近衛局の銀狼   作:itifuzi

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前回の投稿から随分と空いてしまった(猛省)


銀狼の日常 その二

犬猿の仲。

仲の悪い者同士を表す際によく使われる諺である。

この言葉を最初に聞いた時ノクティスはなぜ犬と猿なのだろうか疑問に思ったものだ。

 

「いい加減にしろよ『龍門スラング』!」

 

「そちらこそいい加減にしてほしいわね『龍門スラング』!」

 

なぜなら龍門近衛局には犬と猿以上に仲の悪い龍と猫がいるからだ。

 

「人を挟んで龍門スラング連呼するのやめてもらえない?」

 

一日の業務を終え、トラブルもなく今日は定時に帰れると内心喜んでいたノクティスは苦労人気質な後輩でも誘って食事にでも行こうかと考えていると、突然室内に一人のフェリーンが駆け込んで来た。

そのフェリーンの名はスワイヤー。

龍門近衛局に所属する上級警司である。

知らない仲ではないしそれなりに付き合いもあるので何となく駆け込んで来た理由を察するノクティスであったが、一応確認のため何かあったのかスワイヤーに問いかけた。

 

そして半泣きになりながらノクティスに縋り着いたスワイヤーは一言

 

 

「書類仕事が終わりませんわー!!」

 

 

チェンと同じ上級警司というだけあってスワイヤーは優秀である。

戦闘力こそチェンには劣るものの、指揮能力については同程度の力量を備えている。

そんな彼女だが、決して事務仕事ができないわけではない。

部隊に振り分けられる予算や人員の割り当てに補充。

その他にも細かく分類すれば多種多様な仕事が割り当てられている。

むしろ優秀であるが故にそこまで仕事が集まってしまっていると言っても過言ではない。

 

ただし、人には対応できる限界値というものが存在している。

いくらスワイヤーが優秀とはいえ、デスクに乗り切らないほどの書類を処理しきれるかと聞かれれば確実に無理だろう。

自身のデスクにそびえ立つ書類の山を泣きながら処理していたスワイヤーがあまりにも不憫であったノクティスがその処理を手伝ったことがあり、それ以来度々書類仕事を手伝ってくれとスワイヤーが泣きつくようになった。

 

一度手伝ったこともあり、一度手伝いをした以降自分の仕事が立て込んでいない時限定という約束でノクティスはスワイヤーの手伝いをたまにしていた。

しかしどこで聞きつけたのかスワイヤーの仕事を手伝っている際にチェンが怒鳴り込んで来たことにより、スワイヤーの仕事場は気兼ねなく龍門スラングが飛び交うアットホームな職場へと早変わりしたのであった。

 

 

 

 

「だいたい今ノクティスがやっている仕事は誰の仕事だ? まさか上級警司ともあろう者が他人にやらせたりはしていないよな? どうなんだスーお嬢様?」

 

「うぐっ・・・・・・そ、そういうあんたは自分の仕事はどうしたのよ!」

 

「私はどこぞのお嬢様と違って仕事はきっちりとこなすタイプだからな。すでに今日の仕事は終わらせてある」

 

「うぐぐぐぐ・・・・・・」

 

余裕綽々といった顔で煽るチェンと悔しそうに歯ぎしりをするスワイヤー。

なんとも対照的な姿であるが、二人がこのように衝突するのも見慣れた光景である。

近衛局の局員であればだいたいの者はまたやっていると呆れながら、巻き込まれないように遠巻きに眺めることだろう。

ノクティスの部下など一部の猛者はどちらが勝つか賭ける者まで出てくる始末である。

 

「二人とも収拾つかなくなるからその辺にして。チェンは何か用事があってここに来たんじゃないの?」

 

頭上で飛び交う龍門スラングもいい加減聞き飽きたノクティスの一声で一旦言い合いをやめた二人は、不満そうな雰囲気を出しながらも視線をノクティスへと向けた。

 

「・・・・・・そうだな、お嬢様なんぞに構ってる場合じゃなかった」

 

「突っかかってきたのあんたでしょうが!」

 

「あぁもう話が進まないってば、スワイヤーちょっと静かにしてて」

 

犬歯をむき出しにしてチェンを威嚇するスワイヤーを押さえつけて話の続きを促すノクティス。

押さえつけられたスワイヤーは納得がいかないといった表情で暴れるものの、戦闘技術で自分の上をいくノクティスの無駄に高い抑え込みを振り払うことは叶わないのであった。

 

「ノクティス、おまえの部隊がまたやらかしたぞ」

 

話を進めるための措置とはいえ側から見たら至近距離でくっついて戯れあっているようにも見えるその光景に顔をしかめるチェンではあったが、これ以上話しが進まないとこの後の予定に響くことになると自制をして持っていた書類の束をノクティスへと差し出した。

 

「食い逃げの犯人を捕まえようとして複数の露店を破壊。射撃訓練場がアーツによる爆発で大破。食堂での乱痴気騒ぎ。どれも怪我人は出なかったものの周囲の器物損壊が激しいらしい」

 

「・・・・・・つまり?」

 

「当事者たちはもちろんだが、監督不行届ということでおまえ含めた全員で始末書を書けとのことだ」

 

「・・・・・・・・・・・・チェン」

 

「私は手伝わないぞ。部下の尻拭いはおまえでしろ」

 

「なんて温かさのない言葉なの・・・・・・」

 

ガクリと肩を落としたノクティスは受け取った書類の束を眺めて再度ため息をつく。

 

「これじゃスワイヤーを手伝う暇がないわね」

 

「そんなっ!?」

 

「そもそも手伝ってもらうこと自体がおかしいことを自覚しろ」

 

普段であればそんなチェンの言葉に噛み付くスワイヤーだが、ノクティスの助っ人がなくなったことが余程ショックだったのか、スワイヤーは呆然とした顔で惚け続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「終わった・・・・・・色んな意味で」

 

すでに日付が変わろうかという時間帯。

書き上げた始末書をまとめたノクティスは力尽きたように自身の執務机にもたれかかった。

問題を起こした部下(バカども)に始末書を書かせ、色々と酷い内容を修正し、自分の始末書も書き上げる。

もちろんその間に問題が発生すれば駆り出されることになる。

そして駆り出された先で部下(バカども)が暴れれば、帰ってくる頃には始末書の量が増えている。

いったい何の拷問かと普段浮かべている笑顔が凍りつくぐらいにはノクティスも追い詰められていた。

そんな始末書地獄から解放されたノクティスは、提出は明日にして今日はもう帰ろうと立ち上がったところで不意に違和感を捉えた。

 

「・・・・・・これは」

 

しばらく虚空を見るように顔を上向きにしたノクティスは、次の瞬間弾かれたように側に立てかけてあった二振りの剣を手に駆け出した。

 

「うおっ!? どうしたんだよ姐さんそんなに慌てて?」

 

「D区画に侵入者よ! 私は先行するから残ってるメンバーを集めてきなさい!」

 

「う、うっす!」

 

突然走り出したノクティスに驚いたウルサスの青年は突然の指示に驚きながらも返事を返す。

返事を聞いた時点でノクティスは走る速度を急速に引き上げた。

時折残業をしている職員とぶつかりそうになるものの、目を閉じてるとは思えない反射神経で速度を下げないまま避ける姿はぶつかりそうになった職員が見惚れるほどに綺麗であった。

程なくして問題の区画についたノクティスは、走っていた速度を落とし鞘に収めている剣の柄に触れながら辺りを確認した。

 

(この辺りは近衛局に関係のある資料室だったわね・・・・・・)

 

所狭しと並べられた資料棚の中には近衛局に関係する様々な資料が保管されている。

侵入者の目的はわからないが、ここまでの侵入を許すことになった事実自体がマズイことだとノクティスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

少なくともこれを知ったチェンによる職員全員の強化訓練という名の地獄のシゴきは免れないだろう。

 

「どうせバレてるんだし隠れん坊はそれくらいにして出てきたらどう? 力づくがお望みならそれでも構わないけど」

 

ある程度の位置は掴めていると一定方向に顔を向けたまま構えるノクティスに、その言葉が張ったりではないと感じたのか虚空から滲み出るようにフェリーンの少女が現れた。

 

「・・・・・・驚いた。まさか私の気配に気付くなんて・・・・・・近衛局は無能の集まりってわけでもないみたいね」

 

「面白いアーツね。ここまで来れたってことはセンサー類もくぐり抜けられるのかしら?」

 

「さてね・・・・・・私としてはどうして私のことがわかったのか知りたいところではあるんだけど・・・・・・教えてくれるわけないわよね?」

 

「そうねぇ、素直に捕まってくれるんなら教えてあげないこともないわよ」

 

「そう・・・・・・・・・・・・なら私が知ることはできないわね」

 

そう呟いた少女は素早く腰元につけているポーチから投げナイフを取り出し流れるような動作でノクティスへと投擲した。

 

「まぁ素直に捕まってくれるわけもないわよね」

 

投擲されたナイフを抜刀した剣で弾き飛ばし少女との距離を詰めようとするノクティス。

しかし、ノクティスが一歩前に出た瞬間、少女の姿が霞み景色に溶け込むように消した。

 

(姿が完全に消えるまでのラグが予想よりも早かったわね)

 

少女の姿が完全に消えてしまったことを確認したノクティスは詰めようとしていた距離を逆に後ろに下がることで空け、一つしかない出入り口を塞ぐことにより逃走経路を封じた。

 

「ここの資料室の出入り口はここ一つ。見たところあなたは正面から戦闘をするのは苦手なタイプかしら?」

 

投げナイフによる牽制と隠密性の高いアーツ。

先程弾き飛ばしたナイフを見てみれば、暗闇での視認性を低くするために特殊な塗料で黒く塗装をされていたことから推測にするに、相手は暗殺や諜報などをメインに行うタイプであることが予測できる。

ならばノクティスは逃げられないように出入り口に陣取ってしまい、応援が駆けつけるまで時間稼ぎをするだけで相手の逃走を阻止することができる。

 

「ただ・・・・・・そう簡単な話でもなさそうね・・・・・・」

 

再度投擲されたナイフを弾くと、ノクティスは面倒そうに眉根を寄せた。

二回目に投擲されたナイフをノクティスは難なく剣を一振りすることで無力化していたが、第三者が見れば一連の攻防は虚空に向かってノクティスが素振りをしているようにしか見えなかっただろう。

 

「まさか自分の体以外のものも見えなくすることができるなんてね」

 

『・・・・・・それを容易く対処しているあんたは何なわけ?』

 

虚空から反響するように聞こえてくる声を聞き、音による相手の位置の特定も困難なことを確認したノクティスは、不敵な笑みを浮かべて抜いていなかったもう一本の剣の柄へと指をかけた。

正直なところノクティスは完全に少女の位置を捉えられているわけではない。

今ノクティスが捉えている景色は通常人が見ることのできる視界と同じである。

薄暗い室内に所狭しと詰め込まれたような資料棚。

色、明るさ、質感、目をつぶっていてもその全てを見ることができる。

その中でボンヤリとノイズでもかかったかのように景色が滲む箇所が存在しており、そのノイズのような部分が少女のアーツが影響している場所であるとノクティスは考えている。

一定の空間が丸ごとノイズがかかっているようになっているのは、おそらく少女のアーツが一定の範囲に影響を及ぼすタイプのものであるからだ。

 

(二回目に投げてきたナイフにも同じようにノイズを確認できたから、投擲などであの範囲から出ても能力の影響は作用するようね)

 

ただしナイフにかかっていたノイズがすぐに霧散したことから、範囲外への持続性はそこまで高くないのだとノクティスは推測し脳内で対応策をシュミレートする。

現在ノクティスがすぐに思いついた対処法右方は二つ。

一つはノイズがかかっている場所に向かって満遍なく均等に攻撃を放つこと。

もう一つは自身のアーツを完全に解放すること。

下手に時間を稼いでしまうと相手にも逃げられる可能性も高くなると判断したノクティスは、右手に持つ剣を構えたまま指を添え未だ抜いていなかったもう一振りの柄を逆手で握り込む。

 

「なら・・・・・・答えは一つね」

 

『何か企んでるようだけど、その前にあんたを始末すればそれで終わりよ!』

 

再びノクティスに向かって投擲される複数のノイズ。

先程の小手調べと違い今回は同時に二十。

そのどれもが急所か重症になるような場所に狙いを絞られている。

小手調べによってノクティスの反応速度を見た少女は、現状の最適解として物量によって手傷を負わせることを選択した。

所狭しと並べられた資料棚によって身動きの取りづらい室内で剣を使用しているノクティスは動きが制限され対処法が狭められる。

真っ正面から戦えば自らに勝機がないことは最初の小手調べで少女は察していた。

だからこそ相手を仕留めるのではなく逃走できる可能性を高める選択肢を選んだ。

少女にとってはノクティスを始末することが目的ではない。

だからこそ最適解として物量による攻撃を選択した。

 

「あなたが私のことを捉えられるか試してあげる」

 

ただし、必ずしも最適解が正しいとは限らない。

 

『・・・・・・は?』

 

それは一瞬であった。

剣が鞘から抜かれる際に発生する鞘走りの音を認識した瞬間、アーツによって姿を消していた少女の体から鮮血が舞った。

一つ、二つ、三つ、大小様々な深さの切り傷。

数メートルは空いていた二人の距離はいつの間にか零となり、少女の瞳には剣を振り抜いた状態のノクティスがただ写った。

 

「捉えた」

 

あまりの事態に理解が追いつかず呆然とした呟きを漏らし動くことのできなかった少女は、大凡の位置を掴んだノクティスに詰めの一撃を放たれ後方へ吹き飛ばされてしまう。

 

「少しやりすぎたかしら?」

 

受けたダメージによってアーツが解除されたのか、複数の斬撃を受けた姿で横たわっている少女を確認したノクティスは、手加減を間違えたかと漏らしながら抜刀状態の剣を鞘へと収めた。

ある程度手加減はしたが、それでも裂傷によってズタボロになっている少女は誰が見ても重症だと判断する状態だ。

最後は確実に意識を刈り取るつもりで峰打ちを叩き込んだが、思ったよりも重症な少女の姿を見てどこか他人事のように呟きを漏らした。

 

「おまえの部下が騒いでるから何事かと来てみれば、これはどういう状況だ?」

 

「なんでチェンの方が早く来るのよ・・・・・・スクトゥムのやつは?」

 

「あいつならB区画の方へ走って行ったぞ、大方D区画とB区画を間違えたんじゃないか?」

 

「あのバカ・・・・・・それじゃあチェンはどうしてこっちに来たの?」

 

「おまえが先行していることを聞いたからな、念のため他の職員に確認をしたらおまえが慌てた様子でD区画の方に走って行ったと聞いたからこっちに来た」

 

その言葉を聞いてノクティスは自分の部下の不甲斐なさを嘆けばいいのか、チェンにまったく信用されていない部下のことを哀れめばいいのかわからなくなった。

 

「それで? この倒れてるやつは?」

 

「侵入者よ。姿を消すアーツで侵入してきたみたい」

 

アーツを使われたとはいえ簡単に侵入者を許すことになったことに、警備体制の見直しが必要だと嘆息しながらチェンは通信機を手にとった。

 

「こちらチェン、D区画の第二資料保管室に至急医療班を寄越せ。それなりの重症だ、医療系のアーツを使える者が所属している部隊にしろ」

 

それだけを簡素に告げたチェンは室内を一度見廻し頭痛を抑えるように額に手を当てた。

 

「それにしてもこの惨状はひどいな、もう少しどうにかならなかったのか?」

 

「仕方ないじゃない、長引かせると面倒そうな相手だったのよ。それにチェンにだけは言われたくないわ」

 

飛び散った血飛沫によって汚れてしまった資料や、斬撃の余波によって無残な姿となってしまった保管庫など確実にいくつかの資料はダメになっていると見受けられる状態に、チェンはもう少し考えて対処をしろと呆れたようにこぼすが、ノクティスからすれば現場でチェンが抜刀した場合高確率で周りの物を巻き込んでいる姿を見ているため、完全にお前が言うな状態であった。

 

「とりあえずこいつの取り調べは治療が完了次第だな」

 

「あ、取り調べについてなんだけど、それ私にやらせてくれない?」

 

「珍しいなおまえがそんなことを言うのは・・・・・・まぁおまえが対応したわけだし私は別に構わないが、ウェイ局長への報告はおまえがしとけよ」

 

「はいはい了解」

 

「それと、この惨状については始末書になるだろうからサボらずに提出しろよ」

 

「・・・・・・え゛」

 

やっと始末書の山から解放されたというのになんという仕打ちかと固まるノクティス。

しかし、最重要クラスではないとしてもここで保管されていた資料は充分に大切な物である。

それを少なからずダメにしてしまったのであれば、むしろ始末書だけで済むのであれば軽い方だろう。

 

「どうせそいつは意識が戻るまで取り調べはできないんだ。心置きなく始末書を作成してくれ」

 

「・・・・・・・・・・・・『龍門スラング』!!」

 

某日深夜、龍門近衛局にてループスとフェリーンの局員が泣きながら書類仕事をしている姿を夜勤勤務の局員が多数目撃したらしい。

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