本編以外が多いとの感想がありましたが、正直作者はシリアスノリが苦手で、本編以外で書くモチベをかろうじて維持している状態ですので,本編の続きのみが気になる方は3、4か月くらいおいて読んでください。番外編は思いついた段階でこれからも書くと思いますので。
それは劇的ですらあった。
それまで多くの場合淡々とした姿勢を崩さなかった金剛が、やおら立ち上がるやつかつかとジャーヴィスに歩み寄り、その手にある手帳を奪ったのである。
彼女からすればそれは当然の行為だったのだろう。自分が愛した提督の形見であるのだから。
「Why、どうしてネ……。理解できないヨ。謝る必要なんかどこにもないんだヨ?」
「責任感の強い人だったのね。どうしてもあなた達の境遇を改善したい、そう思っていたみたい」
金剛の蛮行を咎めることもせず、平然とジャーヴィスは言った。
「今更デス。今更なんデス。もう既に終わったことなのに……」
金剛と神風。「始まりの出来損ない」と呼ばれた二人にとっては過ぎた過去。だが、目覚めたばかりの能瀬提督にとって、それは今起きている事実。艦娘思いの彼にとってはさぞ耐えがたいものだったのだろう。片や偉大なる七隻と賞賛され、片や名を刻むことなく出来損ないと揶揄されているなんて。等しくこの国を救ったことに変わりはないのに。
「あの日。能代から連絡がありマシタ。緊急の要件だと。それまであの子があんなに取り乱すことなんかなかったらネ。嫌な予感がしたヨ」
はらはらと涙を流しながら、金剛は手帳を胸に抱きしめた。
「崖の上なんて貴方の大好きなミステリーみたいな陳腐な場面ヨ。残っていたのは遺書と靴だけ。能代が提督の異変に気がついて声を掛けたが間に合わなかったと泣いて謝罪されたヨ」
「そんな……。まさか、それって!」
思わず声を上げた私を金剛はじっと見つめた。
「Yes。病死なんて嘘も嘘。大嘘だヨ。本当は自ら身を投げたネ。心優しいあの人には耐えられなかったんデス。世の中の理不尽とあの始まりの提督からのプレッシャーは」
「あのおっさんからのプレッシャーだと?」
思わずヨサクが口にした一言に金剛が口の端を上げる。
「その言い分だとやはり何らかの関係がありそうだネ、あの始まりの提督と。元帥のやり様に偉大なる七隻との親しい関係。怪しいとは思っていたヨ」
「別に大したことじゃねえ。時雨なんてただの腐れ縁だしな」
「まあ今となってはどうでもいいことネ」
金剛は懐に手帳をしまうと、小さく息を吐いた。
「先ほどそこの名探偵が言ったことを思い出すといいヨ。最重要特機の閲覧要件を」
「ええと、開発や建造ができる人で、何か功績があって、それとは別に海軍が必要ありと認める人ですよね」
雪風。その説明は大分端折り過ぎていると思うわよ。
「方向性はあっているから問題Nothingヨ。あなたたちは私が秘密裏に最重要特機を取り出したと思っているみたいだけれど、さすがにそこまでは無理ネ。私がしたのはあくまでそれが返却されたのだと偽装したことだけ。提督自身に資格が無ければそもそも閲覧できなかったヨ」
「それは妙ね」
ジャーヴィスの言葉に私は首を捻る。
「何でよ。能瀬提督は建造ドックの開発者で、深海棲艦の本土来襲を防いだ人でしょうが」
「だから、それがおかしいのよ、ジョンストン。それは本来なら歴史の裏に隠されていた真実なのよ。多くの者は彼が建造ドックの真の開発者であるなどとは知らないわ」
確かにそうだ。能瀬提督が建造ドックの開発者であるとの話が明るみに出たのはつい先ほどだ。それでは、彼はどうして最重要特機を閲覧することができたのか。
「あったからじゃない? 彼、能瀬提督でなければいけない理由が」
「どこまでも賢しい駆逐艦だヨ。その通り、提督があれを閲覧できたのは、最後の三番目が該当したからネ」
「海軍が必要ありと認める者、ですか……」
榛名の言葉に金剛が頷いた。
「Yes。そもそもあの鉄底海峡の戦いはどうして起こったか知っていマスか? 無限に近い回復力を持つ深海棲艦達に対し、追い込まれた人類と艦娘側がその本拠地を叩くことでしか対抗できなかったというのがよく言われている理由デス。でもそれだけじゃないヨ。無限に深海棲艦が湧くのは何故なのか。連中の技術を調査するというのも含まれていたんデス」
「だからこそ、原初の明石は例の歯車を手に入れたのですね!」
霧島が興奮しながら叫ぶ。
「ええ。そして、彼らは自分達が恐らく戻って来られないことも分かっていたヨ」
「けっ……」
忌々しそうに零したのはヨサクだ。
「自分達が手に入れた戦果を託す相手。多くの研究者がいる中で彼らはなぜか提督を指名していたのデス。恐らくは神風が会ったと言う原初の神風伝手で聞いていたのだと思うヨ。『深海棲艦から入手した遺物についての研究は建造ドックの開発者である能瀬くんに一任する』そんな余計なメモがあの最重要特機には付されていたのだから」
「成程。それならば頷けるわ。能瀬提督に許可が下りたのも」
「どうして、始まりの提督はそんなことを……」
榛名の問いに、ジャーヴィスは答えた。
「始まりの提督とすれば罪滅ぼしの気持ちだったのかも知れないわね。自分達のせいで能瀬提督達が辛い立場に立っているのを知らなかったようだし。少しでも立場を良くしようとの配慮だったのでしょう」
「確かに伝え聞く限りの始まりの提督の人物像からすればそうだったのかもしれませんが」
霧島が心配そうな顔を金剛の方に向けた。
「Maybe。恐らくはそうデショウヨ。善意の押し売りという奴ネ」
『それは違います! しれえはそんなことをする人ではありません!!』
「おい、こら落ち着け!!」
思わず立ち上がった雪風をヨサクが抑える。ちょっとちょっと。ひょっとして、原初の雪風さんが出てきかけているの? 仕方ない。
「冗談じゃないわ!!」
私が一際大きな声を上げると皆の視線が集まり、雪風も驚いて動きが止まる。
「人と艦娘の未来を託せる相手があなた達の提督だったからこそ、始まりの提督はメモを残したんでしょうよ! そうじゃないの?」
「そうです。そうに決まってます! 雪風もそう思います!」
今度は元に戻ったのかしら。本当にややっこしいわね、あなたたち。
「あなたの言う事は分かるわ。でもね、雪風。人の善意が全て人を助けることになるとは限らないの」
教え諭すような口調でジャーヴィスは言った。
「未来へ向けての希望。けれど、忘れてはならないわ。希望とはこの世全ての災厄が秘められていた箱の内に潜んでいたもの。容易に人にとって絶望の種になり得るのよ」
「つくづく……。つくづく余計なことをしてくれたものだヨ。始まりの提督たちがあんなメモを残していなければ、提督には許可が下りなかった、その一言で済んだネ!」
「姉さま……」
そっと比叡が金剛の肩を抱く。
「罪滅ぼし? なら黙ってそのまま放っておいてくれた方が余程良かったヨ。あんな物があったから、余計に提督は気負って自分を責めたネ。いればいたで私達を苦しめ、いなければいなくなったでまた私達を苦しめる。いつまで経っても私達の邪魔をする。本当に苛立つ連中だヨ!」
原初の艦娘に対し、ここまで憎しみを込めて語る者を私は知らない。自分達のオリジナルとでもいう存在の彼女達は私達にとって憧れる存在である筈だ。
「おや。あなたなら理解できるのではないデスか? 偉大なる姉の代わりをさせられていたあなたなら」
「!!」
「金剛さん!」
飛びかかろうとする雪風をヨサクが必死に抑える。大丈夫。そのことに関しては吹っ切れているから。今ではあの大統領をぶん殴りたい気持ちで一杯よ。
「お生憎様。私は別に姉さんのことをどうとは思わないわよ。ちょっと時々大丈夫かなって思う時はあるけれど」
「我が相棒は実に頼もしいわね!」
にこりと、ジャーヴィスが嬉しそうに微笑んだ。
「そして、重要なpieceが大分集まったようね。能瀬提督は深海棲艦の鹵獲物を使い、強力な艦娘を建造するドックを開発しようとしていた。その目的は金剛達のため。そして、始まりの提督から後を託されたという責任感も後押しした。筆跡から見るに随分と真面目な人だったのでしょう。何とか研究を完成させようとどんどんと自らを追い込んでいったのだわ」
「……」
いたたまれぬ気持ちでいっぱいになり、私は思わず目を瞑った。
艦娘のためを思う気もちは変わらない。それなのに、なぜこうも掛け違うものなのか。
「人生とボタンは掛け違うものだもの」
「それ誰の言葉よ」
自慢げに自らを指差す名探偵。そのころころと変わる表情に、私は本当のジャーヴィスの顔はどれなのだろうと首を傾げざるをえなかった。
「ですが、まだ分からないことがあります」
霧島は顎に手をやり、言った。
「どうして、今はそのドック。建造できるのですか?」
そう。そうだ。金剛達が使っていた20年前は普通に稼働していたというすりぬけくん。だが、能瀬提督が深海棲艦のコアパーツを組み込んでからはその稼働は安定せず、建造に失敗ばかりしていたと日記には書かれていた。そのために悲劇は起き、すりぬけくんを失敗作と金剛は呼んでいる。だが、ヨサクが着任してからそれは起きてはいない。時々の不調はあるようだが、雪風、グレカーレ、姉さん、神鷹とすでに4回の建造に成功している。
なぜ能瀬提督は失敗し、ヨサクは成功したのか。
「ヨサクだからかしら」
「まあ、俺様は特別だからな」
「ええ。ダーリンも関係しているわね。でも、一番のkey personは……」
皆の疑問に、ジャーヴィスは肩を竦めながら、テーブルの上を指差した。
『ZZZZZZ』
そこにあったのは空のお皿。
そして、その上で静かに寝息を立てる誰か。
「そう、彼女よ」
江ノ島鎮守府最古参。自称江ノ島が誇る妖精女王、もんぷちの姿だった。
登場しない人物紹介
谷風……「ちょいと話を覗いちゃだめかねえ」とうろうろする。
磯風……「おい、よせ、谷風」と言いながら、一緒に扉の方へ向かおうとする。
浜風……「二人とも止めなさい」とたしなめる。
浦風……「二人とも。ええ加減にせんといかんよ、ん?」と笑顔で圧力。