問おう。
貴方はどちらかを。
世の中には二通りの人間が存在する。
差別するか、しないかだ。
いや、理解する者と理解しない者と言ってもいいかもしれない。
拙者の趣味が特殊と称される類であることは理解している。
だが、理解するのと納得するのはまた別で、世間では我々のことを「くたばれロリコン!」だの、「駆逐艦狂い」など散々な言い方をするものだ。あまりにどうかと思ったので、
「あなたそれ、差別ですよ」
と伝えたら、
「うるさい、変態」
ときたものだ。価値観が違うだけで変態扱い。マッチョが好きな人間は普通と称されるのに、デブが好きならデブ専などと蔑む。差別はいけないと公言しながら、他人の好みについてはとかく蔑視の対象にする。自称平等主義者ほど厄介な存在はいない。
ララ○は人はいつか分かり合えると言ったが、そんなものは妄想だ。
分かり合えぬ者とは永久に分かり合えない。
世の中とはそんなものだ。
拙者が彼女達に出会ったのはもう遥か昔のことになる。
公園で何気なく遊んでいた拙者を見つけ、近所のガキ大将がやってきた。
「おっ。デブ三がいるぞ、デブ三が!」
獲物を見つけたと言うように目を輝かせるガキ大将。
どうでもいいが、身体的欠陥と名前を組み合わせて安直に悪口を作るのは止めてもらいたい。
そんなこちらの気持ちなど知ったことかとお定まりのように口でのいじり、その後は直接的な暴力行為。もう駄目だと思った時に、女神はやってきた。
「ちょっとちょっと、駄目よ、喧嘩なんて!」
「はわわわ、雷ちゃん。だ、駄目なのです!」
双子だろうか。やってきた彼女達は拙者とガキ大将の間に割って入った。
「な、なんだよお前!」
「何って艦娘よ。駆逐艦の雷」
「か、艦娘って・・・・・・」
それだけでガキ大将は戦意を喪失したらしい。人類が叶わなかった深海棲艦を倒す彼女達は子供たちにとってのヒーローだ。
「はい、これで平気ね」
倒れていた拙者の手を取り起き上がらせると、雷はぽんぽんとその体についた埃をはたいてくれた。
「ふ、ふん。艦娘って言ったって駆逐艦だろ。弱いじゃんか!」
じっと自分を見て来る曇りなき瞳にいたたまれなくなったのか、ガキ大将が心にもないことを口走った。
「そ、それは・・・・・。でも電たちも頑張っているのです・・・・・・」
電と名乗った気弱そうな艦娘が下を向く。
「が、頑張ったって駆逐艦なのは変わらないじゃないか!」
これは不味いと思ったのか。捨て台詞を吐いてガキ大将はいなくなった。
後に残ったのは拙者と二人の艦娘。
「そうね。駆逐艦なのは変わらないわね」
雷が寂しそうに呟き、それでも笑顔を見せた。
ほんのりと覗かせていた八重歯の神々しさは未だに覚えている。
「でもあなた達が安心して暮らしていけるように頑張るからね!」
眩しい。余りにも眩しい。
その光景を何と例えればいいだろう。日の光? いや、足りない。星の光? いや遠すぎる。
それはまるで映画「ブルースブラザーズ」で、ダン・エイクロイド扮するエルウッド・ブルースが神の啓示を受けた時のよう。
眩い光が拙者を包み、この身の不浄を浄化し、進むべき道を示してくれた。
「それじゃあ元気でね!」
ぽんと肩を叩き、陽気に去って行く雷と電の姿に、拙者は己の一生の進路を決めた。
(護りたい、護らねばならぬ。あの笑顔を!)
その日からお年玉を前借りして買った健康器具を使い、己を磨く日々が始まった。
ジャ○プに出て来る超人的な漫画の訓練を積んだのもこの時だ。
毎日毎日パンパンに詰め込んだランドセルは重さ10キロに達し、からかいがてら拙者のランドセルを奪ってきたいじめっ子たちはあまりの重さに悲鳴をあげた。
「なんだ、こいつ。頭がおかしいぞ!」
休み時間もトレーニングに励む拙者を、いつしか誰もいじめなくなっていた。
だが足りない。このままでは彼女達を守れはしない。
ジャ○プで足りないならマガ○ンだ!!
某ボクシング漫画を真似し河川敷にたたずむ木に体当たりし、落ちてきた葉っぱを手でつかむ。
一枚、二枚、三枚、四枚!!
二枚取り損ね、再度同じことを繰り返す。
妙な髪形をした先輩は通り過ぎない。酔っぱらいが絡んでくることもない。
だが、そんなものは関係ない。
中学から高校へ。
ついにマガ○ンからチャンピ○ンへと至る時が来た。
至高の漫画雑誌チャンピ○ン。
いよいよゴキブリ師匠と会う日が来たか。
精々礼儀正しく振る舞わねば。
そう思っていた拙者を待っていたのはハードトレーニングの代償による怪我だった。
動きたくとも動けぬ日々に、まんじりともできぬ時だった。
彼らに出会ったのは。
「お主、いい目をしとるのう」
そう言いながら近づいてきた老人からは一騎当千の強者たる迫力が感じられた。
「大切な者の笑顔を守りたい、そう願っておる者の目じゃ」
「残念ながらそこまでの力がありません」
不甲斐ない己を振り返り、拙者がうつむくと、老人は力強く頷いた。
「ほう。お主。力が欲しいか」
「ええ。ですが、これこの通りの有様でして」
拙者の肩を掴む力が強くなった。
「なんの。尊きものを守るに怪我など何の意味があろうか。ならばついて来るがいい。案内してやろう」
老人はそう言い、通称仙人の穴倉と呼ばれる地下倉庫に拙者を誘った。
当時後継者を探し、諸国漫遊の旅に出ていた彼との出会いを経て、拙者はこの地球にはいかに弾圧され、地下に隠れている同志が多いのかを知った。
それから3年余り。老師の薫陶の甲斐もあってか、同志からの推薦により、拙者は名誉ある会の代表を務めるまでになった。
「許しがたいことじゃ。愛でる対象に対して不用意な接近。あろうことか手を出すなどと!」
児童誘拐の記事を見、老師は激昂する。
「そっと愛でよ」が教義であり、高い倫理観を持つ老師にとって、巷に溢れる凡百の紛い物は許しがたい存在だった。
「既に多くの会員が合法非合法手段を問わず自称ロリコンなる性犯罪者共の検挙に協力をしております。このままでも十分だと思われますが、拙者は更なる高みを目指したい」
拙者の言葉に老師が目を光らせる。その手には提督養成学校の願書が握られていた。
「なるか、提督に」
恭しく願書を受け取り、拙者は力強く頷いた。
彼女達との出会いが拙者を変えたのだ。陰からそっと助ける道もあろう。
だが、拙者は彼女達と共に戦い、その行く末を見守りたい。
「提督になり駆逐艦を迎え、彼女達の素晴らしさをアピールする。それこそ我が悲願。必ずや提督になってみせましょう!」
「その意気やよし! わしもその道を一度は目指したが、生憎と妖精が見えなんだ・・・。お主なら全世界300万の願いを叶えられるやもしれん!!」
「お任せください! 拙者が見事提督になり、全世界の同志の希望となります!」
幸運にも提督適正因子があった拙者。
だからこそ、持つ者として、拙者には持たざる者である同志たちの分まで頑張る義務がある!
「逞しくなりおったな。もはやわしが教えることは何もない・・・・・」
老師からの最高の誉め言葉を背に受けた拙者は筆記試験をものともせず、最終試験へと到達した。
「はい、それでは最終試験です」
案内されたのは机と椅子以外に何もない部屋。拙者のストレス耐性を試そうというのかと思ったが、どうもそうではないらしい。無念無想で女神たちと出会った時にどう接するべきかをイメージしていると、目の前でだるそうにあくびする小さい人形を見つけた。
「ん? なんだ、これは。ウサギみたいな変な人形を持っているが」
「羅針盤妖精が見えるのですね? ご、合格です!!」
「これが、妖精!?」
合格の喜びもさておき、気になったのは妖精だ。
じっとこちらを見て来る妖精をよく見ると、中学時代に隣の席だった山田さんによく似ている。
山田さんもよくだるそうにし、その度に拙者にパンを買って来いと言いつけていたっけ。
『んあ~。よろしく~』
「ああ、こちらこそ。山田さん」
『山田? 誰それ』
「何を言っている。これから長い道を共に歩む、君のことだ。マイフェアリー!」
どかっとドロップキックをかましてくる山田さん。
どうにも武闘派のようだ。
『せんすぜろ。見た目はまあまあなのに、なんだかなあ』
おいおい。何か、山田さんと同じこと言っているぞ、この妖精。
まさか、山田さんか? 随分ちっこくなったものだが。おい、痛い、止めろ! 人形で叩くな!
「とにかく、だ。君が羅針盤妖精なのは幸いだ。我が行く道を指し示してくれ!」
『え~。私の羅針盤って、海に出ないと駄目なんだけど』
どうにも息が合わなそうな感じだが、そこは年長者としてこちらが合わせるべきだろう。
ともかく提督になったのだ。することは一つしかない。
「雷ママンに拙者は会う!!!」
力強く宣言していたら、山田さんに再度飛び蹴りをされた。
どうでもいいけど、妖精ってこんなにバイオレンスなの?
『よく知らないけど、私たちの女王は昔一寸法師と死合ったことがあるって聞いたよー』
それはまた随分とワイルドな妖精だ。いつか出会ってみたいものだ。
期待に溢れる拙者を見るや、山田さんはため息をついた。
『素人にはお勧めできないんだけどねー』
ふうむ。どういうことだろう。偉すぎて素人では拝謁が叶わないという事なのだろうか。
『あんたって馬鹿か利巧か分からないね』
おおう。それは中学時代拙者が常に言われ続けたことではないか。やはり君は山田さんとしか名付けられない。よろしく、山田さん!!
『改名要求!!』
って、痛い。だから、その変なぬいぐるみを振り回すのは止めて!!
登場人物紹介
雷・・・・・女神
電・・・・・女神
某提督・・・・・・彼がその後どうなったかの答えは本編で・・・・・・。
某老師・・・・・・この時から既に江ノ島に勤務。
山田さん・・・・・提督運の無さに嘆くも付き従う。基本戦闘の時に姿を見せる怠け者だが、匂いで渦潮を回避するベテラン。
某女王・・・・・・金太郎の熊と闘ったとか、親指姫を泣かしたとか、桃太郎の四人目のお供とか様々な噂が飛び交う謎の存在。