とりあえず運営にはㇻ級をどうにかしてほしい。丁でも出てくるㇻ級はほんま許せん。
結構難産でした。イベントの骨休めになれば幸い。
深海棲艦学者 アンソニー・ティルビンは語る
深海棲艦については驚くほど解明されていません。第二次大戦で沈んだ船達に海の中の悪意が結びついたもの、物質に魂があると説く者たちは、あれは艦娘の荒魂、負の側面であるとの言説をまことしやかに振りまいています。そうしたスピリチュアルな側面を抜きにして語れば、実は重要な事実は二つだけです。彼女ら深海棲艦達は人類に深い恨みを抱いており、現代兵器が通用しないということのみ。それゆえ、我々は艦娘達に希望を見出すしかないのです。
え⁉ 現代兵器が駄目ならば、現代格闘技はどうか? 週刊格闘技さんは面白いことをおっしゃる。政府が艦娘への認知度を上げるために作っている、所謂やらせ番組で、わざとらしく駆逐艦の子たちにプロレスラーが腕相撲で負けるのを見て、イけると思っていませんか? とんでもない思い上がりですよ。
そもそも、我々陸上の生き物が、深海にいる生き物と戦おうとすること自体が間違いなのです。地上最大のアフリカゾウですら、体調は7m強、その体重は10トンです。深海最大のシロナガスクジラは30mで、250トン。大きさからして違います。
ああ、確かに。図体だけでかくても意味がないですよね。それならば恐竜はどうですか。あの有名なティラノサウルスと白亜紀の巨大ザメ、メガロドン。どちらが強いと思いますか? 戦うフィールドがバラバラなので、どちらとも言えないという人が多いかもしれません。私はそこで、単純に嚙む力で比較したい。
ティラノサウルスと、メガロドンがにらみ合っています。お互いが首筋に嚙みついたとして、どちらが強いか。
答えはメガロドンです。ティラノサウルスの嚙む力は約5トン。それに対して、メガロドンは20トン。およそ四倍です。両者同時に嚙み合ったとするならば、その段階でティラノサウルスは食い破られ、敗北を喫するでしょう。
ボクシングの世界チャンピオン? 空手のオリンピックメダリスト? 総合格闘技の覇者?
誰を連れてきてもよろしい。答えは同じです。
出会った瞬間に、一瞬で終わります。
彼女らを舐めてはいけない。
深海に生きている、という時点で我々陸上に生きるものとは別な次元にいるのですから。
⚓
人類が制海権を失ってからはや二十年余り。
今や、世界中の海を跳梁跋扈する深海棲艦。その戦闘力は近代兵器を寄せ付けず、人類が辛うじて彼らに抗えているのは、艦娘という存在があるからに他ならない。
そんな深海棲艦達の中でも上位個体とされる、姫級に鬼級。時に単騎で艦娘達の艦隊ですら退けるほどの強さを誇る彼等ですら、目の前の存在からすれば、ただの量産型にしか過ぎない。
モニター越しに相対したことがある、戦艦の装甲を抜くほどの先制雷撃を放つ脅威。深海棲艦のぶっ壊れ駆逐艦と呼ばれる、あの駆逐ナ級後期型Ⅱeliteが鼻くそのようだ。
いや、ナ級だけじゃない。映像資料で見たことがある、これまで存在が確認された全ての深海棲艦と比較しても、相手にならない。
多くの艦娘。深海棲艦を目にしてきたから本能的に分かる。
最も深き青の七柱。北太平洋を司るという、その肩書に偽りはないのだと。
およそ理知的とも思える澄んだ目を興味深げに細め、彼女は言った。
『我を前にして足掻く、とはな。面白い事を言う』
深海棲艦の親玉にお褒めに預かるとはな、光栄で泣けてくるな。
『艦娘共ならいざ知らず、唯人の身で我を止めると? よすがいい。古来より海の脅威を甘く見る者は藻屑となって消えるのが定めだ』
「ご心配ありがとうよ。だが、残念ながら俺様も宮仕えの身でよ。給料分はやることをやらないといけねえのよ」
社畜公務員の痛い所ってやつだな。とんだ貧乏くじだぜ。
どうあっても俺様が動かないのが分かったのだろう。
『……』
セルキーは小さく息を吐く。
それに応じて構えをとった俺様を庇うように間に立ち塞がる影があった。
「ここは、榛名達に任せて、逃げてください!」
「時間稼ぎぐらいはいたします!」
榛名と霧島。金剛型の二人は、艤装を破壊され、大破寸前のダメージを負いながらも、それが己の使命とでもいうかのように時間稼ぎを買って出ようとする。
名高き金剛型戦艦の矜持とでも言うのかねえ。ったく、くだらねえ。
「けっ」
低く舌打ちすると、
「わっ!」
「きゃあ!」
二人をむんずと掴み、ふわりとソファの上へと放り投げてやった。
そんな状態で何ができるってんだ。精々破れかけで見える乳と尻で俺様の士気を高揚させるだけじゃねえか。それだって、大学生程度のこいつらじゃ大して効果はねえ。せいぜい女子高生のパンチラくらいなもんだ。
『勇ましいな、人間よ。我が拳をいなすだけのことはあるか……』
さすがに金剛型戦艦の十八番である僚艦突撃を防いだだけあって、余裕をかましてやがるぜ、セルキーさんよぉ。くっくっく。とっくに俺様にはネタばれだってのによ。
「たかだか人間如きが何を……って、顔だな。だが、とっくにネタは上がってるぜ。お前さんのその無敵の秘密のな」
「……」
けっ。何を馬鹿なって面しやがってよ。直接触れた俺様にはお見通しだっての。
「気功闘法……。それも恐ろしく精密に気をコントロールしてやがるな」
『ふむ……』
にやりと笑みを浮かべるセルキーに対し、ジョンストンと雪風のがきんちょズはお互い顔を見合わせる。おい、初期艦。ジョンストンはともかく、お前には格闘訓練の時に普通に講義してやっただろうが! 目を逸らすんじゃねえ!
「成程! キコウね!」
「し、知っているの、ジャーヴィス!?」
「Yes。中国武術の秘術の一つよ。気を用いて体を鋼鉄のように硬くし、布切れを鉄をも断つ刃と化すと言われているわ。ならあの防御力は納得よ!」
ふん。こまっしゃくれた奴だが、さすがは名探偵だな。
かの格闘家たちのバイブルとも言われる民明書房の知識までご存知とはよ。
「ご名答。それがこいつの無敵の正体だ」
通称オーラ付きとも呼ばれる深海棲艦の姫級・鬼級の禍々しい赤いオーラ、熟練妖精の静謐を思わせる青いオーラ。桁違いの能力を有する連中がその身体から発しているオーラはその筋の専門家からは闘気の一種だと言われていた。通常の能力に闘気が上乗せされ、それもあって通常の深海棲艦や妖精よりも能力が高くなるのだと。オカルト雑誌に書かれていたとんでも理論だったが、こうまで目の前で現実を見せられちゃ認めるしかなさそうだ。
おまけにこいつがさらに悪質なのは、単にオーラを溢れさせている姫級やレ級といった連中と違い、その闘気を完全にコントロールしているってことだ。
「金剛型の僚艦突撃を受ける瞬間に、即座に着弾箇所を見破り、闘気を一点集中して防御。とんでもねえ芸当しやがるぜ」
だがよ、納得できねえぞ。
「気功闘法は中国四千年の秘術だぞ? なんで、てめえが使える」
そう。さっきの口ぶりとこいつの立場からは滅多に地上に出てくることはないはずだ。それななのになぜ。
『図に乗るなよ、人間』
俺様の内心を察したのだろう。セルキーの野郎は腕を組む。
『中国四千年の秘術と言ったか。たかだか四千年で何を誇る。我らがこの海に生まれてどれほど経ったと思っている』
はあ⁉ お前らは海が生まれてから存在しているとでも言うのかよ。綺麗な顔して、とんだBBAじゃねえか。北の魔女じゃなくて、来たのは美魔女ってか。パネマジもいい加減にしろよ、くそが。
『何のことかは分からぬが、これで、貴様等に勝ち目が無いことは分かっただろう。さっさと道を開けろ』
「あん⁉ 見逃してくれるってのか?」
『目的の物がどこにあるのか分かったのでな。時間が惜しい』
そういや、こいつ、さっき探し物があるから日本に来たって言ってやがったな。
深海棲艦の連中が探しに来るものだと? おまけにこの口ぶりじゃ、見つかったと言わんばかりじゃねえか。
ここには無くて、深海棲艦が喉から手が出る程欲しいもの。そんなもの一つしかねえじゃねえか。こいつも欲しいのか。うちの駆逐艦製造機(仮)が。
「すりぬけくんか……」
江の島鎮守府にあり、ことごとく通常ではありえない建造を成功させてきた魔法のドック。
艦娘の建造ドックの核である母なる歯車と酷似する、深海棲艦大ドックのキーパーツをその内に秘めたイレギュラー。
『大人しく渡すのならばよし。そうでなくともこちらは一向に構わんがな』
「さ、させる訳ないでしょ!」
大声で叫ぶジョンストン。だが、その足元は震えている。無理もねえ、目の前でああも簡単に金剛型姉妹がやられちまったんだ。普通は声を出すこともままならねえ筈だ。
『勇ましいな。だが、心で思っていても、お前の体はそうではないようだぞ』
「くっ……、な、なんでよ!」
ジョンストンは己の体に苛立ちを見せる。目の前の存在が圧倒的なのは理解している。だが、彼女を行かせては人類や艦娘は圧倒的な劣勢に立たされる。艦娘の矜持としてそれだけは許されない。例え、無駄だと分かっていても立ち塞がらなければ。そう頭で考えていても、体が恐怖を認めてしまっている。
「まさに蛇に睨まれた蛙ね」
ジャーヴィスもまた然り。無理もねえ。強大な深海棲艦との戦闘経験の無い二人にとっては、目の前の規格外の強さを誇る深海棲艦はまさに未知の存在だ。
「しれえ、雪風は大丈夫です!」
唯一雪風だけが、構えをとろうとするが、俺様はその頭をこつんと叩いた。
「痛っ! な、何するんですか~~」
出た出た。考えなしの初期艦はこれだから困る。あの金縛り状態の二人をどうするんだよ。巻き込まれるだろうが。ついでにあいつに連絡をしろ。すぐ近くにいる筈だ。
「で、でも! それじゃあしれえが!! 一人でなんて無茶です!」
「うるせえ野郎だな。さすがの俺様でもお前ら三人を守りながらこいつを抑えるなんざ無理だ。そんなに役に立ちてえなら、せめて艤装を着けて戻ってこい! 分かったら早くしろ!」
「りょ、了解!」
棒立ちになるジャーヴィスとジョンストンの手を握り、二人を引きずるように廊下に出ようとする雪風。 そうはさせじと無言で近づいたセルキーの前に俺様は立ち塞がる。
『退け』
「やなこった!」
投げつけたのは、一見陶器で作られたただの球。
『無駄なことを……』
セルキーは避けるまでもないと手の平でそれを防ぐ。
馬鹿が! そう来ると思ったぜ。
破裂したそれからは濛々と煙が立ち上る。
『光の次は、煙か⁉ 鬱陶しい……。むっ⁉』
違和感を感じ、セルキーは顔を顰める。深海でも嗅いだことの無い異臭に思わず鼻を摘まもうとして。
「隙ありってなあ!」
流れるように背面に回り込み、肩車で深海棲艦を地面へと叩きつけ、さらにその腕を捕る。
『ぐっ⁉ な、なんだこの凄まじい臭いは!』
「おやおやあ。海が生まれてから生きてきた深海棲艦様でもご存知ないとはねえ。シュールストレミング。またの名を世界で一番臭い食べ物だよ!」
けけけ。さすがに顔を顰めてやがる。
普通のじゃ耐えられると思ったからな。こいつに使ったのはエロ仲間のスウェーデンのおやぢから入手した六十年物の劇物よ! 中身はほとんど液体で、近くにいた北上と秋津洲があまりの臭さにぶっ倒れた代物だぜ。
「「「ううっ!!」」」
倒れた金剛型姉妹が非難めいた視線を俺様に向けてきやがるが、知ったことか。元寇の時に活躍したうんこ弾を知らねえのか。
『ふざけるな!』
完璧に極まった右腕にさらに力を籠める。普通の相手ならば、その腕はあらぬ方向に曲がり、二度と使い物にはならないだろう。だが、それほどの圧力を意にも介さずセルキーは右腕を持ち上げる。まるで自らにじゃれてきた幼子を振りほどくかのように軽々と。
ドゴオン!!
「ぐおっ!」
寸での所で腕を放し、床に叩きつけられるのを回避する。
雪風達は立ち去ったようだ。無造作に叩きつけられた右腕と、床に空いた大穴に顔を顰める。
「ったく、とんでもねえな」
『それはこちらの台詞だ。この我を相手にようもここまで姑息な手を使うものだ』
顔をぬぐいながら、こちらを睨みつけるセルキー。おー怖。俺様じゃなければおしっこちびっちまうぜ。
「くっくっく。お褒めに預かり光栄だぜ。卑怯、汚いは鬼畜おやぢにとっては勲章よ」
さてと、仕切り直しといこうじゃねえか。
「たかだか六百年あまりの人間の知恵にしてやられるのはどんな気分だい? ええっ、セルキーさんよぉ」
「ああ、私だ。うん、どうしたんだい。え⁉ 鬼頭提督がピンチ? 金剛との話し合いが決裂したってことかい? そうじゃない? 深海棲艦が現れた? 言っている意味がよく分からないが、緊急事態だってことはよく分かる。Заметано、了解。すぐ向かうよ。それまではくれぐれも無茶をしては駄目だよ。君の体はただでさえ不安定なんだ。力を無理に使い過ぎたら、きっと艦生を縮めてしまうに違いない。分かったね?」
登場用語紹介
「気功闘法」…体内に練られた気を扱った攻防一体の闘法。達人ともなれば、気を注入した紙片でもって岩石をまっぷたつにし、体内に張り巡らせた気でもって、自らの体を敵の攻撃を防ぐ鋼鉄の鎧と化したという。所謂じゃんけんで、なぜ紙であるパーが、石であるグーに勝つのかという論争は、古代から連綿と続いているが、明代にその勇名を馳せ、じゃんけんの語源ともなった蛇宇堅がこの気功闘法を身につけており、闘気を張り巡らせた手刀ならば容易に岩を断ち切ることができたからだという考えが支配的である。」
民明書房刊『知られざる気の世界』より