斬魄刀を極めたらTSしたんだが?   作:MKeepr

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なんでじゃ

「なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 一番隊隊舎に併設された鍛錬所の一角で、甲高い叫びが空高く放たれた。そこは丁度一番隊三席の鹿取左々乃介(かとりささのすけ)が鍛錬の為使用中であった為、通りすがった隊士は何事かとその扉を開いた。

 しかしその場に人の姿はなく、また霊圧も感じない完全な無人であった。優秀な隊士の集う一番隊の鍛錬所での明らかな異常にすぐさま副隊長である雀部長次郎忠息(ささきべちょうじろうただおき)が呼ばれた。

 現場に現れた雀部副隊長が鍛錬所の中を検分すれば、霊圧の残滓が感じられる。間違いなく鹿取三席の霊圧である。

 

「鹿取三席に何が?」

 

 彼もまた雀部と同じく総隊長山本元柳斎重国を信奉する隊士であり、しかもその土俵に立ち勝つことを目標とするなど、ある種雀部よりも傲慢で高い目標を持つ者であった。

 同じく卍解を取得しているが隊長昇格を曰く「それより修行」とのらりくらりと回避し続け、総隊長に次は問答無用で隊長に着いてもらうとキレられた問題児でもある。

 それでもその修行量に裏打ちされた戦闘能力は三席でも最強、というより隊長と比べても勝る程でそれが突如叫び声と共に消えるなどただ事ではないと雀部は冷や汗を流した。

 

「南の心臓、北の瞳、西の指先、東の踵、風持ちて集い、雨払いて散れ。縛道の五十八、掴趾追雀(かくしついじゃく)!」

 

 すぐさま雀部は縛道を用いて鹿取の居場所を探そうとしたが、肝心の鹿取の霊圧を縛道が探知しなかった。まさか、と嫌な予感がし縛道の出力を上げると、鹿()()()()()()()()()()()()を感知することができた。

 掴趾追雀に対する対抗措置を取っていたのかと訝しんだが、場所は判明した。一番隊隊舎内に存在する死覇装等を仕立てている縫製室である。ここからそう離れてはいない。念の為総隊長に報告すると「何かあった場合お主では抑えが効かぬ」と先頭に立って雀部が後ろに控えるいつもの状態になって縫製室の扉の前に立った。

 今日は休みの為中は静かで鍵もかかっている。

 

「あの悪戯小僧めが、いつまで経っても護廷の手本となることをわかっておらん」

「元柳斎殿からすれば皆小僧小娘赤子でしょう?」

「然り、だがついつい甘やかしてしまうのは悪い癖じゃ今回も意味のわからん騒動を起こしおって」

 

 総隊長の言葉こそ文句タラタラであるが、声色はそれをむしろ喜んでいるように聞こえる。小僧が自分を追い越そうと努力する様は見ていて気分の悪いものではないのだ。

 鍵を開ける瞬間内側で霊圧の揺らぎが発生した。中にいるのは間違いないようだ。隠している訳でもないのにここまで接近に気づかなかったとは、そして動揺が霊圧に影響するなど鹿取もまだまだであるとため息を吐いた。

 だが二人が見たのは想像を絶するものであった。

 

「そ、総隊ちょっ⁉︎ 雀っ⁉︎ いやっ違いますー(それがし)いや私鹿取ではなくごく一般的な死神でして‼︎」

 

 そこにいたのは身長六尺(180cm)の恵まれた体躯を死覇装に身を包み髪を総髪に後ろで纏めた偉丈夫ではなく、大きな死覇装の裾を全力で引きずりながら機織り機の影に隠れようと必死になっている身長五尺(150cm)程度の女死神であった。

 腰の両脇に太刀のように吊っていた斬魄刀や総髪など服装の特徴は完全に一致しているのだが着ている死神があまりにも別人である。

 雀部が顎を落としたまま固まっている中、元柳斎はその顔に笑みを浮かべた。

 

「ふ、鹿取め。儂が驚かさらるなど何時ぶりか。満足したじゃろう悪戯小僧め! 出てまいれ!」

 

 元柳斎はこの女死神が結界を纏っている事にすぐさま気づいた。恐らくはそれを利用して自身の霊圧をこの女性から発せられているように偽装しているのだと。

 杖で床を叩き霊圧を少し高める。この女死神も鹿取の悪戯に付き合わされ気の毒に、己一人で悪戯を仕掛けるなら多目にみるが、他人を巻き込んだ以上罰せねばなるまいと元柳斎は目を細めた。

 しかし鹿取は姿を現さない。

 

「そこの、鹿取の行方は?」

「いや、その総隊長」

 

 高まる霊圧に後ろに控える雀部が冷や汗を流す。出てこない鹿取に業を煮やしているようだ。

 女死神もあわあわしているが、ここでふと雀部は思った。これほどの圧を至近で受けては席官クラスでも膝をついてしまうであろうに目の前の女はケロリとしているのである。

 

「ああもう白状します! だから霊圧をお静めください総隊長!」

「よかろう、して鹿取は何処に?」

「こちらに」

 

 その場で女が伏せた。それを見て元柳斎は怒気を強める。

 

「茶番はやめぬか!」

「いえですから本当に某なんですって! ここにいる某こそ一番隊三席鹿島左々乃介でございまする!」

「証明は」

「先日茶を立てるのに流刃若火で湯を沸かしておりましたよね」

「……」

 

 元柳斎と雀部が顔を合わせた。雀部は顎をもう一度落とし元柳斎は目を見開いている。どちらも驚愕しているが声を上げないのは流石であった。

 

 

 

 

「して、何故このような状況に?」

 

 手頃な死覇装に着替えて一息ついた三名は執務室に戻り状況の確認に努める事にした。雀部が全員分の紅茶を注ぐ。なお二人分はティーカップでなく湯呑みである。鹿取が湯呑みを取ろうとして手が空を切り、自分の手を少し見つめてから口を開く。

 

「某、斬魄刀の極みを探求し修行を続けていた訳なのですが、某の斬魄刀、鎌風(かまかぜ)から一つの可能性を提示されたのです。非常に困難な、下手をすれば死神としての力を失いかねないと言われましたが護廷の為某はここ数年をその修行に費やしておりました」

 

 話し方や抑揚は二人がよく知る鹿取の物なのに見た目と声の高さによるギャップがあまりにもひどく雀部は目眩がしそうだった。一番目眩がしているのは偉丈夫から可憐な乙女になった本人であろうが。

 

「それで、その状態は失敗したと?」

「……なのです」

「何?」

「成功した結果なのです‼︎」

 

 鹿取は頭を抱えて呻き声を上げた。体を揺らすたび死覇装の下で双丘が暴れているがそこにツッコミを入れる者はここにはいない。それどころでは無いというのもある。

 

「某にも事態が呑み飲めていませぬ、某の鎌風も()()()()とは言っておりませんでした」

 

 ふわり、と無風の室内で小さく風が吹き、鹿取の背中側の死角から鼬が現れ、それに続いて浅葱色の着物に身を包んだ妖艶な美女がその姿を現した。

 

「お初にお目にかかります。主が何時もお世話に」

「鎌風?」

「主が申した通り私にも原因はわからないのです。なので私と主の行った修行の成果だけお伝えさせていただきます」

「良い、事態把握の為顛末を話せ」

 

 美女の頭の上に鼬が乗っかる。

 

「行った修行の成果は私と主の一体化でございます」

「なんと……」

 

 元柳斎と雀部の脳裏にはかつての重罪人の名が浮かぶ。同じようなことを成した者は尸魂界(ソウルソサエティ)の長い歴史の中に存在していた。しかしアレは突如隊士を襲う凶行に出て封印されており、仔細は不明だ。

 

「一体化したというのなら今何故別に存在しておる?」

「一体化とは言いますが、限りなく近いものの融合では無いのです。そして主がこのような姿になるのも全くの予想外。とても愛らしく精神世界に連れ帰って愛でていたいくらいですが、意図して発生した物ではございません」

「つまり対処手段は無い、と」

 

 コクリと鎌風が頷き空気に溶けるように具象化が解除される。

 場に重たい空気が漂うが、カツンと元柳斎が杖で床を叩いた。

 

「鹿島、お主の護廷に対する志はこの程度で折れるものか? いや敢えて言うならば儂を超えると宣う小僧め。この程度のことで止まってどうする?」

「……! たとえ姿形が変ろうとも護廷の為! この度の修行は失敗では無いのだから、いずれは先生をも超えさせていただく!」

「それで良い。変わらず励むのだ」

「御意‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、体が変わっては不便もあろう」

「先ずは女性死神協会に相談するのが良いかと、検査の為十二番隊にも相談する必要もあるのでは」

「えっ」

 

 

「……えっ」

 

 協会と技術開発局に連れて行かれた鹿取の尊厳は死んだ。




思いついたので書きました。
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