鬼畜提督与作   作:コングK

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若干長いです。
屋代が出ません・・。他の海防艦。特に対馬はなぜかやたら出るのですが・・。


第十二話「与作うろたえる。」

俺様がこの江ノ島鎮守府に着任してからちょうど十日。煩雑だった倉庫を整理し、書類の山を片付けてようやく通常の鎮守府としての運営が可能になった。散々要望しているのにも関わらず、なぜかいまだ給糧艦間宮も工作艦明石も任務娘と呼ばれる大淀さえも着任していないが、幸い妖精がいるために入渠ドックは普通に使える。そのため、雪風、グレカーレと話し、鎮守府近海の深海棲艦の動向を探るため、出撃しようという話になった。

 

「雪風、いつでも出撃できます!」

「イタリア水雷魂、見せてあげるわ!」

 

艤装をつけ、海に繰り出す二人。さすがに艦娘だけあって海に出るってことは特別なんだろう。二人とも陸にいるよりも生き生きしてるな。まあ、俺様は別な意味でウキウキしているんだがね。だってそうだろう?出撃している間はあいつらがいないんだぜ?やたらまとわりついてくる雪風とやたらとしゃべりかけてくるグレカーレ。お子様が大の苦手の俺からしたら苦行のようなもんだ。

もんぷちはどうしたかって?当然羅針盤妖精上がりのあいつには二人について行ってもらったさ。

二人の面倒を見てやってくれだのだまくらかしてな。

『私の腕の見せ所ですね!』

上機嫌で出て行った当の本人はモニター越しにこちらに向かって猫をぶんぶん振り回している。

おいやめろ、猫がかわいそうだろうが。ところで、これどうやって映ってるんだ。普通無線とかじゃないのか。

『妖精の撮影班がいますから』

なんでもありだな、お前ら。

「とりあえず雪風にグレカーレ。お前たちの使命は鎮守府近海の警戒だ。いくら深海棲艦に無視されるような弱小鎮守府とはいえ、横須賀鎮守府は目と鼻の先。敵の先遣隊やはぐれ深海棲艦がいるかもしれない。十分に気をつけろよ。」

「「了解!!」」

威勢よく返事をする二人。くくくっ。疑うことを知らぬお子様はいいねえ。なぜ、俺が急に出撃しようと言い出したかも知らずに。

 

「二人とも、せっかくの出撃中悪いがちと席を外すぞ」

さりげない俺の言葉に不満を露わにするグレカーレ。

「ええーーっ。あたしたちの活躍、目に焼き付けてよお。」

こいつどれだけかまってちゃんなんだ。しつこく食い下がるグレカーレに一言お花を摘みに行くと話すと、途端に顔を真っ赤にしてこくりと頷いた。隣で意味が分かってない雪風が花なら後で自分が摘んであげると口を挟むが、すかさずグレカーレに小突かれている。

「んんっ・・。ゆ、雪風、そういうことじゃないのよ。後で教えてあげるから、とりあえずしばらく提督は放っておきましょう。」

「すまんな、グレカーレ。何かあったら緊急通信を寄こしてくれ」

「了解。」

 

しれっと執務室のモニター前から離れ、隣にある提督用の私室に向かう俺、解放感満点。そりゃあそうだよなあ。およそ一週間ぶりのオナニーだ。提督養成学校時代はひたすら禁欲し、オナニー回数も減らしたし。卒業してすぐやろうとしたのに、肝心のエロ本をあのバカ時雨が抜きやがった。そもそもこの俺がここまでオナニーを我慢したのもあの野郎が初顔合わせの時に鼻をひくつかせながら、

「あれ、何か臭わないかい?」

などとほざいたからだ。女は臭いに敏感だと聞いた俺様は、前日ファブリーズやらなんやらをして、風呂に入り、下着も変えた上でそう言われたもんだからパニックになるしかなかった。以来一年とちょっと。

 

「ようやく、待たせたな。我が息子よ。」

 

もう我慢できないといった感じで興奮気味のマイサンを優しく落ち着かせながら、今日の贄を用意する。先日KUMAZONで買った『留美子35歳。疼く人妻の身体』のDVDとPCゲーム『茂作 ~ド田舎調教編~』。こいつを手に入れるまで本当に大変だった。ただでさえ、俺様の周りには駆逐艦、憲兵の爺、妖怪もどきがうろついているのだ。タマネコ宅急便の配達を近所のコンビニにしてもらい、買い物ついでにそれを引き取ってくるという荒業でようやく俺の手に渡ったのである。

 

「長かった。本当に長かった。」

思わずDVDを手にしながら感涙に咽んでしまったね。でも、仕方ないぜ。一年もオナニーを週一回などと我慢してればそうなるって。途中俺は仙人になるのかと思ったもんだ。

 

「よし、それでは鑑賞会といくか。」

どちらにしようかと悩んだ末、『留美子35歳。疼く人妻の身体』を選択する。茂作じゃすぐ終われないからな。恋愛もの系のうざったいテキストは全てスキップするが、茂作などはがっつり読んで色々と参考にしなきゃいけねえ。出撃しているあいつらには悪いが、これも体調管理の一環だ。うんこがなかなか出なかったとでも言えばいいだろう。それでは、DVDを入れて、再生をぽちっとな!

――ザ―――ッーーー

 

砂嵐。一面の砂嵐。あれえ、何で何で。ケースは間違ってないよなあ。まさかカス掴まされたのか。よくある外側だけで中身はないってやつか。って、なんだ、急に画面が映ったぞ。机なんか置いてあるが、学園ものか?間違えたタイトルの物を買っちまったかな。に、してもあの机、見覚えがあるが・・。

『あ、映ってる?ありがとう、夕立。やあ、与作。久しぶりだね。』

突如画面に現れたセミロングの黒髪の艦娘。後ろで編んでいる三つ編みを何度引っ張ってからかったか分からない。

「な、何でお前が・・・。」

おいおい。どういうことだ?中身をすり替えやがったのか。俺様の待望のDVDはどこへ行ったんだ。

『驚いているかな?驚いているよね。だって久しぶりに僕の姿を見るんだもの。』

違う!俺様が驚いているのはDVDがないことだ。かまってちゃんなお前のことじゃねえ!!

 

『僕だって驚いたよ。まさか、与作が僕を初期艦に呼ばずに雪風を初期艦に呼ぶなんて。』

 

うわー、こいつメタいこと言ってんぞ。自分を呼ばなかったから許せないってか。俺は一度もお前を呼ぶなんて言ってないんだがな。勝手に期待して勝手に切れる典型的なメンヘラ女だな。養成学校にいたころからやたら面倒くさい奴だと思っていたがやっぱりだ。

 

『しかも、ひどいじゃないか。なんで僕がせっかく忘れないようにと入れておいた書類を電車の中に置き忘れてくるんだい。』

おいおい。勘違いするな。ひどいのはお前だぞ。俺のお宝であるエロ本を抜きやがったお前には殺意しか湧いてねーぞ。あれで俺は一年ぶりの誰にも邪魔されぬ解放感溢れるオナニーを夢見ていたんだぞ?どれだけのわくわく感を抱いていたと思う?全俺に謝れや!

 

『こんな不健全な本、与作には必要ないと思ったから抜いておいたのに。そんなに必要なのかなあ。慣れで持っているだけじゃないかなあ。そうだ、僕が処分しておいてあげるよ。』

 

おいおい。あの机の上の本、見覚えがあるぞ・・。っていうか、全部俺のじゃないか。提督養成学校入校時に隠し持ってきたお宝本だぜ!おい、バカ時雨。それをどうしようっていうんだ。とにか

くそいつから手を放せ。

 

『どう処分したらいいかなあ、どう思う、夕立?』

カメラが微妙に揺れる。ああ。撮影役が夕立なのか。

『うぇっ!?・・ゆ、夕立はゴミ箱にぽいと捨てればいいっぽい・・・』

おい、どういうことだ。ソロモンの悪夢、駆逐艦最高火力を誇る狂犬が、すっかりびびってるぞ。

『うん、それもいいね。・・でも、ゴミ箱だと誰かが拾うかもしれないから燃やしてしまうのがいいと思うんだ。』

『燃やすって焚火でもするっぽい!?お芋さん、焼くっぽい!』

『提督養成学校の庭で焚火はまずいよ。それにこんなものを焼いてできた焼き芋なんて食べたくないだろう!?』

「ばっ、バカ!こんなものってなんだ!ふざけるな。それは俺の青春のメモリーが詰まった一騎当千の抜き本だぞ。って、おい。何だ、そのドラム缶は!」

『ふふふ。今、与作はこのドラム缶について考えてるね!?安心してくれていい。こいつは中身が空なんだ。だから、この本を入れて燃やしても。周りには燃え広がらない。』

「そういうことを言ってるんじゃねえ。そいつから手を放せ!」

 

あ、本をドラム缶の中に投げ入れやがった。

 

『ああ、与作の声が聴こえるよ。必死に燃やすなと言っているね。でも与作が悪いんだよ。僕が、この僕がせっかく与作の初期艦になるって言ってあげたのにそれを無視するから。』

あんのくそ駆逐艦があああ!こんなDVDなんてどうでもいい。すぐさま時雨に電話だ。もし燃やしていたらがきんちょ駆逐艦だろうと関係ねえ。ぶん殴ってやる!

 

プルルルル!

 

「もしもし、時雨か!?俺様のエロ本は無事か!」

ん?何だ、無言だぞ?

「・・・この電話はペア艦を大事にしない提督からの連絡は受け付けていません。もう一度胸に手を当てて、ペア艦へのこれまでの態度を悔い改めながらお電話ください・・。」

がちゃり。切りやがった。機械みたいな声をするときは時雨が本気で怒っているときだ。あの野郎、この間の仕返しか・・・。全くいい性格してやがる。

お前のそういう所が俺様は苦手なんだよ

 

プルルルル!おっ。また無言でやがる。全く面倒くさい奴だ。

「胸に手を当ててみたが、ペア艦への態度で悔いることなんざないぜ。いい加減普通に電話に出やがれ。さもないと養成学校時代のお前の恥ずかしいエピソードを雪風達にばらすぞ。」

「・・・・。」

「(鼻声)いいよお~、何でも聞いてよぉ~」

「ぶっ・・・。」

電話の奥で時雨が吹き出したのがわかる。よし。勝ったな。

 

「これだけじゃないぜ。他にも・・」

「全く与作らしいね・・。その態度のぶれなさはある意味感心するよ。再会の挨拶よりも先にスケベな本の心配だなんて。随分とつれないじゃないか。そんなにこれが心配なのかなあ。うふふ、ねえ、与作、君の大切な本、どうしたと思う?」

 

これだよ、こいつの性格の悪さ。普通の駆逐艦がどうしたと思う?なんて聞かねえだろう。素直じゃねえ。だが、曲がりなりにもこいつと一年組んでたんだ。その性格は分かってる。

 

「無事だな。今お前はこれって言った。手元に本が無ければこれとは言わない。」

「へえ、鋭いね。でも、こげかすを持っているのかもしれないじゃないか。断定はできないよ。」

「いや、できるね。」

「なんでさ。見てもいないのに。」

電話越しで時雨が小さく笑う。仕方ない、鬼畜な俺には似合わないがエロ本のためだ。

「お前はそんな奴じゃない。どんなに自分にとってくだらないものでも相手がそれを大切にしているのを知ったら酷いことはしない。」

「これはまた信用されているんだね、僕は。嬉しいじゃないか。でも、僕に酷いことをした与作に仕返しで酷いことをするかもしれないじゃないか。」

「ふん。そうしたら、俺様がお前を見損なうだけだ。一年間お前を見てきた俺の目が曇ってたってことだな。」

静かにそう断言すると、時雨はふうとため息をついた。

「見損なわれるのは嫌だね。・・・確かに君の言う通り、まだ本は燃やしてないよ。」

やはりな。こいつは賢い。強硬手段に出ても、気が晴れるだけで自分にとって得にならないことを知っている。

「要求は何だ。初期艦は無理だぞ。」

「分かってるさ。さすがの僕も雪風を解体しろだなんて言わないよ。」

 

時雨曰く、とにかく一度この江ノ島鎮守府に遊びに行かせろとのことらしい。何でも提督養成学校の艦娘には厳しい外出制限があり、それぞれの鎮守府に行くにもその提督の了解が必要なのだという。

「分かった。書いてやるから書類を送れ。ってかその時に本とDVDを一緒に送れ!大体お前どうやって、俺様の注文からDVDを抜き取りやがったんだ。犯罪だぞ!」

「嫌だよ。その二つを送ったら書類は送らないじゃないか。それと、DVDは知り合いに頼んですり替えてもらったんだよ。」

 

ちっばれてやがる。本当にこいつは変に頭が回るな。それに何だ、知り合いって。人の注文を勝手にすり替えてるんじゃねえ。タマネコ宅急便にクレームを鬼電してやる。

「だから、直接書いてもらうよ・・って、ここかな?」

 

ん?なんだ、隣の執務室で物音がするぞ。グレカーレ達からの緊急通信か。くそ、今忙しい時なのに。

「なんだあ、何があったんだって、うおっ!」

さすがの俺様もびっくりしちまったぜ。なぜなら、そこにはひらひらとこちらに向かって手を振る元ペア艦の姿。

 

「はあい、与作。久しぶりだね!」

なぜおまえがそこにいる・・・。一体どこから入りやがった。って、憲兵の爺なら駆逐艦ってだけですんなり通しそうだな・・。

「なぜ?与作に会いに来たに決まっているじゃないか!」

さも当然といったように笑顔で応える時雨。違う、そうじゃない。話が早すぎるんだよ。というか、なんで急にやってくるんだこの野郎。お前分かってるのか。俺様が今日この時間を作るのにどれだけ大変だったのか。俺様のわくわくお楽しみタイムを返せ!!

 

 




登場用語紹介

KUMAZON・・・・艦娘球磨がCEOを務める日本発祥の通販サイト大手。キャッチフレーズは『意外に使えるKUMAZON』
タマネコ宅急便・艦娘多摩が社長を務める日本の宅配便事業を担う企業。KUMAZONの配送を一手に引き受けている。特に生鮮食品の配送に強い。

登場人物紹介

与作・・・さすがはKUMAZONだぜ、品揃えが豊富だなとわくわくしていたが、時雨のせいで期待がしぼみ、おかんむり。
時雨・・・度重なる与作の仕打ちにおかんむり。「激おこ時雨さんだよ」と話す。
雪風&グレ&もんぷち・・鎮守府での戦いなどどこ吹く風だが、嫌な予感がしてたまらない。



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