「建造で全て資材を使った!?貴方バカなの!?バカなんでしょう!」
大本営に直接電話するよりもつてを使った方がいいと、俺が電話したのは提督養成学校時代にお世話になった香取教官だ。俺様の思い切りのいい使い方にさすがの教官も言葉がないと見える。
「重ねて言うけど、本当にバカね。おまけに初建造をして出てきたのが雪風?運がいいんだか悪いんだか、いやこの場合艦娘達にとってはとても幸運なことなんでしょうけど・・。てっきり時雨を初期艦にすると思っていたのに・・。」
「おっと、どういうことですかねえ。こちとら例え歴戦の駆逐艦でも、駆逐艦ですからねえ。せめて軽巡がいれば、この近辺の警護に力を発揮できたんですがねえ。」
「よく言うわよ。貴方の頭の中はナイスバディな艦娘とやらで一杯でしょうに。大方、重巡を建造しようとして失敗したんでしょう。いい気味ね。」
「恩師の言葉とも思えませんね。ま、それより、資材の方、都合していただきたいんですが、何とかなりませんかねえ。」
俺様の当然の要求に電話越しからため息が漏れた。
「あのねえ、そういうものは普通簡単でも任務をこなしていて支給されるものよ。そうでないと、艦娘を建造しまくって何もしない貴方みたいな提督が溢れかえるじゃないの。」
「誤解があるようですなあ。私は任務を放棄するつもりはありませんよ。資材がすっからかんでできないだけです。」
「再教育が必要みたいね、貴方。全く、いくら人手が足りないからってどうしてこんな奴を提督なんかに・・・。」
おっと。これはお小言に入りそうだな。香取教官は眼鏡が似合う知的美人で俺様の息子も大ファンだが、説教が長くていけない。仕方がない、奥の手でいくか。
「私のお願い、聞いていただけませんかねえ。」
「無理よ。織田君辺りに融通してもらいなさい。」
冷たく言い放つ香取教官。おそらく電話越しに眼鏡をくいっと上げてやがるな。
「そうですか・・。仕方がないですね。ところで、呉の重巡青葉が艦娘水着グラビアを募集しているそうですよ。提督たちには大人気なんですが、艦娘からは不評でてんで応募が集まっていないそうですが・・。」
「全く青葉さんも何を考えているんでしょうね。当たり前です。それが何か?」
ふっ。俺様が卒業してからもう勘が鈍ったと見える。月日の経つのは悲しいねえ。まだたった一日しか経ってないがよ。
「いや、それがですねえ。あまりにも応募がないんで、他薦もOKということになってまして。都合のいいことに、こちらの商品がなんと、資材の入ったプレゼントボックスとなってるんですよ。そこで。私の方で応募したいと思っているんですが・・。」
「ま、まさか、貴方・・・」
「養成学校での香取教官のスク水姿・・。全提督候補生がお宝ショットと認めたあれならば採用間違いなしだと踏んでいるんですよねえ。」
バキイイイ!電話の向こうから流れてくる何かを折った音。まあ、おそらくいつも持ち歩いている教鞭だろうな。これで98本目か。
「ふ、ふん。そんなもの大本営に報告し、発行禁止にすればよいだけです。」
「そうでしょうかねえ。こういっちゃなんですが、香取教官はもう少しご自分の魅力に気付くべきですなあ。普段絶対に見せない教官の貴重な、それもあられもないスク水姿。たとえ表面上は発行を禁止にしても裏では出回るでしょうよ。」
香取教官の過ちは俺たち男のエロにかける情熱を過少評価しているところだ。エロのために命をかける人間は古代から存在するのだ。
「よ、要求は何なの!要求は。」
さすがに聡い教官は、それをすばやく理解したようだ。
「くっくっくっく。要求は先ほどの通りです。資材の融通をお願いいたします。それでデータの入ったUSBをそちらに送りましょう。」
「それだけではダメね。今後同じことがあると困ります。バックアップも含めて貴方の持っているデータを全部削除しなさい。」
「分かりました。そこは信用していただいて構いません。」
と言っても、すでに織田にサブのデータは渡してあるんだけどねえ♪俺様のデータは消すが他人のデータを消すなとか新たにもらうな、とは言われてないからな。
「大本営の大淀に掛け合ってみます。しばらく待ちなさい。それと、貴方、時雨には手紙でも書いてあげなさいよ。あの子、貴方に呼ばれる前提で荷造りまで済ませてるんだから。」
「まあ、気が向いたら考えます。それでは教官、今度会うときまでに女を磨いておいてくださいよお。」
「うるさい、死ね!」
ガチャンとすさまじい音を出して電話が切れる。くっくっく。労せずして資材げっちゅー!
「持つべきものは優しい知り合いだな。」
『脅迫っていいますけどねー。』
「すごいです、司令。香取さん相手にあそこまで堂々と言う人初めてです。違う意味で尊敬します!」
ふふん。ビーバーの癖に俺様の有能さ加減を見抜くとは見どころがあるな。ところで、お前が持っているそのバケツはなんだ?
「はい、司令がお電話中、雪風は憲兵のおじいさんと釣りに行っていました!って痛い痛い!」
俺様のぐりぐりにも力が入る。どうしてこいつは人の命令を聞かないんだ?点検・掃除をしろって昨日言いつけただろうに。
「点検をしようにも、雪風の艤装は新品ですし、玄関の掃除をしていたら、おじいさんが気分転換に釣りでもどうかと誘ってきてくれたので、断るのも悪いと思いまして・・。」
むう。それでは、雪風はそこまで悪くはないか。いや、任務を疎かにしたのはよくないが、あの爺に誘われては幼いこいつには断れんだろう。爺め、許せん。
「そうかい。事情はわかった。それで釣れたのか?」
「はいっ!こんなものが釣れました!」
そう言って雪風が見せたのは、バケツの中に放りこまれた、誕生日などで見かけるリボンのついた箱。あれ?これってどこかで見たような・・・。
『プレゼント箱だよ!これ!!』
「はあっ!?」
中から取り出される資材を見ながらきゃっきゃとはしゃぐ雪風ともんぷち。なぜかいたたまれぬ気持ちになる俺様。おい。朝からの俺様の苦労はなんだったんだ。香取教官との丁々発止のやりとりは。
「司令、言ったでしょう!絶対大丈夫って!」
どや顔を向けてくる雪風に俺様は無言でぐりぐりをかました。
「な、なんでぐりぐりするんですかーー」
うるさい幸運艦。俺様の八つ当たりに少しは付き合え。
登場人物紹介
雪風・・・・今日の釣果はアジ10匹とイシダイ4匹とプレゼント箱。与作に料理して
もらいご満悦。
憲兵(68)・雪風を釣りに誘った元凶。最近連絡のない孫の代わりに甘やかす。
与作・・・・なめろうが大好き。そのため、雪風を叱りつつもご満悦。
もんぷち・・吊るしている猫が勝手になめろうを食べたためバトルに発展する。
香取・・・・水泳授業の時の鹿島の人気にあてられてついつい対抗してしまった。反省
している。