鬼畜提督与作   作:コングK

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書き慣れないミステリー調にしたのをえらく後悔。
1月くらいに出そうと思っていたらいつの間にか5月。
設定自体大分前に考えていたので齟齬があるかもしれません。

艦これ9周年おめでとうございます。
モチベは大分下がったけど、まだ一応提督やってます。

作者的には一応区切りは何とかつけたいとは思ってるんですが、如何せん時間が足りない・・・・・・。


第七十七話 「希望と絶望の在り処」

金剛型戦艦一番艦。始まりの出来損ないと揶揄され、長らく人の世の醜さに晒されてきた彼女にとって、その日は待ち望んでいた日の筈だった。

例え、それが多くの人々の戸惑いをもって迎えられたとしても。

彼女にとっては輝かしい思い出の一ページになる筈であった。

 

運命の女神が余計な差し出口を叩かなければ。

 

記憶を無くした能瀬提督の処遇について会議は紛糾を極めた。

今や中央のお歴々と化したかつての上層部の者達からすれば、提督の存在は地中深くに埋められていた不発弾のようなものだ。いつ爆発し、自分達が過去しでかしてきたことが露見するか知れたものではない。国のためとはいえ、あたら多くの艦娘を捨て石にしてきた事実。艦娘の権利拡大が叫ばれる昨今、それは彼らの地位を奪うだけでなく、今や艦娘大国として名を馳せる日本の権威失墜を意味していた。

 

慰労金を渡し、予備役へ編入させるべきという意見が大勢を占め、早速その方面の手筈を整えようとしたところ、ここで上層部が頭を抱える事態が発生する。

当の能瀬本人が軍への復帰を希望したのである。

記憶を失ったとされる彼は、なぜか襲い来る深海棲艦の脅威と自分に提督の能力があることだけは覚えており、その上厄介なことに国を救うために力を尽くしたいと言う熱意を持っていた。これを断ることは、フリーの提督として各国の勧誘の的になることを意味し、それは艦娘関係の技術で他国に一歩長じ、発言権を高めている日本としては看過しがたいものであった。ただでさえ提督適正因子保持者は貴重なのだ。それが建造ドックの開発者ともなればその評価は天井知らずだろう。例え記憶が戻ろうが戻るまいが、提督であるということでそもそもおつりがくるのだから。

 

「技術の流失を危惧するのなら復帰させるしかあるまい。本人もそれを希望している」

「再び提督に返り咲けば記憶が戻ることもあろう」

「だが、何年も寝たきりだった男だぞ。そんな男に指揮を任せられるか」

「開発部へ行くのはどうだ? 奴は建造ドックの開発責任者でもあったのだろう? その方面の記憶を失ったと言っても使い道はある」

「打診しましたが断られました。そりゃあ、手柄を横取りした本人がやってきたら気まずいどころの話じゃないでしょう」

 

自己保身の色見本とばかりに好き勝手な議論が続く中、くだらないとそれを一蹴したのが、その当時海軍の要職にいた杉田一である。

 

「揃いも揃って前途ある若者の未来を潰した揚げ句出て来る言葉がそれとはな。同じ立場の者として情けない事この上ない。我々がまずすべきなのは彼に対し謝罪することではないか。記憶のある無しなど関係はない。そうせねば、人としての品性を問われる」

「杉田提督の仰る通りですな。したことへの責任はとるべきでは」

中堅でありながら頭角を現していた高杉の口添えもあり、一致した衆議は江ノ島にある小さな鎮守府への配属だった。横須賀が近く、橋を一本隔てて陸の孤島と化すそこならば業務負担は軽く、監視もしやすい。そして、彼が記憶を取り戻した時に早急に対応できる。

 

「復帰とはネ・・・・・・」

これまで自分達を捨て石として酷使してきた人間たちが、今更ながらに罪悪感を抱いているであろうことに金剛は皮肉を感じながらも、その決定には複雑な思いを抱いていた。

彼のことを思えば軍から遠ざけたい。だが、本音を言えば、彼の記憶が戻ることにかけたかった。奇跡が起こり目を醒ましたのだ。もう一つくらい奇跡を願っても、これまでのことを思えばお釣りがくるだろう。

結局悩んだ末に、彼女が出した結論は奇跡にすがる事というもので、そのために自らの腹心である能代を派遣し、彼の様子を逐一報告させるという徹底ぶりだった。

 

そして、確かに奇跡は起きたのである。ただし、それは彼女の思っていたものとは違っていたのだが。

 

                   ⚓

 

「最近提督の様子がおかしい!? どういうことネ! 詳しい説明が欲しいデス」

江ノ島鎮守府に派遣した能代からの緊急の連絡に慌てた私は、とるものもとりあえず江ノ島へと急いだ。

 

目覚めてからの彼は平凡な提督として職務を遂行し、艦娘達との関係も良好だった。

鎮守府近海の哨戒任務を主とし、危なげない指揮ぶりを見せ、体調も順調そうだと半月前に定時連絡を受けたばかりだ。

 

「一体何があったデス・・・・・・・」

不安に駆られ鎮守府へとやって来た私が目にしたのは、固く閉ざされた執務室の扉とその前で盛んに室内に呼びかける能代の姿。

 

「提督、ここを開けてください。能代です。何かあったのですか。よければ能代がお話を伺いますから」

「私達が何か粗相をし、提督を怒らせてしまったのでしょうか。お恥ずかしい限りですが、能代には思い当たることがございません。どうか教えていただけないでしょうか」

「せめてお食事だけでもおとりください。能代は心配です」

 

息を潜めてその様子を見守る他の艦娘たちには疲労と戸惑いの色が見て取れた。

 

「どうしたネ、能代。これは」

びくりと体を震わせた能代は青い顔をしながら分からないと首を振った。

 

「分かりません。本当に能代にも分からないのです。3日前の朝にお風呂場で頭を打たれてから、体調が優れないご様子でしたので、急ぎお医者様の受診を勧めたのです。診察から戻られた時は普通にしていらしたのですが、次の日からなぜか私達を避けるようになってしまって・・・・・・」

「頭部打撲デスって? 何故すぐ報告しないネ!」

「も、申し訳ありません。こぶはできていましたが、緊急性はないとの診断でしたので。その後も時間ごとに様子を確認しましたが、特段変わった所はなく大丈夫だろうと・・・。」

「だったらこんな有様になる訳ないネ。何か他にあったのではないデスか?」

「心当りは何も・・・・・・。あ、でもその日の夕食を持って行った時に提督が妙なことを言われていました。『そんなまさか10年以上も・・・・・』って」

「え・・・・・・・」

能代の肩を力強く掴んでしまい、彼女が悲鳴を上げた。

 

「OH,Soryy。But,それは本当デスか?」

「は、はい。執務室のパソコンを見ながら何か考え込まれているようでした。その翌日からです。提督の様子が変わってしまわれたのは」

「どう変わったネ」

「私達がいくら声を掛けても悲しそうに首を振るだけで、何もおっしゃってくださらなくなりました。一緒にとっていた食事も執務室でとるの一点張りで。誰か提督の気に障ることをしたのではないかと鎮守府の皆に事情を聴いたのですが、皆分からないと」

「あ、でも私謝られたわよ、クソ提督に」

霞が遠慮がちに手を挙げる。

「謝られた?」

「ええ。『すまない、本当にすまない』って・・・・・・。『何のことよ、意味分からないし!』って言ったら、『それでいいんだ。それでも謝らせて欲しい』って」

「あ、あの。潮もです・・・・・・。潮にも提督は謝ってました」

「他には祥鳳さんに神通からも同じ話を聞いています。二人とも何のことか分からないと・・・・・」

霞達の言葉に、私の頭の中で閃くものがあった。

「まさか・・・・・・」

 

それは愚かな期待。これまで碌なことの無かった艦生の中でのささやかな願い。

だが、何も思い出さず彼にはこの鎮守府で穏やかに過ごして欲しかったというのもまた嘘ではない。

けれど、頭の中が沸き立ち、一刻も早く確かめたくて。

「ここは私が引き受けマース。すまないけど、みんなは自分達の部屋で待機していて欲しいネ」

戸惑う江ノ島の艦娘達に向け、そう指示を出した。

 

「了解しました・・・・・・。皆、部屋に戻りましょう」

能代の一言で江ノ島鎮守府の艦娘達が皆去っていくのを見届け、心を鎮めながら、私は執務室の扉をノックする。

 

両頬を力強く張り、口元の筋肉を思い切りほぐす。

あれから色々とあり、心から笑うことができなくなった。

できるのは口角を上げて微笑んだような表情を作る、艦娘金剛として望まれた笑顔。

 

それでも彼には自らの笑顔を、自然な笑顔を見せたい。

 

せっかくまた出会えたのだから。

今この時は10年前に戻り、あの時の自分を呼び出そう。

きっと自分の予感は間違っていない。

 

「HEY、提督。そんな所に閉じこもってないでここを開けるネ! 私でよければ話を聞くヨ!」

いつ以来だろう。演技でもなくこんな明るい台詞を言うのは。

 

天の岩戸が開き、出てきた彼は目は窪み、見るも無残な有様。

だが、その瞳は確実に私を捉えていた。

 

「君か・・・・・・」

その一言で全てを察した。

 

久しぶりとも。お待たせとも違う。

名前を呼んだわけでも、愛を囁かれた訳でもない。

それでもその一言が。

私を見て、声を掛けて来てくれたのが嬉しくて。

 

「遅いヨ! どれだけ待たせたネ!!」

思わず泣きながら彼を抱きしめてしまったのは仕方のないことだろう。

 

「・・・・・・・すまない。苦労をさせた」

「どれだけ待たせたら気が済むネ! 余計な苦労ばかりして来たヨ!」

「・・・・・・・すまない。僕のせいで。僕のために」

「そんなものどうでも良いヨ。私が望んでやったんだからネ。そんなことより今の私なら提督の役に立てるヨ。何でも言って欲しいデス!」

「それじゃあダメなんだ」

ふるふると首を振り、彼は私から離れた。

 

「僕は君たちの思いにふさわしくない。このままじゃあもらい過ぎなんだ。僕のせいで彼女達は、彼女達は・・・・・・」

「何を言っているネ」

彼の肩を掴み、私は訴える。

「みんな提督のことを心配していたんだヨ。提督のために戦ったんだヨ。もう戦って欲しくない。きっとみんなそう思っているはずネ。記憶が戻ったのなら提督なんてしなくていいデス。私が養うヨ。こう見えても結構な資産を作ったんだヨ!」

暗い表情の彼を励まそうと努めて明るく言うも、その心には響かない。

 

「優秀な君のことだからそうだろうね。でも、僕は提督を辞めるつもりはない」

「Why? どうしてデス。もうしなくていいヨ。提督が身を削って守ったこの国を今は色々な人間が、艦娘が守っているネ。もう無理をする必要なんかない。どこにもないんだヨ?」

「僕はこの国の人間のことなんか考えちゃいない。むしろどうだっていい」

「だったらどうして!」

問い詰める私に対し、彼はすまなそうに目を伏せ、頼みがあると私に告げた。

「さっき君は何でも言って欲しいと言ったね。実は一つだけ頼みがあるんだ。この僕の願いが叶うためにどうしても必要なんだよ」

「OK。大丈夫ヨ。でも、一つ確認なんだけど、それは無茶なことじゃないよネ? 無茶なことならいくら提督のお願いでも聞けまセン。無理をして欲しくないからネ」

「ああ、約束する」

「なら分かったヨ。何でも言うデース」

 

ああ。

その時の私のなんて愚かなことか。

 

今思えば、待ち人についに出会え、心が舞い上がっていたとしか思えない。

彼の様子も彼の心のうちも、まるで知ろうとせず。

乞われるままに力を貸してしまった。

 

それが終わりの始まりとなるとも知らずに。

 

                    ⚓

「あなた達がすりぬけくんと呼んでいるあの出来損ない。そして、深海棲艦鹵獲物最重要特機01。それが提督の欲した物ネ」

「さ、最重要特機の鹵獲物? まさか・・・・・・」

霧島が事の重大さに気づき、唇を震わせる。

彼女の知る限り、通常深海棲艦の鹵獲物に関しては極秘、機密扱いが多く、特別機密に分類される物など、これまで姫級個体の艤装の一部があるぐらいだった。

「あら、霧島でも知らない物なのね」

「それは仕方ないヨ、ジャーヴィス。何しろ、それは例の鉄底海峡の戦いの遺品でもあるのだから」

金剛の言葉に場に居合わせた金剛型の姉妹達は言葉を失った。

伝え聞く始まりの提督と原初の艦娘達による深海棲艦本拠地への一大攻勢作戦。

その裏で深海棲艦から鹵獲したものがあるなどという話は海軍内部にいる彼女達も聞いたこともない。

「そんなものがあるとするならば、確かに最重要特機とされるのは納得です。ですが、それは一体・・・・・・」

伏し目がちに己を見る霧島に対し、金剛はジャーヴィスを見やった。

「名探偵ならご存知なのではないデスか? ここまで知っているのデス。気付いているんデショウ?」

「ええ。幸運なことにうちの鎮守府には当時の事情を知る北上がいるからね。彼女に色々と聞いたわ。彼女が鉄底海峡から持って帰ってきたものについて」

「偉大なる七隻の北上が鉄底海峡から持って帰って来たもの!? 榛名は初耳です。そんなものがあるのですか。それこそが最重要特機・・・・・・」

「本人は余りその自覚は無かったようだけどね。ただ、話を聞いた時に原初の明石から託されたと言う言葉が気になっていたの。かの建造ドックを開発したうちの一人でもある原初の明石。彼女が託すようなものよ。ただのものである筈がない。朧げな記憶で描いてもらった絵を見て合点が言ったわ」

うんうんと頷きながら話すジャーヴィスを横合いからジョンストンが小突いた。

「あんたばっかり合点がいっても仕方がないでしょうに! もったいつけずに教えてよ。一体北上は何を持ち帰ったの!」

 

「深海棲艦を生み出していた大本。深海大工廠の中枢に秘められていたパーツ。それも恐らくは大工廠の核となるコアパーツよ」

「そ、そんなものがあるなんて・・・・・・」

ずり落ちそうになる眼鏡を必死に抑えながら、霧島が呻く。

 

深海棲艦の工廠の核。

確かにそれならば最重要特機となるのも当然だ。

今や世界中を跋扈する深海棲艦。彼らがどうやって誕生したのかは未だに謎とされている。

艦娘の負の側面が艦娘と同じように資材を使って顕現したものというのが現在のところ主流とされているが、それすら飽くまでも深海棲艦の残した艤装等から学者たちが推測したに過ぎない。

 

「そんな貴重なものをなぜ? いや、それよりもそのコアパーツ。今はどこにあるのよ」

「そ、そうです。そんなに大切な物ならみんな探している筈です。でも、雪風は聞いたこともありません!」

「そんなに大切なもんなら偽物ぐらい用意するだろうぜ。最重要特機なんて言ったら迂闊に手を出せねえ代物だしな」

にやにやと笑いながら言うと、与作はあくびをしてみせた。

「おい、がきんちょ探偵。さっさと話を進めねえか。話が長すぎて俺様は退屈で仕方がねえぜ」

「やっぱり、ダーリンはミステリーもののお約束をもう少し勉強した方がいいわね。鎮守府に帰ったら、私のコレクションを貸してあげるわ!」

 

ジャーヴィスはとんと、ソファから降りると帽子の位置を整え、金剛を見た。

 

「さて、金剛。今我が親愛なる相棒から重要な質問が出たの。それは今どこにあるか。核心をついたとてもいい質問よ。もちろん、あなたは知っているわよね」

「この期に及んで焦らしとはいいセンスをしているヨ、名探偵。知っていても言う筈がない。そこまで分かっているのデショウに」

 

「ええ、もちろん。だって、それは今江ノ島にあるんですもの」

 

「えっ!?」

「ま、まさか、それって・・・・・・・」

戸惑う雪風とジョンストンに、ジャーヴィスは笑顔で真実を告げる。

 

「そう、通称すりぬけくん。夢の建造ドックとも言われる例のドックの内部にそれは使われているわ」

       

 




登場人物紹介

ジャーヴィス・・・・・・秘蔵の名探偵コレクションDVDは保存用と観賞用の二種類あり。
ジョンストン・・・・・・お気に入りのDVDはローマの休日とウエストサイド物語
雪風・・・・・・・・・・実はこの間の給料でルパン三世シリーズを揃える。
与作・・・・・・・・・・7人の侍の大ファン。「この飯おろそかに食わんぞ」と鎮守府の面々にボケて見た所通用せずおかんむり。次の日には情操教育と称し、鑑賞会を開く。
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