鬼畜提督与作   作:コングK

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秋イベだか分からない夏イベに嫌気が差してついに丁でクリアしましたよ、全く。海防艦も掘っても出てこなかったし。これまで以上一番モチベが低下しました。

艦これ引退でこっちもどうしようかなと悩みましたが、相方がしっかりコミケ出しているし、書ききらんとなと書いた次第。

まあ、具体的なモチベアップはゴジラ-1.0の震電と雪風や響の活躍です、はい。



第八十一話 「潮は満ちず」

 閉め切った部屋の中に、心なしか風が吹いたような気がした。

 こうなることは分かっていた。きっとこうなるだろうと予感していた。

 これまで何度となくあの鎮守府に着任しようとする者はあった。

 だが、破壊された鎮守府を見て落胆し、皆憤る。決まって連絡先は海軍省。

 私の息のかかった人間がそれを受け取り、手違いを詫びて別な鎮守府へと異動させる。

 異動先の鎮守府には手違いがあったと一言。それで丸く収まる。単純なものだった。

 また今回も同じようになる。そう、思っていたのに、男は鎮守府に居ついてしまった。

 それどころではない。鎮守府を再生し、あろうことかあの不良品を普通に使い始めた。その上、あの偉大なる七隻まで手中に収め、米国相手に大立ち回り。男のいる鎮守府は殊更目立ち、不良品だった筈のあのドックは今や各国海軍の注目の的だ。

 

(何の悪夢デスか)

 どうにかして、何とかして。せめてあのドックを手中に収めなければ。その思いだけで突き進んだ。その結果がこれ。

 原初の艦娘と比べられた悲惨な毎日。

 ひたすら権力を得ようと奔走した毎日。

 守る者を失い、ただ生き続けてきた日々。

(言葉にすれば陳腐。それにしても惨めなものだネ)

 だが、仕方がないのかもしれないと、金剛は思う。

 自分たちは役立たずだったのだから。

 結局はあの原初の艦娘たちがこの国を救ったのだから。

(ここらが潮時ネ。それでいいでショウ?)

 心の中で誰かに金剛は問うた。

 

ジョンストンの回想

 

 パチパチと静かな拍手の音が室内に響いた。

 名探偵は深々と礼をし、その拍手に応えた。

「お見事」

 それだけ言うと、彼女は宙を見上げた。

「子どもの戯言かと思って油断したヨ。かの名探偵の故郷からやって来たあなたに注意すべきだったネ」

「お姉さま……」

 榛名は悲し気に長姉を見つめた。

「その通り。全ては私の、私の提督の罪を隠すためのものだヨ。亡くなった後にあれもこれも工作して、大変だったネー。あの人は居なくなってからも私に苦労ばかり」

「そいつは羨ましい限りだな。うちの鎮守府は何故か俺様ばっかり苦労するからよ」

 ヨサクの言葉に雪風は頬を膨らませ、ジャーヴィスはけらけらと笑みを浮かべる。確かに、個性豊かな江ノ島では提督の気苦労は絶えないだろう。まあ、ヨサク自身も個性の塊なのだから、他人のことを言えはしないのだが。

 

 

「飲むといいヨ。もうそろそろ眠くなってきている筈だヨ」

「お姉さま!」

 比叡の制止を振り切り、金剛は懐からガラス瓶を取り出すとテーブルの上に置いた。

「構わないヨ、もう。さあ、早く飲むといいネ」

「ふん、やっぱり何か盛ってやがったか。」

 ぎろりと与作はテーブルに置かれた色とりどりのお菓子、ティーカップに目を配る。

「だが、生憎といらねえよ」

 金剛は苦笑を洩らす。

「やせ我慢をせずに使うネ。明石に命じて作らせた艦娘にも効く睡眠薬入り。人間である貴方が耐えられる筈がないヨ」

「必要がねえ」

「Why?」

 ヨサクの言葉に金剛は小首を傾げる。

 色とりどりの高級菓子に薫り高い紅茶は明らかに減っている。

 だが、その全てを私たちは口にしていない。

 

 事前の車の中での打ち合わせを思い出す。

「相手の懐に入るんだ。何か入っているのが当たり前だぞ」

 ヨサクの言葉にジャーヴィスも同意する。

「怪しいものは口にせず。これは鉄則よ。ましてや容疑者の屋敷に行くのですもの。例え相手が口にしていても、油断しては駄目よ。自分のカップや自分の菓子にだけは何も入れていない、というのはミステリーの常套手段。そんな陳腐な仕掛けに引っかかっては名探偵の助手の沽券にかかわるわ!」

「いや、別にそこは辞退してもいいんだけど」

「何よ、それー。ジョンストンがいなかったら、この事件の記述は誰がするのよ!」

「ホームズだって、ワトソンに言われて自分で事件の記述をしたことがあるのよ。あんただってそれくらいしなさい!」

「やかましいぞ! お前等。そこで、こいつの出番だ」

「もんぷち!?」

『探偵役をするんですね! お任せください! 犯人はお前だ!』

 ふよふよとヨサクに指を突き立てたもんぷちがでこぴんを食らう。

「誰が、犯人だ、誰が!」

『え!? どう見ても犯人顔ですよね』

「お前がやるのは毒見役だよ。いいか、出されたもんを適当に食い散らかして構わねえ。おかわりが出ても全て食え。お前の様子で俺様たちは奴らが何を盛ったか判断する」

『ちょ、ちょっと、提督!? さっきミステリーがどうのと言っていたじゃありませんか。毒を盛られたらどうするんです! いかに私の胃袋があいあんすとまっくで、大抵の毒は利かないと言っても、普通に痛いし苦しむんですが』

「まあ、お前なら何とかなる」

『信じられない! 信じられません!! 妖精使いが荒いと、組合に訴えます。賃金闘争も辞しませんよ!』

「金剛の野郎は金持ちだからな。多分出る菓子は相当うまいぜ」

『むっ!』

「それにお前がこの役を引き受けてくれるなら、俺様も特別ぼーなすをやるんだがなあ。せっかく都内まで出るんだし、帰りは俺様的どらやき御三家でどらやきをご馳走してやろうかと思ってるんだがよお」

『ど、どらやき御三家! な、なんですか、その魅惑の響きは!』

「上野にある老舗でなぁ。あそこのどら焼きはすごいぜえ。何たって温かいのをその場で食べられるんだからよ。パンケーキかと思うほど皮がふんわりしていてなあ……」

『ゴクリ……』

「し、しれえ! どら焼き食べたいです!」

「中のあんこにはハチミツも混ざっているらしいんだよ。甘~い、甘~いあんこでなあ……」

『うぐぐぐぐ。わかりました、わかりましたよ。やりますよ! 仕方がありませんね! その代わりどら焼きは五個でお願いしますよ!』

 

 どうしようもないやり取りの上決まったもんぷちの毒見役。だが、彼女は完璧にその役目を遂行した。

 ジャーヴィスの推理に夢中になった金剛四姉妹の前で目にも止まらぬ速さで菓子に紅茶にと散々食い散らかしていたのだから。

「胃袋まで図々しいこいつがそんじょそこらのもんで眠るかよ。特別製の薬なんじゃねえか」

「艦娘もぐっすりという触れ込みだったけれど、まさか妖精にまで効くとは思わなかったネ」

 愉快そうに金剛は笑うと、小さくため息をついた。

「さあ、幕引きの時間だネ、鬼頭提督。そこの電話で海軍省にかけ、ここまでの話を洗いざらいするといいヨ」

「そんな!」

 比叡が席を立とうとするが、金剛はそれを押しとどめた。

「今をときめくHOTな人材である貴方にまた一つ勲章が増えるヨ」

「ほお。俺様に手柄をくれると? すりぬけくんはどうするんだ」

「好きにするといいネ。海軍省に言うもよし、貴方達の鎮守府で使うもよし」

 先ほどまでのこだわりは何だったのか。金剛は疲れ切ったようにそう告げると、ぼんやりと宙を見つめた。

「そいつは魅力的な提案だな。手柄もすりぬけくんも俺様のもの。魅力的すぎらあ」

 くっくっくっくとヨサクは笑みを浮かべると、やおら立ち上がり言った。

「あんまり魅力的過ぎて、反吐が出るぜクソが」

 

 狐に摘ままれたようにヨサクを見る金剛型の姉妹。

 顔を顰める私達江ノ島鎮守府の艦娘たち。

 

「断る理由が見当たらないヨ。あのドックに加えて手柄も手に入る。艦娘たちの救世主のあなたにとってはこれ以上ない贈り物の筈。何が不満ネ」

「ああん、そんなのてめえのその態度に決まってんだろ」

「私の態度?」

「そうよ。全てが明かされたから自分は身を引かなければならない。そんな殊勝な態度を装っているが、俺様は聡くてな。お前が何を狙っているのか分かっちまうのさ」

「金剛の狙い? そんなのすりぬけくんでしょ」

 私の言葉にヨサクは首を振る。

「そいつはさっきまでの狙いだ。今は違う」

「どういうことです、しれえ」

「早く楽になりたい。それが、今こいつが願っていることさ。愛しの提督もいない。同期もいない。隠すことが無くなった以上楽になりたい。そのために俺様に手柄を譲ったふりをしてやがんだよ。お前の望みは消えて無くなることだろ、金剛。そうすりゃ愛しの提督の後を追えるもんな。全くとんでもねえ女狐だぜ。殊勝な態度を見せ、結局はてめえの一番やりたいことのために俺様を上手く利用しようとしているだけじゃねえか。手柄だあ、くそでもくらえ」

 はあと、ヨサクの脇にいる雪風はため息をつくも、止めようとはしない。

 彼女の中では見慣れた光景なのだろう。

「そもそも俺様の目的は、艦娘はあれむよ。今はたまたまがきんちょ天国になっちまっているがな」

「え、そ、そうなの?」

 雪風の方を見ると、彼女はやれやれと肩をすくめてみせた。

「しれえがそう言い張っているだけです」

「うるせえ」

すかさず雪風の頬をつねるヨサク。それに対してやり返す初期艦。緊張感のまるでない二人に私は目を丸くする。

「だからさ。お前の見立てはお門違いよ。手柄? 名誉? そんなもの俺様は欲しくねえ。すりぬけくんとて気になるってだけだ」

「意味が分からないネ。私を告発すれば、貴方はまた名を上げることができるんだヨ?」

「お疲れで幕を引きたいところ悪いんだがよ。俺様があの響の話に乗ったのはただすりぬけくんを取り戻したいってだけじゃあねえ。けじめをつけるためよ」

「けじめ?」

 何のことか分からないという金剛。

 ヨサクはゆっくりと立ち上がるとにこやかに言い放った。

「うちのおさげの身内に手ぇ出しただろ? お前」

「ああ、あれね。我ながら愚かなことをしたヨ。お陰で響などという余計な厄介者を呼び込むことになってしまったネ」

 やれやれと首を振る金剛は気づいていない。

 これまでにないぐらい笑顔を見せながら。

 我らが提督は見たこともないぐらいに怒っていた。

 

「だからよ、こんなくだらない決着なんざ必要ねえんだよ。俺様がしたいのは、ただお前をぶちのめしたいってだけなんだからな」

「貴方は! 先ほどまでのお姉さまの話を聞いていたのですか!」

 比叡が怒りに肩を震わせ、金剛の前に立ちはだかる。

「ああ、一応な。それが何か?」

「あのお話を聞いて何も思わないのですか? お姉さまにもご事情があったんです」

 あっけらかんとしたヨサクの態度に、榛名が声を震わせる。

「だろうな。で?」

「で……とは?」

「それが俺様に何か関係あるのかって話だよ、ぼけ」

「相手の事情を理解しようとは思わないのですか? 貴方はそれでも提督なのですか?」

 矢継ぎ早の霧島の質問にも、ヨサクは薄笑いを返す。

「提督だから理解しろ? 馬鹿かお前。提督だろうが、艦娘だろうが、許せねえことは許せねえ。ただそれだけでわざわざここまで来たんだぜ?」

「そんな……。艦娘の救世主たる貴方はどこへ行ったのです! 一時の激情に身を任せるのは

賢明とは言えません!」

「くだらねえ。くそじじいどもの体のいい神輿に担ぎ上げられてうんざりしているのよ。お礼参りが済んだら身でも隠そうかと思っているぐらいだしなぁ」

 ぼりぼりと頭を掻きながら、さらりととんでもない発言をするヨサクに、私は心臓が飛び出そうになる。ヨサクが提督を辞める? 冗談じゃない。

 叫びそうになった私の肩を雪風が押し止めた。

「大丈夫です。させませんから」

「ほ、本当に?」

「ええ。時雨ちゃんともそろそろ危ないって話をしていたんです」

「あ、そうなのね……」

 ヨサクが脱走する度に当然の如く捕まえに行く二人ならば、安心だろう。

 彼に希望を見出だしている艦娘は多いのだ。いなくなられては困る。

 

「何がしたいネ?」

「だから言っただろう? お前をぶちのめしたいってな」

「色々と聞いているヨ。あのアトランタ相手に大立ち回りをしたとネ。今更ロートルの私を倒したところで何の自慢にもならないヨ?」

 心底呆れたといった表情を浮かべる金剛に、ヨサクは吐き捨てた。

「お前なんかじゃねえ。もう一人の方だよ」

「もう一人? どういうこと?」

 私の問いかけよりも早く動いたヨサクが、金剛の首元のスカーフを引きちぎる。

「何を!!」

 ヨサクに飛びかかろうとした比叡と霧島は、

「お、お姉さま!」

榛名の驚きの声を聴いて立ち止まり振り返った。

 

「ジョンストンちゃん!」

 視界が揺れ始め、気付けば私は自然に目を逸らしていた。

 あれを見ては駄目だ。身体がそう言っていた。

 あれを見てはいけない。あれを見ては思い出してしまう。

「ジョンストンちゃん!!」

 雪風が大声で叫び、私の顔を強引に自分の方に向けた。

「しっかり! 雪風はここにいます! 大丈夫です!!」

「雪風……、あれ……」

「ええ。雪風も信じられませんが……」

 がちがちと歯の根が合わない。思い出したくもない。吹っ切れたと言っていたが、あれを心理的に拒否する自分がいる。

 米国首脳部がフランケンシュタイン・コンプレックスの国民を安心させるために開発したあたしたちを縛る鎖。AKC、Automatic kanmusu controller。艦娘自動制御装置。

 通称首輪と呼ばれる装置が、金剛の首元には鈍く光っていた。

 




登場用語紹介
AKC……Automatic kanmusu controller。艦娘自動制御装置。米国首脳部がフランケンシュタインコンプレックスの国民を安心させるため、海外の技術者と協力し、非合理に開発した装置。提督と認識した人間や、その人間から指揮権を譲り受けた人間の指示に従わなければ、気が狂わんばかりの刺激が頭の中をのたうち回る。艦娘の能力を上げる指輪に対し、首輪と名付けられている。
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