鬼畜提督与作   作:コングK

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入学して、いきなり卒業。


第二話 「卒業」

提督養成学校に入った俺様はそれは頑張った。ここで実力を見せておかないと、いかに妖精が見えても、大本営で事務仕事なんかをさせられながら、提督の予備として飼い殺される生活が待っているとのことで、それこそ日課のオナニーすら禁止して頑張った。

ただでさえ、ほとんどの提督候補生が10代、20代という若さで、40過ぎのおっさんである俺様は腫物扱い。同期なのに敬語を使って話されることが多く、見えない壁に包まれてすごした一年間だった。ため口だったのは、変り者の提督候補生と艦娘たちぐらいだ。

 

「・・最後にここまで育ててくださいました、教官、艦娘の皆さん方への感謝の気持ちに応え、一日も早く静かな海を取り戻すべく、より一層の精進を重ねていきたく思います。一年間ありがとうございました・・・」

 

提督養成学校の卒業式である。卒業式ってのはどうしてこう、何か話さなければ気が済まないのか。ぱっと「またね」といかないものなのか。ぐだぐだと繰り返しての話にいい加減飽き飽きする。

思わずあくびをかみ殺していると横合いから突かれた。

 

「鬼頭氏、鬼頭氏、あそこで教官の香取殿がこちらを睨んでいるでござるよ。お気をつけめされい。」

「うるさい、オタク野郎。どう考えても、不審者のお前を監視してるんだろうよ。」

「それは心外な。拙者は心より駆逐艦を愛すだけのさすらいの提督でござるよ。」

 

テンプレ通りのオタク口調。その名前も織田久三。略してオタク。こいつは、試験前に雷ママンに会うんだとほざいていた野郎だ。こんな奴を合格させるなんて、余程提督候補者がいないということなんだろう。

むっ。香取教官の目がすっと細められた。あれは終わったらしばこうと考えてるな。隣の鹿島教官がいさめているが、相変わらず二人とも色っぽい。二人を視姦すること何百回。女性は男の視線に気が付いているとの話通り、その度に呼び出されて説教されたっけ。それでも俺様は態度を変えなかったね。

 

「私が悪いのではありません。教官殿達が魅力的すぎるのがいけないのであります。」

「美人を美人と感じ、引き寄せられて何がいけないのですか。であるならば、魅力的すぎる教官殿達の方が罪深いということになりましょう。」

いちいち反論、とことん反論。香取教官もしまいには教鞭を叩き折るぐらい怒ってたっけ。今日で最後だ。俺様のジュテームな愛を届けてやろう。チュッ!!

「ちょっ!鬼頭氏、か、香取教官の頭から湯気が出てますぞ!!」

けけけけ知るか。今日で最後思い出作りってやつさ。

 

退屈な式典から解放され、ようやく講堂から出ると、多くの新米提督は提督同士で別れを惜しんだり、ペア艦だった艦娘と最後の挨拶を交わしたりしていた。

ペア艦というのは、提督養成学校に所属する艦娘達のことだ。実際の艦娘への指示を学ぶために、入学した候補生たちは自分と相性の合うペア艦をあてがわれ、一年間共に学ぶことになる。中にはそのまま意気投合し、候補生たちが提督として鎮守府に着任した際、付き従う者もいるという。

 

「あっ、来た来た!候補生さん!じゃなかった、今日から正式に提督さんね!」

空母瑞鶴が嬉しそうに織田の肩を叩く。一方の織田は俺様に対する時とは別人のように表情をこわばらせた。

「ああどうも。お世話になりました。もうお世話になることはないと思いますがお達者で。」

「ひっどーい。何それ、信じらんない。一年間苦楽を共にしてきたペア艦に言う台詞?」

「苦楽を共にしてきたというのは一方的に爆撃されることを言うのでしょうか。『目標、教室の提督、やっちゃって!』なる殺し文句は何度となく聞いてきましたが。」

「それは目を離すとすぐ駆逐艦ににじり寄るあんたがいけないんでしょう?私というものがありながら、しょっちゅう他の提督の駆逐艦とべたべたと。」

 

瑞鶴という艦娘は基本的にさっぱりとした性格をしているのだが、この瑞鶴は他の瑞鶴に輪をかけて嫉妬深い。何度、オタクの頭上を艦載機が飛び回っていたことか。

「それは瑞鶴殿が悪い!ツルペタすとーんなら、どうしてもっと幼くないのでござるか!中途半端が一番悪い!同じ瑞でも瑞鳳殿であれば!!」

 

あ、バカ。こいつあほだ。私死にますというボタンを今ぽちっと押しやがった。真っ赤になってぷるぷる震えたかと思うと、瑞鶴はすかさず、攻撃態勢を整えた。

「五航戦の本当の力、見せてあげるわ・・・。稼働機、全機発艦!目標前方のロリコン提督!!

完膚なきまでにやっちゃって!」

「うひゃーっ!!だが、引かぬ媚びぬ省みぬ!この貧乳空母め!」

瑞鶴に更なる怒りの燃料を投下し、オタクは走って逃げて行った。最後の最後まであほなやつだ。まあせめて達者でな。俺様は俺様で夢の艦娘ハーレムに邁進するだけよ。

 

「あはは、瑞鶴は相変わらずだね。織田提督も最後なんだから、気の利いた言葉でもかけてあげればいいのに。」

「さてと、俺様もそろそろ行くかな。」

くるりと踵を返し、校舎を背にする。もうここへ来ることはないだろう。さらば、我が母校。

って、おい。進めない。裾をつかむんじゃない。

「つかむなって、与作がいけないんじゃないか。ペア艦だった僕に一言も無しで去ろうというんだから。」

ジト目で俺様を見つめてくるのは不本意ながらこの一年俺様のペア艦だった駆逐艦時雨。戦艦や空母を引き当てる同僚を尻目に駆逐艦を当てた時の気持ちときたらなかったね。織田ぐらいだ、

「羨ましすぎますぞおおお!鬼頭氏、拙者とチェンジしてもらえませぬか!!!」

と叫び、すぐさま瑞鶴に爆撃を食らっていたやつは。

 

「とにかく、おめでとう、与作。これで、与作も正式な提督だね。」

「ああ、世話になったな。」

困った。他に言うことがない。というのも、元々俺様は守備範囲外の艦娘には紳士であることを旨としている。駆逐艦達にだってそれなりの態度で接しているんだ。ところが、この時雨ときたら

持って生まれたニュータイプの勘か、俺様のそうした態度をことごとく見抜きやがる。その上で、

「ああした態度は、その・・よしておいた方がいいよ。」などとアドバイスをしてきやがるものだから、この養成学校で一番の天敵だったと言っていい。

 

「何かお祝いはいるかい?この一年のよしみさ。希望を聞いてあげるよ。」

「そんなん言わずともわかるだろう、素敵な戦艦のお姉さまを紹介してくれ。がきんちょのお前じゃ無理かもしれんが・・て痛い痛い!」

俺様の手の甲を勢いよくつねる時雨。どうしてこいつは俺に対してこんなに遠慮がないんだ。出会った当初はまだ世の中を達観していて、儚げな印象を受けたもんだが、印象詐欺ってやつだな。

「何度も言っているが、僕はがきんちょじゃない。僕ら艦娘には人間の年齢は適用されない。姿形がそう見えるからってバカにしていると痛い目を見るよ。艤装を下ろせば結婚だってできるし、身分だって保証されているんだから。」

あのなあ、時雨。がきんちょじゃなければ、がきんちょって言われて怒らんだろうよ。確かにこいつら白露型、中でも特に村雨や夕立は改二になると大人びた成長を見せるが、俺様からすれば小学生が中学生になっただけで、背伸び感が半端ない。

 

「とにかく、与作は僕をもう少し敬うべきだと思うよ。これでも少しは名が知られているんだから。」

あーはいはい。そうですね。佐世保の時雨と呼ばれて幸運艦でしたね。俺様にとってはちっとも幸運じゃなかったが。

「とにかく、君のすることは着任したらすぐ初期艦として僕を呼ぶってことさ。そしたらまた一緒に組める。楽しいと思うよ。」

こいつ、俺様の話を聞いていたのか?こっちは少しも楽しくないぞ。こいつときたら、クールそうに見せてかまってちゃんだからな。何が、いいよ、なんでも聞いてよ、だ。特に聞くことなんぞない、と言ったらなぜか慌ててたっけな。

「まあ、なんだ。一年間ありがとな、時雨。達者に暮らせよ。」

終わり良ければ総て良し。握手と共に去ろう。

 

「うん、また一緒に雨を見ようね。」

力強く握り返し、時雨はニッコリと微笑んだ。まあ、そんなことはもうないんだがな。

 




登場人物紹介

織田久三(21)・・・オタク・ロリコンの元ニート。駆逐艦と出会うために来たの
に、なぜかペア艦くじでは瑞鶴が当たりおかんむり。そのことを瑞鶴にストレートに告げて会って二分で爆撃された。実はそこそこイケメン。

瑞鶴・・・・・・・・織田のペア艦。ロリコンオタクと蔑むが、織田のことは嫌いではない。たびたび艦載機を差し向けては自己嫌悪している。


時雨・・・・・・・・与作のペア艦。わりかしかまってちゃん。与作との仲は本人曰く良好。

与作・・・・・・・・ペア艦くじで時雨を引いたおっさん提督。その場で愛宕を引い
た者とくじを交換しようとし、時雨にグーで叩かれた。
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