鬼畜提督与作   作:コングK

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前回の投稿で実は40話目でした。まあ、おまけということで飛ばしていましたが、いつも御覧いただいている方々には感謝です。

40話目のコメントはこの二人!

アトランタ「あたしたちアメリカ艦コンビで何か話をしろってさ。40話おめでと。こんなもんでいい?」
フレッチャー「「もう、アトランタったら。もう少しコメントを多く・・。皆さん、いつもありがとうございます。暑いですがお体に気を付けてくださいね!」

※サブキャラ投票は本日の20時を締め切りとさせていただきます。ご協力ありがとうございました。予想していましたが、まあロリコンが強いですね・・。


第三十二話「すりぬけくん」

「う~~ん。どうも、よく分かんないんだよね~。」

 

江ノ島鎮守府が、今や世界に誇る建造ドックとなった通称すりぬけくんの前で、北上は一人うなると床にごろりと寝そべった。与作との約束の期日までにはまだ4日の余裕がある。

ここまでの3日間、あの手この手を尽くして調べてみたが、とにかく分かったのは、

「この建造ドック意味不明!」

ということだけであった。

「普通に建造ができないってどういうことなのよ。建造ドックってポンポン建造できるもんだよね。」

 

そもそも建造とは何か。広義には「艦娘を特定の資材を用いてつくる行為」とされているが、その「つくる」、という文言についてさえ、この言葉が考え出された当初は、多くの議論を巻き起こした。

 

科学者達の言い分は、始まりの提督と原初の艦娘が提供したデータを元にし、量産型を作る行為こそが建造であると言う。一方の歴史学者などは、付喪神信仰こそが艦娘の顕現に力を為したのだと声を大にし、海に揺蕩う彼らの意思を元に召喚しているのだから、作るのではなく、呼ぶのが正しいと主張した。

 

結局堂々巡りの議論の末、日本人らしい歩み寄りで「つくる」という平仮名での表記に落ち着くことになったが、艦娘出現より俎上に上げられている問題、艦娘は人か否かについての問題が解決されることはなかった。この問題が日本である程度の鎮静化を見せたのは、皇居におわす尊き方々が、先の大戦で散りながらも、再びこの世に現れ、人々を救おうとする艦娘達へ感謝の言葉を述べられたからで、原始的な信仰が未だ根付く日本においてそれは自然に受け入れられ、急速に艦娘の権利についての考えが浸透するきっかけとなった。

 

こうした諸々の背景の果てに、どの鎮守府にも置かれるようになった建造ドックであるが、当然正式な名称が存在する。「海軍甲型艦娘招魂装置」。それは、海軍が始まりの提督とその艦娘達の協力の元に完成させた物であり、一定の資材を投入することによって、必ずいずれかの艦種の艦娘を建造することができる。そのネーミングを任された始まりの提督は、名称についての変更を求められるや頑として譲らなかった。

 

「彼女たちはゆっくり寝ていて構わなかったというのに、昔馴染みの我々が困っているのを見かねて、手助けを買って出てくれているんだ。資材を入れる限りは建造ドックと言いたいのは分かるが、せめてこちらの名前ぐらいは好きにつけさせて欲しいね。」

 

親艦娘派が艦娘との付き合い方を語る際に、艦娘=人であると始まりの提督が考えていたと根拠にする発言である。とにかく、初期の頃その資材投入については試行錯誤で様々な数値で行われることが多かったが、近年はデータが集まり、戦艦や空母などの出やすい数値がレシピとして各国に広まっている。余程のことがない限り、建造でのぶれは少なく、そうそう狙いと違った艦が出ることはありえない。そう。余程のことがない限りには・・・。

 

ここ江ノ島鎮守府にはその常識を覆す建造ドックが存在する。

 

最近つけられた名前がすりぬけくん。周囲が微妙なセンスと言っても、頑固な名付け親は変える気はさらさらないらしい。今日も北上がいる前で、すりぬけくんを撫でながら、

「いい加減機嫌を直してくれよお、すりぬけくん。」

などと言って去っていった。

 

「なぜだか、あんたはとんでもない艦をほいほい建造するんだよねえ。」

 

すりぬけくんのこれまでの実績を確認して、北上は驚いた。初回の雪風はあり得るにしろ、2回目のグレカーレ、3回目のフレッチャーに至っては、ドロップでしか報告のない艦である。大本営の大淀によれば、米国・イタリアだけでなく艦娘大国である英国やドイツからも、それぞれの建造レシピについて問い合わせがあり、情報公開をしたが、未だにどの国でも建造成功には至っていないらしい。

 

「確か、資材の投入数値によって呼び寄せやすい魂があるのでは、って明石や夕張は言ってたな。」

 

北上が始まりの提督と共に深海棲艦と戦っていた時、当然彼女は重雷装巡洋艦としていたため、工廠の仕事をしていたのは、明石と夕張であった。その二人と当時の海上自衛隊や民間の技術者が協力し、いわゆる建造ドックを作り上げたのだが、二人がよく言っていたのを思い出す。

 

「寝た子を起こすじゃないんだけど、資材を上げるから協力してほしいっていうのってどうなのかねえ。」

「仕方がないじゃない。その艦娘によって、好みの資材量があるみたいなんだもの。提督が言うように招魂装置、召喚器ってことなら、その艦娘によって必要な供物が違うってことでしょ。」

 

明石と夕張は、今も名が残るこの道の第一人者であるために、建造ドックに対し、様々なアプローチを試みていた。その二人が揃ってよく分からないと言っていたのが、ドロップと建造の違いだ。なぜ建造できず、ドロップでしか現れない艦娘がいるのか。それに対する明石の結論が以下のとおりである。

 

『ドロップする艦娘の中でも、ドロップ限定ではなく、その後建造が可能になる艦娘も存在する。このことから考えられるのは、大規模作戦で邂逅するような艦娘の場合、そもそも建造ドックで呼び出す際の調整が厳しく、細心の注意を要するものということである。既に判明している艦娘達を建造する際の指針、いわゆるレシピの常識が通用せず、ピンポイントでの調整でなければ彼女たちを呼び出すことができない。この原因については後日の調査・研究を待ちたいと考える。』

 

だが、研究自体を後世に引き継ぐことには成功したものの、その進捗を原初の明石は見ることはかなわなかった。敵深海棲艦の大工廠を調査する上で、彼女の参加は不可欠であったからである。

 

「ごめん、北上さん。これ、よろしく。」

 

深海工廠のデータをまとめ、それを手渡し、笑顔で沈んでいった彼女の姿が北上の脳裏には昨日のことのように焼き付いている。後進の、今大本営にいる明石に渡したデータはどうなっているだろうか。ここ数日徹夜続きだったこともあり、息抜きとアドバイス欲しさに北上は連絡をとった。

 

「えっ!?北上さん、今工作艦やってるんですか?あの例のIF改装、本気でやっちゃうのがすごい!さすが偉大なる七隻!」

「そんなこと言われても今行き詰ってんのよ。例のフレッチャーを建造したドックがさあ、どうも妙なんだよね。資材ばかり吸う癖に建造しないんだわ。」

「はあっ?そんなことってありうるんですか?開発ドックなら聞いたことがありますけど。」

「うちの開発ドックは逆に失敗しないんだよねー。提督はまじめくんってつけてるけど。」

「ええっ?なんですか、それ。通常逆ですよね!?」

 

100%の確率を誇る建造に比べて、開発ドックは失敗事例が多数報告されている。様々な要因が考察されているが、今現在主流となっているのは、艤装妖精達が気まぐれで、自分が気に入ったタイミングでしか顕現してくれないのではないかというものと、艦娘本体に比べて艤装には魂がそこまで籠っていないのではないかという二点である。どちらの意見が正しいのかは、いまだ分からぬものの、こうした失敗要素がある開発ドックに比べて、建造ドックは、それこそ子どもでも建造に失敗することはないと言われているのだ。江ノ島鎮守府の二つのドックがいかにおかしいか分かる。

 

「なんか夕張がよくやってるソシャゲのガチャ見たいですね。」

「ははっ。その理論、うちの提督が大好きだよ。狙っているのに当たらないってね。」

「それ、例の米国の大統領がそうじゃないですか。めちゃくちゃ資源使って大規模作戦に挑んだのに、フレッチャーがすり抜けてジョンストンが来たんでしょ?あげくフレッチャー扱いして憂さ晴らすって・・。ああ、キモイ!!!」

「自分で言ってて、叫ぶなっての。まあ、気持ちはわかるけどねー。ってか、ちょい待ち・・・。」

「ん?どうかしましたか。」

「あんたのお陰でなんとなくイメージ掴めたかも・・。」

「ええっ!!本当ですか?今、あちこちの国からレシピ通りやっても作れないって苦情が殺到してるんですよね。理不尽な話っすよ。きかれたから教えただけで、後は自己責任でしょ。」

「それはあんたの言う通りだね。考えを少し整理したいんで、切るわー。」

「結果分かったら教えてくださいよ!」

「ああ。そこは任せといてー。で、ちょっと研究の参考にしたいから例のデータも見せて。」

「分かりました。後でメールでお送りしますよ。」

「さんくす。そんじゃあんたも早めに寝なよ!」

「北上さんもでしょ!こんな時間まで起きてるなんて、いつから仕事熱心になったんです?」

「そりゃあ、いいところ見せたきゃ頑張るっしょ。」

「ええ!?北上さん、そんなキャラでしたっけ?」

「あんたと夕張は本当に失礼だなー。そんじゃ、長門さんによろしくねー。」

 

携帯を切ると、北上は工廠の隅をじっと見つめ、小さくため息をついた。

「んで、あんたはさっきからそこにいるけど何の用?」

「・・・気づかれちゃいました?」

黒いショートカットにカチューシャをつけた少女は物陰からひょっこり顔を出すと舌を出して見せた。

「ふふん。北上さんの目を欺くにはもうちょい修行が必要だね。それで谷風?どうするつもりだい?」

谷風と呼ばれた少女はにこにこと微笑みながら北上に近づいた。

「いやあ。たまたま噂の建造ドックとやらを見物にきたら、谷風さん、迷っちまって。本当に困ってたんですよねえ。」

「そいつはまた。何日もここの周りをうろうろするなんて、余程方向音痴なんだね、あんた。」

ぴたりと歩みを止め、残念残念と肩をすくめる谷風。

「うへっ。おっかない。」

「そんで、何の目的で来てるか大体分かるけど、どうする?」

北上の問いに苦笑いを浮かべ、谷風はくるりと背を向ける。

「貴方がここにいるなんて聞いてないんでね。ここは退散の一手ですよ。いや、参った参った。」

「そう、そんじゃさよなら。」

北上が、後ろに振り返った途端、

「なあ~んて、ねっ!!!」

「おいおい・・。」

すすっと距離を詰めた谷風が、胸元目掛けて放ったとび膝蹴りを北上はあっさりと両腕で防ぐ。

「意表をついたにしちゃ甘々だよ?」

「これでもかい?」

つづけざまに谷風が北上に黒い塊を投げつけるや、辺りに黒い煙が立ち込め、視界が遮られる。

 

「ゲホッゲホッ。なんだい、これ。」

「谷風さんお手製の煙玉改さ。いくら偉大なる七隻でも、そいつはちいっとばっかし効くだろう?」

谷風が作り上げた煙玉は単なる目くらましだけではなく、艦娘の神経に作用し、強烈な眩暈と咳を誘発させる。

「ゲホッ。正面からじゃ無理と、随分と、ゲホッ、手の込んだことするじゃないか。」

「まあ、あたしらの大将の言うことなんでねー。ほんじゃ、悪いけどこいつは廃棄ってことで・・。」

 

すぐさま艤装を身に着け、谷風は主砲を建造ドックに向けた。さすがに単身江ノ島鎮守府に忍び込んでくるだけあり、動きに余念がない。

 

「ふうん。狙いはすりぬけくんか。なるほどね。」

「そそっ。北上さんはそこで、見るのはできないから、聞いてるといいよー。それじゃ、主砲ぶちかますよ!」

 

谷風が主砲を今まさに発射しようとしたとき。

 

めきり。

 

その音が聞こえた。

 

「はれ?何の音?」

「ああ、あんたの艤装を剥がしてるとこだよー。」

 

事も無げにいう北上に、さすがに動きが止まる谷風。今何と言った?そして、何だ、この主砲の曲がり具合は。

 

「はああああああ!?」

 

艤装を剥がす?剥がすとはどういうことだ?

 

「今のあたしは工作艦なんでね。艦娘の艤装を外すなんて朝飯前なんだよ。ついでに言うと、目が

見えない状況下で戦うなんざ、普通っしょ。」

「う、嘘だろう?そ、そんな訳・・・。」

「一応言っておこうかね?偉大なる七隻を舐めんなよ、若造。」

 

ばりん。

あっという間に艤装との連結を外され、谷風はうろたえる。奇襲の煙幕が防がれては、自分に勝ち目はない。ただでさえ、ここに偉大なる七隻がもう一隻いるなどとは予想外だったのだ。

 

(ちっきしょう~。とんだ貧乏くじじゃあねえか。こんなことなら磯風や浜風に任せとくんだったなあ。)

と、谷風が捕まることを覚悟したとき、

「行きな。」

北上は工廠の出口を指差した。

「事情があるみたいだから、詳しくはきかない。ただ、ここはあたしの城なんだ。次仕掛けてきたらいかに元味方であっても潰すよ。」

「・・・正気?」

信じられないと、谷風は北上の表情を伺う。

「あんたと仲のよかった雪風が、この艦隊にはいるんでね。」

「そ、それだけっ!?」

確かに雪風ならば同じ第十七駆逐隊で一緒に戦ったこともあるし、何より陽炎型の姉妹艦だ。

でも、それは他の鎮守府の雪風にも当てはまることだ。

「ああ。初期艦であたしの先輩に当たるからねー。媚売っとかないとさー。」

「う~ん。意味が分からない。でもまあ、帰っていいってんなら、谷風さんは今度こそ失礼するよ。」

 

谷風とて愚かではない。このまま抵抗しても何も実入りがないのは分かっている。それなら、せめて江ノ島鎮守府に偉大なる七隻が増えていたという事実を伝えるぐらいはしないと。

 

「おう、もう帰るのかね?嬢ちゃん。」

自分をすんなりここへと入れてくれた憲兵に営業スマイルを見せて、谷風は堂々と門から外に出ると、携帯で自分の上司に連絡をする。

 

「ごめん、金剛さん。谷風さん、失敗しちゃった。」

 

電話口の向こうから苛立っている様子が伝わってくる。谷風はどうやって言い訳をしようか考え、事実をありのままに報告することにした。

 




登場人物紹介

明石(当代)・・・原初の明石から数えて4代目に当たる大本営付きの工作艦。偉大なる七隻の戦闘力に見合った艤装を開発するのが夢で、時雨はよくその実験に付き合わされていた。

憲兵(68)・・・・駆逐艦に甘いザル警備にこの後与作に激怒され、交代をするよう言われるも、泣いてすがりつきそれを拒否する。

北上(工)・・・・某少年漫画に出てくるしろがねOの司令の技を見て、かっちょいいと分解の仕方を学ぶ。

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