「まずはお手並み拝見といこうじゃねえか‼︎」
「行くぞ!」
衝突した斬撃の威力と相まって共に斬魄刀が弾かれる。
弾かれたままに虚鹿取が二刀を重ね交差させ両手の膂力を最大に活かした振り下ろしが迫る。体格差をそのまま活かす一撃に鹿取は左手の斬魄刀を逆手に持ち直した。
剣撃を力のまま弾くのでなく、刃を滑らせ太刀筋をずらす事で最小の力で攻撃の防御と返しを両立する。その迫る刃に柄頭を叩きつけ無理やり鹿取の体勢を崩し弾き飛ばすのは虚鹿取だ。様子見の剣戟の結果は互いに無傷。
「そんな小技に頼るのが強さか? 俺として情けねえ限りだ。俺が求める強さはそう言うものか? 違うだろう? 俺が憧れたのは全てを真っ向から叩き潰す"力"の筈だ!」
「ぬかせ。その小技を破れない癖に」
火花を撒き散らしながらの切り合いの終端は、互いの高速の刺突。それを同じように互いの刀で逸らし、受け止め、双方の動きが一旦停止する。霊圧が高まる瞬間も口を開いたタイミングも完全に同一だった。
「「
二人を中心に爆風と遜色ない風が撒き散らされ衝撃波が荒れ狂う。ただの余波で焼け焦げた小屋は完全に倒壊し血の池は風圧に負け水を弾き飛ばされ湖底を晒す。
「
「風舞・
竜巻が池の水を吸い上げ樹々を巻き上げあらゆる物を破壊しながら突き進むなら、終わる事ない暴風の奔流がそれを受け止め包み込む。その爆心地に立つ二人に飛来物が衝突する度、まるでそれがチリだったかのように木っ端微塵になっていく。
鎌風は烈風系の斬魄刀に分類され、開放する事で風を生み出すと共に不可視の飛び道具"風刃"を得る。初めこそ三枚までしか生み出せなかったそれは修行の果てに今や三十枚存在し、鎌鼬の名に違わぬ最強の飛び道具と化している。
一つ一つが自在に形を変え、それはいま二人の体を触れるもの全てを切り裂く鎧として纏っていた。
そのまま両者が飛び込み白打で殴り合う。体術は質量がモノを言うため威力では虚鹿取に軍配が上がり小さな鹿取は手数でそれをカバーする。発する音がノコギリを互い違いに引き合っているかのような非常に喧しい物である。
殴ると見せかけ斬魄刀が突き出された。そこからは一瞬で殴り合いから切り替わり、斬り合いへ移行する。先ほどから得意の遠距離戦を捨てゼロ距離の乱打戦を選択しているのは風や飛来物程度では互いに防御を破れず千日手となる為で、至近距離での風刃の攻撃は通し易いからだ。
時間は虚の味方故に鹿取は突撃し、力に固執する虚鹿取はそれを真っ向から受け止める。
「俺に主導権を寄越せ! そうすれば元に戻れるかもしれないぞ!」
「要らない! 黙って某の力となれこの石灰岩が!」
「ツレないな! 思わなかったのか? 俺が生まれる時、元の姿だったならと!」
「!!」
鹿取の腹に防御を突き抜けた刀が突き刺さり、血を吐く。その血はすぐ様風に吹き飛ばされ霧のようなった。
「思ったのだろう⁉︎ 元の体であったなら遅れを取らなかったのではないか? 今の体で最善の動きが本当にできたのか? と!」
グリ、と刺さった刀を捻り、鹿取が表情を歪めた。隙間に差し込むように蹴りをたたき込んで吹き飛んだ虚鹿取ごと刀が引き抜かれる。溢れ出していた血が風の鎧によって無理やり堰き止められる。
「その姿となってお前は弱くなった! ならば俺が受け継いでやる! 最強へと至ってやるとも!」
そう言って虚鹿取は止めと言わんばかりに足に力を貯め、開放した。
飛来する隕石と見紛う威力を持つ突進を真っ向から受け流す事なく受け止めた。口の中に残った血を唾と共に吐き捨てる。
鍔迫り合いする四本の斬魄刀は共に同じ長さ。しかし鹿取の持つそれは大きく見え、虚鹿取が持つそれは小さく見える。変わったのは持ち手であり斬魄刀の大きさに差はない。
白い死覇装からのぞく鋼のような前腕に比べ鹿取の腕は今にもへし折れそうなほどか細く柔らかそうに見える。
だがこの腕は鹿取自身が最も信頼せねばならぬ己の腕なのだ。これのせいで負けた等と言い訳に逃げるなどあってはならない事だ。護廷とはいついかなる時戦うことになるかわからない。常在戦場、敗けた言い訳など何の役にも立たないのだから。
「確かに! 思わなかったといえば嘘になる! 成る程お前はまさしく某であるのだな。だが、
快活な笑みを浮かべてから鹿取が歯を食いしばる。鹿取のさらに高まる霊圧に虚鹿取の霊圧が追いつかなくなり出した。
拮抗していた鍔迫り合いの形勢が徐々に鹿取へ傾いていく。驚愕に目を見開く虚鹿取が渾身の力を込めても押し返すことができない。
「なん……っだとッ⁉︎」
「力にのみ固執するから本質を見誤る。確かに以前の某の方が強かった! だがそれはもう先のない、己の山の
血の池の水は今や全て吹き飛び、拘束から解放されたズタボロの鎌風が湖底から二人の様子を見守っていた。
「
虚鹿取の斬魄刀にヒビが入った。見開いた目に喜色が浮かぶ。
「成る程成る程成る程‼︎ 俺も捨てた物じゃないわけだ‼︎ さっきまでの俺をぶん殴ってやりてえくらいだ! だかならば、最大の一撃をもって証明して見せろ‼︎」
互いが互いを弾き飛ばし、その間には大きな距離が開く。そして互いに斬魄刀を十字に構え、叫ぶ。
「「卍‼︎」」
先ほどとは比べ物にならない霊圧が互いに溢れる。
「「解‼︎」」
そして世界は閃光に包まれた。
「あかんぞ! ローズ出したれ!」
四十七分、ローズの出番の最中虚化した鹿取が動きを止め悲鳴を上げた。虚化した陶器のような体にひびが入り始め大慌てで結界に穴をあけてローズを退出させる。
しかし、外皮がはじけ飛ぶことなく、そのまま崩れるようにして中から狐のような虚の仮面をつけた鹿取が現れる。仮面がひとりでに崩れ大気に溶けていけば鹿取が目を開けた。
「虚の力、どうにか納めることができた。みんなのおかげだありがとう!」
胸をドンと叩いて辺りを見渡した。
「そ、それは良かったっス」
「う、浦原?」
結界が解除されると大きな敷物の上に座布団を大量に置きそこに頭をうずめて倒れている浦原の姿があった。連なるように夜一、拳西が続き、ラブに至っては起こさないでくださいと書かれた立て看板を抱えていた。そしてローズもその仲間入りした。続いて鉄裁と八玄も入る。
「いやほんと良かったっス。二週目に入られたらやばかったっス」
「ねえ鹿取乳揉ませてもうそれくらいないとやってられウグゥ」
「みんな疲れとんねん黙っときや」
なんか言っていたリサがひよ里に鳩尾を突かれて悶絶している。輪番の最後で待機していた平子を除く全員が疲労困憊状態であった。
「いやホンマ、鹿取最後でよかったわな。スマンが鹿取、メシの当番はウチラや」
「わかった。みんな迷惑かけてすまん。某の腕によりをかけて精のつく食事を作るぞ」
何故か砂まみれになっていた義骸を着直して埃をはたき落とすと意気揚々と梯子を登って地下空間から出ていく様子を平子は下から半目で眺めていた。そして思い返す。浦原が結界の中で風に洗濯されるかの如く吹き飛ばされ続けていた様子や元大鬼道長と元副鬼道長の六重の結界をぶち抜きかけた全方位への攻撃。交代しようと結界を小さく開くたびに内圧がヤバいことになっているのか地下空間に吹き出す暴風。
「俺が最後でよかったぁ」
ポリポリと頭を掻きながら平子も鹿取の後に続いた。
ご感想誤字報告誠にありがとうございます