鬼畜提督与作   作:コングK

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書きかけの原稿が吹っ飛ぶとは思いませんでした・・・。異常な暑さのせいか分かりませんが・・・。


第二十一話「LOS会合す」

フレッチャーが攫われそうになる事件が起きた日の夜のこと。独自のオンライン会議ツールを使用し、集まったのは7人。それぞれがなぜかLと書かれた黒頭巾を被り、表情は見えなかったが、全身から緊張を漂わせていた。

L1と書かれた頭巾を被った男は某特務機関の司令のように、机に両肘を立てて寄りかかり、両手でその口元を隠しながら、盛大にため息をついた。

 

「諸君、すでに暗号化された通信でそれぞれに第一報は送ったと思うが、我々Lの魂を持つ者に対しての許しがたい暴挙が行われた。」

L3と書かれた黒頭巾が手を挙げる。

「通信は受け取ったが、本当なのか。まさか、駆逐艦フレッチャーが建造されるとはな。我が国があれほど大捜索をしたのにもかかわらず一隻しか見当たらなかったと言われているのに。」

「事実だ、L3。私は実際にその姿を見ている。」

「うむ。フレッチャー建造の報告については、私の耳にも届いている。間違いない。」

L7が補足する。声からして女性のようだが、頭巾のため、その表情は伺いしれない。

 

не могу простить(許せん)!!よりにもよっていたいけな駆逐艦を誘拐しようとは。もし、同志ちっこいのが同じような目に遭っていたら、すぐさま戦争を仕掛けているところだぞ。」

これも、女性らしきL5が怒りに任せて机をどんと叩き、画面が揺れる。

「落ち着け、L5。お前も知っている奴なら、よく釣りをしていて元気だ。」

「話を戻さんかね。」

古参のL2が軽く咳ばらいをすると、一気に雰囲気が引き締まる。彼は実質この会の責任者であったのだが、老齢を理由に前途ある後進にその立場を譲った。そのため、いまだに会員達からは一目置かれている。

 

「L1の言った通り由々しき事態だということは理解した。それで、それぞれ宿題は終わっているのかね?」

「L2にはかなわないな。ではまず拙者から。国内国外のあらゆるチャンネルを使い、全世界の同志に呼びかけ、かかる事態への協力を要請した。世界各地で『フレッチャー』『グレカーレ』『夕雲』『イントレピッド』以上の4つのキーワードを含めた通信を断続的に行った上で、青森にあるエシュロンにハッキングを仕掛けた。」

「何?三沢にある奴か。あれは移送された筈だろう。」

 

L7の驚きも無理はない。およそ20年前に起こった深海棲艦との戦いで太平洋艦隊を失ったアメリカは、その後艦娘の登場まで、国の威信にかけて戦いを挑んだが負け続け、大きく国力を落とした。その結果、日本と米国との間で結ばれていた日米安保条約を改正し、日本からの米軍基地の駐留負担費を増額する変わりに、日本をエシュロン参加国へと格上げする旨協定を取り交わしたのである。その際の取り決めでは、青森にあるエシュロンを横須賀の米軍基地へと移送し、そこで情報収集を行うとされていた。

 

「いいや。残っておるよ。基地内にあったのは取り除いたが、基地から離れて作っているのがあった筈だ。せこい奴らめ。残しておいてそいつを利用したな。」

「L2の言う通りだ。我々モサドもその件を掴んでいる。」

「何だと!協定違反ではないか!日本国内での情報収集は横須賀のみで行うとされていたはずだ。それに、L4、なぜお前はそのことを我々に伝えぬ!」

 

常人であれば、画面越しであってもすくみ上がるであろう、L7の怒気を受けても、L4はまるで動じない。モサド(イスラエル諜報特務庁)きっての腕利きと言われる彼は、厳しく品性・知性・趣味趣向まで徹底的にデータで精査されるモサドの採用にあたり、その性癖を一切闇に隠し、ついに掴ませなかった男である。涼しげに、だが、断固たる態度でL7の疑問に答える。

 

「L7、何か勘違いがあるようだ。我が国と貴国でそうした情報のやりとりをする協定なりがあったかな。航空協定や投資協定を結んだ覚えはあるが。」

「ならばなぜ!今回に限ってその情報を教える?」

「なぜ?優先順位の問題だよ。私は確かに祖国から金をもらってこの仕事をしているがね。祖国よりも己の信ずるものを優先する。ましてや、今回の件は我々への挑戦といっても過言ではない。」

「同感だな。L1と同じく私の方でも、わが合衆国国内にあるエシュロンにハッキングをかけた。その結果、先ほどの4つのキーワードの中で、『フレッチャー』のワードを含めた通信に対する分析に大幅にリソースを割いていることが分かった。」

L1と同じく、その道で名の知れたハッカーであるL3は断言する。

「こちら青森の結果も同じくだ。米国の上層部はフレッチャーの情報を必死になって集めている。」

「どういうことじゃ。フレッチャーを手に入れたというのに、奴らまさか二隻目三隻目も欲しがっているというのか。」

「ふん。大量消費こそステータスと信じる連中だ。それもあるだろうさL2。」

「それはどういう意味だ?L5!」

「静かにしたまえ、L3。L5もだ。趣旨と外れる発言は止めたまえ。お互いに忙しい身だ。」

 

激高しかけたL3をなだめたのは先ほどから沈黙を保っていたL6。ドイツ海軍の紺色の軍服に身を包んだ彼は、常日頃寡黙な男で、滅多なことではしゃべらないことから軍では沈黙提督などと呼ばれている。その彼が唯一積極的にしゃべるのはこの会合であり、普段の彼を知る者からすれば別人だと思われただろう。

 

「話を整理する。米国はフレッチャーを手に入れたが、フレッチャーの情報を執拗に欲している。二隻目を得るため?大規模作戦の折、国家予算にまで手をかけて手に入れたフレッチャーがいるのにか。私はマザコンではないので分からぬが、マザコンとやらは一人のママでは満足できないものなのか。」

「わしはマザコンでないから分からぬのう。色々なママがいて嬉しいというのは分かるが、同じママが二人も三人もいて嬉しいものか?」

「我々には分からん考え方だな。そのような考え方、せっかく手に入れたフレッチャーへの冒涜だと思うのだが。それとも米国は手に入れたものに関しては冷たく扱うのかね?」

「そんなことはないぞ、L6。ドロップした後、ホワイトハウスに招かれて以降、彼女が姿を現わしたのは一回だけだが、その時には20万人が詰めかけた。マザーコールのすごさに耳が潰れるかと思ったぞ。その時に撮った映像がこれだよ。」

 

L3は、得意げに大規模作戦成功の報告会を兼ねたフレッチャーのお披露目会の映像を見せた。

「貴重な駆逐艦と言うことであちこちの伝手を使い、何とか前の方を確保したんだ。」

 

「ほう、これがフレッチャーか。同志タシュケントよりは小さいな。」

「・・・。」

「どうした?L1。何か気になることでもあるのか・・・」

 

映像を凝視し、考え込む素振りを見せたL1にL7が尋ねる。

 

「L7・・・。艦娘型録の写真は基本的にその国が提出するものですよね。」

「ああ、そうだ。それが何か?」

「何か、気づいたのかね、L1。」

「はい、L2。先刻から何やらあった違和感。それが何ゆえか分かりました。」

「違和感だと?私は何も感じないが。」

 

一流の諜報員である自分を差し置いて、何に気付けるものかとL4は言外に含める。

 

「はい。これは実際に動いている映像を見比べられた拙者だから気付けたことです。」

「何じゃと?」

「一体何に気付いたのか。教えてくれ!」

L4の問いかけに一呼吸ついてからL1は驚くべき一言を告げた。

「米国にいるフレッチャー。本当にフレッチャーなんですかね?」

 

一方その頃・・。

江ノ島鎮守府近くにある寂れたヨットハーバーから、辺りの様子を伺っていたNSA(国家安全保障局)の2人の元に、横須賀から指令が届く。

「マザーを確保せよだと。」

「無茶を言ってくれるわね。鎮守府にいるんじゃどうしようもないじゃないの。そもそも私らは情報分析が主な仕事でしょ。こんなのCIAにやらせればいいじゃない。」

「深海棲艦のせいで人手が足りないんだよ。昼間の失敗に懲りたんだろうがね。馬鹿どもが、正面切って余計なことをして警戒感を高めちまった。難易度的には最悪だぞ。」

「私たちはわかりゃしないわよ。同郷だもの。」

女はにやりと笑う。そもそも日本人は外国人には距離をとるが、相手が日本人同士ならば驚くほど無防備だ。

「まあ、明日仕掛けてみようじゃないか。ふふ。楽しみだ・・・。」

軽く伸びをして男が仮眠をとろうとしたとき、

 

こんこん。ドアをノックする者があった。

見るや、リュックサックを背負ったおさげの少女が小さく手を振っている。

「何だ?こっちはこれからいいところなんだ。ヒッチハイクなら他を当たりな!」

「ごめんね。悪いけど、そういうことなのよ。」

二人が車内から叫ぶが、なおも少女はドアをノックする。

 

「聞こえてないのか?」

窓を開けて、大声で怒鳴ろうとして、男はいきなり顔面を鷲掴みにされ、そのまま車外に引きずり出される。驚いた女が慌てて男を救おうと外に出ると、そこには倒れた男と、不気味に笑みを浮かべる少女の姿があった。

「な、何なの、あんた!物取り!?警察を呼ぶわよ!!」

「いいけどねー。別に。」

 

ゆっくりと近づいてくる少女の不気味さに訓練を受けた諜報員の女も震えが止まらない。

「ちょ、ちょっと!私たちはただここに海を見に来ただけよ!!」

「この時間に?わざわざ?明日何か仕掛けに来たんじゃなかったっけ。」

「き、聴こえていたの・・・。つ、釣りに来たのよ。か、カワハギを釣りに・・。」

女の言葉にけらけらと笑いだす少女。

 

「な、何がおかしいのよ!」

「カワハギが釣れんのは秋から冬だよ。」

「え・・!?」

次の瞬間、女が逃げる素振りを見せる間もなく少女は女を苦も無く確保する。

 

「な、何なのあんた!」

「あら分からない?ちぇっ。自分では名前が売れたつもりだったんだけど、そうでもないみたいだねー。まあ、面倒くさいから駆逐艦被害者の会の会員と名乗っておこう。」

「わ、私たちをどうするつもりよ!」

「さあ。そういう面倒くさいことは偉い人が考えることでね。あたしはとりあえず、借りを返したというか、微妙にアピールも入っているというか。まあ、そんな感じ?」

「ちょっ!!!き、聞き捨てならないんですけど!」

 

突如気配も感じさせずセミロングの少女が現れ、乱暴に男を担ぎながらおさげの少女に叫ぶ。

「まあまあ。それより、ちゃっちゃと車にこの二人入れちゃおうよ。お掃除お掃除。」

「了解です。おら、さっさと乗りなさいな。」

自分たちが乗ってきた車の後部座席に押し込められる男と女。逃げられぬようおさげの少女にがっしりと手を掴まれたままだ。

「ほんじゃ、運転よろしくね!」

「全くもう。突然ドライブしようと言うから期待していたんですよ!」

「ここまでドライブしてきたじゃん。愚痴りなさんな、ほら出した出した。」

「んもう!分かりましたよ・・。」

むくれるセミロングの少女を尻目に、おさげの少女は江ノ島鎮守府の方を見て微笑んだ。

「あたしってさー、結構健気だよ、おじさん!」

 




登場用語紹介
LOS(Loli Of Soul)
20年前に現れた艦娘の駆逐艦を愛でることを第一と考える、特定の性癖を有する者達の集まり。全世界に存在する会員の数は、巷間の噂では300万を優に超すと言われており、特に最高幹部はロリ7(ろりせぶん)と呼ばれ、その道の者からは大変な尊敬を得ている。特筆すべきは彼らは駆逐艦の保護を第一と考え、度を超した輩に対しての制裁を辞さないところにあり、最高幹部たちは「駆逐艦最後の守護者」「ロリコン界の必殺仕事人」と呼ばれ、恐れられている。
                    民明書房刊「世界面白組織100」より

登場人物紹介

L1・・・会長。日本人、提督。
L2・・・日本人。元軍人とのことだが詳細不明。老人。
L3・・・アメリカ人プログラマー。凄腕のハカ―
L4・・・モサド(イスラエル諜報特務庁)のすご腕。
L5・・・ロシア出身のとある戦艦娘。
L6・・・ドイツ海軍出身沈黙提督
L7・・・日本出身のとある戦艦娘。
セミロング「あのくそおやぢがあああ!」
NSA男女「ぎゃああああ、死ぬううう!!」
おさげ・・「安全運転でよろしくねー。」

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