アークロイヤルの憂鬱
世界に冠たる我が英国が誇る艦娘は誰か。
その問いに彼女以外の名前を挙げる英国民はいないだろう。
戦艦ウォースパイト。クイーンエリザベス級戦艦2番艦にして、船時代には「戦のある所必ずウォースパイトあり」と謳われた歴戦の勇士。艦娘として生を受けても、19年前に行われた鉄底海峡の戦いにおいて生き残り、オールドレディとして尊敬と崇拝をもたれている彼女はまた、EU艦娘連合艦隊の司令長官でもあった。平時はロンドン北西のノースウッドにある連合司令部に通い詰めながらも、片時も笑みを絶やさない。
まさに理想の艦娘たる淑女である彼女だが、一つどうしても困った癖があった。
極東の地に突如として現れた艦娘の救世主の話を聞き、興味をもったウォースパイトは交換留学生として送ったジャーヴィスを通じてかの提督の様々な情報を得ていたが、日々その好奇心は刺激されていたらしい。
「ねえ、アーク。ちょっとお願いがあるのだけれど」
いつも悠然たる振る舞いを見せている彼女らしからぬ態度に私は即座にその意図を読み取った。
「ダメです」
「まだ何も言っていないじゃない」
不満げに頬を膨らませる我が上司だが、そんな可愛い顔をしてもダメだ。
「用件は分かっています。アドミラルキトウに会いたいのでしょう?」
私がズバリと指摘すると、ウォースパイトは困ったように眉を寄せた。
「さすがはアークね。どうして分かったの?」
「貴方ともあろう方が、ご自分のことはお分かりにならないのですね。ああも頻繁にジャーヴィスからの連絡を聞いていてはあの鈍いネルソンでも気づきますよ」
「あら、酷い事を言うわね。ネルソンはネルソンで頑張っているのよ。顕現したばかりのロドニーの世話に励んでいるし、ジャベリンも懐いているわ」
「偉大なる七隻長門との会話が刺激になったようです。ご配慮感謝します」
「昔の友達に連絡をとっただけよ。大したことはしてないわ。それよりも、ねえ、アーク」
「ダメです。ご自分の立場をお考えください。あなたはEU艦娘艦隊の司令長官なんですよ!」
「それについては考えがあるから大丈夫」
尚も食い下がろうとする上司に私はぴしゃりと言い切った。
「大丈夫ではありません! NOです! いけません!!」
私の剣幕に驚いたのだろう。その日以降ウォースパイトが日本行きを口にすることはなかった。
これで一安心。そう思っていた自らを私は殴りたい。
戦艦ウォースパイト。我が大英帝国が誇る偉大なる艦娘の唯一の欠点ともいっていいことを忘れていたのだから。
その日。長官室に入ろうとした私を待っていたのは、きょとんとした顔のネルソンだった。
いつもはっきりとした物言いをする彼女がそんな表情を見せる不思議に、私は思わずその理由を問うた。
「いや、何。先程長官室にベイカーストリートイレギュラーズがこれを届けに来てな」
その名には覚えがあった。確か、ジャーヴィスが個人的に組織している子ども探偵団だという。
「ロンドンの闇に隠れる犯罪者たちを炙り出すために彼らの協力は必要よ!」
などと彼女は語っていたが、実際にその活躍を見た者は誰もいない。
「イレギュラーズが手紙を? ジャーヴィスからか」
「いいや。差出人は不明だ。だが、墓参りに行きたいために休暇が欲しいという差出人不明のメモが入っていてな」
「何だと!」
驚き、ネルソンの手にある手をひったくると、紛れもなくその筆跡はウォースパイトのもの。
「やられた……」
警戒をしていたというのに、まんまと出し抜かれた。
長官室に敢えて置手紙を残さず、イレギュラーズに渡させたのも、彼女の悪い癖からだろう。
「どうした、いきなり」
事態が呑み込めず首を傾げるネルソン。その頭をはたきなる衝動を私はぐっと抑える。
いくら差出人名がないと言っても誰がどう見てもウォースパイトの手ではないか。なぜそれに気づかないのか。
「余は筆跡など気にしておらん」
「そう言う問題ではない! 何を考えているのだあの方は!」
いくらヨーロッパの海域が現在落ち着いていると言っても、いつ何が起きるか分からない。そんな時に司令長官が不在などあり得るだろうか。
「空港に連絡……、いや、あの方のことだ。既にあちこちに手を打っているだろう。ジャーヴィスに連絡を……、駄目だ。グルの可能性がある。日本海軍に連絡……、いやいや話が大々的になってしまう」
どうしたらよいかとうろうろと室内を歩き回る私とは対照的に、ネルソンは
「オールドレディも休みが欲しかったのだろう」
などと呑気なことを言っている。
「休みはとっていただきたいさ。あの方はこれまでずっと働きづめだったのだからな。だが、あの方には立場がある」
「その立場を忘れたくなる時もあるのだろう。心配なら余から偉大なる七隻の長門に連絡をとろう。きっと力になってくれる」
「長門か……」
確かに私もそれは考えた。日本海軍の要職にいる彼女なら力になってもらえる。だが、常々我らがウォースパイトは長門について隠し事が苦手と言っていたではないか。
「大丈夫だろうか」
「大丈夫だろう。ウォースパイトの留守の間、ドイツのビスマルクから彼女が来ると聞いている」
「彼女?」
何のことだか分からぬ私に、ネルソンは意外な名前を告げた。
我が大英帝国にも因縁浅からぬ彼女こそは、ドイツ艦娘にとっての象徴たる存在。
「な、なんで……」
「どうもオールドレディが頼んだらしい。色々思う所はあるだろうがよろしくと一昨日言われてな」
「昨日!? なぜ、それを伝えない!」
もし知っていれば、どうして彼女が来る必要があるのかとウォースパイトを問い詰められたというのに!
「? 伝えたぞ。オールドレディは嬉しそうにしていたな」
「なぜそこに伝える!」
「司令長官に報告するのは当たり前だろう」
「その通りだが、その通りではない!」
絶妙に会話が噛み合わないネルソンをよそに私は届けられた手紙を手にどうしたものかと頭を抱える。
自分がいない間に何が起きても平気なようにと最大限の配慮をしたに違いない。
偉大なる七隻、EU艦娘連合艦隊司令長官。淑女の見本たる艦娘と謳われるウォースパイトとはそういう艦娘だ。
だが、そんな彼女にも唯一の欠点がある。
「全く。なぜ、直接言わずにこんな手の込んだことをするのですか……」
遠く極東の国に旅立ったお茶目な悪戯好きな上司に対し、私は思わず愚痴をこぼした。
⚓
めりーくるしみます。全世界のおやぢ同盟の連中はいかがお過ごしだい?
俺様はもっかエロDVD鑑賞会中よ。毎度毎度クリスマス会をしようと誘ってくるがきんちょどもにさすがの俺様も食傷気味よ。あいつらどこでも付きまとってくるからなあ。
師走で忙しかった俺様を秘蔵のエロDVDが癒してくれるぜ。
「けっけっけ。身体が微妙に動いているじゃねえか。ひっひっひ」
画面の中では小太りのおっさんが、時間を止める時計を手に入れてやりたい放題してやがる。コンビニ店員の下着をまくったり、助平なお触りをしたり。それを時間が止まった体で我慢する女優の名縁起が涙ぐましくて笑えるぜ。行きつけの店で店員にこれは抜けませんよ、ネタ枠ですなぞと言われたが、余計なお世話だ。ネタに決まっているじゃねえか。どこの世界に目をおっぴらいたまま我慢する女優を見て息子が元気になるんだよ。お笑いとして買っているに決まっているだろ。
四六時中ガキどもの相手をしていると、こんな風に静かな時間が貴重に思えるぜ。あいつらもいつも俺様に構ってもらおうとしないで、たまには自立しろってんだ。
かまってちゃんのグレカーレも小うるさいジャーヴィスもいねえ。たまには静かな週末もいいもんだ。
「だばだ~だ~だばだ~だばだ~だばだ~だばだ~だ~。鬼畜を知る人の、おやぢごーるどぶれんどってな」
いけねえいけねえ。思わず鼻歌が出ちまったぜ。こんな所を誰かに見られたらとんでもないことになる。
そう思っていると、気付いちまった。開いた扉から注がれるおどおどした視線にな。
「貴様、見ているな!」
「ひっ!」
ぺたんと尻もちをつく音が聞こえる。あ、こいつ。俺様の茶目っ気たっぷりの洒落が分からずマジでびびっているな。
「す、すいません」
「あ、あの、その。て、提督が歌い始めてからです……」
神鷹はびくりと体を固くさせると、ぺこぺこと頭を下げた。
「す、すいません。何度かノックをしたのですが、返事がないので」
「ふん。俺様は戦意高揚のための資料を閲覧中でな。それで何の用だ?」
「はい。これからみんなで外出しますので、その許可を……」
「何!?」
おいおい。本気かよ。思わず耳を疑っちまったぜ。あいつらがきんちょどもが俺様に寄り付かず、自分達で外出するだと? 口を酸っぱく独り立ちしろと言い続けた甲斐があったってもんだ。
「おうおう。いいじゃねえか。世間はクリスマスだとか浮かれてやがるからな。変な虫が寄って来るかもしれねえ。気をつけろよ」
「あ、ありがとうございます。それでは失礼します」
ふん。毎度恒例の俺様へのくそみたいなりくえすがあるかと警戒したが、どうやら諦めたようだな。これでこそ静かな年末が過ごせるってもんだ。とすると、藤沢でも行くか? だが忙しかったもんで、欲しいもんは大抵揃えちまったしな。
ちょうどいい。しばらくご無沙汰だったし、確か27ぐらいから閉まっちまうはずだ。今年一年の感謝も込めてあそこに行くかね。
どこに行くかって? そんなのお台場に決まってんだろ。
「相も変わらず少ねえな、人が」
十年ぐらい前は片づけに難儀するぐらい毎日献花で埋もれていたという。それが一月に一回になり、今や年に一度の慰霊祭の時に花が捧げられるぐらいだ。人間ってのがいかに薄情かよく分かる。
だが、それで正解なんだろうぜ。物を贈らなきゃ感謝できねえって訳じゃないからな。一番どうしようもない連中は物だけ贈って済ませようとするもんだ。
「ほお。こいつは助かる」
慰霊碑の近くにご自由にどうぞと掃除道具が置かれていた。あの響の発案だろう。あれぐらい気が利くのなら、駆逐艦でもうちに一人いて構わねえ。びーばーだの、児ポロりだの、名探偵気取りのがきんちょだのとかくうちの鎮守府は外ればかりだからな。
手早く片づけて、簡単に拝む。と、目を開けると、隣で見慣れぬパツキンの外国人が祈ってやがった。
「あん? なんだ、てめえ」
時雨の野郎がこの間読んでいたファッション雑誌に出て来るような美人じゃねえか。
百年経ってもお前には無理だと言ってやったら顔から湯気が出るかってぐらい怒ってたけどなあ、けけけ。
「Sorry。話し掛けようと思ったのだけれど、熱心にお祈りをしていたから。それなら一緒にお祈りした方がいいかと思って」
「いや、別にそこまで熱心にしている訳じゃねえ。俺様にとっては儀式みたいなもんだ。今年一年ありがとうってな」
「素敵だわ。日々の感謝を捧げていると知ったら、きっと彼女達も喜ぶでしょう」
パツキンはにこりと微笑みかけてくる。どうでもいいが、何かこいつ、距離感が近くないか。初対面のくせにずんずん話しかけてくるところが、うちの英国製壊れたがきんちょスピーカーにそっくりだ。
「それはもしやジャーヴィスと言わないかしら。確かに彼女は聡明で明るい子だけれど、ほんの少し口が達者なの」
「あれでほんの少しねえ……。てか、お前。あいつの知り合いなのか?」
「ええ。イギリスの艦娘よ。名前はそう、ロドニー」
ロドニーはそう言うと、俺様に手を差し出す。
「……」
「あら。この国では握手の習慣はないのかしら?」
「俺様は利き腕を他人に預けられる程自信家じゃなくってな」
「デューク東郷の台詞ね。あのシリーズ、私も好きよ」
ロドニーの返答にきらりと俺様は目を光らせる。やるじゃねえか、こいつ。ゴルゴではなく、デューク東郷と答える所にこいつのせんすを感じるぜ。
「ふん、よく知ってやがるな」
「昔日本にいたことがあるの。その時に漫画が好きな子から薦められて」
ほお。随分と見る目のある野郎だ。あの漫画は国際情勢を学ぶのにぴったりだからな。
「よければ、この辺りを案内してくださらないかしら。しばらくぶりの日本で勝手が分からなくて」
「ああん? なんで、俺様が」
出た出た。美人だからってほいほい男が言う事を聞くものと思ってやがる。とんだ思い上がりだぜ。
「あら、なぜ?」
「てめえは俺様のストライクゾーンじゃねえ。若すぎる。後10年は女を磨かないとな」
俺様の指摘にロドニーの野郎はぱちぱちと瞬きをすると、くすりと微笑んだ。
「あら、それは光栄だわ。職場では年上扱いされて困っているんですもの」
年上だあ? どう見ても二十代。いや、今日びちょっとませた大学生ならこんな感じじゃねえか。ずいぶんと若い連中が多いんだな。コンビニのバイトでもやってんのかよ、こいつ。
「Convenience storeね! 昔アドミラールによく連れていってもらったわ。『rice ballはセブンが一番おいしい』とよく言っていたの」
「くだらねえ拘りだぜ。俺様の知り合いもしょっちゅうそれでごねてたもんさ。うちの近くにはセブンがないから困るってな」
「似たような人がどこにでもいるのね」
何が楽しいんだかロドニーの野郎はにこにこしている。
なんなんだ、こいつ。ジャーヴィスに似ているかと思ったがフレッチャーか?
いや、違うな。どうもこれまで会って来た連中と雰囲気が違い過ぎる。
こういう奴はさっさとおさらばするに限ると、宗谷の方へ向かうと何とついてきやがった。
「あのなあ、お前。俺様はこれから宗谷の見学をするんだよ。お前には興味なんかないだろ」
「いいえ。とても興味があるわ。南極観測船宗谷。かの帝国海軍最後の生き残りと言われる彼女に再び出会えるとは思わなかったですもの。私の記憶では入場者数が激減し、その取扱いをどうしようかという話が俎上に上っていた筈」
「そうかい。まあ知っている奴がボランティアで働いていてな。おう、また来たぞ」
見知った顔に挨拶すると、いつも無表情の響の野郎が一瞬驚いたように見えた。
「あん? どうしたお前。鳩が豆鉄砲食ったような面しやがって」
「いや。君がまさか江ノ島の子じゃない艦娘とデートをしているなんて意外でさ」
「でえとだあ? このロドニーの野郎が勝手について来ただけだ。勘違いするんじゃねえ。うちのがきんちょどもがまた騒ぐだろうが」
「ロドニーねえ……」
じろじろとロドニーの顔を見ながら、響は口元を震わせる。なんだ、こいつ。トイレでも我慢してやがるのか。
「デリカシーの欠片もない発言は聞かなかったことにするよ。それで観ていくのかい?」
「無論だ」
俺様が財布を出したのを見て、ロドニーの野郎もそれに習ってバッグの中から財布を取り出したが、何だ、こいつ。カードばっかりで困ってやがる。これだからカード派は駄目なんだ。現金派の俺様からしたらこうした時に面倒があっていけねえ。
「ほらよ。後ろの奴の分もだ」
殊勝にも宗谷に来ようっていう気持ちに免じて俺様が気前よく払ってやると、なぜだかロドニーは感激したらしい。
「本来ならば私が出さなければならないのに。スマートな紳士なのね、貴方は」
何言ってんだ、こいつ。鬼畜・追い込みをモットーとする俺様を紳士だと? 見る目がないにも程があるぜ。おい、響。我慢しているようだが、笑っているのが見え見えだぞ。
「はい、毎度。それじゃあ、君も入るといいよ」
「それじゃ、失礼するわね。元気そうで良かったわ」
「そっちもね」
なんだ、こいつら知り合いなのか。響の野郎はこう見えて結構歳だからな。そうするとこのロドニーも若作りのばばあということになるが。
「鬼頭提督。国際問題になるよ、その台詞」
「あら。ばばあなんて言われたの初めてで新鮮よ」
本当に妙な野郎だな、こいつ。うちのばばあなんぞばばあと呼ぶたびに拳骨か梅干しをかましてくるのによ。
「それじゃ、行くか。仕方ねえから案内してやるぜ」
「あら嬉しいわ。それではエスコートをお願いするわね」
そう言って俺様の隣に並んだロドニーは楽しそうに腕を差し出してくる。
「だから、10年早いと言っているだろうが!」
「年寄り扱いされるのは嫌だったけど、今日に限ってはその方がよかったみたいね」
⚓
与作とロドニーの姿が見えなくなると、響はポケットから携帯を取り出した。
「君の推理通り、うちに来たよ。それでどうするんだい? 長門からも見つけ次第連絡するようにと言われているんだ」
「オールドレディにもバカンスは必要よ。せめて宗谷を降りるまでは好きにさせてあげて」
「君の所にも連絡は入っている筈だ。いいのかい? 上司の指示を無視して」
「今の上司は私達を放ってどこかに遊びに出かけているわ。だからNo problem」
「君もなかなかだね。分かった、宗谷を降りたら連絡するよ」
「Thank you」
携帯をしまうと、響は宗谷の方をちらりと見つめた。
「全く。何がロドニーだい……。君はクイーンエリザベス級だろう」
「響ちゃんは何と?」
通話を終えたジャーヴィスを皆が取り囲む。
「しばらく様子を見てくれるんですって。さすがに響は話が分かるわね!」
「まああの子も苦労してきたからねえ。でも、まさかウォスが来るなんてびっくりだよ」
そう携帯ゲーム機で遊びながら言ったのは北上だ。
「司令長官が何をやっているんだい、全く。後に残されたアークロイヤルと尻拭いで派遣されたプリンツ・オイゲンが気の毒でならないよ」
時雨はため息をつきながら、元同僚の突然の訪問に呆れる。
「でもさすがね、あんた。よくヨサクが行くのが宗谷って分かったわね」
「初歩的なことよ、ジョンストン。ダーリンの外出申請と、鎮守府に届けられた物を調べれば、行く先の見当はつけやすいわ」
「外出申請は分かりますが、鎮守府に届けられた物がどう関係するのですか?」
「あらフレッチャー。分からないかしら。何かが欲しいから外に出る訳でしょう? 最近忙しく通販に頼っていたダーリンは改めて買いたいものはないなと考えたに違いないわ」
「でも、ラーメン屋さんに行きたかったとかはあるかも」
「その可能性は否定しないけれど低いわよ。効率を考えるダーリンは毎回買い物とラーメン屋をセットにしているんですもの」
「な、成程」
神鷹の反応に、ジャーヴィスは満足そうに頷いてみせた。
「それじゃあ、そっちは片付いたみたいだから、こっちも片づけちゃいましょう」
パンパンとグレカーレがホワイトボードを叩く。
そこに書かれていたのは、
「提督へのプレゼント対策会議」の文字。
「提督さんが喜びそうなもんなんて助平なゲームじゃないの」
身も蓋もないことを言うアトランタに対し、北上は首を振る。
「分かってないね、アトラんたん。提督はあれで好みがうるさいよ」
「普通に手編みのマフラーとかにしたらどうだい?」
「いやいや。全員からもらったら使いきれないかも」
「ダーリンの元に暗号文で届けましょう。きっと乗ってくるわ!」
「あんたねえ。それ、ただ怪盗ごっこがしたいだけでしょ」
「いいアイデアが浮かばな~い。何にしてもテートクはけっとか、ふん、とか言いそうだもん」
「雪風もそう思います!」
「なら皆さんで料理を作ってはどうでしょう? クリスマスパーティーにするのは」
「あ、それなら私も鳳翔さんに教えていただいたうどんを打ちます」
「クリスマスにうどんねえ……」
微妙な顔をする北上にしゅんとしょげる神鷹。
「い、いや。ダメって訳じゃないよ。ただ、提督のことだから何か言うと思ってさ」
喧々諤々。たまには提督に何かしようという江ノ島鎮守府の艦娘たちによる会議は続くのだった。
⚓
「全く。戯れもほどほどにしろ」
やってきた元同僚は顔を見るなり、ため息をついた。
「Sorry。どうしても来てみたくて。オイゲンにも悪い事をしたわ」
「全くだ。怒っていたぞ。自分だって会いたかったのにと」
「そうね」
噂の鬼頭提督が彼の息子と聞き、いてもたってもいられなくなった。
彼が生きていたのなら、きっと皆が自分達の弟として接したことだろう。
「随分と捻くれた弟だな」
「あら、優しいわよ?」
私はバックの中から本を取り出す。
「ゴセンインチョウというんですって。去り際に彼がくれたの。お土産ですって」
「鬼頭提督が? 珍しいこともあるもんだ」
私を本当にロドニーだと思っていたのだろう。宗谷の艦内を案内している時も、彼は今まで私が出会った人間の中で一番自然体に接していた。
「いや、そうでもないぞ」
ぱらぱらと御船印帳をめくっていた長門がニヤリと笑う。
「あら、どうして?」
「ここを見てみろ」
彼女が指差したのは、最後のページ。何やら日本語で殴り書きがしてある。
『艦種詐欺へ 達者でな 与作』
「え!? い、一体いつ気が付いたというの?」
戸惑う私に長門は、肩を竦めて見せる。
響と話した時か。それとも艦内を案内してもらっている時のふとした会話か。
だが、それをおくびにも出さなかった彼はやはりあの人の息子に間違いない。
笑いが込み上げて来る。こんなに笑ったのは久しぶりだ。
用意された飛行機に乗り込む。
戻ったらアークから山のような説教が飛んでくるだろう。
オイゲンからも恨みつらみを聞かされることだろう。
だが、それも仕方がない。
こんなにもいい休みをもらってしまったのだから。
「Stay well until we meet again、ヨサク」
(また会う日まで元気でいてね、ヨサク)
窓の下に見える日本に向かって、私はそう呟いた。
登場人物紹介
アークロイヤル……副官。苦労人。
ネルソン……ウォースパイトに長門みたいと言われてにっこにこ。
ジェーナス……ジャーヴィスが上手くやっているかどうかは心配しておらず、江ノ島鎮守府の人間も大変だなと同情している。
ロドニー……ウォースパイトが自分の名前を騙ったことを知り、満更でもない。
プリンツ・オイゲン……ウォースパイトに英国旅行に来ないかと誘われて来てみれば、自分の留守を頼みたいと置手紙が。話が違うとの絶叫が空港に響いた。