多分これがドライトロン創作で早い方だと思います(自惚れ)
※①世界観は完全オリジナル
※②デュエルだけ読みたい人は序盤の5,000字くらい飛ばして下さい。
※③何か32,000字超えちゃいました。
「機械族の儀式?」
開口するなり、女性は呆けたような声色を出す。
「えぇ、機械族の儀式モンスターです。今までの機械族は融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクと、各召喚方法のモンスターの開発には余裕で成功していましたが、何故か儀式だけ開発できていなかったんです。それが先日、部下の『いっそのことレベルではなく攻撃力で参照してみては?』という鶴の一声で一気に開発が進み、今はそのサポートカードにまで着手して──」
「待て待て待て。主任、そうじゃない」
「──何か他のご質問でも?」
女性の声色から理解ができなかったと察した『主任』と呼ばれた男性は意気揚々と説明していた口を渋々閉ざし、女性に問いかける。
はぁ、と女性は額に手を当てながらため息を零す。
「いや、何故私が呼び出されたのか理解ができないのだ。既知のことだが、私自身はエクシーズやリンクも使うことはある。しかしあくまでも主体は融合。機械族の全般であれば古賀先生や和戸君の方が適任だと思うのだが…」
「あぁ、そのことですか。今回開発した儀式モンスターがですねぇ……何故か天体関係のカード名でないと安定しなくて、何故かドラゴンのデザインでないと出力できなくて、何故か光属性でないと実体化できなかったんで、お二人では適合しなかったんですよ」
「……それなら研修生から適合者を探せば良いだろう」
「そんなことしているよりも
「過言だろう。それに突然声を荒げないでくれ主任」
はぁ、と本日2度目のため息を零しつつ、女性──
早い話、『新しく機械族の儀式モンスターを作ったは良いけど、適合するデュエリストを有象無象から探すより、類似しているカード群を使っているプロデュエリストであれば適合するのではないか』ということだ。
恭子自身、主任の言わんとしていることは理解できる。
自分達が開発したカードを一刻も早く、輝かしいデュエルの舞台で見たいのだ。
それをどこの誰とも知らないデュエリストよりは、自分のような確かな実績のあるデュエリストに依頼すること自体は別に間違ってはいない。
むしろそれだけ信頼されているのだから当人としては嬉しくもある。
「お願いしますよ藤島さんっ!! 来週にはエキシビションでデュエルしなきゃいけないんです!! 下手にそこらの素人が適合しても、実際のデュエルでボロ負けしたら意味がないんですっ!! どうか…! どうかウチのプロジェクトの初舞台を輝かしい勝利で…!!」
「えぇい、わかったわかった…! 最低限、適合するかどうかだけは付き合おう!」
しかし、その信頼が強いあまり今回のような無茶振りが少なからずあることだけは嬉しくない。
結局、大の大人の男が涙と鼻水を垂らしながら自分の腰にすがりついてくるものだから、恭子としては半ば自棄になって了承してしまう。
「ぃよしっ!! ありがとうございますっ藤島さん!! 藤島さんが請け負ってくれれば、もう適合は決まったようなものです!!」
「いや、それは試験してみないとわからないと思うんだが…」
「何を仰いますか! 藤島さんなら絶対に大丈夫ですって! とりあえずデュエルディスク付けて! これが儀式モンスターで、こっちが儀式魔法! あとはこれがリリースするモンスターですんで、隣のブースで試して下さい!! さぁさぁ早くっ! ハーリーぃッ!!」
「う、うむ…」
そして了承するや否や、どこから取り出したのか試験用のデュエルディスクとカードを主任から渡される恭子。
半ば強引に背を押されながら開発室から隣の試験用フィールドへと押し込まれる。
その際、開発室で既に準備を進めていた一般研究員から少しばかりの申し訳なさそうな顔と、期待に満ち溢れた眼差しを向けられてたじろいでしまう。
はぁ、と本日3度目になるため息を零しつつ、恭子は手に持つカードを見て感慨にふける。
「……それにしても、私が儀式か。いつもは橘田か天龍寺さんが使っているのを見ていたからわかるが、まさか私も使う日が来るとはな…」
養成所からの付き合いである友人と、その友人が所属する事務所のトップの顔を思い浮かべながら恭子は手に持ったカードに目を向ける。
儀式モンスターと儀式魔法。
そしてリリースに必要なモンスター。
計4枚のカードが自分の手にあり、それらのカード名とステータス、効果を見る。
(レベル12とは……また随分と高いな。だが攻守共に申し分ないし、効果も悪くない。これが儀式魔法で──ん? 墓地からも召喚できるのか? 最近の儀式は違うな……こっちがリリース用のモンスターで……なにっ通常召喚できないだと!? あっ、いやこれは同テーマ内で特殊召喚しつつデッキを回転させる感じか……なるほど。だがそれにしても──)
各カードの特性、テーマ間のムーブ、実際にデュエルした際のイメージを膨らませていく恭子。
デメリットや制約こそはあるが、これはこれで趣があって良い。
だが、それ以上に──
(──良きイラストだ)
──見た目に惚れた。
いや、惚れてしまったと言っても良い。
自身の使うカード群とも相性も決して悪くはないし、むしろ組み合わせて使うのも良さそうだ。
そうなるとまた異なるムーブができ、最初とはまた異なるイメージが湧いてくる。
『──ふ、藤島さん? そろそろ試験を開始してもらっても良いでしょうか?』
「ん? あぁ、すまない。少々呆けていた」
没頭するあまり、他者からの声でやっと適合試験であったことを思い出す。
心配そうな声色の研究員とは対照的に、恭子の声色はやや上擦っていた。
それもそうだろう。
これらのカード群が自分に適合するか否かの試験であるが、何の心配もいらないという自負が恭子には確信のようにあった。
何せ、カード名はおろか、イラストも、ステータスも、テキストさえも一字一句読めるのだから。
「それでは始めさせてもらう。私は儀式魔法、≪○○○○○≫を発動っ! 手札の≪○○○○○○≫と≪○○○○○○≫をリリースし、手札から儀式モンスターを降臨させる! 儀式召喚っ! 現れよっ!! レベル12っ!!」
恭子が儀式魔法を発動させ、彼女の背後にリリースされたモンスター達が一瞬だけ半透明の姿で実体化。
即座に金色の粒子へと転じ、それらがフィールドの中央へ集まる。
粒子が集まり、段々と形へと成していく。
2つの半月。
2つの巨砲。
2つの堅盾。
2つの剛剣。
それらを纏う巨大な人型──否。
巨大な竜──否。
巨大な竜人──否。
形作るは人に非ず、竜に非ず、竜人でも非ず。
其れは──竜機人。
其れが顕現した時、開発室の中からは溢れんばかりの歓声が。
試験用フィールドに1人居る恭子には笑みが。
この時、デュエルモンスターズの歴史に新たな1ページが刻まれた。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「あら、古賀先生はここの席でしたのね」
「…天龍寺か。遅かったな」
「ちょっと私事で遅れまして。お隣、失礼いたしますわね」
1週間後。
とあるスタジアムの来賓席にて、1組の男女が顔を会わせた。
ハーフアップに纏めた白銀色の長髪を靡かせ、どこか高貴な雰囲気を醸し出す妙齢の女性──天龍寺と呼ばれた美女が優雅に席へと腰を下ろす。
初老に差しかかかったであろう白髪交じりの金髪に、厳格な雰囲気は顔に刻まれた皺がそれを物語っている古賀と呼ばれた男性は、天龍寺の所作を少しばかり目で追い、すぐにスタジアムの方へと目を向ける。
現在、スタジアム中央のデュエルフィールドではデュエルが行われていた。
片や純白の聖職者を模したモンスターを扱い。
片や戦国の武将らを模したモンスターを指揮。
どちらも一進一退の攻防を繰り広げており、聖職者側が切り札であるドラゴンを召喚したところでスタジアムから一際大きな歓声があがる。
「ふふっ、流石は去年のチャレンジャーズカップで結果を出した2人ですね。直近の卒業生ですから、先生も鼻が高いのではありませんか?」
「…まぁ、問題は多かったがな」
「あらそうでしたか? あぁ、そうそう先生。わたくし、本音を申し上げますと、彼──藤堂君は〈
「…別に私が行かせた訳ではない。本人の希望であっちに行っただけだろう」
「研修生時代から龍姫ちゃんが目をかけていたのに?」
「…逆に聞くが、あの超問題児の橘田に目をかけられて〈竜宮〉に行きたいと思うか?」
「わたくしならば
「…藤堂に関しては去年の事件で〈竜宮〉相手だと負い目もあるから行き辛かったのもあるだろう。それならばあまり拘りのない〈腕輪〉に行ったのも納得がいく」
「それはわたくしと夫が人脈と金銭でどうとでもできましたのに…」
「まぁ本当は元木が強引に持っていったんだがな」
「あの転倒王者の所為ではありませんかッ!?」
「あいつの方がスカウトとしては優秀だったというだけだ──むっ、丁度藤堂の勝ちで決まったか」
デュエルフィールドでドラゴンのブレスが武将に直撃し、その超過ダメージでライフポイントが0を示す。
その瞬間、スタジアムでは歓声と拍手が大きく響き、デュエル終了後に相対していた2人は互いに笑い合いながら握手を交わす。
2言3言話したかと思えば、2人並んで仲良く談笑しながら控室の方へと歩を進める。
うっとりとした眼差しを藤堂に向けつつ、天龍寺は感嘆に近い声色で呟く。
「はぁ…やはり藤堂君は良いですわね。ドラゴンを使っていても常識的で。ここは強引に今からでも〈竜宮〉に移籍を…」
「やめておけ。元木が物理的に邪魔してくるだろうし、天崎兄妹と朧月兄妹もそれに加勢するぞ」
「……流石に
「…………」
半ば愚痴に近い天龍寺の言葉に古賀は口を閉ざす。
そもそも奇人変人のレッテルは3割が
しかし、天龍寺とてアラサーの年齢。
その内自分で気付くだろうと、古賀はこの場では発言を控えた。
「あぁそういえば古賀先生。何でも、今回のエキシビションでは先生が懇意にされている企業からサプライズがあるとお伺いしているのですが」
「…相変わらず耳が早いな天龍寺。まぁ私も少しばかり携わったとだけ言っておこう」
「あら? それでは先生がデュエルするのではなくて?」
「残念ながら私には適合しなかった。それだけの話だ」
「それは残念。ではどなたがデュエルをするので?」
「お前の1個下だ」
1個下、という単語が古賀の口から発せられると同時にスタジアムから先ほどと同等、もしくはそれ以上の大音が歓声となってスタジアム全体を揺らす。
天龍寺が何事かとデュエルフィールドの方へと目を向けて、すぐに『あぁ』と納得する。
中央のデュエルフィールドには天龍寺のよく見知った顔──それも2つ並んでいた。
片や蒼穹色の長髪をツーサイドアップにまとめ起伏の皆無な胸の辺りまで伸ばし、スラリとした流体を彷彿とさせるスレンダーな体型の女性──橘田龍姫。
片や蒼銀色の長髪をストレートで腰まで伸ばし、蠱惑的なまでに女性らしく起伏に富んだ、山岳──否。山脈を彷彿とさせるようなモデル体型の女性──藤島恭子。
研修生時代の同級生であり、共に
彼女らが姿を見せて興奮するなという方が無理な話だ。
現にスタジアムはまさかの
今回のエキシビションデュエルは名目上、企業による新規カードの発表会、もしくは新規獲得したデュエリストのお披露目会と言っても過言ではない。
大抵の企業は新人に新規カードを使わせ、それをデュエルという形で紹介するため、デュエリストは実際にデュエルするまで詳細は伏せられている。観客としても新人が新規カードを使ってデュエルするため、新しさ第一でこのエキシビションデュエルの観戦に来たのだ。
実際に彼女らの前の2人も昨年度養成所を卒業したばかりの新人であり、公の場で露出があまりなかったために各々の企業から出場を命令されたに過ぎない。
だが、今デュエルフィールドに立つ2人は、そういった新人からは程遠い──それこそ、新人が憧れ、敬うような立ち位置に居る2人である。
片やドラゴン族系企業〈竜宮〉の顔と言っても差支えない、ドラゴン至上主義のデュエリストにして、
片や機械族系企業〈
よもや国内の4大大会はおろか、リーグ戦ですら滅多に見られない組み合わせ。それも普段のチケット代からすれば遥かに格安で
スタジアムの興奮はさらに過熱し、割れんばかりの歓声が止むことがない。
会場内アナウンスで注意を促そうにもヒートアップしている観客らは、誰もがそれは耳に入らずただデュエルフィールドに居る2人に声を荒げるだけ。
「…驚いたな。まさか〈竜宮〉から橘田を出すとは思わなかったぞ」
「わたくしもですわ。まさか恭子ちゃんとは予想外です……正直に打ち明ければ、こちらは新規カードに適合できたのが龍姫ちゃんしか居なかっただけなのですが」
「それはこちらも同じだな。だが、それが偶さかこの組み合わせになるとは…」
熱狂している観客らを余所に、来賓席では日常会話のように言葉を交わす2人。
デュエルの組み合わせは完全にランダムだが、よりによってそれが
「しかし恭子ちゃんも不運ですわね。このような場で龍姫ちゃんとだなんて……今のあの子、藤堂君が直前のデュエルでドラゴンをフィニッシャーにして、相手が恭子ちゃんですから、見た目以上に昂っていますわよ」
「いや、あの無表情のどこに見た目から察せられる要素があるんだ?」
「今日のエキシビションの龍姫ちゃんは全力全速全開前進ですわね」
「聞け。そういうとこだぞ〈竜宮〉が奇人変人扱いされるの」
嘗ての教え子が企業の評判通り、と言っても養成所時代からこの調子だったドラゴン使い達がこぞって〈竜宮〉に行くものだから、講師である古賀としては頭が痛い。
はぁ、とため息を吐きながら視線をデュエルフィールドへ。
そこにも自分の元教え子達──それも片や超が付く問題児、片や自分の所属事務所の後輩。
自身の後輩である恭子の応援は当然だが、手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったもので、龍姫の方も気にはなる。
尤も。
(…まぁ、良いデュエルを期待しているぞ。藤島、橘田)
今はただの観客として2人のデュエルに期待するだけだ。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「久しぶりだな龍姫。まさかここで会うとは思わなかったぞ」
「……同じく」
「エキシビションに出るということは何か新しいカードがあるのだろう? 今回のデュエルでは期待している」
「……私も」
一方、デュエルフィールドでは周囲の熱など知ったことではない、とばかりにマイペースかつ朗らかに話す
と言っても養成所時代から変わらず、それなりに面倒見の良い恭子が一方的に話しかけ、日常では控え目な龍姫が最低限の返事をするだけ。
傍から見れば恭子が嫌われているのではと思われなくもないが、これが彼女らの日常。
「今回の私のデッキはいつもとは大きく異なるが、おそらくいつもよりは龍姫の好みに近いだろう」
「……っ! 期待している…! 私も、今回は新しいカードを色々入れたから…!」
「ほう…私も期待しておこう。さて、では始めようか」
話す中で長い付き合い故に龍姫の無表情からある程度内心が読めるようになった恭子は、龍姫の期待が言葉通りであることを容易に理解。
龍姫の方も恭子の一見興味の薄そうな声色に反し、その実は言葉通りの期待であることは理解していた。
そしていつの間にか観客の迸るほどの声援が嘘のように止み、それを合図に2人はほぼ同時にデュエルディスクを装着しながらデュエルフィールドの所定の位置まで移動し、互いに互いを見据える。
オートシャッフル機能で龍姫の60枚デッキと恭子の40枚デッキが小気味よい音を響かせながらシャッフルされ、デッキホルダーに固定。
続けて先攻・後攻を決定するランプがデュエルディスクに点り、それを見るなり互いに慣れた手つきでデッキからカードを5枚ドロー。
中空に仮想立体映像であるソリッドビジョンで名前と8000のライフポイントが表示。
準備が完了し、一瞬だけ手札を見てから共に相手の顔を見る。
両者共に微笑を浮かべており、初期手札が完璧であること。
大会やリーグ戦とは違い、勝敗をそこまで重視しないこと。
スタジアムという舞台で、養成所時代のようにただデュエルに集中できること。
様々な思いを込め、2人ははっきりと、そして力強い──
「「デュエルっ!!」」
──宣言共に決闘が始まる。
「私の先攻。手札からレベル5の≪聖刻龍-アセトドラゴン≫をリリースなしで召喚。この子は攻撃力を1000にすることでリリースなしで召喚することができる。そしてこの≪アセトドラゴン≫をリリースし、手札からレベル5≪聖刻龍-ネフテドラゴン≫を特殊召喚。この子は場の【聖刻】モンスターをリリースすることで手札から特殊召喚できる。ここで≪アセトドラゴン≫の効果。この子がリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する。デッキからレベル2・チューナー・通常モンスターの≪ギャラクシーサーペント≫を特殊召喚」
先手必勝とばかりに龍姫は慣れ親しんだ手つきでカードを繰る。
フィールドに光り輝くドラゴンが現れたかと思えば、即座に光の粒子となり別の上級ドラゴンが出現。
それに併せてデッキから下級の通常モンスターを【聖刻】固有効果によって呼び出す。
無駄のない展開に観客は沸き立ち、恭子は笑みを浮かべる。
『まだこれで終わりじゃないだろう?』とでも言いた気な表情を龍姫に見せ、当の龍姫も(傍から見ればわからないが)微笑を浮かべ、流れるように手札のカードに指をかける。
「場の≪ネフテドラゴン≫をリリースし、手札から魔法カード≪ダウンビート≫を発動。リリースしたモンスターと同種族・同属性でレベルが1つ低いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。現れよ、≪聖刻龍-ドラゴンヌート≫。リリースされた≪ネフテドラゴン≫の効果発動。デッキからレベル4・通常モンスターの≪神竜ラグナロク≫を攻守0にして特殊召喚」
まだ途中、とでも言うようなプレイングで龍姫の場のドラゴンが増えていく。
上級モンスターこそ居なくなったが、そのドラゴンの数は3体。
その内レベル4が2体にレベル2のチューナーが1体。
シンクロ・エクシーズ・リンク召喚はもちろんのこと、残っている3枚の手札によっては融合や儀式も充分に可能な状況だが──
「私は場の≪ドラゴンヌート≫を対象に速攻魔法≪ドロー・マッスル≫を発動。自分場の守備力1000以下の表側守備表示モンスターを対象に発動し、デッキから1枚ドローし、そのモンスターはこのターン戦闘では破壊されない──けど、カード効果の対象になった瞬間、≪ドラゴンヌート≫の効果発動。この子がカード効果の対象になった時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する。デッキからレベル4・通常モンスターの≪アレキサンドライトドラゴン≫を特殊召喚。その後、≪ドロー・マッスル≫の効果で1枚ドローする」
──龍姫が取った選択は更なる展開。
場に居るモンスターの数は4体に増え、魔法カードの効果でドローして手札を補充したので手札は3枚から減っていない。
『そろそろ来るか』と恭子が身構える中で、龍姫は内心で歓喜の笑みを浮かべながら、エクストラデッキから
「私はレベル4の≪ドラゴンヌート≫にレベル2の≪ギャラクシーサーペント≫をチューニング。深淵より出でし無形よ、現世にその形を成して現せッ! シンクロ召喚ッ! 現れよ、レベル6ッ! ≪ドロドロゴン≫ッ!!」
龍姫の場の2体の竜が光星と緑輪へと姿を転じ、フィールドが一瞬だけ光に包まれた直後、フィールドには新たなドラゴンが鎮座していた。
全身が薄緑色の泥に包まれ、無形でありながら竜の形を保とうとしているモンスター。
お世辞にも外観はドラゴンらしくないモンスターだが、この≪ドロドロゴン≫は観客はもちろん、恭子にとっても初見のモンスター。
攻撃力は僅か500だが、低攻撃力モンスターには何かしら特異な効果があるものだと、恭子は龍姫の次手を見守る。
「≪ドロドロゴン≫は融合素材代用モンスターになる効果を持つ。その際、他のモンスターは正規の素材でなければならない。そしてもう1つの効果を発動。シンクロ召喚されているこのカードを含む融合モンスターによって決められたモンスターをフィールドから墓地に送ることで融合召喚できる」
「ほう…≪融合≫内蔵の融合素材代用モンスターとはまた面白い効果だな」
「ありがとう。お陰でこんなこともできる──私は場の≪ドロドロゴン≫を≪ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者―≫として扱い、場の≪神竜ラグナロク≫と融合ッ! 神魔の力を得し支配者よ、その力で竜に選別の加護を齎せッ! 融合召喚ッ! 現れよ、レベル7ッ!≪竜魔人 キングドラグーン≫ッ!!」
泥の竜はその形を彼の竜の支配者へと変え、場に居た≪神竜ラグナロク≫を融け合い、さらにその姿を変える。
現れるは支配者の上半身と神竜の下半身を持つ竜の魔人、≪竜魔人 キングドラグーン≫。
以前の龍姫であれば渋々≪融合呪印生物-闇≫をデッキに入れ、その効果で非正規召喚していた≪キングドラグーン≫だが、新たな竜である≪ドロドロゴン≫の効果で問題なく正規の融合召喚を可能に。
そのため例えバウンス以外の除去をされても蘇生制限を満たしているため、通常の蘇生・帰還カードで問題なく特殊召喚ができる。
≪ドロドロゴン≫の存在はカード名を指定するドラゴン族融合モンスターを扱うことのある龍姫にとってこの上ないほどの優秀な存在となった。
(≪キングドラグーン≫か……確か場のドラゴンに相手からの対象耐性を付与する融合モンスターだったか──上から殴れば問題ないなッ!)
しかし、恭子にとってはさほどでもない。
攻撃力2400の対象耐性持ちと考えても、『じゃあ攻撃力2400より高いモンスターを出せば問題ないな!』という身も蓋もパワー思考。
あくまでも一般的なデュエリスト相手には有効な手ではあるが、『力こそパワー』を体現する恭子相手には分が悪い。
「手札から永続魔法≪星遺物の守護竜≫を発動。このカードの発動時に自分の墓地からレベル4以下のドラゴン族1体を手札に加えるか特殊召喚する。墓地の≪ドラゴンヌート≫を特殊召喚。そしてもう1つの効果発動。自分場のドラゴン1体の位置を変更する。≪ドラゴンヌート≫を対象に発動し、カード効果の対象になったことで効果発動。墓地から≪ギャラクシーサーペント≫を攻守0にして特殊召喚する」
尤も、龍姫も恭子相手では≪キングドラグーン≫を出した程度で止まるとは最初から思っていない。
あくまでも万全の盤面を完成させるための1ピースに過ぎないため、続けてエクストラデッキから取り出していた残り2枚の内の1枚に指をかける。
「私は場のレベル4≪アレキサンドライトドラゴン≫と≪ドラゴンヌート≫でオーバーレイネットワークを構築。竜弦を響かせ、その音色で闇より竜を誘えッ! エクシーズ召喚! 降臨せよ、ランク4ッ!≪竜魔人 クィーンドラグーン≫ッ!!」
続けて龍姫の場に姿を現したのは≪キングドラグーン≫の対となる、守護者の上半身と神竜の下半身を持つ女王≪竜魔人クィーンドラグーン≫。
龍姫のマイフェイバリットにしてエースと同じく、彼女のデュエルでほぼ全てのデュエルで登場する愛用ドラゴンの1体だ。
その能力も自身以外のドラゴンに戦闘破壊耐性付与と、墓地からレベル5以上のドラゴンを蘇生するという実に彼女好みであり、通常のデュエリストであれば──というより、通常でもエクストラデッキからモンスター1体出せば良い中、彼女のドラゴン族の展開はここからさらに加速する。
「私は≪クィーンドラグーン≫の効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、墓地からレベル5以上のドラゴン族を効果無効、このターンの攻撃不可の状態で蘇生させる。墓地からレベル6の≪ドロドロゴン≫を蘇生」
「≪ドロドロゴン≫を復活か…」
これで龍姫の場には再び4体のモンスター。
その中で融合・シンクロ・エクシーズと揃ってはいるが、ここからさらに展開することは予見のように周知されている。
問題は大人しく儀式召喚に移るか否かだが──
「私はレベル6の≪ドロドロゴン≫にレベル2の≪ギャラクシーサーペント≫をチューニング。光と闇が生み出す混沌よ、その支配者を顕現させよッ! シンクロ召喚ッ! 現れよ、レベル8ッ! ≪混沌魔龍 カオス・ルーラー≫ッ!!」
「これは初見のドラゴンだな…」
今度は場の2体のドラゴンが6つの光星と2つの緑輪へと転身し、再びフィールドに刹那の閃光が走る。
現れ出るは漆黒の竜鱗と紫翼を持った魔龍≪混沌魔龍 カオス・ルーラー≫。
龍姫が今まで使用してきたシンクロドラゴンの中では≪星態龍≫に次ぎ、≪トライデント・ドラギオン≫と同率の攻撃力3000の大型モンスター。
≪キングドラグーン≫が対象耐性、≪クィーンドラグーン≫が戦闘耐性であれば、効果破壊耐性でも付与するのかと恭子が予想するも──
「≪カオス・ルーラー≫の効果発動。このカードのシンクロ召喚成功時、私のデッキトップ5枚をめくり、その中から光・闇属性モンスター1体を手札に加え、残りは墓地に送る……デッキトップ5枚は≪祝祷の聖歌≫3枚、≪聖刻龍-トフェニドラゴン≫、≪巨神竜フェルグラント≫。この中から光属性≪トフェニドラゴン≫を手札に加え、残りは墓地へ」
「墓地肥やしか。それにしても随分と偏った落ち方だな…」
──耐性付与ではなく、墓地肥やしであったことは予想外であった。
しかも墓地に龍姫のエースモンスター降臨に必要な儀式魔法が一気に3枚も墓地に行ったことは恭子にとって嬉しい誤算だ。
全て墓地に送られてしまえば、このターンで儀式召喚されることはない。
つまり、このターンは融合・シンクロ・エクシーズを並べただけで終わる──
「手札から魔法カード≪儀式の準備≫を発動。デッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。さらに墓地に儀式魔法があればそのカードを手札に回収。私はデッキからレベル6の儀式モンスター≪竜姫神サフィラ≫を手札に加え、墓地から儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を手札に回収する」
「……おや?」
──そう思っていたが、現実はそんなに甘くない。
≪カオス・ルーラー≫召喚前に2枚だった手札がいつの間にか4枚に増え、さらに儀式召喚に必要な儀式モンスターと儀式魔法、リリース用のモンスターまで揃える強欲セット。
普段と手順こそ違うが、これはまた場にドラゴンが並んでしまうな、と恭子は半ば諦観した思いで龍姫の場へ視線を向ける。
「手札から儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を発動。レベル6の≪竜姫神サフィラ≫の降臨に必要なレベル分、手札・場からモンスターをリリースし、儀式召喚を執り行う。私は手札からレベル6の≪トフェニドラゴン≫をリリース──祝祷の祷りを捧げ、神聖なる歌で竜を導けッ! 儀式召喚ッ! 光臨せよ、レベル6ッ! 我が半身、≪竜姫神サフィラ≫ッ!!」
遥か上空から6本もの光が6角形の頂点の位置に矢の如く龍姫のフィールドに突き刺さり、降り注いだ6本の光の中央に、巨大な光柱が現出。
光柱の光が段々と狭まっていくにつれ、内にあるものの存在が徐々にその姿を形成していく。
人間と同じような体躯を持ち、その身はサファイアブルーの竜鱗が彩。
その背から神鳥を彷彿とさせる豪華絢爛な装飾で覆われた純白の翼。
体の各所には翼と同様に金色の装飾が至るところに施されている。
龍姫のマイフェイバリットにして、エースであり、切り札。
絶対的なる守護神──≪竜姫神サフィラ≫が満を持してフィールドに降り立つ。
当然、彼女のエースの登場にスタジアムの熱はより一層高まっていく。
観客の誰もが喉が壊れんばかりの大声を上げ、龍姫の形成した融合・儀式・シンクロ・エクシーズの各種ドラゴンが揃い踏みしたフィールドに心を奪われる。
しかしまだここで終わりではないと、恭子は警戒を解かずに龍姫の一挙一動を注視。
「リリースされた≪トフェニドラゴン≫のモンスター効果発動。手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を特殊召喚。私はデッキからレベル8の≪神龍の聖刻印≫を特殊召喚し、この子をリリースして魔法カード≪アドバンスドロー≫を発動。自分場のレベル8以上のモンスター1体をリリースして、デッキから2枚ドローする」
やはり、と半ば確信めいた龍姫のムーブに恭子は警戒を強める。
儀式召喚によって4枚あった手札が1枚にまで減ったが、それを【聖刻】の展開力で即座にドローカードのコストに変換。
低ステータスモンスターを場に残さずに手札を2枚に増やした状況に薄らと冷や汗が出るが、龍姫はそんな恭子のことなどお構いなしとばかりにプレイングを続ける。
「場の≪キングドラグーン≫の効果発動。1ターンに1度、手札からドラゴン族1体を特殊召喚する。私は手札から≪マテリアルドラゴン≫を特殊召喚。この子が場に居る限り、効果ダメージは回復に変換され、手札1枚を墓地に送ることでフィールドのモンスターを破壊する効果の発動を無効にし破壊する」
「効果対象・戦闘破壊・効果破壊の耐性を付与させてきたか…!」
「これで守りは万全。カードを1枚セットし、ターン終了時に≪サフィラ≫の効果発動。儀式召喚に成功したターン、または手札・デッキから光属性が墓地に送られたターンの終わりに3つある効果の内1つを使える。私はデッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択。この効果で2枚ドローし、≪アークブレイブドラゴン≫を捨てる。そして速攻魔法≪超再生能力≫を発動。このターン、私がドラゴン族をリリース・手札から捨てた回数分、デッキからドロー。私はデッキからカードを5枚ドローし、ターン終了」
成し遂げた、とでも言うような無表情に隠された満足気な表情を浮かべて龍姫の長い先攻1ターン目が終わる。
フィールドには龍姫の愛用ドラゴンがほぼ勢揃いしており──
儀式モンスター≪竜姫神サフィラ≫
融合モンスター≪竜魔人 キングドラグーン≫
シンクロモンスター≪混沌魔龍 カオス・ルーラー≫
エクシーズモンスター≪竜魔人 クィーンドラグーン≫
効果モンスター≪マテリアルドラゴン≫
──計5体のモンスターが鎮座。
さらには墓地へ送られた≪アークブレイブドラゴン≫の効果によって墓地からレベル8の≪巨神竜フェルグラント≫も復活するため、実質6体のモンスターが並ぶことは確定。
魔法・罠ゾーンには表側の≪星遺物の守護竜≫とセットカードが1枚。
手札は5枚あり、ライフポイントはライフコストを要するカードを使わなかったため無傷の8000ポイントのまま。
よくこれだけ並べたものだと、恭子としてはいつもながら龍姫の展開力に感心するしかない。
観客達も各ドラゴン達が勢揃いしている状況に興奮し、さらにボルテージは高まっていく。
龍姫自身はドラゴンに対する偏愛が酷いことで有名だが、実際にデュエルで大型のドラゴンを多岐に渡って活躍させるスタイルは老若男女を問わずに人気がある。
それ故、今回のエキシビションデュエルでも多くの観客が龍姫のドラゴンの虜となり、すっかり会場の雰囲気をドラゴン一色に染め上げたのだ。
「……恭子はこの盤面、どう対処する…?」
自身の自信のある自慢の盤面を完成させた龍姫は半ば──いや、わかりやすい程に恭子に挑発的な言葉を送り、返しのターンを待つ。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「あらあらあら、龍姫ちゃんったら、完全に自己満足な盤面を作っちゃって…」
「…しかも新規カードを混ぜつつも、結局は普段と同じ、各召喚方法のドラゴンを並べただけとは……相変わらず変わらんな…」
来賓席では藍子と古賀が共に呆れたような、慣れたように言葉を漏らす。
藍子にとっては手のかかる妹のように。
古賀にとっては文字通り問題児として。
龍姫の作った盤面にため息を零す。
「ですが龍姫ちゃんはあのような強固な盤面を築くことに長けていますからね。効果対象・戦闘破壊・効果破壊の耐性がほぼ全てのドラゴンに付与されている上、龍姫ちゃんの守護神である≪サフィラ≫に至っては墓地の≪祝祷の聖歌≫をどうにかしない限り3回の破壊耐性を得ていますので、生半可な方法では突破できませんわ」
「全く以てその通りだな。
「攻撃力だけなら間違いなく国内最強ですから、攻撃さえ通ればゲームエンドに成り得ますわね。それに今回の龍姫ちゃんの場には【アモルファージ】が居ませんから、エクストラデッキからの制限はないので充分に勝ちの目はありますわ」
龍姫の盤面に呆れこそはするが、2人はあくまでも冷静に状況を分析。
ドラゴンが5体──次ターンには6体並ぶが、そのフィールドは耐性に特化したもの。
もしも龍姫が本気で勝利に固執するのであればエクストラデッキからの召喚を封じる【アモルファージ】モンスターが並んでいたことは間違いないが、今回は新規カードのお披露目と、龍姫の好みのドラゴンだけを突っ込んだデッキであることを2人は瞬時に理解。
同時に龍姫と恭子のカード効果や癖もほぼ熟知しているため、ここから恭子がどう動くかも自ずと予想がつく。
しかし──
「確かに勝ちの目はある。だが、それは今までの藤島の話だ」
「あら? 随分と含んだ言い方ですこと古賀先生」
「藤島の【サイバー】であれば力押しで突破できる。だが、藤島が今使っているカードにその力があるかはわからんのだ」
「ふぅん……そういえば先生は先程新規カードに適合しなかったと仰っていましたが、それが関係しているので?」
「まぁ答えのようなものだがな。私には藤島が
「それはそうですが……藤島さんからお相手をお願いされたりしませんでしたの? 元とはいえ恩師ですし、今でも同じ企業に属しているのですから」
「残念ながら依頼はなかった。まぁ藤島も藤島で〈
「あらそれは残念ですこと。では、今回のデュエルが正しく藤島さん──いえ、〈機械仕掛けの神〉の新規カードの初舞台ということですわね」
「そうなるな……まぁ、私もある程度は聞き及んでいるから伏せるが、それは実際のデュエルで観てみれば良い」
「ではそうさせて頂きましょう。ふふっ、一体どんな新しいカードを使うのか楽しみですわね」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
(大・満・足ッ!! いやぁ流石私! 新しく≪ドロドロゴン≫と≪混沌魔龍 カオス・ルーラー≫を入れてもデッキが回る回る大回転ッ! しかも安定性が以前とはダンチ過ぎてドローカードもまだデッキにあるから継戦能力も向上! さらにさらにっ! あしらえたかのように新規の2枚は闇属性と光属性! これはもう私の【聖刻サフィラ】を【カオスサフィラ】と呼称しても良いのでは? あっ、ヤバい。光と闇とキングとクィーンと姫と巨神とルーラーとマテリアルが交わって最強に見える。いやぁ、このドラゴンの布陣は最強で無敵だよこれっ!!)
ところ戻ってデュエルフィールド。
先攻1ターン目にいつものように融合・儀式・シンクロ・エクシーズを決めた龍姫は内心で浮かれていた。それはもう内心が吐露されたらファンが激減するぐらいの。
普段より制圧力・拘束力は低いが、それでも盤面の強固さは折り紙つき。
各種耐性を付与されている龍姫のドラゴン達は守りに堅く、唯一の弱点とも言える≪竜魔人 クィーンドラグーン≫を最初に戦闘破壊で突破。その後でやっとドラゴン達を戦闘によって破壊できるのだから、相手からしてみれば面倒なことこの上ない。
しかし──
(まっ、≪クィーンドラグーン≫を狙ってもセットしてある≪攻撃の無敵化≫で守れば問題ないし、隙なんてないんだけどね)
──その辺りも対策してこそのプロ決闘者。
仮に全体攻撃ができるモンスターが居たとしても、攻撃力3000程度であれば≪攻撃の無敵化≫の破壊耐性で≪クィーンドラグーン≫を守れば多少の戦闘ダメージと引き換えに全てのドラゴンを守れる上、超過ダメージでライフポイントを削り切られそうな時には≪攻撃の無敵化≫の戦闘ダメージを0にする効果で耐えれば良い。
何より今の龍姫の手札は5枚もあり、さらに墓地には≪祝祷の聖歌≫が3枚もある。
自分の分身と言っても過言ではない≪サフィラ≫を計3回破壊から守れる上、デッキのエンジンにして核さえ残っていれば次ターンからいくらでもドラゴンを展開できるのだ。
今回のエキシビションデュエルでは華麗な勝利が約束されたも同然、と龍姫は(薄い)胸をふんすと張って(無表情でわからないが)自慢気な顔を浮かべる。
「私のターンだ。ドロー」
「スタンバイフェイズに前のターンで墓地に送られた≪アークブレイブドラゴン≫のモンスター効果発動。このカードが墓地に送られた次のスタンバイフェイズに、自身と同名以外のレベル7・8のドラゴン族1体を墓地から蘇生。蘇れ、レベル8ッ! ≪巨神竜フェルグラント≫ッ!!」
さらに自分のモンスターが1体増え、これで龍姫の場には合計6体のドラゴン。
当の相手である恭子は最上級ドラゴンが1体増えても、普段の真面目な表情を崩さないが、龍姫としてはいつもの【サイバー】デッキではないので、早々に突破されることはないだろうと半ば確信。
折角の新規カードお披露目会だが、この勝負はもらったと龍姫は慢心している──
「私は手札から≪サイバー・ドラゴン・コア≫を召喚。このカードが召喚に成功した時、デッキから【サイバー】または【サイバネティック】魔法・罠カード1枚を手札に加える。私はデッキから通常魔法の≪エマージェンシー・サイバー≫を手札に」
「……≪サイバー・ドラゴン・コア≫…?」
──しかし、恭子がモンスターを召喚した途端、その(無表情に見える)自信に満ちた顔が一瞬で歪む。
≪サイバー・ドラゴン・コア≫。
言わずと知れた、恭子が繰る≪サイバー・ドラゴン≫の派生モンスターだ。
先ほどのように特定のカードのサーチはもちろん、場・墓地で自身を≪サイバー・ドラゴン≫として扱う効果を持ったモンスターであることは龍姫も理解している。
そう、理解しているのだ。
それ故──
(あっ、ちょ──あば、あばばばばばっ!! ままま、待って恭子! ≪サイバー・ドラゴン・コア≫を召喚されたら、≪機械複製術≫と≪パワー・ボンド≫のコンボで私のドラゴンがすっごく痛い戦闘ダメージを受けちゃう! お願いっ融合召喚しないで! 今ここで融合召喚したら機械族の新規カードはどうするの!? まだターンは全然残っている、ここを我慢すれば新規カードをお披露目できるんだか、あーっ! あっー!)
──内心、ものすごく焦っていた。
養成所時代幾度もデュエルした仲なので相手の出方もある程度わかるのだ。
そのため、次に恭子が出すであろう手を瞬時に脳内シミュレートし、セットしてある≪攻撃の無敵化≫でドラゴンを守るべきか、自分を守るべきかどうしたら良いのかと、自問している内に恭子は手札に加わったカードに指をかける。
「手札から魔法カード≪エマージェンシー・サイバー≫を発動! デッキから【サイバー・ドラゴン】モンスター、または通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加える! 私はデッキから≪
「……ドライトロン…?」
龍姫は≪機械複製術≫からの≪パワー・ボンド≫のコンボが来なかったことに安堵すると同時に、聞き慣れないテーマ名のカテゴリに首を傾げた。
これはもしかしてお馴染みの≪機械複製術≫からの≪パワー・ボンド≫ではないのでは? と龍姫は精一杯無表情を貫きつつ、ワンショットキルされない希望──というよりは願望で恭子のプレイングを見守る。
「手札からフィールド魔法≪竜輝巧-ファフニール≫を発動! このカードの発動時の効果処理として、デッキから【ドライトロン】魔法・罠カード1枚を手札に加える! 私はデッキから通常魔法≪
「──っ、ドラゴン、いや機械…? でもドラゴンのような…」
しかし、つい10秒前の不安と願望に縋った自分はどこに行ってしまったのか、恭子が発動したフィールド魔法と通常魔法から実体化された姿に心奪われる龍姫。
ありそうでなかった機械を身に纏ったドラゴンの姿をした機械族。
ドラゴンも西洋竜のように立派な四肢と翼を携え、近未来的な武装を付けている姿に、龍姫はもちろんのこと、スタジアムの少年の心を鷲掴みにした。
恭子はそんな龍姫や一部の観客達の反応を見て内心誇らしく思うも、まだデュエル、ひいてはプレイングの途中。
まだまだこれからが本番だ、とでも言うように勢いよくカードをデュエルディスクへと叩きつける。
「私は場の≪ラスβ≫をリリースし、手札の≪エルγ≫の効果発動! 【ドライトロン】下級モンスターは自身以外の手札・場の【ドライトロン】モンスターをリリースし、守備表示で特殊召喚できる! さらにその際に各固有効果が適用される! ≪エルγ≫は自身の効果で特殊召喚に成功した時、墓地から同名以外の攻撃力2000の【ドライトロン】モンスター1体を選んで特殊召喚! 復活せよ、≪ラスβ≫!」
続けてフィールド魔法の≪ファフニール≫から≪ラスβ≫と非常に類似した外見の機械竜≪エルγ≫がロボットアニメよろしく発艦。それにつられるように一瞬だけリリースによって姿を消していた≪ラスβ≫も同様に発進し、恭子の場に≪サイバー・ドラゴン・コア≫を含めて合計3体の機械竜が展開された。
ドラゴン族ではないが、非常にドラゴン族に近い見た目だけあり、龍姫は幼少期の特撮ヒーローに憧れるがの如く(傍から見ればわからないが)瞳を輝かせる。
「私は場の≪ラスβ≫をリリースし、手札から≪竜輝巧-バン
「──っ、儀式モンスター全般サーチ…っ!」
しかし龍姫とて(一応)
新規カードの見た目に半ば自爆的に惑わされかけたが、万能性のあるサーチ効果に少しばかり眉をひそめる。
恭子が場に出した【ドライトロン】モンスターは、自身の効果で特殊召喚した際に追加効果で蘇生とサーチと、何かしらアドバンテージに繋がる効果を有していた。
さらにここで儀式モンスターサーチと来ればその対となるカードも出るハズ、と龍姫は目の前の機械竜で目を保養しながら恭子の次手を警戒と期待を抱きながら静観する。
「私は場の≪エルγ≫をリリースし、手札から≪竜輝巧-アル
(そりゃ儀式モンスターサーチがあるんだから儀式魔法サーチもあるよねっ! でも…)
やっぱり、と龍姫は恭子が着々と必要カードを揃えていったことに内心で半ば自棄になって荒げる。
しかし、それと同時にどうしても理解できないことが1つあった。
(儀式モンスターのレベルに対して、場のモンスターのレベル低過ぎない…?)
それは恭子が展開しているモンスターのステータスの偏重さ。
儀式モンスターのサポートモンスターであるにも関わらず、出てきた下級【ドライトロン】は全てが──
レベル1
機械族
光属性
攻撃力2000
守備力0
──と、とてもではないが通常の儀式召喚で用いるにはあまりにもレベルが低過ぎる。
(しかも手札に加えた儀式モンスターのレベルは明らかに8以上……10以上あったかな? もしかしたら12ぐらいあったような気がしたけど……手札にレベル10のモンスターでも抱えているのかな?)
龍姫自身も愛用しているエースが儀式モンスターのため、恭子の展開しているモンスターとサーチしている儀式モンスターのレベルのチグハグさに違和感を覚えていた。
あれだけ高レベルであればサポートモンスターの方に何か儀式召喚のリリースに使われる際に別途効果があるのではないかと勘繰る。
「私は手札の≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫をリリースし、手札の≪竜輝巧-ルタ
(──っ、儀式モンスターをリリースした!? サーチしたモンスターを墓地に……墓地起動の効果持ち? それとも回収効果が別に居るの? もしくはダブついている?)
そう勘繰っていた途端、儀式使いとしては儀式モンスターをドローに変換するという、あり得ない行動に龍姫は内心で驚愕した。
墓地に送ることが目的なのか、墓地起動なのか、または墓地から回収する算段があるのか、はたまた手札に2枚あって1枚を処理しただけなのか。
儀式の常識はもちろん、昨今のデュエルモンスターズ事情におけるカード群の効果をひとしきり脳内で列挙していく。
「先ずはこっちだな。私は≪サイバー・ドラゴン・コア≫と≪ルタδ≫をリンクマーカーにセット! 召喚条件は【サイバー・ドラゴン】を含む機械族モンスター2体! 現れよ、リンク2! ≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫ッ!!」
「……ここで、≪ズィーガー≫…?」
しかしそんな龍姫の想定を裏切るように恭子が取った手はリンク召喚。
核となる小さな機械龍たる≪サイバー・ドラゴン・コア≫と機械竜の≪ルタδ≫が8方向のマーカーの内、左と下にその身を投じる。
刹那。フィールドに閃光が迸った直後、恭子の愛用している機械龍≪サイバー・ドラゴン≫の全身に青白く輝く回路を刻んだ派生モンスター≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫が姿を現す。
≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫については恭子と幾度もデュエルしている龍姫も効果を把握している。
自身を場・墓地で≪サイバー・ドラゴン≫として扱い、バトルフェイズの自身の攻撃宣言前に、自分場の攻撃力2100以上の機械族の攻撃力を2100ポイントアップさせるリンクモンスターだ。
このエキシビションデュエルは新規カードのお披露目のハズ、何故今更既存の≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫を、と龍姫は自分の場をよく見ろと言われかねないことを思いながら恭子の次手に身構えた。
一方の恭子は普段と同じ──いや、それ以上に自信に満ちた表情で自分の手札・場・墓地、そして龍姫の場を見て口角が上がってしまう。
新規カードのお披露目としてはこの上ないほどに場が整えられている。
今は墓地に眠る星に一瞬視線を送り、手札から1枚のカードを構えた。
「さぁ……相応しい舞台は整ったッ! 見せてやろう橘田! これが機械族、そして新たな儀式召喚の可能性だッ! 私は手札から儀式魔法≪流星輝巧群≫を発動ォッ!! 自分の手札・場の機械族モンスターを儀式召喚するモンスターの──’’攻撃力’’以上になるようにリリースし、手札・’’墓地’’から儀式召喚を執り行うッ!!」
「──っ、レベルではなく攻撃力参照の、墓地からも可能な儀式召喚…っ!?」
想定外。いや想定以上の儀式魔法の効果に龍姫は珍しく観客の前で驚愕に顔を染める。
『儀式召喚には手札・場に儀式モンスターと儀式魔法、そしてリリースするレベル以上のモンスター1体以上必要』という既存の概念を覆す、
機械族はもちろん、全ての儀式召喚における革新的なまでの効果に龍姫を始め、観客、そして観戦しているであろうプロデュエリストの面々の表情が驚愕一色に染まる。
「私は場の攻撃力2000の≪バンα≫と、攻撃力2000の≪アルζ≫の2体をリリースッ! 星に座する輝光竜よ、星辰を束ね北天の彼方より来たれッ! 儀式召喚ッ! 現れよッ! レベル12ッ!! ≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫ッ!!」
2体の機械竜は金色の粒子へと転じ、それは恭子のフィールド中央へと集まる。
粒子は巨大な竜と人を模した形へと成していき、その大きさは龍姫の場のどのドラゴン達よりも遥かに長大にして強大。
2つの半月が天を覆い。
2つの巨砲が地を定め。
2つの堅盾が主を守り。
2つの剛剣が敵を断つ。
それらを纏う巨大な人型にして竜、竜にして機械。
形作るは人に非ず、竜に非ず、竜人でも非ず。
其れは──竜機人。
≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫
「……これが…機械族の、儀式モンスター…」
その威容を真正面から見据える龍姫。
巨大な竜機人にして、全身の至るところには近未来を彷彿とさせるおびただしいまでの重火器。
レベル・攻撃力・守備力、全てがデュエルモンスターズ最高峰のステータス。
圧倒的な存在感を前に龍姫は震えるような、搾り出すように、なけなしの声量で呟いた──
「……超カッコいい…!」
──小学生並の感想を。
「ふふ、気に入ってくれたようで何よりだ。だが≪メテオニス≫は見た目とステータスだけではないぞ? このカードは特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃することができる殲滅能力、相手の効果モンスターの効果の対象にはならない防御性能を有している」
「いい、許せる。むしろ完全耐性でも驚かない」
「残念ながら完全耐性は開発の際に無理だったらしい」
「残念…」
ふふん、と恭子がその豊満な胸部を揺らしながら誇り、龍姫はうっとりとした視線が完全に≪メテオニス≫にロックオン。
これが公式大会やリーグ戦であれば観客から『さっさとデュエルを続けろッ!』という罵声が飛んでくるものだが、スタジアムに居る観客の大多数は龍姫ほどではないにしろ、≪メテオニス≫という存在に心を奪われていた。
星。竜。機械。人型。
肩部半ドーム式レーダー2基。
肩部レーザーキャノン砲2基。
腕部固定型光波ブレード2基。
背部アーム接続式複合盾2基。
男の子──いや、男のロマンをこれでもかというほど過剰積載した≪メテオニス≫に心奪われない人間が居ようか? いや、居ない。断言できる。
「その熱っぽい視線を≪メテオニス≫に向けられることは悪くないが、デュエルを続けさせてもらう。私は≪メテオニス≫に装備魔法≪ブレイク・ドロー≫を装備。装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、デッキからカードを1枚ドローする」
「……っ、なるほど…! それなら全体攻撃と異常なほど相性が良い…!」
「普段から≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫でもやっているんだが、偶然にも≪メテオニス≫にもマッチしてな。そのまま継続して採用した」
日常のような会話をデュエルフィールドでする2人。
恭子は無事に儀式召喚を成し遂げ、ある程度緊張が緩み。
龍姫は≪メテオニス≫に感動して世間からのイメージをギリギリ守る範囲で。
最早エキシビションということを忘れているのではと思われかねないが、そこは限界オタク化しそうになってもプロデュエリスト。仕事はきちんとやる。
「さて──それでは、お待ちかねのバトルフェイズだッ!!」
「バトルフェイズに入った時、罠カード≪攻撃の無敵化≫を発動。2つある効果の内、私はこのターン戦闘ダメージを全て0にする効果を選択っ!」
「おっとワンショットは無理だったか」
「……当然」
バトルフェイズ移行と同時に龍姫はセットしていた≪攻撃の無敵化≫を発動。
このターンの戦闘ダメージを0にする効果を選択し、カウンターがなかったことに安堵する。
(……≪ズィーガー≫と≪メテオニス≫の組み合わせは殺意が高過ぎる…)
そう、心底安堵した。
全体攻撃効果持ちに2100もの攻撃力上昇を付与されては、いかに上級・最上級モンスター並の攻撃力を持ったドラゴン6体を並べても超過ダメージで終わってしまう。
別テーマでありながらサーチカードを共有でき、同じ機械龍(竜)と異常なほど相性が良すぎるため、龍姫としては『もしや最初から恭子が使うことを想定して開発したのでは?』と疑いたくもなる。
尤も、本当は研究者が涙と鼻水を垂らしながら恭子に泣きついただけなのだが。
「ふむ……ダメージこそは与えられないが、せめて5体のドラゴンには退場してもらおうか。バトルッ! 私は≪メテオニス≫で≪クィーンドラグーン≫、≪キングドラグーン≫、≪カオス・ルーラー≫、≪巨神竜フェルグラント≫、≪マテリアルドラゴン≫、≪サフィラ≫の順で攻撃ッ!!」
恭子の攻撃宣言と共にフィールドの≪メテオニス≫は真上に急上昇。
ドラゴンを模していながら翼がないが、薄青色に輝く粒子を噴かせながらスタジアム全体を見下ろせる位置へ。
≪メテオニス≫の眼前に複数の立体ウィンドウが表示。
それらには相手モンスターである龍姫のドラゴンの種類、ステータスが単調な英数字のみで表記され、ドラゴン達に重なるように長方形ターゲットサイトが起動する。
白枠で点滅しながら表示されているターゲットサイトは、ピピピという電子音を鳴らしながら龍姫のドラゴン6体に狙いを定めるべく照準を固定(ロックオン)。
同時に両肩部のレーダー兼エネルギータンクのラインに沿い、薄青色の粒子が肩部のレーザーキャノンと腕部の光波ブレードへエネルギーを供給。
背部アームから伸びる実体兼光波複合盾を自身の脚部へと移動し、中空における足場を固定。
立体ウィンドウ表示されていたターゲットサイトの枠が白色から赤色へと変わり攻撃可能であることを告げる。
「殲滅しろ≪メテオニス≫ッ!! ゴルド・ハンドレッド・ブライトネスッ!!」
恭子の攻撃宣言が発せられた瞬間、黄金の光が暴威となって龍姫のドラゴン達に降り注ぐ。
≪クィーンドラグーン≫と≪キングドラグーン≫、≪カオス・ルーラー≫はレーザーキャノンで撃ち貫かれ。
≪巨神竜フェルグラント≫と≪マテリアルドラゴン≫はブレードから発振された射出型ビームエッジで切り裂かれ。
しかもそれら全てが1度や2度の砲撃・斬撃ではなく、何十何百といった数──それこそ、星の数ほどの光の奔流が、流星群の如く龍姫のドラゴン達を襲う。
光が爆炎となり、爆炎が土煙を生み、破壊による轟音がスタジアム全体に響く。
歓声と轟音が混じる中、恭子は満足気な表情を浮かべながら土煙へ目を向ける。
濃霧の如く視界を遮っていた土煙は、屋外スタジアムに吹く風によって段々とその視界を開けさせていく。
「……攻撃もカッコ良かった…」
「ふっ、それは良かった」
そして完全に遮るものがなくなったところで、龍姫の姿をはっきりと捉えた恭子。
さらに本人はあれだけ爆撃地の中心にいたにも関わらず、不動のまま堂々と立っている。
それどころか呑気に≪メテオニス≫の攻撃を評する余裕まである上、次のターンでは反撃してやるとばかりに武者震いまでしているのだ。
流石は自分の好敵手、と恭子も龍姫に倣って余裕を持った笑みを返す──
(うわぁあああぁっ!! 何あの攻撃!? カッコ良いけど、超怖かったんだけどっ!? レーザーやビームの雨あられって何!? いきなり過ぎて足ガックガクなんだけど!? 私の足が生まれたての小鹿みたいプルップルしてるんだけどぉ!?)
──しかし、恭子のそんな好評価とは裏腹に、実際は単純にガクってプルっていただけである。
幸か不幸か観客達も『あの攻撃で微動だにしないとは……流石だ』と本人の知らぬ間に何故か上がる株。真相を知ったらきっと下がる。
「全体攻撃で≪サフィラ≫以外の5体を戦闘破壊で墓地に送ったので、≪ブレイク・ドロー≫の効果で5枚ドローさせてもらう。それと≪サフィラ≫にも攻撃はしていたが…」
「墓地の儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を除外して≪サフィラ≫の破壊を防いだ…」
「だろうな。ではこのまま≪ズィーガー≫の効果発動。自身の攻撃力を2100アップさせ、攻撃力4200となる。そして≪サフィラ≫に攻撃ッ!」
「墓地の儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を除外して≪サフィラ≫の破壊を防ぐ」
≪メテオニス≫の迫力ある攻撃の後、龍姫は恭子の攻めに淡々と対処。
≪カオス・ルーラー≫で墓地に送られていた≪祝祷の聖歌≫によって≪サフィラ≫を2度の破壊から守り自分のエースを無事守り切った。
あとは次の自分ターンで返せば──
「手札から速攻魔法≪
「なっ──っ」
「当然私は≪メテオニス≫の攻撃力を1000下げ、龍姫の≪サフィラ≫を破壊する!」
「──っ、墓地の≪祝祷の聖歌≫を除外して≪サフィラ≫を破壊から守る…!」
──そう思っていた矢先の単体除去カード出現に焦る龍姫。
幸いにも墓地にあった3枚目の≪祝祷の聖歌≫のお陰で破壊は免れたが、これで≪サフィラ≫を守る術を失った。
(墓地の≪祝祷の聖歌≫を全部持ってかれた…!)
正攻法──いや、強引過ぎる突破方法に龍姫は僅かに眉をひそめる。
普通の相手であれば2~3ターンは持つであろう破壊耐性を僅か1ターンで丸裸にされた上、恭子の≪メテオニス≫は弱体化しても攻撃力は未だ3000。
一転して追い詰められる立場になってしまったと、龍姫の頬に冷や汗が伝う。
「これで≪サフィラ≫を守るものはなくなったな。私はカードを2枚セットしてターンを終了したいが…」
「≪サフィラ≫の効果発動。このターン、恭子の手札から光属性モンスターが墓地に送られたので効果を発動。相手の手札1枚をランダムに捨てる効果を選択」
「むっ、ハンデスか珍しいな…」
そしてその冷や汗を拭う間もなく生存した≪サフィラ≫の効果を起動。
今回は≪復活の聖刻印≫や≪闇の増産工場≫といった相手ターンでも能動的に手札・デッキから光属性モンスターを墓地に送る手段がなかったため、≪サフィラ≫の効果起動を半ば諦めていたが、≪サフィラ≫の効果は自分だけでなく相手が光属性を墓地に送った場合でも効果を発動できる。
そのため幸運にも【ドライトロン】の初動の都合で手札から光属性が墓地に送られたため、≪サフィラ≫の効果を使用。今の恭子相手にはリリース素材となる【ドライトロン】を手札・場から枯渇させることが重要だと察し、相手の手札を削る効果を龍姫は選択した。
ふぅ、と軽く息を吐いてから龍姫は改めて恭子の状況を確認する。
恭子の場には≪星彩の竜輝巧≫の効果で攻撃力3000となった≪メテオニス≫と、攻撃力2100の≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫。
フィールド魔法に≪竜輝巧-ファフニール≫と、≪メテオニス≫に装備されている≪ブレイク・ドロー≫、セットカードが2枚。
手札は2枚で、ライフポイントは無傷の8000。
後攻としては充分過ぎる初手だろう。
また幸いにも攻撃力4000だった≪メテオニス≫が、≪星彩の竜輝巧≫のデメリットで攻撃力3000に下がっているため、戦闘破壊による対処もし易くなったことは大きい──と、思っていたところで龍姫は隣の≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫に視線を移す。
(…あれが居なければもっと楽に戦闘破壊できたんだけど……)
機械族で攻撃力3000あるということは、未だ≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫の強化対象の範囲内。
そうなると単純計算で攻撃力5100以上のモンスターか、先に≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫を戦闘以外の方法で除去してから、より攻撃力の高いモンスターで倒すしか手はない。
(うーん…恭子も厄介な布陣立てるなぁ……)
全プロデュエリストから『お前が言うな』という幻聴を聞きながら、龍姫は少しだけ眉間にシワを寄せる。
少しばかり厄介ではあるものの、カード効果は効くし、特殊召喚も封じられていない上、目に見える範囲でカウンターカードはないので、どちらにせよ動かないことには始まらない。
(とりあえず、ドローしてから考えよう)
今の手札でも返せないことはないが、もしかしたらドローカードによっては状況を一変できるカードが来る可能性もある。
デッキトップのドローカードと言う名の希望を信じ、龍姫はデッキトップに指を置く。
「私のターン、ドロー」
ドローしたカードは緑色。つまりは魔法カードだ。
だが、その魔法カードはデッキに1枚しか入れられない制限カード。
それをこの状況で引くことができた自分のドロー力に龍姫は内心で『やっぱり私はカードに選ばれてるッ』と自惚れ、自画自賛。
即座にそのドローカードをデュエルディスクに差し込み、ハッキリと通る声で高らかに宣言する。
「私は手札から魔法カード≪死者蘇生≫を発動ッ! お互いの墓地に居るモンスター1体を選択し、そのモンスターを自分場に特殊召喚する! 蘇れッ≪巨神竜フェルグラント≫ッ! そして墓地から蘇った≪巨神竜≫の効果発動! 相手の場・墓地のモンスター1体を選択して除外するッ!」
「ならその効果にチェーンして≪メテオニス≫の最後の効果を発動! 相手ターンに1度、自分の墓地から攻撃力の合計が2000または4000になるように墓地からモンスターを除外し、その合計2000につき1枚、相手の表側表示のカードを墓地に送るッ! 私は墓地の攻撃力2000の≪バンα≫と≪アルζ≫の2体を除外っ! 深淵に落ちろッ! ≪サフィラ≫!! ≪巨神竜≫!! ドラゴニック・メテオール!!」
「なっ──っ!?」
しかし、制限カードを引けたからと言って事がすんなり進むとは限らない。
折角の単体強化付与持ちを除去したかと思えば、その代償は最上級ドラゴン1体と、自身の分身にして守護神の喪失。
今まで滅多に除去されることのなかった≪サフィラ≫だが、≪サフィラ≫を失った時の龍姫は、とある状態になる。それは──
「な、なら墓地の闇属性≪キングドラグーン≫と光属性≪アセトドラゴン≫をゲームから除外し、手札から≪終焉龍 カオス・エンペラー≫を特殊召喚ッ!!」
「その特殊召喚に対してカウンター罠≪ドライトロン流星群≫を発動っ! その特殊召喚を無効にし、持ち主のデッキに戻す!!」
「あ、ちょ──じゃあ墓地の闇属性≪クィーンドラグーン≫と光属性≪ネフテドラゴン≫をゲームから除外し、墓地から≪カオス・ルーラー≫を特殊召喚ッ! この効果で特殊召喚したこの子は──」
「≪メテオニス≫の攻撃力をさらに1000ポイント下げ、速攻魔法≪星彩の竜輝巧≫を発動ッ! ≪カオス・ルーラー≫を破壊する!」
「──ゲームから除外される…されます……」
──瞬間的に異常なほどポンコツ化するのだ。
現に相手のセットカードを全て消費させ、通常召喚権も残っているというのに、その落ち込み具合は初期手札全てが通常モンスターだった時の如く絶望していた。
未だ4枚の手札があり通常召喚権があるにも関わらず、龍姫の瞳はどこか虚ろな状態。
一方の恭子は見事なまでに≪メテオニス≫と【ドライトロン】魔法・罠カードにより龍姫の逆転の一手をことごとく潰すことができ、ほっとその豊満な胸を撫で下ろす。
(ふぅ、それなりに手は潰せたか。新規の魔法・罠カードもこれでほぼ出すことができ、エキシビションデュエルの目的自体は果たしたが……折角の【
一息つき、警戒した眼差しを龍姫へ向ける恭子。
この状態になった龍姫を見るのは初めてではないが、最近は何が何でも≪サフィラ≫の生存に特化させていたため、久しい気持ちになる。
そしてふと、この後に何かあったような、と記憶の片隅から何かを思い出そうとし──
(むっ? そういえば龍姫は≪サフィラ≫が場から離れるとどうしようもなくダメになるが、その後に何かあったような──)
「……手札からフィールド魔法≪召魔装着≫を発動。1ターンに1度、手札1枚を捨ててデッキから【魔装戦士】1体を守備表示で特殊召喚する。私は手札を1枚捨て、デッキから≪魔装戦士ドラゴノックス≫を特殊召喚」
「……フィールド魔法≪ファフニール≫の効果発動。1ターンに1度、自分場に【ドライトロン】モンスターが存在する状態でモンスターが表側で召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスターのレベルを攻撃力1000につき1つ下げる。これで≪ドラゴノックス≫のレベルは3だ」
──途中で龍姫が動いたため、それに応じる。
未だ龍姫には通常召喚権が残っているため、逆転の一手に成り得る可能性は少しでも排除しようと動く。
龍姫のエクストラデッキにはランク4のドラゴン族エクシーズや、リンク2のドラゴン族もまだ眠っている。
ならばレベルを変動させて少しでも妨害幇助になればと、恭子はフィールド魔法の効果で対応するが。
「……っ、手札から速攻魔法≪銀龍の轟咆≫を発動! 墓地のドラゴン族・通常モンスター1体を復活させる! 蘇れ!≪ラブラドライドラゴン≫! さらに手札からレベル4の≪聖刻龍-ドラゴンゲイヴ≫を通常召喚ッ!!」
まるで妨害など意にも介さぬとばかりに龍姫は手札を全て使ってまでドラゴンを展開。
その目にはどこか怒りに燃えており、その矛先は自分──ではなく、背後に鎮座している≪メテオニス≫。
(あぁ、そういえば…)
そこで恭子はやっと思い出した。
龍姫は≪サフィラ≫が墓地に送られた時と、除外された時と、コントロール奪取された時と、手札に戻された時と、デッキに戻された時。
ひとしきり泣いて悲しんで落ち込んでから──
「私はァ!! ドラゴン族・レベル4の≪ドラゴンゲイヴ≫にドラゴン族・レベル6の≪ラブラドライドラゴン≫をチューニングゥ!! この世の全てを焼き尽くす煉獄の炎よ、紅蓮の竜となり劫火を吹き荒べぇ! シンクロ召喚ッ! 煌臨せよォッ! レベル10! ≪トライデント・ドラギオン≫ッ!!」
──怒りと憎悪と激昂を抱き、粉砕するだけのプレイングになるのだ
龍姫の場に彼女のフィニッシャーとして名高い3つ首の獄炎龍≪トライデント・ドラギオン≫の姿を見るなり、恭子は目を細めた。
元々の攻撃力であれば≪メテオニス≫に及ばない、攻撃力3000のシンクロモンスターではあるが、今の≪メテオニス≫は2ターンに渡って速攻魔法≪星彩の竜輝巧≫の効果で攻撃力2000まで下がっている。
この状況ならば戦闘破壊は容易であるし、何より──
「シンクロ召喚に成功した≪トライデント・ドラギオン≫の効果発動ォ!! 自分場のカードを2枚まで破壊ッ! 私は≪ドラゴノックス≫と≪星遺物の守護竜≫を破壊ッ!! これにより≪トライデント・ドラギオン≫はこのターン、3回の攻撃が可能となるッ!! さらにッ! フィールド魔法≪召魔装着≫の効果により、≪トライデント・ドラギオン≫の攻撃力は3300に上昇しているッ!!」
「……っ、いつ見ても本当にフィニッシャーに相応しい効果だな…!」
──このターンでの大ダメージが確定した。
「バトルッ!! 焼き払え≪トライデント・ドラギオン≫ッ!! トライデント・フレア! 第1射ァ!!」
「くっ…!」
紅蓮の獄炎龍が放つ熱線は真っ直ぐに≪メテオニス≫の巨体へ。
背部アームから盾を自身の前面へと構えると同時に内蔵されているビームシールドを展開。
少しでも持ち堪えようと業火の火線に耐えるが。
パリン、とガラスが割れる音が響き渡る。
同時に暴虐の火焔は≪メテオニス≫の胸部へと直撃。
盾ほどではないにしろ厚い装甲がその身を守ろうとするも保って数秒だけ。
即座に装甲は極度の熱量に耐え切れず融解。
熱線が矢のように≪メテオニス≫を貫き、膝をつく。
胸部には綺麗な円形の風穴が開けられ、複雑に構成された電子部品とケーブル類が覗く。
グオォ、と怪獣と電子音声が混ざったような断末魔を上げ、前面へと倒れ込む。
バチバチと破損した胸部からは火花が上がり。
轟音と共にその身が爆ぜる。
その爆発の規模は先の龍姫のドラゴン5体を一掃した時より大きく、最高レベルを持っていた儀式モンスターの最後に相応しいと錯覚させるほど。
爆発が生み出す爆風と、それによって巻き起こる土煙に恭子は身構え──
「トライデント・フレア──第2射ァッ!! 第3射ァッ!!」
「ぐぅ…!?」
──土煙の中から熱線が立て続けに恭子へと放たれる。
先の超過ダメージ1300に加え、3300の直接攻撃が2回。
合計7900ものダメージを3度の攻撃で受けた恭子は、その熱量と衝撃に真正面から受けつつ、かろうじて踏ん張る。
しかし、実体化された猛火がデュエリストに与える影響は大きく、全身の至るところに爆風で飛んだ破片による擦り傷・切り傷は決して少なくない。
デュエルフィールドに立つ前にコーディネーターによって整えられた銀髪も轟風の影響でボロボロ。
とても先のターンで優勢に進めていた側とは思えない恰好だ。
「……ターン、エンド…」
そんな恭子を見ても、龍姫はまばたき1つせず、ただ冷淡に終了宣言。
観客の大半は華麗な逆転劇により一層の声援を送るが、一部は『やり過ぎではないか?』と心配する者もちらほら。
今にも倒れてしまいそうな恭子の身を案じるも──
「ハァ…ハァ……私のっ、ターンっ…!」
藤島恭子は諦めない。
例え切り札を失おうと。
例え残りライフポイントが100しかなかろうと。
例え自分の場にモンスターが存在しなくとも。
デュエリストならば、手札(可能性)がある限り闘い続けるのだ。
「私はっ、魔法カード≪
今の恭子の手札は3枚。
その内1枚は先程回収した≪ラスβ≫。
場にはフィールド魔法があるが、現状ではただの置物。
ライフポイントは一切の超過ダメージも許されない100。
対して龍姫の場にはレベル10の大型シンクロドラゴン≪トライデント・ドラギオン≫。
フィールド魔法≪召魔装着≫の効果によりその攻撃力は3300まで上昇しており、現状のままでもデュエルモンスターズでは一種の基準とされている攻撃力3000でも僅かに届かない。
しかし、魔法・罠カードは他に存在せず、手札も0枚。
この局面さえ乗り切れば充分に逆転の目はあると信じたい──が、龍姫のライフポイントは未だ無傷の8000のまま。
≪トライデント・ドラギオン≫を倒せたとしても、1~2回の直接攻撃程度であれば充分に耐えられるライフポイント。
その間、極端な例だが最弱の効果ダメージカードである≪火の粉≫ですら引いた時点で龍姫の勝利は確定する。
この局面をどう乗り切るのかと観客はもちろん、今回のエキシビションに参加したデュエリスト全員が恭子の一挙一動に注目していた。
「私はっ、手札の≪ラスβ≫をリリースして、墓地から≪エルγ≫を自身の効果で、特殊、召喚…! そして、その効果で、墓地から≪ラスβ≫を特殊召喚、する…!」
息も絶え絶えな状況で恭子は懸命にプレイングを続ける。
彼女の手札にまだ可能性が残っている。
「墓地の儀式魔法≪流星輝巧群≫の効果っ、場の【ドライトロン】の攻撃力を1000、下げることで…! 墓地から手札に加える…! 私は≪ラスβ≫の攻撃力を1000下げ、墓地から手札に加える…! そして墓地の≪ルタδ≫の効果で、≪ラスβ≫をリリースし、自身を特殊召喚…! 儀式魔法を公開して1枚ドローっ!」
場にはリリース素材。
手札には儀式魔法。
着々と再度の儀式召喚の準備は整い、そして。
「私は儀式魔法≪流星輝巧群≫を発動…! 場の≪エルγ≫と≪ルタδ≫をリリースッ! 墓地より蘇れ…! ≪メテオニス≫ゥッ!!」
再び恭子の背後に立つ≪メテオニス≫。
前のターンで弱体化していた時とは違い、攻撃力4000の元々の状態。
比較的あっさりと再臨した≪メテオニス≫に龍姫は僅かに顔を歪めるも、場の状況を見てすぐに微笑に変わる。
今の恭子の場に他のモンスターは存在せず、追撃は現時点で皆無。
例え≪メテオニス≫が≪トライデント・ドラギオン≫を倒したとしても、そのダメージはたかが700だ。
しかも前のターンで恭子は儀式モンスターと儀式魔法をサーチする≪バンα≫と≪アルζ≫を除外している。
余程手札が揃っていなければ2体目の≪メテオニス≫が現れることもない。
次の自分ターンで効果ダメージ、もしくは直接攻撃できるドラゴンを呼び出すことさえ出来れば勝ちだ──
「手札を1枚捨て、装備魔法≪D・D・R≫を発動ォ! 除外されている自分モンスター1体にこのカード装備し、特殊召喚する! 戻って来いッ! ≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫ァ!!」
「──っ、ここで、≪ズィーガー≫…!」
──しかし、そう思惑通りにいかないのがデュエルだ。
恭子は残っていた手札3枚の内2枚を使って≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫を帰還。
これで最低限このターンは≪メテオニス≫と≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫の攻撃によりライフポイントは大きく削られる。
だがそれでも次のターンで逆転のカードを引ければ問題ないと、龍姫の表情に再び焦りが色濃く出た。
「──バトルッ! 私は、≪ズィーガー≫の効果を発動…! 自身の攻撃力を2100アップさせ、4200にっ! そして、≪ズィーガー≫で≪トライデント・ドラギオン≫を攻撃…! レヴォリューション・ヴィクトリー・バーストォ!」
「ぐっ…!」
≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫が放つ光線は真っ直ぐに≪トライデント・ドラギオン≫へと直撃。
しかし効果を使用した≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫のデメリットによりお互いに一切の戦闘ダメージは発生しない。
尤も──
「これで……お前を守るものはなくなったな…!」
「くっ…!」
──直接攻撃できる状況に変わっただけなのだが。
「≪メテオニス≫ッ!! 龍姫に
(大丈夫…! 4000のダイレクトを受けてもまだライフは半分残っているッ! 他のモンスターも追撃もないし、恭子には他に手札が1枚あるだけ──ん? 手札が1枚…)
≪メテオニス≫がレーザーキャノンにエネルギーをチャージしている間、ふと龍姫は何か恐ろしい──いや、おぞましいことを忘れていないかと自分に問う。
恭子の元々のデッキは【サイバー】。
融合を主体としつつ、エクシーズ・リンク等で補助を行いつつ、機械族特有の絶対の一撃で勝負を決めるデッキだ。
──その瞬間、龍姫は気付いた。
気づいてしまった。
機械族を相手にデュエルした時、最も警戒しなければならない、あのカードがまだ出ていないことに。
「この瞬間、手札から速攻魔法≪リミッター解除≫を発動ォ!! 自分場の表側表示の機械族の攻撃力を、倍にするッ!!」
そして示し合わせたかのように最後に残っていた手札を恭子はデュエルディスクに叩きつける。
≪リミッター解除≫。
機械族の攻撃力を倍にするという単純明快にして強力無比なカード。
下級モンスターでさえ上級・最上級モンスターを容易に上回る攻撃力を得るそのカードを、機械族の最上級モンスターに使えばどうなるか──結果は火を見るより明らか。
立体ウィンドウに表示されていた≪メテオニス≫の4000という攻撃力がバグのように急上昇。
5000、6000を瞬時に超え、倍の8000で固定。
龍姫の残ライフポイントは8000。
≪メテオニス≫の攻撃力も8000。
この瞬間、ワンショットキル、そしてジャストキルが確定した。
「行けぇえええぇ≪メテオニス≫ッ!! ゴルド・ハンドレッド・ブライトネスッ!!」
恭子の叫びと共に≪メテオニス≫の双砲から光が放たれる。
上空に向けて撃たれた黄金色のレーザーは柱のように伸びていき──途中で爆散。
幾重もの細い光線となり、それらが雨のように──否、嵐の如く──否。
降り注ぐ光は、その名の示す’’流星群’’。
無数の光がデュエルフィールドに降り注ぎ、立体ウィンドウに表示されていた龍姫のライフポイントが0を告げた──
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「加減しろ莫迦共」
「すまない先生」
「ごめんなさい」
10分後、恭子と龍姫は2人揃って仲良くスタジアム内の医務室のベッドに居た。
全身に擦り傷切り傷はおろか、実体化の際の力加減が効かなかったのか、2人共痕が残らない程度の火傷まで負う始末。
また、2人の熱闘によりデュエルフィールドは半壊。復旧には少なくない日数を要する。
最終デュエルだったため進行上は問題なく終わったが、仮にこれが初戦だった場合はエキシビションというイベント自体がご破算になっていた可能性もあったのだ。
そんな2人にお灸を据える立場として、来賓席で観戦していた古賀と藍子がわざわざデュエル終了後にこうして医務室まで足を運ぶことになってしまった。
「別に手加減しろとか全力を出すな言っている訳ではない。ただ私達デュエリストが本気でデュエルすれば、どのような事態を巻き起こすかは養成所時代に叩き込んだと思っていた私の勘違いだったか? それにお前らは曲がりなりにも
「先生、その辺にしてあげましょう。龍姫ちゃんも恭子ちゃんも反省していますし、あまり拘束しては──」
「ダメだ。むしろこうしてベッドで横たわっているこの時が良い機会だ。こいつらは養成所時代から許容できたハズの範囲をさも当然のように超えてきて、昔から性質が悪くてだな──」
ガミガミと養成所時代を彷彿とさせる古賀の説教。
そしてそれを宥める藍子という、昔よく見た光景に恭子と龍姫は共に苦笑を浮かべる。
示し合わせた訳でもなく、2人は同じタイミングで互いの顔に視線を移し──
「龍姫、今度は大会でだな」
「望むところ」
──共に笑みを浮かべ──
「──お前ら…まだ話は終わっていないぞ…っ!」
「「ごめんなさい」」
──最後は仲良く泣いた。
2020年7月26日時点で判明しているドライトロンカードを全部出せて満足。
リリースするモンスターさえ手札か場に居たら毎ターンアド稼ぐのは控え目に言って頭おかし、素晴らしいカードだと思います。えぇ。