近衛局の銀狼   作:itifuzi

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書けば出ると信じて初投稿。


プロローグ

龍門近衛局の特別督察隊隊長であるチェンは目の前に広がる光景に頭痛を覚え頭を抱えたい気分になっていた。

近衛局の中でも多くの仕事をこなし、分刻みで仕事のスケジュールを調整しているチェンは久しぶりに自室のベッドの上で目を覚ました。

それ自体は特に問題はない。

問題があるとすれば

 

「・・・・・・んぅ」

 

自分の横であどけない顔で寝ている友人の存在であろう。

 

「な、なぜノクティスが私のベッドに・・・・・・」

 

窓から差し込む日の光に照らされてキラキラと輝く銀色の髪。

立てば腰まで届くその髪は美しい見た目通り肌触りもよく、部下であるとある鬼の重装オペレーターはこの髪を手入れするのが趣味の一つと豪語する者もいるのだから、いかに彼女の髪の触り心地がいいのかを物語っている。

しかしチェンが頭を抱えたく成る程に取り乱す原因となったのは、一緒にベッドに寝ていたことではない。

 

「なぜ・・・・・・なぜ私たちは裸なんだ・・・・・・!?」

 

問題は隣で眠っている少女と自分が一糸纏わぬ姿で寝ていたということであった。

 

「確か昨日はノクティスとホシグマの三人で飲んでて・・・・・・その後何があったんだ・・・・・・?」

 

今日一日非番であったチェンは隣で寝ている少女と普段から自分を助けてくれる部下を労うためにチェンの奢りで飲み歩いていた筈だ。

ただかなり酒に強い部下に付き合っていくつかの店を梯子しているうちに酔いが回り、最後の方に至っては記憶がない始末であった。

 

「ホシグマに聞けば何があったかわかるか・・・・・・? いや、あいつはもう仕事をしてる時間か・・・・・・」

 

一刻も早く状況を理解したいところではあるが、部下の仕事を邪魔してはいけないと考えてしまう姿は生真面目な性格をしているチェンを如実に表しているだろう。

 

「ぅ・・・・・・うるさい・・・・・・」

 

頭を抱えてどうすればいいのか唸っていたチェンは、モゾモゾと上半身を起こして寝起き特有の不機嫌そうな声を出した少女に驚き体をビクつかせた。

 

「お、起きたのか・・・・・・」

 

「横でうんうん唸り声を出してるやつがいたら誰でも起きるでしょ・・・・・・」

 

小さな欠伸をして意識を覚醒させた少女は、そこでチェンの様子がいつもと違うことに気がついた。

 

「どうしたのチェン?」

 

「いや、その・・・・・・どうして私たちはこんな格好で寝てたんだ・・・・・・?」

 

「どうしてって、それは・・・・・・」

 

そこまで言ってピタリと少女は言葉を止めた。

 

「あんなことまでしたのに、チェンは覚えてないんだ・・・・・・」

 

待てあんなこととはなんだと声を上げたいチェンであったが、俯き悲しげに声を震わせる少女の姿に二の句が告げられなくなり、どうすればいいのか本気でわからなくなった。

本来のチェンであれば小刻みに震えている少女の姿が普段笑いを堪えている時のものであると見抜くことができたが、自分が何をやらかしたのか考えることに頭の中を埋め尽くされてしまったチェンは気づくことができないのであった。

 

「私は・・・・・・いったい何をしてしまったんだ・・・・・・!?」

 

orz状態でブツブツと独り言を呟くチェンの姿に少女は思わず吹き出すと、ベッドから出てクローゼットから適当に動きやすい服を取り出してパッパと着替えてしまう。

まるで自分の部屋のように自然な動きで服を取り出した少女だが、ここはチェンの部屋であり、もちろん少女が取り出した服もチェンのものである。

 

「チェンのせいで私の服すごいことになっちゃったから、今日一日チェンの服借りてくよ〜」

 

「すごいことってなんだ!?」

 

素っ裸で取り乱す特別督察隊隊長。

我が物顔で自分の服を持っていくことよりも、すごいことになったという少女の服の方が気になった。

普段の彼女を知る龍門近衛局のメンバーが今のチェンの姿を見れば、顔が同じ別人か天災の前触れであると大いに混乱することになるだろう。

 

「さぁて、なんだろうねぇ?」

 

ケラケラと笑い声を上げながら少女は自分の龍門近衛局の制服に袖を通し、呼び止めるチェンの声を無視して外へと出た。

扉が閉まるまで何とも言えない唸り声とバタバタとベッドの上で悶えているだろう音が聞こえてきた。

 

 

 

 

職場への道すがら、部屋を出る際に聞こえてきたチェンの唸り声を思い出してノクティスは少々やり過ぎたという言葉が脳裏を過ったが、酔っ払ったチェンのせいで服を着てられなくなったのは別に間違いではないので、気にしなくてもいいかと先ほど購入したホットドッグにかぶりつくのであった。

 

「それにしても清々しい朝ね。こんな日は一日のんびりと事務仕事だけをやりたいものだわ」

 

忙しなく行き交う人々の波を眺めながらノクティスはそんな独り言を呟く。

ここ龍門は煌びやかな見た目と発達した建築技術によって住民はもちろん観光客なども多い都市だ。

様々な種族が行き交う街並みを見ればいかに龍門が栄えているかわかるだろう。

しかしそんな煌びやかな姿が全てではないことをノクティスは理解している。

 

「泥棒だー!」

 

「・・・・・・はぁ、今は体を動かす気分じゃないんだけどなぁ」

 

ノクティスが気怠げにため息をついて声のした方に視線を向ければ、一目でまともな生活を送っていないとわかる見た目をした子供が走ってくるのが見えた。

乗り気ではなかったこともあり自分の見えない範囲なら見逃そうと考えていたノクティスであったが、流石に自分の方へ向かってくる犯人を見逃すと後々問題になるかとため息をついて残りのホットドッグを口の中に放り込む。

 

「はいはいそこまでだよ」

 

追っ手の方を気にして逃げていたのか、突然目の前に現れたノクティスに反応することができず盗みを働いた子供は簡単に捕まってしまう。

 

「なっ!? 離せよっ!!」

 

「離せと言われて離したら仕事にならないでしょ」

 

首根っこを掴んで体を持ち上げられてしまった子供は両足をバタバタと動かして暴れるが、ノクティスの手から逃れることはできない。

 

「よくやった!」

 

そうこうしているうちに子供を追っていた小太りの男が息を切らせながらノクティスの元まで走り寄った。

 

「まぁこれも仕事だからね」

 

「ちょっ!? やめろ! 触んなっ!!」

 

「はい暴れない暴れない。盗んだものはこれかな?」

 

そう言ってノクティスは子供が大事そうに抱えていたものを、腕の中から引っ張り出した。

 

「これは・・・・・・林檎?」

 

「返せっ! 返せよっ!!」

 

「いやいや、これはキミが盗んだものでしょ」

 

抱えていた林檎を取られて両手が自由になった子供は両手両足を使って更にジタバタと暴れ出したが、ノクティスは平然と男性へ林檎を差し出した。

しかし、盗まれた林檎を前にしても男の視線は子供に向いたままであった。

 

「どうしたの、他に盗まれたものでもあった?」

 

「いや盗まれたもんはそれだけだ」

 

「そう、それじゃあこれはあなたに返すわね」

 

「いや、その必要はねぇ」

 

その言葉にノクティスは面倒なことになったと表情には出さずに心の中で嘆息した。

 

「それじゃあ他に私に用があるの?」

 

「いや、嬢ちゃんに用はねぇよ。俺が用があんのはそこのガキだ」

 

ビクリと、男に睨みつけられた子供はそれまで暴れていたのが嘘のように静かになった。

ノクティスとしても次に男が言い出す言葉は予想できるが、職務を放棄して立ち去るわけにもいかないので続きを言うように男に促す。

 

「そのガキは感染者だ! そんなやつが触ったもんなんて売りもんになんねぇ! だからそいつにはその落とし前をつけてもらう!」

 

あぁやっぱりねと、男の主張が自分の想像していたものと同じ内容であったことに笑えてくると同時に、ノクティスは子供の肌へと視線を向けた。

まともに体を洗っていないのか汚れだらけの肌の表面に、明らかに無機物であるとわかる結晶状の異物が体内から突き出ているのを確認することができる。

鉱石病(オリパシー)

莫大なエネルギーを秘めている源石(オリジニウム)と呼ばれている鉱物によって体がオリジニウムに冒されることで発症する疾病であり、発症すると体内または体表に鉱石結晶が出るようになる。

この鉱石病は現状治療法が存在しない不治の病とされており、鉱石病にかかった者のことを感染者と呼び、鉱石病は感染者との接触でも発生する危険性が存在している。

そのため一度感染者となれば迫害の対象となり、地域によっては人権などないというほどの過激な思想を持っているところも存在している。

ここ龍門も感染者への迫害は強い方であり、盗みを働いた子供の末路など悲惨なものになるのは明白である。

 

「この子は盗みをしたんでしょ? それなら然るべき罰を与えるためにこちらで事情聴取をする必要があるわ。個人的な用ならこちらの仕事が終わってからにして」

 

「おいおい、感染者相手に人間みたいな扱いをすんだな。そんなまどろっこしいことをする必要なんてねぇよ」

 

「はぁ・・・・・・感染者だろうが非感染者だろうが龍門での事件は私たちの管轄よ。素人が口出ししないでちょうだい」

 

これ以上やりとりをする気はないと踵を返したノクティスは、子供をぶら下げたまま歩き出す。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

 

が、そんな態度が癪に触った男は拳を握りしめて背後からノクティスの脳天を殴ろうと駆け寄り

 

「はいストップ」

 

突如喉元に突き立てられた切っ先によって強制的に動きを止めることとなった。

 

「これ以上は公務執行妨害で牢屋の中にぶち込むことになるわよ」

 

振り返ることなく逆手で引き抜いた直剣の切っ先を喉元に突きつけられた男は、背中越しであるにも関わらず背筋が凍るような殺気を間近でぶつけられ、結果その場に座り込んで放心状態となってしまった。

これ以上男が反抗してこないことを確認したノクティスは、直剣を腰の鞘へ戻して再び歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

スラム街。

龍門において唯一感染者が生活することを黙認されている場所である。

先ほどまでノクティスたちのいた煌びやかな街並みとはかけ離れた、ボロボロで薄汚い建物が並ぶ場所。

もちろんそんな場所に暮らしている住民がまともな生活をしているわけもなく、ノクティスの視界にはボロ布を纏っただけの大人やゴミを必死になって漁っている子供の姿が写り込む。

 

「はい、今回は大目に見てあげるから二度と同じことのないようにしなさいよ」

 

「・・・・・・」

 

「それとこれはいらないらしいから、あなたが好きにするといいわ」

 

掴み上げていた子供をその場に下ろしポケットにしまっていた林檎を子供へと渡したノクティスは、無駄なトラブルが起きる前にスラム街から離れようとしたところで、服の端を掴まれたことによって足を止めた。

 

「なぁ、あんた目を閉じてるのにどうしてそんな強いんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「別に目をつぶってるからといって景色が見えてないわけじゃないのよ? 今だってキミの顔が胡散臭いものを見るような表情になってるのが見えてるわ」

 

自分の浮かべている表情を言い当てられた子供は驚いてノクティスから後ずさって距離をあけた。

それもそうだろう。

誰だって目をつぶっている人間が自分の表情を言い当てたら不気味にも思う。

ただノクティスにとってはこの程度の反応は慣れたものなので、特に気にすることでもない。

もう用もないだろうと歩き出したノクティスの背中に

 

「お礼は・・・・・・言わないからな・・・・・・」

 

そんな呟きが聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

 

「それで、今日一日始末書を書いていたのか?」

 

「民間人を脅したって苦情がきたんだってさ」

 

缶チューハイ片手に今日あった出来事を語るノクティスに、チェンは呆れた視線を向けながら自身も缶ビールに口をつける。

 

「だからってなぜ私の部屋で飲み会をすることに繋がるんだ? 私も明日は仕事なんだぞ」

 

「そう言いつつそのビール二本目よね? また記憶なくしても知らないわよ」

 

「う、うるさい! おまえこそ意味深かなことを言って私をからかうな! あの後すごく悩んだんだからな!」

 

「まさか私が戻ってくるまで全裸で悶えてるとは思わなかったわよ。ただ酔ったあなたのせいで私の服がびしょ濡れになったのは本当のことだからね」

 

酔っていたとはいえ、まさか着衣のまま風呂に連れ込まれる事態になるとはノクティスも思っていなかった。

正気じゃないとはいえ龍門トップの戦闘力は伊達ではない。

気づいた時にはノクティスは風呂の中へ放り込まれ、そのままシャワーを頭からぶっかけられると散々な目にあっていた。

 

「あれは私じゃなかったら速攻で絶交してるところよ」

 

「うぐぅ・・・・・・・それについてはすまないと思ってる」

 

バツが悪そうに視線を逸らすチェンにノクティスは苦笑して距離を詰める。

 

「ちょっと意地悪しすぎたわね」

 

「ノクティスはいつも意地悪だろ」

 

チェンの脳裏にはこれまでのイタズラがいくつも浮かんでは消えていく。

出会い頭にジョークグッズでイタズラをされたのは今でも苦い思い出である。

 

「まぁあれだよ。子供が好きな子に対してちょっかいをかけることがあるじゃない?」

 

ゆっくりとチェンとの距離を詰めたノクティスは、お互いの鼻先が触れ合いそうなくらいの距離まで顔を近づけた。

 

「お、おい・・・・・・」

 

白くキメ細かい肌と両眼を閉じていてもわかる驚くぐらい整った顔立ち。

ノクティスの場合どちらかといえば綺麗や凛々しさを連想させる顔立ちをしているのだが、普段から浮かべている笑顔によって可愛いらしさも感じさせるノクティスの顔は同性のチェンから見ても愛らしいものである。

もっと下世話な言い方をするなら、ノクティスの顔はチェンの好みドストライクであったのだ。

 

「あの・・・・・・その・・・・・・」

 

そんな顔が至近距離にある今、チェンは初恋の相手が目の前にいる思春期の少年のように吃り、視線も至る所に行ったり来たりを繰り返しており、普段職場で見せているような凛々しさは皆無であった。

 

「・・・・・・チェン」

 

徐々に距離を縮めて近づいてくるノクティス。

バクバクと破裂するのではないかと心配になるほど高鳴るチェンの鼓動。

そして二人の唇が重なろうとした瞬間

 

 

 

「ぐぅ・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ノクティスはチェンにもたれ掛かるように倒れ込み、なんとも間抜けな寝息をつくのであった。

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

寝た?

こんな状況で?

お預けとかそういう次元の話じゃないと思うんだが?

そもそも本当に寝てるのかこんなタイミングで?

様々な思考が浮かんでは消えていき

 

「・・・・・・すぅ」

 

気持ち良さげな寝息を聞いて正気に戻ると同時に、色々遣る瀬無い気持ちを抱きながら就寝をするのであった。

 

 

 

 

なお、寝ているノクティスに何かするほどの度胸を持ち合わせていなかったチェンは、少しでも鬱憤を晴らそうと爆睡しているノクティスをそのまま床にほっぽり出して放置するのであった。

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