「ん!?起きちまったのか。ねーちゃん。起こして悪いな。」
「んーん。大分前から起きてたから。ニコニコ電話相談室辺りからねー。」
おうおう、このねえちゃんの三つ編み時雨みたいだな。思わず引っ張りたくなるぜ。
「おじさんの台詞、昔あたしが散々言ってたことだったから思わず笑っちゃったよ。」
「駆逐艦がうざいって台詞か?お前さん艦娘なのか?」
「元ね。色々あって引退して今は別なことしてるけど。北上って知ってる?」
「ああ。ハイパー北上様か!!そいつはすげえな。艦娘型録でもお前さん達の活躍は載ってるぜ。」
「そう言われると照れるけど、昔の話だしねー。今はすることもなくぶらぶらしてるよ。」
そう言うと、北上は乾いた笑いを浮かべる。
「ねえ、おじさんってしたいことある?あたしはないんだよねえ。艦娘引退する前は色々あったんだけどね。あちこちふらふらしてたら無くなっちゃった。」
「ふん。愚問だな。俺様の目的は艦娘ハーレムを作ることだ。そのために提督になったんだからな。」
「何それ。元艦娘のあたしの前で言う?」
「構わん。お前さんは範囲外だ。ただ安心しろ。範囲外だろうと俺様は紳士だ。」
ぷっと北上が吹き出す。どこに笑う要素があるかわからん。
「随分上から目線じゃん。あたしたち艦娘をどう思ってんのよ。」
「ムラムラする女に決まってるだろ。」
「あたしたちは艦娘だよ?人間とは違うんだよ!?道具だ化け物だっていう人もいるのに。」
なぜか北上がヒステリックに叫ぶ。なんだ、こいつ。俺様の発言が癇に障ったのか?
「そんなもんはお前たちが勝手に決めた物差しだ。俺様には関係ないね。ムラムラすれば、相手が幽霊だろうと誘うし、隙あらばどんな手を使っても落としたいと思う訳よ。」
「年をとらないあたしたちが怖くはないの?ずっと若いまんまだよ。成長しないしさ。」
「お前バカだな。人間の女が一番求めてるもんじゃねえか。永遠の若さってことだろ。うらやましいね。俺様が年老いても介護を頼める。」
「何それ、寄りかかる気まんまんじゃん!」
けらけらと笑う北上。釣られて俺様も笑う。
「いい女に老後の面倒を見てもらい、最後を看取ってもらう。最高じゃねえか。」
「ふうん。てことはおじさんの鎮守府ハーレムとやらの計画は順調なの?」
こいつ・・。どうやらお前も俺様の触れてはいけない部分に触れちまったようだな。聞かせてやろ
う。俺様の聞くも涙な鎮守府ライフを!!
「んで、だな、この時雨ってのが・・・」
「雪風の野郎はいつまでたっても恰好を変えずに・・・。」
「この間もグレカーレの奴、逆ルパンダイブとか言って人の寝室に飛び込んできやがって・・。」
俺様の語る鎮守府ライフがツボに入ったのか、声を上げて笑う北上。おいおい、涙まで流すことはないだろ。俺様は本当に困ってんだぞ。何が悲しくて駆逐艦どもの保父さんをやらにゃならんのだ。可哀想過ぎるだろ!
「まあ、確かに駆逐艦はうざいよねー。」
「その発言には百パーセント同意だな。特に最近建造されたグレカーレの奴がかまってちゃんすぎてな。俺様の静かな妄想の時間が脅かされている訳だ。」
「ふふっ。その妄想ってどうせエロいこと考えてるんでしょ?」
「当たり前だ。」
「息を吸うようにスケベなこと隠さないんだねー。あたしはよく分からないんだけど、普通そういうもんってさー、隠すもんじゃないの?」
「そういう連中はムッツリといってスケベ界では格下だな。俺様のような一流になると隠す必要など感じない。」
「え?それってさっき言ったおじさんの守備範囲内の人にもそうする訳?」
「当たり前だ。どこの世界に美人でムラムラする相手にムラムラすると伝えないアホがいる。それは相手に失礼だ。」
「お前は範囲外ってのもかなり失礼だけどねー。」
「ふん。俺様は伝えたいことを伝え、やりたいことをやる人生を送るのさ。そしたら死ぬとき後悔しないだろう?」
「ああ。後悔は嫌だもんね・・。」
北上はポツリとつぶやくとベンチの下からリュックサックを出した。何だ、色々入っているが、それは・・・スケッチブックか。
「あたし、洋服のデザインが好きでさ。」
ぱらぱらとめくられた中には色々な衣装のデザインが描かれていた。なんだ、こいつ。したいことがちゃんとあるじゃないか。
「正確にはしたかったことかねえ。元々デザイン始めたのだってあたしの姉妹、一人を除いて洋服に頓着しなくてさ。あれこれ着せたいって思ったからなんだ。でも、その姉妹はもういない・・。以前の戦いでみんな先に逝っちゃった・・。」
「・・・・」
「一人になったらデザインする気がなくなってね。何度やろうとしてもダメだったんだ・・・」
スケッチブックを持って北上は肩を震わせる。なるほどなあ。姉妹のためにと頑張ってやってきたが、その対象が亡くなってやる気が絞んじまったてことか。だったら答えは一つだろう。
「はは。あたしったら、何で初めて会った人間にこんなこと言ってんだろ。デザインなんてもうどうでもいいのにさ。」
仕方がねえからこいつの背中を押して崖から突き落としてやるか。
「そんならデザインをやめりゃあいいさ。姉妹たちがいなくなってできなくなっちまったんならその程度ってことだろ。無理して続ける必要はねえ!!」
「わっ!?」
俺様の気合に驚く北上の手元から落ちるスケッチブック。素早くそれを掠め取り、距離をとる。後はこれみよがしにライターをちらつかせて、と。
「ちょっ!返してよ、それはあたしの大切な・・・」
「燃やせばいいさ、こんなもの。ちょっと姉妹が亡くなったくらいで止める代物だろ?」
「ちょっと・・。」
おいおい。こいつ本当に引退しているのか。いい感じに空気がぴりつくじゃねえか。ゆっくりと立ち上がる北上の後ろに陽炎みたいに気迫が揺らめいているのが見えるぜ。これがかつてハイパー北上様と呼ばれた艦娘の放つプレッシャーかよ。
「会ったばかりの人間が、あたし達のことをよく知りもしないで勝手言うなよ。」
「そんな会ったばかりのおっさんに愚痴ったアホが言うことか?お前の姉妹はアホぞろいなのか?」
「訂正しな、おっさん。今ならまだ謝れば許してあげるよ。」
「俺様の話を聞いてなかったのか?やりたいことはやるし、言いたいことも言うんだよ!」
そう言って俺様がライターを着火させようとした時。一瞬にして距離を詰めてくる、北上。
「こいつ!速い!!」
かちりと。ギアを入れ替えて、世界は灰色に包まれる。掴みかかろうとする北上も当然スロ―モーションになる筈・・、がならないだと!バカな、元艦娘の癖に神速の領域に足を踏み入れてやがるのか!おとりの左フックでライターを叩き落とされ、本命の右ストレートが来る!!!
「雷巡北上様を、なめるなあああ!!」
「ちいいいいいいい!!!」
ばきいい!!!電光石火の右ストレートを喰らいうずくまる俺に無慈悲に近づく北上。
「ぐううう・・・・」
「元と言っても艦娘が人間を大怪我させたとあっちゃ、色々面倒くさいことになるんでね。ましてや提督を傷つけたとなれば大問題だ。悪いがここで消えてもらうよ、ごめんね。」
いまだスケッチブックを放さぬ俺に最後通牒のように言って聞かせるのは余裕からか。
「さあ、スケッチブックをよこして。天国でハーレムを作るといいよ・・。」
無造作にこちらに手を伸ばしてくる。それが・・・
「油断だとも知らずになあ!!」
パシィッ!
「えっ!!」
ぐるん!北上の身体が一回転して地面に叩きつけられる。
「ぐ・・、な、何今の・・・そ、それにあんた、あたしの一撃がきいてないの・・」
「俺様の妄想力は無限大だ。妄想の中で散々修業したからなあ。消力だの合気だのと色々と教えてもらったさ。」
渋川先生も郭海皇も容赦がねえからな。何度血反吐を吐いたかわからねえ。
さてと、俺様は紳士だが、敵なら女だろうとガキだろうと容赦しねえ。倒れたままの北上に一発重いのをくれてやる。どすんとな!っと。
「がふっ!ひゅー、な、ひゅー、に、こ、れ、・・」
「いくら艦娘だって、艤装を置いたら人間と同じような体の作りになるって聞いたぜ。みぞおちに一発。結構きくだろう?・・よいしょっと。」
そのまま自由の利かない北上の両手を愛用のロープで縛り、ベンチの足にくくりつけて、俺は奴の腹にどすんと腰かける。へえ。結構肌すべすべだな、こいつ。
「さてと。覚悟はできてるよな。お前は俺様を消そうとしたんだからなあ。何をされて文句は言えねえぞ。」
さっと顔を青くする北上。ははあ。こいつ負けると思ってなかったな。たかが人間と侮ったのがお前の敗因だ。両手をじたばたさせながら逃げようとするが、俺様は体重をうまくかけて逃さない。
「さてと、とりあえず気を落ち着かせるために・・揉むか。」
「!!」
もみもみもみもみもみ。北上様のパイ乙はささやかではあるが、貧乳ってほどじゃねえ。ほどよい弾力でいくらでも触っていられる。
「ふう、落ち着くな。揉むのが飽きたらこいつは燃やしてやるからさ。」
「や、や・・」
片手でおっぱいを揉み、片手でスケッチブックをめくる器用な俺様。
「ふんふん。お前すごいんだな。素人の俺様が見てもすごいなって思うぞ。」
「ぐ・・う・・」
「でも、そんな才能とも今日でお別れかあ。ま、しょうがないよな。他人の大事なものをとろうとしたんだから、てめえの大事なものを取られる覚悟はできてる筈だ。」
「!!、や、め、て・・」
ほお。さすがは元艦娘。もう呼吸が戻り始めてやがる。
「やめても俺様には何の得もない。」
「あ、た、しを好きにして、い、い、から・・。」
「俺様の範囲外だからなあ、お前。胸は揉むけど。」
ってか、こいつ興奮してきてね。ち○び立ってきてんぞ。
「艦娘は人間じゃないとか言ってしっかり興奮してるじゃねえか。まあいい、このままだとご褒美になっちまうからな。」
名残惜しいが胸から手を放し、スケッチブックを丸める。
「よく考えたらライターはお前に飛ばされちまったし、このまま一思いに破り捨ててやるよ。本望だろ?姉妹のためにデザインしなくていいんだぜ?」
「やめて・・・。」
じたばたともがく北上だが、この程度じゃ抜けるのは無理だ。伊達に猪熊滋五郎じいさんと寝技特訓してねえぞ。あのじいさん、ちょっとでも隙見せるとあっという間に関節決めてきやがるからな。
「やめねえ。」
「やめてよ。」
「いやだね。」
ぐっと俺様が両手に力を籠めるや、
「やめてよー。お願いだよー。それは、あたしの生きがいなんだよー!!」
遂には幼稚園児のように北上は泣き出した。
「ふん。」
ポカリとその頭を小突く俺様。
「痛っ!え?何・・」
「ようやく認めたか。手間かけさせやがって。」
丁寧にスケッチブックを元に戻す。折り目がついたらあれだからな。ベンチの上に置いておこう。
「どういうこと・・。」
何が何だかわからないとぽかんと口を開ける北上。
「あのなあ、北上。姉妹のためにデザインやってる奴が、デザインをなんてどうでもいい奴がそんな怒る訳ないだろ?」
「・・・。」
そう。こいつ、最初に自分で言ってたじゃねえか。姉妹の服をデザインするのが好きって。それは姉妹のためじゃない。自分がそうしたいからそうしているだけだ。
「お前はお前のためにデザインしてたんだろうよ。姉妹が亡くなってモチベーションが保てなくなったんじゃねえか。それを姉妹のせいにされても死んだ連中が浮かばれねえぞ。ようはお前が新しいモチベーションの対象を見つけられなかっただけなんだからな。」
「うっ・・・・」
大体、こいつのデザイン。今どきの若い女がよく着ているハイセンスブランドっぽいのもあれば、結構際物っぽいのも多い。雷巡木曾に普通ゴスロリは着せんだろうよ。大方こいつの姉妹もこいつに合わせて付き合ってやってんだろうな。いい姉妹じゃねえか。
「何~がデザインする気がなくなった、だ。やる気が湧かないだ。本当に好きならのたうち廻ってもやり遂げるんだよ。」
「・・・そうかも。・・才能がないのかもね・・。」
「あん?お前にないのは根性だろ!?才能を言い訳にするんじゃねえ。」
これをいうと根性論者と言われちまうがな。どんなことでも才能がある奴とない奴はいる。ただ、才能がない奴に好き勝手言う奴が俺は大嫌いなのさ。
「どうしてさ。才能ないのに続けてたらその子が不幸になるかもしれないじゃんか。」
「余計なお世話。」
「なんで!!」
「余計なお世話なんだよ。そいつが好きでやってんだ。周りがどうこう言う問題じゃねえ。不幸上等じゃねえか。そいつが選んだ道だろ?本人が失敗しようが、その結果地獄に落ちようが責任をとるのは本人さ。」
才能がないと言われた連中は、指摘してくれた奴らに礼を言い、道を違えていくだろう。ただ、そういう奴の何人かはこう思う。あの時ああすればよかった、ってな。
「お前本当はデザイン止めたくねえのさ。ただ根性がないからふらふらしてるだけなんだ。やめたきゃやめな。続けたきゃ続けな。決めるのはお前だぜ。」
立ち上がり、北上の手の拘束を緩めてやるが、寝転んだまま起きやしねえ。ふん。俺様の柄にもない説教が効いちまったかな。軽く伸びをした後体をほぐす。久しぶりに運動しちまった。やっぱり最近なまってやがるな。保父さん生活が長かったせいかもしれん。
「・・ホント、好き放題だよね。あたしより年下のおっさんがさ。」
もういい加減立ち去ろうとすると、北上がぽつりとつぶやいた。
「艦娘は見た目じゃないってか?お前の大嫌いな駆逐艦どもの台詞だぞ、それ。」
「ハイパー北上様に根性がないだって?正気で言ってんの?」
ゆっくりと立ち上がり俺様を見据える北上。ふうん。いい目じゃねえか。さっきまでとは全然違う。
「そんな薄汚れたジャージ着ちゃってさ・・。身だしなみ最悪じゃん。」
「ふん。これは俺様の戦闘服だ。お前にとやかく言われる筋合いはない。」
やれやれと肩をすくめると、北上はにっこりと微笑んだ。
「仕方がないからこの北上様がデザインしてあげるよ。おじさんでもまともそうに見える服。」
失礼な奴だな。俺様は元々まともなのだから、まともそうに見える必要はないぞ。
「いいからいいから。こう見えてもあたし、少しは名が売れてるんだからさ。」
「別にいらん。それにお前の胸を揉ませてもらったからな。それでチャラにしてやろう。」
「ああっ!!そうだ。普通に通報案件じゃん。すごいなおじさん。」
「何を言っている。お前こそ俺様を亡き者にしようとしただろうが。そちらの方が危ないだろ。」
「確かに。そんじゃ黙っといてあげるから、おじさんも黙っといてよ。」
「・・また胸を揉ませるというならそうしてやろう。」
俺様の言葉に北上がにやにやと笑みを浮かべる。
「あれあれえ?あたしは範囲外じゃなかったの?」
痛いところを突く。確かにそうは言ったが、こちらも背に腹は変えられねえんだ。今はまだ俺様は試用期間中。この間に風俗の利用等市民の信頼を損ねるようなことをしたら、また提督養成学校に逆戻りらしいからな。それに他にも理由はある。
「毎日駆逐艦の相手ばかりで気が狂いそうでな。比較の問題だ。別に嫌ならそれでも構わん・・って、あいつらもう嗅ぎ付けやがったか!」
見ると公園の入り口に止まったタクシーからお子様二人が出てきている。なんだ、あれ。どこでメガホンなんか買いやがったんだ。
「テートクゥー。お前は包囲されているーー。神妙に出てこーい!!」
「出てこーい!!」
あいつら完全に銭形警部になりきってやがんな。あー、めんどくせえ。
「な!駆逐艦はうざいだろ?」
「うん。本当にうざいわー。ご愁傷様。」
すごい勢いでこちらに向かってくる二人に背を向けて俺は走り出す、
「あばよー。銭形のとっつああん。」
「待てー!テートク!」
「逃がしませんよー!!」
あいつら随分楽しそうだな。鬼ごっこしてるつもりなのか?だったら俺様は負けられねえな。
「そんじゃな。達者で暮らせよ。」
「あ、ちょっと、待ってよ!」
何か声を掛けられたがそんなの俺様には関係ない。ん?あいつ、雪風達を呼び止めて何か話してるぞ。足止めしてくれてんのか?ありがてえ。
「ちょっと、逃げられちゃう!!」
「追いかけましょう!!」
けけけ。北上の野郎やるじゃねえか。お陰であいつらを撒けそうだぜ。さーて、とんだ道草を食っちまった。さっさと金太郎にでも行くかなあ。
登場人物紹介
与作・・・・なぜか行くところ行くところにやって来る二人から逃げているうちに約束の集合時間になり、無念の涙を流す。
雪風・・・・与作の行く場所行く場所をなんとなく勘で当て、グレカーレに褒められたため、名探偵雪風も悪くないかと考える。
グレカーレ・北上に欲しい服を訊かれボンテージスーツと答え、爆笑される。
北上・・・・与作が忘れていったライターをリュックサックに入れると、タイミングよく現れた大井と会社に戻る。
大井・・・・実は一部始終を見ており、与作のことを社会的に抹殺しようと目論むが、あらかじめ北上に釘を刺されたため、歯ぎしりする毎日。