エピソードが終わりませんでした。ボリュームが増えすぎて若干タイトル詐欺かも・・。後日直すかもしれません。
いつの間にか30話目まで来ましたが、全く気付いていませんでした。
今回はこちらの二人から一言。
グレカーレ「30話なんだって!でも、話が進むにつれて、テートク、あたしへの態度がどんどんおざなりになってる気がするんだよねー。」
時雨「あ、うん。まあ、グレカーレは少し与作に構ってもらおうとするのを減らした方がいいと思うよ。」
「落ち着けフレッチャー。いいから座りやがれ。」
「はい・・。ごめんなさい、提督。」
ありゃ素直。なんとなく羨ましい感じ。信頼感てやつが見える気がする。そりゃ、あの会見みたいなこと言われちゃね。
「まあ、アメリカさんがこのフレッチャーを認めたくない気持ちも分かりますよ。大規模作戦の際にフレッチャーに会えるとの噂を信じて予算をつぎ込んでみたら、違う船に出会ったっていうんだから。国民に説明するためにも一刻も早く本物のフレッチャーを見つけないといけないですよねえ。それこそ攫っても。」
「とんでもない言いがかかりだな。では、君は我が国のフレッチャーが何者であるか見当がついているのかね!!」
「もちろん。映像で確認しましたが、化粧やらパッドやらで聖女感を演出していますが、制服の方は着慣れている感じがしましたんでね。100隻以上いるという、フレッチャーの姉妹艦の一人でしょ。違いますか?」
「!」
さっとマグダネルのおっさんが手を挙げるのと同時にあたしは鬼頭提督に襲い掛かった。
「提督!!」
視界の隅でフレッチャーが悲鳴を上げる。Sorry、勘弁してよ。あんたの提督が不用心過ぎるんだって。イスごと床に叩きつけて両腕を拘束すると、にやにやしながらマグダネルのおっさんがあたし達に近づいた。
「おおっと、動かないでいてもらおう。君の大切な提督がどうなるか分からんよ。まさか、こんなものをあんな短時間で用意してくるとはな。いや、恐れ入ったよ。日本人の勤勉さに乾杯したいところだな。ハッチンソン、どうだ。」
「さすがにコピーですね。原本は用心深く鎮守府にあるといったところでしょうか。忌々しい。」
びりびりと証拠の品を破り捨てるハッチンソン。フレッチャーは懇願するような目でこちらを見てくるけど・・・。
「止めてください!アトランタ、提督を放して!」
「Sorry。ごめん、フレッチャー。無理なんだ。こいつがあるうちはあたし達に自由はないんだよ。」
あたしの首にかかっている忌々しい鍵型のチョーカー。米国首脳部がフランケンシュタイン・コンプレックスの国民を安心させるために開発したあたしたちを縛る鎖。AKC、Automatic kanmusu controller。艦娘自動制御装置。提督と認識した人間や、その人間から指揮権を譲り受けた人間の指示に従わなければ、気が狂わんばかりの刺激が頭の中をのたうち回る。あの子に対する仕打ちが酷すぎると、何かしたくてもあたしたちに何もできなかったのはこいつのせいだ。
「そういうことだ。元お仲間だと言っても、情けは期待できないぞ。さあて、どうするかね。鬼頭提督。貴官は無礼にも我が国が威信にかけて救出したフレッチャーを偽物と断じ、今またこのような紛い物の証拠で、謂れのない嫌疑を我々にかけた。これは日本と米国の関係を考えた時に非常にまずいと言わざるを得ない。そこのフレッチャーが本物だというのならば、我が国に連れ帰り、事の真相を明らかにする必要があるが。ハッチンソン、どう思うかね。」
「司令官の仰る通りですな。日本政府に今回のことを厳重に抗議致しましょう。聞くところによると、ただ江ノ島観光に行っていただけの我が国の職員も不当に拘束されているとのことですから、併せて、交渉に入るとしましょう。」
「鬼頭提督、どうだろう。別室の君の艦娘達、特に長門や時雨にも言い聞かせてもらえんかね。我々はよき友人になれるとね。」
「止めて!!わ、私、米国に行きますから。提督を放してください!」
背中ごしに聞こえるフレッチャーの涙声。止しなって。あんた大分無理してるでしょう。分かるよ。みんなの前であんだけのこと言ってもらえてさ、こいつらの所なんか行きたい訳ないじゃん。なんとかしてあげられないかな・・。ぼうっとする頭で考えていると、抑え込まれいているのに鬼頭提督がニヤリと笑った。
「こいつあ、どういうことでしょうねえ。話し合いに来た人間をいきなり拘束するなんて。自分達の領土に使者を招き入れ、ぐさりとやって戦争になる、なんてのは古代ではよくあることですが。まさか現代でそうなるとは思いませんでしたねえ。」
「ふふ。まあ、戦争と言うことなら、君は負けたということだな。大人しく我々の言うことに従いたまえ。命も今の地位も約束しようじゃないか。よい関係を築いていこう。」
よく言うよ、こいつら。鬼頭提督も運がなかったね・・。あそこで長門達を下げなきゃさ・・。
って、何?どうしてまだ笑ってんの?
「くっくっくっく。いやねえ。三下の考えることってのはどうしてこう変わらないのかと思ってね。部下共もちんけな追い込みだったが、その上官とやらも変わらずか。この程度で俺様を追い詰めたつもりだとはねえ!!」
うわっっち!何このおっさん。口から勢いよく、あたしの目をめがけて針を吐き出しやがった。
「ちょっと!」
思わず避けようとするや、両腕の拘束が緩み、一瞬で体を入れ替えられる。え?何々?なんで、あたしが組み伏せられてんの。あたし艦娘、この人おっさん。なのにどういうことよ!!
「日本のおやぢを舐めるんじゃねぜ。さあて、どうするね。お二人さん。俺様はこうして平気だけどねえ。」
「バカが!アトランタ、そいつをもう一度取り押さえろ!」
やってるんだって、くそが!!このおっさん、重心移動が巧み過ぎて、逃れられないんだよ!!
「何なんだ、あいつは!!くそ、ハッチンソン。どうする、このままだと長門達を呼ばれるぞ。」
「仕方ありませんな、少将。あれを発動させましょう。艤装なしの状態でも、艦の戦闘力を飛躍的に向上させたという話でした。」
「おい、まさか!?や、止めろ!!あれは人間相手に使っていい代物じゃないだろ!!」
何考えてんだ、こいつら。あれを使った後あたしがどうなるか知ってんのか。艤装着けてたって体はボロボロ。ましてや艤装の保護がなけりゃどれだけの痛みが伴うか!!
「高負荷をかけるため、後で入渠が必要になりますが、なあに修復剤を使えばすぐに治ります。」
「ハッチンソン・・・てんめええ!!」
あたしの叫びなんかガン無視。道具のいうことなんてどうでもいいってこと?お前たちそれでも人間かよ!
「提督さん、はや・・・」
そこまで言いかけて、あたしの意識は途切れた。
「ぐああああああああああああ!!!!!!」
例えるならば狼の咆哮。さっきまで与作の下で、必死に逃れようと喘いでいた、どことなくめんどくさそうな表情をした艦娘の姿は最早ない。白いブラウスは黒へと変わり、犬歯を剥き出しにしたその瞳には狂気が宿っている。
「ぐるうううううう!!」
「ちっ!!こいつ!!」
先ほどまでとのあまりの変わりよう、わずかにできた隙を見逃す獣ではない。肩に噛みつこうとするその動きを読んでいたにも関わらず、かわしきれず与作の肩から血がにじむ。
「提督!!」
慌てたフレッチャーが間に割って入るが、与作はそれを押し止める。
「なぜです!な、長門さん達を呼んできます!!」
「必要ないねえ。少将、ちなみに聞きますが、こいつはどういう代物なんです?」
「ふん。余裕のつもりか?力自慢のようだが、このモードナイトメアと対峙しても、そのままでいられるかな。」
自信満々にマグダネルは告げる。モードナイトメア(悪夢)。かつて、アトランタとも関わりがあり、ソロモンの悪夢と呼ばれた日本の駆逐艦夕立。その原初の艦娘夕立の戦闘力・好戦性を分析し、自国の艦娘達の能力を瞬間的に上げようと米国の科学者たちが考えた、文字通り相手にとっては悪夢のような装置。疑似的な興奮状態に陥る電波と動力自体に干渉して高負荷をかけることによって、一時的に艦娘を好戦的な性格に変え、爆発的な火力・機動力を生み出したものだと。
「元々、このアトランタは火力が低くてな。船時代からその復原性の悪さからお得意とされる対空火力も安定しない失敗作だったのだよ。そのため、こいつが艦娘として現れても誰も期待しなかった。そこで、当時のこいつの提督が軍と図ってね。改造したわけさ。」
「成程ねえ。とすると、今目の前にいるのはあのソロモンの悪夢ってことかい・・。」
「恐ろしかろう?どうだ、強制停止することもできるぞ。最後のチャンスをやろう。君たち日本人が語り継ぐ武勲艦だろう?降参するかね。」
「え・・・!?て、提督・・・。」
その時、間近で見ていたフレッチャーは信じられないものを見た。艦娘である自分でさえ、この場にいて相当なプレッシャーを受けているというのに。己の提督は!
二イイイ。
笑っている・・・。
「降参?誰に向かって物を言ってやがんだ、三下!!」
おいおい。ソロモンの悪夢って言ったか。駆逐艦最強!日本駆逐艦屈指の武勲艦!!そいつを模した奴が目の前にいるんだぜ。
「闘うに決まってんだろうがあああ!!!」
俺様の叫びに呼応したかのように、向かってくるアトランタ。いい速さじゃねえか、こいつ!
かちり。ギアを入れ替えて世界は灰色に包まれる。だが、アトランタは止まらない。一撃必殺。放たれる拳は重く、そして速い。外の世界からは瞬きするような間に、幾たびの攻防を繰り返したか。放った蹴りをやすやすと躱され、一瞬にして後ろを取られる。
「ぐああああああああ!!」
背中に伝わる鈍い衝撃。飛ばされたと思ったら今度は前から腹部への一撃。追撃に合わせてとっさに合気で地面に叩きつけるが、奴は止まらない。即座に身を翻すと、唸り声を上げて距離をとる。
「なかなかやるじゃねえか。しばらくぶりに背中に入れられたぜ、攻撃をよぉ。」
完璧超人並みに正面から敵の攻撃を受けるのに徹していたんだがな。あっさり破りやがった。
「提督、平気ですか!!」
「ああ。なんてことねえ。むしろ。心配なのは向こうの方だ。呼吸が荒くなってきてやがる。おそらく限界を超えた反動なんだろう。」
そこまでされたんじゃ、俺様も超えるしかねえな。限界のその先を。
「ぐるううううう!!!」
アトランタが動くのに合わせて神速を発動する。奴の速さは変わらない・・。限界を超えた速度ですら、艦娘共は簡単に凌駕する。北上と闘っておいてよかったぜ。その事が知れたからな。
「ただの神速がダメなら重ねるだけだ!!」
脳が焼き付くような衝撃を感じながら知覚を研ぎ澄ませる。灰色だった世界は白く光っているように見える。おうおう。ゆっくりと胸の揺れも確認できるぜ・・。アトランタ、お前さんもつらいだろう。こんな連中にいいようにされてよお。だから俺様がこの一撃で仕留めてやるぜ。
息を吐き出し、拳を握る。身体全体の関節、その一つ一つを意識して・・。
「関節可動部位27か所、同時加速ッ!!」
パンッ!!!!辺りに鞭のような破裂音が響き渡る。
「ぐあああ・・が・・があが・・・」
「はあ?な、何なんだ。今の破裂音。一体何が?って、なぜアトランタが倒れている!!」
マグダネルの困惑も無理はない。神速の領域に達した両者の攻防は常人の目には瞬間移動しているようにしか見えない。唯一艦娘であるフレッチャーだけが目で追うことはできていたが、それでも最後の与作の一撃は見えなかった。
「提督!!」
膝をつく与作の元に駆け寄るフレッチャー。与作は肩で息をしながらも、フレッチャーの助けを拒否して立ち上がり、ニヤリと笑う。
「マッハ突き。音速の拳さ・・・。思ったより効くだろう?」
倒れたアトランタは返事もせず呻くだけだ。限界を超えたためだろう・・。身体全体から高熱を発し、それを逃がそうと大汗をかいている。
「ま、まさか・・・。モードナイトメアのアトランタを人間が破るなんて・・・。」
ハッチンソンは己の目を疑った。理性的な人間と言われ続けてきた彼にとって、目の前で起こった出来事を理解しようとすることを脳が拒否していた。
「この役立たずがあ!!もう少しで上手くいったというのに・・。わしが、わしが何年我慢したと思ってるんだ!!」
虎の子の太平洋艦隊を失い、制海権を大きく減少させた今のアメリカでは、在日米軍の司令官など閑職の際たるものだ。順調に出世し、かろうじて健在の大西洋艦隊の高官へと昇り詰める同期を尻目に極東の島国に送られる屈辱は、マグダネルにとって耐えがたいものであった。フレッチャーを手土産に大統領にすり寄り、今後の出世を夢見ていたのに。それを、目の前の日本人が全て砕いた。
「きさまああああああ!!」
許しがたい現実に脳が沸騰する。胸元から銃を取り出し、一発くらわせて。せめて己の気持ちを落ち着けてやろう、そう思っていたマグダネルは。次の瞬間、銃口が握りつぶされていることに気付き、愕然とした。
「誰に向かって銃を向けているというのです・・。」
それは低く、そして響く声。
「な・・・あ・・・・」
目の前に立ちふさがったフレッチャーから感じる気迫に、マグダネルは愕然とする。
「誰に向かって銃を向けているかと聞いているのです!!答えなさい!!!」
銃を手放し、呆然とその場に膝をつく。司令官としてのプライドよりも、今はどう彼女の怒りを収めるかしか考えられなかった。彼は己の無知を初めて理解した。マザーと呼ばれるフレッチャーだが、世の連中はアメリカ駆逐艦の母とも呼んでいる。そして、母とは己の大切な存在を傷つけられた時、この世の何よりも恐ろしい存在になるのだと・・。
「提督・・。こちら、お使いください。」
「ふん。いらねえよ。俺様にはこのタオルがって・・・。そういや、車に置きっぱなしだったな。」
首元を確認し、黄色いタオルがないことに気付くと、与作は仕方なくフレッチャーのハンカチを手に取り、傷口をぬぐった。
「さて、司令官殿。先ほど戦争と仰いましたがねえ。どうします、これ以上やりますかい。」
「ま、まだ基地に兵士は山ほどいる。無事に帰れると思わないことだ!」
ハッチンソンの苦し紛れの発言に対し、与作はやれやれと肩をすくめてみせた。
「だそうですが、長門補佐官。そちらはどうですか?」
慣れないネクタイの裏に仕込んだ明石特製の小型トランシーバーに呼びかける。
「こっちか?別室でずっと待機が暇だったんでな。そこらに隠れていた海兵隊員に声を掛けて腕相撲をしていたんだが、みんななぜか伸びてしまって暇をしているとこだ。どちらかと言うと、時雨が何度もそっちに行きたがるんでそれを止めるのが大変だった。って、おいおい・・。」
「与作、無事かい!!ケガしてないかい!!」
「あん?ちょっと、肩に掠ってちょい血がにじんだぐらいだ。」
与作の答えに通信機越しの時雨の声が絶対零度にまで冷える。
「・・・・潰す・・・」
「ちょっ、ダメですよ、司令!!」
「空気読んでよ、テートク!!落ち着いて―!!」
「こら、時雨。落ち着け。ということだ、鬼頭提督。一旦切って合流するぞ。」
「な!!バ、バカな・・・。基地の人間に暴力を振るってただで済むと思っているのか。国際問題だぞ!!」
「くっくっくっく。バカだねえ、本当に。俺様があんな程度の追い込みで終わらせたと思っていやがるんだからよぉ。おめでたいねえ。」
先ほどまでのどことなくよそ行きの顔を捨て、いつもの顔を見せる与作に、ハッチンソンはぎょっとする。
「おい、もんぷち。写してやんな。今の間抜け面をよ。」
『了解です。貴方達、上映会を始めますよ!!』
もんぷちの指示の元に、妖精の撮影隊が会議室の壁に映像を映し出す。ハッチンソンの野郎は何が起こったか分からねえようだな。そりゃあ、妖精が見えない奴からしたらファンタジーだろうぜ。
「な、何だこれは。い、今映っているのか?どうやって撮ってるんだ!」
「この間のフレッチャーの動画が好評でねえ。今回もせっかく在日米軍基地に行くんだからと、妖精の撮影隊に同行してもらって撮ってもらっているのよ。今基地の外にいる大本営の明石と夕張がネットにアップする準備を進めてるぜえ。」
大人気コンテンツになりそうだからな。ちっぽけな弱小鎮守府の台所事情を改善するためにも必要だろう。
「こいつをアップしても、まーだ、自分たちは正義だと言い張れるのかねえ。国際問題だと言うならどうだい。世界中の人間に判断してもらうかい?どちらが正義かを。俺様はどちらでも構わねえぞ。」
「よ、要求は何だ・・・。」
黙り込んだハッチンソンに代わって、今度はマグダネルが口を開く。ふうやれやれ。ようやく本題に入れそうだぜ。ったく、頭ばかり固くて小利口な奴らは本当に面倒くせえな。
「なあに、簡単なことさ。米国大統領アルフォンソ・フォーゲルと連絡を取ってくれ。」
登場用語紹介
モードナイトメア・・・艦娘に関して日本に後れをとった米国技術陣が、その総力を結集し、開発した装置は、端的に言うならば艦娘自体のリミッターを外し、意図的に暴走状態に陥らせるためのものである。そのため、この状態になった艦娘は、通常状態でも他の艦娘と大きくかけ離れた戦闘力を有するが、過負荷の反動は著しく、使用後行動不能となる事例が多く報告されている。ソロモンの悪夢と呼ばれた原初の艦娘夕立の戦闘力を再現するというかかる試みは、その一方で、日本に多く存在する偉大なる7隻の戦闘力を米国が恐れるがゆえではないかという指摘もされている。
民明書房刊「悪魔の技術」より
登場人物紹介
与作・・・・・・黄色いタオルがなかったせいで戦闘力が下がったと感じている。
フレッチャー・・黄色いハンカチを使ってもらえたのでそこは嬉しく感じている。
長門・・・・・・米海兵隊とさんざん腕相撲をした結果、与作の強さに改めて気づく。
時雨・・・・・・無言で出ていこうとするところを長門に捕まえらえる。
グレカーレ・・・一生懸命時雨を押し止める。
雪風・・・・・・時雨を抑えているように見えて、自分自身も抑えている。