鬼畜提督与作   作:コングK

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マザーは強いです。鬼作をプレイされた方は桃子さんより天使だとお考えください。



第十九話「マザーフレッチャーの脅威」

ばっども~にんぐ。

 

フレッチャーが着任して3日経ったが、正直言おう。俺は奴を侮っていた。これまでこの鎮守府に着任した連中は、大なり小なりがきんちょっぽさがあり、俺様も仕方なしに保父さんという立場に甘んじてきた。ところが、奴ときたら着任初日にいきなり大掃除を始めるや、翌日には何も言わずに全員の分の洗濯をしていやがった。時雨が来る前は俺様が主な当番だった料理すらも、「フレッチャーにお任せください!」とにこにこと言われた日には任せるしかないだろう。マスコミ対策をどうするかと考えている時もそうだ。通常業務の書類なんぞ後回しにしていたんだが、こいつときたら、

 

「あ、この書類。先ほど処理しておきました。ご迷惑でしたか?」

 

などとさりげなく俺様の机に書類を置いてくる。とにかくすること全てにそつがなく、嫌みがない。何だ、こいつは。俺様は間違って天使を引いちまったのか?

 

これまでいた連中との仲も悪くない。雪風やグレカーレなんかは姉とも母とも慕っている。時雨なんかは秘書艦担当の日をフレッチャーだけ二日にしたことにぶつぶつ文句を言っていたが、料理を習ったり、色々と悩みの相談に乗ってもらったりしているようだ。

 

「それはこうしたらどうでしょう。ふふっ。上手ですね。」

「成程。よく分かりました!ありがとうございます!」

今も事務仕事が苦手な雪風に、当番でもないのに秘書艦業務を教えている。とにかくこいつ、いつ寝てるんだろうってくらいよく働くのに、微笑みを絶やさない。

 

「どうも面白くねえ。」

『何が面白くないんですか?提督』

執務室から出て、廊下で軽く伸びをする。ふよふよと付いてきたのはこの鎮守府最古参。ある意味で俺様と一番付き合いの長いもんぷちだ。こいつになら話せるかもしれんな。

 

『ええっ!?フレッチャーさんの笑顔が気になる?』

「そうだ。考えてもみろ。聞いた話じゃアメリカ軍が総力を挙げて探していた奴だぞ。こんなちんけな鎮守府にいて満足な筈がない。」

 

なのに、あいつときたら何が楽しいのか常に笑顔でにこにこしてやがる。付き合いが長い時雨だってため息をついたり、怒ったりするのにあいつには沸点と言うものが存在しないように思える。

 

「そんな奴いるかあ?何か裏に隠しているに違いない。」

『普通に性格がいいのだと思いますけど・・。』

「ふん、そう見せている奴に限って裏があるんだ。そこで、だ。俺様は考えた。」

名付けてフレッチャーぷんぷんプロジェクトだ。FPPと名付けよう。

『相変わらず微妙なネーミングセンスですね・・。』

「やかましい!お前も手伝ってもらうぞ!」

 

FPP:NO1「料理に文句をつけた場合」

昼食時、サンドイッチを出してきたフレッチャーに対し、文句をつける。

「毎度毎度パンだと飽きがきてしかたねえ。冷やし中華はできねえのか。」

「与作、わがままはいけないよ。せっかく作ってくれたのに。」

 

時雨の奴がたしなめやがるが、俺様は止まらない。

 

「いや、今日の昼は冷やし中華の気分だったんだ。冷やし中華じゃなければ俺様は食わねえぞ!」

「テートク、子どもじゃないんだからさあ。フレッチャーさんを困らせちゃだめだよ。」

おいおい。がきはお前らだろうが。まあいい。ここまですりゃさすがのフレッチャーも困り顔になるだろう。って・・・ならねえだと?

 

「すみません、提督。お口に合わなくて。しばらくお待ちくださいね。すぐ作りますから。」

「えっ!?お、おい!!」

 

15分後。中華料理屋の物かと見紛う冷やし中華が笑顔で振るまわれる。

 

「提督、他にお好みの物があったら教えてくださいね!お作りしますから。」

「お、おう・・・。しいていうならハンバーグか・・。」

 

一口食べて衝撃が走る。旨いじゃねえか、こいつ。

 

「しれえの冷やし中華美味しそうです・・。」

「ふふ。それじゃあ、明日、雪風ちゃんは冷やし中華にしましょうか。あ、提督。サンドイッチ、私後で食べますので、残しておいてください。」

「ふんっ。こんな少ない冷やし中華だけじゃ足りるもんか。後で小腹が空いた時用にもらっていくぜ。」

「そうですか、ありがとうございます。それではこのランチボックスに詰めておきますね!」

「・・・・」

 

FPP:NO2「目の前でいきなり着替え始めた時」

 

 昼食を終えての午後の執務に入る。時雨とグレカーレは訓練中。雪風は相変わらずフレッチャーに秘書艦業務を教わっている。どうでもいいが、着任はお前が一番なんだぞ、初期艦よ。雪風がいるがまあいい、ここで仕掛けるか。

「ああ~暑い暑い!今日は暑くていけねえぜ。」

上半身裸になる俺様に雪風は顔を真っ赤にする。

「ちょ、ちょっとしれえ!?ここはお風呂じゃないですよ!」

くっくっくっく。これこれ。これが普通の反応だぜ。

「うるせえ奴だな。ちょっとぐらいいいじゃねえか、なあフレッチャー。」

 

さあて、どうくる、マザーフレッチャー。恥ずかしがって目をそらすか、それとも雪風みたいに怒るか・・。って、なんだあ、お前のその微笑みは。

 

「ふふっ。提督、暑いのは分かりますが、風邪を引いてしまいますよ。こちらでどうぞ汗をお拭きになってください」

 

照れもせず、タオルを差し出してきやがった。な、なんなんだこいつは・・。時雨やグレカーレでも雪風と同じ反応をするはずだぞ。

 

「さっき洗濯物を畳みましたので、そちらをどうぞお召しになってください。こちらのシャツ等はお預かりしますね!」

すぐさま洗濯に向かうフレッチャー。その顔には微塵も面倒くさいなどという思いは見当たらない。

 

FPP:NO3「大事なものを壊されたと知った時。」

ふよふよと来たもんぷちが俺様に耳打ちして見せる。

「なんだと?フレッチャーの網が切れただあ?」

フレッチャーが持ってきた網、自分でNetだのというぐらいだから相当大事なもんなんだろう。そいつがもし、わざと切られていたら?さすがのフレッチャーも怒るだろうぜ。

 

「えっ?本当ですか?」

さすがに焦ってやがるようだぜえ。そりゃそうだよな。大事なもんが壊されたらそりゃ怒るだろう。

 

「ああ。なんでも妖精達が遊んでいて壊しちまったみたいだぜ。」

工廠へ向かうとそこには何人かの工廠妖精とぼろぼろになったネットの姿。

 

「ああっ。私のネットが!」

 

くっくっく。これこれこれ!さすがの俺様もこいつのネットを切るのは憚られるから、もんぷち達に頼んで用意してもらった偽物だがよく似ているじゃねえか。よし、追撃だ。

 

「お前ら、これをふざけて切ったんだって!とんでもねえ奴らだ!!」

『ごめんなさい・・。』

 

工廠妖精の迫真の演技。いいぜえ、お前ら。後で出演料の金平糖をはずんでやろう。

 

「フレッチャー、びしっと怒った方がいいぞ。」

わざわざ怒りやすい場面をこしらえてやったんだ。お前も怒りやすいだろう?

ってなんだ、その表情は?妖精たちの頭を撫でているだとお?

 

「他人の大切な物で悪戯してはいけませんよ。物は壊れても直りますが、その人が大切にしてきた思いはなかなか治りません。気を付けてくださいね。」

『はい・・ごべんなざい・・。』

 

ちょい、待て。あいつらガチ泣きじゃねえか。嘘だろ。どう思う、もんぷちってお前もか!

『て、提督に言われて・・。これは本物じゃないんです・・。』

この野郎!俺様を裏切りやがった。だが、怪我の巧妙だぜ。ここまでされればさすがのマザー様も怒るに違いねえ。ひっひっひ。怒った面をようやく拝めるぜエ!!って・・。何だ、それ。頬をふくらませて。

「もう、提督!!嘘はいけませんよ。びっくりしました。」

「お前、それ怒ってるんだよなあ・・。」

「もちろんです。ぷんぷんですよ!」

 

おっ。ぷんぷんしているらしい。プロジェクトは成功だな・・って。なんだ、この可愛い生き物。おい、落ち着け。俺様はロリコンじゃないぞ。ロリコンじゃないんだが、どう考えてもこいつの破壊力がすごすぎる。き、鬼畜道はどうした。おい。俺様の鬼畜オーラが押されている、だと・・?

 

「あっ!提督!!どうしました?」

一目散に走って逃げる俺様。何なんだ、あいつは。浄化されちまう!!

 

もんぷちも頼りになれねえとすると、もうこの鎮守府で話し相手になるのは、こいつ憲兵の爺いしかいねえ。孫ボケしてしかたねえが、無駄に歳食ってねえだろ。

 

「おお。お前さんか。この間の鳩サブレは美味しかったよ。」

「ふん。そいつはどうもお。今日は貴重な俺様の時間を使ってお前に聞きたいことがある。」

「ほう、びちく提督がわしに。何じゃろ。」

「だから、き・ち・くだ。間違えるな。」

「わ、分かったから顔を近づけるな!それで何の用じゃ」

「何をしても怒らない奴がいてな。怒らせたいのさ。お前ならどうするね。」

「何をしても怒らないのだから、放っておけばいいじゃないかね。」

「裏で何を考えているか分からん。」

「お前さんのところの娘さん達は皆素直じゃぞ。とくに最近来たフレッチャーさんなんか、わしにもサンドイッチをくれるしの。」

 

はああああ?何だその話、聞いてねえぞ。とっくに買収され済みじゃねえか、この爺。

 

「買い物なんかも別にわしは面倒くさくないんじゃが、あの子なんかはわしの分まで買ってきてくれるからのう。優しいええ子じゃ。」

 

おい、言われてるぞ、グレカーレ。お前ひょっとして憲兵の爺ランキングで最下位の可能性があるぞ。爺と話し込んでいると、噂をすれば影。なぜかフレッチャーが来やがった。

 

「あ、お爺さん。こんにちは。提督!!こちらにいらしたんですね。お買い物に出かけようと思うのですが、よろしいでしょうか。」

買い物の許可だあ?何を買いに行くんだよ。

「はい。雪風ちゃんだけでなく、他の子も冷やし中華が食べたいということでしたので。足りない分を買いに行くのと、提督が先ほど仰っていたハンバーグをお夕飯にしようかと。」

「ほお。そいつは楽しみだなあ。いってらっしゃい。」

「はい!!行ってきます。」

 

買い物かご片手に出かけるフレッチャー。おいおい。俺様の脳裏に天啓が閃いたぜ。そうよ。鬼畜道のイロハである徘徊を忘れていたぜ。いくらこいつが天使様でも、一人でいる時にはほっと一息つくだろう。そういう時はついつい愚痴の一つも言いたくなるんじゃねえかい?いいねえ。こいつは。早速後をつけてみるしかねえな。にやけ顔の爺なぞ放っておいて。それではストーキングの始まり始まり~。

 

おかしい・・。普通に近所の連中と挨拶を交わし、横断歩道で爺が入れば手を引いて歩いてやがる。あいつ、あんなに善人ぶっててよく疲れねえな。元から善人なのか?よく分からなくなってきちまったぜ。

そもそもこの鎮守府の周りにはスーパーはなく、個人商店かコンビニしかない。一番近いスーパーでも二キロはかかる寸法だ。この近くの連中は車で行くってのに、よくそうちょくちょく買い物に行けるもんだ。

 

「おい・・。」

「ああ。艦娘じゃないか?この間駅前にいたって子かな?」

「プラチナブロンドって話題になってたし違うだろ。金髪じゃないか。」

「え?じゃあ、新しい子?それはすごいな。」

 

ひそひそと話をする連中を気にせず、野菜売り場を物色するフレッチャー。なかなかどうして肝が据わってんな。あっ、こら。スマホを向けて写真を撮ろうとするんじゃねえ。

 

「わっ!何すんだ、おっさん。」

「写真撮影はご遠慮願っておりますんで。事務所を通していただかないと。」

「じ、事務所って那珂ちゃんじゃあるまいし。艦娘は国のために働いているんだろう?少しくらいいいじゃないか。」

「確かに国のために働いているが、あんたのために働いているんじゃねえんだ。だったら、あんたも最低限のマナーを守ったらどうなんだ?」

「う、うるさいな。おっさん。どけよ!!」

 

どん。おいおい。これで正当防衛だなあ、おい。口元を掴んで、上に釣りあげてやると、じたばたと、醜くもがく雑魚が二匹。

 

「聞き分けの悪いお口はこいつかい?二人同時にひねりつぶしてもいいんだぜえ。」

「ううしてくらはい・・。」

「ふ、ふみまへん・・。」

 

放心状態の連中を尻目にフレッチャーを探すが、あっという間にレジを終えて、買ったものをかご

に詰めてやがる。あいつ、ほんとにそつがないな。

 

「これに懲りたら、もう許可なく艦娘を撮影しようと思うんじゃねえぞ。」

あほ共にきつく灸をすえて、店を出て、後をつける。うん?ちょっと待て。あの車変じゃねえか。さっきからぴったりとフレッチャーの後をつけてるぞ。あっ!!信号で止まった瞬間中から黒服が出てきやがった。

 

「きゃ、きゃあ!!な、なんですか!」

「とにかく、一度来てください!」

「い、嫌です。なんですか、突然。止めてください!!」

 

嫌がるフレッチャーを四人がかりで車に押し込もうとする黒服ども。おいおい。なんだ、こいつら。ふざけてんのか?

 

「だ、誰か!!助けてください!」

「ちょっと、誤解しないで!ってぐええええ。」

 

腹に一発。汚ねえ汁を吐き出しながらのたうち廻る黒服Aと驚くB、C、D。

 

「白昼堂々舐めた追い込み掛けやがって、ド素人が。」

「て、提督!!」

 

おいおい。何なんだ、その嬉しそうな声は。勘違いするなよ、うちの鎮守府の貴重な家事スキル持ちがいなくなったら俺様の負担が増えるんだよ。

 

「提督?江ノ島鎮守府の提督か。我々は横須賀にある米軍基地の関係者のものだ。追って要請を出すから、この場は引いて欲しい。」

 

「はあ?バカかお前。人の鎮守府の大切な人手を誘拐しようとしてるんだぞ。断りもなくな。知ったことか。」

 

「誤解があるようだ。重ねていうが、追って要請を出す。」

「あーあー、聴こえなーい。上から目線で何をほざいてやがるんだあ?人の鎮守府の

艦娘に手を出して偉そうに。要請だあ?断る。」

 

「日本とアメリカの間で問題になるぞ!」

「知るか、ぼけ。」

「ちっ、話が分からん奴だな!!興奮しやがって。後で話すと言っているのに。」

おいおい。銃を出しやがった。どっちが興奮しているか分からねえな。

「て、提督・・。」

 

普通に考えればフレッチャーが動けばこんな連中どうということはない。だが、艦娘が人間を傷つけたとあっては色々問題になるだろう。

 

「おい。手を挙げろ!!」

「完全に悪者の台詞だなあ。よくそれで、国がどうのと言えるもんだぜ。」

「撃つ気がないと思ってるのか?脅しじゃないぞ。」

「まあ、せいぜい威嚇だろうよ。殺気がないのが丸分かりだ。さて、取り出だしたる、この100円玉。どうすると思うね?」

「な、何だ?」

 

人差し指に載せて・・・親指で弾くっ!!

 

「うっ!」

「ぐっ!!」

「ああっ!!」

 

地面に転がる拳銃三つ。素早く確保すると共に、フレッチャーの手をとって、走り出

す。

 

「こいつは証拠として預かっておくからなあ。じゃあなあ。」

「ま、待て!!」

 

おいおい。しつこい野郎だ。待てというから待ってやったが。

 

「あんまりしつこいと、指弾だけじゃすまねえぞ。そんなにぶちのめされたいかい?正直俺様は強いぜ?」

 

ほんのちょっぴり、気合を飛ばすだけで怖気づく軍人ども。おいおい。情けねえな。それでも本職かよ。

 

「要件があるなら筋を通しな。いつでもお待ちしているぜ。おら、行くぞ。フレッチャー。」

「は、はい・・。」

 

長い江ノ島の弁天橋を通って、鎮守府へと戻る。その間、何度か手を放そうとするんだが、なぜかフレッチャーが放したがらない。

 

「おい。」

「なんでしょう、提督。」

「いつになったらお前は手を放すんだ。いい加減暑苦しいぞ。」

「すいません、提督。こうしていると安心できるものですから。鎮守府へ戻るまでお願いできませんか?」

「ふん。おやぢの加齢臭が移っても俺様は知らないからな!!」

「ありがとうございます。今日のハンバーグ、頑張って作りますね!」

「俺様の分は大きめに頼むぜ。」

「はいっ!!」

 

フレッチャーは嬉しそうに笑顔を見せた。こいつ、本当に何なんだ?どうして鬼畜モンの俺様にそこまでの笑顔を向けるんだ。分からねえ。こいつは本格的に対策を練らないとまずいぞ。何とかしねえとこのままじゃ俺様の鬼畜オーラが消えてなくなっちまう・・。

 




登場人物紹介

与作・・・・・・己の鬼畜力の衰えを自覚し、まず「鬼畜道極意の書」を読み直すことから始める。
フレッチャー・・手作りハンバーグが与作に好評でにっこにこ。鼻歌を歌いながら後片付けをしているところを目撃される。
雪風・・・・・・与作の分のハンバーグの大きさにびっくりする。
グレカーレ・・・与作とフレッチャーが手をつないで帰ってきたことにびっくりする。
時雨・・・・・・帰ってきたフレッチャーが戦意高揚状態だったため、与作を問い詰め、フレッチャーを内心要警戒から脅威へと認定を格上げする。
もんぷち&工廠妖精・・演技の下手さから出演料の金平糖を減らされ、ブーイング。

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