鬼畜提督与作   作:コングK

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今回の夏イベで心が折れ、さらに鎮守府目安箱が終わると聞き、艦これ関係のモチベが全部無くなってました。楽しかったなあ、鎮守府目安箱。ありがとう鎮守府目安箱。ガチで体調崩していたこの一年間、心の支えでした。


第七十二話 「人と艦娘の歴史」

「ほ~い、提督。今日の分の書類終わったよ」

そう言いながら鈴谷は机の中から煎餅を出すと、ばりばりと食べ始めた。

「これこれ。まだ業務中じゃろうが」

いつも通りのマイペースぶりを見せる元ペア艦に杉田はやれやれと呆れる。

 

「いいじゃん、すること終わったんだし」

鈴谷はいそいそと茶箪笥から二人分の湯呑を出した。

「伝説の人ってことでキラキラした目で見られてさー。張り切りすぎちゃった」

「ほお。お前でもそんなものかね」

「何言ってんの。提督だってそうじゃん」

 

『誉れ高き一期生』

発足間もない提督養成学校、艦娘養成学校の一期生たる彼らは、始まりの提督と原初の艦娘亡き後深海棲艦の脅威から人々を守った存在として、その名を広く知られている。

海軍大臣である坂上から請われ現役復帰をした杉田を待っていたのは、不安に揺れどうしてよいかと戸惑い、そんな彼の名声にすがろうとする者達の姿だった。

 

(もう少し骨があると思ったのじゃが。)

さして期待はしていなかったとはいえ、精強と謳われていた大湊警備府の者達である。

中には気骨を見せる者もいるだろうとは思っていた杉田の落胆は激しかった。

 

(これではなんのために先輩たちは逝ったのか。)

あの鉄底海峡の戦いの折。多くの退官した先輩自衛官たちが自ら率先して艦娘達を支援するために補給艦に乗り込んだ。帰る可能性など限りなくゼロに近い事は誰の目にも明らかだった。だが、誰かがやらねばならないと淡々と語り、去って行ったその姿は未だに杉田の瞼に焼き付いている。

 

(その思いを受け継がねばなるまいて。)

これまでの自分たちの価値観を否定され、どうしてよいか分からない。分からないことではないが、だからといってその状態を肯定する気にはなれない。自分達は海の守り手であり、深海棲艦の脅威は依然として存在する。彼らが倒れれば人類には敗北しか残されていないのだ。

 

「こんな老人に何を期待しておるのかは知らんが惨めなものじゃな」

きっぱりと告げる杉田の言葉に、集まった者達は皆一様にうなだれた。

 

「ちょっと提督!」

横合いから鈴谷が小突く。今この場で彼に対しそんなことができるのは彼女ぐらいなものであろう。

「おおすまんすまん。わしは口が悪い。ついついいらんことまで口走ってしもうた。だが、これだけは言うておく。自分の頭で考えられん者はいらん。人も艦娘もじゃ」

集まった大湊警備府の者達に対し杉田はそう告げ、退役したい者は遠慮なく申し出るように付け加えた。

 

「ちょ、長官。それは!」

 

一緒に着任した参謀は鼻白んだが、杉田は意に介さない。

 

「言われただけのことしかできん奴らは必要ない。いざという時にものの役に立たん」

 

老将の言葉は大湊警備府の者達にとっては耳が痛いものであった。だが、表だって不満を口にすることはできない。杉田の赫赫たる戦果とその戦歴は、精強を謳われた彼らをして畏敬の念を抱かせるものだった。

最前列にいた叢雲と浦波が悔しそうに顔を歪ませた。

今までの自分達は役立たず。そう言われたのに等しい。だが、自分で物を考えていなかったというのは事実に他ならない。

 

「悔しいか。悔しいならわしを見返してみろ」

杉田は二人の肩を叩くと、荷物の整理もそこそこに精力的に活動を始めた。

 

それから半月あまり。徐々にだが大湊は変わりつつある。

 

未だ意気軒昂に仕事に取り組んでいる杉田だったが、鈴谷は内心気が気ではなかった。

艦娘である自分達と違い、杉田は人間で、しかも後期高齢者に分類される年齢なのだ。

 

「ったく、年甲斐もなく張り切っちゃってさ」

はいと手渡された茶を飲み、杉田は顔を顰めた。

 

「なんじゃ、この苦さは。濃すぎるぞ」

「にひひひ。眠そうだからねー。鈴谷特製ブレンド!」

「お前は何でもかんでも濃く淹れればいいと思っとるからな。だから曙の奴に貧乏性だと言われるんじゃ」

「はあ!? 貧乏性と違うし! 逆に薄い方が年寄りっぽくない? まあ提督は十分お爺ちゃんだけど、鈴谷はほらまだまだイケるっしょ」

わざとらしくスカートをひらひらとさせる鈴谷に杉田は顔を顰めた。

「お前の言うイケる艦娘とやらは茶うけに煎餅だの塩大福だのを食べるのかね?」

 

むぐっと煎餅をかじりながら、鈴谷はそっぽを向いた。

窓の外では、艦娘の一団がランニングをしている。

 

「そう言えばさー、何か電話があったじゃん、江ノ島から」

「ああ。昔の事を聞きたいとな」

「何の話?」

ずずっと杉田が湯呑に口をつける。

「わしらが背負っていかねばならん後悔についてじゃ。罪と言ってもいい」

普段とは異なる杉田の口調に、思わず鈴谷は顔を向ける。

 

「罪? 提督が?」

「わしだけではない。この国の海軍関係者、ひいては人類そのもののな」

「どういうこと? 鈴谷達頑張って深海棲艦を倒したじゃん。提督だってすごいって褒められたでしょ」

「ああ。わしらはたまたま上手いことやり賞賛を浴びた。だがな、世の中には光と影が存在する。貧乏くじを引き、報われなかった者達がいるんじゃ」

 

杉田は立ち上がり、窓の外の艦娘の一団を見た。

トレーニング中だろうか。

先頭を走る浦波が気づき、ぶんぶんと大きく手を振る。

後からやってきてそれをたしなめた叢雲もぺこりと頭を下げた。

 

その二人を後ろからやってきた艦娘はすごい速さで追い抜いていく。

何かを振り切るかのように一心不乱に走るその姿に周囲の艦娘達も息を呑む。

 

「少しは変わったようじゃが」

風に揺れる彼女のトレードマークである黄色いリボンを見ながら、杉田はため息をついた。

 

 

                     ⚓

「今よりも二十年前。一つの計画が持ち上がったわ」

ジャーヴィスは手元の手帳を開くと淡々と語り始めた。

 

日々深海棲艦の脅威にさらされ、明日をも知れなかった人類。

そんな彼らの希望となっていた、始まりの提督と共に立ち向かっていた原初の艦娘達。

一騎当千の強者である彼女達の活躍により、日本近海の制海権を何とか維持できる段階になった時、その議題は持ち上がる。

 

「何とか艦娘を駐留させることはできないか」

各国指導者からの嘆願は半ば脅迫に近いものだった。

原初の艦娘たちの能力は凄まじく、多くの海外遠征を経て深海棲艦相手に連戦連勝。世界中が彼女たちの存在を歓迎し、希望を見出した。だが、だからこそ思う。

 

どうして自分達の国には艦娘がいないのだろう。

日本は艦娘を独占している、と。

 

彼らが特に不満だったのは、自国の艦名を持つ者たちも皆例外なく始まりの提督の元に集い、彼の指揮でなければ受けつけようとしないことだった。いかにビスマルクがドイツの戦艦であったといっても、提督の指揮が無ければ戦えない。好待遇をちらつかせたり、弱みを握ろうとしたりする度に艦娘達の厳しい警護と始まりの提督自身の抜け目なさに敗北した彼らは、遂にその背後にいる日本政府に直接圧力をかけることに決めたのである。

 

経済制裁を絡めての大国同士による綱引き。

形骸化した国連での会議を経て、日本から各国へと艦娘を引き渡すよう求めようとしたその時。

日本政府より提示されたアイデアは世界各国を驚愕させた。

 

「艦娘を新たにつくる」

始まりの提督紀藤修一とその艦娘明石によるその発案は歓迎され、後の世にいう建造ドックが作られることとなる。

 

「これが皆も知っている歴史」

「ええ。艦娘養成学校で基礎科目として教えられることよ。そして、あたしたちと彼女達原初の艦娘がなぜ違うのかも」

 

海より生れ出た原初の艦娘。

その彼女達を模したと言われる、その後に誕生した艦娘たち。

建造された者達もドロップで確認された者達も。

皆例外なくその能力は原初の艦娘より低い。

それはなぜなのか。

米国の艦娘学校では、コピーはしょせんコピー。オリジナルより強くはなれないと、人間の教官が身も蓋もなく教えていた。

 

「ドライなあの国らしいですね」

霧島は不愉快そうに吐き捨てた。

「我が国では違います。多くの学説がありますが、その中でも主流なのは、原初の艦娘を本体、その分け御霊が建造ドロップされた艦娘たちというものです。分け御霊も元の神霊と同じ働きをするとされていることから支持されています。もっとも彼らは原初の艦娘との能力の差については言葉を濁していますが」

「色々な説が日本でもあるみたいね。私も調べたわ。中には原初の艦娘が船そのもの。私達が船のパーツだって言っている人もいて面白かったわよ。その人が言うには『パーツも船を構成する一部分であるから、船には間違いない。けれど、船そのものではないから、その魂の出力は落ちるだろう』とのことだったわ。だから、私達と原初の艦娘は違うと」

 

随分と面白くもない説だが、言わんとすることは分からなくもない。

原初の艦娘と私達の間の能力差は歴然で、あっただけで格の違いを思い知らされるのが彼女たちなのだ。そんな人たちが平然とうろついている江ノ島鎮守府は明らかに異空間と言っていいだろう。

 

「その時に作られたのがすりぬけくんなんですね。でもなぜそれが知られていないんでしょう?」

雪風の問いはもっともだ。多くの人間に望まれ、歓迎されたはずの試作型の建造ドック。それが今や壊された状態で平然と江ノ島に置き去りにされていた。それは本来ならばナンバー1のレプリカの代わりに艦娘博物館に飾られるべき逸品の筈だ。

 

「すりぬけくんが試作品だと気付いたとき」

ジャーヴィスは言葉を切り、金剛をじっと見つめた。

「予感があったの。これはよくないことがあったんじゃないかって。だってそうでしょう? なぜ資料の中でしかその存在に触れることができないの? どうして大本営にあるシリアルナンバー1が初めての建造ドックと言っているの? きっとそこには語られない理由があるからなのよ。資料を編纂した人間たちにとって都合の悪い真実が」

「皆が望んだ建造ドックなのに?」

「ええ、ジョンストン。残念ながらね」

ジャーヴィスは小さくため息をついた。

 

「パンドラの箱って知っているでしょう?」

「ええ。最後に希望が残っていたってやつね」

「そう、それ。ギリシア神話でパンドラは誘惑に負けて箱を開けてしまう。その結果世の中に色々な災厄が振りまかれ、最後には希望が残った・・・。いい話のように聞こえるのだけれど、私は違う解釈を持っている」

「どういうことよ」

「希望こそ災厄の中で最も厄介なもの・・・。そういう例えなのではないかと最近思うの。人が最も絶望するのは最初から最悪だった時じゃないわ。最悪な状態から抜け出せると中途半端に希望を見せられ、それが思い通りにならなかった時よ。今回のケースがまさにそう」

 

荒々しくカップを置く音が室内に響いた。

膝元にまでこぼれた紅茶を拭こうと、榛名が慌てて金剛に駆け寄った。

 

「せっかく作った建造ドックが期待通りでなかった?」

 

ふと頭の中に何かがよぎり、私は額を抑えた。

何気なく口にした言葉の中に引っかかるものがあったらしい。

人々は何を期待し、それがどう外れたのか。

 

見ると、同じように雪風も頭を捻り思案顔だ。

その顔をじっと見つめるうちにふいに頭の中で大湊でのことが思い出された。

ジャーヴィスとの珍道中。そして、大湊の艦娘達との演習。突然の雪風の暴走。

 

記憶の片隅で何かが必死に語り掛けていた。

望まれぬ建造。原初の艦娘への強いこだわり。

 

衝動に駆られ、私は思わず口を挟んだ。

「ちょ、ちょっと待った。ひょっとしてなんだけど。その時建造された艦娘を私、他に知っているんじゃない?」

 

それに対するジャーヴィスの返答は素っ気なかった。

「ええ。今日来たメンバーはみんな知っているわ」

 

「ま、まさか、それって・・・・・・」

雪風と目が合う。

その視線が不安げに揺れていた。

 

それ以上はしゃべりたくないのだろう。

今日来たメンバーの中でも特に彼女と深くかかわったのが雪風だ。

誰も好き好んで口にしたくはない。気持ちのいい話ではないのだから。

 

だが、ジャーヴィスは、探偵はそんな私達の小さな戸惑いなど気にしない。

真実を知るためには時に恥知らずなこともしてのけ、冷酷になる。それが探偵だ。

 

「彼女達は人々の期待を一身に背負い建造されながらも、望むものではなかったために出来損ないの烙印を押されてしまった。今では当たり前の建造への知識がない当時、原初の艦娘ほどではないという理由で『始まりの出来損ない』などと揶揄され、辛い日々を送ることとなったの。」

 

『始まりの出来損ない』

記憶の中で黄色いリボンが揺れる。そう、それは、あの大湊の。

 

「ええ。大湊の神風。そして、今目の前にいる金剛こそが試作型建造ドックで作られた本当の栄えある最初の艦娘。その数少ない生き残り。そして、彼女達の提督こそ、ダーリンの前に江ノ島鎮守府にいた能瀬提督その人よ」

 

 

 

 

 

 

 

                  

 




登場人物紹介

杉田提督・・・・・・未だに大湊の艦娘達から壁を感じ、実は少し寂しい。
鈴谷・・・・・・お気に入りのお茶請けは豆大福。どら焼きは粒あん派。
曙・・・・・・実は杉田の着任日に心配になって休みをとり、大湊にいたのは内緒。
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