むだばなし。
(『広辞苑』より抜粋)
時間は少し遡る。
風間夜が黒江花子をカフェに連れていったその日、意気投合した黒江・風間ちえる・真行寺由仁の三人は連絡先を交換し、その日の夜にはもう深夜の女子トークに花を咲かせていた。
が、由仁が思いのほか早い時間に寝てしまった(実際はアストルムへのログインである)ため、ちえるは黒江に疑問に思っていたことを投げかける。
「花子先輩って」
「なに」
「ぶっちゃけ、夜と付き合ってるんですか?」
──その突然の問いに、黒江は飲んでいた茶を吹き出した。
幸い場所は自室で周囲に弟たちはおらず、そっと胸をなでおろす。もしいたならば、携帯画面を覗きこむなり余計なことをしてくるに違いないからだ。
心を落ち着かせて、画面をフリックする。電子メールは返信に時間がかかっても良いところが利点なのだ。
「いや、違うけど」
「そうなんですか? 今日カフェで話してる感じだと、どう見ても付き合ってる感バリバリ出してましたけど」
「いや、違うけど」
「あー。しらばっくれる作戦ですね」
「いや、違うけど」
「あれ私もしかしてAIと話してます? りんなちゃんですかー?」
(…………)
電脳世界に火花が散った。
これが仮に電子メールでなく実世界ならば、黒江は否が応でもちえるに問い詰められ〝何か〟を口走ってしまうこと確実だっただろうが、幸いにも今は無視という手段が使える。
「んじゃあ、質問変えます。夜のこと好きですか?」
まあしかし、風間ちえるはそんな易しい女ではない。
「いや、違うけど」
「おいそれやめろ」
「いやホントに違うんだって。あいつに恋愛感情とか無いし、多分あいつもうちのことそんな風に思ってない」
「あ、それはそうかもしれないですね」
「え」
──え?
何を思って自分はこの言葉を打ったのだろう。黒江は思案する。
黒江自身に、風間夜に対する恋愛感情はない。これは事実だ。しかし逆はどうなのか。夜は口ではどうのこうのと言いながら、なんだかんだ自分のことを好いているのではないか──などと、考えていたのだろうか。
心が締めつけられるような感覚がした。
「いやだって夜、士条さん? のこと気になるって言ってましたし」
「それはうちも知ってる。けど、好きってより憧れだってのも聞いた」
「んー……。似たようなもんじゃないです?」
「そうなんかなあ」
「てか、めっちゃ食いつきますね。やっぱ好きなんですか?」
「いや、違うけど」
「おいそれ」
(……………………)
返す言葉がなかった。
〝黒江花子は風間夜を好きではない〟ということをちえるに理解させる言葉が出てこなかったのだ。
なぜ出てこなかったのか。事実ではないのならば、超名門高校で優秀な成績を収める黒江なら、ちえるを納得させる言葉程度出てくるはずだ。
(……つまりは、そういうこと?)
「ちょっと、考えさせてよ。うちもまだわかんない」
「……いや、すみません。ちえるもいろいろ突っ込んじゃって。今日はもう寝ます」
「うちも寝るわ」
寝るわ。
文字を打ってから、ベッドに横になる。まだ終わっていない課題、それに加えて夜と競うために行う追加の勉強。明日も朝早くから家族の食事を作り、洗濯物を干さなければならない。毎日の日課だ。
けれど、そんなことをする余裕は既に黒江には無かった。
頭にとある男の顔がチラついて離れない。おそらく自分が生きてきた17年間の中で最も親しく過ごし、最も濃密な時間を分かちあった男。
最早家族同然だった。そんな男──風間夜を自身は意識しているのだろうか。
「わかんないってばぁ……」
その夜は何もせず、ただ放心状態で寝たという。
むだばなしなんで、文字数も少ないですね
嘘です 久しぶりに書いたので体力が持ちませんでした、続き頑張って書くので許してください