鬼畜提督与作   作:コングK

17 / 129
設定を一部変えました。リアルのゲームに合わせていたところ、色々と修正箇所が増えましたので。深海棲艦が出現したのが20年前となっています。

E7-2友軍来ましたね!すでに乙で終わらせてしまいましたが、皆さんのご健闘を祈っております。ナ級、お前は少し休んでろ!


第十四話「時雨(中)」

船としての記憶の最後はマレー半島沖。船団護衛中に敵潜水艦の雷撃を受けて沈む姿。

 

艦娘としての最初の記憶は今から20年前。「始まりの提督」と呼ばれた、人類初めての提督に出会った時に向けられた、太陽みたいな眩しい笑顔。艦娘というものがまだ全然一般的ではなくて、でも僕よりも前に顕現した艦娘達が、深海棲艦への対抗手段として期待を持たれかけていた時。

 

「君が、時雨か。私が君の提督だ。頼りないかもしれんがよろしくね。」

提督はぼさぼさ頭を掻きながら、僕に笑顔を向けてくれた。

 

死闘という言葉すらも生ぬるい鉄底海峡での決戦。次々と仲間が倒れていき、最後には提督までも失った。「偉大なる7隻(グランドセブン)」などと名付けられ、生き残った僕たちは散々表彰されたけど、何のことはない。ただ死に損なっただけだ。

 

ある者は提督の遺志を継ぎ、後進の育成に力を尽くし、またある者はこれも提督の遺志を継いで退役し、束の間の平穏の中に身を置いた。僕自身がどうしていたのか、この時の記憶があまりない。ただ、はっきりと覚えているのが、アパートの一室で寝ていたところを無理やり起こされ、長門に提督養成学校に連れていかれたこと。

 

「提督の御遺志だ。あのまま朽ちるに任せてもよかったが、生き残りの仲間の体たらく、見るに忍びない。お前がどうしてもやりたくないなら諦めるが、どうする?」

 

答えない僕に苛立ちを見せる長門。間をとりなすように香取が口を挟む。

 

「時雨さん、どうかお助けいただけませんか。この提督養成学校は、艦娘養成学校と連携しています。艦娘養成学校の最終学年時は一年間提督候補生と共に様々なことを学ぶのですが、現状艦娘養成学校の生徒も十分な数がおりません。一人でも多く提督を育て、この国を、世界を守るための礎としたいのです。」

この国を、世界を守る・・?

 

「・・僕が手助けすれば、少しでもこの国を、世界を守れるの?」

「はい。情けない話ですが、残された我々には他に頼れる方がおりません。偉大なる7隻(グランドセブン)の中でも海外艦のお二方を除き、後の3名の方ははっきりと協力を拒否されています。」

「私も説得に向かったが無理だった。だが仕方がない。提督ご自身が生き残ったら己の好きなようにしろと仰っていたのだから。」

そう。提督はどうしろとは言わなかった。戦いたければ戦えばいい。戦いたくなければ戦わなくていい。考えるのは自分で、他人じゃないんだよ、と常に言っていた。ちょっと考えて、僕は僕なりの結論を香取に伝える。

 

「わかった。僕の力が役に立つのなら・・。手伝うよ。」

 

以来15年余り。色々な提督候補生がいた。多くの候補生は僕の艦歴を知っていて、西村艦隊佐世保の時雨と知り、心強いと喜んでくれた。残りの人たちは僕のことを余り知らなかったけど、積極的に僕を知ろうとコミュニケーションを図ってくれた。彼らと過ごすのは楽しかった。艦娘として生を受けたばかりの頃を思い出した。そして、決まって卒業の後、僕を初期艦としたい、と要請が来ていたけれどいつも断っていた。もう自分が知っている人がいなくなるのがいやだったから。

 

提督養成学校での最初の目玉行事。ペア艦を決めるくじ引きの日。この日は艦娘養成学校の生徒たちにとっても、期待と緊張の入り混じった日だ。会場となる艦娘養成学校の体育館に集められた僕たちは提督候補生達の引いたくじに従い、ペア艦としての任務に就く。

 

「いい提督さんだといいなあ。そう思わない?時雨。」

僕の隣にいた瑞鶴が声を掛けてくる。同型艦も多いから、僕が毎年ここにいることをこの瑞鶴は知らない。知っているのは香取と艦娘養成学校校長の日向ぐらいだろう。

-

「うん、そうだね。」

そうは言ったものの、16回目となると誰が相手でも気にしない。

 

「時雨、呼ばれたっぽい!」

緊張気味に教えてくれた夕立に礼を言って、体育館の中央に進む。そこには提督養成学校・艦娘養成学校の責任者と共に、僕の新しいペアがいた。随分とおじさんだな。若い子ばかりだったから対応の仕方を変えないと。

「僕は白露型駆逐艦時雨。これからよろしくね。」

そう言ってぼくなりの精一杯の笑顔で手を差し出したのに。

出した手は空を切り、目の前の提督候補生は口をへの字に結び、開口一番、

「チェンジ!!」

と叫んで、隣のブロックで握手を交わしていた別の候補生に声を掛けた。

「お前の相手は誰だ?重巡愛宕!?当たりじゃねえか。悪いが替わってくれねえか。なんでよりにもよって提督養成学校まで来てこんながきんちょの世話をしなきゃならないんだ。」

あれ。おかしいな。なぜか、拳を握ってる。

「なあ、頼むぜ。ここに来たのはこんなちんちくりんの相手をするためじゃないんだ。」

ち、ちんちくりん・・。こ、これでも白露型の中ではそこそこ成長しているって言われるんだけど。

「俺様のような大人にはもっと大人な娘が必要だ。何が悲しくてがきんちょのお守りを・・てうぐうう・・」

「ちょっ、時雨!?」

え?変だな・・。僕はなぜおじさんの顔面に拳をめりこませているんだろう。

周りで大騒ぎする両養成学校の責任者たち。いつも冷静な日向が珍しく慌ててる。

 

「や、やめんか、時雨。鬼頭候補生もだ。艦娘に対する謂われない侮辱は提督の資質無き者と見なし、即刻退学を申し付けるぞ!!」

提督養成学校の校長の言葉に、おじさんはさわやかな笑みを浮かべた。あれ?結構強めに殴ったのに、随分とタフなんだな。

 

「へいへい。申し訳ございません。冗談ですよ。これから一年ペアとなる奴がどんな反応を示すかね。」

「冗談だと?この場でそうした行為は慎みたまえ!」

「了解しました。よし、じゃあ時雨行くぞ。」

不気味な程の笑顔。初顔合わせが終わった後、艦娘と提督が軽く雑談するための部屋へと鬼頭候補生は僕を連れていく。

 

「いいパンチくれたじゃねえか。よくも俺様を殴ってくれたなあ。」

部屋に入った瞬間、豹変する鬼頭。いや、こちらの顔が素なのかな。さっきの暑苦しい笑顔は外用みたいだね。

 

「それについては悪かったね。なぜだか体が動いてね。ごめんよ。」

手を出したのはこちらだから先に謝る。がきんちょだのちんちくりんだのと言われたのにはまだむかむかしてるけど。

「ふん。やっぱりな。どうにもお前のその能面みたいな顔つきが気になるぜ。おまけにさっきのパンチ。不意打ちとはいえ、俺様が反応できないとはよお。何か隠してやがるな、お前。」

「隠している?何を?」

えーっ。何なんだこの男。ただのおじさん候補生じゃないの?やたら鋭いんだけど・・。

「ああ、今ので確信したぜっ、てな!!」

突然飛んでくる灰皿を叩き落とし、追撃の上段蹴りを受け止める。物騒じゃないか。何するんだ。

 

「突然危ないじゃないか。どういうことだい。」

「やっぱりだな。お前、ただの艦娘じゃねえだろ。」

「どうしてそんなこと分かるのさ?」

「艦娘養成学校のカリキュラムには空母達がする弓道はあっても、近接格闘なんて項目はない。だが、お前のその身のこなしは経験者の身のこなし方だ。」

 

正直驚いた。確かに提督は何かあった時用に僕たち全員に近接格闘を身に付けさせてくれていた。艤装を失っても生きる確率をあげるためって。でもそれを見抜く候補生がいるなんて。

 

「君こそ只者じゃないだろう。」

あれ。どうして僕はわくわくしているんだろう。

「ふん。ようやく化けの皮を剥がす気になったか。隠し事を吐いてもらうぜ!!」

「いいよ、僕に勝てたら・・ね!!」

 

立ち上がりざまに顎を狙ってのアッパー。上手くかすれば脳を揺らす一撃を、難なく見切って交わ

すおじさん。へえやるじゃないか。

「人間にしては速いね。でも、これならどうだいっ!」

鎮守府にいた時、ボクシング漫画にハマった夕立と散々練習した高速のワンツーを叩きこむ。

左右のフットワークから連打連打連打!!

 

「くっ!こいつ。イメージのタイソンより速いぞ!」

防いでおいてよく言うよ。それじゃあ、これはどうだい。左手のガードを下げて・・突然びゅん!

と。

「フリッカーだと!?」

「残念。かすっただけか。見様見真似じゃさすがに上手くいかないね。」

「ほお。こいつは面白い・・。」

何だい、その動き。左右に八の字みたいにウィービングを繰り返して・・。って、ま、まさか・・。

「ボクシングがお好みらしいからなあ!これでも喰らいやがれ!!!」

「デ、デンプシーロール!!」

フックフックフック!フックの嵐!!な、なんでこのおじさん。漫画の中に出てくる技が使えるんだい!?あの夕立だって、『これは疲れるしめんどくさいっぽい』って言ってた代物だよ!い、痛い・・。ダメだ、両腕がしびれてきた。ガードが下げられ、目の前にパンチが・・。怖い。瞬間目をつむり、歯を食いしばる。

 

べちん。続いて感じたのはおでこへの痛み。恐る恐る目を開けると面白くなさそうな顔を浮かべるおじさん。どういうこと?

 

「ふん。俺様は紳士だ。がきんちょを殴ることはしねえ。」

「・・・よく言うよ。両腕がパンパンに腫れてるよ。」

「さっきのパンチのお返しだ。」

「じゃあ、仕方ないか・・。約束は約束だもんね。」

 

椅子に座り直し、僕はおじさんに自分の秘密を告げる。僕がかつて鉄底海峡の死闘を生き残り、「偉大なる7隻(グランドセブン)」と呼ばれていたことを。正直あまり言いたくはなかった。この呼び名を聞いた時のみんなの反応が手に取るように分かるから。恐れと、羨望。僕は長門程強くない。あからさまに変わるみんなの態度が気にならないはずがない。このおじさんはどういった反応を示すんだろう。

 

偉大なる7隻(グランドセブン)?何だ、その大層な名前は。」

 

僕の考えは杞憂だった。彼は全く艦娘や偉大なる7隻(グランドセブン)のことについて知らないようだった。それでよく提督養成学校に来たよね、というぐらいの知識でしかなかった。

 

「お前さんの仲間のお蔭で俺様達の今の生活がある訳か。ありがてえ。」

 

そうしておじさんは目をつむって拝む仕草を見せた。一瞬訳が分からなかったけど、それが彼なりに散っていった仲間たちの冥福を祈っているのだということに気が付いて、僕は呆然とした。

 

「なんだ、俺様がこういうことをするのが意外って面だな。失礼な奴だ。」

「ご、ごめんよ・・。今までそんな風にしている人って見かけなかったから・・。」

 

多くの人たちは僕たちを偉大なる7隻(グランドセブン)と呼び、称えてくれた。鉄底海峡から生還した英雄だと。

でも、生還したのが偉いのだろうか。この国を、世界を守るために散っていったみんなは偉くないというのだろうか。

自然に涙が溢れていた。とても悲しくて、とても嬉しかった。

「ありがとう・・。ありがとう・・。」

「何だ?泣くようなことか?当たり前だろうが。」

君はそう言ってくれるんだね・・。でも、みんながみんなそうじゃないんだよ。

 

「僕は駆逐艦時雨。名前、聞いてもいいかい?」

「俺様は鬼頭与作。いずれ艦娘ハーレムを築く男よ!」

 

艦娘ハーレム?何だいそれは・・。

 

「俺様も艦娘も共に幸せに暮らせる場所ってことだな!!」

彼の、与作の言葉に胸が熱くなった。それは、「始まりの提督」が目指していたものじゃないか。

僕や夕立、艦隊のみんなはその理想を実現させようと戦っていたのだから。

 

「そ、そうなんだ。与作、僕にもその手伝いをさせてよ。」

「ふむ。俺様の信奉者が増えるのはいいことだ。よろしくな。時雨。」

 

握手を交わし、喜びの余り僕はもう一歩踏み込む。お互いのことをもっとよく知らないとね。

「うん。他に聞きたいことはないかい?なんでも聞いてよ。」

「特に今はないな。」

え?何もないの?それってまるで僕に興味がないっていうように聞こえるんだけど・・。

「何にもないの?今なら特別サービスで何でも答えられるよ。」

「特にない。聞きたいことができたらおいおい聞いていく。そろそろ時間だから体育館に戻るぞ。」

「あ、うん・・。分かったよ。」

一年間あるから徐々にお互いを知っていこうってことなのかな。僕が焦りすぎたのかもしれない。

いけないいけない。素晴らしい候補生に会えて気が緩んでしまった。気を付けないとね。

 




登場人物紹介

与作・・・提督養成学校入学時からぶれず。
時雨・・・艦娘ハーレムについて香取に嬉しそうに話した所、勘違いに気付くが、その時にはそこそこ好感度が上がっていたため、僕がついててあげなきゃという思考に至る。
日向・・・この後同じようにチェンジを叫ぶ学生に爆撃をしかけた艦娘がいたため、その対応に奔走。胃薬が手放せなくなる。
香取・・・与作の態度に教鞭を折る。(記念すべき一本目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。