鬼畜提督与作   作:コングK

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ようやく掘り終わりました。今回のイベントを振り返ってみて一つ言いたい。
「先制雷撃してくる駆逐ナ級許すまじ!!」


第十三話「時雨(前)」

駆逐艦時雨。白露型の2番艦。呉の雪風、佐世保の時雨と謳われた幸運艦。かの有名な西村艦隊の一隻。そして、とにかく面倒臭い俺様の提督養成学校時代のペア艦。

 

「やあ、また会えたね。」

そう言いながら、余裕たっぷりにソファに腰かける時雨。いちいち態度が小憎たらしい。

 

「何がまた会えたねだ。このくそ野郎。どうやってここまで来たんだ。」

「普通に電車だよ。誰かさんが網棚に重要な書類を忘れてきた電車を使ってね。」

「ふん、何が重要なもんか。俺様のエロ本を抜いた罰だ。さっさと返せ!」

「わかったよ。でも、その前にこれを書いてよ。」

他人の青春のメモリーを奪っておいて、何を悠長な。何々提督養成学校所属艦娘外泊許可書だと?

 

「宿泊を伴わない場合や一般の外泊なら僕だけの申請でOKなんだけど、鎮守府に泊まるとなると相手方の提督の許可が必要らしいんだ。」

「外泊だあ?うちに泊まるつもりなのかよ。なんで?」

「与作と話したいじゃダメかい?後は雪風や海外艦のグレカーレとも話したいしね。」

「分かった、分かった。さっさと寄こせ。」

「3枚組だからしっかり濃く書いてよ。」

「随分念入りなこって。ほらよ。」

っと、時雨に書類を渡そうとしてふと違和感に気が付いた。

「どうしたんだい、与作。早く書類をくれないとDVDは返せないよ。」

静かにほほ笑む時雨。だが、俺様は知っている。これはこいつが隠し事をするときの癖だ。

「お前、隠し事してないか?」

「何のことだい?」

 

目をそらさず応える時雨。確信間違いない。この書類が怪しい。って、3枚組?

 

「あっ、まさか、お前!」

ぺらぺらと書類をめくる。一枚目は確かに外出許可書だが、二枚目三枚目は注意深く見ると後付けでつけられたものだ。これは、提督養成学校艦娘引き渡し要請書じゃねえか!あぶねえ!一番上に書いたら後は下に複写されるってことかよ!これだからこいつは油断ならねえ!

 

「まだ、諦めてなかったのか、お前。」

「ちぇっ。ばれちゃったか。」

悪戯が見つかったように舌を出す時雨。そんなことしても俺様はロリコンじゃないから心には響かんぞ。織田だったら何でも言うこと聞きそうだがな。

 

「初期艦でなくてもいいから呼んでよ。与作が呼んでくれるつもりで荷造りまでしてたから恥ずかしくて仕方がなかったんだよ。」

「そんなものはお前の都合だろう。なんで、俺様がそこまで気を遣わなきゃならんのだ。」

「去年一年ペアを組んだ仲じゃないか。」

「お前もしつこい奴だな。他に引く手あまただっただろうが。そいつらの所にいかないのかよ。」

 

そう。この時雨ときたら儚げとかボクッ子とかで、織田だけでなくある層の提督候補生たちからの支持は絶大だった。何度一度でいいからペアを交換してほしいと言われたか。その度ごとに俺様は喜んで頷くのだが、こいつときたら決して首を縦に振らなかった。

 

「僕は与作のペア艦だからね。」

そう言って、ほいほい引き受けた俺に説教してきたものだ。

 

「ねえ、頼むよ。僕は与作といたいんだ。」

しおらしく頭を下げる時雨。だが、俺様はほだされない。こいつがいたら、俺様のにこにこ鎮守府ハーレム計画がご破算だ。それだけではない。誰のせいで一年近く一週間に一回というオナ禁をしてきたと思う?毎日出さないといけない人間にとってそれがどれぐらいの苦行だったか。

 

「大体、疑問なんだが、どうして、お前はそんなに俺様といたいんだ?俺様にとっても理解不能だが、ファンもいるみたいだしそっちの方がお前にとっていいと思うがね。」

 

藤沢のエロゲーショップの店員然り、織田然り。俺にこだわる必要はまったくない。

 

「一年もペアを組んでいたのに、分からないのかい?」

時雨は驚いた表情を浮かべる。そんなことも分からないのかと言いたげだ。

 

「分からんね。俺様はお前じゃないんだ。いちいち分からんさ。」

「というか、与作は僕たち駆逐艦の気持ちなんて考えないだろう?」

「失敬な奴だな。最低限紳士として接してやっているだろうが。エロゲでいうと、攻略対象でもないモブに優しくしている俺様は天使なんだぞ。」

「よく分からないけど、酷い言われようなのは何となく伝わるね・・。」

「そうさ。俺様は酷い男なんだ。それが分かったら帰った帰った!」

しっしと手で追い払うしぐさを見せるも、がんとして時雨は立ち上がらない。

「嫌だね、帰らない。」

「お前どうした?養成学校で何かあったのか。めんどくさいぞ。」

「与作がいけないんじゃないか。」

 

ぷうっと唇を尖らせて時雨はジト目で俺を見る。なんだ、こいつの駄々っ子時雨モードは。

こんな態度見たことないぞ。養成学校時代のこいつはこまッしゃくれたガキで、いらいらした俺様にその度ごとに三つ編みを引っ張られたり、髪をぐしゃぐしゃにされたりしていたが・・。今日のこいつはまるで散歩から帰ろうと促すも、その場から動かない犬みたいに手がかかるじゃねえか。

 

「時雨、お前の気持ちはわかるが・・・」

精一杯申し訳なさそうな顔を作り、時雨の頼みを断ろうとしたその時だった。

 

ビーッビーッ。執務室のモニターから緊急通信のアラームが鳴り響く。即座にモニターに目を向けるや、そこに映っていたのはぼろぼろになった雪風とグレカーレの姿だ。一体何があったんだ?

 

「どうした、二人とも!」

「テートク遅いよぉ。何度か通信を送ったのにぃ」

「すまん。現状を報告しろ。何があった。」

「すみません、司令。鎮守府の近海だと思い、油断しました。」

『まずいのがいたんですよ!!先ほどの映像回します!』

 

モニターに映る敵深海棲艦の姿。だが、こんな奴いたか。見覚えがない。

「なんだ、あいつ。駆逐艦じゃない、軽巡洋艦か?見たこともない型だぞ。」

俺の問いに隣から覗いていた時雨が声を震わせる。

 

「あれは・・駆逐ナ級だよ。しかも後期に作られたⅡのeliteタイプの奴だ。」

はああああ?駆逐ナ級後期型Ⅱeliteだと。そんなやついたか?

「深海棲艦の駆逐艦でも上から二番目に強いやつさ。先制雷撃をしかけてくる奴でね。下手をすると歴戦の戦艦ですら一撃で装甲を抜いてくる。」

「なんでそんな奴がこの雑魚鎮守府に。」

「はぐれ艦か、それとも大規模攻勢の前の様子見か。とにかくまずいよ、与作。二人が危ない。」

「わーってるよ。くそくそくそくそ。畜生!」

 

がしがしと頭を掻くが苛立ちは消えない。どうしてこうも上手くいかないものか。このままでは雪風もグレカーレも奴に嬲り殺しにされる。練度が高ければまだ勝機はあるが、建造したばかりの二人には明らかに荷が重い。大丈夫だと思って初めてのおつかいに出したがきんちょが猛犬に襲われているようなもんだ。

 

「どうだ、グレカーレ。逃げ切れそうか。」

「うーん。分からない。あいつしつっこくてさ。もんぷちのお陰でなんとかここに逃げ込めたんだけど、あたしも雪風も中破してて、思ったほど速度が出せない・・。」

凶悪な強さの深海棲艦に当たって中破どまりとは、さすがに幸運艦だ。だが、いまだ日は高い。見つかるのは時間の問題だろう。

 

「どうするんだい、与作。」

じっとこちらを見つめる時雨。お前分かって言ってるだろう。絶対そうだ。目の奥が期待で一杯。尻尾をふってやがる。きらきらした目で見るんじゃねえ、くそが。

 

深いため息をつき、気持ちを切り替える。遠のく鎮守府ハーレム、俺様のさわやかオナニーライフ。・・・・畜生めが。俺様は諦めねえからな。

 

「決まってんだろ。時雨、抜錨しろ。上には後で俺様が説明する。」

すぐさま要請書に署名してみせた俺様の言葉に、嬉しそうに頷く時雨。

「了解。ちょうど泊まる予定で艤装も持ってきていたんだ!」

 

「噓こけ。何で泊まるつもりで艤装を持ってくるんだよ。居座る気まんまんじゃねーか。まあ、そんなことだろうと思ったけどな。」

「あはは・・。ばれてたか。案外鋭いね。」

「ふん。一年組んでてそんなことにも気づかなかったのかよ。」

「うんっ。知らなかったよ。」

先ほどの意趣返しの俺様の言葉になぜか時雨は笑顔で頷く。

 

「・・・あのさ」

執務室から出ようとした時雨はなぜかその場で立ち止まる。

 

「最後にもう一度確認するんだけどさ。」

「なんだよ。」

「与作が僕の正式な提督になるってことでいいんだよね。」

「ああ。めちゃくちゃ不本意だがな。俺様は紳士なんだ。」

確かに俺様は鬼畜だ。だが、喜んでブラック鎮守府ライフをする外道じゃない。駆逐艦だろうが困っている仲間は見捨てない。

 

「ありがとう。これで行けるよ。」

時雨はニッコリと微笑むと風のように執務室から立ち去った。

「時雨、行くよ!!」

 




登場人物紹介

与作・・・時雨が去った後、大きくため息をつき、己の不幸を嘆き、グレカーレの中破の様子の酷さに「俺様がロリコンでなかったことを感謝しろよ!」とつぶやく。
時雨・・・あっという間に出撃。すでに海の上。やる気溢れるニコニコ時雨さん。



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