鬼畜提督与作   作:コングK

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着任した鬼畜。


第三話 「鬼畜着任」

「おれはー鬼畜ー俺は―鬼畜ー鬼畜の、よさーくさん♪」

 

横須賀鎮守府所属、江ノ島鎮守府。それが、今日から俺様が着任する鎮守府だ。

思わず鼻歌が出ようってもんだ。観光地江ノ島にある鎮守府。さぞかし立派に違いない。

 

「そう思ってた時がありました・・・って、なんじゃこりゃー!」

 

横に見ようと斜めに見ようとどう見てもおんぼろな建物に、寂れた島内の景色。どう見ても、江戸時代から続く観光の名所とは思えない。

「ご苦労さんです。今度来る提督ってのはお前さんかね。」

 

いかにも憲兵でございという服装をした爺が声をかけてきやがった。

「ああ。鬼頭与作。人呼んで鬼畜提督とは俺様のことよ。」

「ほうほう。殊勝なこったな。びちく提督とは。」

「備蓄じゃねえ。き・ち・く!」

 

この爺ボケてんのか。艦娘どもに恐怖を与える俺様に対して失礼な。まあいい、ところで、このざまはなんだ。どう見ても観光地には見えないが。

 

「ああ。5年ぐらい前からじゃな。深海棲艦どもが近海にまで出てくるようになると、海水浴の客が途端にいなくなってのう。鎮守府に至っては、いつまでたっても深海棲艦を退治できず野放しにしていると周辺住民の怒りをかってな。暴動が起きてこのざまさ。」

爺め。さらりと語りやがった。ノベルゲームの嫌いな俺様なら読んで飛ばすかスキップするところだ。ただ、気になることがある。元々いた提督や艦娘達はどこへ行ったんだ?

 

「そりゃあ、大本営に戻っていったよ。守るべき住民から暴動を起こされてさすがの彼らも頭にきたんだろう。かといって手を挙げるわけにもいかん。苦渋の選択だったんだろうな。深海棲艦どもも初めのうちは鎮守府に爆撃なんかを仕掛けていたが、やがて反応がないと分かると放っておくようになった。ここは横須賀からも近いし、わざわざ鎮守府を作らんでもカバーできると言われてたからな。」

 

おいおいおいおいおいおい。なんだあ?そのマイナス情報のオンパレードは。これから艦娘ハーレムを作り上げようとしている俺様に挑戦してやがるとしか思えないぜ。これも提督養成学校のペア艦であるあの三つ編み野郎が人の幸運を吸い取っていきやがったからに違いない。

 

だが、悩んでいても仕方がない。俺様の明るい鎮守府ライフのために、気を取り直していくしかないぜ。憲兵の爺から鎮守府の扉の鍵をもらうと、分厚い鉄扉をこじ開けた。

 

「うーん、見事に雑然としてやがるな。」

草もぼうぼう、あちこちに何かの破片が転がってやがる。どう考えても慌てて引っ越した感が半端ない。大本営からの情報では各種設備は普通に使えるとのことだったが、その情報の信ぴょう性に疑問符を抱かざるを得ない。本当に確認したんだろうな。もし設備が使えなかったら大本営に鬼電してやるからな。24時間眠れない鎮守府と化してやる。モンスタークレーマー与作様の誕生よ。

 

窓ガラスが割れたり、壁がひび割れたりはしているが、とりあえず建物としての機能は残している鎮守府庁舎に一歩足を踏み入れると、途端にクラッカーの音が鳴った。

 

『提督が鎮守府に着任しました!これより艦隊の指揮を執ります!!』

 

勇ましくそう告げるのはかつて提督適性試験会場で会った妖精女王。通称猫吊るし。提督養成学校に入学する際には見かけなくなったので、てっきり名前が気に食わずいなくなったと思っていたが。どうしてこいつがここにいるんだ。

 

「なんだあ、もんぷちじゃねえか。名前が嫌になったからいなくなったと思っていたが違ったのか。」

 

『正直そうしようかなと考えた時期もありましたよー。でもやっぱり放っておけません。与作が一人前になるまで待ってました。』

「そうかい、そいつはすまなかったな。だが、俺様の野望のための城は御覧の通りの有様さ。しばらくは隙間風に耐えてもらうことになるぜ。」

『心配ありません。任せてください。』

もんぷちはつかんでいた猫をぐるぐる振り回し始めた。猫は突然のことに驚いたのか、ギニャーと建物中に響き渡るような大声を上げる。慌てて俺様がもんぷちを止めようとするも、一向に言うことを聞かない。

『随分長いこと放置されてましたからねー。メンテに時間がかかるんですよ。』

 

メンテナンスだあ?詫び石でも寄こすのか。え?とあるアメリカ艦娘が書いた「Don’t mind」ドンマイの掛け軸だって?いるかそんなもの。っていうか、メンテ?どこをメンテするって。

 

『周りを見てみてー。』

言われて驚いた。こいつはすげえ。まるでタイム風呂敷に包まれたみてえにどんどんと建物が修復されていく。割れたガラスは元通りに、ひび割れた壁も新品同様に。ぶん回された猫はぐるぐるお目目になっているが。

 

「驚いた。お前、本当に妖精の女王なんだな。」

俺様が感心してそうつぶやくと、もんぷちは調子に乗って無い胸をそらした。てっきり妖怪かと思っていたが、こいつは意外とやるかもしれん。

『妖怪とは失礼な!』

「俺様の心を読んでるんじゃねえ!早速艦娘を呼ぶぞ!」

 

鎮守府に着任した提督には、初期艦といって護衛も含めた艦娘が配当される。選べるのは5人。

吹雪、叢雲、漣、電、五月雨の中からだ。あらかじめ提督養成学校を卒業する際に手渡された資料を読んだが、正直ないわーの一言に尽きる。態度がでかいだの、色物っぽいだの、引っ込み思案だの、ドジっ子だの、芋臭いだの、属性を盛り過ぎる。こいつらを選ぶ気など毛頭ない。とすると、提督養成学校の艦娘を引き抜くってことになるが、こいつもあり得ない。

 

え?時雨?ないない。

 

なんで、これから艦娘ハーレムを目指そうってのに、口うるさいあいつを呼ばなきゃならないんだ。

あの野郎、俺様のバッグのそこかしこに養成学校艦娘引き渡し要請書の封筒を入れ、おまけにお気に入りのエロ本を全て抜きやがった。移動の電車内でそれに気付いた俺様はついうっかり、その書類を丸ごと電車の網棚に置き忘れてきてやった。

 

とにかくだ。初期艦というのに、駆逐艦しかもらえないというのが俺様は酷く不満だった。そこで聞いてやったのさ。初期艦がいらない代わりに資材を寄こせ。それで建造してみるってな。もらった資材と元々あった分を合わせて使えるのはそれぞれ250。これだけあれば、重巡洋艦のレシピが回せるはずだ。

 

『えっ?建造するの?』

埃だらけの工廠にやってくると、居眠りをしていた工廠妖精を叩き起こし、建造を開始する。

「よし、250。30、200、30な。」

手持ちの資材ぎりぎりでなんとか重巡洋艦が狙えるレシピ。もし万が一外れても軽巡洋艦なら戦力になる。俺様の股間的には妙高、高雄、愛宕辺りが希望だがな。とりあえず、妖精さん、こいつで決めたぜ。後はよろしく頼む!!

『やっほーい!久しぶりの建造だー。炉に火を入れろーっ!』

「ふう。頼むぜ、妖精さんよ。俺様のバラ色の鎮守府ライフの第一歩だからな。」

うなりを上げる建造ドック。満足そうに頷く俺の肩に止まり、ぷにぷにと人の頬をつつくもんぷち。

 

「なんだ、なんの用だ。」

『時間が。』

「時間?今か、今は12時40分・・」

『そうじゃない。建造時間。』

もんぷちが指差す先には艦娘の建造ドックと残り時間を示すタイマー。そのタイマーに示された時間は0:24:00

「24:00っておい、これってまさか・・・。」

バカな。提督養成学校でしっかりと教わっているぞ。重巡洋艦は建造に一時間以上かかるって。軽巡洋艦でさえ、こんな短い時間などありえない。

『駆逐艦・・・』

 

もんぷちが俺様に非情の宣告を告げる。それでも、信じたくなかった。そりゃあそうだろう。一年間駆逐艦に引っ付かれてきた俺様の下にまた駆逐艦を神は送ろうというのか。見間違いや建造ドックのバグであってくれ。お願いだ。頼む頼む頼む頼む!

ぷしゅー。建造ドックのハッチが開かれ、もくもくと溢れる白い煙の中から遂に待望の艦娘が姿を見せる。さあ、共に行こう。艦娘ハーレムの彼方に。お前は栄えあるその相棒だ。

 

「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です、どうぞ、よろしくお願いしますっ!」

「・・・」

こうして、俺様の艦娘ハーレムは前途多難な幕を開けることとなった。

 




登場人物紹介

もんぷち・・・つけられた名前が嫌で「旅に出ます」と書置きして一年間旅に出ていた
が、与作は迎えに来ると高をくくっていた。与作に全く気付いてもらっていなかったことを他の妖精から聞き、慌てて帰国した。

憲兵(68)・・人手が足らず再雇用されて江ノ島へ。釣りが趣味。

与作・・・・・提督養成学校入学初日の夜枕元にミミズのような字で書かれた何かを発
見したが、ゴミ箱に捨てた。

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