遊戯王 プロフェッショナル・オーディナリー   作:紅緋

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ドライトロンもう1本書きたいけど相手誰にしようと呟く

懇意にさせて頂いてる方から(無言の○○○推し)

了解っ、トランザムっ!!(今ここ)


ドライトロンVS霊使い(前半)

「はぁ…」

 

 走行するタクシーの車内で恭子はため息を零す。

 これからとあるイベントでの仕事なのだが、その内容があまり気乗りするものではなかったことから来るため息だ。

 普段の大会やリーグ戦、新規カードのデモンストレーションといった仕事であれば嬉々として請け負う彼女だが、今回ばかりは毛色が違い過ぎるため気が進まない。

 

「どうして」

 

 と言うのも、今回の仕事は前回のエキシビションデュエルでやらかしたツケのようなものなのだ。

 尊敬する先人にして師である古賀時雨から説教と共に任された(押し付けられた)仕事のため断ることもできない。

 

「どうして私なんだ」

 

 私ではなく別のデュエリストでも良いのではないかと少しばかり抗議はしたが、『淡々とデュエルする老人と、デュエルの時だけ世紀末になる問題児よりお前がマシだ』と言われてしまえば恭子は閉口するのみ。

 確かに今回のようなイベントに師である古賀の詰め将棋のようなデュエルや、後輩である和戸の世紀末染みたヒャッハーなデュエルは似合わないことは理解できる。

 

「どうして──」

 

 だが、それでも自分がこの仕事を受けることに未だ納得ができない。

 まだバラエティ番組の参加やモデルとしての仕事の方がマシだ。

 不満たらたらな恭子はタクシーの車内で顔を覆って嘆く。

 

「──どうして、私がアイドルなんだ…!」

 

 ──事の発端は1週間前に遡る。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

「儀式のサポートなら≪儀式の準備≫と≪儀式の下準備≫がオススメ。前者はレベル7以下の儀式モンスターのサーチと墓地の儀式魔法を回収する効果、後者はデッキから儀式魔法を選び、そのカードに記された儀式モンスターをデッキ・墓地から手札に加える効果がある」

「むっ、≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫はレベル12だから前者には対応しないし、≪流星輝巧群≫は儀式モンスター名が記されていないから後者にも対応しないな」

「なら≪高等儀式術≫でデッキの通常モンスターを墓地に送って消費を抑え、デッキ圧縮と墓地肥やしを両立。あとはライフコストがあるけど装備魔法の≪契約の履行≫は正規召喚した儀式モンスターを墓地から蘇生させる効果がある」

「≪メテオニス≫は儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下でなければ全体攻撃が使えないし、蘇生カードなら除外にも対応している≪マグネット・リバース≫があるな」

「じゃあ≪儀式の檻≫で効果モンスターの効果の対象にならず、効果モンスターの効果で破壊されない耐性を付与すれば」

「≪メテオニス≫は元から効果モンスターの効果の対象にならない効果があるな」

「……恭子、≪メテオニス≫の開発陣、儀式業界に喧嘩売ってない?」

「知らんな。そんなことは私の管轄外だ」

 

 エキシビションデュエルの翌日。

 市内の病院にある2人部屋の病室で、ベッドで横になりながら恭子と龍姫はガールズトーク(儀式関連相談)をしていた。

 昨夜の怪我で大事なことになっていないことは確かだが、2人とも自分達よりも上の立場である古賀と藍子の好意(命令)で1~2日の簡易入院という形で療養。

 本来であれば個室にすべきだが、2人の希望で2人部屋になっていた。

 理由は状況からわかるようにガールズトーク(儀式関連相談)

 恭子が儀式モンスターを扱えるようになったとは言え、そこはまだ使い始めてから1週間足らず。

 機械族に今まで儀式モンスターが存在せず、恭子の同僚のほとんどが儀式に関する知識がなかったため、こうして儀式に精通している龍姫に助言を願った形だ。

 しかし──

 

「既存の儀式サポートのどれとも噛み合わないなんてある意味奇跡。ちょっと〈機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)〉は〈リチューアル〉に謝った方が良いと思う」

「ウチの開発陣が意固地になって他社の協力を仰がなかった結果がコレだからな……その点は謝るべきだろう。すまない」

「私に謝るんじゃなくて〈リチューアル〉。あと恭子が謝るんじゃなくて〈機械仕掛けの神〉の開発陣」

 

 ──知れば知るほど恭子の使用した儀式モンスター・儀式魔法が既存の儀式サポートと全く噛み合わない。

 レベルが高いため≪儀式の準備≫には非対応。

 儀式モンスター名を記してないため≪儀式の下準備≫にも非対応。

 ≪高等儀式術≫を用いての儀式召喚では全体攻撃効果が使えず。

 ≪契約の履行≫を使うぐらいなら種族蘇生の≪マグネット・リバース≫がある。

 トドメとばかりに≪儀式の檻≫の耐性付与も半分被っている始末。

 〈機械仕掛けの神〉は従来の儀式サポートは眼中になく、他の儀式モンスターとの併用を微塵も考えていないのではないかと言われて反論できない恭子。

 

「確かに他の儀式サポートを使えないことは痛いが、【ドライトロン】にも良いところは沢山あるんだぞ龍姫」

「例えば?」

「先ず墓地から儀式召喚できる。これは唯一無二と言っても良いのではないか?」

「〈竜宮(ウチ)〉で≪オッドアイズ・アドベント≫も墓地から儀式召喚できるし、〈ルルイエ〉の【影霊衣】も墓地から儀式召喚できるから3例目」

「ぐっ、ならばレベルではなく攻撃力参照の儀式召喚っ! これは流石にないだろう!」

「確かにない。そこは斬新かつ革新的であり汎用儀式魔法だから革命だと思う──けど、従来のレベル参照儀式が浸透しているから私含め他の儀式使いはすぐに使わない」

「えぇいっならば攻撃力4000っ! これは儀式モンスター最大と言っても過言では──あっ」

「…攻撃力4000なら藍子さんの儀式モンスターが先人。しかも耐性だけならあの人の儀式モンスターの方が≪メテオニス≫よりも上。恭子も何回かやられている」

「ぐっ、くっ──うぅ…っ」

 

 自信満々に【ドライトロン】のメリットを挙げていく恭子だったが、龍姫の容赦ない返答が無慈悲に切り捨てる。

 墓地からの儀式召喚には前例があり、攻撃力参照は既存儀式テーマにはすぐに使われず、高いステータスも同攻撃力・上位互換耐性が居る現状。

 自信に満ちていた恭子の顔は龍姫がばっさばっさと切り捨てる度に曇ってゆき、最終的には目尻に雫が溜まっているではないか。

 いくら何でも言い過ぎたか、と龍姫は少し反省しコホンと小さく咳払い。

 そして慰めるような、優しい声色(と本人は思い込んでいる)で恭子に語りかける。

 

「大丈夫恭子、≪メテオニス≫には今までの儀式モンスターにはない、唯一と言って良い利点がある」

「ぐすっ……本当か?」

「本当。私はデュエルモンスターズのことに関して嘘は言わない」

「な、なら≪メテオニス≫の利点は何なんだ?」

「超カッコいい」

「……ん?」

 

 しかし、それは慰めと言うよりは龍姫自身の感想。

 言われた恭子の方も『わかるような、わからないような、いや確かにカッコいいが…』と龍姫への返しに困っている中、龍姫は再度咳払いをしてから恭子に顔を向ける。

 

「先ず何と言ってもあのデザインのカッコ良さは既存の儀式モンスターの中でも洗練された至高の姿。機械族であることが残念だけど、西洋の竜を模しておきながら翼がないという大胆な発想には感服した。両肩の分度器に何の意味があるのかわからないけどアーティファクト的で私は良いと思う。それにキャノンにはロマンがあるし、両手のブレードもロマン、さらにはアーム式のシールドのロマンという、ロマンの欲張りセットがあるのはズルい。ロマンチストめ。私の≪真竜剣士マスターP≫でさえ剣と盾なのにズルい。羨ましい妬ましい素晴らしい。またモチーフとテーマカードのネーミングが最の高。りゅう座とその恒星の名前から取っているのはエモいし、流星に竜と星をかけているのとかすっごい尊い。今からでも遅くないからサポートカードも含めて種族を全部ドラゴン族にしよう。私が愛でる。あと何と言ってもあの攻撃方法。全体攻撃に流星群を重ねさせるとは盲点だった。アレはヤバい。直接対峙した私だからわかる。食らうとヤバいけどそれ以上に(ふつく)しさで我を忘れてしまった。ヤバい。あと相手ターンの非破壊による除去が強い」

「待て待て待てっ! 私に言葉の流星群を浴びせるなっ! それに私の≪メテオニス≫をドラゴン族に誘拐しようとするんじゃあないっ!」

 

 まるで先攻1ターン目に大量展開する時のような言葉を連ねる龍姫に声を荒げる恭子。

 褒めているところはある程度理解できるが、途中で龍姫自身の本音と欲望がダダ漏れで察した。

 

「待って恭子。【ドライトロン】はドラゴンとライトの混成──つまりドラゴン。であれば私のカードと言っても過言ではないのでは?」

「寝言は寝て言えっ! 全くっ龍姫はどうしてこうデュエル以外でドラゴンが絡むとこんなに饒舌になるんだ…」

「照れる」

「褒めてないっ!」

 

 入院する意味が皆無であったと言うような会話。

 片やランク9位の竜姫。

 片やランク2位の女帝。

 世間一般的に前者はクールでミステリアスなドラゴン使い、後者は正々堂々王道の機械竜使いとして周知されているため、この2人の素の姿を見れば卒倒ものだろう。

 

「お前ら──病院では静かにしろ…」

「ごめんなさい」

「すいません先生」

 

 それ故、今しがたお見舞いで病室に来た初老の男性、古賀も慣れたと言うか、呆れたような声と共に入室。

 研修生時代に多大な迷惑と世話をかけまくった2人としては、恩師の言葉を無視することはできず素直に借りてきた猫のように大人しくなる。

 なお、廊下まで2人の漫才が聞こえていたため古賀はノーノックで入ってきた。

 

「はぁ……昨日あれだけ激しいデュエルをしたと言うのに元気そうで安心──いや、呆れるな」

「照れる」

「デュエリストは体が資本ですからね、先生」

「褒めてないぞ」

 

 ため息と共に古賀は持参した果物セットをテーブルに。

 そして慣れた手つきでリンゴを手に取り、果物ナイフで器用に切り分け、皮を剥けば愛らしいウサギの形にカットしたリンゴの完成。

 それらをやはり慣れた手つきで紙皿に取り分けてから2人に無言で差し出す。

 

「ありがとう先生」

「ご迷惑をおかけします」

「構わん。慣れている」

 

 恩師の感謝の言葉を述べ、2人は揃って『いただきます』と口にしてからリンゴに手を伸ばした。

 研修生時代の恭子と龍姫はカードの実体化が不得手だったため、デュエル後によく怪我をしては古賀の世話になっていたなぁと2人は懐かしさを感じつつリンゴを口へ。

 シャクシャクと心地よい歯ごたえと甘味が強いリンゴを堪能しているところに、古賀は恭子の方へと顔を向ける。

 

「あぁそういえば藤島。お前の来週のスケジュールのことなんだがな」

「もぐむぐ──んんっ! はい、来週は来季のリーグ戦に備え、山籠もりを予定しています。マネージャーには3ヶ月前には伝えています」

 

 咀嚼していたリンゴを飲み込み、口の端に真っ赤なリンゴの皮を付けながら恭子はキリっと真剣な表情で古賀に答える。

 まだ来季リーグ戦まで日数にはかなり余裕はあるが、元々のデッキはもちろんのこと、新たに手に入れた【ドライトロン】をより洗練させた形にしたいと思っての自主トレーニング。

 生真面目な性格故に準備にも万全を。

 実に恭子らしい実直な答えだった。

 その横で龍姫はへぇーと感心しながらむしゃむしゃしていた。

 

「悪いが山籠もりは却下だ。そこに新しく仕事を入れた」

何故(なにゆえ)っ!? いくら先生とは言えそのような職権乱用が許されるとでも!?」

 

 古賀の言葉に憤る恭子。

 リンゴが乗っていたテーブルをダァンッ! と叩き、ウサギの形にカットされたリンゴが宙に舞う。

 それを隣の龍姫が(自分の皿へ)綺麗にキャッチ。

 〈機械仕掛けの神〉は大変だなぁと龍姫は完全に他人事のように3つ目のリンゴへ手を伸ばす。

 

「スタジアム……お前らのデュエルで復旧には1ヶ月はかかるそうだ」

「ぐっ…! そっ、それはスタジアムの耐久度が低かったのでしょう。よ、良かったではないですか。私達のデュエルのお陰で改善点が見つかって」

 

 多少なりの負い目はあるが自分は悪くないスタンスを取る恭子。

 エキシビションデュエルのイベント自体はつつがなく終わったが、何せあのスタジアムではデュエル以外にもコンサートやライブ、スポーツの試合でも使われているので、後のスケジュールが滅茶苦茶になったことは言うまでもない。

 恭子はさも自信あり気にそう返したものの、声色はどこか震えている。

 隣の龍姫は恭子から救出(強奪)したリンゴを黙々と咀嚼していた。

 

「まぁそこは微々たるものだが功績と言えなくもない。だがな、お前たちの所為でデュエル業界だけでなく他の業界にも迷惑を被ったことは確かだ」

「それはっ! それは…そうかもしれませんが……」

 

 再度恭子が反論しようとするも事実を言われてしまってはシュンとなってしまう。

 古賀の口調にしても別段声に怒気が混じっている訳でも、失望の声色という訳でもない。

 それどころか、どこか喜悦染みたそれだ。

 龍姫は我関せずとばかりに黙々と2人分のリンゴを完食。

 

「そこでだ。藤島、お前には来週あのスタジアムで予定されていたイベントに出てもらう。拒否権はない」

「ぅぐっ…! い、いいでしょうっ! 私とて正統なサイバー流の後継者にして、現代の〈機械仕掛けの神〉のトップデュエリストっ!! 例えどんな仕事であろうと、確実にこなしてみせましょう!」

「おー、さすが恭子」

 

 恭子の力強い返答に古賀はニヤリと口角を上げる。

やや強引ではあるが、これで何とか恭子にスタジアム損害の尻拭いの半分(・・)を負わせることはできた。

 残りの半分(龍姫)についてはデュエルモンスターズ協会、もしくは藍子か(くろがね)から命令が下されるのだが、そんなことを露も知らない龍姫は呑気に恭子の豪胆発言にパチパチと拍手を送っている。

 その拍手でチョロくも心浮かれている恭子はふふんっとその豊満な胸を揺らし、勝負が始まってすらいないのに勝ち誇った表情で古賀に問いかけた。

 

「それで先生、私は何の仕事をすれば良いのでしょうか?」

 

 別段、おかしくもない一言。

 プロデュエリストは公認大会以外にもモデルやらCM出演、企業のデモンストレーションやメディア出演など、仕事も多岐に渡る。

 おそらくその中のどれかなのだろうと、恭子は何気なく聞いたのだ。

 ただ、それだけだが──

 

「アイドルだ」

 

 ──恩師からの返答は5文字。

 

(あいどる…? あ・いどる? あい・どる? あいど・る? ……アイドルっ!?)

 

 脳が理解を拒んだのか、恭子は古賀の言葉を反芻(はんすう)するも、やはり理解が追い付かない。

 アイドル?

 誰が?

 私が?

 プロデュエリストが?

 今季をランク2位で収めた私が?

 極東エリアで2番目に強い私が?

 あの歌って踊ってキャハ☆と千葉県辺りのミミミン電波を受信して、山形県産の甘くておいしいリンゴをもりもりいっぱい食べて、闇に飲まれて、にょわー☆って、頑張って、蒼くて、三ツ星で、あのアイドルに? 一体古賀は72(なに)を言っているんだと、恭子はアイドルのイメージやら恩師の真顔アイドル発言により頭の中に混沌(カオス)を形成する。

 

「恭子」

 

 そんな中、まるで混乱という名の闇の中に差す光明の如く、龍姫がそっと優しく恭子の肩に手を置く。

 あぁ、理解が追い付かない私を励ましてくれるのか。

 流石は我が親友にして好敵手だなと恭子が感謝の言葉を伝えようとし──

 

「頑張れ24歳アイドル」

「お前も同い年だっ!!」

 

 ──怒声を病室に轟かせた。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

「はいっ、みんな。こちらが今日のイベントで共演して頂く藤島恭子さんです。しっかり挨拶してね」

「今日はお願いします」

「よろしくなっ!」

「ちょっとひーちゃんっ。いきなり失礼だよっ」

「……よろしく…」

「こっ、こちらこそよろしくお願いする…」

 

 生気のない眼差しのまま連れられ、到着したのは楽屋。

 しかしそこで荷物を置いてすぐに今回のイベントの主役──4人組のアイドルグループ〈エレメンツ〉の楽屋へと直行させられた恭子。

 お互いのマネージャーが朗らかな笑みで話している様子とは対照的に、恭子はアイドル4人の少女たちの個性に圧倒されていた。

 

「ご存知かもしれませんが、改めて自己紹介させて頂きますね。私はチカ。一応このグループのリーダー──という名のお世話係をしています」

「あっ、あぁ…よろしく頼む」

 

 1人目。

 眼鏡をかけた栗毛の少女、チカはちょっとしたユーモアを混ぜつつ常識的な挨拶と共に握手。

 この子は普通そうだと恭子は幾ばくかの安心感を覚える。

 

「アタシはヒヨリっ! よろしく頼むぜランク2位さんっ!!」

「よ、よろしくたの──あっ、ちょ、痛い。手が痛い」

 

 2人目。

 やたら服装の露出が激しいが、それ以上に言葉遣いからボーイッシュな雰囲気を感じさせる少女、ヒヨリは恭子の手を両手で掴みながら上下に激しくブンブン振りながら笑顔も振りまく。

 この子のアグレッシブは知人の妹を想起させるな、と恭子は元気の良さとワンパクさに困惑する。

 

「ひーちゃん抑えて抑えてっ! ごめんなさいウチのひーちゃんが……えと、わたしはフウコって言います。今日はお願いしますね」

「も、問題ない…私こそ今日はよろしく頼む」

 

 3人目。

 ペコリとしたお辞儀で腰まで届きなそうな若草色のポニーテールを揺らしつつ、どこか快活そうな印象の少女、フウコは朗らかな笑みを恭子に見せる。

 おそらくこの子も常識人枠だな、と恭子は2度目の安心感を覚えた。

 

「……エリ。よろしく」

「よ、よろしく……」

 

 4人目。

 膝まで届くのではないかと思うほどの藍色の長髪を靡かせ、龍姫のような無表情に見えなくもない少女、エリは必要最低限の挨拶で済ませる。

 この子は大人しそう──いや、実は猫を被っていてその本質は龍姫枠なのでは、無礼で無駄な警戒心を抱く恭子。

 

 恭子自身、アイドルには疎いがこの4人組アイドルグループ〈エレメンツ〉については少しだけわかっていた。

 昨年、超新星の如く突如現れたアイドルグループであり、そのルックスと4人の個性が爆発的な人気を誇っている。

 まとめ役でメンバーの姉であり母でもあるチカ。

 最もアクティブ&アグレッシブなヒヨリ。

 メンバーの潤滑油兼清涼剤のフウコ。

 無気力系でメンバーの末妹のようなエリ。

 一見バラバラな性格に見えつつも、仕事もプライベートも仲が良い彼女らの姿は愛らしいと専らの評判だ。

 等身大の女の子達が一生懸命になって歌い、踊り、和気藹々としている様子を見るだけでファンは感涙もの。

 

 そういった彼女達と一緒に仕事をすることになった恭子としては、自分とは別ベクトルで有名なグループとの共演することは少なからず緊張する。

 しかし──

 

「今日は私達のライブはもちろん、その後のイベントもお願いしますね」

「まさかアタシらのイベントで最上位(トップランカー)のデュエリストが来てくれるなんてなぁ! こりゃ今日のイベント期待してるぜ!」

「う、うむ…君達の邪魔にならないように尽力しよう」

 

 ──今回のイベントの半分に関しては自信がある。

 

 今回のイベントの前半では恭子自身が彼女ら〈エレメンツ〉と共に歌って踊るライブ。

 イベントの後半では恭子が〈エレメンツ〉とデュエルするデュエル体験会。

 

 流石に極東エリアランキング2位の恭子と本気のデュエルをする訳ではないが、一般人向けの新規カードパック、及び新規ストラクチャーデッキ販売のプロモーションを兼ねたイベント内容となっている。

 知名度で言えばトップクラスのアイドルとデュエリストが宣伝するのだからその影響力は大きい。

 それを見越した補填的な意味での共演なのだ。

 

「それじゃあ本番前の最終確認したいんですけど良いですか? あっ、ほらエリちゃんもぼーっとしてないで起きて起きて」

「……寝てない…まだ……」

(それにしても本当に個性豊かだな…)

 

 自身の所属する企業はもちろん、親友(龍姫)後輩(和戸)に勝るとも劣らない個性の強さに恭子は感心さえ覚える。

 この個性の強さは、案外デュエリストとしての才能にも繋がるのではとも変に勘繰ってしまう。

 

(流石にアイドルがデュエリストとして活躍するのは無理があるか)

 

 しかし即座にこの考えを否定。

 いくら何でも天が二物を与えることはないだろう。

 恭子はそう思っていた。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 ライブ自体は途中恭子自身が派手に転倒しかけたものの、そこはデュエリスト特有の身体能力で強引に3連続後方宙返りで誤魔化し一応は無事に終了した。

 その後は恭子本来の役目、そしてメンバーの中で最もノリ気だったヒヨリがデュエルするだけ。

 ここからは自分の独壇場だと思っていた──

 

「場の永続罠≪ブレイズ・キャノン・マガジン≫の効果発動! 手札から≪ヴォルカニック・バックショット≫を墓地に送り、1枚ドローっ! そして≪バックショット≫が墓地に送られたことで500ポイントのダメージだっ! さらにっ! ≪バックショット≫が【ブレイズ・キャノン】カードの効果で墓地に送られた場合、手札・デッキから同名カード2枚墓地に送ることで相手モンスターを全滅させる! デッキから2体の≪バックショット≫を墓地に送って、モンスター全滅と追加の1000ダメージだぜっ!」

「くっ、≪メテオニス≫…!」

 

 ──しかし恭子の予想を裏切る光景がそこには広がっていた。

 自分の場はカード効果で焼け払われ。

 自分のライフすら効果で焼かれ続け。

 気が付けば相手のヒヨリとはボード、ハンド、ライフポイント全てのアドバンテージに差を付けられていた。

 

「手札から≪ヴォルカニック・エッジ≫を召喚! 1ターンに1度、このカードの攻撃を放棄して相手に500ダメージ! さらに魔法カード≪二重召喚≫を発動! このターンもう1度通常召喚できる! アタシは≪エッジ≫をリリースし、≪炎帝テスタロス≫をアドバンス召喚! コイツがアドバンス召喚に成功した時、相手の手札をランダムに1枚墓地に捨て、それがモンスターカードならレベル×100のダメージを与える!」

「──っ、手札のカードは2体目の≪メテオニス≫だ…! レベル12のモンスターカードのため、私は1200のダメージを受ける…!」

「おっ、ラッキー! それじゃあこのままフィニッシュだっ! 場の≪ブレイズ・キャノン・マガジン≫は魔法・罠カードゾーンで表側の時に≪ブレイズ・キャノン・トライデント≫のカード名となっている! こいつを墓地に送り、手札から≪ヴォルカニック・デビル≫を特殊召喚! こいつは場の≪ブレイズ・キャノン・トライデント≫を墓地に送ることで手札から特殊召喚できる!」

「一気に攻めてきたか…!」

 

 相手の場には攻撃力3000を誇る≪ヴォルカニック・デビル≫と攻撃力2400の≪炎帝テスタロス≫の2体。

 魔法・罠ゾーンには永続罠の≪ファイヤー・ウォール≫。

 手札は全て使い切って0枚だが、ライフポイント6500。

 

 対して恭子の場にモンスターは存在せず、魔法・罠カードはフィールド魔法の≪竜輝巧-ファフニール≫のみ。

 手札は2枚しかなく、それも現状では使う機会のない死に札。

 ライフポイントに至っては度重なる効果ダメージによる火力(バーン)で3800。

 

 2体のモンスターの合計攻撃力は5400のため、2体の直接攻撃が通った時点で終了。

 よもや一介のアイドルがプロ──それも国内2位の自分をここまで追い詰めるとは思いもしなかった恭子。

 

「バトル! アタシは≪ヴォルカニック・デビル≫で藤島さんに直接──」

「私は墓地の≪超電磁タートル≫のモンスター効果発動! 墓地の自身を除外し、バトルフェイズを終了させる!」

「──っと、そう簡単にゃいかないか。いいぜ、アタシはこれでターンエンドだ」

 

 しかしだからと言って負けて良い理由にはならない。

 予めコストで墓地に送っていた≪超電磁タートル≫の効果で攻撃を回避。

 フィニッシュ失敗となったことで観客席に居る〈エレメンツ〉のファンからブーイングが発せられるが、恭子はそれに気を取られるほど柔ではない。

 

(まさかアイドルにここまで追い詰められるとは……最近【ドライトロン】に浮かれすぎていたか…)

 

 状況は圧倒的に自分が不利だが、まだ逆転の芽は残っている。

 ピンポイントで理想のカードが来ればこの状況は一変できる可能性がある、と一旦深く深呼吸し、デッキトップに指をかけた。

 

「私のターン、ドロォーッ!!」

 

 そして引いたカード──理想のカードを引いたことに恭子は口角を吊り上げ、死に札となっていた手札のカードが息を吹き返す。

 

「手札から魔法カード≪磁力の召喚円 LV2≫を発動! 手札からレベル2以下の機械族を特殊召喚する! 来いっ! ≪サイバー・ヴァリー≫! さらに魔法カード≪機械複製術≫を発動! 自分場の攻撃力500以下の機械族1体を選択し、その同名モンスター2体をデッキから特殊召喚する! 続けて来いっ! 2体の≪サイバー・ヴァリー≫!!」

「──っ、流石プロ…! この土壇場でモンスター3体を揃えるかよ…!」

 

 ガラ空きだったフィールドに一気に3体のモンスターが出現。

 モンスターのステータス自体は弱小だが、デュエルに慣れているヒヨリとて低攻撃力のモンスターならば何かしら特異な効果を持っていることは把握している。

 

「場の≪サイバー・ヴァリー≫の効果! 場の自身と自身以外のモンスター、2体の≪サイバー・ヴァリー≫を除外して2枚ドロー! 手札から≪サイバー・ドラゴン・コア≫を召喚! このカードの召喚成功時、デッキから【サイバー】または【サイバネティック】魔法・罠カード1枚を手札に加える! 私はデッキから≪サイバーロード・フュージョン≫を手札に加える!」

 

 そしてヒヨリの予想通りとばかりに恭子はカード効果でドロー、召喚、サーチを行い着実にコンボパーツを揃えていく。

 

「手札から魔法カード≪エヴォリューション・バースト≫を発動! 場に≪サイバー・ドラゴン≫が居る時、このターン≪サイバー・ドラゴン≫の攻撃を放棄することで相手場のカード1枚を破壊! ≪サイバー・ドラゴン・コア≫は場・墓地に存在する場合、≪サイバー・ドラゴン≫として扱う! 私が破壊するのは永続罠≪ファイヤー・ウォール≫だ!」

「うげぇっ!? アタシの防御壁がっ!!」

 

 1度動き始めた歯車が急には止まらないように、恭子はフルスロットルで手札・場のカードを駆使して展開と除去を行う。

 今までずっとヒヨリを守っていた永続罠≪ファイヤー・ウォール≫が破壊されたことで阻む壁はなくなった。

 

「さらに3体目の≪サイバー・ヴァリー≫の効果発動! 自身と場の≪サイバー・ドラゴン・コア≫を除外し、2枚ドロー! 手札から≪サイバー・ドラゴン≫を特殊召喚! このカードは相手にのみモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!」

「げぇっ!? ≪サイバー・ドラゴン≫っ!? ──ってことはまさか…!」

「そのまさかだ! 私は手札から速攻魔法≪サイバーロード・フュージョン≫を発動! 自分の場・除外されているモンスターの中から融合召喚に必要な素材をデッキに戻し、≪サイバー・ドラゴン≫を融合素材とする融合モンスター1体を融合召喚する! 私は除外されている3体の≪サイバー・ヴァリー≫と≪超電磁タートル≫に≪サイバー・ドラゴン・コア≫、場の≪サイバー・ドラゴン≫をデッキに戻すっ! 次元の彼方より数多の機械竜を喰らい、その糧としろっ! 融合召喚っ! 現れよ、レベル9! ≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫ッ!!」

 

 最後の詰め、とばかりに恭子は残っていた手札の内サーチした1枚を発動。

 場と除外されていたモンスターが吸い込まれるように恭子のデッキへと戻ると同時に、場にはブラックホールの如き黒穴が出現。

 その深淵から鈍い銀色を輝かせた多頭の機械竜──≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫がその姿を現す。

 

「≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫が融合召喚に成功した時、自身以外の自分場のカードを全て墓地に送る! さらにこのカードは融合素材にしたモンスターの数×800ポイントの攻撃力となる! 融合素材にしたモンスターの数は6体! よってその攻撃力は4800!!」

「アタシの≪ヴォルカニック・デビル≫を超えるのかよ…! 確かそいつは融合素材にしたモンスターの数だけ相手モンスターに攻撃できるって効果もあったよな?」

「ほう、よく知っているな。その通りだ」

「アタシはアンタの豪快なデュエル好きだからなっ! 試合は結構観てるんだ。でもそれじゃあアタシのモンスターに攻撃したところでアタシのライフは残るし、墓地には2体の≪ヴォルカニック・カウンター≫が居る。その効果による反射ダメージで自滅するだけ──」

「私は最後の手札、速攻魔法≪リミッター解除≫を発動。自分場の表側の機械族モンスターの攻撃力を2倍にし、ターンの終わりに破壊される」

「──あっ」

 

 自信満々かつ虚勢が混じった声色だったヒヨリのそれが呆けたものに変わる。

 攻撃力4800だった≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫の攻撃力は9600まで上昇。

 対してヒヨリの場には攻撃誘導効果を持ち、攻撃力3000を誇る≪ヴォルカニック・デビル≫が居るが、その超過ダメージは6600。

 さらにヒヨリのライフポイントは6500──結果は一目瞭然だった。

 

「バトル! 私は≪キメラテック≫で≪ヴォルカニック・デビル≫に攻撃! エヴォリューション・レザルト・バーストォッ!!」

 

 恭子の攻撃命令と共に≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫の中央の頭がゆっくりと起き上がり、口内に蒼電を纏ったエネルギーが蓄積。

 防御札を除去され、墓地には高攻撃力の超過ダメージへの対策として≪ヴォルカニック・カウンター≫が2体居たが、超攻撃力相手ではヒヨリのライフポイントが保たない。

 ここまでか、とヒヨリは悔しそうな表情になり──すぐに笑みを浮かべる。

 

(あぁ、やっぱりデュエルは楽しいなぁ…)

 

 今の(・・)ヒヨリとしては全力を出し尽くしたのだ。

 プロ相手に終盤まで優勢だったデュエルに何の不満があるのか。

 それもプライベートではなく仕事で(中規模になってしまったが)スタジアムという舞台でのデュエル。

 これ以上を望むのは強欲だろうと自戒している中、目の前で愛用の≪ヴォルカニック・デビル≫がプラズマに飲まれていく光景をただ傍観するしかなかった。

 

 

 

 ヒヨリのデュエルディスクからライフポイントが0になったことを告げるブザーが鳴り、場に仮想実体化していたカードも全て霧散するように消失。

 数秒の沈黙の後、緊張の糸が切れたのか、ヒヨリはコテン、と可愛らしくその場で仰向け大の字で寝転んだ。

 

「あー負けた負けたっ! いやーやっぱりプロは強ぇなぁ!!」

 

 そう大声で叫ぶも、その声色には悔しさは微塵も感じられない。

 負けても普段と変わらない明るい声を聞き、ファンはホッと胸を撫で下ろす。

 

「良いデュエルだったぞヒヨリ君」

「おっ、ありがと藤島さん」

 

 寝転んだヒヨリに恭子は手を差し出し、そのままデュエリスト特有の身体能力で体幹を一切ブレないまま彼女を片手で引っ張って起き上がらせる。

 そのまま固い握手を交わし、お互いに笑みを浮かべた。

 

「正直、アイドルだと思って侮っていた。謝罪しよう」

「いーよいーよ、むしろプロ相手に善戦したアタシを褒めて欲しいし」

「むっ、そうだな。個人的には君なら最低でも上位(ハイランカー)としても通用するぐらいの腕だと保障しよう」

「そこは最上位(トップランカー)じゃなくて?」

「残念ながら、最上位(トップランカー)になるにはあのドラゴン馬鹿に認められなくてはならないからな。そこは発言を控える」

「あー……あの人ね。まっ、プロからお墨付きもらっただけでも良しとするかっ!」

 

 ニカッとヒヨリは太陽のように満面の笑みを恭子に向け、恭子もつられて優しい笑みを浮かべる。

 示し合わせたでもなく、2人は揃って観客席の方へと体を向け、握手を交わしたまま、空いた手をファンに向けて大きく振るう。

 

「みんなぁー! 今日は来てくれてありがとうなー! ライブは楽しかったし、今回はこうしてプロデュエリストの藤島さんともデュエルできてアタシは最っ高に満足だっ!! もしかしたら、今後もライブの他にこういう企画やるかもしれねーから、そん時はまたよろしくなー!!」

 

 瞬間、観客席からはワァッという大歓声と爆音に等しい拍手が一斉に発せられた。

 ファンからすれば負けてしまったことは悔しいが、それでもプロデュエリスト相手に一歩も引かなかったヒヨリに感動を覚えたのだ。

 歌や踊りだけではなく、こういった側面を見ることができただけでもファンとしては感無量。

 

 またライブでは時たま派手なアクションをしてファンを引かせた恭子に対しても惜しみない拍手を送る。

 デュエリスト故に身体能力が高いことは知っていたが、それでもデュエルはもちろん、ライブでも盛り上げようとしてくれた気概は本物。

 声援の中には『良かったぞー!』や『アイドルになったら応援するぜ!』、『24歳か…』など様々な声が会場に響く。

 

 大歓声と拍手が鳴り響く中、メインの2人は深々と頭を下げてファンに感謝を。

 未だ鳴り止まぬ喝采に手を振りながら舞台から降りていく。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

「流石に勝手が違うと疲れたな……」

 

 ふぅ、とため息を吐きつつ、恭子は控室の椅子にだらしなく背を預けた。

 ライブ自体はほぼダンサー的な役割だったが、普段から山籠もりなりデュエルで鍛えているだけあって体を動かすことに苦はない。

 ただどうにも音感的なものが欠落していたのか、時折派手なアクションで誤魔化していたことに少しばかり後悔する。

 

 しかしデュエルに関しては自身も満足のいくものだったと思っていた。

 舞台でも本人相手に吐露したが、アイドルと侮っていたが実際には上位(ハイランカー)と遜色ない腕前を持っていたことは嬉しい誤算だ。

 そして今の自分のデッキの弱点である対象を取らないモンスター除去や堅実な効果ダメージ戦略にはヒヤリとさせられた。

 機会があれば再戦したいものだ、と恭子はドリンクを飲みながらそう耽る。

 

 丁度そう一息ついた時に、控室の扉をコンコンとノックする音が響き、恭子は特に警戒するでもなく『どうぞ』と入室を促す。

 入ってきたのは〈エレメンツ〉の面々──の一切をまとめているマネージャーの女性。

 

「失礼します……藤島プロ、本日はありがとうございました」

「こちらこそ感謝を。ライブの方はどうにも下手をしてしまったが、デュエルの方は私の方こそ楽しませてもらった」

「そう言って頂ければ幸いです。ウチのヒヨリも控室に戻ってから他のメンバーに嬉しそうに話していましたし、本人もとても満足していましたので」

「それはよかった。あれほどの実力があることに驚いたのだが、彼女は普段からデュエルを?」

「そうですね、ヒヨリだけではなくメンバー全員がデュエルモンスターズが好きですから。プライベートはもちろん、暇があれば休憩時間にでもやっていますよ」

「なるほど、日々の研鑽という訳か」

「そこまで大それたものでは…」

 

 はは、と恭子の拡大解釈にマネージャーは苦笑。

 噂通り堅そうでどこか天然が入っている恭子の人物像に安堵(・・)した。

 イベント自体もつつがなく終わり、あとは恭子のマネージャーに挨拶をすれば終わりなのだ──

 

「あぁ、そういえばもう1つ」

 

 ──そうマネージャーが思っていた時、思い出したように恭子が口を開く。

 

「利益目的によるデュエルモンスターズの私用な実体化は協会規約に違反している」

 

 瞬間、マネージャー──白井黒葉(しらい くろは)の鼓動が早まる。

 もしこの場に第三者が居れば突然何を言っているのだと声をあげていたことだろう。

 

「……なんの、ことでしょうか…?」

 

 しかし、この場に第三者は存在せず、恭子と白井の2人のみ。

 当の白井は平静を装おうとするも、その声色には震えが混じる。

 

「ヒヨリ君…いや、彼女だけではなく〈エレメンツ〉のメンバー全員なんだが──」

 

 ドクン、と白井の胸の鼓動がさらに大きくなる。

 やめて。それ以上は言わないでと喉まで声が出るが、その前に恭子は言い切った──

 

「彼女ら、デュエルモンスターズのカードだな」

 

 ──1年間、白井が守り通してきた秘密を。

 

 

 

「……何故、そうだと…」

「理由は3つ。1つ目に、私はこの仕事の前に彼女達の写真や映像を観たのだが、それら全てで彼女達の顔・体格に一切の変化がなかった。成長期の少女達が1年間で何の変化がないことはおかしい上、まるで作り物のように顔と体に傷はおろかホクロや染みが一切ないことが不思議でならない」

「……それだけあの子たちは体調管理に気を遣っているので、アイドルとしての意識が高いんです…」

「物は言いようだな。2つ目、私がヒヨリ君と接した時、明らかに人間の感触と違うそれを感じた」

「……随分と主観的な意見ですね。まるで普段からデュエルモンスターズのカードを実体化させて触っているからわかるような言い方ですが」

「私自身、ドラゴン馬鹿に付き合わされて普段からデュエルモンスターズのカードを実体化させて触っているからわかるので言っている」

「えぇ…」

 

 震えている白井を前に事実を淡々と述べていく恭子。

 疑惑であったものが段々と確信めいたものに近づいていく。

 (途中おかしいものもあったが)

 

「最後に3つ目──君が今かけているバッグの中にあるデュエルディスク、おそらく消音・無光改造されたものだろうが、それが私と出会ってからずっと起動している」

「なっ──音も光も出ていないのにわかるんですか!?」

「あぁ、やはりあったか」

「えっ──あぁっ!!」

 

 謀られた、と白井が気づくも時既に遅し。

 恭子はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がって白井の前へ。

 

「確証は得られた。さて、大人しく私と共に来てもらおうか」

「くっ…!」

 

 思わず後ずさる白井。

 だが背後には出入口の扉があるだけであり、例えこの場から逃げても恭子の告発によりあっさりと捕まってしまうだろう。

 ここまでか、と半ば観念したところで──

 

「──やらせませんよ」

 

 ──2人の間に光輝く粒子が4つの人型を形成していく。

 内2つは恭子に対峙するように。

 内2つは白井を守るように。

 それぞれの間に立ち、おぼろげだった形が完全に形を成す。

 

 つい先ほどまで共に舞台の上に居た4人。

 ただその装いは舞台に居た時のアイドルらしい衣装ではなく、かと言って日常的なそれでもない。

 言わばそう──魔術師。

 4人全員が年季の入った杖を携え、揃いのローブを纏った姿はそう呼称しても違和感はない。

 

「わりーな藤島さん。こっちにも事情があるんだ」

「無茶なお願いだとは思いますが、どうか見逃して頂けませんか?」

「断る。先ほども言ったが利益目的でのカードの私用実体化は許されることではない。それは君たちとて理解しているだろう?」

「や」

「いや1文字で拒否されても困るんだが…」

 

 ヒヨリとフウコが恭子の前に立ちはだかり、エリは白井にしがみつきながら恭子を睨む。

 数だけならば1対5という構図だが、それはあくまでもこの場限り。

 後に協会に報告すれば結局裁きを受けることには変わりないだろうと恭子が思っている最中、チカが1人だけ前に出てきた。

 

「藤島さん。ご覧の通り私たちはデュエルモンスターズのカードです」

「…そうだな」

「私たちはある企業で作られたカードでしたが、当時は望まれた力を持っていなかったので廃棄されそうになりました」

「………」

「捨てられたくなかった。消えたくなかった。死にたくなかった。忘れられたくなかった。どうして私たちを作ったのか……廃棄の直前まで、私たちは怨嗟のように声をあげていました」

 

 チカの言葉に無言で聞き入る恭子。

 確かに一部の企業では人道も倫理もない、非道な開発形態になっているとは聞いたことがあった。

 それをカード自身の声で直接言われると、当人でないにしても恭子にも思うところはある。

 

「そんな時です。黒葉が私たちに気付いたのは」

「黒葉がアタシらの声を聞いてくれた」

「黒葉さんが私たちを拾ってくれた」

「…黒葉が私たちに居場所をくれた」

 

 いつの間にかチカだけではなく、他の3人も恭子の前へ。

 その表情は憤怒から悲哀、悲哀から歓喜、歓喜から喜楽へと変わっていく。

 

「私たちは黒葉に感謝しています」

「黒葉さんに恩返ししたい」

「黒葉の力になりたい」

「だからこそ今アタシらはここにいる」

「……みんな…」

 

 4人は揃って杖を恭子に指し、険しい眼差しを向ける。

 例え相手が誰であろうと必ず抗い、絶対に屈しないという、強い意志がその瞳に宿っていた。

 

(……なるほど、彼女らにとって天命とも言うべき出会いだったか…)

 

 そんな4人の想いを聞き、恭子は僅かに目を細めながら呟く。

 全てのカードの出会いには意味がある。

 例え人工的に作られても。

 超常現象的に発見しても。

 デュエル中に創造しても。

 全てを含めてのカードであり、デュエリスト。

 それがデュエルモンスターズ。

 

 恭子は4人と1人に気取られぬよう、感嘆したような、燻られたようなため息を零す。

 そして彼女らをその切れ長の鋭い眼差しで睨み付ける。

 

「本音を言えば、すぐにでも事を公にしたいところだが──いいだろう、私とてデュエリストである前に人の子だ。無条件という訳ではないが、この場は収めても良い」

「……つまり、条件次第では即座に報告すると?」

「無論だ。たとえ実害がないにしても、君の行っていることは認められることではない」

「……その、条件とは?」

 

 ゆっくりと。

 壁際に背を預けていた白井は4人の少女たちの前へ出て、緊張した面持ちで恭子に問いかけた。

 問われた恭子は先程までの険しい表情を僅かに崩し、不敵な笑みを浮かべながら口を開く。

 

「デュエリストならば1つしかないだろう──デュエルだ」

 

 




デュエルは次回
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