鬼畜提督与作   作:コングK

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お休みなので連続投稿いたしますが、この後は少し間隔を空けての投稿となると思います。

春の駆逐艦祭りが終わったと思ったら、新艦がやたら増えてます。

すでに話題になってますが、加賀改二護の飛行甲板が護衛艦かがに酷似している件、絶対似せてきてますよね。護衛艦かがの進水日にわざわざメンテ遅らせてたし。


第二十九話「そして神様はやってきた。」

東京は市ヶ谷にある海軍省庁舎は深海棲艦の出現に伴い、防衛省に程近い立地を目指して急遽建てられたものであり、その設地には多くの非難が集まった。そのため、潤沢な予算を回されたとは言えず、従来あった民間のビルを買い上げ、急遽その内装を整えただけの作りであり、深海棲艦との戦いが長引く中で、老朽化も目立っていた。その海軍省の庁舎を、肩を怒らせながら歩くのは元帥の特別補佐官である長門である。常日頃、駆逐艦のこと以外では良識と常識を合わせ持つと言われている彼女がここまで怒りをあらわにするのは珍しい。

 

「金剛、どういうことだ!」

 

長門が海軍大臣の秘書官である金剛の部屋を訪れた時、彼女は日課のティータイムを楽しんでいた。現れた長門に対し、まず紅茶をすすめ、一呼吸おいてから話を始めたのは長年この要職に就く金剛らしいやり方であった。

 

「これは長門補佐官。急なご来訪恐れ入るデース。それで、ご用件は?」

「ふん。分かっているだろうに。例の江ノ島鎮守府。いつまで経っても給糧艦はおろか、工作艦も事務系を統括する秘書艦すらも着任していないと聞く。もうすぐ一月にもなろうにおかしいと大淀に調査させてみれば、お前が指示していたというではないか。どういうつもりだ?」

「どういうつもり?」

 

金剛はティーカップを置くや、薄い笑みを浮かべた。

「逆に長門補佐官に問いたいデスが、あの鎮守府はこれまでの実績がまるでありません。そんな鎮守府に貴重な給糧艦や工作艦を着任させる必要がありマスか?」

 

江ノ島鎮守府のこの一月での戦果が駆逐ナ級の撃破のみであることを知っている長門からすると黙らざるをえない正論である。しかし、彼の提督の艦娘への強い思いを知っている長門はそのことを熱弁するが、金剛には通じない。

 

「確かに私も先の彼の記者会見での発言、そして在日米軍基地でのやりとりを見ましたが、正直今すぐにでも辞めさせたいと思うだけで、貴方のようには思えませんデシタ。だってそうでしょう?一鎮守府の提督が米国の国内事情に干渉し、さらにはその大統領を辞めさせる方に舵を向けさせたのデスよ。これを脅威と言わずに何だと言うのデス。」

「我々艦娘にとっては理想の方向ではないか!!米国の艦娘達がどれだけ苦しんできたと思っている!」

「長門補佐官は分かっておられないようデスネー。それは米国の事情で我々には関係ないのデスヨ。『艦娘に関する条約』には、『艦娘の所持・管理の仕方については国ごとの事情を鑑みて行うべし』との一文がありマスが、その管理の仕方については書かれていないのデスから。」

「貴様!!」

 

激高した長門が金剛に掴みかかろうとするや、突然割って入ったのは金剛型の比叡と霧島である。

 

「長門補佐官、それ以上されるのであれば、比叡がお相手します。」

「長門さん、場所をお考えください。」

「貴様らはそれでよいのか!!」

「「はい。」」

「ちっ!!」

 

苛立ちを示すようにどかっと腰を下ろした長門に、榛名が黙って紅茶のお替りを差し出す。

 

「とにかく。長門補佐官。これはワタシ達からしても最大限の譲歩なのデスヨ。ただでさえ、あの鎮守府は問題が多く、施設も放棄同然。更地にして駐車場にでもしようかと思っていたら、あの提督が着任してしまっただけなんデスから。しかも、その後に偉大なる七隻の時雨が来てしまったものだから潰すに潰せないだけなんデス。給糧艦や工作艦を着任させろというのであれば、まず実績がなければ話にナリマセーン。私、何かおかしなことを言っていマスカ?」

「いや。ただ一つだけ気になることがあってな。」

「何デス?」

「確かにあの鎮守府に実績はないだろうよ。ただ、他の鎮守府は実績もないのに工作艦や給糧艦が着任しているではないか。なぜかと思ってな。」

「偉大なる七隻が着任しているではありませんか!それで十分お釣りが来マスよ!」

「時雨が加入したのはつい先日のことだ。だが、鬼頭提督は初めからいなかったと言っていたぞ。話が合わん。どういうことだ。」

「長門補佐官のお帰りデス。比叡と霧島はお見送りをお願いシマス。」

 

長門の問いに応えず、金剛は側にいる比叡や霧島に客の退席を告げた。

 

「金剛お前、何を企んでいる?」

「企むも何も・・・。私は貴方達偉大なる七隻が大嫌いなだけデース。」

「その通りです。長門補佐官。どうしてもというならご自分で見つけるしかありません。」

 

それまで黙っていた榛名の発言に驚く長門だったが、それは金剛も同じだったようだ。

 

「え、ええ。榛名の言う通りデス。実績を積む前にどうしても着任させたいというのならば、自分たちであちこち知り合いを当たるしかありまセンネ。」

「成程な・・。了解した。」

 

大本営の艦娘達には金剛の息がかかっている。当人たちがどう思っていようと着任は難しいだろう。各地からの異動希望の艦娘もまた然り。その鎮守府に数の少ない工作艦や給糧艦の異動を認めてしまっては、異動された鎮守府が立ちいかなくなってしまう。建造するか、すでに辞めた艦娘に声を掛けるか。脳裏に浮かぶ昔馴染みのしたり顔に思わず長門はため息をついた。

 

「やれやれ。これでは、あいつの思う通りだが、仕方ないか。また、大淀がかりかりしそうだが。」

 

その日、ファッションビルOIの最上階にある社長室に絶叫がこだました。長年勤めているベテランである社長秘書は、こんな時の大井の対処法をよく理解している。正解は何も言わない、だ。感情が高ぶった状態の大井には何を言っても無駄で、注意深く聞いているとその原因を独り言で口走る。それを先立って解決し、彼女のイライラをなくす、というのが、秘書が長年とってきた方法だった。

 

「北上様がああ。北上様があああああ。よりにもよっであんだおどごのどごろにいいいいいい。」

 

地の底から這い出てきた魔王もかくやとばかりの怨念のこもった声。それに北上様というキーワードに、秘書は事態が切迫したものであると気付いた。あ、これはまずい。下手をすると会社が傾く。大井にとって北上は神そのもの。いわばご神体。それがいなくなってしまっては、動揺は避けられない。仕事にもまるで身が入らないだろう。すぐに大井の好きそうな食べ物をリストアップし、社長室へと急ぐ。そこで見たのは、

 

『ちょっと、おじさんの鎮守府に行ってくるねー。』

と気軽に書かれた手紙と、それを持ち、おんおんと泣きわめく大井。業界の者からキャリアウーマンの典型、美貌と実力を重ね合わせたハイブリッド社長と言われている女性の、思わずうわあとドン引きする姿であった。

 

 

重雷装巡洋艦北上は先の鉄底海峡の戦いを生き残った猛者であり、20年近い生のほとんどを放浪の中で過ごした艦娘である。彼女のことを慕っている大井のところをとりあえずの居と定め、そこから日本国内や、行ければ外国も訪れた。そんな気まぐれな彼女がなぜ江ノ島鎮守府にこだわるかと言えば、そこに気になるおやぢがいるからで、在日米軍によるフレッチャー誘拐未遂事件の際にもこっそり動いて諜報員を捕獲するなど、好感度上げに余念がなかった。そこにこの間の記者会見と大統領のやりとりである。

 

「あ、これやばいかも・・。」

 

元々彼女は飄々としているが、相手を気に入ったら一途である。いいなと思った相手のかっこいい姿(当社比200パーセント美化)に、いてもたってもいられなくなり、昔馴染みの長門に連絡して、軍籍復帰書を寄こせと要求し、様々な障害を経て、ようやくそれを得ることができた。

 

「問題はこれをどう書いてもらうかなんだよなあ。」

江ノ島鎮守府近くにある寂れたヨットハーバー。以前米国の諜報員を捕らえた時は夜だったが、朝方は割合ランニングで通る人間が多い。先ほどからうんうんと唸りながら考え事をしている彼女は大いに目立っていたが、皆面倒ごとを避けてか敢えてそれを指摘はしない。

 

「ま、いいか。悩んだら正面突破っしょ。よ~し、北上様、出るよ!!」

砂埃をはたきながら立ち上がると、北上は江ノ島鎮守府を目指した。

 

 

ばっどもーにんぐ。駆逐艦どもとの嫌な日々もさようなら。アトランタが着任したことによって、風向きが変わったことを自覚した俺様は早速建造しようと意気込んだが、肝心のすりぬけくんの調子が悪くそれができないとのことでイライラが募るばかり。日課のイメージトレーニングでも散々渋川先生にぶん投げられた。

 

「提督さん、大丈夫?」

 

投げ飛ばされて、砂を舐める俺様に声を掛けてくるのはアトランタ。こいつ、この間からやたら引っ付いて来るんだが、暇なのか?俺様のトレーニングなんぞ見ていてもつまらねえぞ。

 

「そんなことない。勉強になる。」

 

なんの勉強をしてんだか。まさか、こいつ!おやぢの生態について学ぼうとしているんじゃねえだろうなあ。俺様を観察して夜な夜なおやぢ狩りに励む・・・。あり得る。こいつのどことなく不良っぽい感じは危険だぜ。

 

「なんか、失礼なことを考えられている気がする・・。」

ジト目で俺様を見るアトランタ。こいつ、いつの間に時雨の得意技を覚えやがった。最近あいつに目つきが悪くなったと言ったら焦ってやがったっけ。

 

「まあいい。俺様は訓練を再開する。邪魔をするんじゃねえぞ。」

 

俺様がアトランタの方から海の方へと意識を向けた時、

 

「うん。って、ちょ、提督さん!!」

 

慌てるアトランタの声と共に、

 

「おじさんっ!!!ひっさしぶり~」

そう言いながら突然高速の跳び蹴りが飛んできた。

「ぐっ、この!!」

即座に神速を発動させる俺様。それでも、スピードは変わらない。こちらが両手で受け止めるや、すぐさま大地を蹴って、相手は閃光のようなジャブを放ちやがる。おいおい。こいつ。前より速くなってねえか。だが、俺様とてあの時よりも強くなっている。左右に拳を避け、襲撃者のおさげを引っ張って停止させる。

 

「おいこらーー。ストップしろ~。」

「ちぇっ。いい感じにエンジンが温まってきたんだけどなあ。」

「お前なあ。その物騒な考えを止めろ。大体、なんでいきなり俺様に飛び蹴りをかます?」

「その方がおじさん喜びそうじゃん。楽しかったっしょ?」

 

にやにやと笑う北上と俺様を見ながら、血相を変えてアトランタが二人の間に割って入った。

 

「て、提督さん。こいつは敵?だ、だったらあたしが・・。」

北上を敵と判断し、睨みつけるアトランタ。だが、その判断は大きな間違いだったことにすぐ気づく。

「あたしがどうするって?誰を?」

「あ、あたしが、あんたの・・・」

 

おかしい。アトランタは動揺していた。震えが止まらない。相手をする、という言葉がどうしても出てこない。まるで、目の前の艦娘にはどうあっても勝てないのを体が理解しているかのようだ。これまで何隻もの深海棲艦と戦ってきた。だが、目の前の北上はそれ以上の異質な存在に見えた。

「うん、正解だよ。海外の艦娘さん。あたしとあんたじゃてんで強さが違うからね。無理して突っ込まないのは合格。無意味な特攻なんて誰も褒めやしないからねって、あ痛!」

 

どことなく自嘲気味に語る北上の頭を与作が小突く。

 

「シリアスに決めてんじゃねえ。久しぶりじゃねえか、北上。デザインの方は順調にやってんのか?やることもやってない半端モンとは俺ぁ話すつもりはねえぞ!」

「もっちろん。おじさんに合いそうな物もぼちぼち出来そうだよ。」

「それならいい。それで、今日はいきなり俺様に何の用だ?また、胸でも揉ませに来たのか。」

「ちっがーう!!まあ、おじさんとはそういう約束だったからね。辛抱たまらなかったら仕方ない。あたしが胸を貸そう。じゃなくて、ふっふっふ。あたしはおじさんの鎮守府に今足りない物を持ってきたのさ。」

「俺様の鎮守府に足りない物!!そんなのムラムラする巨乳美女に違いねえ!どこだ、どこに連れてきてやがる!!」

 

せわしなく辺りをきょろきょろと見回す与作に、アトランタは己を指差して見せるが、見事に無視され頬を膨らませる。

 

「こらこら。違う違う!おじさんの鎮守府、今工作艦がいないんでしょ。それで困ってるんだよね。」

「よく知ってやがるな。ん?って、おい、まさか工作艦がうちに着任するのか!!」

「そうそう。だから、これに署名して。はい。」

 

北上が出したのは与作にとっては見覚えがある軍籍復帰書。そこには北上の名前が書かれており、艦種についてこう書かれていた。

 

「重雷装巡洋艦兼工作艦北上だとおお?ハイパー北上様が工作艦なんて聞いたことねえぞ。」

「実際に戦後に工作艦として運用されたんだよ。あんまり知っている人少ないんだけどねー。だからあたしは実は工廠の仕事もできるのさ。ふっ。」

 

調子に乗って恰好つける北上だが、予想外のことに普段なら突っ込みを入れる与作も素直に喜びをみせる。

 

「ぐ、ぐれいと北上さまじゃねえか。歓迎するぜえ!!」

 

すぐさま復帰書にサインをした与作を見て、内心ドキドキしていた北上は安堵のため息をついた。まさか、断られるとは思っていなかったが、できるならば歓迎された方が乙女心としては嬉しい。

 

「ははは。グレイト北上様はよかったね。それじゃあ、提督。これからよろしくね。」

がっしりと握手を交わす二人。それを羨ましそうに見ていたアトランタを、北上は呼び寄せると、

 

「あたしは北上だよ。よろしくねー。」

「防空巡洋艦アトランタ。よろしく。」

遅れてアトランタとも握手を交わし、次いで耳元で囁いた。

 

「ところで、あんた、提督に胸を触られたことある?」

突然の卑猥な話にアトランタは顔を赤くする。彼女の中では与作はどちらかというとストイックな紳士という印象であった。

 

「ええっ!?そ、そんなことない・・。て、提督さんそんなことするの?」

 

がらがらと音を立てて消えていくストイックな紳士像。

「そりゃ当たり前じゃん。おやぢなんだもの。それぐらい普通っしょ。逆にあたしたちにてんで興味がないとしたら寂しくない?」

「それは・・・確かに。」

 

ストイックな紳士像の下から出てくるおやぢ像。だが、物扱いされることが多かったアトランタは不思議と不快に思わなかった。

 

「ふっふっふ。さっきのあたしの話聞いてた?あたしはあるんだよねえ。」

 

ガーンと頭を殴られたような衝撃がアトランタを襲う!!北上があり、自分はない。どう考えても胸部装甲では勝っているのに、なぜ?女性の魅力が足りないというのか!!

 

「う、嘘だ!!そんなバカな・・。」

「くふふふふ。胸の大きさが戦力の絶対的な差ではないのだよ。覚えておきたまえ!!」

 

ぽんとアトランタの肩を叩くと、勝ち誇った笑みを浮かべて、帰ろうとする与作の隣りに並ぶ北上。

 

「く、悔しい!!何でかわからないが、とてつもなく悔しい!!」

歯ぎしりをするアトランタはこの屈辱をいかにして晴らすか頭を巡らせる。

 

「おい、アトランタ。北上を紹介するから、お前もついてこい!」

「Sorry、今行くよ!くっそ。北上、今に見てろよぉ。」

「あん?お前、今何か言ったか?」

「別に。単なる決意表明。」

「ふふっ。アトランタん、大人しいかと思ったら面白い子じゃん。」

「アトランタん?それってあたしのこと?んは必要?」

「ふん。アトランタがもうなつくとはやるじゃねえか、北上よ。」

「まーねー。」

「くっ。ま、まずい・・。」

 

焦る気持ちがアトランタを支配する。せっかく自分が来ることによって悪い雰囲気がなくなったと与作が喜んでいたのに、これでは北上に全て持っていかれる!

 

「あ、あたし、頑張らないと・・・。」

 

江ノ島鎮守府での自らの存在感を確立するため、アトランタは気持ちを新たにするのであった。

 

 

 




登場人物紹介

北上・・・・ある時はデザイナー。ある時はとある鎮守府を守る私服警備員、またある時は駆逐艦被害者の会会員NO.2。その正体は重雷装巡洋艦にして工作艦。人呼んでグレイト北上様。(与作命名)。満を持しての登場に、本人はすでに3重キラ状態。
与作・・・・北上の着任に素で喜んでしまい、鬼畜モンとしてあるまじき態度だったと反省をしている。だが、駆逐艦から遠ざかる流れに心中はイケイケ状態。
アトランタ・あまりの悔しさに米国にいるサラトガに相談。どうすれば与作の目が惹けるかと聞いたところ、ものすごく喜ばれ色々とアドバイスをもらう。
サラトガ・・江ノ島鎮守府でやっていけるか心配だったアトランタの変わり様に驚く。与作が気になる彼女はアトランタの様子に、ひょっとして恋敵になるのかしらと微笑みつつアドバイスする大人の余裕をみせる。

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