鬼畜提督与作   作:コングK

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今回はシリアス回となります。
終戦記念日ということで、投稿しました。先の大戦で命を落とされた方々のご冥福をお祈りいたします。
南極観測船宗谷は今もお台場にありますので、お勧めです。運がいいと実際に乗っていた方の話を聞くことができます。

始まりの提督のイメージは黒髪の魔術師です。作者の中で提督というと、一番最初にイメージされる人物なので。



特別編  「その日の記憶」

鎮守府近海戦を終えて、すぐの休日。

僕こと駆逐艦時雨と、与作は二人して東京のお台場に向かった。

 

デートだって?そうだったら嬉しいけれど、今回は目的が違う。元船の科学館にある、艦娘慰霊碑に行くのさ。

 

以前船の科学館と名付けられていた博物館は、今現在は艦娘資料館となり、そこそこの賑わいを見せている。中には艦娘のコスプレ?というのかな。恰好を真似してくる人たちもいるから、ぼくが姿を見せてもあまり目立たない。

 

「おい、時雨。こっちだ。」

ぼうっとしていたためか、与作が僕の手を引っ張る。あれ?初めてじゃないのかな。やけに詳しいね。

「ふん。俺様はお前たち艦娘が現れる前からの常連よ。あいつらのようなにわかじゃねえ。」

「そうかい。実は僕は初めて来るんだ。これまでは来る気がしなかったから・・。」

 

そうして大きな駐車場を横切って見えてきたのは、オレンジと白を基調とした船。不可能と言われた過酷な南極への船旅を成功させ、敗戦にうちひしがれたこの国の人々に希望を抱かせた奇跡の船。南極観測船宗谷。かつて特務艦としてあの大戦に従事し、ミッドウェー・ソロモンなどの作戦にも参加をしながら、ただの一度も沈まなかった「帝國海軍最後の生き残り」。

 

「やあ、宗谷。元気そうだね。」

あちこちを測量して廻るため、色々と配属先が変わった宗谷とは僕自身はあまり面識がない。姉妹艦の海風や涼風なんかは関りがあるみたいだし、雪風なんかは作戦を一緒にしたこともあって、会いたがっていた。でも、そんなのは関係ない。あの大戦の後、復員船、灯台補給船、南極観測船、巡視船と立場を変えて、それでもこの国のために働いてきた宗谷は、僕たち艦娘にとって尊敬の対象だ。その傍らに艦娘達の慰霊碑が置かれたのは、僕たち艦娘達のささやかな願い。自分たちが沈んだ後も今も浮き続ける友を、その側で見守っていたいという思いから。

 

「まず、済ませちまうか。ほらよ。」

慰霊碑の側にある常設の献花台に花をそえる。鉄底海峡の戦いが終わった後には毎日献花に訪れる人がいたため、係員もついていたようだけど、今は毎年の慰霊祭以外では時折艦娘達が来るだけなんじゃないかな。置かれていた花も色が枯れていたし。

 

目をつむり、思い出す。始まりの提督と出会った時のこと。そして、あの戦いの前日のことを。

 

「君が時雨かい、よろしくね。」

 

ぶっきらぼうだけど、どこか憎めない。側にいるとぽかぽかする人。始まりの提督はそんな人。

 

「僕はいつでも一緒にいる」

 

提督にいつもそう言っていたけれど、約束を破ったのは僕だね。

今から19年前、深海棲艦出現初期にあった大攻勢。艦娘の戦力も乏しく、日々増加する敵の増援に頭を悩ませていた時のこと。提督が立てたのは敵本拠地への全戦力をもってしての大胆な奇襲だった。

 

「全軍だと?何をバカな。この鎮守府の守りはどうする。」

激高する長門に、提督は頭を掻きながら説明する。

 

「守りを気にする程の生易しい戦力差じゃない。我々の目的は何としてもこの大攻勢をしのぎ、後世に望みをつなぐことだ。幸い、各国でも提督候補生・艦娘が順調に育ってきている。もう一年すれば今よりも遥かに人類が生き残ることができる可能性が増える筈だ。」

「そのための作戦だと?バカバカしい。これでは先の大戦の特攻と変わらんではないか!」

 

長門の怒りの拳を叩きつけられ、提督の机が割れる。慌てて駆け寄る今日の秘書官の妙高を手で制して、提督は立ち上がり長門の肩に手を置いた。

 

「それは違うよ、長門。君が誇り高い連合艦隊旗艦であり、先の戦いで多くの者を死なせてしまった自責の念をもっているのは分かる。そして、特攻という言葉に対し、嫌悪感を感じていることも。私だってそうだ。いかに死なないかやってきた。戦争を賛美することなんかしない。特攻などする前に土下座して謝れば済むというなら喜んでそうするだろう。だがね、相手がこちらを滅ぼすつもりである時は別だ。どこにも逃げ場はなく、戦わなければ自分の大切な人が無慈悲にやられてしまう。そう分かっていたら、私だって非力だが、銃を持って戦うさ。」

 

「提督が銃を持ってても役に立たねえけどな。この間まるゆに腕相撲で負けてたしよ。」

摩耶の発言に周りがどっと沸き、長門もつられて笑みをこぼす。

 

「それに、特攻といったが、これしかもう手がない。鎮守府に居座り防衛戦を続けていてもどこからも救援が望めない上、敵戦力は増加の一途。このままでは遠からず押し込まれる。建造されたばかりの艦娘や、提督候補生などは蹂躙されるだけだろう。我々の敗北は人類の敗北なんだ。できるとすれば、現有戦力でもって、敵本拠地に壊滅的なダメージを与え、ひと時の猶予を得ること。引き換えに我々もほぼ生きて戻ることはできないがね。」

 

冷静に提督は告げた。これまでの戦いで一度も見たことのない提督の覚悟を決めた顔。いつものんびりとしていて、周りからもっと緊張感を持てと言われていた提督が初めて見せた申し訳なさそうな表情。

 

「ふっ。そういうことか。」

 

提督の手に自らの手を重ねると、長門はしばし目をつむった。

どれくらいたっただろう。

再び目を開けた時、長門は苦笑し、肩をすくめてみせた。

 

「全く。とんでもない提督に仕えることになったものだ。部下に死んで来いとはね。無能だな。」

「それについてはすまないな。あらゆる可能性を検討したが、これしか思い浮かばなかった。」

「ふん。」

どんっと長門は提督の肩に手を置く。

 

「無能な指揮官の尻拭いは私の仕事だな。まあ、任せておけ。連合艦隊旗艦としての意地を見せて

やろう。」

 

長門の言葉に沸き立つ執務室。その後のことは今でも鮮明に覚えている。提督が無礼講だと艦隊全部での宴会を許可したこと。みんなで飲んで歌って騒いで、ゆっくり一晩寝て。

世が白み始めた頃。ドックで待つみんなの前に現れたのは頬を腫らした提督と泣き腫らした目をした鳳翔。

 

「全く提督よ。これから戦に出るというのに見せつけるな。」

武蔵の軽口に肩をすくめる提督。

「私も出ると言ったら怒られてね。一晩かかって説得したのさ。」

「なっ!何を言っているんだ。提督も一緒に行くだと?無茶な!!」

皆を代弁して長門が怒りの声を上げる。提督がなぜ?その必要はない!でもダメだっだ。

 

「無論承知の上だ。だが、実際にこの目で確かめなければならないのさ。なぜ敵さんは倒しても

 倒しても復活するのか。そのためには私も行く必要がある。」

 

提督は強情だった。鳳翔も幾度となく説得したんだろう。けれども、提督はいつも自分だけが安全な後方にいて指揮を執っていることに対して憤りを感じている人だった。

 

「それじゃ行こうか、みんな。鉄底海峡へ」

まるで近所に散歩にでも出かけるように提督は言い、そしてその戦いで帰らぬ人となった。

 

提督、西村艦隊のみんな、白露型の姉妹たち・・・。みんな、みんないなくなってしまった・・。

 

「うっ・・・ぐっ・・・・。」

涙なんて涸れ果てたと思っていたのに。もう吹っ切れたと思っていたのに。どうしてだろう。どう

してこんなに悲しいのだろう。

「おいおい。鼻水まで垂らしてみっともねえぞ。これでも使え。」

そう言って与作が差し出したのは、さっき駅前で配られていたポケットティッシュ。ここはハンカ

チじゃないか。どうしてこう、女心が分からないのだろう。

 

「ふん。嫌なら返しな。びーびー泣きやがって。」

「ごめんね。気持ちの整理はついたつもりだったんだけど、そうでもなかったみたいだ。」

これ、本当に安物のティッシュだね。ちょっと拭いただけで、顔に残るよ‥。

 

「気持ちの整理なんてものは自分でするもんだ。人に言われてするもんじゃねえ。残しておきたい思い出ってこったろうさ。無理に捨てようとすると、悔いが残るぜ。」

「そうだね・・。」

再び目をつむり、みんなの冥福を祈る。みんなはここにはいない。いるのはあの鉄底海峡だ。でも、海で続いているここにはひょっとしたら来られるかもしれない。

 

「さてと、俺様は久々に宗谷でも見学していくかな。以前は夏と冬の祭りごとにここに立ち寄っていたもんよ。」

 

夏と冬の祭り?そんなものあったっけ。

 

「バカ。そんなことも知らねえのか。深海棲艦騒ぎのせいで、今は埼玉の方でやるようになったがな。訓練された一流の猛者どもが集い、汗だくになって闘う祭りがあったのよ。」

なんだい、それ。随分珍しい祭りだね。けんか祭りとかなのかな。

「まあ、どこかで調べてみな。おう。久しぶりだな。」

与作が受付に声を掛ける。知り合いなのかな。って、あの帽子・・。見覚えがあるよ・・。

 

「毎度。3か月ぶりくらいかな。元気にしてたのかい?」

 

そこにいたのは駆逐艦響。でも、ただの響じゃない・・。この響、知ってるよ!

 

「ひ、響?ここで何してるの?」

「何ってボランティアさ。誰かさんが腐ってごろごろしている間も私はここで宗谷のボランティアをしていたんだよ。」

僕と同じく偉大なる7隻(グランドセブン)などと呼ばれている鉄底海峡の生き残り。それがなぜ、こんなところでボランティアを?

 

「なぜって言われてもね。趣味と実益を兼ねてさ。ここなら釣りをするにもうってつけだし。今艦娘資料館の館長を務めている天龍もよくしてくれるしね。」

「与作とは知り合いなの?」

「普通にお客さんだよ。ちょくちょく来ているよ。きちんとカンパもしてくれるし。」

「カンパ?」

「宗谷の維持協力金だよ。見るだけなら無料なんだけどね。一応お願いしているのさ。あっどうも。はい、これどうぞ。」

 

響が差し出した箱の中に与作が入れたのは二千円。え?何で?

 

「うるせえ、意外そうに見るな。俺様の小さいころにやってたTV番組で特集していてな。この船が好きなんだ。」

 

代わりに響からもらった宗谷のカードを与作は見せびらかす。与作のことだから無料だったら喜んでお金なんて出さなそうだけど・・。

 

「ふん。出していいと思うから出す。それだけだ。大体なあ、お前知らないだろうが大英博物館なんかもカンパなんだぜ。それを無料だからと何も払わないのはただセコイだけだろうよ。」

「よ、与作の言葉とも思えない・・。」

「やれやれ。時雨はもう少し、自分の新しい提督について知るべきだね。あのおじさん、来るたびに話すけど、結構面白いよ。」

「!!ちょ、ちょっと、響・・。今の話聞き捨てならないんだけど・・。」

「おい、バカ時雨!!置いてくぞ。俺様は早く中が見たいんだ!」

 

与作が足早に宗谷へと入っていく。ちょ、ちょっと待ってよ。置いて行かないでよ。

「早く行かないと、あのおじさん、とにかく歩くの速いよ。」

 

淡々と話す響。昔から変わらぬ態度に思わず苦笑し、お財布から出した二千円を箱に入れようとすると、意外そうな顔をされた。

「おじさん、さっき二千円入れたのは時雨の分も含めてだと思うよ。いつも、千円だから。」

「そうなんだ。でも構わないよ。入れさせてよ。」

「はい、毎度ありがとうございます。まあ、時雨も新しい一歩を踏み出せたようでよかったね。」

「うん。響も元気そうでよかったよ。また来るからね。」

 

宗谷やみんなにも会いに。そしていつか。平和な海になったよと報告ができるといいな。

 




登場人物紹介

与作・・・・実はプラモに凝っている。宗谷のプラモと探査機はやぶさのプラモがお気に入り。
時雨・・・・帰り道に、響との関係を与作に問いただすも、欠伸で返される。
響・・・・・宗谷の受付をボランティアでしながら、時々は近くでのんびりと釣りを楽しむ毎日。たまに長門が隣で釣りをしながら愚痴をこぼしてくるのに困っている。
雪風・・・・宗谷に会えなかったことが心残り。次回は自分を連れて行くようにと話し、与作の譲歩を引き出す。

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