(原作小説:ヴィクトーリヤ、漫画版:ヴィクトリーヤ)
どこかしらで言及されていたら教えて欲しいです。
帝都ベルン第十四駐屯地
「――なに? セレブリャコーフ少尉が風邪を引いただと?」
「はい。幸いにも、そこまで熱はないようですので、1日程度休めば概ね回復するだろうと軍医殿はおっしゃっておりました」
時間になっても副官が執務室に来なかったのはそういう理由か。
「報告ご苦労だヴァイス中尉」
「はい。……少佐殿、小官も何かお手伝いした方がよろしいでしょうか」
ヴァイス中尉の目線は、机の上に溜まった書類に向けられていた。
「気遣い感謝する。しかし、貴官は本日は非番であろう。休める時に休むのも軍人の職務だ」
これくらいならば一人で問題ないだろうと判断してそう告げると、ヴァイス中尉が
「了解であります。何かあれば、ケーニッヒ中尉にご連絡を」
「了解した。ではヴァイス中尉、下がって結構」
「はっ、失礼いたします」
執務室からヴァイス中尉が退室するのを見送ったターニャは、深く椅子に沈み込み、セレブリャコーフ少尉が熱を出した原因を探った。
昨日、こちらの防衛網を掻い潜ろうとした敵対魔導師を叩いた後の帰還中、この時期には珍しい豪雨に見舞われた。おそらく、それが原因でセレブリャコーフ少尉は熱を出すことになったのだろう。
まったくあの程度で体調を崩すなんて情けない、今後、似たようなことが起こらないよう、体調管理の重要性を徹底的に叩き込む必要があるな。
「さて、仕事をするか」
カフェインを摂取するため、ヴァイス中尉が報告の際についでで淹れてくれたコーヒーを啜る。
「不味い……」
◆
書類仕事を進めていると、無性にコーヒーが欲しくなる。
無論、ないのであれば我慢するが、手元にコーヒー豆がある以上、我慢などありえない。
「副官、すまんがコーヒーを……」
と言いかけて、セレブリャコーフ少尉が風邪で休暇中だったことを思い出す。
「チッ、自分で淹れるか……」
ヴァイス中尉も、他の連中も上手いコーヒーの淹れ方なんて知っているわけがない。
ならば、まだ自分で淹れたほうがマシだとターニャはお湯を沸かし、慣れた手付きで焙煎済みのコーヒー豆を取り出し、コーヒーミルを回した。
コーヒー粉とペーパーフィルターをドリッパーにセットし、それをサーバーの上にのせる。沸いたお湯を静かに注ぎ、十分に蒸らしてから円を描くようにお湯を注いだ。
部屋に充満するコーヒーの香りにターニャは頬を緩ませた。
「今朝、ヴァイス中尉が淹れたものよりはマシだが……」
サーバーからカップに移したコーヒーを啜ったターニャは顔を顰める。
不味いわけではない。しかし、上手いかといえばそうでもない。
セレブリャコーフ少尉が淹れてくれるコーヒーの味がデフォルトとなっているターニャの舌は満足できなかった。
一息ついて、机に溜まった書類の量に目をやる。
……やっぱり、いつもより仕事が捗っていない気がする。そういえば、いつもはセレブリャコーフ少尉の方である程度処理していてくれていたな。
ケーニッヒ中尉を……いや、中隊長連中にもある程度の仕事は振ってあるし、それ以外の連中はターニャと一緒の空間にいることに慣れていないため、余計に進みが遅くなるだろう。
どうやら、自分が思っていた以上に少尉には頼っていたみたいだ。
「ふむ、優秀な副官というのも考えものだな」
なにせ、いないと仕事が滞ってしまうのだからな。
◆
その後、いつもよりも遅いペースで仕事を進めていたターニャだが、お昼の時間を迎えたため、席を立って食堂へ向かった。
特に美味しさを感じられない料理を口に運びながら、ターニャはふと思う。セレブリャコーフ少尉は、食事を摂っているのだろうか。
こういう時は隊の下士官連中が……いや、若い少女の部屋に男を入室させるのは拙いだろう……軍医に確認するか。
◆
「デグレチャフ少佐、入室します」
「あら少佐、本日はどんなご用事で?」
医務室には軍医以外の姿はなかった。
「我が隊に熱を出して休んでいる者がいるのですが、その者の食事等はどうしているのかと思いまして」
「ああ、セレブリャコーフ少尉のことですね。少尉への対応はわたくしが行っておりますが、11時ごろに昼食をどうするか確認したところ、食欲がないとのことでした」
なんと、あのセレブリャコーフ少尉が食欲がないだと。これは思っていたよりも酷い状態なのではないか。
「ああ、いいえ少佐。少尉の熱はそこまで高くありませんし、蓄積された疲れが一気に出てきただけなので、そこまで心配せずとも大丈夫ですわ」
ターニャの表情の変化を汲み取った軍医は、安心させるようにいう。
「む、そうでありますか。しかし、何も食べないというのは」
「はい、なのでわたくしのほうで簡単な食事を作って持っていこうかと考えていたところですわ」
ほう、なら安心だな。
……しかし、傷病兵の手当て等をすることが軍医の務めではあるが、一人の士官に付きっきりで世話をさせるのは如何なものだろうか。
は!
あまり手を煩わせてしまったら、部下の体調管理もまともにできない隊長だという烙印を押される可能性もあるやもしれん。
……仕方がない、私が看病してやるか。
うむ、そうだな、それがいい。
軍医の手を煩わせるまでもない。それに副官がいないと上手いコーヒーも飲めないし、仕事も進まんからな。
「(不謹慎なのかもしれないけど、少佐の表情が目まぐるしく変わって可愛いわね)」
「軍医殿、小官は本日非番であります。なのでセレブリャコーフ少尉の世話は小官がしたいと思います」
ケーニッヒ中尉に後で連絡すれば問題なかろう。
「(今は傷病者も少ないから、わたくしも時間はあるのだけれど……は! そうよね、銀翼突撃賞を受勲した白銀ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐殿といえどまだ11歳。年齢も近く同性のセレブリャコーフ少尉がいなくてきっと寂しいのね。)そういうことなら、お願いしようかしら。あ、じゃあ今から料理作るから、手伝ってくださる?」
料理は苦手だが、何故か軍医から断りづらいオーラを感じる……それに、自ら世話をしたいといった手前断るのもおかしいか。ターニャは軍服を脱いでシャツの袖をまくる。
「了解しました」
「うふふ、始めましょう」
◆
「うう……風邪を引くなんていつぶりかな」
ベッドに横たわり、ため息を吐いているヴィーシャ。少佐殿に体調管理もなっていない、とドヤされてしまうと内心戦々恐々としていた。
軍医殿が来てくださり、そこまで熱は高くないとのことであったが、身体が重く頭も痛い。
それに毛布に包まれているせいか、汗も掻いてきた。着替えたいけれど、動くのも辛い。
コンコンコン、と扉をノックする音が聞こえた。軍医殿かな。
「どうぞぉ……」
「失礼する」
あれ、声が違うと思い、部屋に入ってきた人物に目を向ける。
「しょ、少佐殿!」
「ああ、いい、そのまま寝てろ」
思わず起き上がりそうになるが、少佐殿に制されたので寝た状態を維持する。少佐殿はトレーを机に載せ、ベッド横にあった椅子に腰かけた。
「少尉、調子はどうだ?」
「良くはありません……」
「だろうな」
すっ、と少佐殿のお手がヴィーシャの目の前を通過し、ピト、とヴィーシャの額に当てられた。
少佐殿のお手は小さいなぁとか冷たくて気持ちいいなぁという感想がヴィーシャの脳裏に思い浮かぶが、ふと我に返る。
「しょ、しょしょ少佐殿! な、なにを……」
「なに、軍医殿から熱はそこまで高くないと聞いていたのでな。ふむ、確かにそこまでは高くないようだな」
反対の手で自身の額に手を当て、納得したように頷く少佐殿。
「少尉、熱は高くないようだが、顔が赤いな。大丈夫なのか」
ずい、と少佐殿に顔を寄せられて至近距離で顔を見られるヴィーシャ。
「だ、大丈夫であります」
「そうか。……軍医殿から聞いたのだが、今も食欲はないのかね?」
「食欲、でありますか。正直、今はあまり食べたくはないです……」
ヴィーシャの返答に眉を顰める少佐殿。
「何も食べないのは良くないぞ少尉」
「と言われましても……」
「やれやれ、軍医殿と一緒にスープを作ったのだが、不要の『少佐殿の手作りですか?!』あ、ああ……といっても、軍医殿が作るのを手伝った程度だが」
少佐殿の手作り‥‥‥果たしてそれは食べられる代物なのかと、一瞬疑ってしまったが、少佐殿は冷酷そうに見えるしとても厳しい方だけど、実はとてもお優しくて、最も敬愛している上官なのだ。そんな方が、自分のために……そう考えると自然と食欲も湧いてくる。
「食べます」
「いや、しかし食欲がなかったのでは」
「食べます」
「(……少尉の顔を見るに、上官である私が勧めたため、上官命令だと受け取って渋々食べると発言した感じではなさそうだな)……了解した。少尉、起き上がれるか? ……手伝おう」
ヴィーシャは少佐殿に手伝ってもらって上体を起こす。
少佐殿は、入室時に持っていたトレーからスープの入った器とスプーンを持ち上げると、それらをこちらに差し出してきた。
「……」
先に言っておこう。
現在、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉は熱に侵されており思考回路が少しばかり狂っているため、発言内容がふわふわしているが仕方ない。
そう、仕方ないのだ。
決して、折角だから少佐殿にどこまで我が儘が通じるのか試したいなどと魔が差してしまったわけではない。
「少佐殿、申し訳ないのですが、身体が重くて起き上がることがやっとという有様でして……その、食べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……何?」
ぎろり、と少佐殿から鋭い視線を浴びせられたヴィーシャは一瞬だけ冷静な思考を取り戻し、先の発言を取り消そうかと考えた。
「(体調が悪い時は精神的にも参ると言う。……少尉には早く回復してもらわねば私の評価に響くかもしれぬし、珈琲も不味いままだ。多少の我が儘くらい聞いてやるか。それに、軍医に自ら看病すると言った手前もあるし)……分かった」
「いや、少佐殿、先ほどの発言は……へ?」
「分かったと言っている」
「つまり、少佐殿のお手で食べさせていただけると……」
「ええい、そう言っているであろうが! なんだ、やらなくてもいいのか」
「い、いいえ! あ、あの、よろしくお願いします」
少佐殿はその手に持った器とスプーンを少しの間複雑そうなお顔で見つめた後、スープを掬ってヴィーシャの口元まで運んだ。
「……」
「……何故、口を開けないのかね」
「少佐殿、こういう場面においては適切な作法があるのではと小官は具申いたします」
「……つまり?」
「小官は『あーん』を所望いたします! また、湯気の立ち具合からこのスープはそのまま食すには少し熱いと推測するため、『ふーふー』も所望いたします!」
再度言おう。
ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉は微熱といえど熱に侵されている身である。故に、言動に多少の混乱が見られても何ら不自然ではないのだッ!!
決して、どこまでいけるのか試したいなどと考えてはいない。
「少尉、貴様、本気かね……」
唇の端をぴくぴくと引きつかせる少佐殿。
なんと少佐殿はヴィーシャが冗談を言っているといいたいようだ。ヴィーシャは心外だと言わんばかりに反論する。
「もちろん本気であります! さぁ少佐殿!」
ヴィーシャは幼子が如くバンバンと毛布を叩いて少佐殿を急かす。少佐殿は表情を目まぐるしく変えながら何かを思考中のようだったが、意を決したように深く息を吐くとベッドの端に両膝を着いた。
「……ふーふー。……あーん」
恥ずかしいのか、少佐殿は頬を微かに赤らめておられる。その状態での先の仕草は大変に愛らしく、それを目撃したヴィーシャは言葉に出来ない感情に襲われていた。
その感情の正体を探りたかったし、頬を赤らめてこちらを睨みつける少佐殿の、いつまでも少佐殿を放置するわけにもいかない。
「あー……んく」
「……味はどうかね」
「とっても美味しいです! 少佐殿に食べさせてもらっているので美味しさ倍増です!」
「別に誰の手で食べようが味は変わるまい……」
ヴィーシャがふにゃりと笑いかけると、少佐殿はふいっと顔を逸らした。
綺麗な金髪から僅かに見えるお耳が赤く染まっていることにヴィーシャは気が付いた。もしかして風邪を移してしまったのかもしれない。
しかし、今はそんなことよりも優先すべきことがある。
「少佐殿! あー……」
「……はぁぁ。セレブリャコーフ少尉、貴様、熱が下がったら覚えておきたまえ」
悪態を付きつつも、少佐殿は律儀にも一口ずつ「ふーふー」と息を吹きかけて「あーん」と言いながら、ヴィーシャの口にスプーンを運び続けた。
◆
「ごちそうさまでした!」
「……お粗末様でした」
ホクホク顔のセレブリャコーフ少尉をジト目で見つめるターニャ。そんな少尉とは対照的にとっても疲れた様子だ。おかしい、体調が悪いのはセレブリャコーフ少尉のほうではなかったか。
「……さて、食事を済ませたらさっさと寝ろ」
それだけ告げると空になった器とスプーンをトレーの上に置いて持ち上げる。
「あ、あの、少佐殿。大変厚かましいのですが、一つお願いしたいことがありまして……」
猛烈に嫌な予感がする。振り向きたくはないのだが、セレブリャコーフ少尉から感じる圧がターニャに振り向く以外の選択肢を与えない。
「……何かね、セレブリャコーフ少尉」
「いっぱい汗を掻いてしまったので着替えたいのですが、身体が重くて、恥ずかしいのですが、一人で着替えることが難しく……」
おい、やめろ、セレブリャコーフ少尉、その先を口にするな。
「着替え、お手伝いいただいてもよろしいでしょうか」
毛布を口元まで手繰り寄せ、熱なのか気恥ずかしさからなのか、上気した顔でお願い事を口にしたセレブリャコーフ少尉。
これは流石に断りたかったが、最終的には承諾させられる未来しか見えず。
「……分かった」
ターニャは色々と葛藤しつつも、了承する言葉を絞り出した。
「では、お願いいたします」
目の前でセレブリャコーフ少尉が万歳ポーズを決めている。
いや、ワンピースタイプの寝巻なのだから、脱がせやすいようにという配慮であることは分かるが、貴官は身体が重くて一人で着替えるのが困難だとか言っていなかったか。
という言葉をグッと飲み込んだターニャは、ベッドの上に乗ってセレブリャコーフ少尉の寝巻を脱がそうと試みる。
「……少尉、少し腰を浮かせてくれるか」
ワンピースタイプの寝巻のため、丈が膝あたりまである寝巻は座ったままだと脱がすことができなかった。
「はい。……ん、あれ? 申し訳ございません、もう少しお待ちを……」
手をベッドに置いて腰を押し上げようと試みるが、腰が浮く様子はない。
「……少尉、演算宝珠を借りるぞ」
腰を浮かせようと何度もトライするセレブリャコーフ少尉の様子を見かねたターニャは、部屋の片隅に置かれたエレニウム工廠製九七式『突撃機動』演算宝珠を手に取った。
「術式同期……完了」
セレブリャコーフ少尉の腰下にかけられていた毛布をはぎ取り、膝を折り曲げてその下に手を通し、反対の手を腰に添えると一息に少尉を持ち上げた。
お姫様抱っこである。
「少佐殿!?」
「少尉、裾を腰上まで上げてくれ」
「りょ、了解いたしました」
指示通り裾を上げるセレブリャコーフ少尉。ターニャはすぐさま視線を逸らした。一瞬、純白のショーツが見えたが気がするが、うむ、気のせいだろう。
下を見過ぎないように裾が上がったことを確認するとゆっくりとセレブリャコーフ少尉を下ろした。
「少佐殿、その、申し訳ございませんでした」
「今更というものだよ。気にするな」
「う、お言葉に甘えます。それと、重くはありませんでしたか?」
「なぁに、大学時代の実地研修の際に背負った装備に比べれば、貴官なんて軽いものだよ。まぁ、演算宝珠の補助式がなければきついかもしれないが。さて、さっさと着替えを済ませるぞ」
セレブリャコーフ少尉が再び万歳ポーズを決める。汗でべた付いており、少しばかり引っ掛かったが、難なく脱がせることに成功した。
あまりセレブリャコーフ少尉に視線を向けないよう注意しつつ着替えを準備する。
「少佐殿」
「なんだねしょう、い……」
注意していたが呼びかけられて無意識に向いてしまった。
汗に濡れる白い肌、熱のせいか肩越しに見える顔は赤く染まっており熱を帯びた瞳がこちらを射抜く。転生してから長らく感じていなかった情欲を感じた。
ムラっときた。
「少佐殿? 少佐殿? あの、そんなに見つめられると流石に恥ずかしいのですが……」
「あ、ああ……すまない。それで、どうした少尉」
「はい。下着も汗で濡れてしまったので、着替えたくて……」
まさか下着も着替えさせろというのか!
「し、下着は流石に自分で着替えますよ!」
表情で察したセレブリャコーフ少尉が慌てて補足する。
「ただ、下着を脱いだ後、背中をタオルで拭いていただきたく……」
……もうすでに色々と疲弊しきっていたターニャは、無駄に抵抗することをやめた。
セレブリャコーフ少尉に言われるがまま、部屋に置いてあった水桶でタオルを絞り、下着を脱いだ少尉の背中を丁寧に拭っていく。
セレブリャコーフ少尉から色っぽい声が上げるけど気にしたりはしない。
「……はぁ、しかし、貴官は少し無防備すぎではないかね。貴官は自身が魅力的な女性であることを自覚をした方がいい。よいか、男は狼なのだよ。いくら理性的であろうとも、そう無防備すぎては暴走する輩も現れないとは言い切れんぞ」
今更過ぎる忠告かもしれないが、本日のセレブリャコーフ少尉の仕草などを見ていたら本格的に将来が心配になってきた。
「わ、私が無防備なのは、少佐殿の前でだけですッ」
「……今の忠告を聞いていなかったのか」
「はぅ、今のは違うんです。わ、忘れてくださいっ」
呆れたような口調でぼやくと、自身の発言の意図に気が付いたセレブリャコーフ少尉が慌てて発言を取り消す。
「ほら、背中は拭き終わったぞ。後は自分でやれるな?」
「うぅ……はい」
タオルを手渡してベッドから降りて背を向ける。
まったく、心臓に悪すぎる……まぁ同性同士なのだから、そこまで気にする必要はないのかもしれないが……同性?
「……」
「あの、少佐殿? 下着を着ましたので、寝巻を着るのを手伝っていただきたいのですが……」
「あぁ、了解した。着させるぞ……腕は通ったな、よし、抱き上げるからな……うむ、これで大丈夫だな? さて少尉、後は横になって、十分な睡眠をとれ。……ん、喉が渇いた? 今、水差しを持ってくる……飲めたな? では、横になれ、そして眠るんだ。……眠れるまで手を握っていて欲しい、だと? やれやれ、まるで幼子のようだな。仕方がない、特別サービスだ、回復したら覚えておきたまえよ」
手を握ってセレブリャコーフ少尉と軽い会話を交わす。しばらくすると会話はなくなり、少尉の寝息が聞こえてきた。
少尉が完全に眠りについたことを確認するとターニャは器を持つことなく部屋を出ていった。
◆
訓練を終えたケーニッヒ中尉が廊下を歩いていると、向かいからデグレチャフ少佐殿が歩いてくるのが見えた。
「あの、大隊長殿……っ!」
声を掛けたが、とんでもない威圧感を放っている大隊長殿を視認するとすぐさま壁に張り付いて回避行動をとった。
幸いこちらに気が付くことなく、ぶつぶつと何やら呟きながら目の前を通り過ぎていった。
「……急ぎの報告ではないし、後にしよう。それにしても、すごく怒っていたな。一体誰が大隊長殿の怒りを買ったのやら」
ケーニッヒ中尉は、大隊長殿の怒りを買った人物を哀れに思い、自分はそんなヘマをしないようにしようと決意した。
◆
「存在Xぅぅぅぅぅう! 何が同性だ! 私は男だろうがぁ! こんな思考に至ってしまうのも全部ッ、そう全部存在Xの仕業だ! 一度ならず二度までも! ああ、やはりそうだ! 存在Xは私が女として成長したいと洗脳しているに違いない! ああっ、存在Xに災いあれ!!」
ターニャは自室に戻り部屋の鍵をかけると、叫び声を上げて存在Xに怒りをぶつけた。
幸いにも、周囲の部屋に人はなく、彼女の叫び声を聞いた者はいなかった。
後日談、というか翌日のお話は書いてて恥ずかしくなったのでやめました。
羞恥心が克服できたら、書こうと思います。