鬼畜提督与作   作:コングK

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注意:この物語では沈んだ艦娘の話をする際も極力艦娘名を出さないようにしてきましたが、今話では出てきます。嫁艦の名前があるかもしれません。気になる場合はブラウザバックをお勧めします。




第七十四話 「期待という名の毒(後)」

提督から聞かされた私達の秘密。

それを私は包み隠さず艦隊の皆へと話そうと提案した。

 

秘密などどこから漏れるか分からない。

それよりは皆に誠実に話し、その判断を仰いだ方がいい。

 

「もう働きたくないと言う子もいるだろうな」

「そうしたらどうするネ」

「その子がやりたいようにさせるさ」

「まあ、そんな子はいないと思うヨ?」

 

果たして私の予言通り。

その日、提督からの真実の告白を受けても、誰一人として艦隊を去る者はいなかった。

ある者は自分の推測が間違っていなかったと頷き。

ある者は今後の艦隊運営について思いを馳せ。

また、ある者は自分達を庇い、不当な非難を受けた提督のために怒っていた。

 

「あんたも大変ね・・・・・・って、ちょっと!」

いつも提督に当たりのキツイ霞が掛けた一言に提督が泣き出し、それを周りの艦娘達が囃し立てる。

「提督の汚名を返上し、何としても生き延びよう」

そう互いに誓い、頑張ろうと励まし合う艦娘達。

その彼女達に向かって静かに提督は頭を下げていた。

 

この時の私達はまだ自分達の置かれた状況を正しく理解していなかった。

 

死に物狂いで事に当たれば。

きっと道は開ける、いずれ何とかなると。

ただ盲目的にそう思っていたのだから。

 

 

 

それは、まるであの大戦の時を思い起こさせるような、辛く厳しい日々だった。

 

深海棲艦が活発化する夏を迎え、無限に湧く敵を押し止めようとする原初の艦娘達と始まりの提督。

彼女達がいかに一騎当千の強者で、始まりの提督が用兵に長けていたとしても。

護る海は広すぎ、救助を求める声は多すぎた。

 

必然、防衛網に穴が開き。その間隙をぬってやってくる深海棲艦を迎え撃つことこそが、上層部から命じられた「調査」だった。

 

自爆覚悟で突っ込んでくる敵駆逐艦や軽巡。

艦載機を飛ばし、魚雷まで放つ反則級の戦艦。

こちらの空母をあざ笑わんばかりの長距離から攻撃を仕掛ける軽空母。

どれもこれもが規格外の力を持つ者ばかり

 

素人同然の提督と、まともな訓練も積んでいない練度不足の私達では、無傷でその侵攻を止めることなどできよう筈がない。

 

来る日も来る日も来る日も来る日も。

ただひたすらに広い海を廻り、単騎で警戒網を潜り抜ける強力な深海棲艦と戦い、鎮守府に戻ることを繰り返した。

 

当初原初の艦娘達に負けて堪るかと強気でいた艦娘達は、次第に黙りこくるようになり。

明るく無邪気な駆逐艦達も徐々に口数を減らしていった。

日が経つにつれ被害は大きくなり、入渠ドックに艦娘が入りきらず鎮守府のあちこちで体を横たえる始末。

修理が間に合わぬ者は小中破状態での出撃を余儀なくされ、疲労困憊な中でも休むことすらままならない。

 

大破は何人、中破は何人、小破は何人。今日は何人行けるだろう。

味方が傷つくことが当たり前になり、麻痺した感覚で気にするのは出撃できるかどうかとそればかり。

 

もちろん、私達もただ手をこまねいていたわけではない。

 

艦娘同士での演習。戦術の研究。挑む周辺海域についての事前情報の入手。

今では当たり前となったことだが、その当時は初めてのこと。慣れない中、手探りでもがき続けた。

 

同時に建造ドックの再調査の意見具申。直接間接を問わず行った回数を数えれば、それは優に二けたは超える。だが、返ってくるのは決まって「考慮する」「先方に伝えておく」とそればかり。

 

 

遂に沈む船が出始め、苛立ちと焦りが極致に達した時。

提督は意を決し、参謀本部に直訴へ向かった。

受付での押し問答の末ようやく通された会議室にいたのは、先日私達を悪し様に罵っていた上官たち。

 

「ご覧ください。こちらが我が艦隊の被害です。このままでは任務に支障をきたします。どうか、どうか資材を融通してください」

 

眠い目をこすりながら不眠不休で仕上げた艦隊状況の報告書。

だが、受け取った上官はぱらぱらとめくっただけで、それを無造作に机の上に放り投げた。

 

「君の言いたいことは分かる。だが、深海棲艦の動きが活発化してから各国からの要請がひっきりなしでな。前線で頑張っている紀藤提督の艦隊にも融通せねばならん。苦しいところだとは思うが、あるもので頑張ってもらうしかないのだ」

「頑張る? 満足な資材も寄こさず、ただ頑張れとは余りにも無責任ではないですか!」

「無い袖はふれん。君も分かるだろう。世界中が我が国に対し、対深海棲艦の役目を期待している。呉の建造ドックへの資材供給もある。こちらとしても精一杯の資材は送っているのだよ」

「呉のドックに資材を? そんな余裕がどこにあるというのです! 我々は見殺しですか!」

「能瀬くん、言葉が過ぎるぞ。元はと言えば君が建造ドックの開発に失敗するからこんなことになるのだ。呉の二号機が同時期に開発に入っていたからよかったものの、もし今回のことが漏れれば、世界中が失望する事態となっていたのだぞ」

「それこそとんだ言いがかりです。こちらをご覧ください。この一月何度も何度も検査確認しました。建造ドックは設計図通りの仕様に間違いありません」

 

提督が差し出した書類を、彼らは受け取ろうともしなかった。

「本部に何度も問い合わせをしたはずです。紀藤提督と明石に、建造ドックの設計図に誤りはなかったのか確認をして欲しいと!」

「聞いているよ。だが、話を繋いではいない」

冷ややかに答える上官の姿に、私は目を大きく見開いた。

 

「な・・・・・・」

「当然だろう。今や対深海棲艦の最前線にいる紀藤提督に対し、そんなことでいらぬ気遣いをさせてどうする。どう考えても言いがかりの類ではないか」

「左様。原初の明石とあの紀藤提督が考えた設計図だぞ? 間違いを疑う方がバカげている。どう考えても作り手が悪い」

 

何と愚かなのだろう。

 

間違う筈がない? 

始まりの提督といえど人。原初の艦娘といえど全能ではない。神ではないのだから当たり前。そんなことは子どもでも分かる理屈だ。

出来上がったものが期待通りでないと言うのならば設計図の段階から疑うのが道理。

それすら許さないとは、呆れ果てた妄言だ。挙句にこちらからのコンタクトを邪魔するとはどういう了見なのか。神を疑う不信心者は神の視界にも入れさせないということなのか。

 

全ては余裕がない中、一縷の望みとして現れた希望。その希望に対し疑いをかけることができる程人は強くはなかったということだろう。

だが、その弱さと醜さをなぜ私達が受け止めなければならなかったのだろうか。

 

「・・・・で、」

「?」

「なんで、彼女達が日々苦しんでいるのにそのことに目を向けないんです。僕たちのために傷つき・・・・・沈む子も出ているんですよ。我々の代わりにこの国を、世界を守ってくれている彼女達に、どうしてその程度のこともしてはくれないんです!!」

「失敗作である君の艦隊になけなしの資材を割いているだけでも温情と思いたまえ。前線を維持するために少しの無駄も許されん状況なのだ」

「無駄!? 無駄とはどういうことですか!」

「深海棲艦を撃退しておると言っても数えるほどだろう。資材の有効活用とは言えまい」

「沈んだのなら建造すればいいだろう。失敗作でないというのならば、君ご自慢のドックを使いたまえ」

「・・・ざけるなよ・・・・・」

瞬間、提督が拳を振り上げたのを察知し、私はその右手をとった。

「No!」

「放せ、金剛! ふざけるなよ、この人でなし!! 沈んだら建造しろだと!」

「能瀬!! 口を慎まんか!」

「それがこの国を守ってくれている艦娘達にかける言葉か!! 修理や補給のために色々切り詰めてやりくりして。それでも足らずに被害が出ているんだ。少しは現実を見ろ!!」

「能瀬くん。艦娘の見た目に感情移入し過ぎているぞ。彼女達は確かにうら若き乙女の容姿をしているが、れっきとした兵器だ。そのつもりで運用しなければやっていけんぞ」

「苦しみながら沈んでいった艦娘達を前にそれが言えますか?」

「恨むなら恨めと言うだけだ」

「話にならんな。情を持ちすぎている。やはりいくらテストと言っても自衛隊から提督を選抜すべきだったな」

「失礼するネ。臭くてやっていられないヨ」

「何だと?」

「ぶうぶうぶうぶう。人のやること為すことにケチをつける豚といるとうちの素敵な提督のお肌によくないネ」

「貴様!!」

退室を告げられる前に、提督の手を引き、私はその豚小屋を後にした。

 

「止めるな、金剛。止めないでくれ。僕は、僕は恥ずかしい。あ、あんな連中を守るために君たちに無茶をさせているなんて・・・・・・」

「それが私達の生まれてきた理由だから仕方がないネ。沈んでいったみんなもきっと分かってくれているヨ」

「理不尽に扱われて沈むことをか? そんなことある訳ないだろう!」

「提督は優しいネ。でも、戦争とは理不尽なものだヨ? 私が船だった時代だって、乗っていた人達は死にたくなんか無かったネ。でも家族とか恋人とか大事な人を守るためにみんな戦ったデス」

そっと彼の右手を両手で包むや、その余りの白さに驚く。

連日連夜事態を好転させようと提督はその体を酷使していた。

目の下の隈は深くなり、体中から眠気覚ましのコーヒーの臭いが途切れることはない。

 

上手くいかなければ罵倒してくる人間なんて守りたくない。

艦娘にだって意識はある。馬鹿にされても彼らを恨まないことなどある訳がない。

けれど戦っているのは誰のためか。

 

「私達が守りたいと思うのは、提督。あなただヨ? あなたを守りたいから私達は無茶をしているんデス。どうか、どうかそれを忘れないで欲しいネ」

「金剛・・・・・・」

 

被害報告に心を痛める彼をせめて慰めるつもりの言葉だった。

 

「すまない・・・・・・」

 

涙を流す彼を見て、嬉しいのだろうとその時私は思っていた。

けれど、生まれたばかりの私は分かっていなかったのだ。

心優しい彼が。

自分を守るために艦娘達が無茶をしていると聞いて、本当はなんと思っているのかを。

 

 

続く続く。

地獄の日々が続く。

 

いつからからか沈んだ味方の数を数えるようになっていた。

 

昨日は何隻、今日は何隻、明日は何隻沈むのか。

頭の中で冷静に計算する自分に驚いた。

 

なぜと問う前に、でもと諦めの言葉を吐く。

最前線で戦い続ける原初の艦娘と私達以外に深海棲艦と戦えるものは無く。

どこからの助けも期待できない。

 

一人また一人と、食堂に姿を見せる艦娘が減っていく。

提督は日々ふさぎ込むようになり、滅多に執務室から出ることが無くなった。

皆に申し訳ないと食事すら満足に口にせず、定時連絡の度に生気が失われていくように感じた。

 

 

「原初の神風さんに会ったのよ!」

 

強張った口元をほぐしながら神風の話を聞く。

陰鬱な雰囲気を纏うようになった提督に私ができることはいつも通りに振る舞うことだった。

明るく、彼と出会った頃の自分。常に意識していなければ、笑顔になることを忘れてしまいそうだった。

 

不意の邂逅に興奮する神風は、初めて見た原初の艦娘たちの姿に驚いたという。

詳細に彼女達の様子を語り始めた。

「キラキラしていて太陽みたいだったわ。住む世界が違うなって感じ。悔しいけど月とスッポンね」

「月なんか見るだけネ。スッポンはスープになりマース」

「私が話しかけたら向こうもびっくりしていたわ。すごく喜んでくれたのよ」

「それはLuckyだったネ! きちんとあなた達のせいで苦労していると恨み言の一つも言ってやりマシタカ?」

「そんなこと言えないわ、リボンもくれたし。でもでも、建造ドックのことは聞いてみてくれるって」

「Really!? まあ、話半分に聞いておきマス。向こうさんも大分忙しいみたいだからネ。私達のことなんか気にしている余裕はない筈だヨ」

「どういうこと?」

「どうも深海棲艦相手に一大決戦を挑むのではって噂になっているネ」

「決戦? 深海棲艦がやたら増えてきているのに?」

「このままじゃジリ貧だからネ。あり得る話だと思うヨ」

 

 

 

伝え聞く鉄底海峡の戦い。起死回生の策を始まりの提督が思いついたのはおよそ一週間前だという。

全戦力をもって敵本拠地を叩く。

それは無限の回復力を持つ敵を相手にとって、取りうる唯一の方法であっただろう。

 

穴があったとすればただ一点だけ。

守りをまるで意識していなかったこと。

 

運命のあの日。

始まりの提督と原初の艦娘が鉄底海峡に挑んだあの日。

それは時を同じくして、深海棲艦の別動隊が本土を強襲して来た日でもあった。

 

「バカな、裏をかかれたのか?」

「冗談ではない!」

「前線に連絡はとれんのか!」

参謀本部の狼狽ぶりは見るに堪えないほどだったという。

 

そんな中当然のように駆り出されたのは私達。

「呉で建造された艦娘達は未だ練成中だ。君たちしか頼れん」

「・・・・・・失敗作扱いしていて結局はそれですか? どれだけ沈んだと思っているんです」

冷たい声だった。これまでのように感情を込めた声でない分、提督の無念さが伝わった。

「吹雪も、初雪も、潮も、霰も、五月雨も、神通も、那珂も。加賀も赤城も、祥鳳も扶桑も山城も・・・・・・。みんな、みんな沈みたくなんかなかった筈なのに・・・・・・。笑って、笑って消えていって・・・・・・」

「沈んでいった者達にはいくらでも謝罪しよう。望むのなら慰霊碑を作ってもいい。君も建造ドック開発チームに戻そうじゃないか」

 

今の今までそんな態度を見せたことなどなかったのに。

頼るあてが無くなった途端の手のひら返しに虫唾が走った。

目の前にいたら平手打ちの一つもお見舞いしていただろう。

 

「いらない・・・・・・。そんなもの、いらない・・・・・・」

「能瀬君。このままでは、君の家族も深海棲艦にやられてしまうのだよ!」

「したくはないが、このままでは我が国どころか世界が滅亡してしまう。然るべき手段で君に言う事を聞いてもらわざるを得なくなる!」

「我々とてそんなことはしたくないんだ、頼む」

利をちらつかせ、情に訴え、脅し、宥めすかす。

とにかく提督に翻意を促そうとする参謀本部の上官たち。

 

そのままでいたのなら、きっと提督は意地でも命令を受けなかっただろう。

心優しい彼ならばそうしたに違いない。

 

他の人間がどうなろうと構わなかった。

自分のことしか考えない人間たちなど守りたくはなかった。

 

ここでやられるのなら、それが人の運命だろう。

 

けれど。

 

私は、私達は。

 

彼だけは、守りたかった。

どうしても、どうしても守りたかったのだ。

 

「提督。出撃するネ」

私の言葉に驚く提督と、喜びに醜く顔を歪める上官たち。

 

「な、止めろ、金剛! こんな馬鹿な命令に付き合わなくていい!」

「それは同意ネー。でもネ、提督。私達がなんで戦っているか、言いマシタヨ?」

私の言葉を聞き、提督は激しく頭を振る。

「僕のためというなら猶更だ。君たちばっかり傷ついて馬鹿にされて。報われなさすぎだよ。こんな連中なんて放っておけばいいんだ!」

「もちろん、あの連中なんて何とも思ってないデス。私は、私達は提督を守りたいだけネ」

「ダメだ!」

執務室を出ようとする私の前に提督が立ちはだかる。

そっとその体を抱き、彼の温もりを確かめた。

 

「随分、痩せたネ。きちんと食べてないからデス」

「そういう君こそ傷だらけじゃないか」

「Ladyに対して失礼ネ。もっと気を遣うべきだヨ?」

「君がいてくれないと僕は女性への気遣いすら分からないんだよ・・・・・・」

「沈むつもりなんかないネ。戻ってきて散々連中に恩を着せるつもりデス」

「僕はどうなってもいい。君たちが傷つくことにもう耐えられないんだ」

「提督は優しいネー。でもネ」

 

涙を見せる彼の顔をそっと両手でつかみ、こつんと額を合わせた。

「相変わらず女心が分かってないデース」

自然に彼と唇を重ねる。

 

目を大きく見開きながら固まってしまった彼に私は言った。

 

「好きな相手が倒れるところなんか、誰も見たくないものだヨ?」

 

「え!?」

虚を突かれた彼の脇を抜け、執務室を出る。そこには鎮守府に残った艦娘達が勢ぞろいしていた。

「みんな気持ちは同じようだネ」

覚悟は済ませたという風に先頭の神風が頷き、私の後に続く。

「ええ。でも、金剛は残ってもいいのよ?」

「残念ながら無傷で残っている戦艦は私だけだし、今残るのは恥ずかしくてNoヨ」

火照った顔をパタパタと扇ぐと、神風は不思議そうに首を傾げた。

「そういうものかしら」

「神風もいずれ分かりますヨ」

 

そうして軽口を叩きながら、私達は出て行った。出来損ないとして。最後の戦いに。

 




読買新聞10月25日号より
『人類の希望完成す』
「かねてその完成が期待されていた人類初の建造ドックが呉工廠にて全世界に向けて公開された。既に自衛官の中から選ばれた提督候補生により何人かの艦娘が建造されており、待ちに待った吉報に世界各地からお祝いの言葉が届けられた。今後かかる技術が全世界に広がり、深海棲艦の脅威に対抗するための礎となるであろう。」
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