「アタシのターン、ドロー!」
逸る気持ちを抑え切れず、勢いよくドローするアイリス。
先攻1ターン目は恭子に好きなように展開されたが、その後は全て自分のペースに引き込めたことに高揚していた。
後攻1ターン目で恭子の敷いた機械竜の布陣を突破、続く3ターン目も大型モンスターこそ出されものの、攻撃をシャットアウト、ダメージも0にできたことに頬が緩む。
このまま一気に押していく、とドローカードを一見するなり即座にデュエルディスクへ叩きつけた。
「手札から≪魔界発現世行きデスガイド≫ちゃんを召喚っ! この子が召喚に成功した時、デッキからレベル3・悪魔族モンスター1体を効果無効・シンクロ素材不可の状態で特殊召喚っ! デッキから出ておいで、≪クリッター≫ちゃん!」
「むぅっ」
理想的なドローと展開にアイリスは笑みを浮かべ、対照的に恭子は少しばかり顔をしかめる。
場に新たに2体の悪魔族モンスターが現れ、さらに【キスキル】と【リィラ】が存在しているのであれば、自ずと次の手もわかるというもの。
「アタシは≪★キスキル≫ちゃんと≪クリッター≫ちゃんをリンクマーカーにセットっ! さぁ出ておいで、2人目の≪★キスキル≫ちゃん!」
「【リィラ】が居る状態で≪★キスキル≫がリンク召喚、さらに≪クリッター≫が墓地に送られたとなれば……」
「ご明察ゥ! アタシは≪クリッター≫ちゃんと≪★キスキル≫ちゃんの効果発動! ≪★キスキル≫ちゃんの効果で1枚ドローし、≪クリッター≫ちゃんの効果でデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札にっ! 1枚ドローしーの、デッキから攻撃力500の≪☆リィラ≫ちゃんを手札に加えるよっ!」
フィールドに居た≪★キスキル≫はどこからかバラエティ番組で用いられる円柱状のカーテン付き更衣室を設置。
泣きながら嫌がる≪クリッター≫の手を強引に引き、無理矢理中へ押し込むと、自分のささっと一緒にその中へ。
『ア゛ッー!!』というどちらのものかわからない汚い悲鳴が上がり、カーテンがドッタンバッタン暴れ、数拍後に沈黙。
シャー、と勢いよくカーテンを引くと、中から現れたのは当然≪★キスキル≫。
口元には瑞々しい真っ赤な液体が付着していたが、それをお嬢様のように優雅にハンカチーフで拭うと、『ゴチソウサマ★』のプラカードをどこからか取り出す。
「お次は魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキから2枚ドローし、手札の闇属性1体を除外っ。2枚ドローしーの──今サーチした≪☆リィラ≫ちゃんを異次元にサヨナラバイバイ」
一体カーテンの中でナニがあったんだと観客が不安や邪に思う中、アイリスは気にせずプレイングを続行。
今しがたサーチしたばかりの≪☆リィラ≫は手札に5秒も存在せずに除外ゾーンに送られ、場に居た≪★リィラ≫は無残にも異次元に送られるもう1人の自分に『そんな…』と(予め目薬で演出した)涙を見せる。
「ふんふんふふーん、おっけーおーけー、良い引きっ! んじゃ次は≪★リィラ≫ちゃんと≪デスガイド≫ちゃんをリンクマーカーにセットっ! 出ておいで、2人目の≪★リィラ≫ちゃん!」
場の≪★リィラ≫は先程≪★キスキル≫が設置した更衣室に≪デスガイド≫の腰を引き、強引に一緒に入室。
『こ、困ります…』と言いたげな表情の≪デスガイド≫だったが、構わず≪★リィラ≫は中へ。
再び『ア゛ッー!!』というどちらのものかわからない汚い悲鳴が上がり、カーテンがドッタンバッタン暴れ、数拍後に沈黙。
バァーンっ! と勢いよくカーテンを開け放った≪★リィラ≫は満面の笑みを浮かべ、『オイシカッタ★』のプラカードを掲げる。
悪魔らしく奪えるものは奪ったと、【Evil★Twin】の2人はここで妖しく艶やかなポージング。
単に共食いしただけなのだが。
「ここで場に【キスキル】ちゃんが居る時に特殊召喚に成功した≪★リィラ≫ちゃんの効果発動! 場のカード1枚を選択し、破壊! 恭子さんの≪メテオニス=QUA≫を破壊しちゃいますよ!」
「それは困る──と言いたいところだが、生憎防ぐ手立てはない。甘んじて受け入れよう」
『そぉいっ!』と可愛らしい掛け声と共に≪★リィラ≫は青色のプレゼントボックスを投擲。
キレイな放物線を描いて投げられた箱はコツンと≪メテオニス=QUA≫の頭部へ当たる。
軽やかな音が響いたかと思えば──瞬間、大音が轟く。
最上級モンスターの攻撃による爆発エフェクトもかくやというほどの爆発が起こり、爆心地の≪メテオニス=QUA≫は木端微塵に爆砕。
「これで藤島さんの場はガラ空きっ! 今度は【Evil★Twins】の直接攻撃を受けてもらいますよ!」
「そこまで通すほど私は甘くないぞ? 破壊された≪メテオニス=QUA≫の効果発動! 儀式召喚したこのカードが破壊された場合、自分の墓地から攻撃力が4000になるように【ドライトロン】モンスターを任意の数だけ選んで特殊召喚する! 蘇れっ! ≪バン-α≫! ≪アル-ζ≫!」
「う゛ぇっ!?」
相手の大型機械竜を除去したかと思えば、間髪入れずに小型機械竜がアイリスの前に立ち塞がる。
2体の小型機械竜≪バン-α≫と≪アル-ζ≫は『ガオーっ!』と仁王立ちするコアリクイのようにアイリスを威嚇。
一部の好事家から見ればとても愛らしい姿のように見える。
レベル1・攻撃力2000でなければ。
リンク2で攻撃力が1100しかない≪★キスキル≫と≪★リィラ≫は互いに抱き合って『キャー、コワーイっ!』とぶりっ子のようにわざとらしく怖がる。
しかし、寄せ合った顔の隙間──アイリスにしか見えないところでニヤリと悪戯な笑みを浮かべ、アイリスも同じように小悪魔的な笑顔を浮かべた。
「流石ランク2位……ってリスペクトしたいとこだけど、今日のアタシは引きも激ツヨだから問題ナシ! 手札から≪バン-α≫を対象に魔法カード≪シャイニング・アブソーブ≫を発動っ!」
「──っ、2枚目か…!」
「ざっつらいと! 相手場の光属性モンスター1体を対象にして発動、自分場のモンスターは対象にしたモンスターの攻撃力分アップっぷ! これで≪★キスキル≫ちゃんと≪★リィラ≫ちゃんの攻撃力は3100っ!」
前のターンと同じ手段で攻撃力を上げられたことに恭子は眉をひそめる。
元々の攻撃力で勝っており、守備力が0しかない下級【ドライトロン】モンスターを守備表示で出す理由がなかったため攻撃表示で出したが、まるでそれすらも相手の掌の上で踊らされているかの如く。
見た目通りのトリッキーな動きに翻弄される自分が不甲斐ない、と内心で自分に叱咤。
「バトル! 先ずは≪★キスキル≫ちゃんで≪バン-α≫に攻撃ぃ!」
カツカツとハイヒールを鳴らしながら≪★キスキル≫は≪バン-α≫の目の前まで優雅に歩み寄る。
どこかぎこちない妖艶な笑みを浮かべ、自慢の朱色の尻尾を大きく振りかぶり。
バンッ!
と、予想外の裏拳撃ちによる渇いた音が響き渡る。
当の≪バン-α≫も『えっ、そっち』と言いたげな表情を浮かべ、ほんの僅かに顔面に亀裂が入ったまま光の粒子となって霧散。
完全に意表を突いた攻撃方法に≪★キスキル≫は
いそいそと『超硬イ ヤバイ』と書かれたプラカードを取り出し、幼児のようにぎゃんぎゃん泣きながら持ち主であるアイリスの豊満な胸に抱きつく。
「あー……はいはい、カッコ良いとこ見せようとしたんだよね。でも相手機械族だから硬いのはわかるでしょ? もうあんな無理しちゃダメだからね」
持ち主──というよりは母親のようにアイリスは≪★キスキル≫の頭を撫でながらあやし、撫でられている≪★キスキル≫も涙目になりながらヘッドバンギングの勢いで首を縦に振って頷く。
そんな相方の無茶に微笑ましい眼差しと、『極めて自然にマスターの胸に顔埋めるなんて裏山』と嫉妬の念を飛ばす≪★リィラ≫。
それを『何なんだこれは…』と意味のわからない光景に恭子は頭痛を覚える。
「じゃあ気を取り直して──次っ! ≪★リィラ≫ちゃんで≪アル-ζ≫に攻撃ぃ!」
≪★リィラ≫は≪★キスキル≫のように変にカッコつけたりせず、自慢の藍色の尻尾で≪アル-ζ≫を捕縛。
それを1度高く掲げてから、勢いよく地面に叩き落とそうとし──
「さらにこのタイミングで≪★キスキル≫ちゃんをリリースして、永続罠≪Evil★Twin イージーゲーム≫のもう1つの効果発動っ! ≪★リィラ≫ちゃんの攻撃力をリリースした≪★キスキル≫ちゃんの元々の攻撃力分アップ! よって≪★リィラ≫ちゃんの攻撃力は4200にっ!」
「攻撃力4000を超えたか…!」
──落下地点を地面から急きょ≪★キスキル≫に変更。
『へぁっ!?』と某光の巨人のような声を上げて≪★キスキル≫は困惑するが、次の瞬間には≪アル-ζ≫の頭部と≪★キスキル≫の頭がごっつんこ。
ガィンと重い音が響き、≪アル-ζ≫はそのまま霧散。
≪★キスキル≫は頭にたんこぶを作りながら、金色の粒子となって消滅──
「ここで≪★リィラ≫ちゃんの効果発動っ! 場に【キスキル】ちゃんが居ない時、墓地から【キスキル】ちゃんを復活! カムバック≪★キスキル≫ちゃん!」
──する直前で≪★リィラ≫が≪★キスキル≫のたんこぶにペタリと絆創膏を貼って一命を取り留める。
そんな方法で良いのかと恭子が少しだけ呆気に取られるも、当の≪★キスキル≫は相方に治療してもらい、にへへーと愛嬌のある笑顔に。
「戻ってきた≪★キスキル≫ちゃんでダイレクトアタックっ!」
「むぅっ、流石に削られてきたか──おっと」
続けてアイリスが攻撃命令を下し、≪★キスキル≫は意気揚々と恭子の目の前まで瞬間移動。
悪戯な笑みを浮かべ、右腕を大きく後ろに反らしてから渾身の平手打ちを放ち──停止。
恭子は涼しい顔でデュエルディスクを顔横の高さまで上げ、平手打ちを遮る。
『う゛ええぇっ!?』と【トゥーン】でもないのにコメディ漫画の如くバイザーを突き破るほど≪★キスキル≫の目玉が飛び出すが、当の恭子は慣れてきたのか驚愕することも呆気に取られることもない。
「ふむ、良い連続攻撃だ。少しばかり打点が足りない気がするが、まぁこれもカードの個性だろう」
「あっ、はい──じゃなくて、一気にライフ削られたのに何でそんな冷静なんですかっ!?」
「何を驚く必要がある? デュエルは基本ライフかデッキが0にならない限り負けではない。現に私のライフもデッキもまだ残っている。ならばまだ闘うことができるし、負けるつもりもない」
「えぇー……」
このターンで5700あった恭子のライフポイントは超過ダメージと直接攻撃のダメージの合算分、4400が失われ現状は僅か1300。
初期値の4分の1程度しかライフポイントが残っていないことに焦るどころかアイリスのモンスターの打点不足を憂う余裕すら見せ、これが
「あ、アタシはリバースカードを2枚セットしてターンエンドです」
顔が僅かに引き攣りながらも、アイリスは忘れずに手札のカード2枚を魔法・罠ゾーンへ。
アイリスの場には≪★キスキル≫と≪★リィラ≫の2体のリンクモンスター。
フィールド魔法≪Live☆Twin チャンネル≫に永続罠≪Evil★Twin イージーゲーム≫と2枚のセットカード。
手札は0枚だが、ライフポイントは無傷の8000のまま。
対して恭子の方はというと、モンスターは不在。
先攻1ターン目にセットされたカード1枚。
手札は0枚の上、ライフポイントは僅か1300という有様。
カード・アドバンテージ、ライフ・アドバンテージ共にアイリスが圧倒的優位な状況。
しかし、それでもアイリスはこの状況で勝利を確信できない。
実際、アイリスも先日の恭子と龍姫のエキシビションを見て、残りライフ100、手札は0枚という状況の恭子が、一瞬にして龍姫の≪トライデント・ドラギオン≫を葬った上で、1ショットキルを決めた光景を現地で目の当たりにした。
それ故、絶対に勝利を確信できる状況になるまで安心はできない。
「私のターン、ドローッ! 私は手札の≪竜輝巧-エルγ≫をリリースし、墓地の≪バン-α≫の効果発動ッ! 自身を守備表示で特殊召喚し、デッキから儀式モンスター≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫を手札に加えるッ!」
「──っ、またトップドロー【ドライトロン】で解決…!」
アイリスの不安に沿うかの如く、恭子はドローカードを即座にコストとして墓地へ。
手札・墓地から起動する下級【ドライトロン】の共通効果で着実にキーカードを揃えていく。
「手札の≪メテオニス=DRA≫をリリースし、墓地の≪アル-ζ≫の効果発動ッ! 自身を守備表示で特殊召喚し、デッキから儀式魔法≪流星輝巧群≫を手札に加える! さらに場の≪バン-α≫をリリースし、墓地の≪ルタ-δ≫の効果発動ッ! 自身を守備表示で特殊召喚し、手札の儀式魔法≪流星輝巧群≫を公開し、1枚ドローッ!」
「また儀式セットが…!」
「今回はそれだけでは終わらせないさ! 場の≪ルタ-δ≫をリリースし、墓地の≪エル-γ≫の効果発動ッ! 自身を守備表示で特殊召喚し、墓地から≪エル-γ≫以外の攻撃力2000の【ドライトロン】1体を復活させる! 蘇れ、≪バン-α≫!」
「──っ、手札1枚からモンスター3体…ッ!? しかも墓地には…!」
前のターンと同じ──否、それ以上にモンスターを展開した恭子。
さらに前のターンとは異なり、内1体が攻撃表示で特殊召喚されているため、アタッカーとして活用する気満々だ。
だがそれ以上に恐ろしい超大型モンスターの出撃準備が整っていることに、アイリスは苦虫をすり潰したような顔を
「手札から儀式魔法≪流星輝巧群≫を発動ッ! 手札・場の機械族をリリースし、その攻撃力の合計以上になるよう、手札・墓地から儀式召喚を執り行うッ! 私は場の攻撃力2000の≪ルタ-δ≫と≪アル-ζ≫をリリース! 星に座する輝光竜よ、星辰を束ね北天の彼方より来たれッ! 儀式召喚ッ! 現れよッ! レベル12ッ!! ≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫ッ!!」
そしてそのアイリスの予想と観客の期待通り、恭子の場に新進気鋭のエース、≪竜儀巧-メテオニス=DRA≫がその威容を示す。
巨大な竜人型の体躯から放たれる強者としてのオーラはもちろん、少年心を鷲掴みにする外観にほとんどの者が惹かれてしまう。
以前のエキシビションによる圧倒的な活躍も記憶に新しく、この場に居る
「フィールド魔法の効果で攻撃を止めようが、それは1ターンに1度。儀式召喚に用いたレベル合計が2以下の≪メテオニス=DRA≫は相手が特殊召喚したモンスター全てに攻撃でき、さらに儀式召喚したこのカードは相手のモンスター効果の対象にならない。よって君の≪★リィラ≫の効果対象にできず、破壊もされない」
「まさにこの状況にうってつけ、最適解なモンスターを出してきましたね…!」
「残念ながらこのターンで決めることはできないが、多少なりともライフは削らせてもらおうか──バトルだ! 私は≪メテオニス=DRA≫で≪★リィラ≫に攻撃ッ!」
「ヤバ、このままじゃ──」
攻撃が無効にされるなら全体攻撃すれば良い。
効果対象破壊なら対象に取られなければ良い。
プレイングやコンボで対処するでもなく、ただ単純に上から抑えつける暴力。
これこそがランク2位である藤島恭子のデュエルスタイルであり、長所──
「──なぁーんちゃってっ!! アタシは罠カード≪Evil★Twin プレゼント≫を発動! アタシの場の【キスキル】ちゃんか【リィラ】ちゃんと、相手モンスター1体の──コントロールを入れ替えるっ!! ≪★キスキル≫ちゃんと≪メテオニス=DRA≫のコントロールを変更っ!」
「──っ、コントロール変更だとっ!?」
──そして短所でもある。
純粋な力比べであれば国内に比肩する者はそうは居ない。
だが相手がその力を受け流す、ないしは上手く扱える者で相手に向けていた刃が自分に向く。
恭子は半ば予想していたとはいえ、このタイミングでのコントロール転移は完全に予想外だった。
チィと僅かに舌打ちしつつ、≪Evil★Twin プレゼント≫発動と同じタイミングで手札のカードをデュエルディスクに差し込む。
「速攻魔法≪魔力の泉≫を発動! 相手場の表側表示の魔法・罠カードの数だけドローし、自分場の表側表示の魔法・罠カードの数だけ手札を捨てる! 私は3枚ドローし、1枚捨てる!」
「あちゃードローカードかぁ。まぁ次の私のターンまで魔法・罠カードにも耐性付くと思えばヨシですね」
恭子は勢いよく3枚のカードをドロー、一瞥してから1枚を即座に墓地へ。
次に≪メテオニス=DRA≫が猛牛のように≪★キスキル≫へ突進。
それをヒラリと回避した≪★キスキル≫はそのまま大きく跳躍し、恭子のフィールドへ。
アイリスから見て正面の向きになった≪★キスキル≫は呑気にアイリスへと手を振っている。
一方、突進した≪メテオニス=DRA≫はまるで正常作動していない機械の如くアイカメラが赤い警告色に発光。
恭子の方をエネミーと認識し、迎撃態勢を取っている。
「……バトルを終了。私は手札から≪サイバー・ドラゴン・コア≫を召喚し、効果発動。召喚成功時、デッキから【サイバー】または【サイバネティック】魔法・罠カード1枚を手札に加える。私はデッキから罠カード≪サイバネティック・レヴォリューション≫を手札に」
「あれ攻撃しなかったんですか? まだ≪★キスキル≫ちゃんも≪バン-α≫も居たのに」
「今の私にはこれが最善手だ。カードをセットし、ターンエン──」
「エンドフェイズに移る前に≪★リィラ≫ちゃんの効果発動っ! 自分場に【キスキル】ちゃんが居ない時、墓地から【キスキル】ちゃんを復活! カムバック≪★キスキル≫ちゃん! そして場に【リィラ】ちゃんがいる時に特殊召喚に成功した≪★キスキル≫ちゃんの効果発動! デッキから1枚ドロー」
「──エンド、だ」
アイリスの半ば煽るような物言いに恭子は意に介さず、残ったカードを淡々とプレイ。
途中、アイリスが抜け目なくドローでアドバンテージを稼いでいくが、こればかりは仕方ないと恭子はやや諦観。
(……≪シャイニング・アブソーブ≫を使った時になんらかの手段で光属性モンスターを私の場に用意する手立てはあると思っていたが、まさかコントロール変更だったか…)
ふぅ、と一息ついて恭子は改めて盤面を確認。
自分場には≪バン-α≫、≪★キスキル≫、≪サイバー・ドラゴン・コア≫のモンスター3体。
魔法・罠ゾーンにはセットカードが2枚。
手札は1枚、ライフポイントは1300。
一方のアイリスの場には≪★キスキル≫と≪★リィラ≫、奪取された≪メテオニス=DRA≫
フィールド魔法≪Live☆Twin チャンネル≫と永続罠≪Evil★Twin イージーゲーム≫にセットカード1枚。
手札は1枚、ライフポイントは無傷の8000。
恭子の場の≪★キスキル≫とアイリスの場の≪★キスキル≫が互いに鏡合わせのポージング遊びをしている中、恭子は自分の不甲斐なさに内心ため息をつく。
5ターン目にもなって未だに攻撃はおろか、ライフポイントを削ることすらできず、さらには相手のペースに呑まれている現状はランク2位──
しかも相手は
この光景を恩師である古賀に見られたら叱咤の雷が飛んでくるだろうかと思うが、むしろそれだけ有望な新人なのだと思うことにする。
何せ養成所時代に『三強』と言われた恭子の世代とは異なり、『魔境』と呼ばれる世代でプロになった決闘者なのだ。
ライバルは多ければ多いほど強くなれる──そんな環境が羨ましい、と恭子は目の前のアイリスに視線を向け、次に観客席に居る美夜の方へ移し──気づく。
(……ん? 和戸君戻ってきていたのか。すぐに現場に戻るのは良いことだが、後で折檻だな)
処理落ち退場した後輩がいつの間にか戻ってきていたことに。
内心で感心しつつ、然るべき叱責はあるべきだと恭子が思っている最中、恭子の視線の先に気付いたアイリスの目の色が変わる。
アイリスの顔は喜怒哀楽の感情がリボルバーの如くコロコロ変わり、いつの間にか(ヴァーチャル空間なのに)耳まで赤色に。
そしてひっひっふーと深呼吸し、キリッと表情が一変。
先ほどまでのどこか悪戯小悪魔な顔はそこになく、あるのはただ1人の決闘者としてのそれ。
「アタシのターン、ドロー。手札から魔法カード≪シークレット・パスフレーズ≫を発動。デッキから【ライブツイン】または【イビルツイン】魔法・罠カード1枚を手札に加える──自分場に【キスキル】と【リィラ】が居る場合、代わりに【イビルツイン】モンスター1体を手札に加えることができる」
「……魔法カードの発動にチェーンだ。≪サイバー・ドラゴン・コア≫をリリースし、罠カード≪サイバネティック・レボリューション≫を発動。≪サイバー・ドラゴン≫を融合素材とする融合モンスター1体を特殊召喚する。現れよ、≪サイバー・エタニティ・ドラゴン≫」
アイリスの様子が変わったことに恭子は少し眉を細める。
おそらくはこのターンで決めにくる、そんな予感をさせるほどにアイリスの目には強い意志が宿っていた。
なれば油断はできない、と恭子はこのタイミングでリバースカードを発動。
小型の機械龍が1体の巨大な機械龍──≪サイバー・エタニティ・ドラゴン≫へその身を転じる。
攻撃力こそ2800とレベル10モンスターにしては控え目だが、守備力は≪メテオニス=DRA≫の攻撃力と同じ4000。
並大抵のモンスターの攻撃が届かないモンスターの召喚成功に恭子は僅かな安心感と、一抹の不安を覚える。
おそらくまだ何かやってくるだろうという、決闘者特有の直感が危険信号を告げているのだ。
「──アタシは場の≪★キスキル≫と≪★リィラ≫のリンクモンスター2体をリリースし、このカードを手札から特殊召喚ッ!! 現れよ、≪Evil★Twins キスキル・リィラ≫!!」
アイリスの場に居る≪★キスキル≫と≪★リィラ≫が光の粒子──にはならず、お互いにモンスターゾーン1枠分あった距離を詰め、2人1人の≪キスキル・リィラ≫へ。
やっと2人で1人になれた嬉しさか、【キスキル】は『わぁいっ!』と書かれたプラカードを掲げながら器用に【リィラ】をお姫様抱っこ。
満更でもない【リィラ】も渾身のドヤ顔を恭子に向ける。
「≪キスキル・リィラ≫はアタシの墓地に【キスキル】モンスターと【リィラ】モンスターが居る場合、攻守が2200アップ。よって攻守は4400」
「≪エタニティ≫の守備力をこうも容易く上回るか…!」
「それだけじゃないです。≪キスキル・リィラ≫が特殊召喚に成功した時、相手の場のカードが3枚以上あれば、相手は2枚になるように自分でカードを墓地に送ってもらいます」
「しかも変則的だが除去効果も持っているとは……うむ、私は≪エタニティ≫とリバースカード1枚以外を全て墓地に送ろう」
つい先ほどまで攻撃力1100という低ステータスだったモンスターが一気に攻守4400の驚異的ステータスに成ったこと、劣勢から逆転に相応しい除去効果に恭子は感心と驚愕を覚えつつ、あくまで冷静に処理を行う。
前のターンで押し付けられた≪★キスキル≫と≪バン-α≫を墓地へ。
その際、≪★キスキル≫が『この裏切り者ぉおおおおぉっ!!』と書かれたプラカードと共にアイリスの墓地へと行ったが、このリアクションに慣れた恭子は微動だにしない。
「魔法カード≪貪欲な壺≫を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー。アタシは墓地の≪☆キスキル≫と≪★キスキル≫、≪☆リィラ≫と≪★リィラ≫に≪クリッター≫の5体をデッキに戻しシャッフル。2枚ドロー」
今度は墓地からエクストラデッキへ。
忙しなく動く≪★キスキル≫はぜーはーと肩で息をしながらも、持ち主たるアイリスの望むがままに動く。
「魔法カード≪ダーク・バースト≫発動。墓地の攻撃力1500以下の闇属性1体を手札に。アタシは墓地の≪デスガイド≫を手札に加え、召喚。召喚成功時の効果発動。デッキから≪クリッター≫を効果無効・シンクロ素材不可で特殊召喚」
恭子の場には守備力4000で効果の対象にならず、効果で破壊されない≪エタニティ≫が居る。
現状であれば≪キスキル・リィラ≫で突破してからいずれかのモンスターの直接攻撃さえ通れば勝利できるが、アイリスは未だ勝利の確信は持てない。
≪魔力の泉≫の効果で墓地に送られたカードが不明なのだ。
ならばこのターンで決めきれずとも、最低限の防御手段は用意すべきだ、とフィニッシュには未だ向かわない。
「闇属性の≪デスガイド≫と≪クリッター≫をリンクマーカーにセット。リンク2、≪魔界の警邏課デスポリス≫をリンク召喚。墓地に送られた≪クリッター≫の効果発動。デッキから≪バトルフェーダー≫を手札に加える」
「直接攻撃を封じてきたか…」
「まだですよ。≪デスポリス≫自身をリリースし効果発動。カード名が異なる闇属性モンスター2体でリンク召喚したこのカードは自分モンスター1体をリリースし、自分表側モンスター1体に警邏カウンターを1つ置く。警邏カウンターが置かれたカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに警邏カウンターを取り除く」
「むっ、続けて破壊耐性も付与か…」
流れるような展開。
デッキ回復からのカード回収、リクルート。
召喚からの特殊召喚、リンク召喚で防御札のサーチ。
さらにはエースモンスターへの耐性付与と、万遍なく、抜かりなく次のターンの守備を整えていくアイリス。
単純に戦闘が2回通ればその時点でアイリスの勝利となるが、それでも前述の詳細不明カードがある内は安心できない。
またランク2位の藤島恭子であればこのターンは耐えるかもしれないという、良くも悪くもそんな予測がアイリスの頭を過った。
しかし、逆に耐えられなければこのターンで自分の勝利は確定するのだ。
先ずは安全策を確保し、そこから一気に攻め込む。
そのための準備を終えたアイリスはふぅ、と小さく一息ついてから、恭子を見据える。
「……バトル! 私は≪キスキル・リィラ≫で≪エタニティ≫に攻撃し──罠カード≪ストライク・ショット≫を発動! 攻撃宣言した≪キスキル・リィラ≫は攻撃力が700上がり、貫通効果を得るっ!」
「むっ…!」
攻撃命令を下すと同時にアイリスはリバースカードを露に。
元より化け物染みたステータスであった≪キスキル・リィラ≫は攻撃力が5100まで上昇。
さらには守備表示相手でも戦闘ダメージを与えられるようになり、恭子は眉をひそめる。
「さぁやっちゃって≪キスキル・リィラ≫!!」
『かしこまっ!』というプラカードと共に≪キスキル・リィラ≫は胸元やスカートの裾からボロン、と大量の小型プレゼントボックスを取り出す。
2人は互いに顔を見合わせ、悪戯な笑みを浮かべるとそのプレゼントボックスを≪エタニティ≫目がけて投擲。
キレイな放物線を描いてプレゼントボックスは≪エタニティ≫へと飛んでいく──無数の数が。
≪キスキル・リィラ≫は手当たり次第ぶん投げるを繰り返し、プレゼントボックスが雨あられとばかりに飛来。
着弾した途端、小さな爆発が幾度も起こり≪エタニティ≫の姿が爆炎と爆風に包まれていく。
その暴風と超過1100ダメージに耐えるように恭子はデュエルディスクを体の前で掲げ、同時に操作も行う。
「これで終わりです──私は≪メテオニス=DRA≫でダイレクトアタックッ!!」
≪メテオニス=DRA≫へ攻撃命令。
貫通ダメージで残りライフポイント僅か200しかない恭子のフィールドと手札に防ぐ手立ては見られない。
会場のアイリスのファンらもまさかのジャイアント・キリングに目を輝かせ、喉が潰れんばかりの歓声をあげる。
そしてその熱狂に応えるかのように≪メテオニス=DRA≫はゆっくりと雁首を上げていき──
「……どうしたの? 何で攻撃しないの…!?」
──停止した。
危険を意味する赤く発光していたアイカメラに光は灯っておらず、電池の切れた懐中電灯の如く。
それどころか動き出す気配さえ見られず、現状では完全に置物だ。
「何で攻撃しないの!? 相手の場のカードが発動した様子はないし、手札誘発を食らった訳でもない! それとも何? 攻撃宣言するには条件があるの!?」
完全に場と流れをコントロールしていた状況からのアクシデント。
場で発動したカードも、手札から発動したカードもないのだ。
ならば≪メテオニス=DRA≫には攻撃宣言するにあたり機械族縛りなどの条件があるのかと推察するが、
「いいやそんな条件などないさ」
モクモクと恭子の周囲を覆っていた黒煙が晴れると同時に、その声がアイリスの耳に届く。
『条件がないなら何で!』と声を荒げようとしたところで、恭子はデュエルディスクの除外ゾーンのカード1枚をソリッドビジョンで表示させる。
「私は攻撃宣言時に墓地から罠カード≪仁王立ち≫を発動させた。これで君は≪エタニティ≫以外を攻撃することはできなくなったのだ」
「──っ、≪魔力の泉≫の手札コスト…!」
「その通り。そして≪仁王立ち≫の効果を受けたモンスターが居なくなれば攻撃自体もできなくなる。さて、他にすることはあるかな?」
「……リバースカードを1枚セットしてターンエンドです…っ!」
残った手札2枚の内1枚を強引にデュエルディスクへ叩きつけるアイリス。
このターンで決めきれなかったことに腸が煮えないと言えば嘘にはなるが、それでも自分の優位に変わりはないことを再認識する。
自分場には1度だけ破壊されない≪キスキル・リィラ≫と、モンスター効果の対象にならない≪メテオニス=DRA≫という攻撃力4000超えのモンスター2体。
魔法・罠ゾーンには攻撃を無効にする≪Live☆Twin チャンネル≫。
フィールドのカードを破壊する効果を無効にする≪Evil★Twin イージーゲーム≫。
トドメに相手が攻撃した時に自分が受ける戦闘ダメージを相手に与える≪ディメンション・ウォール≫。
さらに手札には直接攻撃を止めバトルフェイズを終了させる≪バトルフェーダー≫。
しかも墓地には直接攻撃宣言時に自身を除外してバトルフェイズを終了させる≪光の護封霊剣≫。
ライフポイントも6ターン経過してなお無傷の8000のままだ。
対して恭子の場にモンスターは居らず、セットカードは先攻1ターン目から伏せられておきながら、使われる気配の全くないブラフのみ。
手札はドローカードを含めれば2枚になるが、ライフポイントはたったの200しかない。
(──大丈夫。≪サイバー・エルタニン≫が来ても直接攻撃は止められるし、≪キメラテック・オーバー・ドラゴン≫が来ても≪ディメンション・ウォール≫で引導火力になる…! だから大丈夫。次のターンで必ず…!)
大丈夫、と自分が圧倒的優位な状況であることを再確認するアイリス。
モンスター、魔法、罠。
これら全てで守り切れるハズだと信じ──否。
自分に言い聞かせるように、だ。
アイリスは心の中で大丈夫、大丈夫と繰り返す。
「──私のターン、ドローッ! 魔法カード≪極超の竜輝巧≫を発動! デッキから【ドライトロン】モンスター1体を特殊召喚する! 現れよ、≪竜輝巧-ラスβ≫!!」
不安がるアイリスを余所に恭子はドローカードをすぐさまデュエルディスクへ叩きつけ発動。
デッキから最後の下級【ドライトロン】モンスターである≪ラスβ≫が姿を現し、同時に恭子の脳内でカードの発動順、途中経過、最終盤面が回路図の如く描かれていく。
「墓地の≪流星輝巧群≫の効果! 場の【ドライトロン】の攻撃力を1000下げ、墓地からこのカードを手札に加える! さらに場の≪ラスβ≫をリリースし、墓地の≪ルタδ≫の効果発動! 自身を守備表示で特殊召喚し、手札の儀式魔法1枚を公開して1枚ドローする!」
(うっ…!)
そんな恭子のプレイングにアイリスは焦燥を感じる。
2枚だった手札が3枚に増え、その上でモンスターも展開。
まるで処刑台の階段を上っていくかのような錯覚に陥るが、それでもまだ自分の盤面は生きていると、すがるように自分に言い聞かせる。
「場の≪ルタδ≫をリリースし、墓地の≪エルγ≫の効果発動! 自身を守備表示で特殊召喚し、墓地から≪ラスβ≫を特殊召喚する!」
あと何回特殊召喚が来る?
どのタイミングでフィニッシャーが召喚される?
どこでマストカウンターを撃てば良い?
「儀式魔法≪流星輝巧群≫発動ッ! 場の攻撃力2000の機械族2体、≪ラスβ≫と≪エルγ≫をリリースし、手札・墓地より儀式召喚を執り行う! 再臨せよ、≪竜儀巧-メテオニス=QUA≫!!」
(ここっ!! ──いや、ダメだっ!!)
アイリスの不安が増す最中、恭子は再び≪メテオニス=QUA≫の儀式召喚に成功。
この召喚を許してはいけないと、アイリスの指先が一瞬デュエルディスクへ伸びるが──止まる。
「合計レベル2以下の儀式召喚に成功した≪メテオニス=QUA≫の効果発動! 相手の魔法・罠カードを全て破壊する!!」
「くっ…!!」
前々のターンで発揮できなかった効果が、今度こそ猛威を振るう。
≪メテオニス=QUA≫は一旦アイリスの場の直上へ飛翔。
両の掌と付随のプレートを魔法・罠ゾーンへと向ける。
(本当なら無効にしたいけど、今≪キスキル・リィラ≫を場から離したら相討ちからの蘇生のコンボに繋がる…!)
ギリィと歯軋りしつつ、アイリスはただ目の前の光景を受け入れるしかない。
≪メテオニス=QUA≫の両腕部プレートから無数の光が流星群の如くアイリスの魔法・罠カードに突き刺さる。
成す術はあった。
しかしより最悪な状況を避けるべく、アイリスは≪キスキル・リィラ≫の生存を選ぶしかなかったのだ。
「バトルッ! 私は≪メテオニス=QUA≫で≪メテオニス=DRA≫に攻撃ッ!!」
(これも──防げない…っ!)
≪Live☆Twin チャンネル≫は破壊され。
手札の≪バトルフェーダー≫と墓地の≪光の護封霊剣≫は直接攻撃しか止められない。
よってモンスター同士のバトルに干渉できないアイリスは、またもただ見ていることしかできない。
≪メテオニス=QUA≫は隕石のように≪メテオニス=DRA≫へと急速接近。
生ける屍のようだった≪メテオニス=DRA≫は最後の抵抗のように両腕を前面へ。
それに応えるかの如く≪メテオニス=QUA≫も両腕を前面へ突き出し、組み合いに移行。
巨大な機械竜人2体の原始的な取っ組み合いに観客は困惑と興奮を覚え、その瞳を輝かせる。
互いの体からけたたましいモーター音やら火花が出始めるが、それすらも熱狂を加速させる燃料でしかない。
いつしか互いの右腕が重低音を響かせながら破損。
共に同じタイミングで左腕を振り抜き、同じ右胸部へインパクト。
両者の左腕は胸部を貫通し、メインエンジンの損傷に至る。
バチバチと火花とオイルが溢れ出し、両機体が完全に動作を停止──と同時に爆音。
レベル12・攻守4000同士のモンスターの殴り合い故か、その爆発は耳をつんざくほどの轟音を伴い、フィールドが黒煙と白煙に包まれる。
爆発の衝撃による爆風も相当なもので、アイリスは踏ん張って立っているだけでやっと。
対して鍛え方が違う恭子は不動そのもの。
≪キスキル・リィラ≫はタンブルウィード(西部劇で転がる草)のように2人仲良くコロコロしていた。
爆音が止み、爆風が弱まり、爆煙が晴れた時。
同じ攻撃力4000同士で相殺したのだから、そこに普通であればモンスターは存在しない──
「──≪メテオニス=QUA≫の効果。儀式召喚したこのカードが破壊された場合、自身と同名以外の墓地の【ドライトロン】モンスターを攻撃力が4000になるように復活させる──再臨せよ、≪メテオニス=DRA≫!!」
「くぅ…!」
──が、そこに居たのは真新しい姿の≪メテオニス=DRA≫。
こうなることが予見できていたが故、アイリスの表情が歪む。
「手札から速攻魔法≪マグネット・リバース≫を発動! 墓地または除外されている通常召喚できない機械族か岩石族1体を特殊召喚する! 蘇れ、≪サイバー・ドラゴン・ズィーガー≫!!」
「──っ、ここで≪ズィーガー≫…!?」
「≪ズィーガー≫の効果発動! 自分の攻撃力2100以上の機械族モンスターの攻守を2100上げる! 私は≪メテオニス=DRA≫の攻撃力を2100上げ、6100にする!」
(ぐっ…! ≪ディメンション・ウォール≫が残っていれば強化されても反射ダメージで勝てたのに…!)
カードさえ残っていれば、とアイリスは思うが、それはあくまでも結果論。
また攻撃力を上げられようと、このターンの超過ダメージで敗北することはないと推察する──
「私は≪メテオニス=DRA≫で攻撃し──攻撃宣言時に罠カード≪魂の一撃≫を使う! 自分のライフポイントが4000以下の時、ライフを半分支払い、4000から残りライフを差し引いた数値分、≪メテオニス=DRA≫の攻撃力をアップする! 私は200の半分、100のライフを払い、≪メテオニス=DRA≫の攻撃力を3900アップする!」
「なっ──攻撃力、10000っ!?」
──しかし、目の前の相手はランク2位。
自他共に認める、国内
無論、生半可な攻撃力上昇に留まる訳がない。
「最後だっ! 手札から速攻魔法≪リミッター解除≫を発動っ! ≪メテオニス=DRA≫の攻撃力を2倍にする!!」
「い、10000の2倍ってことは……っ!!」
先日のエキシビションデュエルにおける攻撃力上昇が生温いと思えるほど、爆発的加速で≪メテオニス=DRA≫の攻撃力が上昇。
元々の4000から6100、10000と上がり、瞬く間にその攻撃力は20000へ。
(こ、これが、
圧倒的に自分が優位だったハズだと思い起こすアイリス。
先攻の布陣を返し。
相手の攻撃をいなし。
エースモンスターも奪取した。
だが実際にはどうだ。
カード・アドバンテージの優位を覆され。
例え相手が攻撃力10000でもライフは残っていた。
そう、思っていた矢先の──20000。
理不尽だ。
無茶苦茶だっ。
荒唐無稽過ぎるっ!
誰にぶつけられる訳でもない嘆きを心の中で留め、圧倒的強者にして格上の存在たる恭子を見る。
その表情は──微笑。
屈託のない、朗らかな笑みそのものだ。
「面白いデュエルだった。今の私で出せる、全身全霊の攻撃を以て礼としよう──≪メテオニス=DRA≫!! ≪キスキル・リィラ≫に星光を見せよ! ゴルド・ハンドレッド・ブライトネス!!」
そう攻撃命令を下すと同時に≪メテオニス=DRA≫の全身から重火器が起動。
以前のエキシビション同様、全身を巡るエネルギーラインが発光しチャージ。
メインカメラにはターゲットサイトが表示され、その標的は当然≪キスキル・リィラ≫。
慌てふためく【キスキル】。
諦めうずくまる【リィラ】。
2人目がけて金色の流星群が降り注ぐ。
いくら攻撃力4400と最上級モンスターの攻撃力を誇っていたとはいえ、相手は
20000もの超攻撃力に勝てるハズもなく、ただただその星の光を受け入れる。
無傷の8000あったアイリスのライフポイントは一瞬にして0になり、デュエル終了を告げるブザーが鳴った。
何とかイベントは無事終了し、ところ変わってアイリスの控室。
今回は仮想電脳空間と言えど、恭子は前回よりも実体化をだいぶ抑えたので会場自体に被害はない。
しかし──
『暴☆力☆反☆対』
『死ぬかと思った』
──なまじ破壊耐性を付与されていた≪キスキル・リィラ≫は重火器の直撃を受け、衣服はボロボロ頭はボサボサアフロと、これまたコメディチックな姿になり、上記が書かれたプラカードを片手に持ち主であるアイリスの(豊満な)胸に慰めてもらっていた。
デュエル自体は終わっているのだが、攻撃力20000の大型機械竜人がドラゴン相手にぶっ放した攻撃を対人で食らったのだから、【キスキル】も【リィラ】もその体感した恐怖は凄まじく、中々アイリスから離れようとしない。
「あははー、すいません藤島さんこの子たちすっかり怖がっちゃって…」
「いや……私も正直やり過ぎた。すまない」
「……ソーデスネ。ま、まぁファンのみんなも喜んでくれてましたし、結果的には良いイベントになったんでヨシとしましょう」
「そう言ってくれると助かる」
未だ左右から抱きついてくる【キスキル】と【リィラ】の頭を撫でながらアイリスは応対。
その様子に多少の申し訳なさと、ちょっと調子に乗り過ぎてしまったことに恭子は頭を下げる。
「あぁ、それと和戸君のことなんだが、今回の件で後日キッチリと〈グノーシス〉に謝罪に行かせる。私も同行する」
「そ、そこまでしなくても……何だかんだ藤島さんのお陰で助かりましたし」
「いや、そも和戸君がきちんとしていればこんな事態にはならなかった。それにこういうことはなぁなぁで済ませては許されないことだ。君もプロの端くれならば心に留めておいてくれ」
「……わかりました。ありがとうございます」
「うむっ、それで良い──おっと失礼」
うんうんと恭子が頷いていると、携帯端末にメッセージ通知が鳴る。
何だろうかとメッセージを確認すると──
『この馬鹿は12回連続攻撃でシメておくから謝罪は来週にしろ』
──和戸と古賀のリアルタイムデュエル画像。
和戸の場には≪ハーフ・シャット≫で弱体化させられたエースモンスター。
古賀の場には3体のエースと7枚の手札、内1枚が≪瞬間融合≫という恐怖の手札。
「……あの、どうかしましたか?」
メッセージと画像を見て固まった恭子にアイリスは不安そうに声をかける。
そこでハッと恭子は意識を取り戻し、画像を見られないよう素早く携帯端末を懐へ。
そしてアイリスに向け、朗らかな笑みを浮かべ、一言。
「謝罪には来週伺いますと朧月君に伝えておいてくれ」
聖刻の新規来るって聞いてないんですけど(2020/11/24)
じ、上等じゃオラァ! 聖刻聖夜サフィラで書いてやろうじゃねぇか!!