鬼畜提督与作   作:コングK

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相変わらず深海棲艦と戦わないこの鎮守府。
作者が鎮守府目安箱のほっこりしたノリが大好きなためかもしれません。

アドバイスをいただき、人物の視点が変わるのがわかりづらいとのことでしたので、
今話から、視点が変わる際には⚓マークを入れることとしました。
これまでの分は余裕があれば・・。


第三十五話「かもかも娘のお悩み相談(後)」

「それじゃあ、秋津洲さんの歓迎会を始めます。かんぱーい!」

なぜか、乾杯の音頭をとる雪風の挨拶と共に、始まったかもかも野郎の歓迎会。

本来なら通常の夕食にする予定だったんだが、俺様達の話を聞いてたフレッチャーとグレカーレが本気を出し、食卓には豪勢な食事が並ぶ並ぶ。

 

おまけで付いてきた鹿島などは、

「私も一応初めてここに来るんですがね・・。」

と若干落ち込んでいたぐらいだ。

 

特にフレッチャーの野郎の熱烈歓待ぶりがすごい。おそらく、ジョンストンの野郎とかもかもを重ねているんだろう。

「き、鬼頭提督。あたし、本当にこんなに食べていいかも?」

 

上目遣いでこちらの様子を伺う秋津洲に、俺様は好きにしろと返す。

「今更遠慮してどうすんだ。お前、俺様が特盛ラーメン奢った後に、普通にパフェまで食ってたじゃねえか!」

「わあああ、そ、その話はしないでかも~。甘いものは別腹かも!」

顔を真っ赤にしてわたわたする秋津洲に、はいとグレカーレが手製のデザートを渡す。

「あたしお手製のティラミスだよ。食べて食べて!」

「あ、ありがとうかも。ううっ・・。」

「私が作ったカレーコロッケもありますからね。どんどんお代わりしてください!」

「・・・。ぐすっ・・・。」

「おいおい。飯が不味くなるから泣くんじゃねえ。そんなにいつもと違うのか?」

「うん。食事もだけど、あたし、いらない子だからみんなと一緒に食べられなくて。いつも大艇ちゃんとお部屋で食べてたから・・・。」

「・・・・。」

 

途端に辺りが静まり返り、秋津洲はやってしまったという表情をするが、そこへ口を挟んだのは最近やってきたダウナー系巨乳軽巡のアトランタだ。

「うん。まあ、わかるよ。あたし達も物として扱われてたから。基本レーションで、作っても簡単な物ばっかだったな。みんなと一緒に食べると楽しいよね。」

ああ、こいつもぼっちぽいもんな。うちの鎮守府に来て、見違えるほど元気に過ごしていると、この間来たコーネルのおっさんが喜んでいたがよ。

「そ、そうなの。みんなと楽しく美味しいものが食べられるなんて天国かも~!」

我が意を得たりと叫ぶ秋津洲に、場の雰囲気が元に戻る。

「美味しいなんて、嬉しい事いってくれるわね!あたしの自信作、ピスタチオ味のティラミスも召し上がれ!故郷の人たちが送ってくれた本場物だよ!」

「え?そ、そんなことあるんですか・・。高級品でしょう?」

鹿島が驚いた表情でこちらを見る。深海棲艦が跋扈している現在、各国間の取引は大幅に制限をされている。他国産の食品も、以前と比べてとんでもない価格で販売されていることが多い。

 

「俺様も意外だったんだが、この間の記者会見、イタリアでは結構好評だったらしくてな。大使館を通じて色々な物を送ってきてくれたのさ。」

「そうなんだよねー。もう愛されてて困っちゃうよ。ちなみにこれはあたしの姉妹艦達が送ってくれたもんよ。」

「できた奴らだよな。ぜひお前と交換したいもんだが・・。」

「ちょっと、テートク!冗談でも酷すぎ!」

何言ってやがるんだ、こいつは。冗談じゃなくて、本心だぞ。

 

 

秋津洲の歓迎会がつつがなく終わった俺達は、情報を整理して、今後の対策を考える。

今現在判明しているのは、横須賀と大湊でブラック経営をしている提督がいるということだけ。

それが鎮守府全体なのか、個人でやっているものなのか、規模が分からない。

 

「お前が言う二人以外に、鎮守府内でよくない噂を耳にしたことはねえのか。」

そう聞いてはみたが、いかんせん、秋津洲自身がぼっち体質だったため、全くわからないと来たものだ。

「こうなると誰が敵で誰が味方かの判別が難しいですね・・・。」

鹿島はむむむと考え込むが、実際はそんな難しいことはない。

「どうしてです?」

「鎮守府ぐるみにせよ、個人でやっていたことを曝しちまえば、いい見せしめになるじゃねえか。少しは態度を改めると思うぜ。」

「それは言えるかもねー。んで、提督はどうするつもりなの?」

と、北上。相変わらず平常運転だな、こいつ。

「ふふん。我に秘策ありだ。だが、そのためにはお前の協力が必要だ。」

「ふえ?あ、あたしかも?な、なんでー!」

「鎮守府の内部事情に詳しい奴が必要なんだよ。ついでにお前の能力についても知っておきてえ。今日はゆっくりしてもいいが、明日は普通に起床しろ。どんなもんか見てやる。」

「よ、与作。手加減してあげなよ。」

時雨が心配そうに声をかけてくるが、そんなに信用がないもんかねえ。

 

 

 

翌朝。いつもの朝練を中止にし、浜辺にやってきた俺様と秋津洲となぜか二式大艇。

「た、大艇ちゃん。応援しててね!あたし、がんばるかも!」

秋津洲は気合いを入れてやる気十分だ。北上から貸してもらったというトレーニングウェアは若干窮屈そうだが、動く分には問題なさそうだな。

「それじゃあ、世間が言うように本当にお前がダメダメなのか俺様が見極めていくからな。」

 

昨夜のうちに鹿島がまとめてくれたメモを元に、秋津洲の能力を確認する。

「速度低速。雷撃不可。水上戦闘機等は積めるが、搭載機数が少なく、一隻では制空補助が厳しい。他の水上機母艦に比べ、対潜戦闘はやや秀でている。大発等の上陸用舟艇は装備できる可能性があるが、今現在の練度では無理。」

「うっ・・。そ、その通りかも・・。」

「そんじゃ行くぞ!」

「や、やあああ!」

のろのろと向かってくる秋津洲。こいつ本当に艦娘かってなくらい遅い。おまけに繰り出したパンチはひょろひょろで、これじゃあうちの初期艦とイタリア艦の方がよっぽど強い。

「お次はこいつだ。」

「ひゃ、ひゃあああ!」

大分手加減した俺様の一撃をぎりぎり躱す秋津洲。うむ。回避に関してはそこそこだな。続いて耐久力を調べようとしたところ、さっと俺様の前に二式大艇が割り込んだ。

「おいおい。俺様はこいつの耐久性を調べようとしてるんだぞ。どういうこった?」

じいいいい。

言葉を発しない二式大艇だが、なんとなく言いたいことが分かる。

「攻撃するのは止めろってのか?」

俺様の問いに、こくりと頷く二式大艇。それを見て驚く秋津洲。

 

「あ、あたし以外に大艇ちゃんと意思疎通ができる人がいるなんて・・。さすがは鬼頭提督かも!」

「ふふん。秋津洲よ。かもかものくせに分かってるんじゃねえか。お前があんまりにもへっぽこだからやめとけってことらしいぜ。」

「ひっど~い。大艇ちゃんはそんなこと言わないかも!鬼頭提督、そんなに強いかも?」

「この鎮守府で闘ったのは時雨と北上とアトランタか。まあ、負けてないぜ?」

「・・・じょ、冗談でしょ?」

「本人達に確認してもいいがな。」

「・・・・。」

俺様の言葉に絶句する秋津洲をよそに、今の戦闘で分かったことをメモに付け足していく。戦闘力皆無。回避力ややマシ。う~ん。こいつ、とことん使えないな。

 

「ブラックうんぬんはさておき、お前のポンコツぶりは相当だな。これは重症だぜ。よくこれまで無事に戦ってこれたな。」

「ううっ。ひどいかも。あたしだって頑張ってるんだけど、相手が強すぎるかも!」

 

秋津洲はべそをかくが、そもそもこいつの艦娘としての戦闘力の低さは驚くほどだ。これでよく今まで戦闘してこれたな。逆に感心するぜ。

 

「どういうこと?」

「ふん。お前の根性を買ってやってるってことよ。こんだけ弱いんだ。お前、戦闘に出るの怖いだろう。」

「う、うん・・。」

「でも、いやいやながらでも戦闘に出続けた根性は買うぜ。それだけでもお前は立派な艦娘よ。」

「えっ・・・」

 

 

                   ⚓

「お前は立派な艦娘よ。」

鬼頭提督の言葉を聞いた瞬間、あたしは息苦しくなってがたがたと震え出した。

立派?

あたしが?

役立たず、無駄飯ぐらい。

言われた嫌みや悪口は数知れず。

 

でも、褒められたことなんて一度たりともない。

 

嫌だとか、そういう負の感情じゃなくて。

初めて褒められたことにびっくりして。

 

そして、それが、米国の艦娘を救い、艦娘の救世主として多くの艦娘から注目されている鬼頭提督からの言葉だなんて信じられず。

 

嬉しすぎて嬉しすぎてどうしていいか分からなくて。

思わずあたしは大泣きしてその場にへたりこんでしまった。

 

弱いのは自分でも分かっている。

役立たずなのも。

でも、艦娘として生まれてきたからには、何か役に立ちたかった。

 

例え役立たずと罵られても。

そのために、あたしはこの海に戻ってきたのだから。

 

「おいおい。何を泣いてやがる。お前の能力査定は終わってねえぞ。戦闘が役に立たないんなら、他に得意なことはねえのか。」

「え?戦闘は苦手でもいいの?」

「あのなあ。戦争ってのは戦うばっかりが能じゃねえんだぞ。補給だの工廠仕事だの。やることはたくさんあるんだ。お前がほんっっとうに使えねえか。俺様が徹底的に確認してやる!」

「うん!」

ごしごしと涙を拭きながら立ち上がると、大艇ちゃんがあたしの所に寄ってきてくれた。

「あたし、頑張るかも!」

 

                   ⚓

びっぐさぷら~いず。

こいつは正直驚きだぜエ。

現状戦闘面ではほとんど役にも立たない秋津洲だが、こと料理と工廠の仕事に関してはかなりの適性を持っていることが判明しやがった。

料理の腕前は俺様が、工廠仕事は北上が見たが、そのどちらの評価とも「結構使える」だった。

「予想外にこいつは手先が器用だな。お前、大湊や横須賀では料理したことねえのかよ。」

「うん。大湊も横須賀も間宮さんと明石さんがいるから・・。」

秋津洲の言葉に、そうかと今更ながら気付く俺様。そうだよ、普通の鎮守府はその二人か夕張・伊良湖がいるんだよ。うちにはいないがな!

「てえことはさ、あきつしまんが輝ける鎮守府は、うちみたいな弱小鎮守府しかないってことじゃない?提督。」

 

北上の奴がずばりと言うが、確かに餅は餅屋だ。こいつがいかに手先が器用でも専門家の二人がいる大きな鎮守府じゃこいつの立場はないだろう。

 

「その辺りは難しい問題ですね。先方の提督の了解が得られないと難しいですから。現に、ここの鎮守府への異動希望は結構ありますよ。」

「はあ!?」

しれっと鹿島が投げ込んだ爆弾発言に俺様がつい声を上げる。

うちの鎮守府に異動希望が多い?そんな話誰からも聞いてねえぞ。

「それは伝えられませんよ。艦娘の側が勝手に書類を出してしまって、大本営が所属の提督に確認したところ、発覚するってケースばかりなんですから。向こうの側からすると、主力の艦娘もしれっと異動希望を出していたりすることもあって、大問題となったんです。」

 

なんだよ、おい。使えねえな、その制度。主力と言うんだから戦艦や空母に違いない。俺様の艦娘ハーレム建設がまた一歩近づいたと思ったのに。

 

「まあ、こいつの所属の問題はブラック提督どもに鉄槌をくだしてからだな。」

「わくわくしますね。どうするんです、与作君。」

何を勝手に盛り上がってるんだ、この練習巡洋艦。あんた、自分が有明の女王って言われていた自覚がないだろう。あんたが一緒に来たら目立つんだよ。おまけに大本営にいるのにそれはまずい。

 

「エーッ。つまらないですよ。私にも何か協力させてくださいよ!」

「ああ、もちろん。お願いすることはあるぜ。」

「本当ですか!?任せてください!」

 

「そういや、昨日から気付いてたんだけどさ、ため口で話してたっけ?」

北上の疑問に俺様はため息をつきながら答える。

「ああ。一応恩師だからと俺様も気を遣ってたんだが、距離を感じると、帰りの電車で駄々をこねられてな。」

「駄々をこねただなんて。気を遣う必要がないと言っただけです!」

「自分は丁寧に話すくせに・・。」

「うっ。こ、これはもう癖みたいなものだから仕方ないんですよ。それで、私は何をすればいいんですか。」

「ええ。大湊警備府と横須賀鎮守府全体の見取り図。それと、各提督の評判と、その配下の艦娘について調べていただきたい。」

「う~ん。かなり不味いお願いしていると思うんだけど。」

まあ、部外秘だからな。事が露見すればそりゃ大目玉さ。それだけじゃねえと思うがね。

「それで何をするつもりなんです?」

「忍びこむんだよ。奴らのブラックな証拠を掴みにな。」

「泥棒ですか?」

「人聞きが悪い。せめてスパイとか言ってほしいもんだぜ。」

 

ふふっと微笑みを浮かべて、鹿島は俺様をじっと見つめる。

「大本営所属の私に、悪事の片棒を担げなんて。酷い教え子がいたもんですね。」

「嫌なら別にいいんだぜ。他の伝手を当たるからよぉ。」

「いいえ。最初から何かできないかと言ったのは私ですからね。でも、その代わりに私からもお願いがあります。」

「なんです?」

 

聞き返す俺様に鹿島はにこにこしながら近づくと、耳元でそっとささやいた。

「もし大本営をクビになったら、ここで雇ってくださいね!」

                                    

 




登場人物紹介

与作・・・・・秋津洲のあまりのへぼぶりに呆れるも根性は買っている。
秋津洲・・・・与作への好感度が元々高かったがまた上がる。
アトランタ・・己と境遇が似ている秋津洲に不器用ながら気を遣う。
グレカーレ・・お手製のティラミスが好評で、にっこにこ。
北上・・・・・鹿島の怒涛の攻めに若干呆れ気味だが、自分も同じようなもんかと静観姿勢。
鹿島・・・・・今の私は日向小次郎です、とばかりに怒涛の強引なドリブルを見せる。
大艇ちゃん・・秋津洲の様子を見るまなざしはまるで保護者。

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