鬼畜提督与作   作:コングK

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どうしても書きたくなってしまい書きましたが、この後は少し間隔が空きます。

最近ストパン観て、ルッキーニいいよねと話したら、イタリア好きと言われました。
どうでもいいことなんですが、ルッキーニって普通にマエストラーレ級にいそうですよね。




第五十話 「勇気ある者」

大湊警備府の榊原中将は武闘派として知られ、深海棲艦に対しての苛烈な攻め、艦娘への厳しい訓練でつとに有名な男だった。

 

参謀本部からの艦娘への態度をもう少し柔らかくせよとの再三の要請にも、こちらにはこちらの都合があると譲らぬ頑固さを持ち合わせており、ここ最近は少し穏やかになったと言われつつも、未だに気持ちは以前のまま、物事に動じないと自認していたのだ。

 

少なくとも今日までは。

 

大混乱であった。悲鳴が上がり、動揺が広がる。

 

目の前で行われた凶行に対しての理解が追い付かず、近くにいる参謀を見るも、あんぐりとし使い物にならぬ様子に、榊原が大声を上げて一喝しようとすると。

 

「摩耶。司令官に活を入れて。鬼頭提督は医務室へ、丁重に運んでちょうだい」

淡々と指示を出す神風の姿があった。

 

「神風、どういうつもりだ、これは!!」

「司令官より頼むと言われましたので。遺憾ながら事後処理を行っております。それが何か?」

涼し気に応える彼女の姿が、榊原を刺激した。

 

「何か、ではない!!他の鎮守府の提督を撃つなど正気の沙汰ではないぞ!!貴様、知っていたのか!知っていたなら同罪だ。撃った浦波は営倉へ送れ!追って処分を決める!!」

「浦波、営倉へ向かいなさい」

「はい・・」

 

どこか呆然とした足取りで自ら歩き始める浦波。

その前に踊り出すように現れた艦娘があった。

 

マエストラーレ級二番艦、グレカーレ。

倒れ伏した与作に涙を流してすがりつくフレッチャーと、呆然と膝をついた雪風。

二人の分の思いをその身に背負ったかのように、彼女の顔は激情に歪み、怒気を拳に漲らせていた。

「何を、何をしてくれてるんだ、こらあああああ!!!」

一目散に浦波に向かおうとしたグレカーレを。

 

「落ち着きなさい」

 

横合いから苦も無く取り押さえたのは神風型三番艦の春風。

 

「放せ、放せよ!!テートクに、テートクに何してんだ!!ふざけんな!!!!」

「怒りに身を任せていては大事なことも見えませんよ。貴方の提督さんは無事です。浦波の撃ったのは麻酔銃。しばらくはお眠りになっていますが」

「無事だからいいだろうって事?ふざけるな。ふざけるな!ふざけるなああ!!」

まとわりついた岩のような春風をどかすことができず、もどかしさにグレカーレはじたばたともがいた。

 

「この不始末。どう償うつもりだ、神風!!いくらお前たち第四艦隊でも許さんぞ!!」

激昂する榊原。大湊に所属する他の艦隊の艦娘ならば、彼の怒りを受ければ恐れおののくことだろう。だが、この鎮守府最古参である神風の前ではそれはただの子どもの癇癪にしか思えない。

 

「不始末と言われましても。司令長官、これは私たちが演習に勝利するための布石です」

「何だと?」

「必ず勝てとのことでしたから。相手を確実に潰すためには、まず相手の指揮系統を乱すのが定石かと」

「なっ・・・・」

 

榊原は絶句した。これはただの演習の筈だ。普通にやれば彼女達が勝つのは明白だ。だが、それでは100%ではない。確実に勝つためには、相手の提督が指揮がとれない状態であればいい。

 

「今回の演習に限って、その全権は倉田提督に一任されたと聞いております。ですから、いかに司令長官であっても、今回のこの演習の件に関しましては、口出しはできない筈です」

「こんな馬鹿なことをしでかしておいて、よくもぬけぬけと!!」

 

神風はため息をついてみせた。

「それでは、司令長官閣下。任命責任というものをおとりになりますか。私たち第四艦隊がどういった方針でこれまで戦ってきているのか、よくご存知の筈です。その上でご指名いただいたのですから、相応の覚悟の上でのことだと愚考いたしますが」

「なっ・・・・」

 

それっきり黙ってしまった榊原をよそに、神風は雪風の前へとやってきた。

 

「両提督とも指揮ができない状況だけど、演習の方はどうする?」

「あんた、正気で言ってんの?この状態で演習をしろって!!」

横合いから叫ぶグレカーレに、やれやれと首を振りながら朝風が近づく。

 

「実戦ではよくあることよ、イタリアのお嬢さん。深海棲艦との闘いの時に旗艦がやられたり、鎮守府との通信が途絶したりすることはありえることでしょう?」

「朝風の言う通りね。そうした時にどうするかが問題よ。でも、今回はあくまでも演習。戦場ではない。貴方達が無理だと言うのであれば、今回は私達の不戦勝という事で、演習はなしにしてあげるわ」

「どういうことです、不戦勝って!!」

 

黙っていた雪風が神風を睨んだ。

「司令を撃っておいて、そちらの反則負けじゃないんですか!」

「さっき司令長官に話していた通りよ。私達の策に鬼頭提督はハマった。残った貴方たちだけで演習ができないのであれば、私たちの勝ちでしょう?」

きっぱりと言い切った神風に朝風も応じる。

「私たちは普通に司令官がいなくても演習できるしね!」

「だから、雪風。貴方が決めなさい。演習をするか、しないか。鬼頭提督は貴方に後を託されたわ」

「20分、いえ15分ください・・・。みんなで話し合って決めます」

「そう、分かったわ。それじゃあ15分後にここで」

 

                    ⚓

 

「神風さん、どうしてあんなことを言ったのですか。向こうはもう戦える状態じゃありません」

 

控室に戻るなり、叢雲はきいた。彼女からすれば動揺している江ノ島の面々を倒すのは簡単で、わざわざ考える猶予を与える必要はない。

 

「叢雲。あんたはうちの艦隊に入ってまだ日が浅かったわね。だから教えてあげるけど、そうした発言は慎みなさい」

朝風は静かに叢雲をたしなめた。

 

大湊警備府第四艦隊で戒めるべきことは、二つある。

嘲りと侮り。不用意に相手を馬鹿にすれば、計算できない力を発揮することもある。

そして、最も戒めるべきが、相手を侮ること。慢心は愚者の行いであり、勝利を遠ざけるものに他ならない。

 

「勝って兜の緒を締めよ。東郷元帥の言われる通りね」

「朝風さんの言われる通りです。そして、これは演習。動揺し、力を発揮できない者達を一方的に屠ってどうすると言うのですか。司令官様は確かに叩き潰せとおっしゃいましたが、それは万全な状態の相手を、ということの筈です」

 

春風の言葉に、神風は苦笑いした。

「まあ、本当は叢雲の言う通りなの。司令長官には上手く言ったけど、実際は偉大なる七隻が来た時に、ああする予定だったんだから」

「えっ!?は、初耳です・・・」

「そりゃそうよ。私達3人以外だと、浦波しか知らないもの」

驚く叢雲に、神風は軽く伸びをして答えた。

 

この国に、世界に名高き偉大なる七隻。その時雨と北上がいる江ノ島鎮守府との演習は、大湊警備府第四艦隊にとって悲願であった。水雷屋を名乗る彼らにとって、歴史の中に埋もれたその存在は一度矛を交えたい相手であり、超えるべき壁だった。

 

ゆえに、闘う際には一切のきれいごとはなく。

勝利を狙うために江ノ島の提督を狙い、その動揺を誘って、有利な展開で演習に引きずり込むのが当初の作戦だった。

 

「元々、初めから司令長官にはわざとごねて、私達に有利な条件を引き出すつもりだったの。まあ、偉大なる七隻が来ないとなってからは、司令官は本気で怒ってたんだけどね」

 

偉大なる七隻が来ないと分かった後、倉田の興味はもっぱら動画で見ていた江ノ島の提督と、どのようにして闘うかに注がれた。

 

「それが今回の暴走の原因よ。本当は演習が終わった後に仕掛けるつもりだったんだけど、本人も言っていた通り、闘いたくてうずうずしていたから」

「司令官にも困ったものね」

 

心底呆れたというように朝風は呟く。第四艦隊の中で絶対的存在ともいえる倉田に軽口を叩ける時点で、彼女たちは別格だった。

 

「こればかりは仕方がないわ。鬼頭提督が想像よりも遥かに化け物だった・・。当初の予定通り浦波を配置しておかなければ負けていたでしょうね」

「そんな・・・」

冷静な神風の分析に叢雲が信じられないといった表情をする。自分達の提督が負けることがあるなどと想像したことすらなかった。

「事実です。普通の人間なら麻酔銃で撃たれた段階で勝負がついています。ところが、あの鬼頭提督は・・」

「撃たれて、完全に負けだという状態から、うちの司令官を絞め落として引き分けにした。恐ろしい勝利への執念よね」

春風と朝風の言葉に、神風はゆっくりと頷いた。

 

「ええ。だからこそ猶予を与えたの。あの提督と偉大なる七隻に鍛えられた子達がどのような反応を示すのか、興味があるわ」

「神風姉、それって、もうどう答えるか分かってるんじゃない?」

「さあ、どうかしら。3か月余りしか経っていないのに、相当鍛えられているのは見てすぐに分かったけどね」

「ふふ。でもだからこそ、私達の強さにも気づいてしまったようですが・・」

 

「見上げず、見下げず、前を見よ」

 

ぎゅっとリボンを締め、神風は立ち上がった。

「原初の神風さんから賜った、相手と闘うときの心得よ。同じく原初の艦娘である時雨さんや北上さんに薫陶を受けたあの子たちは、見下げるべき相手ではないわ。どのような結論にいたったのか。確かめに行きましょう」

 

                    ⚓

 

時間は少し前に遡り、同じく一旦控室に戻った江ノ島鎮守府の面々がどうしていたかというと、その表情はすでに演習を終えた後のように疲れ果てており、室内に漂う雰囲気は最悪だった。

 

春風に抑えられ、怒りを発散できなかったグレカーレはとりあえず目についたものに当たり散らし。

医務室へと運ばれた与作の容態を心配したフレッチャーは何度も席を立とうとしては座るといった動作を繰り返していた。

 

「ごめんなさい・・・。グレカーレさん、フレッチャーさん・・」

下唇とぎゅっと噛みしめ、雪風はぽろぽろと涙を流した。

「雪風が不甲斐ないばかりに、あんなことに・・・」

 

雪風は己の力不足を恥じた。艦娘が提督にかばわれてしまうなど本末転倒もはなはだしい。

自分が浦波に狙われているのに気付けていれば、防げた事態だった。

 

「雪風のせいじゃないわよ・・。あたしだって、あんなに悔しかったのに、テートクのお返しをしてやりたかったのに!あの春風に抑えこまれて何もできなかった・・・」

グレカーレは座りながら近くにあった椅子を蹴飛ばした。派手な音を立てて横倒しになる椅子を尻目に涙を流す。

「私、あの人たちが許せません・・・。でも提督のことが心配で演習なんて・・・」

祈るように両手を組んでいたフレッチャーが震える声で言った。

聖母と言われた彼女らしからぬ激情がその瞳には宿っていた。

 

「雪風もです!!あの人達を許しません!絶対に!!」

どんと勢いよく机を叩いた雪風に、二人は驚いた。ふだん笑顔でいることが多い雪風が、ここまで感情を露わにすることはない。

「あたしもよ!フレッチャーには悪いけど、2対1よ。演習を受けましょう」

「ええ!!」

二人が怒りに燃え、立ち上がったその時だった。

 

「そのまま行っても、ただやられるだけよ」

冷静に声を掛けてきた者があった。

「あ、あなたは!!」

 

その艦娘を見て、フレッチャーは驚きの声を上げた。そこにいたのは、かつて米国大統領に自らの代わりを務めさせられ、心を壊した姉妹艦。 

 

「ジョンストン、いつ着いたの?それより、どうしてここへ」

「着いたのはさっき。羽田から江ノ島に行こうとした時に、この子が今ヨサクは大湊だって教えてくれてね」

「Hi、あたしは英国から来たJ級駆逐艦のジャーヴィスよ。ナイスタイミングだったみたいね!」

 

場の雰囲気を弁えず、笑顔を見せるジャーヴィスに、グレカーレがかみついた。

 

「どこがナイスタイミングよ。見て分からないの?テートクがやられて、あたし達今かっかきてんのよ!」

「だからよ」

掴みかからんばかりの勢いのグレカーレ対し、にっこり微笑んで、つんとジャーヴィスはその頬を突いた。

 

「ちょっと!」

「そんなに頬を膨らませてかりかりしてたら、普段の力も出せないんじゃない?」

「う・・・」

図星を突かれて、今にも破裂しそうだった怒りが一気にしぼみ、グレカーレは押し黙る。

 

「あたしも同感。ねえ、雪風。あたし、酷い状態だったけど、あんたや姉さんが呼びかけてくれたこと、覚えてるの」

ジョンストンは雪風の手を握った。

 

「ジョンストンちゃん・・・」

「だから、今度はあたしが貴方に言うわ。サマール沖海戦の時に、沈みゆく駆逐艦ジョンストンに対して、あなたの艦長は、どうしたの?」

 

矢矧率いる第十戦隊相手に獅子奮迅の活躍をし、遂に力尽きたジョンストン。第17駆逐隊により半円状態に包囲、砲撃され、沈む直前のことだった。最後の止めとばかりに機銃掃射しようとするのを、むごいことをするなと雪風の寺内艦長は押し止め、敬礼をした。

 

「怒りに任せて、機銃掃射するのではなく、敬礼をしたじゃない。・・・自分の仲間がやられているのに」

「でも、でもしれえが・・・・・」

「ヨサク・・、司令官がやられて怒りたい気持ちは分かるわ。あたしだってそうだもの。来たばかりだけど、一言も交わしてないんだから。でもね、戦いの中だからこそ、冷静でいないといけないと思う。そうでないと見えるものも見えなくなるんじゃないかしら」

「・・・・」

 

ぎゅっと雪風を握る手にジョンストンは力を込めた。

(無理をしちゃって・・)

しっかりと相手を見据えて話す相棒の姿に、名探偵は苦笑する。

 

「ここに来るときちらっと見たけど、あたしの勘が告げてる。あいつらは化け物よ。合衆国でもあそこまでの練度の艦娘は見当たらない。正直、演習を止めた方がいいとも思う」

「ジョンストン・・・、貴方・・・」

以前見た時とは違い、堂々と話すジョンストンの姿に、フレッチャーは目頭を熱くさせる。

 

「でもね。みんなの気持ち、あたし分かるんだ。一回しか話してないけど、あたし達の司令官ってなんだかんだいい人だと思うの。だから、理不尽にやられて許せないんだよね」

「あたしは会ったことがないけどね。Old Lady、ウォースパイトは、admiralは艦娘の希望って言っていたわ!」

「弱気の虫を蹴り飛ばせ、沈んだ気持ちに灯を入れろって、司令官はあたしに言ってくれたわ。じゃあこんなときは何て言うと思う?雪風」

「どうでしょう・・。逸る気持ちに水をかけろ、違いますね・・。難しいです」

 

考え込む雪風を見て、グレカーレがうんうんと頷いた。

 

「ジョンストンの時のテートクはよそ行きモードだったからね」

「あら、あれってよそ行きなのね」

「ふふっ。普段の提督はもっと気さくな方ですよ」

「そうなんだ。あたしも着任したからには一杯話したいな!」

「あたしもあたしも!admiralとたくさんお話したいわ!」

「あんたはちょっと自重しなさいよ!」

「ぶうっ。どういうことよ!」

ジョンストンとジャーヴィスのやりとりに重苦しかった室内の雰囲気ががらりと変わる。

 

「ありがとうございます、ジョンストンちゃん。少し落ち着きました」

雪風はぎゅっとジョンストンの手を握り返し、微笑んだ。

「そして、しれえなら、きっと、がきんちょが生意気にかりかりしてんじゃねえ、と言うと思います」

「そうね、テートクならそう言うな」

「はい。それで、雪風さんが、がきんちょ扱いしないで欲しいと言っているのが浮かびますね」

 

グレカーレとフレッチャーが笑みを浮かべたのを見て、ジャービスが嬉しそうに言った。

「ふふっ。面白い鎮守府ね!ますます興味が湧いたわ」

「ええ。それで、雪風。どうするの、演習は受けるの?」

「・・・・」

 

雪風はじっとジョンストンを見て、ようやく彼女の肩が震えていることに気が付いた。

歴戦の勇士であるジョンストンをもすくませるほど、彼女たちは強い。

時雨たちの訓練を受け、強くなったからこそ、その強さが分かる。

普通に考えれば、彼我の戦力差は絶対で、覆すことなど不可能だろう。

 

だが、と雪風は考える。

無茶なことを考える提督にこれまでどれだけ付き合ってきたことか。

絶対無理だと思った状況でも、頭を掻いたり、憎まれ口を叩いたりして結局は何とかしてきた。

自分はその提督の艦娘なのだ。

 

神風は、演習をしなくてもいいと言った、

だが、朝風は言っていたではないか。自分達は提督がいなくても演習はできると。

ここで演習をしないことを選べば、傷つかなくてもいい。

だが、それは。己の提督が負けたことになりはしないか。

 

「受けます。出られない人は言ってください。雪風は一人でも闘います」

 

例え負けることが分かっていても。

初期艦としての意地で譲れないことがある。

 

「何言ってんのよ、あたしは元から出るつもりよ。テートクに何言われるかわからないもん」

「また、そんなことを言って。私もやはり出ます。あの提督が褒める神風さんから、何かを学ばないまま帰る訳には行きません」

 

「OK。じゃあ、行こう!目に物見せてやりましょう!!」

嬉しそうに肩を叩いてくるジョンストンに、雪風はきょとんとした顔をする。

 

「え!?ジョンストンちゃん、艤装がないですよね」

「あれ、聞いてない?横須賀から送ってもらってる筈よ。ねえ、ジャーヴィス」

「その通りよ。おかしいわねー。ナガトは伝えとくって言ってたわ!」

「あっ、昨日の電話じゃない!?」

ぽんとグレカーレが手を打った。

「しれえが途中で切った奴ですね・・・。なんでそんな大事な電話を・・・。でも、助かります!参加が可能か、神風さんに聞いてみます」

 

雪風はジョンストンの方を見た。

「行きましょう。どれだけ食らいつけるか分かりません。でも何度でも挑んでやりましょう!!」

「倒れても何度でも起き上がる、って奴ね。いいわ、あたし好みで!」

ジョンストンは嬉しそうに頷き、後に続いた。

 

                  ⚓ 

先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った港に。

すでに整列していた大湊警備府第四艦隊の艦娘達は、やってきた江ノ島鎮守府の艦娘達の様子に驚きを隠せない。どんな魔法を使ったのか。先ほど自分達の提督がやられたと大騒ぎをしていた姿とはまるで別物だ。少なくとも、表面上は。

 

ゆったりと並びながら、じっと己を見る雪風に、神風は微笑みを返す。

「それで、どうするの?」

 

そこにいるのは先ほどまでいた雪風とは違う。江ノ島鎮守府の旗艦たるものの姿。

 

「やります、演習を」

静かにそう答えた雪風を、まっすぐに神風は見つめた。

 

「誇張でなく、私たちは強いわよ。それでもやるの?」

朝風がどことなく嬉しそうに言う。

「ええ。往生際が悪いの、あたし達」

グレカーレは鋭く相手を睨んだ。

 

「それで、神風さんにお願いがあります。このジョンストンちゃんとジャーヴィスちゃんも演習に参加させたいのです」

「ええ、構わないわよ」

 

あっさりと答えた神風に対し、所在なさげにその場に立っていた榊原はさすがに口を挟んだ。

「ば、バカ!!ジョンストンにジャーヴィスだと。米国と英国の駆逐艦ではないか!!国際問題になるぞ!」

「あら、平気よ。あたし達がここにいること、ナガトは知っているもの!」

ジャーヴィスが言うが、榊原はそういう問題じゃない、責任がと納得しない。

春風はあらあらと困ったように、彼を見た。

「司令長官様。この場の決定権は、今は神風お姉さまにありますわ」

「そういうことです。参加を許可します。昨日江ノ島から届いた艤装を持ってきて!」

 

神風は第四艦隊の艦娘達に指示を出し、演習の準備が整うと、雪風達の方に向き直った。

 

「勇気ある者に敬意を。大湊警備府第四艦隊神風以下三隻。全力でお相手致します」

 




登場人物紹介

与作&倉田・・・・片や医務室。片や営倉。
フレッチャー・・・ジョンストンの元気な姿が嬉しくてならない。
ジョンストン・・・フレッチャーと一緒に戦えて嬉しい。
ジャーヴィス・・・初めて会った江ノ島鎮守府の面々にやたら話しかける。
グレカーレ・・・・いつになく真面目モード。
雪風・・・・・・・同じく雰囲気が変わる。

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