遊戯王 プロフェッショナル・オーディナリー   作:紅緋

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ドライトロンもう1本(発売前に)間に合ったぞぉ!(2020/9/4)


ドライトロンVS霊使い(後半)

 イベント終了後の薄暗い廊下にコツコツと2人分の足音だけが鳴る。

 先を行く足音は迷いなく真っ直ぐに。

 後を追う足音は緊張と怯えで小さく。

 

 先を行くはランク2位の藤島恭子。

 イベント終了後、彼女のマネージャーに『夜は〈エレメンツ〉と食事会をする』と堂々とうそぶき、先の控室での続きをするために目的の場所へと歩を進めていた。

 後を追うのは〈エレメンツ〉のマネージャーにして所有者である白井黒葉。

 本音を言えばこの場から逃げ出したい気持ちがあったが、自分の手に握られているデッキを見て、きゅっと口を強く結ぶ。

 控室での彼女達──【霊使い】の4人の想いを聞いた以上、その持ち主として応えなければいけない。

 例え相手がプロデュエリストで、しかも国内ランキング2位で、さらに今日のイベントで≪火霊使いヒータ(ヒヨリ)≫にも勝っている相手だとしても、だ。

 

「着いたぞ」

「……はい」

 

 そう黒葉が決意した途端、現実に引き戻されるように恭子の声が耳に響く。

 蛍光グリーンの非常灯のみが点き、薄暗いステージ。

 今日のイベントでライブとデュエルをした舞台。

 

 その奥側に恭子は無言で向かい、所定位置についたところで体を反転。

 左腕にデュエルディスクを装着し、デッキホルダーをセット。

 準備は万全だ、と言わんばかりの状況と表情に黒葉は緊張で顔を強張らせる。

 

 黒葉も同じように今までロクに使ってこなかったデュエルディスクを左腕にセット。

 信頼する【霊使い】達が十全な力を発揮できるよう、入念に組んだデッキをデュエルディスクにセットし構える。

 

 デュエルディスクに先攻・後攻を決めるランプが点灯。

 仮想立体画面で自分・相手の手札・場・ライフポイントの状況が表示。

 互いにデッキからカードを5枚引いて構える。

 

 一拍置き、互いに相手の顔をしっかりと見てから同時に口を開いた。

 

「デュエルッ!!」

「で、デュエル!」

 

 先攻は黒葉。

 5枚の手札を一瞥し、ホッと胸を撫で下ろす。

 とりあえず手札事故はなく、初期手札としては上々。

 

 しかし相手はランク2位。

 無防備なままでモンスターを立てるのは愚策であるし、恭子が超攻撃力で一気にゲームエンドまで持ってくるデュエルスタイルであることは世間的に周知されている。

 ならばここは次ターンの準備、そしてキーカードを揃えて恭子以上に早く勝負を決めなければ、と半ば焦燥するように黒葉は手札に指をかけた。

 

「わ、私は永続魔法≪憑依覚醒≫を発動。自分場のモンスターの攻撃力は属性の種類×300アップし、【霊使い】・【憑依装着】モンスターは効果では破壊されません」

「ほぅ…戦闘(殴り合い)を望むか──良いだろうっ」

 

 違うッ! と声を大にして叫びたかった黒葉だったが、何故か昂揚している恭子を横目に次のカードに指を伸ばす。

 

「手札から≪妖精伝記(フェアリーテイル)-カグヤ≫を召喚。このカードが召喚に成功した時、デッキから攻撃力1850の魔法使い族1体を手札に加えます。同時に≪憑依覚醒≫のもう1つの効果発動。元々の攻撃力が1850の魔法使い族が召喚・特殊召喚された場合、デッキから1枚ドローします──そして同時に手札から速攻魔法≪サモンチェーン≫を発動」

「──っ、中々通なカードを使うな」

「あ、ありがとうございます……≪サモンチェーン≫は同名カードが発動されていないチェーン3以降に発動でき、このターン私は3回まで通常召喚を行えます。次に≪憑依覚醒≫の効果で1枚ドローし、≪カグヤ≫の効果でデッキから2枚目の≪カグヤ≫を手札に」

 

 速攻魔法発動時には2枚だった黒葉の手札はドローとサーチで4枚に回復。

 引いたカードは現状でも充分に使えるカードではあり、黒葉はそのカードに指をかけようとし──止める。

 

(まだ……まだこのカードを使う時じゃない…)

 

 相手はランク2位のプロ。

 それならば情報は伏せ、次ターンで一気に決めるために温存しておいた方が良いと、隣のカードに指をかける。

 

「手札から2体目の≪カグヤ≫を召喚。効果でデッキから攻撃力1850の≪憑依装着-アウス≫を手札に加え、この子を召喚」

「ふむ、それがチカ君の本来の姿か…」

 

 サーチした2枚目の≪カグヤ≫で2回目の召喚権、そしてさらにサーチした≪憑依装着-アウス≫を召喚して3回分の通常召喚権を使い切る黒葉。

 最後の召喚権を使って姿を現したのは〈エレメンツ〉のチカ──を演じていた≪憑依装着-アウス≫。

 姿形はライブの時と同じだが、恰好は先程控室で見た時と同じローブを羽織った魔術師。

 その杖先には使い魔と思しき小型の獣が張り付いており、シーッ! と恭子を威嚇している。

 

(場に居るモンスターは全て攻撃力1850の魔法使い族・レベル4のモンスターか…)

 

 しかし恭子はその威嚇を歯牙にもかけず、冷静に黒葉の場を分析。

 場の状況から鑑みれば種族や属性条件のエクシーズかリンクで展開するだろうと、黒葉の次手を鋭利な眼差しを向けて待つ。

 

(ひえ…!)

 

 そんな恭子の眼光に怯えつつ、黒葉は一旦深呼吸をしてから負けじと彼女を見据える。

 コアリクイの立ち姿の如き威嚇だが、恭子の表情は依然変わらず。

 ぐぬぬ、と奥歯を噛みしめつつ、黒葉のデュエルディスクから自動(オート)でカードがシャコン、と飛び出しそれを恭子に見せる。

 

「私は場の魔法使い族の≪カグヤ≫と地属性の≪憑依装着-アウス≫をリリースし、デッキから≪憑依覚醒-デーモン・リーパー≫を特殊召喚! このカードは自分場の魔法使い族とレベル4以下の地属性モンスターをリリースすることで、手札・デッキから特殊召喚することができます。そしてこの方法で特殊召喚に成功した場合、墓地からレベル4以下のモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚。戻ってきて≪憑依装着-アウス≫!」

(エクシーズでもリンクでもなかったか…)

 

 予想が外れたかと恭子は僅かに肩を落とすも、黒葉のプレイングに少しだけ疑問を感じた。

 デッキから上級モンスターを出すことに何ら問題はないが、そのことに自分場モンスター2体をコストにするほどの価値があるのかと。

 いくら蘇生効果を有しておりモンスターの総数に変化がなかったとはいえ、効果を無効にしては意味もないのではいかとも思っていた。

 

「私は≪憑依装着-アウス≫と≪デーモン・リーパー≫をリンクマーカーにセット! 召喚条件は地属性モンスターを含む2体! リンク召喚! 現れて、リンク2! ≪崔嵬の地霊使いアウス≫!」

 

 そう恭子が思考しているところに黒葉の場のモンスターが変遷。

 2体のモンスターからのリンク2モンスターを出すものの、恭子としては攻撃力に変化がないのであれば変に回さない方が良かったのではないかと感じるが、すぐにその考えを棄却。

 デュエルモンスターズは攻撃力だけで決まるものではない。

 ならば何かしら強力な効果を秘めているのではないかと警戒する。

 

「私は墓地に送られた≪デーモン・リーパー≫の効果発動。このカードが墓地に送られた場合、デッキから【地霊術】カードか【憑依】魔法・罠カード1枚を手札に加えます。私はデッキから罠カード≪憑依連携≫を手札に。そしてカードを2枚セットし、ターンエンドです」

「ふむ…」

 

 そっちだったか、と恭子は新たに召喚されたリンクモンスターではなく、墓地に送られた方のモンスター効果が狙いだったかと自分の浅慮を反省。

 状況的に黒葉の場には攻撃力1850の≪カグヤ≫と≪崔嵬の地霊使いアウス≫の2体。

 魔法・罠ゾーンには永続魔法の≪憑依覚醒≫とサーチした罠カードの≪憑依連携≫ともう1枚の3枚。

 手札は2枚残っており、ライフコストも払っていないので無傷の8000。

 先攻の動きとしては上々だろうと、恭子はドローカードに指を伸ばす。

 

「私のターン、ドロー。手札から≪惑星探査車(プラネット・パスファインダー)≫を召喚。自身をリリースし効果発動。デッキからフィールド魔法1枚を手札に加える。私はデッキから≪竜輝巧-ファフニール≫を手札に加え、そのまま発動。発動時の効果処理としてデッキから【ドライトロン】魔法・罠カード1枚を手札に加える。私はデッキから≪極超の竜輝巧≫を手札に」

 

 しかし先攻の動きが上々だろうと恭子が行う手に変わりはない。

 相手が伏せている罠カードの効果がわからない以上、自分は最善手を尽くすのみ。

 

「≪極超の竜輝巧≫を発動。このターン通常召喚できるモンスターを特殊召喚不可の制約の下、デッキから【ドライトロン】モンスター1体を特殊召喚する。デッキから≪竜輝巧-ルタδ≫を特殊召喚。そしてこの≪ルタδ≫をリリースし、手札の≪竜輝巧-バンα≫の効果発動。自身を特殊召喚し、デッキから儀式モンスター1体を手札に加える。当然、加えるカードは≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫だ」

 

 【ドライトロン】を使い始めてから2週間程度経ち、すっかり扱い方も慣れてきた恭子。

 基本的に光属性・機械族モンスターにしか適合していなかったが、ここ1週間は優秀な後輩(・・・・・)との耐久デュエルで機械族であれば少しばかり他のカードにも適合するようになり、デッキの拡張性が増した。

 その成果をイベントでも発揮したが、このデュエルでも遺憾なく振るえる。

 

「手札の≪メテオニス=DRA≫をリリースし、手札の≪竜輝巧-アルζ≫の効果発動。自身を特殊召喚し、デッキから儀式魔法を手札に加える。私は≪流星輝巧群≫を手札に。さらに場の≪アルζ≫をリリースし、墓地の≪ルタδ≫の効果発動。自身を墓地から特殊召喚し、手札の儀式魔法≪流星輝巧群≫を公開し、1枚ドローする」

 

 これで準備は整った、と恭子は改めてフィールドに視線を移す。

 召喚・特殊召喚とサーチを多用したが、それでも黒葉がサーチした罠カードが使われていない辺り、おそらく妨害系ではないだろうと判断。

 ならばこのまま攻め込むのみ、と攻勢に出る。

 

「手札から儀式魔法≪流星輝巧群≫を発動! 自分の手札・場の機械族モンスターを儀式召喚するモンスターの攻撃力以上になるようにリリースし、手札・墓地から儀式召喚を執り行う!! 私は場に居る攻撃力2000の≪バンα≫と≪ルタδ≫をリリース! 星に座する輝光竜よ、星辰を束ね北天の彼方より来たれッ! 儀式召喚ッ! 現れよッ! レベル12ッ!! ≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫ッ!!」

「──っ、」

 

 恭子の場に居た2体の小型機械竜が金色の粒子へ姿を変え、恭子のフィールド中央に巨大な竜機人へと形を成していく。

 数多の兵器を纏い、巨大にして強大な姿には相対する者へ畏怖を与える。

 新たに恭子のエースの1枚となった≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫がその姿を現し──

 

「と、罠カード≪憑依連携≫を発動! 自分の手札・墓地から攻撃力1500の魔法使い族1体を表側攻撃表示か裏側守備表示で特殊召喚! 私は墓地の≪憑依装着-アウス≫を攻撃表示で特殊召喚! さ、さらに自分場のモンスターの属性が2種類以上の時、表側カード1枚を選んで破壊! め、≪メテオニス=DRA≫を破壊!」

「なっ──」

「そ、そして元々の攻撃力が1850のモンスターが召喚・特殊召喚されたため、永続魔法≪憑依覚醒≫の効果で1枚ドローっ!」

 

 ──消された。

 あまりにも呆気なく自分のエースが除去されたことに恭子は大きく見開く。

 別段耐性を持たない大型モンスターが容易に除去されることは珍しくもないが、恭子自身≪メテオニス=DRA≫の『効果モンスターの効果の対象にならない』という耐性を過信していた故の結果。

 くっ、恭子は小さく唸ると苦虫をすり潰したような表情になり、沸々と怒りが込み上げる。

 

(浅慮が過ぎた…! いくら効果モンスター相手に耐性があるとはいえ、≪メテオニス=DRA≫は魔法・罠で容易に破壊される。これは私の油断──いや、慢心だ…!)

 

 尤も、その怒りの矛先は≪メテオニス=DRA≫を除去した黒葉ではなく、≪メテオニス=DRA≫を除去された自分自身。

 いかんせん興行用にデッキ調整をすると、どうしても魔法・罠カードによる除去は控え目になり、効果モンスターの効果の応酬や戦闘が主となってしまう。

 シーズン外とはいえそれで相手に安易に除去を許すなど、最上位(トップランカー)として恥辱に等しい。

 

 しかしだからと言ってここで激情に駆られてしまっては≪竜姫神サフィラ≫を除去された親友(ドラゴン馬鹿)の二の舞。

 恭子は一旦深呼吸し、決して相手のペースに乗るまいと心を落ち着かせる。

 時間にしては5秒にも満たないが、段々と心を落ち着けていく。

 

(……≪メテオニス=DRA≫を除去され、今の私の手札ではモンスターを新たに出すことはできずカードセットするだけ。問題は相手が私のセットカードをピンポイントで除去するか、全て除去された場合、状況によっては私の負けか…)

 

 そして落ち着いたところで残った3枚の手札に視線を移す恭子。

 残った手札は3枚とも罠。

 さらに状況によっては完全な死に札と化してしまうカードが2枚。

 

「……私はカードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

 だが、ないよりはマシだ、と恭子は≪メテオニス=DRA≫を除去された動揺を隠すように、あえて力強くカードをデュエルディスクにバシィンッ! と叩きつける。

 その豪快な音に黒葉はひっ、と小動物のように可愛らしい悲鳴を漏らすが、当の恭子は不利な状況と言えど毅然とした態度のまま。

 仮にこの場に付き合いの長い龍姫が居れば恭子のそれが明らかに虚勢だとわかるが、会ったばかりの黒葉ではわかるハズもない。

 黒葉がおどおどとした仕草をする中、恭子は改めて状況を確認する。

 

 自分の場にモンスターは存在せず、魔法・罠カードにはフィールド魔法の≪竜輝巧-ファフニール≫とセットされた罠が3枚。

 手札は0枚だが、ライフポイントは無傷の8000のまま。

 

 対して相手の黒葉の場のモンスターは≪崔嵬の地霊使いアウス≫に≪憑依装着-アウス≫、≪カグヤ≫の3体。

 魔法・罠ゾーンは永続魔法の≪憑依覚醒≫ともう1枚のセットカード。

 しかし手札は3枚あり、ライフポイントも無傷の8000。

 

 ライフポイントこそ同じだが、カード・アドバンテージにおいては顕著な差が出てしまったことに恭子は眉間に皺を寄せる。

 セットカードによって黒葉のターンは耐えられると思ってはいるものの、先攻1ターン目の展開と自分のターンで展開途中ではなくカードを使い切った展開後に除去してくる黒葉の強かさに安心はできない。

 場合によっては敗北もあり得るか、と恭子は焦燥を威圧する眼光で隠しながら黒葉を見る。

 

「わ、私のターン、ドロー。えっと≪カグヤ≫を守備表示に変更して、速攻魔法≪ドロー・マッスル≫を発動。守備力1000以下の守備表示モンスターはこのターン戦闘破壊されず、デッキから1枚ドローします」

 

 そんな恭子の眼差しに若干の恐怖を覚えつつ、黒葉はドローしたカードを即座に発動。

 手札を整えつつ互いの状況を確認し、あっ、と偶然にも丁度良いカードがあることに気付く。

 

「≪崔嵬の地霊使いアウス≫の効果を発動します。相手の墓地の地属性モンスター1体を自身のリンク先に特殊召喚します。恭子さんの墓地の≪惑星探査車≫を≪崔嵬の地霊使いアウス≫のリンク先に特殊召喚──そしてっ、リンク2の≪崔嵬の地霊使いアウス≫と≪惑星探査車≫をリンクマーカーにセット! 召喚条件は魔法使い族モンスターを含む2体以上! リンク召喚! 現れて、リンク3! ≪神聖魔皇后セレーネ≫!」

 

 ≪崔嵬の地霊使いアウス≫と≪惑星探査車≫が8方向の矢印の内、下側3方向へ身を転じる。

 瞬間、眩い光が輝きを放ち、その中から白い衣を纏った柔和な顔の女神──≪神聖魔皇后セレーネ≫がその姿を現す。

 

「リンク召喚に成功した≪セレーネ≫の効果発動! お互いの場・墓地の魔法カードの数だけ自身に魔力カウンターを置きます! また場の永続魔法≪憑依覚醒≫の効果により元々の攻撃力が1850の魔法使い族が特殊召喚されたので、デッキから1枚ドローする効果も発動!」

 

 展開と同時に手札も確保してきたか、と恭子が身構える。

 未だ通常召喚権も残っているため、ここからさらに展開してくるだろうと推測する──

 

「さらに≪憑依覚醒≫の効果発動にチェーンして、手札を1枚捨て速攻魔法≪精霊術の使い手≫を発動! デッキから【霊使い】モンスター、【憑依装着】モンスター、【憑依】魔法・罠の内2種を選び1枚を手札に加え、1枚をセットします! そして罠カード≪積み上げる幸福≫を発動! チェーン4以降に発動でき、デッキから2枚ドローします!」

「──っ、ここで畳み掛けてくるか…!」

 

 ──が、想定以上の動きを仕掛けてきたことに恭子は警戒と同時に高揚を感じた。

 一気にカード・アドバンテージの差を広げられ、モンスター・魔法・罠カードを駆使して展開され、下手をすれば敗北するかもしれない。

 だが逆に今まで決して表舞台に出てこなかった決闘者がどのような手を打ってくるのかという期待も胸中にはあった。

 

「逆順処理で≪積み上げる幸福≫の効果で2枚ドローし、≪精霊術の使い手≫の効果でデッキから≪憑依装着-ヒータ≫を手札に加え、罠カード≪憑依解放≫をセット。≪憑依覚醒≫の効果で1枚ドローし、≪セレーネ≫の効果により互いの場・墓地の魔法カードの数、6個の魔力カウンターを自身に置きます!」

 

 効果解決前に2枚だった黒葉の手札はドローとサーチにより一気に6枚へ。

 さらに罠カードをセットしたことで次ターンのカバーも確保。

 敵ながら見事なプレイングだ、と恭子は内心で感服する。

 

「≪セレーネ≫の効果発動! 1ターンに1度、自分場の魔力カウンターを3個取り除き、墓地から魔法使い族1体を自身のリンク先に守備表示で特殊召喚! 墓地の≪憑依装着-エリア≫を蘇生! そして手札から≪憑依装着-ヒータ≫を召喚!」

「今度はエリ君とヒヨリ君か…」

 

 次いで姿を現すのはライブで共演した青と赤。

 前者は控室で会った時は気だるげだったが、今は隣の赤──≪ヒータ≫同様にやる気に満ちた眼差しを黒葉に向けてから、()る気に迸った眼光を恭子に向けていた。

 

「私は≪憑依装着-エリア≫と≪カグヤ≫をリンクマーカーにセット! 召喚条件は水属性モンスターを含む2体! リンク召喚! 現れて、リンク2! ≪清冽の水霊使いエリア≫!」

 

 そしてその()る気は状況にも現れる。

 守備表示だった≪憑依装着-エリア≫をリンクモンスターとして新たに出すことでアタッカーへ。

 さらに場の属性は4種類となり、永続魔法≪憑依覚醒≫の効果でその攻撃力は1200アップの3050。

 並の下級やリンク2のモンスターがランク1位のエースモンスターの攻撃力を超えてきたことに恭子は一種の尊敬さえ抱く。

 

「手札から≪ジゴバイト≫と≪ランリュウ≫を特殊召喚! この2体は場に魔法使い族がいる時に手札から特殊召喚できます! さらにこの2体をリンクマーカーにセット! 召喚条件は風属性モンスターを含む2体! リンク召喚! 現れて、リンク2! ≪蒼翠の風霊使いウィン≫!」

「これで〈エレメンツ〉が揃ったか……」

 

 最後に姿を現すはフウコこと≪蒼翠の風霊使いウィン≫。

 黒葉の場に霊使いが揃い、それぞれが険しい眼差しで恭子を見やる。

 

「ま、まだです! 手札からフィールド魔法≪大霊術‐一輪≫とペンデュラムゾーンに≪ダーク・ドリアード≫を発動します! ≪大霊術≫の効果で私の場に守備力1500の魔法使い族がいる場合、1ターンに1度、相手が最初に発動したモンスター効果を無効にし、≪ダーク・ドリアード≫のペンデュラム効果で私の地・水・火・風属性モンスターの攻撃力は属性の種類×200ポイントアップします!」

「効果無効と属性の種類×200ポイントアップか──むっ?」

 

 黒葉がトドメとばかりに使ったカード2枚に恭子は首を僅かに傾げた。

 効果無効は厄介だが、説明の限りでは最初に適用される強制効果なので順番さえ間違えなければ良い。

 攻撃力上昇も種類の数×200ポイントなので大した上昇量ではない──と思いかけたが、改めて場の状況を冷静に見る。

 

 黒葉の場には、

 光属性の≪神聖魔皇后セレーネ≫、

 地属性の≪憑依装着-アウス≫、

 水属性の≪清冽の水霊使いエリア≫、

 炎属性の≪憑依装着-ヒータ≫、

 風属性の≪蒼翠の風霊使いウィン≫、

 合計5体5種類の元々の攻撃力1850のモンスター。

 

 魔法・罠ゾーンの≪憑依覚醒≫の効果で場のモンスターの攻撃力は属性の種類×300ポイントアップ。

 ペンデュラムゾーンの≪ダーク・ドリアード≫のペンデュラム効果で攻撃力はさらに×200ポイントアップ。

 その上昇値の合計は──2500。

 

「こ、これで私の場の≪セレーネ≫は攻撃力3350! ≪アウス≫、≪エリア≫、≪ヒータ≫、≪ウィン≫の4人は攻撃力4350です!」

「──っ、攻撃力4000超えが4体だと…っ!?」

「それだけではありません! 永続魔法≪憑依覚醒≫の効果により4人はカード効果では破壊されません!」

「ぐっ…!」

 

 自身のエースたる≪メテオニス=DRA≫の攻撃力4000を上回るステータスが4体。

 元が下級モンスターのアタッカーとは思えないほどの攻撃力に、恭子は焦りと驚きが混じった声色で唸る。

 さらにはカード効果による破壊も不可能という、今の恭子の状況では手も足も出ない。

 

「≪アウス≫を攻撃表示に変更し──バトルっ! 先ずは≪セレーネ≫で直接攻撃します!」

「──っ、戦闘ダメージ計算時に罠カード≪パワー・ウォール≫を発動! 戦闘で発生する私への戦闘ダメージが0になるよう500ダメージにつき1枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る! よって7枚のカードを墓地へ!」

 

 ≪セレーネ≫が恭子に向けて光弾を放つのと同時に、恭子はデッキの上から7枚がデュエルディスクから自動的に排出、それらを流れるような手つきで墓地へ送り3350のダメージを回避。

 墓地へ送られたカードの中に逆転の芽となる≪リミッター解除≫や≪死者蘇生≫といった強力な魔法・罠カードが多数混ざっていたことに恭子は目を細めるが、墓地に送られたカードの中に期待していたカードがあっため内心安堵する。

 

「続けて≪アウス≫で直接攻撃!」

「墓地の≪超電磁タートル≫の効果発動! 自身を除外し、バトルを終了させる!」

「無駄です! フィールド魔法≪大霊術-一輪≫の効果により≪超電磁タートル≫の効果の発動は無効となります!」

「わかっていたさ! 続けて罠カード≪戦線復帰≫を発動! 自分墓地のモンスター1体を守備表示で復活させる! 復活しろ≪サイバー・ラーバァ≫!」

「うっ…!」

 

 効果発動、無効、カード発動と、効果の応酬で恭子は墓地からモンスター1体を復活。

 壁モンスターの召喚を許してしまったことに黒葉の顔が僅かに歪むが、それでもたかが1体。

 残り3人の攻撃力4350の攻撃を耐える術はないハズだと、顔を引き締める。

 

「な、なら≪アウス≫で≪サイバー・ラーバァ≫に攻撃!」

「≪サイバー・ラーバァ≫の効果発動! 自身が攻撃対象にされた時、このターンの戦闘ダメージを0にする!」

「えっ!?」

「さらにこのカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから同名モンスターを特殊召喚する! 現れろ! 2体目の≪サイバー・ラーバァ≫!」

 

 しかしその目論見も1体の下級モンスターの効果で阻まれてしまう。

 ただ攻撃対象になっただけでそのターンの戦闘ダメージを全て0にした上、同名モンスターのリクルート効果を持つなど何てモンスターだ、と黒葉は顔を顰める。

 

「じ、じゃあせめてそのモンスターをデッキからなくします! ≪エリア≫で2体目の≪サイバー・ラーバァ≫に攻撃!」

「破壊された2体目の≪サイバー・ラーバァ≫の効果で3体目の≪サイバー・ラーバァ≫を特殊召喚!」

「≪ヒータ≫で3体目の≪サイバー・ラーバァ≫に攻撃!」

「破壊される──これ以上の攻撃は無意味だな…」

「うっ……わ、私はカードを1枚セットします…」

 

 ≪ウィン≫にも攻撃権が残っていたが、ダメージを与えられないのでは攻撃する意味がない。

 恭子の言葉通り無意味なプレイングとなるため、黒葉は最後に残った手札をセットしてターンを終えた。

 

 このターンで決めきれなかったことで黒葉に焦燥感はあるが、場の状況を見てすぐに杞憂に終わる。

 黒葉の場には攻撃力3350の≪セレーネ≫と攻撃力4350の≪アウス≫、≪エリア≫、≪ヒータ≫、≪ウィン≫が顕在。

 フィールド魔法≪大霊術-一輪≫でモンスター効果の発動を無効。

 ≪憑依覚醒≫で攻撃力の上昇とカード効果による破壊はされず。

 セットされている≪憑依解放≫で戦闘でも破壊されず。

 ペンデュラムゾーンの≪ダーク・ドリアード≫でさらに攻撃力を上げ。

 残りの1枚で相手のカードを除去できるのだ。

 黒葉自身としては完璧な布陣を敷くことができたと自負している。

 手札こそないものの、ライフポイントは恭子相手に無傷の8000。

 

 対して恭子の場にはフィールド魔法の≪竜輝巧-ファフニール≫とセットカード1枚のみ。

 手札はなく、ライフポイントこそ8000のまま。

 

 8枚ものカード・アドバンテージ差が開いているこの状況であれば、負けることはないだろうと黒葉は安堵する。

 しかも相手は国内ランク2位の最上位(トップランカー)

 よもや自分のようなプロどころかアマチュアですらないデュエリストがここまでできたことに自信もつく。

 

(……あれ?)

 

 ──っと、そこまで考えたところで黒葉は冷静になる。

 自信がつく?

 誰を相手に?

 ランク2位だ。

 国内で2番目に強いデュエリスト相手にだ。

 

 むしろこれは自信がつくとかそういうレベルではないのでは、と。

 そう考えると冷静から一転、謎の悪寒や勝ってしまって良いのかという罪悪感さえ覚えてしまう。

 1人ワタワタとしている最中、ふと自分の場に視線を移す。

 

 そこには自分がいつも舞台裏から見ている、いつもの4人の姿。

 今後の未来が懸かっているためチラリと見える表情こそ普段よりも険しくなっているが、それでもいつもライブで楽しんでいる時のような歓びが見てわかる。

 

(何でみんな──あぁ、そっか…)

 

 その瞬間、黒葉は気付く。

 

 廃棄される予定だった4人のカードを半ば持ち逃げのように退職した時は、純粋に4人がこれ以上傷つく姿を見たくなかった。

 本来であればデュエルモンスターズのカードとして生まれ、今のデュエルのように華々しく闘えていたことだろう。

 それを黒葉のエゴで4人をカードとして扱うことは決してせず、だが4人のことを認めさせたいと思いアイドルにした。

 4人も黒葉の意志を尊重し、アイドルとしての仕事をこなし、その内容も4人にとってはカードとしては得難い経験だったため嬉々として従事できた。

 

 しかし、本来の性分はやはりデュエルだ。

 現に4人の顔はこのデュエルの勝敗による未来よりも、今こうして闘うために在るというだけで満足気な表情。

 

(もっと早く気付けばよかったな…)

 

 呆れと悔いが混ざった胸中で、黒葉は自分の両頬を軽くパンっと叩いてから恭子を見据える。

 その眼差しは先程までのどこか小動物のように怯えたそれではない。

 1人のデュエリストとして、相対する者を見る目だ。

 

「ふむ……何があったかはおおよそ察しがついたが、私のターンで良いかな?」

「はい、今の私には手札もありませんし、今できることはしました。ターンエンドです」

「──良い目だっ…! 私のターン、ドローっ!!」

 

 相対されるデュエリストとして応えない訳にはいかない、と恭子はデッキから勢いよくカードを引く。

 引いたカードはこの状況では全く使えない死に札だったが──恭子の口角が上がる。

 これでセットされている死に札が息を吹き返す、とドローカードを豪快にデュエルディスクに叩きつけた。

 

「速攻魔法≪サイバネティック・フュージョン・サポート≫を発動ッ! ライフを半分の4000払い、このターン、機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に1度だけ、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の手札・場・墓地から除外し、融合素材にできる!」

「──っ、その発動にチェーンして永続罠≪憑依解放≫を発動! 私の場の【霊使い】は戦闘では破壊されず、場のモンスターが破壊された場合、そのモンスターとは元々の属性が異なる守備力1500のモンスター1体をデッキから表側攻撃表示か裏側守備表示で特殊召喚します!」

 

 使用されたカードに合わせて黒葉は即座にリバースカードをオープン。

 強力な融合モンスターを出されようと、耐性さえあれば4人は破壊されないし今のステータスなら負けることもない。

 また恭子の手札は0枚だが、何らかのドローで手札を増やされた場合、今の内に発動しなければ発動を許さずに破壊する≪ナイト・ショット≫や手札に戻す≪ポルターガイスト≫を使われる可能性も0ではない。

 

「残念だが私の目的はこっちだ! 罠カード≪活路への希望≫を発動ッ! 相手ライフより1000以上少ない場合に1000払って発動できる! 相手とのライフ差2000につき1枚ドローできる! ライフ差は5000! よって2枚ドロー! 次いで速攻魔法≪魔力の泉≫を発動! 相手の表側表示の魔法・罠カードの数だけドローし、その後自分の表側表示の魔法・罠カードの数だけ手札を捨てる! よって4枚ドローし2枚捨てる!」

「──っ!?」

 

 予想こそしていたが何てドローだ、と黒葉はこの土壇場で恭子が0枚だった手札を3枚まで増やすドロー力の強さに舌を巻く。

 しかしまだ場には≪大霊術-一輪≫で効果モンスターの妨害はでき、【憑依】魔法・罠カードで守りも万全。

 さらに≪魔力の泉≫のデメリットで自分の魔法・罠は破壊されず、発動と効果も無効化されないオマケ付だ。

 この状況で負ける要素はない、と勝利を確信した黒葉の表情は崩れない。

 

「手札から≪サイバー・ドラゴン・コア≫を召喚し、効果発動! デッキから【サイバー】または【サイバネティック】魔法・罠カード1枚を手札に加える!」

「≪大霊術-一輪≫の効果! 相手の効果モンスターの効果の発動を無効にします!」

「ならば手札の≪竜輝巧-ラスβ≫をリリースし、墓地の≪竜輝巧-エルγ≫を特殊召喚! このカードが自身の効果で特殊召喚に成功した時、墓地の同名以外の攻撃力2000の【ドライトロン】1体を復活させる! 蘇れ、≪ラスβ≫!」

 

 最初に≪大霊術-一輪≫の効果で無効化した(・・)──否、無効化された(・・・)ことにより恭子は本命のカードの発動のために動く。

 対して恭子はこのタイミングでリバースカードを発動させようか逡巡し、沈黙を選択。

 得てしてデュエルモンスターズでは展開前に潰すか、展開後に潰すかでプレイングが分かたれる。

 前者であれば耐性持ちのモンスターを出す前や、低ステータスモンスターを晒した状態にでき。

 後者であれば大量にカードを消費させたことで、無防備な相手を攻めることができるメリットがある。

 デュエリストの数だけプレイングは異なるが、黒葉は後者を選択。

 恭子の≪DRA≫は魔法・罠カードに対する耐性がないため、出てきたところをこのリバースカードで葬れば良いのだ、と黒葉は自分に言い聞かせる。

 

「場の≪ラスβ≫の攻撃力を1000下げ、墓地の≪流星輝巧群≫の効果発動! 自身を墓地から手札に加える! さらに≪ラスβ≫をリリースし、墓地の≪ルタδ≫を特殊召喚! このカードが自身の効果で特殊召喚に成功した時、手札の儀式モンスターか儀式魔法を公開することで1枚ドロー!」

 

 恭子は再度【ドライトロン】カードの各種効果を使い順調に場と手札のカードを増やす。

 これで場には≪サイバー・ドラゴン・コア≫と≪エルγ≫に≪ルタδ≫の3体のモンスター。

 手札は儀式魔法の≪流星輝巧群≫を含めて3枚のカードがある。

 そして≪ルタδ≫の効果でドローしたカードを一瞥し──恭子の口角が上がった。

 

「手札から儀式魔法≪流星輝巧群≫を発動ッ! 自分の手札・場の機械族モンスターを儀式召喚するモンスターの攻撃力以上になるようにリリースし、手札・墓地から儀式召喚を執り行う!! 私は場に居る攻撃力2000の≪エルγ≫と≪ルタδ≫をリリース! 黒天より再びその姿を現せッ! 儀式召喚! 再臨せよ! レベル12!! ≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫ッ!!」

 

 墓地より蘇るは恭子のエースたる竜機人の≪メテオニス=DRA≫。

 先のターンでは罠カードにより一瞬で対象したが、≪流星輝巧群≫さえあれば墓地からでも儀式召喚が可能。

 攻撃力こそ4人の【霊使い】・【憑依装着】には敵わないが、残っている恭子の2枚の手札で状況を一変できる力はある。

 さぁここから逆転だ、と恭子が意気込み──

 

「≪メテオニス=DRA≫が儀式召喚に成功した時、罠カード≪風林火山≫を発動っ!! 自分場に風・水・炎・地属性モンスターがフィールドに全て存在する場合、4つの効果から1つを選んで適用します! 私は──相手フィールドのモンスターを全て破壊する効果を選択っ!!」

「──っ、」

 

 ──再び≪メテオニス=DRA≫の破壊が確定した。

 場の≪ウィン≫・≪エリア≫・≪ヒータ≫・≪アウス≫の4人が杖の先端を合わせ、杖先に4色の光が生まれる。

 それらが螺旋を描くように直上に昇ったかと思えば、それが花火のように弾けて無数の光弾へ変化した。

 4色に彩られた光弾は雨嵐の如く≪DRA≫と≪サイバー・ドラゴン・コア≫を襲い、そのブルーメタリックボディとシルバーボディに蜂の巣のような無数の穴が空く。

 バチバチと内部機械がショートを起こし、惜しむ声を上げる間もなく2体の機械竜は爆散。

 大爆発と共に轟音が発生し、爆風が恭子と黒葉を襲う。

 

 時間にして数秒から数十秒、爆風が止み、土煙が晴れるとそこには当然の結果のみがあった。

 黒葉の場には【霊使い】を含む5体のモンスター。

 恭子の場には機械竜の残骸とも言うべきスクラップの山。

 

「──やった…っ!!」

 

 目の前の光景に黒葉は無意識の内に右手を握り締めていた。

 相手のエースモンスターを自分が愛するカードを使って倒せたのだ。

 しかもそれが国内ランク2位ともなればその興奮は推し量れない。

 今まであれだけ毛嫌いしていたデュエルなどどこに行ったのか、その内心はまるで小児のように浮かれていた──

 

「──それはどうかな」

「……えっ?」

 

 ──しかし、エースを破壊された恭子が発した声は落胆でも、無念の声色ではない。

 むしろ、真逆。

 

 勝利を確信した、それである。

 

「私は墓地の≪バンα≫、≪ラスβ≫、≪エルγ≫、≪ルタδ≫、≪アルζ≫、≪DRA≫、≪サイバー・ラーバァ≫3体、≪サイバー・ドラゴン・コア≫の10体をゲームから除外し、このカードを手札から特殊召喚する! 現れろォ!!」

 

 恭子の背後に半透明で実体化した数多の機械竜が屋外ステージの夜空を彩るように昇り、遥か彼方へと飛翔していく。

 闇色の空に吸い込まれるように消えていき、その姿が砂粒ほど小さくなったところで、一瞬だけ黄金の光が灯る。

 金色の光はまるで隕石の如くステージへと急降下。

 姿形がハッキリと視認できる距離、およそ上空10メートル程度の位置まで来た時にその全貌に黒葉は大きく目を見開く。

 

 先ず目を引くのが巨大な機械竜の頭。

 次いでその額に在る機械龍の頭首。

 そして周囲に浮かぶ9の機械竜頭。

 

 公式の場では滅多に姿を現すことのない、恭子の≪サイバー・エンド・ドラゴン≫、≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫に次ぐ第3のエース──

 

「≪サイバー・エルタニン≫ッ!!」

 

 ──≪サイバー・エルタニン≫。

 

 その異様にして威容な姿を目にした黒葉は思わず身構える。

 あくまで一般的な範囲でしか恭子の使用カードがわからないのだ、どんなステータスでどんな効果を有しているのか現時点で黒葉にとっては未知数。

 だが、戦闘・効果による破壊耐性を得ている4人を倒すことはできない、と半ば強がりのように≪サイバー・エルタニン≫を見据える。

 

「≪サイバー・エルタニン≫の効果発動ォ!! このカードが特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールドのモンスターを全て墓地に送るッ!!」

「ざ、残念ですが私のモンスターは≪憑依覚醒≫でカード効果では破壊されませんっ!!」

「残念だが、≪サイバー・エルタニン≫の効果は破壊ではないッ! 墓地に送るだッ!! よってカード効果で破壊耐性があろうと、墓地に送られるッ!!」

「なっ──っ!?」

 

 『そんなピンポイントで私の布陣を突破するの!?』と声を上げる間もなく、≪サイバー・エルタニン≫の周囲に浮いていた9の機械竜頭が一瞬にして黒葉のフィールド直上へ移動。

 大顎を開き、その口内にはバチバチとプラズマ粒子が咆哮の時を待ち──

 

「コンステレイション・シージュッ!!」

 

 ──恭子の命令と同時に9つの咆哮が奔流となって黒葉の場に降り注ぐ。

 先の≪風林火山≫と同等の爆発が起こり、再度ステージが土煙に覆われる。

 その爆風に黒葉は身構え、数秒としない内に視界が開けるが、瞳に映るのは空虚となった自分フィールド。

 

「あぁっ…!」

「……≪サイバー・エルタニン≫は自分場・墓地の光属性・機械族を全て除外しなければ特殊召喚できず、除外した数×500ポイントが自身の攻守となる。よって攻撃力・守備力は共に5000だ」

 

 自身の愛するモンスターが居なくなった動揺、相手が自分以上にステータスの暴力で攻めてきたことに対する恐怖。

 そんな黒葉の様子に恭子は少しばかり目を細めるが、あくまでも自分はデュエリスト。

 ならば全力を以て相手をするのが礼儀だ、とばかりに最後に残った手札に指をかける。

 

「手札から速攻魔法≪マグネット・リバース≫を発動。自分の墓地・ゲームから除外されている機械族・岩石族の通常召喚できないモンスター1体を特殊召喚する。帰還せよ、≪メテオニス=DRA≫」

 

 都合3度目。

 恭子の場に再々度現れる最新のエース≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫が出現。

 儀式召喚ではないので全体攻撃効果はないが、現状では意味がない。

 そもそも全体攻撃する相手が居ないので、今回は純粋にステータスによる圧倒的な力で制圧するだけなのだ。

 攻撃力5000の≪サイバー・エルタニン≫と、攻撃力4000の≪メテオニス=DRA≫。

 壁となるモンスターも、攻撃を防ぐリバースカードも、手札で発動するカードも存在しない。

 その結果は、自ずとわかってしまう。

 

「バトル。≪サイバー・エルタニン≫と≪メテオニス=DRA≫で直接攻撃。ドラコニス・ゴルド・ブライトネス」

 

 銀色の巨大な機械竜頭と、蒼穹の竜機人が互いの砲を黒葉に向け、無感情な機械的に放つ。

 金色に輝く機械竜の咆哮が奔流となり、それが黒葉を飲み込んでいく。

 

 最後に、デュエル終了を告げるブザー音が機械的に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 デュエルが終わり、黒葉はその場にペタンと座り込んでしまう。

 無理もない、初めてのデュエルの相手がランク2位。

 しかも自分達の今後を懸けたデュエルであり、最終的には巨大にして威容な機械竜2体の直接攻撃を受けたのだ。

 これで気丈に振舞える方が異様というもの。

 

 そんな黒葉に恭子はゆっくりと歩み寄り、眼前のところで静止。

 その表情は厳しさと威圧を持ったそれ──ではなく、満足気で、どこか柔和さを感じられる表情。

 

「ふむ……その顔を見る限り、これ以上の節介は不要そうだな」

「……そうですね。今度は、ちゃんと。胸を張って私の──いえ、私たちを観てもらえるようにします」

「その答えが聞けただけで充分だ。先のデュエルの音で誰か物好きが来るかもしれないので、早めに出ることを勧める」

「いえ、このままで。もう少し──デュエルの余韻に浸りたいので…」

「──そうか。では、また(・・)会える日を楽しみにしている」

 

 それだけ言うと恭子はそのまま踵を返し、出入口へと足を進めようとし──

 

「ん?」

 

 ──止まる。

 背中からの視線を感じ、振り向いてみるとそこには〈エレメンツ〉──否、【霊使い】の4人が実体化していた。

 4人全員が恭子に声をかけようとしてはいるが、どうにも踏ん切りがつかないのか袖口を引っ張ったり、指先を合わせたり、内腿を擦り合わせたりと落ち着きがない。

 恭子はそんな4人を見て小さく苦笑すると、朗らかな笑みを浮かべながら口を開く。

 

「良いデュエルだった。君たちにもまた(・・)会える日を楽しみにしているよ」

「──っ、あっ、ありがとうございますっ!」

 

 恭子の言葉に真っ先に反応した≪アウス≫はペコリと頭を下げ、口ごもりつつも感謝の言葉を述べ。

 

「……次は負けない」

「おう! 今度は黒葉が──いや、アタシらが勝つからな!」

「もっと強くなってきますからね!」

 

 次いで≪エリア≫、≪ヒータ≫、≪ウィン≫の順で恭子に啖呵を切る。

 少女達の想いの強さに、恭子は微笑を浮かべながら再度踵を返す。

 

 恭子自身、機械族使い故に自分のカードと真っ当なコミュニケーションが取れないため、黒葉と【霊使い】ら彼女の強い信頼関係は見ていて羨ましい限りだ。

 カードに対する想いと、カードから想われることによって生まれる絆の強さは自分自身と、最上位(トップランカー)の面々から既にわかっている。

 いつになるかはわからないが、黒葉は確実に表舞台に出てくるだろう。

 そしてもしまた自分とデュエルする機会があれば、今度は純粋に勝負を楽しみたい。

 胸中にそんな想いを抱きながら、恭子は静かに歩を進めていった。

 

 

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 

 

「──恭子、〈エレメンツ〉と何かやらかした?」

「何のことだ龍姫」

 

 数週間後、カフェテリアには最上位(トップランカー)2人の姿がそこにあった。

 片や1杯3000円のブルーアイズ・マウンテンを味わい。

 片や1杯800円弱のブレンドに口をつける2人。

 

「だって恭子との共演の後に〈エレメンツ〉が急に活動休止したかと思ったら、実際はデュエルモンスターズのカードでアイドル活動してましたって会見があったんだから、恭子が何かやらかしたのかと思って」

「何故やらかしたと決めつける…」

「だって恭子だし」

「鏡に向かって言ってるのか?」

「失礼な」

「それはこっちの台詞だ」

 

 ハァ、とため息を零しつつカップに口をつける恭子。

 さほどコーヒーの味に頓着がないため、ただ純粋にその暖かさを味わい、一拍置いてからソーサーへと戻す。

 下アゴに手を当て、少しばかり勿体ぶった表情をしつつ、口を開く。

 

「そうだな、1つ約束はしたか……また(・・)会おうとな…」

「……そういうこと…」

 

 恭子の言葉に察しがついた龍姫は自分もブルーアイズ・マウンテンに口をつけ、その芳醇な香りを楽しむ。

 相変わらずお節介焼きな親友(ライバル)だなぁと思うと同時に、少し羨ましいとさえ感じる龍姫。

 いつの日か、自分もそういった運命的なやり取りをしたいものだ、と胸中に抱きながら、今はただこのゆったりとした時間を満喫する。

 

 




ドライトロンの未判明がもう1体の儀式モンスターだと判明したのでもう1本書きます。
流石に発売日後になりそうです…
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