最近新規艦娘ラッシュじゃね?と知人に言われたのですが、艦これの最初ってそうですよね。
ラーメンを 食べにいったら かもがいた 与作魂の一句。
「かもじゃなくて、秋津洲かも!ま、まさか鬼頭提督に会えるなんて~。」
秋津洲は感動を隠そうともしない。勝手に握った俺様の手を上下にぶんぶんと振り回す。
鬼畜道を目指す俺様が今もっとも苦手とするもの、それはふぁんだ。
例の米国大統領への追い込みの際にネットを使ったもんだから、動画は拡散したりしているし、あなたのファンより、などという匿名のくそみたいな手紙が鎮守府に舞いこんだりもする。
その度ごとに焼却処分をしてやっているが、困ったことに、時雨やフレッチャーが、勝手に返事をしているらしい。せっかく、手紙をくれたのだからと言っているが、俺様はくれとは言っていない。
「え?あれって、ダンシングおやぢじゃない?す、すいません。写メ撮ってもいいですか?」
などと青臭い女子高生どもに言われた時には、後15年経ったら会おうと言い、追い払ったもんだ。
「よかったかもー。まさか鬼頭提督に会えるなんて。これも大艇ちゃんの導きかも!」
秋津洲は背中に背負った風呂敷に包んだ二式大艇をベンチに下ろすと優しく撫でる。
さすがにラーメン屋では人目につきすぎるので、近くの公園まで移動した俺たちは、ベンチに腰を下ろし、一息つくことにした。
途中自販機で買った缶コーヒーを渡すと、秋津洲は嬉しそうに口をつけた。
「生き返るかもー。缶コーヒーなんて本当に久しぶり~。」
「随分と貧乏しているみてえだが、お前はどこの鎮守府所属なんだ?」
まずはそれを確認しないことには始まらない。
通常退役する艦娘は解体処理をし、艤装とのリンクを切られ人間として生活するため、ぱっと見には艦娘と分からないような奴も多い。
この秋津洲のように装備である二式大艇を持ってうろついている奴など、どこかの鎮守府の所属に決まっている。
・・・まあ、普通はどこの鎮守府の所属の艦娘も装備を持ってうろうろなんぞしていないが。
「うっ・・・。あ、あたし、家出してきたし、今はどこの艦娘でもないかも。」
「はあっ?何を言ってやがる・・・。」
こいつ、俺様が今日家出してきたって知ってやがるのか?もし偶然だとするならすごいことだぞ。
だが、困ったもんだ。装備を持った艦娘が家出となると、憲兵、大本営なんかが探しているんじゃないか。
俺様の問いに、秋津洲は首を左右に振った・
「それはないかも。」
「そんなことはわからねえだろう?鎮守府の連中も心配して探しているんじゃねえか?」
「そんなこと、もっとないかも。あたし・・・。いらない子だし・・。」
ぽつりぽつりと秋津洲が身の上話を語り出すが、無駄に長いのと、語尾にかもが入るせいで本当なのかどうなのかよく分からねえ。
「・・・って、ことがあって、正直あたしはどうかと思ったけど・・。」
「おい。」
「そりゃあ、あたしたちは艦娘だから、言われたらやるしかないけど、さすがに・・ってうわあっ?」
しゃべりが止まらぬ秋津洲にぬっと顔を突き出すと、俺様の圧力に驚き、ようやく静かになる。
「おい。いつまでお前のワンマンショーをだらだらと見せられなきゃいけないんだあ?俺様は忙しい。相手の時間をもらってるんだって自覚がねえのか?かもかも野郎。」
「ご、ごめんかも・・。つい興奮しすぎちゃって。」
「ふん。お前の話を整理するとこうだろう?」
元々、大湊警備府所属だった秋津洲は何をさせても使えず、大目玉。
提督との関係が悪くなり、横須賀鎮守府へと異動させられる。
どう考えたら、精鋭ぞろいの横須賀に異動させるのかが疑問だが、横須賀ほどになると所属する提督の数も多く、近海警備担当の提督の元に配属されたらしい。
ところが、この秋津洲。期待に違わず、することなすこと鈍臭く使えない。ついには近海警備で駆逐イ級にぼろ負けして帰ってきたところ、散々にけなされた後、出撃すらさせてもらえなくなった。
出撃をしないので、当然周囲の艦娘からは馬鹿にされ、基地航空隊で使うからと二式大艇を取り上げられそうになって、逃げ出した。
「そ、その通りかも・・・。」
頷いた秋津洲の頬をむぎゅっと掴む。
「たったそれだけの話を延々と俺様に聞かせてたのかあ?お前は。簡単だ、そんなもん。お前が特訓すればいいだけじゃねえか。」
「特訓?」
「おうともよ。うちの鎮守府でも、今引き取ったアトランタの野郎が時雨に泣かされてるころだと思うぜえ。愚痴を言う前に体を動かしな。自分を必要だと周りに思わせるんだよぉ。」
「そ、そうかもだけど・・・。」
「それより俺様が気になるのが、お前のその貧乏っぷりだな。最低保証分はもらってんだろお?何に使ってやがるんだ。」
「最低保証って何かも?」
ぱちくりと、俺様の問いに首を傾げる秋津洲。こいつ、知らねえのか。
この日本では、鎮守府の維持費とは別に、所属する艦娘に給与が支払われている。
基本給に加えて、深海棲艦との闘いで轟沈する可能性がある彼女達への危険手当も含まれており、その額は一般の公務員よりも遥かに高い。
多くの艦娘はこの給与を貯めておき、除隊した後の生活費に充てているという。
「ええっ?初耳かも!!あたし、今までお小遣い制だったから・・・。」
小遣い制だあ?話がなんか怪しくねえか。
「じゃあ、お前、今まできちんと給料もらったことないのか?艦娘歴は?」
「大湊で2年、よ、横須賀で1年かも・・・。」
「で、月に小遣いはいくらもらってたんだよ。」
「1万円・・・。」
あまりの金額に思わずコーヒーを吹き出しちまう。
「はああ?なんだ、そりゃ。お前、かもだからって鴨にされすぎだぞ!あのなあ、普通はその50倍だぞ!」
「かもだから鴨って意味不明かも~。そ、そんなことより初耳かも!あ、あたしのお金はどこにいったかも?」
きょろきょろと辺りを見回す秋津洲。あほか、こいつ。落ちてる訳ねえだろ。どうしてこう、艦娘どもってのは非常識なのかね。そんなの決まってるだろうよ。
「間で抜いた奴がいるんだよ。おそらく怪しいのは提督どもだがな。」
秋津洲は、こちらをきょとんとした顔で見て、続いて大きな叫び声を挙げた。
「ええええっ!!そんなの嘘かも!だ、だって提督だよ。そんなことする訳ないかも。」
こいつ、どうも初めて見たときからずれてやがるなあ。人間はみんな善人だと思ってるようだ。
こういう奴が悪徳通販とかで騙されて、妙な健康器具を買わされるんだよな。
「ん?なんだ、こいつ。」
じいいいいい。
気が付くと、秋津洲が抱えている二式大艇がじっとこちらを見ている。
どうでもいいが、お前やたらつぶらな瞳してやがんな。
自分のご主人様を助けてってか?仕方ねえな。俺様は紳士なんだ。こいつに恩を売っておいて、そのうち俺様好みの艦娘に縁が繋がらないとも限らねえ。ふぁんさーびすをしてやるとするか。
一時間後。関係各位に連絡をとり、藤沢駅前の喫茶店に移動する。
「あ、来ました。しれえ!こっちですよ!」
ぶんぶんとこちらに向かって手を振る我が初期艦。
「馬鹿。店内で大きな声を出して手を振るんじゃねえ。俺様がロリコンだと勘違いされるだろうが。」
俺様の文句にため息で時雨が答える。
「与作が逃げるからいけないんじゃないか。仕事、変わってやってあげたんだから奢ってもらうからね!」
「ふん。がきんちょばかりの鎮守府で息が詰まるのよ。」
「だから、艦娘には年齢は関係ないんだって!」
まあた、お定まりの論理を繰り出す時雨を横目におずおずと落ち着かない様子を見せる秋津洲。
「あ、あの。偉大なる7隻の時雨さん、ですよね。お会いできて光栄かも、じゃなくて光栄です・・。」
おい、こいつ。俺様の時と態度が違わねえか。めちゃくちゃ緊張しているじゃねえか。
「秋津洲だね、よろしく。そんなに緊張しないでよ。僕もみんなと共に戦う仲間なんだからさ。」
言われ慣れているのか、苦笑しながら無難に対応する時雨。こいつ、本当に外面はいいんだよな。どうして、俺様といるときだけ、ああがみがみ言うのかね。
今回だって、俺様が逃げたと知るや、雪風と共に探しに来るなどしつこいったらありゃしない。まあ、お陰で鎮守府に戻る前に色々と相談ができるし、よしとしよう。
そして、もう一人。連絡をしたら、たまたま出張で近くに来ているということで、助力を頼んだんだが・・・。
と、ちらりと入り口に見える人影。
「あっ、いたいた。与作君、久しぶりですね!」
声を弾ませてやってきたのは、提督養成学校時代の恩師である鹿島教官だ。何でも思うところがあり、現在は養成学校の教職を辞し、大本営付きとなっているという。
「スーツ姿の教官とは新鮮ですな。悪くない。」
「こら、与作!失礼だよ!」
「ふふ、時雨さんも変わりませんね。江ノ島鎮守府の活躍、大本営でも話題になっていますよ。」
鹿島教官は微笑んだ後、ぷうと頬を膨らませ、
「そして、教官、ではありませんよ、与作君。今の私は大本営付きなんですから、鹿島と呼んでくださいね。」
などと言い出した。意味が分からねえ。呼び方なんざ、どうでもいいじゃねえか。
俺様の戸惑いを察知したのか、隣の席に座る雪風がそっと耳打ちしてくる。
「しれえは少し女心を勉強した方がいいですよ!」
お前が言うな、お前が。
とにかく、だ。簡単な自己紹介の後、秋津洲の話を聞いた鹿島(言い慣れないが仕方ねえ)は、難しそうに眉をひそめた。
「与作君の言う通り怪しいですね。真っ黒です。秋津洲さんが給与明細を見たことがないなんて信じられません。」
「で、でもでも大湊でもそうだったし、あたし以外のみんなも働きに応じてお小遣いをもらっていたかも!」
秋津洲の話に唖然とする俺たち。仮にも俺様達は国家公務員。手当は増えるが、民間のように、働いた分だけの歩合制なんて聞いたこともねえ。
おまけに大湊でのこいつらの働きぶりがおかしい。秘書艦でもないのに休息時間3時間だとよ。今時よくこんなブラック鎮守府経営をしやがるって感じだな。
「・・・人によって考え方がそれぞれだからね。残念だけれど。」
寂しげに時雨が呟く。こいつが言うとなんだか重みが違うな。
「大本営に進言し、監査を行っては?」
鹿島の提案に俺様は首を振る。大湊も横須賀も大所帯だ。そこで行っているということはかなり抜け目なくやっているとしか思えない。
大本営から監査が入るなどと聞いた段階で、証拠を全て隠滅するだろう。
「じゃあ、どうするんだい?事情を聴いてしまった以上、見捨てられないよ。」
「とりあえず人目につきすぎるから、うちの鎮守府に連れてくかあ。野良艦娘だと思って間違って拾っちゃいましたとでも言えばいいだろう。」
「の、野良って・・。あ、あたしは猫じゃないかも!でもでも本当にいいの?」
「普通に考えれば、面倒ごとになりますがね。でも、与作君はそんなこと気にしないと思いますよ。」
「こいつはどうも。そこまで信頼されてるとはねえ。」
がしがしと頭を掻きながら見ると、鹿島は柔らかい微笑を浮かべた。
「今更ですよ、しれえ。どうせ、雪風たちが何を言っても聞かないじゃないですか。」
「そうそう。だから、秋津洲。遠慮なくうちにおいでよ。」
「ええっ。そ、それは・・。本当にいいかも?」
「ああ、構わねえ。」
「今日の食事当番はフレッチャーだからね。美味しい食事が待ってるよ!」
「それは楽しみかも!」
「ええ。楽しみですねえ。」
「はあ?何だって?」
「え、鹿島さん。雪風達についてくるんですか?」
「はい。そのつもりですが。」
雪風の当然過ぎる質問に、しれっと答える鹿島。
え?何で、あんたがついて来る訳。出張って言ってなかったか。
終わったら大本営に帰らなきゃダメだろ。
「いいんです。外泊申請を出しますから。大体そんな面白そうな話を聞かせて、それで終わりなんて酷すぎます!私も江ノ島鎮守府に一度行ってみたかったんです。行かせてください!!」
駄々をこねる鹿島にぽかんとする俺様と時雨。
「おい。時雨、鹿島ってこんなだったか?」
「いや、もうちょっと大人しかったと思うんだけど・・・。」
提督養成学校から大本営にうつり、一体何があったのか。有無を言わせぬ勢いでついてくる鹿島にさすがの俺様も戸惑いを隠せない。
「あ、あの・・・。鬼頭提督。ほ、本当にいいかも?話を聞いてもらってあれだけど、あたし、何も返せないかも・・。」
喫茶店の会計を済ませて、さあ出ようというところで、秋津洲が寄ってきた。
気持ちは分からないでもねえ。いらない子認定されていた自分にどうして構ってくれるんだということなんだろうな。
秋津洲の疑問に俺様はでこぴんで返す。
「あいたっ。な、何するかも~。」
「別にお前がどう思おうと関係ねえ。俺様が気に食わねえから力を貸してやってるだけだ。」
「えっ?そ、それだけ?」
「そうですよ、秋津洲さん。しれえはそれだけの理由で米国の大統領にも喧嘩を売るんですよ!って、痛い痛い!痛いですよ、しれえっ!」
雪風の野郎がなぜか自慢げに言ったのが気に食わず、ぐりぐりをかます俺様。
それを見て、ぽかんとした秋津洲は、ややあってつぶやいた。
「大艇ちゃん、あたし、本当に運が良かったかも!」
登場人物紹介
与作・・・・バックの中にある喪服妻のDVDに期待を膨らませている。
秋津洲・・・喫茶店で食べたパフェ800円が、ここ3年間での一番の御馳走。
雪風・・・・喫茶店で大人を気取りブラックで飲むが、飲み切れず砂糖を付け足す。
時雨・・・・なぜかついてくる鹿島の様子に不穏なものを感じている。
鹿島・・・・スーツを褒められ、鎮守府にも行けるとあって、るんるんの鹿島さん。
大艇ちゃん・秋津洲と与作の方をじっと見ながら、にっこり微笑んでいる。