鬼畜提督与作   作:コングK

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秋イベ終了。これくらいのぬるさがちょうどいい。
お札本当にいらない。せめて札剥がしが欲しい。
でも士魂は出たのに、なぜ54戦隊や64戦隊を出さないのだろう。



第七十五話 「思い出は彼方になりて」

窓の外からうるさいぐらいに響くセミの音と裏腹に室内は静まり返っていた。

 

「お茶、入れ替えるね」

鈴谷がすっかりと冷たくなってしまった湯呑を手に取ると、

「ああ、すまんな」

窓の外を見たまま、老提督はそれに応じた。

 

「何かさ、悪い冗談みたい」

平静を装いながら、執務室に備え付けの洗面台で鈴谷は軽く湯呑をすすいだ。

 

艦娘養成学校第一期生であり、偉大なる七隻を除けば最古参の艦娘を自認してきた彼女にとって、杉田の話は受け入れがたいものだった。

 

自分達よりも前に艦娘が建造されていたこともさることながら、彼女達が冷遇され、さらにかの鉄底海峡の戦いの裏側で深海棲艦の本土強襲部隊ともう一つの戦いを繰り広げたという。

大小様々な戦いを経てきた彼女からすれば、質のよくない三流映画の如き筋書きで、戦争の何たるかを知らない若い脚本家が、とりあえず戦争の悲惨さだけを描いてみたのではとさえ思うほどであった。

 

だが、続く杉田の言葉で、鈴谷は己の認識がいかに甘かったのか思い知る。

 

「帰還二隻。艦隊全体での損耗率は98%で終戦」

杉田は重苦しく言葉を切り、沈鬱な表情で虚空を見つめた。

「それが彼女達を待っていた現実じゃ」

 

「嘘でしょ・・・・・・」

鈴谷の急須を持つ手が震え、辺りに香ばしい匂いが立ち込めた。

「ほぼ全滅じゃん・・・・・・」

 

「一つ。建造された時期が悪過ぎた」

 

彼女達が建造されたのは鉄底海峡の戦いが始まる数か月前のことである。

夏場に活発化した深海棲艦の大攻勢に晒された人類は、突如現れた希望にすがり、ひっきりなしに救援依頼を送った。始まりの提督と原初の艦娘達がいかに強く、各地の深海棲艦を打ち倒そうとも、無限に近い回復力を持つ深海棲艦の脅威を全て消し去ることなど不可能。

手が足らなくなれば、誰かがその穴を埋めなければいけない。

 

「彼女達しか他にいなかったのだ」

 

杉田は悔しそうにうつむいた。

深海戦艦に近代兵器が無力なのは今に限った話ではない。海上自衛隊も、米軍も。いや、世界中どんな軍隊だって意味がない。人は彼女達に頼る以外の術を持たなかった。

 

「だからって建造されたばかりで練度が不十分な艦娘たちを充てたの? よりにもよって原初の艦娘達の包囲網を突破してくるような連中に・・・・・・」

思わず雑巾をくしゃりと握り潰しながら、鈴谷はごしごしと手荒に床を拭いた。

動いていなければ、到底今の気持ちを発散できそうもなかった。

 

 

強力な包囲網を突破する槍の穂先となる敵。

必然それが単なる深海棲艦な訳がない。

単騎でも行動できるような強力な個体。一隻でこちらを脅かすような存在だろう。

ある程度目端が利く人間ならば、結果がどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 

「何で同じことを繰り返そうとするの・・・・・・」

艦娘として生を受け、学んできたこの国の歴史を鈴谷は思い出さざるをえなかった。

世界中を相手どっての先の戦争末期。

上層部の無能な指示で多くの若者たちがその命を散らしていった。

 

「ああ、そうだな。無能じゃ。先の大戦の経験をまるで生かしておらんと言われれば、その通りと頭を垂れるしかない。何を学んだのかと問われれば何も学んでいなかったのだと答えるしかない。今も昔も」

 

杉田は人差し指でこつこつと机を叩いた。

「真面目で国を守ろうとする者ほど前線へ行く。卑怯者ほど戦わず、安全な所からいらぬ差し出口を叩く。戦いは書類の上で起こっているのだと錯覚し、効率という言葉でしか物事を判断できぬ。戦争そのものが非効率的なものであるのにな」

 

「それが人のすることなの・・・・・・」

これまで信じてきた何かが裏切られたように感じ、鈴谷は目の奥を揺らめかせる。

「どうして、そんな酷いことができるの? 自分達の命を守ってもらっているんじゃない・・・・・・」

 鈴谷がこれまで関わってきた人々は、皆大なり小なり艦娘達への感謝を口にしていた。

中には艦娘の権利拡大を面白く思わない者もいたが、大多数がそんな無辜の善良なる人々だからこそ守りたいと思って来たのだ。

 

それなのに。

 

「人は己が傷つかない限りにおいて驚くほど恥知らずでな」

杉田は低い声で呟いた。

「この国に長い間蔓延していた平和というのが毒じゃった」

 

先の大戦で敗れた反動か。

軍事力そのものを悪と決めつけ、非武装への道をひた走ったかつての日本。

自衛隊は軍隊じゃないのか、解散しろとその存在に異議を唱える者達は、強大な軍事力を持つ隣国が決して攻めてこないという楽観的な観測の元、好き放題に平和憲法を称え、軍備の拡張に反対した。

「連中にとっては、両手を挙げていれば敵は攻めてこないそうじゃ」

「そんなの妄想も良い所じゃない。こちらが戦う気が無くても、相手がそうではないなんてどうして決めつけられるのよ」

「まさしくお前の言う通りじゃ。だが、かつての日本ではそれが当たり前に信じられていた。長い間の平和が人々の感覚を狂わせたのじゃ」

 

ミサイルが飛んで来ようとも不審船が領海侵犯をしようとも。

それはどこか別の国の出来事のよう。

そんな呑気な人々は深海棲艦という未知なる恐怖に直面した時、みっともなくも慌てふためいた。

「あまりにも滑稽じゃったよ。今ではその手の意見がぴたりと聞かれなくなったが、深海棲艦が出現した当初は深海棲艦どもと和平をなどという世迷言をぬかす者もおった。平和の中にいる人間は平和が当然と思い、そのために誰かが汗を流している、血を流しているなど思いもしない。空気と同じだと思っておる。ある日突然それが無くなって気づくんじゃ。自分達がいかに愚かであったかな」

 

「・・・・・・・」

鈴谷が強く握りしめたためか急須が音を立てて割れ、中からお茶が零れた。

 

「ごめん、割っちゃった・・・・・」

濡れた手を気にも留めず、床に落ちた欠片を拾い集めながら。

鈴谷はぽつりと口を開いた。

 

「そんなのって、ないね」

「ああ」

どこかの誰かが自分たちの安全のために危険を冒していることに気づきもしない。

それは嫌なことから目を背けようというよりは、ただただ鈍感なだけではないだろうか。

 

「わしは当時前線の偵察部隊におってな。事情を知ったのは鉄底海峡の戦いの後、大分経ってからじゃった」

 

手渡された湯呑に口をつけ、ふうと杉田は息を吐いた。

 

「もしあの時後方におったら、そんなくだらないことをしとる暇はないと言っておったじゃろう。少なくとも彼を助けることはできた筈じゃ」

 

「た、助けるって・・・・・・」

ぐっと言葉に詰まりながらも、鈴谷は踏ん張った

これ以上何があるのか。耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られるが、それはできない。

彼女達のお蔭で自分たちの今がある以上、聞かなければなるまい。それこそが、今自分にできる最低限のことなのだから。

                   ⚓

とある艦娘の話を続けよう。

 

「神は死んだ」とはドイツの哲学者ニーチェの言葉だ。広場で昏倒し精神を崩壊させた彼は、その後生涯正気に戻らなかったという。

彼女にとって、「神が死んだ」瞬間は、まさしく運命の激闘を終えた瞬間にあった。

 

多くの僚艦を失い、命からがら戻って来た彼女を待っていたのは、誰よりも彼女達の帰りを願っていた提督が倒れたという報せだった。

 

「Why? どういうことデス!!」

傷だらけのその体を物ともせず掴みかからんばかりの勢いで尋ねる彼女に、居合わせた自衛隊職員は力なく首を振るばかりだった。

一職員の彼からしても、能瀬提督の仕事量は常軌を逸していた。

弱り切った心と体では、現実を受け止めきれなかったのだろう。

他人事のように話すその顔に、彼女は思わず唾を吐きかけそうになり、神風に止められた。

 

自衛隊病院の一室でこんこんと眠る提督を見た時に彼女は安堵した。

寝ているのだからいずれは起きる。その時に聞けなかった答えを聞こう。

きっと照れてしどろもどろになるに違いないが、敢えて焦らしてみるとしよう。

乙女の告白を聞きながら自分は呑気に寝ていたのだ。それくらいの事はしていい筈だ。

 

だが、三月が過ぎようと半年が過ぎようと、彼が起きる気配はなかった。

 

「眠れる森の美女を気取ってないで早く起きるデース」

ある時は冗談めかして。

 

「いい加減にしないと怒りマスヨ!」

ある時は少し怒り気味に。

 

「提督・・・・・・。いい加減に起きるネ・・・」

ある時はゆっくりと語り掛けるように。

 

何度彼女はその寝顔に呼びかけたことだろう。

 

けれど、彼は目を醒まさなかった。

まるで、沈んでいった仲間たちが彼を連れて行ってしまったかのように。

穏やかな寝息を立てながらも、ついぞ目を開けることがなかった。

 

「君たちに伝えたいことがある・・・・・・」

 

一年が経ちやってきたのは、あの日倒れた提督を搬送した自衛隊職員だった。幹部連中は原初の艦娘無き後の艦娘学校・提督養成学校の設立に忙しいらしい。バツが悪そうにする彼の口からは、今や本部預かりとなっていた彼女達の今後についてが伝えられた。

 

「偉大なる七隻に次ぐ配慮を行う。希望があれば述べられたい」

彼女達を捨て石として扱ってきた上層部からすれば異例の配慮だが、そうせざるを得ない事情があった。

 

この一年の間に多くの艦娘が建造され、日本は艦娘誕生の地として名を馳せることとなった。

その日本が、いかに仕方がなかったこととは言え、非道に艦娘を扱っていたというのは、世界各国は元より艦娘達にはひた隠しにしておきたい事実だった。

 

「我儘を聞くから口を噤めと? いい神経しているネ、本当に」

 

皮肉を口にしながらも、彼女はそれを呑むしかないと理解していた。

如何に自分達が上層部の非道を訴えようと、相手は強大だ。黙殺されて終わりだろう。

未だ提督は眠り続け、その安否が気になる以上、頷かざるをえなかった。

 

「私は他の艦隊に所属させてもらうわ。そこで自分を鍛えるの」

己の無力を嘆いていた神風はそう言い、創設間もない大湊警備府へと移って行った。

自らが弱いから提督をあんな目に遭わせてしまった。もっと強くならないといけない。そうしなければ原初の神風に合わせる顔がない。生真面目な神風らしい決断だった。

 

「私は退役して事務方として働きたいネ」

彼女が下した決断は第一線からは退く、だった。

提督がいなければ戦う意味はないし、何よりそうして働くことによって、いつか提督が目覚めた時に彼をサポートできるようにしておきたかった。給料を貯め、いつか二人で慎ましやかな暮らしがしたい。

健気な彼女はその時そう思っていた。

                    

                    ⚓

 

「やがて、優秀な彼女は大臣秘書官の地位に上りつめ、豪華な屋敷を構えるようになったデス」

 

淡々と語る金剛とは裏腹に、室内のあちこちからは嗚咽が漏れていた。

特に激しいのは金剛姉妹の榛名と雪風とジョンストンで、目を真っ赤に腫らした二人から引っ付かれた与作は迷惑そうに眉を潜めた。

 

「お姉さま、ごめんなさい。榛名、知りもせずに・・・・・・」

言葉を詰まらせる榛名に対し、今や一大悲劇の主人公と化した金剛はそっけなく頷くのみだ。

「別に構いまセーン。私自身が言ってないからネ」

 

「あたし、人間を信じたいのに・・・・・・」

呟いたのはジョンストン。

 

彼女自身、人間から酷い事をされたためトラウマが刺激されたのだろう。

ぶるぶると震える手で与作の手を握った。

「ふん。人間なんざ、信じるもんじゃねえさ」

そう言いながらも、与作は手を振りほどこうとはしない。

 

「ヨサク・・・・・」

「しれえは照れ屋ですからって・・・・・痛い!」

ぴんと雪風にでこぴんをかましながら、与作は金剛の方を向いた。

 

「あなたにとっては刺激の強い話だったわね。Sorry,ジョンストン」

小さな名探偵は相棒を気遣い、そっとその背中に手を置いた。

 

「でも、これはすりぬけくんを知るためには必要なことなの」

「すりぬけくんを知るためって!? すりぬけくんが試作品だった。それだけで十分じゃないの」

「ええ。だって、ここからが肝心なところなんですもの。ねえ、ダーリン」

「ああ。金剛さんよぉ。あんた達のお陰で俺様達が助かったのには感謝しているぜ。でもよ、それとこれは別な話でな。一度かけた追い込みは最後までやらねえと鬼畜道にもとるのよ。あんた、大事な所を端折りやがったよな」

「何を「お黙りなさい!!」」

 

立ちかけた比叡を制し、榛名が怒りの表情を与作に向ける。

「ここまで傷ついてこられたお姉さまにこれ以上何を言わせようというのです。それが人のすることですか!」

「ふん、お生憎様。俺様は鬼畜非道をモットーとするくそおやぢでね。お涙頂戴よりも真実が知りたい訳さ」

 

「真実ですって? これ以上何があるというのですか!」

霧島の叫びに与作は大きく伸びをしてみせる。

「おやおや。名高い金剛型のお嬢さん方は揃いも揃って思考停止状態かい? そりゃあ、尊敬する長女の悲惨な話を聞いちまった後じゃ無理もねえがよ。本題は別だろうよ」

「どういうことです?」

「忘れちまったかい? ジャーヴィスの野郎はすりぬけくんが何かを語りたくて金剛の話をしたんだぜ」

「ええ。ですから、お姉さまの提督が例のドックの開発者だったと分かったではないですか」 

「だからそれじゃ足りねえんだよ。さっきのジャーヴィスとのやりとりを思い出してみろ。金剛はうちのすりぬけくんを不良品と言いやがったんだぜ? 確かにすりぬけくんは気まぐれで資材を呑みこむ扱いづらい奴さ。だがよお。今までの金剛の話で、すりぬけくんが失敗したって話を聞いたか?」

 

「「え!?」」

ジョンストンと雪風の声が重なる。

 

「た、確かに聞いてないわ」

「ええ。かなりの数の艦娘が建造されたと言っていました。で、でもしれえ」

「ああ、そうだ。うちにあるすりぬけくんならあり得ねえ。資材も満足にない状況で湯水のごとく資材を喰うあいつを普通に運用できる訳がねえ」

「ど、どういうことなの?」

ジョンストンはくるりと背後に振り向いた。

 

「あらさっき言った筈よ」

ジャーヴィスは帽子に手をやると、にこりと微笑んだ。

「すりぬけくんは元から特別に作られたんじゃない。後から特別になったんだって」

「じゃあ、何。試作型だったすりぬけくんがその後特別になったって言うの?」

「ええ、ジョンストン。まさにそれこそが金剛がすりぬけくんを恨む理由よ」

 

「おやおや。哀れな私にさらに追い打ちをかけるつもりネ? 本当にこの名探偵は容赦がないヨ!」

わざとらしく肩をすくめる金剛に、ジャーヴィスはぽりぽりと頬を掻いた。

「自分自身でも嫌になるわ。なら、貴方が話すのかしら、金剛?」

「さあ。自分でもよく分からない気分ネ」

ぽりぽりとスカーフの上から首元を掻き、金剛は答えた。

「話してもよいし、話さなくてもよい。どっちでもいいヨ」

「OK。そういうことなら」

 

ジャーヴィスは両の手の平を合わせ、軽く息を吹きかけると、金剛の前に立った。

「それでは代わりに私が語るとしましょうか。あのすりぬけくんがどうやってできたのかを」

 

 




登場人物紹介

谷風・・・・・・なんか深刻そうな話をしているねえ。谷風さんも聞きたい。
磯風・・・・・・よさないか、谷風!っと自分も見る気満々。
浜風・・・・・・二人ともよしなさいと止める良識派。
浦風・・・・・・二人ともいい加減にしとき。と笑顔でにじり寄っていく。
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