少し短めです
「本日より沖牙源志郎を一番隊三席とし四席には天野草海を任命する。両名、護廷の為励むがいい」
「「ハッ‼︎」」
一番隊の隊舎では山本
「元柳斎殿……」
「みなまで言うな長次郎。わかっておる。あやつめで駄目ならば誰を送り込んでも同じであったろう」
目に浮かぶのは、山の様であった鹿取と、まるで孫娘の様であった鹿取の双方だ。杖で小さく床をつけば、音が反響していく程に一番隊隊舎は静かであった。暇さえあれば鹿取が剣道の稽古を申し込んできたり悪戯を仕掛けられたのが懐かしくさえ思う。
「悪ガキであったが、居なくなるとやけに静かに感じるものだのう」
「そうですね。元柳斎殿」
まるで息子と娘を同時に失ってしまったかの様な喪失感を二人は感じていた。
浦原喜助の事件から一ヶ月近くが経った。大混乱の様相を呈していた護廷十三隊も少し落ち着きを取り戻し始めている。隊長不在となった五番隊では副隊長である藍染が隊長代行として精力的に動いた事で早くも業務だけは真っ当にこなせる様になり始めていた。
平子が居なくなったことへの悲しみを隠す様に働き続ける藍染の様子を見ていた隊士たちが奮起したのだ。
一番隊では三席に沖牙源志郎が就任。二番隊は大前田希ノ進副隊長がそのまま隊長および隠密機動総司令代理となり死にそうな顔で業務に追われている。三番隊は元から射場千鉄副隊長が仕切っていた面もあり問題なく機能した。が彼女の喫煙頻度が上がって心配されているらしい。七番隊は小椿刃右衛門が鹿取とはまた試合がしたかったなぁとぼやきながらも隊長代行を頑張っていた。十二番隊では涅マユリが隊長代行に就任し以前にも増して怪しい雰囲気が漂い始めていた。
そして副隊長を失った八番隊の京楽春水はというと瀞霊廷の貴族たちの居住地の一角で、とある人物と会っていた。
「やあ京楽。今日は何か御用かな? 君達のところは今大変だろうさっさと帰って仕事でもしていたほうがいいんじゃないか?」
「
切れ長の吊り上がった常に嘲笑をしているかのような眼をした男が口角を吊り上げながら京楽に声をかけた。それに対し京楽は残念そうな顔をしていた。
「全く、何か悪いことが起きれば私が原因だと思っていないか? たかが京楽家の次男坊風情で無礼だぞ」
「いやいや、四十六室から虚になったリサちゃん達の処分が言い渡されたとき"ただし鹿取佐々乃に関しては綱彌代家の者が処分を実行する"なんて言われたら気にもなるでしょう」
「実際にはならなかったわけだがな。まあ今のお前の顔を見れたんだ、それで我慢するとしよう」
「……なんで鹿取ちゃんをわざわざご指名したのかな?」
「簡単だ。お前のそういう顔が見たかっただけだよ」
この件に関し何かを知っている、と京楽は確信を持った。だが相手は分家とはいえ五大貴族筆頭の血筋。この男が今ボロを出す筈もなく、例え証拠を見つけたとしても現場を押さえて切り捨てるくらいでしか罰する術はないだろう。それでも京楽がこの男に会ったのは、怒りがあり、その矛先かもしれない相手を確認しておく必要があったからだ。
「それでは、五大貴族様のお時間を取らせてしまい申し訳ないね」
「ああ、二度と御免だな。だが……親友を失ったお前の顔は中々良いものだ。今夜の酒の肴にでもさせてもらおう」
互いに踵を返し、別れを惜しむことも振り返ることもせず京楽はその場を後にした。
その頃、藍染は秘匿された研究室で得られた実験成果の精査を行なっていた。部下である東仙は九番隊の主要席官もいなくなってしまった為臨時に副隊長に格上げされ隊をまとめる事に奔走させられている。つまり今ここに付き従っているのは市丸ギンだけである。
この場は単純に発見されにくい秘匿がなされた上で鏡花水月の影響下にある為、関係者以外は発見は不可能な代物である。
「この間のやつですかいな」
「そうだよギン。彼、いや今はもう彼女か。アレは様々な知見を我々に与えてくれた」
藍染は上機嫌そうに様々な資料を眺めていた。ギンが見てもわからないものばかりだ。
「以前私が採取した特殊な魂魄と同質と彼女は該当すると言っていい。
「やり方がエグかったわぁ、お仲間の虚化実験の結果をそのままつこうなんて」
「彼女には最も有効な手段だ。彼女はまだ甘い。護廷の為と言うが元柳斎と違い全てを切り捨てる事ができないのがその証拠だ。だからこそ平子達を利用して虚化因子を注入するのは容易かった。予想値の数倍を注がれても虚化が起きなかった辺り、我々が手を下す羽目になってしまったがね」
眼鏡の反射で目の表情は窺い知れないが、その口には微笑が浮かんでいた。
「特に、その身に宿した物を奪えなかったのは残念だが」
「昔のは爪とか言うてはりましたけど、鹿取はんには何が宿っとったんです?」
振り返った藍染のその手には、未完成の崩玉が収まっていた。これを用いて魂を削ろうとしたが浦原喜助の妨害により為すことができなかったのだ。
醸し出す雰囲気が重くなり、想い人から奪われた物に関する情報を少しでも聞こうとしていたギンは内心冷や汗をかいた。
「あんなもの、いや、この場合は正しく言おう」
藍染が笑みをたたえながら口を開いた。
「彼女に宿るのは"霊王の
「…………」
「…………」
何とも言えない間が発生した。
「…………はい?」
「おや? ギンには早かったかな? つまり"霊王のおっぱい"という事だ」
「……そないなもんが?」
ギンは思わず自分の鉄面皮に感謝した。いやべつにそう言うのを知らないわけではなく藍染という人物像から絶対出てこなさそうな単語が出てきたのに困惑しているだけである。間抜けな面を晒すことはなく幸いにも首を傾げる程度に抑え込むことにギンは成功した。
「疑問に思うことは当然だ。霊王はその通り"王"、つまり男性を意味している。しかしアレはすべての力を持つ神の如き存在であったものだ。雌雄同体、いや性別の概念すら超越した存在であったと想像するのは難しくはない。現に鹿取佐々乃に宿っていたのは乳房だ。この仮説を後押しする素晴らしい情報だよ」
「ハイソウデスネ」
ギンは表情を変えずにただ話を聞いている事にした。しっかり記憶することは忘れずに。