているのは柚からの指導であった。ただ護衛することを考えていたが柚に怒られたのだ。時には護衛対象に苦渋の決断をさせなければいけない場面もある。時には、護衛対象の成長に繋がるようなこともしなければならない。それもボディーガードの仕事であるらしい。となると告げるべきなのだろう、黒澤に。

 

 

無駄が嫌いだ。大事な時こそ手短に終わらせる主義だ。銃で下手な鉄砲を打つより、一撃で沈める脳天を貫く方法を取る。この場合も黒澤に伝えたいことを一言で、手短に言葉にしたかった。曲がることなく、ただ一直線に。

 

 

「犯人を見つけることが全てじゃない」

 

 

貫く。

 

 

「はじめに言われたはずです。黒澤先輩自身も言っていましたよね。小柳さんは『警察に通報するか判断して欲しいだけで、犯人を探し出して欲しい』と。犯人を見つけることが彼女の望みだったわけではないはずですよ」

 

 

彼女はあからさまに顔を下に向けた。

 

 

「ですが、安心させることはできたのではないでしょうか? わたくしたちが犯人を見つけて少しこらしめることで、小柳さんは安心して学校に通学できるようになったのでは.....」

 

 

「僕らは一般人ですよ」

 

 

「そのくらいしっかりとわきまえてますわ。.....ただ、何か他にできることがあったのではないか。そう考えると....わたくし、何だか惨めな気がしてしまって.....」

 

 

気持ちは理解できる。が、あえて同情はしない。

慰めてあって生きれるなら皆、そうしている。だが、生きれないのだから人は衝突する。

 

 

「黒澤先輩」

 

 

「な、何でしょうか?」

 

 

黒澤がこちらをい振り向くまで数秒を要した。潤んだ瞳と目があった瞬間、桃李は告げた。

 

 

「小柳さんはーーーーー本当に犯人の目星が全くついてなかったのでしょうか?」

 

 

黒澤の体が一瞬だけ硬直した。

 

 

「・・・・どういうことですか?」

 

 

「本当に怖がっているなら、間違いもなく警察に行くことでしょう。でも、彼女は警察ではなく、周りの人にも知られたくない為、あえて接点がなく、且つ少しでも頼みの綱である自分の学校の生徒会長に助けを求めた。あまりにも悠長で余裕に満ち溢れすぎている。この時点で少なくとも小柳さんは、犯人に対してあまり恐怖心を抱いていなかったと言えませんか?」

 

小柳からの依頼は実に謎に満ち溢れている。だが一番の謎は「何故、警察ではなく黒澤に助けを求めた」のか。

警察に届けた方が信頼はあるのは間違いない。因みに黒澤と小柳の接点は皆無だが、そこは友人関係が広くなかった小柳の身近に頼れる人物がいなかったことで説明がつく。

 

 

「それは.....」

 

 

「......?」

 

 

妙に間が空いた。

 

 

「言われてみれば確かにそうですが」

 

 

考えていただけかと、桃李は判断する。

 

 

「結論、小柳さんは犯人を見つけ出すことに全く興味がなかった、と言えませんか?」

 

 

「.....でも、そうしたら何故わたくしたちに相談し、自宅に呼ぶ必要があったのか説明ができませんわ」

 

 

「いえ、それが僕らは小柳さんにとって必要なんですよ」

 

 

バスは、そろそろ桃李が降りるバス停に辿り着く。タイミングに狂いはない。

 

 

「確かに、小柳さんは僕らに相談した。ただ、小柳さん自身に犯人を見つけ出すことに全く興味がなかったとします。これは矛盾しています。では、何も理由なしに依頼するのはおかしな話でしょう。なので、何か小柳さんには俺たちが必要な理由があったに間違いない。では、それは何か?

話は少し戻りますが、玄関に悪戯されて自宅を割り出されているにも関わらず、警察に通報せず堂々と構えていられるは明らかにおかしい。小柳さんの性格を考えても、そこらの女子高生がなすべき構え方じゃない」

 

 

黒澤はこちらをじっと見て解答を待っていた。バス停まで、あと30秒。決着だ。

 

 

「なら、こう考えられませんか? 小柳さんは『犯人がもう襲ってこないということを知っていた』と」

 

 

「......犯人に目星がついていたから、ですか」

 

 

心の中で笑った。最終的なオチを、黒澤に取られてしまったから。

 

バスのスピードが落ち始めた。

 

 

「ここからは推測ですが、小柳さんは優しい人なんでしょう。理由はどうであれ、警察に頼ればことは問題となってしまう。おそらく小柳さんは黒澤先輩と同じように考えて、犯人にある程度に目星がついた。しかし、その犯人が親しい友人であった。疑った小柳さんは、自分の推理に間違いがないか確かめたかった。

加えるなら、自分の友人に頼ってしまってはその犯人であろう友人にまで小柳さんが捜査しているということが伝わってしまうかもしれない」

 

 

「それでわたくしたちが呼ばれた.....と」

 

 

「.....黒澤先輩があそこで推理を披露した時点で、小柳さんにとっては救われたんですよ」

 

 

桃李が言い終えたと同時に、バスは止まった。桃李は立ち上がった。

 

 

「まるで探偵、みたいで見事でしたよ。先輩」

 

 

黒澤を見た。やれやれだった。ここまで話しても黒澤の表情に曇りがなくなったわけではないようだ。

 

 

それは押しつけにすぎない。黒澤が小柳を救いたくていくら犯人を探そうとしても、小柳にとっては迷惑なのだ。同じことで、いくら慰めようとしても黒澤の心に響くかどうかはこちら側が決めることじゃないのだ。

 

これから山に向かう道へ歩いて家に向かうのにうんざりしバスを降りようとした。

 

「では、わたくしたち、探偵事務所でも開けそうですわね」

 

「え?」

 

振り向くとすぐ後ろに黒澤が立っていた。

 

 

「あなたの方がよっぽど探偵ですわ」

 

 

そのまま桃李の横を通り抜けてバスを降りる。

 

 

「ちょ、先輩。バス停ここじゃーーーー」

 

 

「少し歩いて帰りたい気分でして。話し相手も欲しいので、よろしければご一緒にいかがですか?」

 

 

唖然とした。バスは田舎だからか、止まったままで一向に動き出しそうにない。

 

黒澤はバスを降りたところで待っている。いや、そもそもここで降りるのは決まっているわけで必然的に一緒に歩いて帰ることになるのでは。俺に拒否権などないのでは。

 

 

これは押しつけすぎる。エゴだ。ただ、

 

 

こんな押しつけは悪くないと思えるのだから感情は難しい。

 

 

桃李はバスから、彼女の隣へと降りた。

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 

Touri『美柑』

 

Mikan『なーに』

 

Touri『仕事だ』

 

Mikan『早いね、相変わらず。もう尻尾掴んだの?』

 

 

Touri『いや、ただ気になる奴が出てきた』

 

 

Touri『小柳須美(こやなぎすみ)について調べて欲しい。家に帰るまでに』

 

 

Mikan『いや、無理』

 

 

Touri『無理ってなんだ』

 

 

Mikan『知らないよ、誰?こやなぎすみ?って』

 

 

Mikan『有名人?』

 

 

Touri『いや、美柑の同じ学年にいるはずだ。クラス表確認してくれ』

 

 

Mikan『へ? 今ちょうど手元にあるんだけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Mikan『そんな子、どこにもいないよ』

 




ここまでお付き合いありがとうございました。

あまり長くなってしまうと困るし、かといい短すぎても困る。
文量に凄く悩まされました笑

黒澤ダイヤさんのお話でした。真面目な感じで、結構思い詰めてしまいそうな印象だったのでこのお話で出さしてもらいました。謎解きの探偵キャラ的にもいいかなと(花丸ちゃんと迷いましたが)

内容の話です。
ただ推理ものになっているか、というとそうではなく。ただただ登場人物の都合の良い解釈で推理されているので、少なからず矛盾があるのはご了承ください。最後の「押しつけ」の話はもう少し詳しく描写したかったですが、反対にあまり書かない方がいいのかなと。

また短期的なストーリーかと思いきや、長期的なストーリーの話に繋がるのが今回のお話です。今後も楽しみにしていただけたら嬉しいです。
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