「よし、それでは次は某が」
「「「いや少し待て」つのじゃ」ってください」
拳西がいきなり虚化を克服して喜んだ勢いで鹿取が立候補したところ拳西、夜一、浦原に同時に止められた。三人が顔を見合わせていると平子が間に割って入ってくる。両手を上げ三人を見渡し、スッと夜一へ手を差し出し発言を促す。
「相手をするの儂だけでは少し辛いのじゃ、輪番にせぬか? あともうクタクタじゃ休ませてくれ」
もっともすぎる意見に皆がうなずいた。
次、と浦原が促される。
「今回の拳西さんの情報を精査してより安全性を高めたいですね。あと、鹿取さんは最後の方がいいと思いますよぉ」
じゃ最後はという感じで拳西を促す。
「鹿取左々乃介の姪で後任とはいえ三席だ。俺が危険無視でやっといてなんだが浦原のいうように安全を確保して臨んだ方がいいんじゃねえか?」
「あ、それに関しては問題ありませんよ。彼、いや彼女? 本人です」
「は?」
「いえですから、彼女が鹿取左々乃介です」
「あ、ハイ。某が左々乃介です六車隊長」
「はぁぁぁぁぁあ⁉︎ あの鍛錬やろうが⁉︎」
拳西の顎が落ちた。平子、愛川、鳳橋、リサはまあそうだろうなと言った顔だ。
「まあ、総隊長が俺達と一緒に指名してきたしな」
「信頼が無ければ為せない命令、まさしく一番隊の清廉なる志の象徴」
「正直姪っ子がただでさえ珍しい二刀一対の斬魄刀より性別変わったの方が信頼性あるわ」
「というか硬いねん鹿取は。もっと遠慮なくいこや。うちらもう護廷十三隊じゃ無く藍染ブッ殺隊やろ?」
「なんやそのクソダサ隊は抜けるわ」
ひよ里はそも検査を手伝ったので事情を把握している。
「ププー! 拳西ったら一人だけ気付いてないんだーー!」
「うるせえお前が聞いてもいねえのに協会の話しまくってただろてかあの口ぶりお前も気付いてなかっただろうが‼︎」
「という訳で、今日はもう休みましょう。あ、拳西さんここから出るならちゃんと義骸着てくださいよ」
その後、重症度順に白、ひよ里、リサ、鉢玄、羅武、ローズ(名称本人希望)、真子、鹿取の順でこの
ハラハラさせたのは内在闘争最長レコードのひよ里、面倒な事になりかけたのはローズと真子の二人で、ローズの方は浦原特製"もうなにも聞きたくねえぜ耳栓"でなんとかなり、真子の方は同士討ち防止に拳西以外は結界の維持を除いてなにもしないという選択肢がとられた。
その期間鹿取は延々と炊事洗濯をし続けた。最後なのでそれまで内在闘争の外での補助にも参加できないのである。その間はどんな影響が出るか分からず修練も禁止でその鬱憤を家事で晴らした。
「明日、あたしの内在闘争なんだけれど、一生のお願いやから同衾させてくれへん?」
「いやなんで?」
「なんや怖いんか? ならウチが一緒に寝たろうか? なんやその目線は」
「いや、だって埋もれる程胸ないやない」
「なんや⁉︎ 人が心配しとんのに喧嘩売っとんのか⁉︎ 存分に埋めさせて窒息させたろか⁉︎」
「こっちも死ぬまでに乳に挟まってみたいんやよええやろ‼︎」
「ま、まあ二人とも落ち着いて」
「無駄に乳腫らしよる奴は黙っとれ!」
「とりあえず今夜は同衾やからね‼︎」
「ひどい‼︎」
そんな一幕もあったが鹿取を除いた全員が虚化の制御に成功し、最後鹿取の番が来た。
ようやくやってきた出番に最早いつも割烹着を着ている鹿取は嬉しそうだ。その鹿取を横目に他のメンバーは作戦会議である。
「これをまずみてください」
「なんやこの表。鹿取が一番やな」
「胸囲順ちゃう?」
「いやそれならワタシが一位になるハズ」
「これはですね、霊力量の測定結果です」
「「「「!!!」」」」
「ワテや拳西の1.5倍とは恐ろしいわ。なんで三席なんや」
「いえ、そこは測定の上限値、つまり測定不能です」
皆がポカンとした顔をした。
「は? なんで隊長やっとらんのや。一番隊なんやからローズより先にコイツが総隊長に推薦されとるハズやろ」
「いえ彼? 彼女? は護廷十三隊という括りで見たなら常識人なのですが、一番隊という括りで見ればかなりの問題児でして……総隊長の推薦何度も蹴ってるんですよね。本人は大真面目に、あの山本元柳斎重國を超える為と言ってましたが」
なる程はたからみれば鍛錬を怠らない真面目な三席、一番隊でみれば隊長であり総隊長の推薦を蹴る問題児という訳だ。全員が納得した。
「鉄裁さんは三重に結界を、鉢玄さんはその上から更に三重の結界を貼ってください。内部での戦闘はワタシ、夜一さん、拳西さん、ラブさん、ローズさん、平子さんの輪番で行います。ひよ里さんとリサさんに白さんは結界維持の補助をお願いします」
聞くと過剰な配置かもしれないが、未知に立ち向かうには万全を期す必要がある。斬魄刀との一体化を成した死神の虚化など想像した者すらいなかった代物故にだ。
「これまでの戦いで内在闘争中の虚化は理性無しの力押しなのが幸いですが最悪です。理性なくともその素地は瀞霊廷最強の飛び道具使いの異名を持つことを忘れないでください」
皆が準備を終え、鹿取が結界の中央で刃禅を組む。その前には浦原が斬魄刀、紅姫を解放した状態で立っていた。
「さあ、鹿取さん。さっさと内なる虚を倒してみんなでお祝いとしましょう。いつも鹿取さんばかりに当番やらせてますから、今日は皆さんが料理作ってくれますよ。あ、白さんはちゃんと隔離しておくのでご安心を」
「浦原、ありがとう。万一が有ればその時は後始末をお願いする」
「万一はありませんよ鹿取さん。おや、行きましたか」
鹿取は意識を集中させ、精神世界に突入した。
湖畔が血の池のように赤く染まっている。樹々は石英のように白く枯れ、古屋は焼き討ちにあったように炭化していた。小屋の残骸の中心に鹿取はいつの間にか立っていた。
「これはひどいな。某の心はここまで荒んでいた覚えは無いのだが」
「これはこれは、俺じゃないか」
「!」
声をかけられ、振り向く。そこにいたのは鹿取だった。
鍛え上げられ筋骨隆々となりながらも無駄を剃り落とした山のようと形容された肉体、それに似合う少し野性味を感じさせる巌のような顔は自分でも信じられない程口角が上がっている。
そこにいたのはこの姿になる前の鹿取を脱色し尽くしたような存在だった。
「どうも俺、初めまして」
「こちらこそ某、初めまして」
互いに敬意の籠もっているのか怪しい挨拶を済ませると鹿取は辺りを見渡した。いつもいる鎌風がいない。
「鎌風はどうした?」
「ああ、あの強情なら、仕置きの最中だ」
虚の鹿取が手を挙げれば血の池の水面がせり上がり、水の中に閉じ込められた鎌風の姿があらわになる。意識はあるようで鹿取に気付きもがいているが意味を成していない。鹿取が見たのを確認したなら無情にも鎌風は血の池へ沈められていった。
「……あまり時間をかけられないから単刀直入させてもらうが、某の物になってもらえないか?」
「いやだね」
「どうすれば言うことを聞く?」
「そんな問答に意味があるか?」
目線が火花を散らした瞬間、互いの下へ鼬が飛び込み二刀に変化する。
構えは、違う。以前の鹿取として作られた剣術の構えと、今の鹿取として再構築した構えはもう別のものになっている。
「ならば某が力を持って押し通させてもらう!」
「できると思うか? そんな姿でな! 」
衝突した二人の斬撃が血の水面に巨大な波紋を起こし石英と化した樹々を木っ端微塵になぎ払った。