12年のお祝いより先に出たこの言葉。そろそろ本当に引退かと思ってます。
何だかんだ言って、鉄底海峡からの付き合いだからやっているけどねえ、うん。
何かイベント厳しくして、ユーザー離れさせて畳もうとしてんのかなと何度思ったことか。
とりあえず運営さんよ。キラ付け煙幕三重、警戒陣でも当ててくる右の先制雷撃が上手な人ください。
音羽にある金剛の屋敷からほど近いビルの屋上。スマホの画面にじっと目を凝らしていたアトランタだったが、圏外という文字が見えるや、電源を切った。先ほどから何度同じ自動音声を聞いたことだろう。
「まあ、そうだよね」
海軍省内で隠然たる権力を持つ金剛。彼女の本丸とも言える屋敷なのだ。
何か対策がされていて当然と考えるのが普通だろう。
ただでさえ、うちの提督はあちこちでやらかしまくっているために、警戒されている。
それならばと、双眼鏡を掲げて見たが、鬱蒼と茂る木々に邪魔され、屋敷内を伺い知ることはできない。
「こんなことなら、やっぱり二式大艇に付いてきてもらえば良かった」
当初の予定では、二式大艇で屋敷を偵察する案も出ていた。だが、それに難色を示したのが秋津洲だ。
「大艇ちゃんが行くなら、あたしも行くかも!」
と言って譲らず、二式大艇だけを連れて行こうとする提督に抗議した。
「馬鹿野郎。敵の本拠地に行くんだぞ! お前じゃ足手まといだ!」
「じゃあじゃあ、ジャーヴィスや、ジョンストンは? おかしいかも!」
「あいつらは探偵と助手だからいいんだよ」
そうきっぱり提督に言われても駄々をこねる秋津洲の姿に、鎮守府で一、二を争う人格者である二式大艇は自分も残ると意思表示し、結局駆逐艦三人がお供に選ばれた。
「何やっているのさ、全く」
事の顛末を聞き、呆れたように、むくりと体を起こしたのは偉大なる七隻の一人である響。原初の艦娘の生き残り、今は艦娘記念館側でテント生活をしている彼女にとって、アスファルトの屋上の寝心地は悪くはなかった。
「寝てるだけならついて来なくてもよかったのに」
「そう言う訳にはいかない。鬼頭提督と金剛の話し合いを仲介したのは私だからね。彼が何かしでかしたら止めるのが役目さ」
「何かしでかすねえ……」
響の懸念にアトランタはぐうの音も出ない。そもそも、彼女が江の島鎮守府にいること自体が、己の提督がやらかした結果であるのだ。
「そもそも今回の話し合い、おかしいと思っているのさ。君たちの提督がほいほいと他人の言うことを聞きすぎる。何かあると思って然るべきだろう」
「提督も大人になったってことなんじゃないの?」
響は苦笑いを浮かべる。
「彼はそういったものから一番程遠い男だよ。時雨に聞いたけど、艦娘はあれむを作るのが目標だ、などと堂々と公言する人間が他にいるかい?」
「確かに」
「さてと、どうなりますか」
響が軽く伸びをした時だった。
雪風から渡された小型通信機が点滅するのに気が付いたのは。
「ああ、私だ。うん、どうしたんだい雪風」
何かあったのかと問いたげなアトランタを無視し、響はちらりと金剛の屋敷へ目を向けた。
「予想通り、何か起きたって訳?」
「ああ。それも一刻を争うみたいだ。まあ、そうなると思っていたけどね。……うん。すまないが、頼むよ」
通信機を切り、携帯でどこかに連絡をしていた響が顔を上げる。
「だったら最初から付いていけばよかったじゃん……って、それはあちらさんが拒否したんだった」
「そういうこと。まあ、想定内かな」
「OK。それじゃあ、みんなを助けに行かないと……って、オーマイガッド!」
「じゃあ、とりあえず行ってくるよ」
響の体が金色の光に包まれると同時に、ぱらぱらと何かが近づいて来る音に気付く。
「ちょっ、ちょっとちょっと、あんたねえ!」
上空からはらりと下りてきた縄梯子に無表情で掴まる響に、アトランタは顔を引きつらせる。
「The Great Seven Ships are all crazy(偉大なる七隻は皆頭がおかしい)!」
「ты тоже(君たちもね)」
⚓
(けっ。何だ、あの野郎。完全に虚を突かれ、あの猛烈な臭いのを浴びたんだぜ⁉ もっと怒り心頭じゃねえのかよ)
予想とは異なるセルキーの反応に、与作は内心戸惑う。
相手を格下だと侮っている連中ほど、一瞬の隙にしてやられたという思いを強くする。プライドが刺激され、以降の流れをリードするのは容易い。そのやり方でこれまで戦ってきた。
だが、目の前の深海棲艦は違う。
小細工には動じないとばかりに、軽く顔を拭うばかりだ。
静かにとった構えからは、伝わる威圧感。
黒煙を吐き、溶岩弾を降らせる火山。
大地一面を更地と化すきのこ雲。
受けるイメージは天災級。安易に触れることすら許されず、ただただ避けるべき存在。
(ああ、こいつのことだったのか)
与作は内心納得する。
堅牢な扉に、断崖絶壁。今日鎮守府を出ようとする自分を、あの手この手で行かせまいとしていた虫の報せ。人間の第六感とも言うべき危機察知能力が、「出会うな」と伝えていたのは。
(だがよ。鬼畜モンは舐められたら終わりな訳よ)
「こぉぉぉぉぉぉ」
丹田に力を籠め、独特の呼吸法をとる。与作の体から立ち昇る白い闘気にセルキーは目を細めた。
『成程』
「しっ!」
頭部を狙ってのハイキック。返す刀での足元を狙ってのローキック。分厚いタイヤを叩くような鈍い音が室内に響くも、セルキーは微動だにしない。
(ちっ、こいつ。堅砦体功が巧み過ぎる)
セルキーの闘気の壁に阻まれ、有効打を与えることができない。
(なら、一瞬の隙を突くまでだ)
とんとんと、足で独特のリズムをとりながら、脳内信号を送り、かちりとギアを切り替える。
視覚に意識を集中し、意図的に他の感覚を遮断。極限の集中力による超高速移動を可能にする技、神速。モノクロに染まる世界で、高速で動く与作に比べ、ややゆったりと歩くセルキー。
(さらに重ねる!)
灰色に染まる世界の中で、さらに神速を使うことにより、辺りはまばゆいばかりの白一色となる。それは、かつて原初の夕立の戦闘力を再現しようという目論見、艦娘の能力を劇的に上げるモードナイトメア状態のアトランタを破った神速のギアを二段階引きあげたもの。
『出し惜しみはなしか。そのセンス、嬉しいぞ』
少しでも早く動き、相手の虚を突き、堅牢な防御を突破する。
与作の目論見は、しかし驚愕をもって破られる。
「なにっ⁉ ついて来るだと!」
通常ならば、スローモーションのように動いている筈の相手。
しかし、白い空間の中を、セルキーはすたすたと何事もなかったかのように歩いてくる。
「ふざけるんじゃねえ‼」
勢いにのり、ボディーブローを放つも、それをやすやすと片手で受け止められる。
万力を籠めた正拳が、ぎりぎりと締め付けられ、押し返され、与作は焦る。
「てめえ、馬鹿力が過ぎるだろうが!」
『どうした。あがくのではなかったか?』
「くそがっ!」
押してダメなら引いてみろ。ならばと瞬時に力を抜き、つんのめる形となったセルキーの腕を極めると同時に一本背負いでふわりと投げ飛ばし、逆さになったその身体の頭部に下段蹴りを叩きこむ。
鈍い音を立て、床に転がるセルキー。
だが。
『流れるようないい技だ』
事も無げに立ち上がるセルキーの姿に与作は唖然とする。
「せ、千年不敗と言われる連中の技だぜ? 化け物か、てめえ……」
『海を汚し、それでも生き続けようとする愚か者に言われたくはないな。……それより、気付いているか、お前が既に負けていることに』
「ああん? いつ俺様が負けた! まだ戦いは始まったばかりじゃねえか!」
吠える与作を、セルキーは憐れむように見つめる。
『お前は先ほど助けを呼べと自らの艦娘に言った。それは己一人では我に叶わぬと本能的に悟ったからだろう?』
「!」
『出会った時点で理解していたのではないか、人間よ。お前は我に敵わない、と』
「戯言を!」
高速のワンツーから顎を狙ってのアッパーを躱され、反撃の一撃を、
「呼ッ!」
三戦で防ぐも、その衝撃に体が浮き上がり、壁に叩きつけられる。
(くっ。空手の守りの要と言われる三戦立ち、おまけに堅砦体功をした状態で、ここまで食らうだと……)
助けが来るまでの間、いかにやり過ごすか。
与作の思考は今や、そちらに傾いていた。
⚓
事前に交渉ごとがあると聞いていた陽炎型四姉妹は一階の廊下に立ちながら、油断なく邪魔が入らないかと目を光らせていた。
「随分と話が長いね。どうなってんのかな、中。気にならないかい、浜風」
退屈そうにあくびをして見せたのは、谷風だ。金剛の子飼いである彼女たちは元々荒事が専門である。こうして廊下に立ち続ける事など滅多にない。
「気にはなります。なりますが、我々の役目はここの警護ですから」
「いや、私はその気持ちがよく分かるぞ、谷風。どうだ、ちょっと行って覗いて来ないか?」
「何を馬鹿な事を言ぅとるんじゃ、磯風。私らの仕事を忘れたんか? ん? ん?」
「い、いや。忘れてはおらん。だが、気になるものは仕方がないだろう」
磯風の発言に、浜風と浦風がため息をつく。
同じ陽炎型ではあるが、どうも二人は自分たちとは違い、我慢がきかぬ性質らしい。
「ちょいと、二階に上がってみようかねえ。ひょっとしたら聞こえるかもしれないよ」
そろりそろりと階段を上がろうとする谷風を浜風が制した時だった。
突如耳をつんざく轟音がしたかと思えば、荒々しく何かが倒れる音が響いた。
「まさか、姉さん、仕掛けたのけ!?」
来客が多く、敵も多い金剛は、万が一の時のために二階の応接室に艤装を隠している。今回の交渉でも最悪物別れとなり、必要となれば脅して使うと事前に説明されていた。
「こりゃぁいけん。やりすぎじゃ」
「行くぞ、谷風!」
「合点!」
「あ、二人とも!!」
弾かれたように階段を駆け上がった磯風と谷風は、反対側から走ってきた艦娘の姿を見て、反射的に身構えた。
「今の爆発はなんだ!」
「詳しい話は後よ! そこをどいて!」
先頭を走る英国駆逐艦はしっしと手を払う。
「そう言われて、はいそうですかとはいきません!」
浜風は冷たいまなざしを向けたのは、後からやってきた自分たちと同じ陽炎型の駆逐艦に問う。
「雪風、何があったのですか?」
「先を急ぎます。そこをどいてください」
「交渉が不調に終わったというのなら、うちらが相手じゃ」
浦風がずいと彼女たちの前に立ちふさがるや、
「ああもう、じれったいわね! あんたたちの親玉も、うちの提督も早くしないと危ないのよ‼」
米国駆逐艦ジョンストンは堪り兼ねたように大声で叫んだ。
⚓
物心ついた時から、常に命を脅かされていた。
家族と呼ぶような存在はおらず、容姿が醜いと常に暴力を振るわれ、早く死んでほしいと食べ物すら満足に得られない。
「早く死ね! お前なんかいらないんだよ!」
そう言われ、何か虐げられる度に、弱い己が悪いのだと言い聞かせた。
強くならなければ。そう願った時に出会ったのが格闘漫画だ。
生死を賭けたやりとりに、堂々と敵と戦う姿。どんな暴力にも屈しない鋼の意志。荒唐無稽だと笑う者達を尻目に、どうすればこのようになれるかと頭の中でシュミレーションし、体を鍛えた。
繰り返し繰り返し、己の体を痛めつける。
効率的なトレーニングから、非効率なトレーニングへ。
突き詰めた強さへの憧れからくる修行は、一日を三十時間にも感じさせる。
中学に上がり、一切の暴力にも動じなくなった俺様を、周囲は不気味に放置するようになった。地元の不良、やくざ、さらには暗殺者もどき。因縁をつけられ、挑まれたことは星の数ほど。その都度その全てを叩き潰し、世界中の武術を学ぶため旅を続ける中、俺様はようやく出会った。漫画の中に出てきた能力をいかにして身に着けるか、究極の目標の答えに。
(ありゃあ、そう。確か、サハラ砂漠で迷っちまってオナ禁が10日なろうかって時だったな)
灼熱の砂漠では水分が惜しい。そうした行為の分まで溜めておく必要がある。
だが、普段一日に二桁は行っていた習慣が途切れると、途端に体はそれを欲するようになる。
「けっけっけ。こうなりゃ死んでもいい。思い切りぶちまけて、サハラ砂漠を汚してやろう」
そう考えた俺様は、人生最高最後のオナニーをするために意識を集中する。
何をおかずにするか。アイドル? がきはいらねえ。AV女優? 最高とは言えねえ。
現実には会えねえ奴だ。そう、実際には誰も相手にできねえのがいい。
脳裏に浮かんだのは、当時流行っていたエロゲーの登場人物。
主人公の義母みたいな立ち位置。その青い髪と大人の女の魅力で俺様一押しのヒロイン。
「あいつと一発やるのはいいかもなあ!」
意識を集中し、イメージする。脳が揺れ、鼻血が垂れる。だが、構わねえ。
ぼんやりと形作られていく肉体。だが、足りねえ。バ〇でも言ってたじゃねえか。イメージが大事だってよ。だから、俺様はさらに深く深く目を凝視する。脳を揺らし、“いる”と思わせる。
吹き出た鼻血も鼻汁もとっくに渇き、干からびるかと思った寸前だった。
俺様の目の前にまっ裸の美佐子が現れたのは……。
(けっ。走馬灯かよ。冗談じゃねえ)
倒れ伏した己に対し、尚も油断せず、構えをとるセルキー。陽炎のように立ち上るその闘気に与作は身震いする。
これまで想像の中で幾度も拳を交えた数多の最強たち。
伝説の虎殺しに、合気の体現者。
地上最強の生物に、歴史に名を残す大剣豪。
彼らとの戦いを経たからこそ、分かる。
歴戦の勇士たちですら、霞ませるほどの圧倒的な格。
生物として、人間の上位であることを誇示するかのようだ。
『終わりか?』
「けっ。鬼畜名言集曰く、『往生際の悪さで鬼畜モンの格が決まる』って言葉を知らねえのか。勝手に終わった気になってるんじゃねえよ!」
立ち上がった瞬間、ヒュンヒュンと上半身を無限大の軌道で動かし、遠心力を使って反動でのパンチを左右から連続で叩き込む。
闘気がのったデンプシーロール。鉄をも穿つその破壊力を受けても、セルキーのガードは揺らがない。
何十発パンチを繰り出したか。
右からのパンチを振り抜こうとした瞬間、セルキーの拳が眼前に迫る。
『ふっ』
「カウンターだと⁉ ちいいいいっ!」
「鬼頭提督!」
榛名の悲鳴が上がる。
そこへ。
「させないよ」
窓ガラスを割り、飛び込んできた影が、セルキーを蹴り飛ばした。
登場用語紹介
神速……御神流の奥義の歩法。集中力を高めての超高速移動を可能とする。とらいあんぐるハート3はお勧め。2は神。
堅砦体功……気功闘法により、身体を鋼のように強化する防御技。
三戦立ち……空手の守りの型。完璧になされたときにはあらゆる打撃に耐えると言われている。
千年不敗の一族……最近異世界に渡ったともされる、平安時代に大江山の酒呑童子を相手に死合ったとされる一族。指弾で、銃と渡り合う。
美佐子……今は亡きelfの大人気ヒット作「同級生2」に出てきたヒロインの一人。どう考えても義母でいいのに、なぜか父親の教え子で連れ子までいて、さらには未亡人で主人公の父親にほのかに恋心という属性てんこ盛りの人。ちなみに与作の次点は佐和子。実は旧グラの方が好きで、リメイクのお姉さん感が嫌で御蔵入りしているため、何これグレカーレが書けなかった模様。