スクールアイドルaqoursの護衛任務を任された彼は学園に乗り込み、
密かに彼女達を護衛をしているが、万が一の場合は彼女達の殺害許可も出ている。
桃李は今日もひっそりと彼女達を見定めている......
ピンポンパンポーン。
『あー桃李ィ? やっちゃったのは仕方がないことだし男の子だからよく分かるけど、チョーとお話があるから大至急理事長室までカモーン。あなたの当事者達が.....そうねーお腹を空かせてお待ちよー!』
『桃李さん、どういうことですか! わたくしはあなたがそんな人には見えませんでした! ちゃんと説明してください』
『千歌ちゃんが、千歌ちゃんがーー!!』
『ふっ、ついに本性を表したわね。このけだものーーー!!!』
『善子ちゃん落ち着いて!』
『落ち着いてるわ! あとヨハネ!』
ピンポンパンポーン。
「......あ?」
************
休日。北半球は灼熱地獄と化していただろう。アスファルトが焦げたような匂いと自分の汗の匂いでなんとも気持ちが悪い。それでも高海達は桃李の手拍子に合わせて踊り続けていた。立っているだけでも辛い陽気に負けず、汗をダラダラと垂らしながらメンバーは体を動かしていた。
「ファイブーシックスーーーーストップ! 黒澤さん、そこ振り付け間違ってるよ」
「ピギィィ! る、る。るびぃですか?」
「うん、妹さんの方」
黒澤は2人いて、姉妹だ。姉は黒澤ダイヤといい、生徒会長をやっていることから桃李は「会長」と呼んでいる。一方、妹のルビィは「黒澤さん」だった。妹の方は人見知りで最初は話しかけただけで逃げ出すほどであった。聞いた話だと、人見知りのあげく男性恐怖症っぽいところもあるらしい。最近はなんとか会話はできる程度になっている。同じ学年の国木田の後ろに隠れているが.....。
ようやく休憩に入ったのはそれから20分後だった。太陽から逃げるようにみんなで校舎の中に避難し、そのまま階段のところで座り込んだ。途端、床の冷たさと体温の違いにビックリする。
「みなさん、水分補給はしっかり!」
誰もいない校舎に会長の声がやたらと響く。
「桃李さん、あなたもですよ。動いてないとはいえこの暑さでは倒れてしまいますわよ」
「....あぁ、わざわざありがとうございます」
桃李が飲み物を忘れたというのを聞いてくれていたらしい。わざわざ買って来てくれたようだ。スポーツドリンクの入った冷たいペットボトルを会長から受け取りった。カラカラに乾いた口内にあの独特の甘酸っぱい味が染み渡る。
「仲良いいねーお二人さん!」
「鞠莉さん。茶化さないでください! わたくしはただ、倒れてしまってからでは困ると!」
「ダイヤさんがいつの間に西條君のこと名前で呼ぶように」
「千歌さんまで!」
「.....」
この話題になった瞬間、桃李はさりげなく下の段へと逃げた。
「で、いつからなの?」
渡辺、お前もか。
その下でニヤニヤして待ち構えていた渡辺に捕まる。このお年頃になればこの手の話は大好物ということにうんざりしながら「さぁ、最初からかな」とはぐらかした。そんな訳がないじゃん、と渡辺の頬がポコリと少し膨らんだ。そのさらに下で並んで座っている津島と桜内も興味ありげにチラチラこちらを見ている。
「西條さん、なら分かるけど。あのダイヤさんが西條君のこと名前で呼ぶなんてただ事じゃないと思うんだけどな〜。ね、西條君?」
「.....さぁね」
再びスポーツドリンクを口に含んだ。
ーーーーあの日。
あの日というのは黒澤ダイヤと2人でとあるトラブルに巻き込まれた一年生を助けるべく自宅までお邪魔した日のことである。ひとまず問題は解決した(実際には違ったが)。因みにその日の帰り道を機に会長から名前で呼ばれるようになったのだ。
問題はその一年生である。名は小柳須美(こやなぎすみ)といい、彼女は校舎で会い制服まで着用していたというのに浦の星女学院の生徒ではなかった。この浦の星女学院の一年生のクラスはたったの1クラスしかない。後から知ったが、美柑によるとクラスメイトであるはずの国木田も黒澤、津島の3人の誰もが小柳を知らなかったそうだ。
『それは桃李に接触しに来たんだと見ていいわね、きっと裏の人間』
言うまでもない。自称姉である西條柚の言葉に桃李は同意した。彼女は桃李たちと同じく裏の人間、表の世界にいてはいけない人間なのだ。
蓋を開ければさらにその説が有力となる。まず彼女に案内されたあの物件はそもそも誰も住んでいない。ただの空き物件だったのだ。つまり、小柳が桃李達を誘き出すためだけにわざわざインテリアから何もかも用意したようだった。なぜそのようにしたか理由はわからない。
また、街の監視カメラの記録の改竄も見られた。通りでその手のスキルを持つ美柑が苦戦するわけである。最も美柑にはそういった洞察力や推理力が欠如しているのだが、その改竄に気づくのも技術的に高く至難の技であった。
ーーー先回りされてるな。
ただ手はある。現在、小柳は東京に潜伏していると思われている。桃李が入手した映像に東京行きの電車に小柳が乗っていたからだ。
今日一日美柑がリベンジをして追ってくれるし、ちょうど親しい仲間が東京にいるので協力を依頼いる。練習に来ている桃李は収穫があることを祈るしかないし、こっちの9人は9人で見張ってなくてはいけない。元々ここにきた理由は彼女らが良からぬ裏の組織と繋がっているかどうかを見定めなくてはいけない。
ただ可能性は、高まってきている。小柳須美と繋がっていたらソイツは執行対象だ。
「でも結構いい感じだね、今日のミスも少なかったし」
「そうだね、これならラブライブの予選抜けられるかも!」
ラブライブとはいわば、野球でいう高校甲子園みたいなものでそれがスクールアイドルが主役で全国規模で行われる。彼女達はラブライブに出場することを目標に活動しており、そのためにはまず予選を通過しなくてはならない。そのライブがもう近づいているのだ。この灼熱の中でも練習するのは彼女たちとって当然のことかもしれない。
「桃李さんはスクールアイドルのプロデューサー? 的な感じでこの学園にきたのですよね?」
「会長の言う通りプロデューサー的なことも頼まれたけど、どちらかと言えば共学のテスト生として来たというのが強いかなと」
ふーん、と各々反応する。共学のテスト生というのはみんな知っている。
「どうもそうらしいわね。わたし、てっきりプロの方がきたのかと思ったんだけど、書類を見たら前はフツーの高校生だったわ」
「じゃあ、アイドルの知識とかもそこまで詳しくないってこと?」
「いや、ある程度は知っているよ、例えば.....」
少し考えたが...。やはり、スクールアイドルを知っていると証明するなら、彼女達のグループ名をあげるのが手っ取り早いだろう。
「μ'sとか」
「「「μ's?!!」」」
瞬間、高海と黒澤姉妹が食いつく。
「μ'sってあのμ'sだよね?! 石鹸の方じゃなくて? ってなんで知ってるの!? あっ、知ってるのは当たり前か」
「やっぱりエリーチカですわよね! エリーチカ!」
「あ、絢瀬絵里のことですか?」
「は、は、は、花陽ちゃん」
「小泉花陽かな? 可愛いよね」
途端、黒澤妹の目が輝く。この爆発的な盛り上がりは流石に圧倒される。ここまで真剣にアイドルをやるくらいならメンバーに1人くらいアイドル好きがいて同然だとは思っていたが、どうやらこの3人らしい。μ'sは過去にラブライブを優勝したチームで、その人気は今も衰えてない。桃李がここまで彼女たちの名前を言えるのもーーーー
「あぁぁーーーー!」
「急にどうしたの、ちかっち?」
アイドルで盛り上がっていた突如高海が声をあげた。何やら真剣な顔で言った。
「今日、手が空いている人いない?」
関係ない。桃李は最後の一滴までを飲み干した。
*************
「いや、どうして僕なんだよ....」
松浦は家の手伝いがあるといい、他の三年生組も同行して手伝いが終わり次第、振り付けの確認をしていくのだという。松浦から「一緒にどう? 海に潜れるよ」誘われたがやんわりお断りしておいた。一年生組と渡辺、桜内は衣装の材料を買いに行くとかで沼津へと旅立っていった。
結果、特に予定がなかった桃李に白羽の矢が立ってしまい半ば強制的に連れてこられたのだ。
「いいじゃん、いつも教科書見せてるしうちのご飯も食べてっていいからさ。お風呂もおっきいんだよ」
「それは分かったけど。忙しいの? 特に人が集まるシーズンじゃないと思うけどな」
「なんか急に団体客が入ったーとかでどうしてもお手伝いさんが欲しいって志満ねぇが。 曜ちゃん達はライブの準備で無理だし、他に頼める人はいないんだよ。お願い、騙されたと思って!」
もう騙されている。
入り口の看板に「十千万」と書いてあった。旅館名の「千」から名前をもらったんだ、と楽しそうに話して裏口へと回る。どうやら表から入らないように言われているらしく、従って後をついていく。成り行きになってしまったとはいえこのまま高海の家に上がるのか。しかし、残念ながら逃げ遅れた。裏口から人が出てきたのだ。
「ばか千歌! 帰ってきたんなら突っ立ってないで早く手伝え....よ?」
高海のお姉さんだろう。じっと桃李を見つめ硬直してしまっている。
なんとなくこの後の展開が読める。取りあえす、挨拶はしておこう。
「....どうも」
「千歌が男連れてきたーーー!!!」
そのまま大騒ぎで家の中に戻ってく。すると、庭にいた何やら大きい犬がその後を追っていく。
「大丈夫なんだろうか?」
「た、多分」
「.....あの犬、人を噛み殺してたり」
「失礼な! しいたけはそんなことしないよ! いいから早く!」
渋々高海の後について行き上がらせてもらう。旅館をやっていることもあってか、中は広い。和を感じられる雰囲気だ。奥から足音を複数感じると、その一つが黒髪の女性であることが分かった。
「おかえり、千歌ちゃん。あら、その子は?」
「初めまして、同じクラスメイトの西條といいます」
「あぁ、あなたが。よく千歌ちゃんから聞いてるわ。妹がいつもお世話になってます」
「志満ねぇ、今日は西條君が手伝ってくれるってさ。曜ちゃん達はライブの準備で忙しいって」
高海に姉が2人いることは教えてもらっていたが、やり取りからしてこの人が長女の高海志満だ。聞いていた通り、急に団体客の申し込みが入ってしまい手が回らないらしい。申し訳なさそうに説明する志満に、高海千歌の方は張り切っている様子だった。
高海にせよ、彼女は彼女でラブライブの予選が控えているというのに全く気にしていない様子だ。
「今日は千歌が教える番だね。ふふん」
「間違ったこと教えんなよー」
「美渡ねぇうるさい! 普段教えてもらっているばかりいるから、たまには自分も教える側に立ちたいんだよ!」
.....まぁ、やるからには中途半端では返って迷惑になってしまうから熱心に教えてもらったほうがいい。貸してもらった旅館の制服に袖を通してお手伝いがスタートした。
今思えばそれなりにハードな内容だったかもしれない。まずは部屋の清掃と備品の準備だった。
「この部屋何人泊まる?」
「えーと、6人かな? やば、枕一つ足りないや。取ってくる!」
「ここに予備があるよ、ほら」
「あ、ありがとう」
次は風呂の簡単な清掃。
「椅子と桶はここに重ねておいて、浴槽の落ち葉とかは取り除いて」
「もう取り除いたし、椅子と桶はこんな感じでいいのかな?」
「はやっ! 今きたばっかりじゃん! しかも完璧すぎる!」
何年裏仕事やってると思っているんだ。
夕方になり、お客さんがちらほらやって来た。団体客は学生の方だったらしい、サークルでダイビングにしに来たとかで数はそれなりだった。
「すいません、お風呂はどこっすか?」
「お風呂はーーーー」
「突き当たりを左に行ったところにございますよ」
「ありがとうございます!」
「むぅー」
「.....何怒ってるの?」
「別に!」
その後、配膳を準備になったのだが.....。
「志満ねぇー料理まだ?」
「ごめん、もう少しかかるみたい」
「えーもう皆来ちゃうのに!」
「よかったら手伝いますよ、基本的に捌けるのでお魚とか」
「えっ、でも....」
「分かってます、ただ技量に関しては問題ないと思います」
「ちょちょちょ! ちょっと! いくらなんでもお客さんに出すんだよ?! いくらなんでもーーー」
数分後。
「す、凄いわ! お父さんもOKだって!」
「むぅーーー!!!」
そんなこんなで桃李のお手伝いが終わったのは21時を回った頃だった。すぐに帰ろうとしたのだが、
「いいから飯と温泉だけでも浸かって行けって!」
と高海家が許すわけがなかった。姉の2人に無理やり座らせ食事を貰い、挙げ句の果てに旅館の温泉まで誰もいないからということで入らせてもらった。世界各国を回っていた桃李にとって温泉は久々のもので非常に心地が良かった。
今度こそ帰ろう、美柑にも連絡をとっていない。上がった桃李は学校の制服に着替えようとした。が、どこにも見当たらない。代わりに置いてあったが旅館の浴衣であった。仕方なく袖を通し、居間にいくとあの大型犬(しいたけとかいうらしい)と一緒にテレビを見ている美渡を見つけた。
「美渡さん、僕の着替えを知らないですか?」
「いや、もう遅いから今日は泊っていきなよ」
「大丈夫ですよ、歩いて帰れます」
「遠慮しなくていいから。今日は本当に助かったし。あーでも部屋が全部埋まってるからな....。千歌の部屋でいいか。千歌、桃李寝かせてあげなよ」
「いや、そんなの良いわけが....」
「いいよー」
.....おいおいおい。いいのか。良くないだろう。キッチンで皿を洗っている志満がいた。一応助けを求めるような目で見た。この一般常識を弁えていない妹共に一喝してくれ。なんならそのまま家に帰らせてくれ、と。
「今日は本当にありがとう。お布団は千歌ちゃんが用意してくれてるはずだから後はゆっくりしてってね」
「おーい、こっちだよ!」
「.....はぁ」
やってられん。
**********************
高海の部屋の第一印象はどこにでもあるような部屋であった。畳の部屋は女の子らしい部屋かと言われれば少し殺風景かもしれないが、旅館を営んでいるだけあってそれなりの広さがある。彼女の素性が際立つものとすれば襖にμ'sのポスターがあるくらいだ。
桃李の布団はちょうど高海のベットの真横に敷かれており、これで寝相が悪くて落ちてこられたら堪らないと思いながら布団に入った。といってもなかなか寝付けないでいた。それは同じ部屋にいる高海が寝ていないからだ。彼女も寝られないらしい。それからしばらくしてからだ。
「ねぇ、まだ起きてる?」
返事をしないつもりだった。が、さっきから寝返りを打ってはやめてを繰り返していたので起きているのはバレている。
「.....起きてるよ」
「そっか」
モゾモゾとベット上で何か動く音がする。反対側を向いているから姿は見えない。
「今日は手伝ってくれてありがと」
声の大きさからしてこちらの方に寄ってきたらしい。
「気にしないでいいよ、皆ライブの準備で忙しかったみたいだし。むしろ力になれてよかったよ」
「.....ううん、本当に助かった。志満ねぇも美渡ねぇも家族みんなすごく助かったって。ビックリしちゃった、西條くんは勉強だけじゃなくて掃除から料理からなんでもできるんだなって。本当は私が教えるはずだったのに、それも必要がなかったみたいだし」
「そんなことない。高海さんがいなかったらあそこまで動けなかったよ」
「......」
返事がなかった。だが、お互い寝る気配ではない。高海がポツリ、ポツリと話し始める。
「私さ」
「.....うん」
「私さ、何もかも躊躇半端なんだ」
「躊躇半端?」
「そう、今日だって西条君に教えるっていったのに教えられてないし。スクールアイドルもそうなんだ、曜ちゃんは衣装作ってくれたり梨子ちゃんは作曲してくれて......」
「......」
「実はね」
「うん」
「スクールアイドル始めるって、いっちばーん最初にいったの私なんだ。そこのポスター見たでしょ、μ'sの。μ'sの踊っている姿とか歌を見て、私もああいう風になりたいなーって、輝きたいなーってすごく思って、気づいたらここまできてた。最初は曜ちゃんと2人だけだったのが、梨子ちゃんが転校してきて、それからルビィちゃんと花丸ちゃんが入って。その繋がりがあって善子ちゃんも入って」
「.......」
「その後、東京でね、ライブに参加したんだけど全然ダメで。でもそれがきっかけでまた頑張ろうと思えて。そしたら果南ちゃん達の3人が入って」
「そしたら今度は、西條君が入ってくれた」
はっ、我に帰ったような感じで振り向いた。月明かりの中で高海がベットのギリギリまで寄っていて、こちらを静かに見下ろしていた。手を枕にして縮こまったように横向きになっている。瞳は宝石のように輝いている。
「......あくまでマネージャーだよ」
「それでも、Aqoursのメンバーだよ」
「.......そっか」
「そうだよ」
「.......」
「でも、今日はみんなライブの準備をしてて私は旅館の手伝いで。今日のなんでもできる西條君見てて、私。みんなのために結局何ができてるのかなーって思っちゃって」
任務中に相談を持ちかけられるのはよくある。しかし、なんというか。意外だ。
人は誰でも悩みを抱えているのは言うまでもないが、それでも高海がこんなことを言い出すことに少し驚いた。今のAqoursを作ったのは、自分だということに気づいてないのか。作っただけで終わらず、汗だくで練習して、最終的にはライブに出る。そこらの高校生が始めようとしたところで生半可な気持ちで、できるようなことではない。
何もできないことはないことはないだろう。スクールアイドルのリーダーをやっているのは、少なくとも自慢してもいいのでないか。いや、違う。そうではないだろう。
本当にメンバーの役に立ちたいと思っているからこそ、己の無力を嘆いているのでは。リーダーだけの肩書きなどに囚われずに、自分にできることを必死に探しているのでは。そう思えば我ながらなんと青臭い言葉を、などと思うが自然と告げる言葉は引っかかってくる。
「....確かに」
「ん?」
「高海さんは勉強もできないし、衣装作りもできないし、作曲もできない。メンバーの中でもこれといった取り柄がないかもしれないけど」
「ひ、ひどい!!」
「でも、高海さんがいなかったらみんな集まらなかった」
布と布同士が擦れあう音。高海の丸まっていた体がさらに縮こまったようだ。
「衣装作りもできないし、作曲もできない。ただ逆にできたとして、渡辺さんや桜内さんが今のAqoursを作れると思う? それは無理だ。μ'sに憧れて、スクールアイドルに情熱をもった高海さんが始めたからこそ今のAqoursがあると思う」
結局は、貫き通したものが勝ちなのだ。いくら才能があるものだって、成果を得るまで継続しなければ意味がない。後になって「あの子がやるよりは私がリーダーやった方がいい」というのはただの嫉妬に過ぎない。
しばらく返事がなかった。だが、またしばらくして
「うーん、よく分からない!」
....頭の悪い奴には何を言っても無駄だ、証明された。
「でも」
「?」
「なんかスッキリしたような気がする」
「.....そっか。よかったよ」
「ねぇ」
「ん?」
「見ててよ、今度の私たちのライブ」
急にどうしたという戸惑いは、彼女の顔をみて消えた。真剣な眼差しだった。桃李はこの眼を持つものを幾度となく出会って来ているが、ここまで揺るがない瞳を持つのも珍しい。
「.....あぁ、見てるよ」
「必ず予選を突破して、ラブライブを優勝してみせる!」
彼女は微笑みながら、何故か拳を突き出してきた。そして小指を立てる。
「ゆびきりげんまん!」
「....は?」
「早く! こういうのは早くやらないとどんどん薄れていっちゃうのだ」
いや、やるわけないだろう。布団を被り直して横になった。しかし、掛けた布団の端が少し捲れたかと思うと急に腕を掴まれて、引っ張り出された。柔らかい、小さい手だった。その手に手を広げられ、シュルりと小指に絡み付いてきた。その小指と桃李の小指が小さく結ばれていた。
「あのな」
「へへへ」
勝ち誇ったように結んだ小指をみせる。いや、本当ならその小指の骨を砕いていてやってもいい。その前に高海が勝利の凱歌をあげる。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます! ゆーびきった!!!」
と同時に襖がガラリと開いた。
「うわぁ!」
瞬間、高海がバランスを崩してベットから落ちてきた。
「お前ら! ちょっとうるさいん......だ....」
「ははは....」
「いてぇ.....」
落ちてきた高海を受け止めた桃李。側から見れば抱きしめているのと変わらないのは言うまでもなかった。やがて静かに戸を閉められた。この時、桃李の耳には近くで大きな物音がしたのも聞いている。そんな静けさを保ちつつも、高海美渡は大急ぎで志満に報告しに行ったそうだ。
「あぁぁぁぁぁぁ!!! 千歌がぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
****************
話は冒頭へと戻る。桃李はちょうど美柑と一緒に登校していて、今まさに校門を通るところなのである。
「おい」
「おい、だなんて。任務中は僕っ子で演じるんじゃなかったの?ーーーーー う、嘘です! だから、その拳は早く引っ込めて!」
怯える美柑に、桃李はゆっくりと拳を引っ込めた。この騒ぎの理由は分かっている。とりあえずは教室に向かえばいいだろう。やましいことは何もしていない。
「お〜い!!! 2人とも、おはよう!!!」
元気が溢れているのは遠目からでも分かる。高海だった。もぎれてしてしまうほど手を降っている。
軽く手をあげて返事をした。
「あんな可愛い子と同じ部屋に寝てるからそういうことにーーーーう、嘘です! だから、その振りかざした鞄は下ろして!」
「......冗談だ。 流石によくなかったと思ってる」
桃李は高海の家に一泊した。
何度も思うが、志満や美渡などを強引に帰宅すればよかったのだ。後から知ったが、隣の家は桜内の家だったらしい。きっとこの放送は桜内がメンバーに告げ口したもので、大方高海と一緒にいるところを目撃されたのだろう。きっと一緒に泊まっていると確信するところだ、この騒ぎ方からして。
しかし、後悔はしていない。いい時間だったと桃李は思う。
高海はまだ笑って手を振っている。その姿から、あの真剣な眼差しは感じられない。それでも、十分に輝いているように見える。
ふと、昔を思い出した。同じようなことが過去の任務にあった。桃李にとってその時の彼女もあんな感じで輝いていた。当時の桃李は精神的に参っていた時期でもあり、護衛対象からこんなことを言われたのを今でも鮮明に覚えている。桃李のことを桃(もも)と呼ぶ、変わった子だった。
『桃(もも)くんは、どうしたいの?』
これが任務なのは分かってる。私情を挟んではいけない。でも、あの輝きは消したくないと桃李は思った。
結んだ小指が微かに疼いていた。
***********************
小柳須美はどこかの屋上にいた。外見の制服姿からして女子高生なのは分かるが、こんなところにいる時点で普通ではない。
右耳には通信機器が添えられていた。
彼女は相手が出た瞬間、陽気な声で話した。
『あっ、お久しぶり! 調子どうかな?』
相手も同い年くらいの女性だった。相手は怯えているのか、声が震えている。
『何度も言うけど、あの転校生の男は危ないんだよ。だから、ちょっと事故に巻き込ませればいいんだから。大丈夫、こっちには策があるからさ。じゃないとーーーーーーー』
『ラブライブ出場、できないよ?』
あけましておめでとうございます。
忙しかった最近。年末年始で書き上げました。
今年もよろしくお願いします。