「こちらはアレじゃ、一番隊三席の鎌鼬の姪っ子の佐々乃じゃ。あやつが一身上の都合で勇退した代わりに新たに三席になるそうで皆に紹介させてもらった所存じゃ」
「鹿取佐々乃す………佐々乃デスミナサンヨロシクオネガイシマス」
女性死神協会の集会の冒頭でそう紹介された鹿島が拍手を以て歓迎される。本人はとてもぎこちないが協会の面々は緊張しているんだなと微笑ましい様子だ。
肩に手を掛けながらいい笑顔をしているのは現会長の四楓院夜一である。十二番隊の浦原喜助と親しく女性死神であり隠密機動であると言う最適な人材であった為、鹿取を任されたのである。
ここに来るまでが鹿取の受難であった。
先ず技術開発局、検診衣と呼ばれる服に着替えさせられ検査を受けさせられた。この検診衣、布一枚の下は何も身につけていない為非常に心許ない。
「チンタラ歩っとるんやないキビキビ歩けや日が暮れてまうやろ!」
「ひえっ」
「一々ビビんなや! タマついとるんかワレェ!」
検査に同行してくれるのは色々な配慮から十二番隊の猿柿副隊長だが、怒鳴られるたびにびくりとしてしまう己の体に、自分の中の自分のイメージが音を立てて崩れていく。ちなみに検診衣に着替える時に再確認したがタマは竿ごと消えていた。
全身くまなく調べ終えた頃には「これも護廷の為……護廷の為……」と死んだ目で呟きだしたりと、猿柿副隊長が気を遣い始めるレベルの有様であった。
「お疲れ様です。最後の検査は麻酔を使うので霊圧、限界まで抑えてもらっていいですか?」
「ハイ……」
「頑張ってください鹿取サン、何か掴めれば戻る手立てもあるかもしれませんから」
最後の検査は浦原隊長自ら行うこととなり、霊圧をなるべく抑えて麻酔を受ける。並の死神ならすぐさま意識が落ちるが霊圧が高い故に少しの間微睡んだ。
「起きたら元に戻っているといいな……」
と呟きながら鹿取は意識を落とした。
「鹿取サン、検査結果を言わせて貰うと、身体の面は一つ除けば実に健康的な女性死神です」
残念ながらそんなことはなく、死覇装に着替え直して検査結果を聞いている。こっちもこっちで肩幅と胸囲と袖の長さが合っていない。
「確かですか」
「ええ、鹿取さんの隅から隅まで全部調べましたから痛い!」
「言い方がヤラシイわボケ!」
「まあさて置きまして、除いた一つの話をしましょう。鹿取さんの身体には鎖結と魄睡を覆うように謎の臓器があります。これを鹿取さんの斬魄刀との一体化が原因とし仮称ですが
「それがこの状態の原因なんですか?」
浦原が首を横に振る。
「因果関係はあると思うんですが恐らくはこの刃膜がうまく生成されないと鎖結と魄睡両方が機能不全に陥りますね。つまり死神の力の消失」
懐からどう見ても入らねえだろというサイズのホワイトボードが現れ
▲さけつ
❤︎はくすい
と書かれた周りに円を描き刃膜と書き足し、そこにさらに×印を描いて無駄にリアルな爆発の絵を貼り付けられた。
「この刃膜を無理にでも取り除こうとすれば確実に二つの器官を傷つけますから、死神でありたいなら、手を出すのは得策では無いですね」
「うう……某、護廷の為なら姿形など関係ないとつい先程総隊長に宣言してきた所なので……浦原隊長独断でどうにかいい感じにできませぬか」
「未練タラッタラやないかい!」
「その宣言して出て行った部下が私の独断で死神の力を失ったとかなると責任問題がすごいので勘弁ですねぇ。そもサンプルなんて当然皆無なので刃膜をうまく切除できたとして元に戻るとは限りませんし」
「某、頑張るしかないですな」
「頑張ってください。二重の意味で」
「此奴があの鎌鼬の鹿取か? ずいぶんと縮んだのう」
音もなく至近距離から声をかけられて肩を跳ね上げ振り向けば褐色の女性、四楓院二番隊隊長が立っていた。
「あ、夜一サン、お早いお着きで」
「総隊長に呼ばれたからの。それに大前田に仕事を全部押し付けられるんじゃから早くも来るってものじゃ」
以前席官交流会の幹事をしてくれた大前田副隊長の嘆きを思い出し鹿取は心の中で合掌した。
「ではここからは夜一サンに引き継ぐので、頑張ってください」
「えっあの浦原隊長もぜひですね?」
「このハゲはまだ仕事があるからダメや」
何故か合掌されているので嫌な予感がして浦原隊長も巻き込もうとするが仕事の邪魔はできないので引き下がるしかない。技術開発局から出て暫くは瞬歩する夜一の後を追う。そうして着いたのは二番隊隊舎である。
「さて先ずは採寸じゃ。死覇装を整えねばならん。そのほか色々装飾などもな、砕蜂」
「ここに、夜一様」
音もなくまた人が現れた。装束からして隠密機動の者らしい。
「此奴にふぁっしょんとやらを十二分に仕込んでやるがいい」
「いや某は今着てるので充ぶ」
「貴女は誰か尊敬する人はいますか?」
「え、総隊長殿のこと尊敬しております」
「ならば貴女は総隊長殿の前に今のような格好で立つのですか? 一番隊とは護廷十三隊の最も模範となるべき隊、そして全死神の頂点にして規範と言っても過言ではない山本総隊長に今そのような格好で会うのですか?」
「えっいやその」
「今はまだいいかもしれない未熟ゆえでしょう今着ている物で充分と言ってしまう程です。ですが今の姿で尊敬する人に会えばのちに必ず後悔します。"何故あの時自分はあのような格好で""なんと無礼な姿を見せてしまったのだ"と。今の貴女では乳を放り出して裸踊りを踊っているのとなんら変わりません。それを改善する為にもまず、夜一様の言うように採寸を受けるべきなのです」
途中からなぜか目に嫉妬が宿って鹿取の胸部を凝視し始めた砕蜂だが捲し立てられる言葉に鹿取はそれどころではなかった。そんな格好で既に複数人に会っていると言う事実に地面に手をつけ絶望にうちひしがれ羞恥と情けなさに頬を涙が伝った。
「某は、裸踊りを晒すような格好をしていたのか……⁉︎ 何という無作法……いっそ殺せ」
「その様子、どうやら遅かったようですね……しかし貴女は幸運だ! ここには夜一様がいる‼︎」
「お、おうそうじゃの」
あまりの勢いに四楓院隊長も引いているがツッコミを入れられる大前田副隊長は書類に忙殺されている為ここにいない。
「さあさあ採寸を!」
「ああ今すぐにでも某のを全力で測ってくれ!」
「いや落ち着くのじゃ」
部屋に入り全力で採寸を終えるとそれを裁縫係に渡し、流魂街北一番にある装飾屋に神速移動。結べりゃいいや位の雑な髪紐を本人のイメージを基に選別すれば四楓院家の大きな風呂に放り込まれた。
「ちょちょっと待った某これでも」
「構わん構わん、あとソレは基本内緒じゃ。大丈夫じゃ洗うのは従者の奴らじゃ。それ頼んだぞ」
「かしこまりました」
「あちょまってアッーーーー!!!!」
暴れれば容易く逃げられるのだがそれをやれば怪我人が出るのでされるがままに悲鳴を上げる鹿取を尻目に夜一と砕蜂は茶を飲んで待機していた。
完成した死覇装の到着と髪が黒曜石のように艶やかに肌は真珠のように透き通った状態で湯当たりでもしたようにのびた状態で浴衣を着せられ運搬されてきたのは同時であった。
「ご、護廷……」
「ほれしゃきっとせい、服も着れぬ赤子でもあるまいし」
「ご、護廷……」
「お待ち下さい夜一様、総髪にしてしまうのは勿体ないのでは?」
「ご、護廷……」
「いやそこは此奴の持ち味じゃから変えんほうがええじゃろ」
死んだ目で護廷朗読機と化した鹿取を無視して服を着せさせれば着膨れや布余りがせずスラッとしたシルエットの死神姿がそこにあった、ここに両脇に斬魄刀を吊るしたならば鹿取のいつもの姿になる。
「よしよしこれで体裁は整ったの」
「夜一様に感謝しなさい。裸踊りからは脱出しました」
「後は協会に紹介だけしておけばいいじゃろう。ほれ着いてこい」
「えっは、はい」
意識を飛ばしていた鹿取が気づけばもう女性死神協会の集会に出席することになっていたのであった。道中は砕蜂に隠れてこっそり設定を練ることとなった。