鬼畜提督与作   作:コングK

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色々と重なり、これまでより更新の速度は遅くなると思います。

今回は2017年のイベントで起こったとある事件を参考にしています。

そう言えば、秋津洲の回のエピソード、調べていたら同じような横領事件が実際にあったみたいで驚きました。

今回方言を話すキャラが出てきますが、コンバーターと龍馬がゆくを参考に書いておりますが、出身の方でおかしい場合には教えていただけると助かります。


第四十三話「それは静かに動き出す」

すりぬけくんでの建造を終えたその日の午後。

北上が電話で建造結果を伝えた際の大本営の明石の驚きようは尋常ではなかった。

「そんな、嘘ですよね!?あり得ませんよ、普通!!」

「それが嘘じゃないんだよ・・。あたしも久々にテンパってるんだ。こんなの常識としては考えられないってさ。でも、実際にそうだから仕方がない。」

電話の向こうで明石が息を呑む。いつも飄々としている北上が、自ら焦りを伝えることなど、余程のことだろう。だが、それも仕方ないと言える。

「まさか、神鷹が建造されたばかりで改二になれるなんてね。」

 

そう。江ノ島鎮守府で建造された神鷹の艤装の性能をチェックしようと、昼食後に北上が彼女を呼んだところ、神鷹自身がさらりと言ったのだ。

「あ、あの。北上さん。艤装のチェックは改二の状態の方がいいでしょうか?」

冗談だと思った北上は、面白い子だなと、ああいいよーと気軽に答え、後悔した。

「はい。了解しました。神鷹・・改二!!」

光に包まれた後に現れた神鷹の姿に、北上は文字通り度肝を抜かれた。

耳にはインカムを着け、飛行甲板はカタパルトを装着し、迷彩色となっている。そして、これまで履いていた赤い袴が、明らかに緑の袴へと変わっている。

「え・・・。本当に改二!?」

「ヤー。か、改二です。お、おかしいでしょうか・・。」

「いや、ごめんごめん。予想外のことだったからさ。じゃあ、ちょっと色々見ていくからね。」

「はい、お願いします・・。」

建造されたばかりで不安そうにする神鷹を前に、さすがに驚いてばかりいられないと、すぐさま艤装の確認作業に入った北上だが、内心絶叫したいのを堪えるのに必死だった。

 

(あの建造ドックなんなの?どこの世界に建造されたばかりの艦娘がいきなり改二になれるわけ?どう考えたっておかしいでしょう!!)

 

艤装の具合は申し分ない、卸したての新品だ。が、問題は神鷹が初期に持参した装備にもあった。

「は、はい。艦載機が3種類です。」

「ん!?聞いているのと違うね・・。」

通常建造された艦娘と、ドロップした艦娘は初期の状態であるならば持参した装備は同じだ。北上は神鷹のドロップ情報から、神鷹の初期状態での装備は零式艦戦52型と九七式艦攻と知っているが、ここでも予想を大きく上回る出来事が起こった。

 

「この九七式、乗っている妖精が違うよ。九三一空?あんたが改になった時の装備じゃないか。それでこっちはJu87c改二だって?」

装備妖精に確認すると、さすがに北上は叫び声を上げた。他の鎮守府でドロップした神鷹は未だ改の状態であり、改二の装備は謎のままだ。とすると、この爆撃機は神鷹改二の初期装備と考えられる。

「ええと、変でしょうか・・。」

「い、いやいや。ちょっと驚いちゃってね。それで、機銃は持ってない?」

艦娘が初めて改状態になった時には新しい装備が顕現する。神鷹改の初期装備には25mm3連装機銃と書いてあるが、見た感じそれらしき装備は見当たらない。

「いえ、ごめんなさい。これだけです・・。」

「マジか。いや、あんたは気にしないで。」

申し訳なさそうに頭を下げる神鷹だが、北上はフォローを入れた、そう、彼女はまるで悪くない。

全てはあの建造ドックがおかしいのだ。通常の神鷹が持っている装備がなく、明らかに改と改二の

装備を最初から神鷹に持たせるなんて。

あまりの非常識ぶりに気持ちが動揺した北上が、大本営の明石に相談したのも無理からぬことであろう。

 

「北上さん、これ。不味いと思いますよ。大淀とも相談して、急ぎその建造ドックの調査が必要ですね。おかしすぎます。前々から変だとは思っていましたが・・。」

北上からの話を聞いた明石は断言した。大本営付きの彼女からしても、あまりにも異常な出来事だった。

「うん。それはあたしも思っている。提督は嫌がるかもしれないけどねー。今回の建造結果は異常すぎるし。いや、今回も、か。あたしも何がなんだか分からなくなってきたよ。」

「私が行ければいいんですが、今大本営付きの艦娘の移動が厳しく制限されてまして・・。」

「ああ、前々から金剛や大淀が締め付けてたけれど、鹿島の件で止めを刺したからねえ。」

つい先日も、北上はその鹿島から、連絡という名の愚痴を聞かされたばかりだ。横須賀の情報を漏洩した責任をとって、大本営の事務を辞し、まんまと江ノ島に来ようとした青写真が崩れた、と。

るんるん気分で、さも申し訳なさそうに辞表を出した鹿島を待っていたのは、にこにこ笑顔の大淀だった。

「そうですか。それでは、その失態分働いてもらわなければなりませんね!」

「ええっ!?」

どうしてそうなる?とへべれけになった鹿島から涙まじりの電話をもらった時には運がないんだよ、と答えたが、大淀からすれば面倒の種を増やした部下をそのまま野放しにできるかと考えたのだろう。北上の言葉に明石も同意する。

「はは。鹿島も大分、鬼頭提督にお熱みたいですからね。暴走したんでしょう、まあ、そのせいで面倒くさいことになっていますが。」

研究一筋の明石にとって、江ノ島鎮守府の建造ドックは喉から手が出るほど調べてみたい代物だった。何度か調査希望を出し、その度に調査の必要なしと却下を言い渡されているが。

「そうだね。大淀にはこちらでも連絡をとってみる。わざわざありがとね。」

北上は一旦受話器を置くと、再びダイヤルを回した。

 

                  ⚓

東京市ヶ谷にある海軍省の一室では、重苦しい雰囲気が流れていた。

 

「以上が、江ノ島の北上と大本営の明石の通信記録です。」

浜風から渡された報告書に目を通すと、比叡は深いため息をついた。

 

「どうしてあの鎮守府は大人しくしていないのでしょう。こんな建造結果、世界に発表したらとんでもないことになりますよ。」

「私のデータでもこんな建造結果は聞いたことがありません。各国での奪い合いになるでしょうね。夢の建造ドックとして。」

「何が、夢の建造ドックデス!!!」

霧島の言葉に、それまで黙っていた金剛が突如荒々しく机を叩いた。優雅に置かれていたティーセット一式が横倒しになり、床に落ちたカップが割れる。

「お姉さま!!」

 

側にいた榛名が大慌てでハンカチを出し、とりあえず大きな破片を拾い集めるが、金剛はどこ吹く風と話の続きを促した。

「北上と大淀の通信については?中身は分かっていマスか?」

「そちらは残念ながら傍受できませんでした。室内に盗聴器を仕掛けようと試みたこともありますが、その度ごとに看破されています。」

「腐っても偉大なる七隻。長門補佐官がいますし、大淀もいる以上無理でしょう、お姉さま。」

比叡の言葉に金剛は無言で頷いた。

 

「谷風の失敗の件もありますので、私達十七駆としても、再度なんらかの形で仕掛けたいとは思っておりますが、よろしいでしょうか。」

姉妹艦でもあり、同じ部隊の谷風の失態は彼女達全員の失態だ。挽回の機会が欲しいと浜風は金剛を見つめる。

「構いマセン。ただし、あそこの鎮守府は一筋縄ではいきまセン。こちらも色々と準備をしていかないと、逆に手酷い反撃を喰らうことになりマス。」

金剛はその場で矢継ぎ早にあちこちに連絡をとると、姉妹たちと浜風に指示を与えて下がらせた。

 

「お気に入りのティーカップが・・・。まだまだ私も甘いデスネ。」

破片が残らぬよう気を付けながら、金剛は掃除機をかける。榛名がやろうと買って出てくれたが、自分でやると断った。今は無性に一人でいたかった。

心の内にさざ波が立つなどいつ以来のことだろう。常に淡々と仕事をこなし、己の目的のために邁進してきた。それがこの数か月はどうだ。全てはあの鎮守府にあの提督が着任してからだ。

 

「鬼頭与作・・。私はお前のような提督を認めない・・。」

金剛は新しく入れ直した紅茶を口にし、静かにカップを置いた。

 

                    ⚓

青森。大湊警備府。

先の大戦より存在し、海上自衛隊の大湊地方総監部から施設の多くを譲り受けたこの鎮守府は、横須賀ほどではないにしても国内でも指折りの大所帯であり、その訓練の過酷さから艦娘達からは地獄と恐れられた場所であった。

 

「悪いが、もっぺんゆうてくれ。」

低く静かな声で倉田源八は言った。

大湊の狼と呼ばれる倉田は、上官であろうと己が認めた相手でないと敬語を使わない。軍隊につきものの修正を施される度に相手を叩きのめしてきた。

大湊警備府の司令長官、榊原中将は苦虫を嚙み潰した顔で、再度説明する。大湊と江ノ島の演習を行い、ついては代表で第四艦隊に出て欲しいと。側で聞いていた参謀は目を丸くした。倉田の第四艦隊と言えば、荒くれ者の多い大湊でも一番苛烈な隊ではないか。

 

「わしの耳がおかしいがか?なぜに大湊みたいなでかい所が、よりにもよって江ノ島なんぞを相手にせんといかんぜよ。」

「倉田、標準語で話せ。意味が分からん。」

榊原が言うも、倉田は気にも留めない。

「あん?それをここで言うがか?おまん、市内を出歩いて、標準語で話せと言ってまわるとええ。

袋叩きに遭っても助けはせんがの。」

 

高知出身の倉田からすれば、標準語など風情も何もないつまらないものだった。抑揚もないし、面白みもない、ただ気取っているだけの話し方。けれど、修学旅行で東京に行けば訛っているなどと、差別的な言葉を東京の者は平気で口にする。提督となり、散々話し方について言われたが、その度ごとにどこ吹く風と無視し、しつこい輩は実力行使で黙らせた。

「横須賀での横領事件の後、うちの大賀が処分を受けたのは知っているだろう?どうも大賀の奴が全ての原因らしくてな。大本営からも事実確認せよとのお達しが来ている。」

「知るか。おまんらの監督不行き届きの尻を、なんでわしが拭わにゃならん。ましてや、大賀じゃと?あの三下の代わりをわしがせえっちゅうんか!!」

すでに横領の罪で懲戒免職処分を受けている元同僚の顔を思い浮かべ、倉田は怒鳴った。

「大湊のやり方を、以前から大本営にはうるさく言われていてな。あのバカのせいで大本営自体本腰を入れそうなんだ。ここのやり方が変わるのはお前としても本意ではないだろう?。」

「当たり前じゃ。偉そうに東京でふんぞり返っている連中にわしらのやり方をどうこう言う資格なぞあるかい。」

「そうとも。」

我が意を得たりと、榊原は演習の意図を説明する。艦娘派の高杉元帥からすれば、大賀の横領の一件から、大湊の艦娘への態度を改めさせようという考えをひしひしと感じるらしい。確かに、横領はおかしいが、厳しい訓練まで十把一絡げでくくられるのはおかしい。そこで、倉田の隊と、江ノ島鎮守府が演習を行い、倉田の隊が勝てば、ほれ見たことかと大本営に自分達の正しさを見せつけることができるだろう。

「これまで通りやっていくにはこれしかない。どうだ。」

榊原とて、艦娘派の考えを頭から否定しようとは思わない。だが、自分たちなりに正しいとこれまで武断的な姿勢を貫いてきた。それをいきなり変えるのは難しい。

「理由は気に食わんが、引き受けちゃる。一つ質問があるが、ええか。」

「ああ。なんだ?」

倉田は獲物を前にしたどう猛な狼のように、口の端を釣り上げた。

「そんで、江ノ島の連中は食い甲斐があるんか?」

「向こうには偉大なる七隻が二隻もいると聞いてるぞ。お前にうってつけだろう。」

目をらんらんと輝かせ、倉田は嬉しそうに手を叩いた。

「たまるか!そいつはまたなんとも・・・。」

 

扉を閉め、倉田がいなくなると、参謀は待ってましたとばかりに口を開いた。

「閣下、よろしいのですか。今注目を集めております、江ノ島との演習などと・・。」

「致し方ないのだ。大臣秘書官からお願いされてはな。江ノ島の鼻を明かして欲しいと。」

「あの金剛ですか・・。元艦娘だというのに何を考えているんでしょう・・・。」

「どうでもいい。利害が一致するうちは我々も大人しく言うことを聞けばいいのだ。責任は向こうがとってくれるだろう。」

他人事のように話す榊原に、参謀は眉をひそめた。

 

「ああっ、もう!!何で肝心な時にはいないのよ!」

大湊警備府第四艦隊に所属する神風は、先ほどから姿を見せぬ己の隊の指揮官に悪態をついた。普段なら教練にかかりっきりの男が今日に限っては練習場に姿を見せず、順番に心当たりの所を探していたが、手掛かりがまるで無かった。

 

「なんじゃ、わしに何か用か。」

「えっ!?いつの間に。」

木陰からひょっこりと姿を見せた倉田に、神風は驚いた。

「司令長官が呼んでいるわよ。」

「今行ってきた。次のわしらの相手はあの江ノ島らしい。」

「ああ、あの鬼頭提督の・・・。」

神風は複雑な表情を見せた。訓練が厳しく、艦娘を道具扱いする提督が多い大湊では、先の時雨の記者会見での鬼頭提督の発言と米国大統領とのやりとりは、所属する艦娘達を動揺させるに十分だった。神風としては、色々な考え方があって当然と考えていたが、中には公然と上官である提督の批判をする艦娘も出てきていると聞いている。

 

「どうじゃ、自信は?」

「普通にやって負けないでしょ、うちは。向こうはできたばかり。なんでうちとやるのかしら。」

「色々言うとったが、本当の所は知らん。榊原の奴は嘘ばかりつくしの。」

「なんで、そんなのを引き受けてきたんです!」

神風の非難めいた視線に、倉田はぽりぽりと頭を掻いた。

「そりゃあ、偉大なる七隻が二隻もおると聞いては、やりたくなるのが性じゃ。」

「あのねえ、司令官。闘うのは私たちなんですけど。」

「なんじゃ、臆病風に吹かれよったか?格闘訓練行っとくか?」

からかうように言う倉田に、神風は首を振った。

「とっくにそんなの終わらせちゃっているわよ。司令官の執務の方が溜まっているんですが。」

顎を撫ぜていた倉田は何を思いついたかポンと手を打った。

「ほんじゃ、そいつは大賀のバカを呼びつけてやらせようかの。元々あんバカが道具の扱い方も分からんと偉そうに後輩に講釈垂れたのが原因じゃ。」

「うん。自分の仕事は自分でやれと言いたいですが、その気持ちについては同感かな。」

 

いかに艦娘を道具扱いすると言っても程度がある。艦娘自身に払われる金を懐に入れるなど、提督の風上にも置けない。横須賀の件があり、各鎮守府での調査を徹底した結果、余罪がごろごろと出た大賀に関しては、すでに処分が下されているが、彼女たちの胸にあるわだかまりは晴れない。

 

「それよりも、司令官の方があの鬼頭提督に勝てるのかしらね?見た感じ、相当強いわよ、あの人。」

「そがいなことは分かっちょる。じゃが、映像なんぞ平気で加工できるしの。会ってみんと分からん。」

「よく言うわよ。アトランタとの闘いの映像、何度も観ていたくせに。」

「あのナイトメアなんたらが、原初の夕立を模したというからどんなもんか気になっただけじゃ。期待外れもええとこじゃったがの。」

倉田は大きく伸びをすると、ぐるぐると肩を回し、神風に告げた。

「とりあえず、第四艦隊に集合をかけえ。あの化け物みたいなおっさんのおる鎮守府に勝つ算段を皆で考えるとしようや。」                     

 




登場人物紹介

北上(工)・・・すりぬけくんのやばさにガチ引き中。
神鷹・・・・・・自分はちょっとおかしいのかな、と不安そうになるも、グレカーレにこの鎮守府のみんなは大体おかしいからとフォローされ、気を取り直す。
明石・・・・・・今更ながらすりぬけくんのネーミングについて、どこがすりぬけてんの?と違和感を覚える。
倉田・・・・・・アトランタ戦の動画は実はお気に入りにしてある。
神風・・・・・・しょっちゅうふらふらする倉田を支える第四艦隊筆頭秘書艦。

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