二回の建造を終えて、俺の胸に去来したのは言い知れぬ寂しさだった。
よく言うだろ?ガチャをするまでが楽しみで、その後に残るのはクズのような礼装とその金を他のことに使ったらどんな贅沢ができたんだろうって後悔だけだってさ。ホント、あの言葉は正しいね。今の俺は無駄な建造をしようと思わない。すっと全身から熱が引いたような感じがして、えらく頭は冷静だ。香取教官から届いた資源を使えば、まだ何度か建造はできる。もう少しすればすりぬけくん(建造ドック)の修理も終わるだろう。ただ、これ以上今のメンタルで駆逐艦を建造しまくっては危険だ。まあ、そこまで俺様が追い込まれたのも、全ては目の前のイタリア駆逐艦のせいだが。
「うん!?なあに、テートク。あたしを熱い目で見ちゃって!」
グレカーレ。そう、このグレカーレが原因だ。ここ一週間ほどで分かったことだが、この児ポロリ、何から何まで雪風と違いすぎってことだ。
例1「掃除をしろ」と言ったとき。
雪風なら、
「はいっ。雪風にお任せください!頑張ります!」
とちまちまと掃除を始めて、そのうちに憲兵の爺にあれこれ誘われてふらふらいなくなり俺様に怒られるだろう。
ところが、グレカーレは違う。こいつの場合はまず嫌がる。
「ええーっ。掃除ぃ?そんなに汚れてないし、いいよそういうのぉ。雪風、任せていい?」
「はいっ。雪風にお任せくださいっ!」
てな感じで雪風に押し付けるのだ。そのままならばふざけるなと俺の拳が唸るところだが、こいつが質が悪いのが小悪魔っぽくみせて、根は優しいところだ。ほうきとちりとりを持って雪風がいなくなると、はぁと小さくため息をついて、後を追って手伝い始める。そしてやたら手際がいい。あれこれ雪風に指図したかと思うと、もう掃除は終わっている。
例2 俺が執務しているとき。
この一週間あまり、江ノ島鎮守府の仕事と言えば、事務作業ばかりだ。元々深海棲艦からもおまけ程度に思われている上、近くには横須賀鎮守府が控えている。とするとやらなければいけないのはいなくなった前任者がほったらかしていった資料を整理し、倉庫の在庫を確認し、足りない分については大本営に陳情することだ。そのため、書類仕事が多くなるわけだが、ここでも雪風とグレカーレの違いははっきり出た。まず雪風だが、はっきり言って頼りにならない。任せてくださいとはりきる。→やり方が分からずしれえ・・と聞いてくる。→俺がやり方を教えるがうまくできず悩む→またしれえ・・となる。の繰り返しで、これならば最初から俺がやった方が早いぐらいだ。ところが、グレカーレは、めんどくさーい、とめんどくさがるものの、やり方を教えるとてきぱきこなす。それどころか、「こうかな?」「あれ、これってこうなるんじゃないの?」などと自分からあれこれやり始める始末である。思わず、
「お前、天才か?」
と言ったら、
「ま、とーぜんよね!テートクもあたしのすごさがわかっちゃった?」
とドヤ顔をするものだから、ほっぺたを引っ張ってやった。
「ちょっと、テートク、痛い痛い!愛情表現が過剰すぎるわよ!!」
「何が愛情表現だ!!」
ただ、当然このグレカーレにも欠点は存在する。まあ、それこそ俺にとっては大変な欠点と言っていいだろう。こいつときたら、小悪魔タイプにありがちの異様にかまってちゃんなのだ。
執務中俺は大抵黙って仕事をこなしている。それはそうだろう。ミスが許されない事務仕事な上、ただでさえ幼い駆逐艦どもと話をしているとストレスが溜まる。最低限の会話しかこなさないようにしているのだが、グレカーレには通じない。黙っているとしゃべりかけてくるし、奴の方を見ると、自分を意識しているという。それならと全くグレカーレを見ないようにすると自分を無視しているとむくれるのだ。もはやどうしていいかわからない。
「ねえ、テートク。おしゃべりしようよー。」
「黙っていた方が効率がいいだろう?」
「ある程度の会話は仕事のスパイスだって。しかめっ面して仕事するよりいいじゃん。」
「うるさい。仕事を早く終わらせろ。」
「こんな程度すぐ終わっちゃうって。人手が少ないんだし、仲良くいこうよー。」
「ならとっとと終わらせて掃除でもしてろ。」
「昨日終わらせちゃったもん。そんで、釣りまで行って鯵まで釣ってきたじゃん。」
「アジフライにしたのは俺だがな。そんなに言うなら料理の練習ぐらいしたらどう
だ。お前も雪風もてんで料理をしないんだから。」
そうなのだ。俺が鎮守府に着任してから10日あまり、大本営に陳情しているにもかかわらず、給糧艦間宮も鳳翔さんも着任していないため、自分たちで料理するしかない。ところが、この鎮守府ときたら料理をできるのが俺だけなのだ。雪風は言わずもがな。グレカーレもやらないとなると、必然的に俺がやる羽目になる。全く俺は保父さんになりに来たんじゃないんだがな。
「えーっ、めんどくさい。あたし、別に料理できるし。」
はあ?聞き捨てならないことを言いやがりましたよ、この駆逐艦。料理ができる?全くやってこなかったじゃないか。冗談も休み休み言え。はっはっはっ。カップラーメンにお湯を入れるのを料理ができるとは言わないぞ。
「そりゃテートクにやってもらう方が楽だもん。って、痛い痛い!ぐりぐり禁止!」
「嘘つきに対する正当なおしおきだ。そんなに言うなら今日の夕食を作ってみろ!」
どうせ、目玉焼き程度だろうよ。お子様のできるレベルなどたかが知れている。こう見えても俺様は料理にはうるさい。昔付き合ったことがある彼女が料理が得意というから味噌汁を作ってもらったが、だしをとるのに、だしの素を入れていたのを見たとき別れを決意したもんだ。女の得意っていうのは盛っていることが多いからな。
「いいよー、じゃあやってあげる。何食べたい?」
「リクエストありとはレベルが高いな。ならピザを頼もうか。マルゲリータを頼む。」
「おっ。マルゲリータ頼んじゃう?通だね、テートク。いいよいいいよ。やってあげ
ようじゃん。」
バカめ。引っかかったな。イタリア駆逐艦なら当然ピザかスパゲッティをと俺様が注文することは分かっていたはず。ところが、食堂の冷蔵庫には当然ピザの材料なぞない。そこでこいつが買い出しに行けば本当だが、行かなければ近くのドレミピザに宅配してもらうしかないのだ。宅配された証拠を突き付け、それをネタに俺への過度の接触をやめさせよう。
そして夕食。買い出しにも行かず、ピザを作って出してきたグレカーレに俺はにやにや笑いが止まらなかった。おやおやあ、どちらにピザの宅配ケースは隠されているんですかねえ。後でじっくりと探すとしよう
アツアツのピザに雪風が舌鼓を打つ。
「美味しいです!グレカーレさんってすごいですね、しれえ!」
「そうだなあ。こいつは驚きだ。」
くっくっく。お前がしれっと自分で作りましたと出してきているのになあ。これだからがきんちょといえど女は怖い。調理場の片隅にドレミ印の宅配ケースが捨てられているんじゃないかねえ?
「うーん。喜んでもらえたのはよかったんだけどねえ。」
もぐもぐと自分で作った(笑)ピザを頬張りながら、なぜか口ごもるグレカーレ。そりゃあそうだよなあ。自分で作ってないんだもんなあ。手柄を横取りしちゃあいけないよな。
「もうやめようや、グレカーレ。こいつはお前の味じゃあないんだろ。」
奴が白状しやすいように優しい声で俺様は諭す。途端にグレカーレは驚いた表情。いいねえ、この顔。なんともいえねえ。
「な、なんで分かったの。テートクすごくない?」
「くっくっく。伊達にお前たちの提督じゃないんでな。で、どうしたんだ、こいつは。」
「うん・・。急ぎだったから、ピザ生地は冷凍のを頼んだのよね。そしたらやっぱり
味がいまいちで・・。」
「うんうんって、はああ?冷凍生地を頼んだ!?誰に」
初耳だぞ。雪風もお前と一緒に執務室にいたし、もんぷちじゃあ買い物はできねえ。誰だ、そんなやついたか。
「憲兵のお爺さん。テートクにつけとくって。」
いたわ。孫娘見るような目で駆逐艦どもに接しているくそ爺が。
「確かにテートクが言うように、ピザ生地を冷凍に頼ってたんじゃ、あたしの味じゃないわ。これをグレカーレ特製ピザと思われるのはさすがに心外だもん。よーっし、明後日ピザにするよ、テートク!明日憲兵さんにまた買い物お願いしよう!生地から作って一晩寝かせた絶品ピザを御馳走するわ!」
「絶品ピザですって!楽しみですね、しれえ!」
「いや、そんな連日ピザはいらんだろ・・。」
「もう遅いって、テートク!よーし、やるぞお。グレカーレ特製ピザ作り、ガツンとかましてやる!」
二日後。グレカーレの作ったピザは確かに絶品だった。
「でしょ、でしょ。どお?あたしのありがたみ、わかっちゃった?」
それと同時に憲兵の爺から安くない領収書が届けられ、懐が寒くなった。
「そりゃあ、材料に凝ると多少は高くなるのは仕方ないよねー。」
「だからって、ホームベーカリーまで買うな!材料じゃなくて家電じゃねえか!」
登場人物紹介
もんぷち・・・前回の処罰に憤慨し、「家出します。」と書置きして鎮守府から出たが
やはり気が付いてもらえず。不安になってひょっこり戻ってきたところ、美味しいピザの匂いに誘われてふらふら戻ってくる。
与作・・・・・枕元にミミズのような字で落書きが置かれていたため、丸めてゴミ箱に
捨てる。
雪風・・・・・料理ができないことに引け目を感じ、とりあえずホームベーカリーを
使ったジャムづくりにハマる。結果作りすぎ憲兵さんにおすそ分け。
グレカーレ・・何日かは食事を作っていたがすぐ飽きる。
憲兵(68)・雪風に加え、グレカーレとも仲良くなりにっこにこ。目下雪風から
もらった大量のジャムの使い道に悩んでいる。