ぐっども~にんぐ。運命の朝が来やがったぜえ。昨日の余勢を駆って、今日は朝から建造祭りよ。
長門達が帰った後、親方に建造ドックが使えるのは確認してある。ついに、俺様好みの艦娘を着任させるときが来たぜ。思えばビーバー雪風の建造に始まり、お喋りグレカーレ、ついでに建造されてないが、なぜかやってきやがった元ペア艦の時雨と言い、なぜか来るのが駆逐艦ばかり。呪われてるかもしれねえと、江ノ島神社の宮司にお祓いを頼もうとしたが。なぜかうちの鎮守府の名前を聞いて、電話を切ってやんの。おいおい。前の提督が何かやんちゃでもしたのか?仕方がねえから、あの手を使うしかねえ。
「僕が建造するのかい?」
時雨はそう言うと、小首を傾げてこちらを見る。どういう意味か知りたそうだから教えてやる。
これはなあ、与作流ガチャ必勝法よ。
「与作流ガチャ必勝法?そもそもの話、そのガチャって何だい?」
「幾多のソシャゲゲーマーを課金地獄へと落としていった悪しき文明の底無し沼よ。一度ハマるとなかなか抜け出せねえ。」
「あ・・。以前手が借りたいって言われて、スマホをタッチさせられたあれかあ・・。」
おいおい。何だ、時雨この野郎。心底呆れたって面をしやがって。いいか。ガチャにはな、法則があるんだよ。
「法則?」
「ああ。狙っていると出ねえ。」
「どういうことだい。普通狙うからガチャを回すんだろう?」
こいつ・・正論を吐きやがって。だがな、この大宇宙にはそうした正論がまかり通らないことがあるんだよ。
「お前は知らねえんだ。物欲センサーの恐ろしさを・・。」
「物欲センサー?」
「ああ。こいつが来て欲しい、来い来いと願う気持ち、電波の総称だ。こいつが強すぎると、ガチャの回路に支障を来たし、途端に欲しいものが来なくなる・・。そいつを超えるためにはセンサーを発動してない奴が回すしかない・・。」
心を無にし、ガチャをひたすら回す。ガチャ道の修羅にとっては、この心を無にするのが難しい。そのため、200回以上回し、人の世の虚しさを感じ始めてその境地に達する者や、全く関係ない奴に回してもらう者もいる。俺様は効率的な面から後者だがな。
「はあ・・。まあ、分かったよ。」
不承不承頷く時雨。ふん、お前だって俺様のストレスの元なんだからな、少しは役に立ちやがれ。偉大なる7隻なんて大層な名で呼ばれているんだったら、大いに期待するぜ
「とにかく、だ。これよりOGKKP(俺様好みの艦娘建造プロジェクト)の二回目を決行する!!」
工廠に集まったのはいつもの駆逐艦3人に俺様。あれ?もんぷちがいなくねえか。親方、もんぷちはどうしたんだよ。俺様の質問に親方ではなく、近くにいた工廠妖精が答える。
『前回勝手に女王が持ち出した零式水上観測機、親方のコレクションだったんですよ。激おこで工廠の手伝いをさせているんです。』
『女王!!早く資材を持ってきて!!』
『は、はい。ただいま!』
親方のどなり声にぱたぱたとやってきたもんぷちはいつもの白い帽子にセーラー服ではなく、工廠妖精の服にヘルメットをかぶっていた。随分とすすだらけになっちまってまあ。
「親方、こいつもそろそろ反省しただろ?許してやったらどうだ?」
『て、提督!!』
おやおや。泣いていやがるぜ、こいつ。まあ付き合いもそこそこあるし、雪風達が助かったのはこいつのお蔭でもあるからな。
『提督は女王に甘すぎますよ!!この人すぐ調子に乗るんですから。』
『そうそう。相変わらずつまみ食いをやめないし。』
『ぎくっ!!っていうか。誰です、今言ったの。情報源を特定しないと・・。』
「やかましい!!とにかく、だ。親方。すりぬけくんの調子はどうだ。」
目の前にそびえ立つ、我が鎮守府唯一の建造ドックであるすりぬけくん。その名前は微妙に俺様の好みから外すそのせんすからだが、数日間に及ぶ修理の結果、今日ようやく建造がかなう運びとなった。大役を担うすりぬけくんに俺様は近寄り声を掛ける。
「分かっているんだぜエ、すりぬけくん。お前の実力ってのをよぉ。どこの世界に初建造で雪風を当てて、その後、通常絶対建造されないというグレカーレが建造されるものか。お前の実力さ。間違いなくな。」
建造ドックを撫で、語って聞かせる。ム○ゴロウ戦法だ。
「だがよお。俺様の好みとはちいとばっかし違うようなのさ。お前が頑張っているのは分かる。だが、その頑張りをちょいと俺様の好みの方向に寄せてほしいのさ。っとおおっと。」
よろけた俺様のポケットから小銭が飛び散る。
「あっ、何やってるんですか。しれえ。」
「もう、しょうがないねー。」
「変に気合が入り過ぎだよ・・。」
駆逐艦娘3人と、妖精たちがわらわらと小銭に群がる中、それとなく俺様は建造ドックの中に持ってきたブツを入れる。
「はい。気を付けなよ、与作・・。ところで、今建造ドックの中に何か入れなかったかい?」
こいつ!!やっぱり油断がならねえ。あのタイミングで気付くかね、普通。だから、お前を呼ぶのは嫌だったんだよ。
「ああ。おまじないみたいなもんだ。さっきのガチャの話になるがな。あまりに当たらないとオカルトに走る連中がいてな。ゆかりのある土地だの道具だのを触媒にガチャを回す奴がいるんだよ。」
「ということは?」
「ああ。俺様好みの艦娘が来るよう触媒を入れたのさ。おおっと開くんじゃねえ。」
「一体何を入れたんだい・・・。」
ジト目で俺を見てくる時雨だが、開けはしねえし、教えもしねえ。以前こいつがすり替えて、後から送られてきた『留美子35歳』のDVDだと言ったら、今度は叩き割るかもしれねえからなあ。
「とにかくだ。呉の雪風はダメだった。佐世保の時雨の奮闘に期待する!!」
「雪風はダメじゃありませんよ!!」
「そうよ。あたしは普通当たりよ!!」
「やれやれ。建造ドックを回すなんて本当に久しぶりだね。それじゃあ、与作の希望通り、戦艦が出やすいというレシピでいくよ。400/30/600/30、それで、建造っと!!」
時雨が勢いよくレバーを引くと出た数字は0ばかり。
「00:00:00?どういうこった。」
ぶいーーーーーーーん。ぷしゅーーーー。
黙々と煙は出るもののうんともすんとも言わないすりぬけくん。
「はあ?建造ドックが開かねえぞ。どうなってんだ?建造成功したのか?」
「いや、失敗したみたい。資材が吸われてる・・・。」
「はあ?直ったんじゃねえのかよ。ちょい、待ち。なあ、すりぬけくん。確かにカスみたいな礼装はいらねえぞ。だがよ、資材を使っているからには結果を残さねえとだめだ。そうだろう?」
『全く、これだから、工廠妖精は!!私に任せなさい‼』
おい、なんだ。もんぷちお前まで建造ドックの中に入っていって。なあに。もう一度回せだあ?また資材が吸われるんじゃないか?
『大丈夫大丈夫!!私がついてますよ!』
『ああ、ちょっと!女王!!勝手にいじくらないで!!』
だからこそ、心配なんだがな。まあいい、もうしょうがねえ。鎮守府を再生した時のお前の手腕にかけるぜ。頼むぜ、時雨!
「ふうっ。了解。」
おい。ため息つきながら回すんじぇねえ。ツキが逃げるだろ。
がちゃん。ぶいーーーーん。建造ドックのスロットが回り、建造時間を表示する。おおお!!今度はきちんと表示されてるぞ。で、肝心の時間は・・。
「00:13:13?何だ、この時間・・・。」
まるゆが17分、睦月型が18分だぞ。13分で建造されるなんて、聞いたこともねえ。まあいい。賽は投げられた。後は結果を見るだけさ。待っている間、好きにしていていいぞ。何だ雪風。はあ?トランプがやりたい?知るか。俺様はやらねえぞ。時雨とでもやってればいいじゃねえか。幸運艦同士、どちらが強いか決着をつけるのも楽しいぜエ。くっくっくっく。
「・・・・すごかったね、テートク。」
「ああ。煽っておいてなんだがよ。歴史的な勝負の立会人になった気分だぜ。」
まさか、あのトランプの鬼雪風と互角に戦える奴がこの世にいようとはな。一進一退のババ抜き勝負がまさかここまでもつれるとは思ってなかったぜ。
「やるね、雪風。さすがに呉の雪風の名は伊達じゃないね。」
「時雨ちゃんこそ。佐世保の時雨、いまだ健在ですね!」
俺様達がけちょんけちょんにやられた雪風と互角に戦うとは、さすがに偉大なる7隻ってとこか。
「2対2の同点です。もう一勝負行きましょう!」
「引き分けでやめておこうよ。」
「ええーー。まだやりたいです!!」
「こらこら!もうタイマーが止まりそうなんだから、そこで止めときなさいよ。また提督にトランプを没収されるわよ!」
どうも雪風の野郎はトランプのことになると目の色が変わるな。全く誰があいつにトランプを教えやがったんだ。
「え?しれえじゃないですか!」
ふん。そんな昔のことは忘れちまったよ。とりあえずだ。お仲間さんを迎えに行くぞ!!
ちーーーん。ぷしゅーーーー。
さあ、運命の瞬間だ。頼むぜエ、すりぬけくん。触媒まで用意したんだから、俺様の好みはご存じだろう?巨乳・人妻だぞ。巨乳・人妻。頼むぜ。がきんちょじゃなくて、母親世代だからな!!
もくもくと白い煙の中から姿を現す、俺様の好みの艦娘。ようこそ、江ノ島鎮守府へ。お前の着任を歓迎するぜ!!ん?金髪ってことはまーた、海外の艦娘か?それに何だ、ありゃ。網だと?
「お疲れ様です。Fletcher級駆逐艦ネームシップ、Fletcher、着任しました。マザー、ですか?
いえいえそんな・・・。皆さんのお役に立てるよう頑張ります!」
目の前に立つ金髪にカチューシャを付けた駆逐艦娘。通常ならばすぐにチェンジと叫ぶところだが、今回は事情が違う。
「く、駆逐艦、だと・・。」
「はい。提督、どうされましたか?あっ。このNetですか。これは色々な使い方をしまして・・。」
違う。そうじゃない。こいつ、本当に駆逐艦なのか?何だ、その巨大な持ち物は。だ、ダメだ。思考が安定しねえ。陽炎型に浜風だの浦風だの発育がいい駆逐艦がいるってのは艦娘型録で知っているが、何だこいつの圧倒的な癒しオーラは。
『フレッチャーさんは100隻以上の姉妹艦を持つネームシップで、船の時代からマザーと言われてましたからね。どうです、提督!!今度こそお望み通りの建造でしょう!!』
胸を張るもんぷちだが、分かってねえな、こいつ。
「あのなあ、もんぷち。いくら胸がでかくてもお子様駆逐艦じゃ意味ねえんだよ。俺様の好みは伝えておいただろう。」
『ええーっ。そんな贅沢な!!フレッチャーさんは激レアなんですよ!グレカーレさ
んともタメを張るくらいなんですから!』
違う、違うんだ。もんぷち。レアの問題じゃねえんだ。
「バカ野郎。例えていうならピックアップ召喚で欲しい星4じゃなくて、欲しくもない星5が来たようなもんだぞ。」
確かに巨乳で母親属性があるかもしれねえ。でも、なんでよりによって駆逐艦の方向にもっていくかねえ。すりぬけくんよお。なんでお前はそう気分屋なんだ。それとも駆逐専用建造ドックとかじゃねえよな。
「あの、提督・・。私下がった方がよろしいでしょうか。なんだかその・・、申し訳ありません・・。」
すまなそうにこちらを見てくるフレッチャー。おい、何だこいつ、普通に常識人かよ。鬼畜モンを目指す俺様のなけなしの良心をえぐってきやがる。
「与作、いくらなんでも酷いよ!!建造なんて運なんだから仕方がないじゃないか!」
「そうよそうよ。そんな酷いテートクなんて、網でぐるぐる巻きにして海にポイと投げちゃえ!!」
「しれえ、酷いですー!」
ポカポカと俺様を叩いてくる駆逐艦一同。ああうざったい。おう、そうだ。気を取り直して重要なことを聞かないといけねえ。じゃれつく駆逐艦どもを退けて、フレッチャーの方を向く俺様。
「おい、フレッチャー。一つ大事な質問なんだが。」
「はい、提督。何でしょう?」
微笑みを浮かべてこちらを見るフレッチャー。こいつ、すごいぞ。ロリコン属性じゃない俺様が引き込まれるだと?
「お前、料理はできるか?」
「はい、お任せください。これでも姉妹艦の面倒を見てきたんですよ!」
「お前の着任を歓迎する!!ようこそ、江ノ島鎮守府へ!」
がっしりと力強い握手をフレッチャーとかわす。なんだよ、すりぬけくん。お前、最低限の仕事はしてくれてたんじゃねえか。最高だぜ。
「もったいないお言葉ありがとうございます。もうお昼になりますから、それでは、早速フレッチャー特製BLTサンド、ご用意させていただきますね!」
にこにこと笑みを浮かべるフレッチャー。なんだ、こいつ。言葉の端々からいいところのお嬢様感を感じるぞ。
「おいおい。こいつはすげえな。当たりじゃねえか。」
駆逐艦だけど。って、こらグレカーレ。俺様を蹴るな。
「だって、テートクがデリカシーがないんだもん。当たりとか外れとか。レディに失礼じゃん!」
「俺様に気を遣って欲しけりゃ料理の一つも覚えるんだなあ。」
いつまでたっても気まぐれに作ったり、ジャムの一つ覚えだったりするんじゃ仕方がねえからな。
「ふん、だ。分かったわよ。練習してテートクをぎゃふんと言わせてやるんだから。」
「雪風も頑張りますよ!しれえ、期待していてください。」
ほいほい。まあ、うすーい期待をしておこう。お子様どもはどうせすぐ飽きるだろう。それより何だ、時雨。さっきから腕組みして考えこんで。
「うん。どれだけ牛乳を飲めばいいのかなってね。」
何だ、改二以上に成長したいってかあ。さあね。とりあえず牛乳以外にもタンパク質でもとっておいた方がいいんじゃねえか。
「タンパク質か・・。うん、わかったよ。」
登場人物紹介
与作・・・・・・自らが守ってきたアイデンティティを揺るがしかねないフレッチャーの破壊力に戸惑い気味。
フレッチャー・・提督に嫌われていると思っていたが、料理を褒められ、誤解が解ける。
グレカーレ・・・とりあえず憲兵さんに買ってもらった日本食のレシピを日々こなそうとしている。
雪風・・・・・・グレカーレと共に、料理を練習中・
時雨・・・・・・たんぱく質がとれる食品を検索。とりあえず大豆製品を多くとるよう心掛ける。