クロエに恋愛の愚痴をこぼすだけのお話   作:skaira

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クロエとの会話が一番書いてて楽しいね


授業②

 火曜日。

 朝はあまり黒江と一緒に登校することは無い。単純に時間が合わない(割と黒江は遅刻ぎみ)ってのと、さすがにそこまでくっついてると恋人だとか噂されるのが目に見えてるからだ。それはお互いのためにならない。

 

 けれど、のっぴきならない事情があった場合はまた別。

 世の中ケースバイケースが全てなのだ。よしんば理系であったならこんな柔軟な発想はできない────いや。

 ……昨日の真行寺先輩の小言に随分と影響されてしまったようだ。

 

「なにその顔。隣で変に悩まれるとこっちも気ィ揉むんだけど。なんかあんなら言いなさいよ」

「呪詛祓いの秘法とかねえかなって……」

「……は? ……精神科じゃね?」

「いや真に受けんでいいよ。まあ、昨日一悶着あってだな」

「なに、ケンカでもしたの? 友達いないってのに?」

「お前ほんっっと一言余計じゃない?」

「……んで。何があったのよ」

「んー……。百聞は一見に如かねえんだよな。お前今日バイト?」

「や、今日は非番。明日からは3連勤で土曜が休み、日曜はある」

「ひっでースケジュール……。いやもし暇なら俺のいとこに会わないかって思ってさ」

「それってチエルって娘のコト?」

「あ、そうそう。それともう一人、真行寺先輩って人もいんだけど」

「名前は?」

「由仁。ちえると由仁先輩だな」

「ユニ……? その人うちの先輩じゃなかったっけ?」

「お前らのその深層意識での繋がりみたいなの何なの?」

 

 とか言ってるうちに、学校に着いた。

 幸い同級生には1人も会わなかった。まあ、アイツらは徒歩での登校とかしないだろうから元々杞憂だったのかもしれない。

 ましてや時刻を黒江に合わせたもんだから遅刻ギリギリだ。まあこれに関しては俺が悪いんだけど。

 土曜の夜に着たパジャマ──つまり、黒江が高校で使ってる体操服を月曜に返すのを完全に忘れていて、体育のある火曜に返すことにしてしまった俺が悪い。

 

 体操服ってのは中学卒業したての奴らが高校3年間を見越して繕うから、サイズの大きいものが使われる。ましてや、黒江は身長にコンプレックスを持っている(154cm)もんだから少し人より大きめに作ったんだろう。俺がわりと小さいと感じる程度の大きさだった。

 で、体操服を返す瞬間とか学校の誰にも見られたくない訳で。教師に知られたら何が起きるか知れたもんじゃない。てなわけで、遅刻覚悟で黒江の家にまず向かって、それを返してから学校に向かったという訳だ。

 

 ちなみに、今日の体育は男子はサッカー、女子はバスケットだったはず。さすがにいくら男女カップルが好きなこの学校といえど、体育まで一緒にさせようなんて思考には至らないようで。

 黒江はわりと三面六臂の活躍をしているらしい。

 もっとも、運動神経がかなり良いのは知ってるからさして驚くようなことでもないが。そういうところも起因して、コイツは女子たちから黄色い声援を貰ってるんだろう。

 

 俺はいつもの如くハブられてるから、たまに黒江の活躍してる様子を見に行ったりする。想像してた様子と見事合致してる光景が目の前に現れて、行くまでもなかったなと思うことが多い。

 まあそんなものでも、頭を使わずに思いっきり羽を伸ばせる体育の時間は貴重だ。

 

 ────だったんだけど。

 

 

「今日は雨なので、体育館でフォークダンスの練習をしますよ」

 

 体育の時間。

 女子が更衣室に行く前に体育教師が教室に来たと思えば、口に出したのはそんな言葉だった。

 フォークダンス──男女で手を取り合って踊る、体育祭とかでよく見られるアレ。

 勝手にこの学校が好きそうランキング1位に俺の中でランクインさせていたものだけど、どうやら本当に好きだったらしい。

 別に不必要だとは言わない。逆に男女間の優雅な交流を念頭に置くこの学校なら、むしろ必要とも言えるものだろう。しかしそれはそれとして、スポーツよりつまらないことに変わりはない。

 黒江が大きくため息をついて、更衣室へ向かった。

 

 んでまあ、これは完全に予想通りではあったんだけど。

 着替えて体育館に整列して開口一番教師が言ったのは、〝男女のペアで今日は練習しますよ〟ってことだった。

 もはやツッコまない。

 

「やるよ、風間」

「へいへいお姫様……」

「なに。不満なの? だったら別に他の男子とやるけど」

「ちょま、そうじゃなくて! いや黒江さんでいいですってば」

「あ? うち〝で〟いい?」

「……いや、黒江さん〝が〟いいです」

「もう一声。ちゃんと動詞を具体化して」

「はっ?」

「ほら、今から何すんの」

「あー……〝黒江と踊りたい〟です」

「ふーん。ま、そこまで押されちゃしょうがない」

「このアマが……」

 

 この借りは授業の時にメタクソにマウント取って返す。

 昨日真行寺先輩にいろいろと教えてもらって、その教え方が神がかっていたせいか知識が随分と身についた。これで古文やら日本史やらでコイツに遅れを取ることは無い。

 

「で、この授業も男女ペアで放任すか。こういうのは生徒の自主性とかって言わないんじゃね?」

「至極真っ当だな。ま、かと言って俺らは何もできんのだけどね」

「教育委員会とかに訴えりゃうちら勝てると思わん?」

「そこまでして現状変えたいか?」

「なわけ。これはこれで楽しんでるっつの」

「ま、だよな。とりあえずやってる体だけ見せとこうぜ。体育館でサボると目立つ」

「わかってるって。んじゃはい、お手」

「もうちょっと言い方ってやつをだな……」

 

 フォークダンスにもいろいろあるんだろうけど、うちの学校が採用してるのは女子が前、男子が後ろに立ち、女子側の肩と腰あたりで手を取り合うタイプ。

 もっとも、1人あたり数秒で次のペアへと交代してしまうものだから、こうして2人だけで練習する場合はやれる事は限られる。

 毎年こうさせてるんだから改善点も教師側はわかってるもんだと思うけど、男女2人のペアに固執してしまうものだから肝心のフォークダンスの練習が疎かにならざるを得ない。

 こういうのを本末転倒って言うんだよね。

 

 まあ、不平を言っても始まらず。

 

「……なんかアレだね」

「アレ?」

「……こう、さ。ずっと手ニギニギしてると、汗がさ」

「あぁ。そりゃ手汗は出るだろ」

「や、ゴメンね、汚くて」

「え。何急にしおらしくなってんの。需要無いぞ」

「……は?」

「ッ痛ぅ!!」

 

 思い切り手のひらに爪がくい込んだ。かなり痛い。

 俺から見えるのは黒江の後ろ姿だけだけど、それだけでも黒いオーラが立ち上ってるのがわかる。失言でしたね。

 でも、落ち込んでる黒江なんて正直見たくないってのが本音で。

 ぶっちゃけると、「……あ? 手汗? んなもん出るだろ。何気にしてんの。キモ」くらいの言葉をかまして欲しかった感がある。

 

「ま、まぁ、今さら手汗なんて気にする仲じゃなくないすか」

「や、それでもね? 乙女っつのは気にしちゃうもんなのよ。わかる?」

「そういうのは乙女らしい言葉遣いをしてから言ったらどうだ?」

「あ?」

「ッッ痛ぅ!!」

「……いやアンタさ。こう、同じ轍を踏まない努力をさ……」

 

 その時、外で大きな雷が鳴った。

 今日は天気予報が雨だったとはいえ、こんなに激しい天気になるのは久方ぶりか。少し体育館を見回すと、お嬢様達がペアの坊ちゃん達にしがみついてる様子とかが見えた。

 そんなに怖いもんかね。真っ黒社会の公立中学出身としては露骨なアピールにしか見えないもんだが。ましてや、相手の男子が将来的に関係を持っておいて役に立つ存在なのだから、疑いはさらに深まるばかりだ。

 

 相手の男子くんもまあ、鼻伸ばしちゃって。

 うちの中学にも世間一般的な金持ちってヤツはいたけど、それでも公立中学の奴らはその肩書きに大して魅力を持っていない。それよりも、スポーツが抜群だとかケンカが強いとか、そういった身体的要素の方が魅力カウントに換算されやすい。

 でも、ここは皆が皆金持ちで、だからこそこの肩書きが魅力的であることも理解していて。それだけに、こいつらは自分自身には何も無くても実家が太いってだけで自分が魅力的に映ることを理解してやがる。

 だから当然嫌がったりも照れたりもしないし────。

 

 ────黒江にあんな高圧的な態度で告白したりもするって訳だ。

 

 ま、僻みったらしく言ってるけど金持ちが魅力的なのは事実だから何も言えない。

 

「社会の縮図ってのを見てんねぇ。ほらあそこ、逆に男が女にペコペコしてんじゃん。多分あれ、女の方が金持ちなんだろうね」

「だろうな。お前は雷とか怖くないの?」

「うち? あー。なんか子供の頃は怖がってたらしいわ。けど今は弟たち守る立場だからね。雷如き怖いとか言ってらんねえっつの」

「たくましいっすね……」

「アンタも妹弟を持ったらわかるよ」

「……にしては、握る手が強いような気もするけど」

「……ちょい、デカい音にビクっただけ。不可抗力。……てかそういうアンタこそ力強いっての」

「ほら。ちょいびっくりすると人って力むじゃん。アレよ。もう離すから」

「……や、別にそれはいんじゃね? 傍から見たらこれ、めちゃくちゃ授業に熱心なペアでしょ。……ん、そうそう。そーしとき」

「なんだこれ……」

 

 黒江の手のひらが熱い。強く握られてるのもあるけど、多分俺の手と黒江の手の間にめちゃくちゃ手汗が溜まってんだろう。

 全くもって。さっきまで手汗云々言ってた奴とは思えない。

 ──まあ、だけど別に俺も離れたい訳じゃないし。むしろこの雷で皆が皆くっついてる中、俺らだけ離れるとか逆に不自然だし。不可抗力。

 ……放課後ちえるに何か言われるの必定だな。あいつこういうの目ざといから。

 

 そのまま変な空気を2人で味わって、体育の時間は終わった。

 

 




「ここすき」って機能、めちゃくちゃ嬉しいので気楽になさってくださいな


学校が忙しすぎて少し停滞してます、一週間に一度たりとも腰を落ち着けて書ける時間が無いのでもう少しだけ待っててください
いやほんとすみません……。
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