ようやくこの時が来た。
本当に長いこと待っていたぜ。大体休みがないってどういうことだよ。
提督候補生時代だって基本土日休みだったってのに。横須賀や呉みたいな大きな鎮守府は何人もの提督が所属しているから持ち回りで休みがとれているようだが、うちみたいな弱小鎮守府はそうもいかねえ。何しろ人手がないからな。そういう所は任務娘として着任する大淀や、工作艦明石などが臨時の提督としてその日の仕事を廻してくれるらしい。ところが、なぜか何度要請をしようが一向にうちの鎮守府には任務娘も工作艦明石も来やがらない。関係各所で調整中だと!?何度その台詞を聞いたことか。そっちがそうくるなら仕方ねえ。こちらにも考えがある。
「ということでだ、爺さん。留守番しててくれ。」
「何が、ということかは分らんが、お前さんが帰ってくるまでここに座っていればいいのかね。」
くっくっく。ちょろいちょろい。人手がないなら作るまでだ。ちょうど近くにいつも暇そうにしている爺がいて助かった。所属は全然違うがね。
「おうともよ。海と陸でお門違いかもしれんが、なあに。何かあったらすっとんで帰ってくるからよ。やばい時には横須賀に連絡するか、この鎮守府を放り出して逃げてくれればいい。」
「まあ、これまでの様子じゃそれはないと思うがの、了解した。」
「ありがたい。頼むぜー。土産買ってくるからよ!」
うきうきしながら執務室より出る。あー解放感。四六時中駆逐艦どもとの生活にうんざりだ。た
だでさえ、提督養成学校の時からあの時雨に張り付かれていたのに何の因果でまた同じような生活にならんといかんのか。雪風とグレカーレにも同時に暇をやったから、適当にその辺の海で遊んでくるだろう。ガキのいぬ間に何とやらだ。さーーーて何をするかなあ♪意気揚々と江ノ島駅へ。ここから藤沢に行って北口の金太郎で散々ぱらDVDを観て日頃のストレスを発散させる、その後は近くのPCショップに行ってもいいかな。最近はどこもエロゲーを置かなくなって寂しい限りだが、俺様はあの本番まで待たされるまだるっこさが嫌いじゃねえ。何をしようかわくわくしていると、江ノ島駅前でちょっとした人だかりができているのを見つけた。
「おい、海外の艦娘がいるらしいぞ!」
「マジか!年寄りどもが反対運動なんて馬鹿なことやるから艦娘がいなくなって恨んだけど。」
「・・・。」
海外の艦娘?何だそのNGワードは。脳裏に浮かぶ児ポロり以外にこの辺に海外の艦娘がいたのか。
何となくいやな予感がした俺様が人だかりを避けて改札に向かおうとすると、向こうからやって来る約二名。
「あっテートクー。遅いよお!」
「待ちくたびれましたよ、しれえ」
「・・・・」
「あれ?どったの。ああ、このお菓子?なんか優しい人がくれてねー。」
「雪風はソフトクリームももらってしまいました。」
ぺちゃくちゃとしゃべりまくる二人の側で固まる俺様。なんで、こいつらがここにいるんだ。お前ら鎮守府や近くの海で遊んでればいいだろが!それと、勝手に他人から物をもらうんじゃない!誘拐してくださいって言ってるもんだろが。
「すいません、しれえ。物をもらうのは気をつけます・・。」
「でも、海や鎮守府で遊べってのは嫌だよ。海はいつも出てるし、鎮守府で雪風と遊ぶってなったら大変でしょ?」
グレカーレは目を伏せる。ああ、その気持ちは俺様も分かる。何が楽しくて永遠に自分の番をとばされたり、カードを取り過ぎて山札が無くなるなんてことを経験しないといけないのか。
「どうしようかと相談していたら、憲兵のお爺さんがしれえの外出についていったらどうかと。」
「あんのくそ爺~」
ぬか喜びさせやがってえええ。こいつらがついてきたら俺様の休日にならんだろうが。これだから頭の中が孫ボケしている奴は使えねえんだ。土産物のレベルを一段階下げてやる!
「ほら、行こうよ、テートク。」
遠慮なく俺様の手を引っ張るグレカーレ。いやいや。お前たちは鎮守府に戻ってろ。俺様は重要な買い出しがあって鎮守府を留守にするんだから。
「ええー。いやだよお。買い出し付き合うから、連れてってよぉ。」
「お願いします!雪風も藤沢の街に行ってみたいです!」
「お願い!」
「お願いします―!」
二人そろってぐいぐいと俺様を引っ張るがきんちょ二人。同期のロリコンなら涙を流して喜んだだろうが、生憎と俺様は一般的な感性の持ち主だ。こんなところでこんながきんちょ二人と揉めていたらどうなるかすぐ分かる。
「ああー、すいません。ちょっーっとお話聞かせていただけますか?」
にこにこと人ごみをかき分けて近づいてくる警察官。くそったれが。そうなると思ったよ、畜生め!
「畜生、馬鹿どもが!ついてこい!ほら切符だ切符。」
高速で買った切符を渡すと、どこに入れていいかわからずもたつく二人を抱えて、間一髪出発しかける列車に飛び乗る。
「あっ、こら!待ちなさい!!」
閉まるドアの向こうで警察官が叫ぶが列車にはかなわない。
「俺様は無実だから憲兵の爺に話を聞いてくれー。」
そもそもあの爺が元凶だからな。事情説明ぐらいには役立ってもらおう。
「すごくないテートク!まるでルパン一味みたいじゃない!!」
キラキラと目を輝かせるグレカーレ。ああ、そういや最近お前ハマってたな。
とすると、俺様がルパンなのは確定だが、後がいないぞ。
「ええーっ。あたしは完全に峰不二子じゃん!!ルッパァ~ン!って痛い痛い!」
「人前でやるんじゃない。この児ポ駆逐艦!人が少ないとはいえ恥ずかしいだろうが!!」
「おっかしいなあ。完コピのつもりなんだけどねえ。って、雪風は何で黙ってるの?」
グレカーレが隣りに座る雪風に話を振る。そういやさっきから目をつぶってやたら静かだな。
「雪風は五右衛門です・・。また詰まらんモノを切ってしまった・・。」
ぶーーーっ。俺を笑い死にさせる気か!?どう考えてもお前らがきんちょは名探偵コナンの少年探偵団止まりだろう。
「艦娘に年齢は関係ないんだって!」
「そうです。見た目と違います!」
また始まった。駆逐艦どもにガキと言うと切れて言い返すこの理論。ん!?てことは待てよ、おい。お前たち子供料金じゃダメってことか?
「ううん。この艦娘専用の身分証明書を見せれば全国どこでもタダで行けるよ。」
はあ?なぜそれを早く言わない。切符買うだけ損ってことじゃねえか。
「それはしれえが突然走り出したので・・。」
「あー。まあいい。せっかく買ったんだから落とすなよ。」
「しれえ、この切符ってとっておけないんですかね。」
「藤沢でハンコ押してもらえば持って帰れるぞ。なんだ、お前鉄オタか?まあ、最近はカードばかりで切符なんて珍しいからな」
「いえ、そういう訳じゃありませんが。とっておきたいので。」
雪風はなぜかぎゅっと切符を握りしめてにこにこと微笑む。
藤沢駅に着くと、なぜかグレカーレもハンコを押してもらっていた。
「よし、それじゃ一時にこの珈琲屋の前に集合な。仕方がないから5000円ずつ小遣いをやる。無駄使いするんじゃねえぞ。」
藤沢駅の改札を出てすぐ。電車に乗っている間考えたアイデアを実行する。そう、ようは俺様が別行動をとれるようにすればいいのだ。時間と場所さえ決めておけばこいつらも大丈夫だろう。
「テートクはどうすんの?」
「俺様は特別な買い出しがある。がきんちょはお呼びでない場所だ。」
「ええーっ。手伝うから連れてってよお。」
お断りだ。何が悲しくてPCショップのエロゲーコーナーをがきんちょと見て回らねば行かんのか。時折女連れでのこのこと来るバカがいるが、周りの人間からすると空気を読めと言いたい。
「そうだ。もう一万ずつやるから最近藤沢に
どうだ。特に雪風、お前は服を買った方がいい。」
「いつもジャージのしれえに言われたくありませんよ!」
「とにかくそうしろ!それと俺様の携帯電話の番号を書いておくから何かあったら連絡しろ。分かったな。それじゃな!」
「あっ!」
渡すものだけ渡したら即とんずら。視界の中にはぽかんと口を開ける雪風とグレカーレ。ふふふ。いかにお前たちが艦娘でも俺様の神速には追い付けまい。逃走スキルは鬼畜道のイロハ。香取教官のお墨付きよ。また会おう!明智君!!
登場用語紹介
OI(おおい)・・・艦娘の大井が立ち上げた自社ブランドを中心としたファッション
ビル。若い女性向けの商品が並ぶ。
登場人物紹介
与作・・・・・・・最近提督のご飯が美味しいと言われ、自らの牙の抜け落ちた虎状
態を自覚し愕然とし、己を鍛えなおすべく休みをとる。
雪風・・・・・・・五右衛門ごっこは続き、目をつむってあぐらをかいたところで
与作からパンツが見える、はしたないとたしなめられる。
グレカーレ・・・・峰不二子になるにはボンテージスーツが必要だと密かに購入し
ようか悩んでいる。
憲兵(68)・・・・何やら近くでどんどんと音がしているが分からない。
もんぷち・・・・・寝過ごし置いていかれたため、憲兵に愚痴るも、普通の人間なの
で見えず悶々とする。