「火急である!」
一番隊にて行われる臨時の隊首会にて総隊長山本元柳斎重國が宣言し、状況を説明する。そこには話に出た九番隊隊長六車拳西、遅れている十二番隊隊長浦原喜助を除いた全ての隊長が集結し護廷十三隊の総力戦を思わせる物々しさを充満させていた。
「これより隊長格を選抜し直ちに現地へと向かってもらう」
総隊長のその言葉とほぼ同時に扉が開かれ、浦原が自身を選抜するよう願い出るが拒否される。
「……続けるぞ。三番隊隊長
鹿取の名に何名かは驚き他はああ、鎌鼬の、と言った程度の反応だ。
朽木六番隊隊長、京楽八番隊隊長、浮竹十三番隊隊長には瀞霊廷の守護を、隠密機動でもある四楓院二番隊隊長には待機命令、治癒部門の責任者である卯ノ花四番隊隊長は総合救護詰所で待機となった。
すこし不服そうな卯ノ花を無視し、大鬼道長と副鬼道長の二名がさらに現地に向かう旨を総隊長が伝えた。
「おーい山じい」
公の場でそう呼ぶなと言わんばかりの総隊長の目線に謝りつつ、京楽の提案で大鬼道長に代わり八番隊副隊長の矢胴丸リサが出ることとなった。
「それでは鳳橋楼十郎、平子真子、愛川羅武、有昭田鉢玄、矢胴丸リサ、鹿取佐々乃、以上六名を以て魂魄消失案件の始末特務部隊とする!」
「大丈夫、ひよ里ちゃんは強いよ」
不安の隠せない浦原の肩に京楽は優しく手を置く。
「まっ、ウチのリサちゃんほどじゃないけどね。……それに鹿取ちゃんも。あ、ちゃん付したの本人に言わないでね。ひっぱたかれそうだから」
京楽はいたずらっ子のようにすこしおどけた。
「信じて待つのも隊長の仕事だよ」
去っていく京楽の背を浦原は見つめていた。
「総隊長から出撃命令?」
「はい。
伝令の面持ちも硬い。いつもに比べ緊張しているのだと鹿取は思った。ことの詳細を伺い重々しく鹿取は頷いた。
「こちらが集合地点になります」
「感謝する」
日が暮れるまで待ち、指定場所へ早めに到着すれば既に鳳橋、平子、愛川の三人が待っていた。鹿取は慌てて頭を下げる。
「遅れてしまい申し訳ありません」
「ええ、ウチらがはよきすぎただけや」
「その通りです構いませんよ」
「気にすることはないぜ」
「ありがとございます」
「集まったんならすこし早くとも出発やな」
あまり面識は無いが優しそうな隊長達だと鹿取はホッとした。
夜も更け月明かりが照す流魂街の一角、九番隊が用意した夜営を発見した。九番隊お馴染みの六車九番隊の羽織が死覇装と共に落ちている。明らかに魂魄消失案件に関係していた。
「報告通りやな。変わらず警戒するんやで」
そうしてしばらく周囲を調査していると、突如平子の霊圧が乱れた。
「鹿取三席!」
鹿取が叫びに振り向いた時には、愛川が既に平子を切った瞬間であった。しかし平子は崩れ落ちる事なく目、口、鼻から謎の物質を噴出させ、すぐさまそれは仮面のように固まった。
「なん……」
そのまま猛然と鹿取目掛け突進してくる。 乱雑に振り抜かれた斬魄刀を二刀で咄嗟に受け止める。信じがたい膂力に地面が耐えられず踵で地面を削り後退していく。
「平子隊長! どうしたんですか⁉︎ 正気に戻ってください!」
驚くべき光景が続く。鳳橋隊長も突如仮面が現れたかと思えばこちらに加勢しようとしていた愛川隊長を全力でぶん殴ったのだ。あまりの威力に羽織と死覇装が弾け飛んだ。そしてすぐさま顔が仮面に覆われ鹿取に猛然と襲い掛かった。
「なん……だと……⁉︎」
理解不能な事態に目を見開くが、応戦せねば鹿取自身の命が危うい。
「"
爆発するような猛烈な風が二刀から吹き出し三人を弾き飛ばし、上から叩きつけるように風を起こして動きを拘束する。
「縛道の七十七、
詠唱破棄、その上補助用の文様も無く瀞霊廷から距離が離れているという三重苦を霊圧の出力をあげて無理やり行使する。精度が低くほぼ内容は伝わらないかもしれないが、緊急事態である事だけでも伝えねばならない。送信先は己が上官である山本元柳斎重國、そしてこの事態をなんとかしてくれそうな浦原喜助である。
「現在謎の仮面のようなものが現れた隊長達だと交戦中! 魂魄消失の原因はおそらくこれに関連す……」
思考で送る事もできるがそれどころでは無いので言葉で伝えていたが、突如立ち昇る巨大な結界に天挺空羅が阻害された。結界の外を見ればそちらにも仮面を被った恰幅の良い大男がいる。
「ぐっ⁉︎」
驚く間も無く蹴り飛ばされ結界に叩きつけられる。その仮面から出る緑髪には見覚えがあった。そしてその両脇に現れた人物にも。皆仮面に覆われているが見覚えある姿で、その腕には副官章が付いている。
「久南副隊長……矢胴丸副隊長……猿柿副隊長……! 一体これはどういう事だ‼︎」
風による拘束を突き破りながら更に新手が現れた。
「六車隊長……!」
久南白がこうなっていた時点で予測はしていたが、実際に見ても信じられるものでは無い。なにより何故矢胴丸リサと猿柿ひよ里がここに居るのか。
「
猛然と迫り来る隊長格七名を風による盾を形成して受け止める。その様は獣そのもので理性があるようには見えない。切り捨てるという選択肢が頭に浮かぶがそれはできない。
「各々方! 自身が護廷の要たる事を思い出せ! 正気に戻ってくれ‼︎」
そこからしばらく、一刻以上も戦いわかったのは、幸いにも秩序だって殺しに来ているのでは無くただ目標を定めて暴れているだけなので傷だらけになりながらも致命傷を避けることはできるということだ。
しかしあまりこの場に居座ればもしかすれば平子隊長の様に突如としてあの様なことになるかも知るない。せめて浦原等が到着すれば原因を突き止められるかもしれない。
「縛道の三十、
風による吹き飛ばしを避け接近してきたリサを地面に叩きつけ詠唱破棄でそのまま地面に縫い付ける。しかし詠唱破棄とはいえそれを解術するのでなくただ乱雑に破壊し鹿取へ向け飛びかかるという常識外の行動に反応が遅れた。そこへ拳西の豪腕が迫り、諸共殴り飛ばされかけるが咄嗟にリサごと風の壁で守った。しかしそんなことは知らぬとばかりに壁の内にいたリサに足を突き刺される。
限界が近い。いくら連携も理性もないとはいえ隊長格の獣である。切り捨てる他ないのかと苦い顔を鹿取がしながらひよ里を迎え撃つ。
「なっ……ぐっ……⁉︎」
その瞬間、突如視界と音が失われた。そして何かに胴を貫かれた。
鹿取の腹を貫いていたのは斬魄刀であった。それもとても長い。引き抜かれるとゴホ、と血を吐き、結界の外へ戻っていく刀身を見つめる。
結界が解除され見やれば、大男は切られ倒れ伏していた。
「無事でしたか鹿取三席」
「あ、藍染副隊長……?」
そこに現れたのは柔らかな微笑みを崩さない五番隊副隊長の藍染惣右介だった。それが平子達を切り捨てていた。
「申し訳ない、救援に来るのが遅れてしまいました。ですので刀をお下げください」
そんな事を曰っているがどう聞いたところでおかしい
「某の腹を貫いておいて救援とは片腹痛いわ。見たところ正気だな、何が目的だ」
「いえ、もう目的は果たしましたので、見ているだけですよ」
「巫山戯るな‼︎ 鎌かーーー」
奥の手を使おうとした瞬間、鹿取の顔からも謎の物質が現れた。それを無理やり引き剥がし藍染を睨み付ける。
「そうか、そうか貴様が原因か藍染‼︎」
「やはり、良い実験となった。鹿取三席のお陰で」
「護廷を汚した罪を償え‼︎」
二刀で切り捨てたはずの藍染が消え失せる。そこにはただの木の枝しかない。そのまま背後から袈裟斬りにされる。
「まだだ、まだだ!」
顔面にまとわりつく物を引き剥がすが、引き剥がすよりも早く仮面が形成されていく。頭の中に鎌風の声が聞こえるが意識が混濁してゆく。
再び視界と音が消えるが、何かに切られた瞬間そちら目掛け風の刃を解き放つ。視界も音も戻るが、不鮮明で歪みまともにもう見えも聞こえもしていない。限界であった。
「ぐ……申し訳ありません」
「構わないさ要。鎌鼬、瀞霊廷最強の飛び道具使いの名は伊達じゃないようだ」
「護廷の為……総隊長を安心させ……浮竹……京楽……」
「これでおしまいとしよう」
斬魄刀をこちらに向ける藍染の顔を最後に鹿取の意識は濁流に飲まれるように落ちた。