「不思議な…気分だ…」
そう呟いて父さんは静かにその瞳を閉じた。
その表情は、確かに笑っているように見えた。
これは、夢だ。
あの日、
世界が変わり、そして不思議な青年と出会った日、
父さんを倒し、自分の世界を取り戻した日、
出来ることなら、あの日に戻りたい。
まだ、人間もヒューマギアも笑って暮らしていたあの日に。
「…と、…う」
耳元で、懐かしい声が聞こえる。
このまま暗闇を揺蕩うような感覚に身を任せていたい。
「或人社長」
その声がはっきりと形を結んだとき、俺ははっと目を見開いた。
「或人社長!目が覚めたのですね」
そこは飛電製作所に置かれた簡易ベッドの上だった。
どうやら俺の秘書ヒューマギアであるイズが看病してくれていたらしい。
ぼんやりと自分の記憶を手繰り寄せる。
そうだ、俺は確かアークゼロに倒されて、ゼロワンドライバーを奪われ……
「イズ!ゼロワンドライバーは!?」
慌てる俺に対し、イズはあくまで冷静に告げる。
「1週間前、ゼロワンドライバーと衛星ゼアはアークゼロに掌握され、飛電インテリジェンス内でされていたヒューマギアたちは暴走、A.I.M.S.とZAIAが対応に当たっています」
どうやら自分は1週間も昏睡状態にあったらしいという衝撃とともに、それ以上に絶望的な状況が知らされる。
「今飛電インテリジェンスはどうなっているんだ…!?」
「本社ビルはヒューマギアによって制圧され、更に人類を無差別に攻撃し始めました」
「それじゃあまるで…」
あのときみたいだ。
そう言おうとした言葉をぐっと飲み込む。
あのときはゼアの打ち上げによって改変された世界を元に戻すことができたが、今回は。
改めて絶望感が俺の両肩にのし掛かる。
「或人社長、今は彼らに任せて安静にしていてください」
イズが俺を気遣う言葉を投げる。
しかし俺は、ここで寝ている訳にはいかなかった。
アークゼロは俺に二度とゼロワンには変身できないと言った。
でも俺は、まだ戦える。
「俺にはまだ…001がある」
俺は社長机の引き出しから、滅亡迅雷フォースライザーを取り出した。
それを見たイズが驚愕の表情をする。
それもそのはず、あのとき父さんから渡されたフォースライザーは、世界の修復とともに失われたはずだからだ。
だからこれは父さんから受け取ったものではなく、迅が以前飛電製作所を訪れた際に、もしもの保険として置いていったものだ。
「駄目です或人社長!今の状態では…!」
確かにただでさえ危険が伴うフォースライザーでの変身に加えて、負傷した今の状態で戦うのは大きなリスクが伴うだろう。
それでも俺は、
ここで指をくわえて見ている訳にはいかない。
俺の決意が伝わったのか、イズは口元を引き結ぶと、出入口への道を開けた。
「お気をつけて、いってらしゃいませ」
いつも通りのその口調に、ほんの少しだけ緊張が和らぐ。
「いってきます」